北風 2016-02-21 02:03:29 |
通報 |
中学一年生。
大人は遊び盛りだと言って微笑ましい目で見てくるけど、僕にはそいつらの気持ちがわからない。
だって今まで生きてきた中でこんなに残酷な年は無かったから。
夏休みが終わって数週間。
僕はいつものように学校への道のりを歩いていた。
同じ学校の生徒が何人か近くを歩いている。中には同じクラスの奴もいたが、声をかける気にはなれなかった。
15分ほど歩くと僕の通っている中学校が見えてきた。
校舎に入ってすぐの所にある階段を上ると僕のクラス、1年A組がある。
なるべく目立たないように教室の扉を開けると、少し教室がざわついていた。
教室の後ろの方に人だかりができている。
だが僕は気にせず自分の席についた。
どうせ、あの人だかりの中心にはあいつが居るのだろう。
ちらりと後ろを見てみると、やはりそうだった。
丸丘美智佳。
僕がクラスで一番嫌いな人間だ。
なにかと「可哀そうな子」アピールをしたがる。
今日も「死にたい」等と言って泣き、皆にちやほやされていた。
「もうやだ、私死んじゃいたい」
「みっちー、そんな事言わないで!」
「そうだよ、死ぬなんて絶対ダメ」
「でも、私なんか生きている意味が無い」
「みっちー………」
馬鹿じゃねぇの?と思う。
死にたいんだったら早く**。
僕が見ていると、丸丘の取り巻きの一人が睨んできた。
「何見てんの、秋神!みっちーは見世物じゃないんだよ!」
「……………ごめん」
うるせぇ、ばーか。
言い返してやりたかったが、これ以上あいつに関わりたくない。
僕は素直に謝って授業の支度を始めた。
昼休み。
一緒に弁当と食べる相手が居ない僕は、そそくさと食事を終えて校舎を出た。
僕の中学校の目の前に、僕の弟の通う小学校がある。
その校舎の横にあるフェンスには大きな穴が開いていて、自由に小学校の敷地内に入れるようになっていた。
穴を開けたのが誰かは知らないが、僕はその穴をほぼ毎日使用している。
今日も穴を潜って小学校の敷地へと侵入する。
誰にも見つからないよう、そろりそろりと移動し、僕は裏庭へ辿り着いた。
裏庭は手入れが行き届いていなくて、雑草が生い茂っている。
気温もここだけやたらと高く、一般の生徒は誰も近づかない。
だがその裏庭で1人。
座って弁当を黙々と食べている少年が居た。
僕の弟の歩だ。
「よう、歩」
僕は片手を上げて歩に向かってひらひらと振った。
歩は一度こちらをちらりと見たが、すぐに弁当に視線を落とした。
「おい、無視すんなって」
僕は歩の隣に腰掛け、歩の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「…………うっざい。やめてくんない、星司」
歩はそう毒づくと、乱暴に僕の手を振り払い、パーカーのフードを被った。
この黒いパーカーは歩のお気に入りだ。長袖のものだが夏でもしっかりと着ている。
僕は大人しく手を引っ込めると、そっと歩を窘めた。
「そんな言葉づかいはダメだぞ」
「不法侵入者に言われたくないね」
「…よくそんな言葉知ってるなぁ。まだ4年生なのに」
「小学生ナメ過ぎなんだけど」
歩は長い前髪の隙間からぎろりと僕を見上げた。
その瞳は幼い子供とは思えないほど暗く濁っていた。
歩は20分程かけて、ゆっくりと弁当を平らげた。
「……………………じゃ」
そして僕に向かってそっけなくそう呟くと、裏庭から去って行った。
歩の姿が完全に見えなくなると、僕は立ち上がって自分の学校へと戻った。
歩は去年から苛められている。
クラスで孤立し、毎日毎日クラスメイトから暴力や暴言を浴びせかけられていた。
その苛めは去年の春、僕らの母さんが死んだ時から始まった。
否、殺された、と言う表現の方が正しい。
ある日、僕らが学校から帰って来ると、母さんが居なかった。
出かけているのだろうと思い帰りを待ったが、母さんは夜九時を過ぎても帰ってこなかった。
トピック検索 |