YUKI 2016-02-09 01:21:32 |
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プロローグ
朝の日差しがサロンを照らす中、眉間に皺を寄せコーヒーを睨む一人の女性がいた。
別に彼女は、目の前の黒い飲み物に不満があるわけではない。
朝の日差しも、傍らにあるグラビア誌にも不満はない。
ただ、ここ最近の己の考えに、酷く苛立ちを感じているのだ。
以前の自分ならこんな事はあり得なかったのに、なぜこんな風に悩まなければならないのだろう。
「何で私がこんな事気にしなきゃいけないのよ」
乱暴にコーヒカップをソーサーに乗せ、苛立ちをぶつけてしまう。
「あんな事がなければ、何も問題はなかったのに・・」
そう、あれは二日前の午後のことだった。
その日の午後、彼女は商店街の書店内にいた。
お目当ての雑誌は入り口から歩いてすぐの棚にあった。
早々に捜し物を見つけられて機嫌が良くなったのも束の間、すぐに機嫌は不機嫌へと変わる。
雑誌に手が僅かに届かないのだ。
「くっ・・何でこんな所に・・」
後数センチの距離に必死に手を伸ばすが、やはり届きそうにない。
踏み台を持ってくれば良いのだろうけど、ハッキリ言って面倒くさい。
再度、手を伸ばし数センチの距離を詰めようとしていると、背後に誰かの気配を感じた。
そして背後に立った人物は、今まさに彼女が欲していた雑誌を軽々と手に取り彼女に声をかけてきた。
「これでしょ?野ばらちゃんの欲しい雑誌」
その声に驚き、振り返るとそこにはよく見知った長身の男が立っていた。
「反ノ塚・・あんたこんな所で何やってるのよ?」
目の前の長身の男、反ノ塚連勝(ソリノヅカレンショウ)を、雪小路野ばら(ユキノコウジノバラ)は眉間に皺を寄せ訝しげに見上げる。
「本屋でやる事なんて一つしかないじゃん」
片手に持っている週刊誌を見せながら、反ノ塚は楽しそうに笑ってみせた。
反ノ塚の持つ週刊誌に目をやると、それはたまに彼が読んでいるマンガ雑誌であるということにすぐ気づいた。
「まあ、あんたがどんな本を読もうとも私には関係ないけど、このグラビア誌を取ってくれた事には感謝するわ」
チラリと週刊誌に目をやるも、興味がないと言わんばかりに目をそらし、野ばらは軽く感謝の言葉を口にした。
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