ゴースト 2015-12-19 22:24:54 |
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良い人もいれば、悪い人もいる。
スルツキが憎い。
憎いけど、全てのスルツキが悪というわけじゃない。
どうしたらいいんだ。
どうやって生きていけばいいんだ。
平穏な日々に戻ってからも、それを悩んでいた。
そして、いつの間にかドラガンに責任を押し付け、うらんで、生きていくようになった。
あの日、いつもの様に皆でソニアの家に遊びに行くはずだった。
だけど、ドラガンだけが用事で行かれないと言ったんだ。
だから僕は、あの日ソニアの家に来たスルツキの民兵は、ドラガンが僕たちの居場所を知らせたせいで来たんだと思ってたんだ。
そのせいで、ソニアの家族やカミーユが殺されてしまったんだと・・・。
でも、ドラガンは裏切ってなんか居なかった。
Facebookで彼の弟を見つけ、コンタクトを送ったら、僕達がカリノヴィクで襲われた日に、ドラガンは殺されていた。
僕達を庇おうとして。
僕達を庇ってくれた仲間を裏切り者として、15年以上も憎んできた、「ずっと仲間だ」って約束したじゃないか、それなのに、その言葉を忘れて、僕が彼を裏切っていたんだ。
今までの人生が全て崩れるような感覚に陥って、僕はもう生きていけないと思った。
罪悪感だけじゃない。
僕には荷が重過ぎるんだよ。
気づいたら、会社に退職願を出していた。
丁度さ、いい機会だったんだ。
ドラガンの弟から、サニャとかの家族の現住所も教えてもらえてさ。
サニャとカミーユの家族は、全員ではないけれど、生きていたんだ。
だから、まずはドラガンのお墓で謝って、そしてドラガンの家族に謝罪して、そして感謝を述べて。
それでさ、その後は、カミーユの家族に会いに行って、サニャの家族に、サニャの遺品を渡してさ。
全てを終わらせようと思ったんだ。
ただ、ボシュニャチの人との約束の一つ、話を広めるというのは僕には出来なかった。
そしてもう、時間もない。
もし何かを感じてくれれば、それでいい。
欲ではあるけれど、僕自身、彼らが何を伝えようとしていたか、そして僕が何を伝えればいいか考えて、それを少しでも感じ取ってくれれば、なお嬉しい。
大切なのは、素晴らしい世界を願い、それを伝えて、実現に近づけていくことなんだと思う。
文章を書くのが苦手な僕には、僕の気持ちだとか、どんな事が起きたかを上手くは伝え切れなかったと思う。
だけど、もし、読んでくれた中で、何か感じるものがあったとしたら、バルカン半島、ボスニアのことにも少し目を向けてくれると嬉しい。
日本だからこそ出来る事があると思う。
断罪するだけではなく、罪を犯してしまった民族にも、救済の手を、救いの手を差し伸べて欲しいんだ。
それは偽善かもしれない。
それは意味がないことかもしれない。
だけど、今ある禍根を…もしだよ。
もし取り除くことが出来れば、いつか素晴らしい世界になるんじゃないかな。
僕はそう思うんだ。
彼らが歌ってくれた歌に、そのヒントがあるような気がしたんだ。
”この子たちは皆、僕が知らない世界も目にしていくんだろう”
彼らが知らない世界、それは、民族融和かもしれない。
でも、それは簡単なことじゃないんだ。
恨みや禍根は、今現在一時的に裁きによって蓋をすることが出来たかもしれない。
だけど、それが消えたわけじゃないんだ。
行いが間違っていても、全ての民族に正義や大義名分があったんだ。
一方的に絶対悪にして断罪しても、その恨みや禍根は蓋で隠されているだけで、子どもたちに継承されていくんだ。
子どもたちに継承された恨みや禍根が、何度も、何度も同じ悲劇を繰り返してきたんだ。
それを断つには、周りの、世界の人々の手助けが必要だと思う。
そして、そういった時に、日本だからこそ出来ること、日本だからこそ手助け出来る事があると思う。
パレスチナとイスラエルの子どもを結びつけたように。
最後になるけれど、この紛争で亡くなった全ての方々のご冥福をお祈り申し上げます。
ソニア…彼女はスルツキ(セルビア人)民兵によって殺害される。
サニャ…彼女は爆発に巻き込まれ死亡する。
メルヴィナ…彼女はスルプスカ警察によって乱暴された後、連行される。
メフメット・カマル・ミルコの三名は行方不明となり、生存は未だ不明である。
カミーユ…彼もまた、スルツキ(セルビア人)民兵によって殺害される。
ドラガン…彼は裏切り者であったと誤解をしていた。
この話しはフィクションでもあり、ノンフィクションでもあります。
まず、話に登場したソニア(Sonja_Grebo)、サニャ(Sanja_Edu)、
メルヴィナ(Melvina_Prazina)、カミーユ(Camil_Trpkova)、
メフメット(Mehmet_Spaho)、カマル、ミルコ(Mirko)、
ドラガン(Dragan_Stanisic)
彼らは実在した。
そして彼らがこのような体験をしたのは事実だ。
ミルコとその家族が殺害されたらしいというのも、伝聞ではあるが事実だ。
祐希という人間が日本国籍を持つ日本人というのは創作。
希望の祐(たすく)即ち希望の助けという意味を込めて仮名を使わせてもらった。
彼の名前は、希望という意味があったからね。
ただし、母親が日本人で父親がボシュニャク人のハーフで、国籍が日本人ではなかったと言う事だ。
「what a wonderful world」がセルビア人の民兵村で歌われたというのは部分的に事実だ。
全ての人が歌ったわけではない。
彼を保護した夫婦が、彼に対して歌ったものだ。
そして、その後も彼はこの歌を愛した。
そして彼は、26歳の時に、勤めていた会社を辞めて「ボスニアに行ってくる」という言葉を最後に消息が分からなくなっている。
彼は、ドラガンが裏切り者ではなかった事を知った後、15年以上もドラガンの事を裏切り者だと思いこみ、過去の記憶の苦しみを恨みに変えて生きてきていたけど、それが崩れ去ってしまい、罪悪感に耐えられなくなったようだった。
そして、一連の状況下や思いを綴った原稿用紙を僕に託し、「もう楽になってもいいかな」と言って姿を消した…。
彼は今どこにいるのだろうか。
この大空の下のどこかに居るのだろうか。
それとも・・・・。
ソニア達と一緒に遊んでいるのだろうか・・・・。
完
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