語り手 2015-11-26 18:53:00 |
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入学案内……?もしかして、今朝受け取ったあの中に……って、待ってよ!
(そう言えば今朝がた父親に「忘れてた」と言って渡された冊子や本の中にそんなものが紛れ込んでいた……ような気がする。と言うのも朝の時間が無い時に渡すものだから、寮の方に直行させる荷物の中に放り込んでまだろくに見ていないのだ。帰ったら早々に確認しようと心に決めて、振り返らずにどんどん進んで行く相手を追う。途中周囲で繰り広げられるいかにも魔術学校と言った様子に時折目を奪われながらも、ローブの背中を見失わないように歩いて行けば、やがて教員室の扉の前に辿り着いた。何を言われるかは、正直何パターンか予想が付くため別にどうでもいい。問題はその後である。入学式で配られた、授業初日――つまり明日までに揃えておくもののリストに「杖まはたチョーク」と書いてあり、それを今日中に魔術街に買いに行かなくてはならないのだ。――はっきり言って心細かった。そもそも方や棒、方や筆記具の二択は意味が分からない。必要だと言うのならせめて何に使うかをちゃんと説明していただきたい。そんな事を考えていれば去ろうとする相手のローブの裾を咄嗟に掴んでしまい)
…………。
(自分でやっておいてなんだが、何やってるんだと言いたい気分になる。まさか先ほどまで皮肉の応酬を繰り広げていた相手に待っていてくれないのかなど聞けるはずもなく、しかし手を離すと本当に置いて行かれてしまいそうなので放すこともできずに視線を彷徨わせ)
……何の真似だ?
(ローブを掴まれては進もうにも進めない。何も言わないため相手の意図が分かりにくく、ノエルが不可解そうに後ろを見遣れば視線を泳がす彼女が目に入る。
とは言うものの、相手は魔術初心者ゆえにこちらを呼び止めた理由は大体予想がつく。大方、入学前に課せられていた魔術学校での必需品の調達に関することだろうと思い、ノエルは未だに視線を別方向へと向けている相手を見る。他人ならここで見切っていたところだが、パートナーの成績はそのパートナーでもある自身にまで影響を及ぼす。ここの特殊な制度はつくづく厄介だなとノエルは心中で舌打ちをする。くしゃりと柔い髪を一度だけ掻き、まるで自身はこんなことをする柄ではないのだがとでも言いたげに彼女を見て)
仕方ない……数分だけここで待ってやる。但し、それ以上時間が掛かれば問答無用で置いていかれると言うことだけは頭に入れておけ。
……さっさと教師のところに行って来い。
(腕を組んで教員室の扉のすぐ横にある壁に背中を預けて、早く行けと言わんばかりにノエルは目を細め)
(振り払われるぐらいは覚悟していたのだが、パートナーだと言う事が効いたのだろうか。待ってやると言われれば嬉しそうに表情を輝かせ、すぐに我に返って緩む口元をきゅっと引き結ぶ。しかし約束を貰った事で幾分か心細さが和らいだのか、先ほどよりは自然な表情に戻れば掴んでいた裾を離して扉に向き直り)
……言ったわね、三分で十分よ。――――失礼します。一年のクロックワークです。
(横目で相手を見遣りながら軽口を述べ、重厚な扉をノック。程なくして返って来た返事に教員室の中へと足を踏み入れる。後ろ手に扉を閉め名を呼ぶ声に呼ばれて部屋の一画に向かえば、四人の教師が待っていた。その中でも一番年若いやる気に満ちた感じの教師が急に呼び出して済まない、などとお決まりの文句を述べるのを「人を待たせているので手短にお願いします」とカットし、用件を聞けば言わずもがな入学式でのこと。あの後の顛末と男子生徒への処分――と言っても厳重注意だが――と、ブリジットの行いへの注意だ。それらを代わる代わる口に出す教師たちはそれぞれ探るような視線を向けてきており、態度や言葉の端々から感じる態度は露骨すぎて逆に笑えて来る。若い方から順に親人間(界)派、中立派、傍観派、反人間(界)派、といった具合だ。特に最後の老爺の魔術師は嫌味と嘲笑を隠そうともせず、若い二人が取りなそうとしてもどこ吹く風。老害先生、と脳内で不名誉な渾名を付けてはまだ何か言ってこようとするのを「あの」と声を上げることで制し)
申し訳ありません、そろそろ約束の時間なので失礼させていただきます。
(ここまできっかり二分三十秒。熱血先生が間髪入れずに承諾してくれたのをいいことに一礼して踵を返し、机の間を縫って再び出入り口の扉を開けば二分と五十秒で相手の前に戻ってきて)
――どう?ほとんどぴったりでしょう!
思ったよりも時間は掛からなかったようだな。許容範囲内だ。約束通りここで待っていてやったぞ。
(手元の時計をチェックすれば、せいぜい掛かった時間は二分強。確かに三分で充分だと宣言した相手の言葉に間違いは無い。てっきりタイムオーバーをして、自身は何事も無く一人で魔術街へと行くことを予想していたが、ことごとく彼女はこちらの考えを覆してくれる。そんな相手を一瞥して、ノエルは来た道を戻ろうとするが足を止め)
それで、こちらは今から魔術街に行くが、そちらはどうするんだ?
先程の様子だと、どうせ入学前に課せられていた魔術学校の必需品すら揃えられていないのだろう?
(後ろを振り返ってやや意地悪く笑うとそう言い出し)
ちょっと強引に切り上げて来たもの。……アイツの話を真面目に聞いていたら日が暮れるわ。
(後ろ手に教員室の扉を閉め、相手の言葉に肩を竦めてみせる。掛からなかったと言うよりは掛けなかったの方が正しいだろう。老爺の魔術師を思い出して溜息交じりにそんな事を言えば、やや不機嫌そうに肩の髪を払いのけて教員室の扉を睨みつけてから相手の後を追った。しかし数歩も進まないうちに立ち止まった相手に意地の悪い笑顔と共に図星をつかれれば、言葉を詰まらせてそっぽを向き)
うっ……だっ、て。仕方ないじゃない……まだこっちに来てから三日しか経っていないのよ、私。
初日は久々に魔素?に当てられたせいで寝込むし、二日目は父の実験とか儀式みたいなのに訳の分からないまま付き合わされるし、三日目の今日は手続きやら入寮やらで早朝からてんやわんやよ。
(拗ねたような口調で一息に幻想世界に来てからの事を話せば、視線は戻さないまま腕を組む。そもそもそんなものが課せられていたこと自体、先ほどの入学式で知ったのだ。元々通達されていたのならば教師の口調が伝達と言うより確認だったのも頷ける。父親の計画性の無さに対する苛立ちを抑えるように深々と溜息を吐き、視線を彷徨わせて何度か言いよどみながらも最後には真っ直ぐに相手を見つめて頭を下げ)
……その、魔術街で杖とチョーク、それから箒が買えるお店に一緒に来て欲しいの……お願いします。
(リストにある魔装とは恐らく二日目の儀式後に父から渡されたこのショートマントの事だろうし、書物系は同じタイトルの物を買えばいいだけなので最悪一人でも何とかなるだろう。しかし他のものはそうもいかない。本当なら本を読むなりして自分で知識を仕入れてから行きたいが、門限というリミットがある以上それも厳しいため相手の反応を待ち)
まるで計画性が無いな。
まあ、この世界の常識に振り回された部分だけは同情しておこう。
(今日までの目まぐるしい状況へと理不尽さを訴えるような形で語る相手に上記を述べ。
幻想世界と人間世界は異文化交流など無いに等しいため、こちらの知ったことではないが最初の内は苦労するだろう。右も左も分からない状況など自分だったら願い下げだ。人間世界のことは書物でしか読んだことはないが、文化や価値観はかなり違うと認識している。さぞかし大変だろうな。胸の内でそう鼻で笑っていると、何やら相手から頼み事と共に頭を下げられてしまい、一瞬目を白黒させる。まさか、素直に頭を下げられるとは予想できず毒気を抜けてしまう。そのままふいっと前へと向き直り)
はぁ……頭まで下げる必要は無い。
杖とチョークと箒だな。それなりに良い店を紹介してやる。だが途中で逸れたりしても探しには行かないからな。
では、行くぞ。
(どうにも下手に出られると弱くなることは自覚済みだ。歯向かってくる人間なら突き放すのは容易いが、その逆は微量の良心が働いて気が引ける。やれやれとどちらに向けてのものなのか分からない溜め息を一つ付き、ノエルは再び歩き出す。
暫く魔術学校の廊下を歩けば外に出て、黒い鉄の正門から魔術街へと辿り着く。ヨーロッパ風のレンガ造りの街並みに石畳で出来たメインストリート。魔術式のカフェやアンティークショップに魔術道具店や魔装店など、当然だが魔術に関する店が多い。昼時はとうに過ぎているものの夕方には程遠い時間帯のため人はまばらだ。外を歩いていても見える各店のガラス越しの展示品に目を向けつつも目的の店を探していく。
やがて、ノエルはある一つの店の前で立ち止まる。看板には『魔術師ジルベールの杖店(チョークも取り扱い有り)』と書かれており、それを一瞥してチリンとベルの音を鳴らして中へと入る。やや薄暗く淡い紫色の照明で照らされた中には左右にアンティーク風の棚が設置されており、一本一本丁寧に長さや色の違う杖が沢山置かれていた。それらは材料別に並べられており、近くの壁には『振ってお試しも可能です』と書かれている紙が貼ってある。そんな店内を横目に奥にいる店主の魔術師の前に自身の杖を置き)
この杖のコーティングをお願いします。
(と、人当たりの良さそうな笑みを浮かべ言えば「随分とヴィンテージものの杖だね。少し待っていくれ」とまた奥に引っ込んでしまう。それを確認すれば後ろを振り返り、現時点でのパートナーに向けて)
杖と言うのは魔術師にとっては一生物だ。自分に合った物を慎重に選んで来い。
えっ……。
(背に腹は代えられないため嫌味の一つや二つは甘んじて受け入れようと身構えていたのだが、予想に反して溜息一つで引き受けてくれた相手に思わず顔を上げる。捻くれた素の印象が強かったが、どうも自分と同じく真摯に向き合われるのが苦手なタイプらしい。ぱちくりと目を瞬かせて見つめているとこちらに背を向けたままの相手が歩き出し、その背中に向けて僅かに口の端を上げて)
…………ありがとう。
(聞きとれないぐらいに小さく呟きを落としてから、駆け寄って相手の隣に並ぶ。周囲の店先に並ぶ魔術関連の品々に視線を向けながらメインストリートを歩いていると、以前暮らしていた街と造りだけは似通っているため、余計に別の所に来たという感覚が強くなった。どうやら無意識に足を止めてしまっていたようで、慌てて郷愁を振り払って杖屋の看板を掲げた店に入っていく相手に続いて中に入る。ずらりと並べられた沢山の杖はまさに圧巻。興味深そうに眺めていると店主との話を終えた相手が振り返り、告げられた言葉に「一生もの、かぁ」と困ったような笑みを浮かべて繰り返す。魔術学校を卒業したとして、自分は一体どうするのだろうか。そのまま思考の海に沈みそうになるのを何とか切り替えて、周囲の棚をぐるりと見回し)
……きっと素材によって違いがあるのでしょうけど、残念ながら全部確認している暇は無いわね。
(慎重にと言われた直後ではあるが、生憎と時間は有限だ。呟くや否や首にさげているハンターケース型の懐中時計をそっと握りしめる。本体は金製で木が嵌め込まれた蓋の部分には草を編み込んだような意匠の十字が刻まれ、中央に瞳とよく似た色合いのルビーが輝いているそれは、生まれた時に両親から贈られたものだ。自身の名前の由来と共にこの懐中の持つ意味も寝物語に散々聞かされていたからか、沢山の樹木から一つを選ぶとしたら他に選択肢など無く、一直線に一つの棚の前に向かい)
――ナナカマド。一説によると、炎・豊穣・治癒・鍛冶・詩なんかを司る女神ブリギッドの象徴らしいわね。……この懐中に使われているのもそうなのよ。
(迷いなく持ち手に炎の意匠が彫られたナナカマドの杖を手に取って相手を振り返る。まさか母の口癖のような話がこんなところで役に立つとは思わなかった。壁に貼ってある"振ってお試し"の意味がよく分からないのか、暫く杖を眺めた後に何となしにタクトのように振ってみては首を傾げ)
(彼女の言葉を聞き、だからナナカマドの杖を取ったのかと心中で納得をする。どうやら闇雲に選んだわけではないらしい。相手の顔と杖と懐中時計へと順番に視線を移す。大事そうに首から下げられた金色の懐中時計は、恐らく大切な物なのだろう。ならば、それと共通点を持つ杖は相性が良いはずだ。――そのようなことを考えていれば、こちらを振り返った相手がナナカマドの杖を振る。同時に、薄暗い店内がまるで快晴の下に出たかのように明るくなり、穏やかな太陽の光が降り注ぐ。陽光に照らされたことで棚にある杖の持ち手の金属部分が反射していき、宝石のように煌めいていく。その眩しさに少し目を瞑れば、次に現れていたのは太陽の元で黄金に輝く稲の畑。充分に実った稲は、どこからともなく吹いて来る緩やかな風に揺られている。その豊穣を祝っているかのような景色に、先ほど述べられた女神ブリギットとやらを連想させられた。――やがて、魔術の効力が切れ店内が薄暗い紫色の雰囲気に戻った頃、彼女とナナカマドの杖を見て)
相性は悪くなさそうだな。あそこまで杖本来が持つ力を解放できれば上出来だ。
余談だが、この店内は人為的に魔素の密度が高められているため杖を振るだけでもあのような効果が出る。外ではそのような効果は出ないので、くれぐれも魔術式無しで振るような真似はしないことだな。
(素直に褒めることはせず、余計な言葉まで付けていく。純粋に褒めると言うのは己の柄では無い。相変わらず捻くれた性格を発揮しつつ、ノエルはようやく奥の部屋から戻って来た店主から自身の杖を受け取る。猫を被りながら代金として金貨と銀貨を一枚ずつ渡していき――ふと、パートナーはチョークすらも買っていなかったかと思い出し店主に「そう言えば、紹介がまだでしたね。彼女はブリジット・クロックワークさんと言って魔術学校での僕のパートナーなんですよ。入学祝いとして代金をまけてやってはくれませんか? ついでに常連のよしみで僕の杖のコーティング代もまけてくれると嬉しいです」と対人用の笑顔をにこりと浮かべる。そう伝えれば店主は気前良く値引きをしてくれ、先ほど支払った銀貨を一枚返してくれる。更にナナカマドの杖が金貨が十二枚なところを十一枚に、十本入りのチョークが銅貨が三枚のところを二枚に値引きをしてくれると言ってくれたので、パートナーの魔術に対する初々しさが功を奏したかと、値引きの成功に心中でほくそ笑んで彼女に向き直り)
金貨が十一枚に銅貨が二枚だってさ。安くなって良かったね、クロックワークさん。
(/大変遅くなってしまって申し訳ないです…。勝手なことですが、まだいらっしゃいましたら引き続きお相手願いたいです…)
う、そ……。
(何も考えず杖を振った瞬間に店内が暖かな光に包まれ、気付けば周囲が麦畑と化しており呆然と立ち尽くす。抜けるような青空と何処までも広がる黄金の絨毯。それは今は無き記憶の中の故郷の姿で、思いがけない現象にどうすることもできずにただぼんやりとその光景を見つめた。やがて眼前に薄暗い店内が戻って来れば相手の姿も目に入り、未だ混乱の収まらない様子ながらも回りくどい言葉から必要な部分だけを抜き出して頷き)
……え、ええ。覚えておくわ。アナタがそう言うなら、杖もこれで問題なさそうね。
(まるで夢でも見ていたようだと思いながら相手と店主が会話しているのを見つめ、あっという間に成立した商談にちゃっかりしてるんだから、と軽く肩を竦める。振り返った相手の表情を見れば空気を読んでそれを口にすることはせず、頷いてから店主に笑顔を向ければぺこりと頭を下げ)
ありがとうございます。こちらに来たばかりで何かと入り用なのでとても助かります。……素敵なお店を紹介してくれたラドクリフくんにも感謝しないとですね。
(実はこちらの世界の相場はおろか通貨単位もよく分かっていないが、単純に16%オフと33%オフだと考えればいい買い物をしたと言っていいだろう。そして先ほど通りがかったカフェの看板に出ていたメニューと杖とチョークの値段からして、どうも父親は知識は全く与えてくれなかったくせにお金だけは大量に寄越したようだ。寮に送った荷物にも含まれている大量の硬貨は銀行のように預けられる場所があるのかと考えつつ、鞄から取り出した財布代わりの布袋から金貨と銅貨――だと思われるものを取り出して店主に手渡す。はい確かに、と返って来たので間違っていなかったと安堵の息を吐き、杖を買うとセットで付いてくるというホルダーの中から、服に合わせて黒革の腰に巻くタイプの物を選び取って言われるがままに装着して杖を差し)
――どうかしら、ひとまず外見だけは取り繕えてる?
(杖を揺らすようにその場でくるりと一回転すると、それに合わせてマントと髪がふわりと広がる。高等魔術師の証だとは露知らず、物語の魔女や魔法使いを見慣れている身としてはとんがり帽子が欲しい所だと思いつつも、見た目だけはそれっぽくなってきた気がして首を傾げて問いかけ)
(/いえいえ、ご自身のペースで大丈夫ですよ!こちらこそ引き続き宜しくお願い致します!)
うん?そうだね。だいぶ魔術師っぽくなってきたね。似合っているよ。
(店主がいる手前、猫被りを止めるわけにもいかず、にこりと笑い掛ける。店内で聞くとはこいつ確信犯かと思いつつも相手からは悪意を全く感じないので、単純に感想を聞いただけかと思い直し。……まあ、見て呉れだけはマシになっているし似合っていないわけでもないので訂正する気は無く――ノエルは店主に会釈をして杖店を出て行く。そして、店前から少し離れた所で後ろを振り返り)
それで、次は箒だったな。あの店に入るぞ。
(猫の看板が立った『黒猫の魔術道具店』と言う、如何にも絵本で言う魔女の家のような建物を指差してノエルは中に入る。ここの店主は変わり者で、変容魔術でいつも黒猫の姿をしている。その為カウンターには人では無く黒猫が呑気に寝ていた。それを一瞥して、やや広いが小瓶やら蠢めく本やらでごちゃごちゃした店内を歩き――やがて、飛行用のサドル付き箒が立て掛けられたスペースに行けばそこで立ち止まり)
飛行用の箒は製造会社によって性能が違うが、そちらは何を重視したいんだ? 耐久性、スピード、ブレーキの性能、座り心地の良さ。
まあ、どちらにしろ自分に見合った物を選んだ方が振り回されずに済むがな。
(そう意地の悪そうに笑い)
(/ありがとうございます…! それとご相談なのですが、ロル数を長ではなく中にすれば今より返信速度が上げることが出来るのですが……長と中でしたらどちらがお好みでしょうか?)
え……あぁ!そっか、そうよね。……悪かったわ。
(先ほどの文字通り魔法のような現象に思わずテンションが上がってしまい、調子に乗って明らかに一蹴されるであろう質問をしてしまった事を後悔していると、予想に反して人当たりのいい返事が返ってきて思わず首を傾げる。しかしすぐに店主が傍に居るからだと気付けば意図せず当てつけのようになってしまっていたことを謝罪し、同じように店主に挨拶をしてから店を出て)
まるで映画のセットみたいね。……まぁ、それを言ったらこの街全体がそんな感じだけど。
(次に示された店の外観はまるで物語から飛び出してきたかのようで、人間世界の現代人らしい感想を呟けば店内へと足を踏み入れる。カウンターの上の黒猫はこの店の名前からして看板猫だろうか。店主が変身しているなどとは夢にも思わず、近寄って行って起こさないよう一撫ですれば少し遅れて相手の後を追って箒が立てかけてある一画へ向かい)
……メーカーごとの特色って言うと、車やバイクみたいなものかしら。見た目は自転車に近いけど…。
(振り回されるという言葉に安易にその様子が想像できてしまい眉を寄せるも、気を取り直して相手の説明を自分なりに解釈していく。しかし箒にサドルがくっついているという出来の悪い工作のような見た目にふと首を捻れば視線を相手に移し)
一番に求めるのは安全性、時点で扱いやすさね。その他の性能なんて初心者が求めるべきじゃないもの。――ところで、空を飛ぶのって箒でしかできないの?
(/どちらかと言えば長めの方が好みですが、ご負担になるようでしたら全然中ロルで構いません!場面によって長さを変えていただいても構いませんし…繰り返すようですが負担になるのは私としても本意ではないので、あなた様のやりやすい方でお願い致します!)
そうだな、そちらにしては賢明な判断だ。
なら、箒の耐久性とブレーキの性能が良い『アトラス社』の中から選ぶんだな。
(安全性と使いやすさを選択した相手にノエルはやや満足そうに頷き。飛行用のサドル付き箒のコーナーの中でも『アトラス社』と書かれたスペースを指差して言う。ここの会社はスピードが落ちて少し座り心地が悪い代わりに、箒の柄は頑丈でブレーキ性能も優れている。初心者には打って付けの箒を作っている大手企業だ。値段もお手頃だと適当に箒の一本を手に取って見ていれば――相手から素朴な疑問が飛んで来たのでそれに答えようとし)
空を飛ぶだけなら箒以外でも出来るが、基本は箒だけだと決められている。だから交通ルールは全て箒が基準だ。それと、車やら絨毯やらに乗って飛べば罰金が掛かるぞ。
(説明するのは面倒だったが規則を破られるよりかはマシだと考えて、そうノエルは幻想世界での交通ルールを伝えていく。別に破っても退学にはならないのだが、ペナルティが付くので好ましくはない。しかしそんなことをするぐらいなら、学園側も少しは人間界から来た生徒に幻想世界の一般常識を教える講習会でも開けば良いのにと、ノエルは心の中で不親切な魔術学園へと愚痴を零す。――そして、手に持っていた箒を元の場所に戻し)
さて、説明したのだから早く箒を選んでいけ。時間は有限だからな。
(/お優しいお言葉をありがとうございます…! では、場面によって長さを変えることとやや長よりの中にさせて頂きますね…! 改めてこれからも宜しくお願い致します! 最後に愚息がこんな性格で申し訳ないですが、ブリジットちゃん可愛いです! ではこれにて背後は失礼しますね!)
ふぅん、絨毯もダメなの。利権の問題でもあるのかしら。道交法……もとい空交法?で規制なんて意外と露骨ね。
(相手の指し示す先、アトラス社の箒を順に物色しながら返ってきた来た回答に意外そうに声を上げる。ファンタジー小説における絨毯と言えば箒に次いでポピュラーな空飛ぶ乗り物ではなかろうか。よもやペナルティが付くとは思っておらず、ついでに雨の日は箒より車の方が良さそうだと考えていたのを見透かされたような気がしてそっと視線を逸らす。そして早く選ぶようにせっつかれると慌てて箒に向き直って)
ん~……選べって言われても、杖と違って「これだ!」っていうのが無いのよね……ん?
(手前の何本かを代わる代わる手に取ってみるもいまいち違いが分からず、杖の時のように参考になりそうな話も無いので煮え切らない表情で考え込む。どれもこれも決定打に欠け、しばらく手に取っては戻しを繰り返していると、やがて奥の方に立てかけてあった一本が目に留まる。雪崩を起こさないように慎重にそれを抜き取れば、長く店頭に置かれていた所為か柄とサドルに積もった埃を軽く払い)
――やっぱり。これ、ローズウッドだわ。サドルの色も似てるし……うん、決めた。
(/かしこまりました!いえいえ、こちらこそ格好いいノエル君に対して天邪鬼な娘で申し訳ないです…!それではこちらも失礼致しますね。今後とも宜しくお願いします…!)
(とにかく数多くの箒を手に取っては悩ましい顔をして戻していく相手を、軽く近くの壁に寄っ掛かりながらノエルはやや退屈そうな表情で観察をしていく。そんな箒の選定は数分から数十分弱ほどの間に繰り返し行っていて――不意に、何かが気になったのかそちらへと移動して茶色だが赤茶よりの箒を手に取る。どうやらアトラス社の中でもその箒が気に入ったらしい。ローズウッドと聞いて、古くからチェスの駒やナイフに使われているあの木材かとノエルは思いつつ、壁に少し重心を置いていた体を微かに起こして)
決めたのなら、さっさと済ませるぞ。店主はあの黒猫だ。起こせば会計に応じてくれる。
(そう告げて、やたらゴミゴミとした店内を掻い潜ればその黒猫が昼寝をしているカウンターに辿り着く。自身が買い物をするわけではないので、起こすと会計は相手に任せておく。起きても変人なため店主は黒猫の姿のめまで会計をしていくのだろうが。一応、会計をする際に困ったことがあるかもしれない上に時間を取られたら面倒なので、先に一人で外には出て行かず、少し後ろの方でまた壁に寄り掛かりながら待機をしておき)
――――は?
(店主は黒猫。そんな何気なく言われた言葉の意味が分からずに、カウンターへ向かう相手の背中を見つめてぽかんとした表情で首を傾げる。黒猫とはさっき撫でたあの猫だろうか。にわかには信じがたいが相手が冗談を口にするタイプとも思えないため、きっとそんなこともあるのだろうと無理矢理自分を納得させて一足遅れてカウンターへと向かい)
あのぅ、お会計をお願いしたいのですが……?
(傍から見れば猫に話しかけている変な人だということは極力意識しないようにして、そっと黒猫の頭を撫でながら声を掛ける。すると黒猫もとい店主が目を覚まし、動きは猫そのものにも関わらず流暢に言葉を話すので思わずまじまじと見つめてしまう。これも魔法なのだろうが、人間が猫に変身しているのか、猫が魔法で人語を解しているのか分からない。覆わず考え込みそうになったところで数秒後に何とか自力で我に返って支払いを済ませれば、後ろで待っていてくれた相手の元に向かい)
不思議ね、魔法界。
(抱えた箒の柄を撫でれば神妙そうな表情でぽつりと零し)
(黒猫の姿をした店主に対して不思議そうに話し掛けていく相手を見ては、思わずくつくつと笑ってしまい、ノエルはやや口元に手を充てて抑える。自分にとっては新鮮味の無い光景でも、彼女には奇怪で物珍しく映るのだろう。はてさてこの調子なら魔術学校で本格的に授業が始まれば大変そうだなと、笑みを深くし。けれど、ちゃんと会計は済ませられたようだ。容量は悪い方ではないのだろう。こちらに頼りっぱなしではないと言う点は大いに評価出来る。敢えてそれを口に出さずに思っていれば、ノエルは神妙そうな表情で呟く彼女を見て"直に嫌でも慣れる"と言った風に意地悪く笑うと、用も済んだので踵を返してその魔術道具店を出て行く。杖とチョークと箒を買った為、もう行く所は無くなったので)
これで全ての買い物が終わったな。
さてと、魔術学校に帰って学生寮に行くとするか。
(そう言うと、ノエルは石畳で出来たメインストリートを歩き出し――やがて魔術学校に到着をすれば、その中でも最北にある扉を開けて渡り廊下を通って学生寮に辿り着く。様々な絵画が飾られただけの壁しか無い広い部屋だが、間違いなくここには生徒の為の部屋がある。実際に入学案内にも書かれていたし、入学式の時もそう説明されていた。だが、その自身に与えられた部屋に入る為の『鍵』をまだ貰っていない。大方、ここで配られるのだろうと思っていれば予想は当たり――突然、絵画から半透明の幽霊が出て来て二人を見ると、金色の鍵を二つフワリと投げて寄越して来る。そして無言でそのまま引っ込んでしまい)
ここの学校は随分と手荒い鍵の渡し方をするな。まあ、良い。……とにかく、これを使えば自室に入れるようだな。
――では、また明日。パートナー制と言えども、さすがに異性ゆえに同部屋ではないだろうからな。寝坊だけはするなよ。
(上手くキャッチをすることが出来た鍵を手中でくるりと回せば、ノエルはサラリと別れの挨拶を告げて、壁の方へと向かって行こうとし)
……?!
(相手に続いて歩いて行けば辿り着いたのは絵画の飾られた一室。学生寮に向かうと聞いていたので行き止まりの部屋に首を傾げ、問いを投げようとしたところで壁にかけられた絵画から半透明の何かが姿を現せば反射的に上げそうになった悲鳴を何とか飲み込む。凍り付いたように動きを止めて幽霊と絵画を凝視し、そのため勿論相手のように上手く鍵をキャッチできるはずもなく、地面に落ちる音と相手の言葉で我に返れば咄嗟に立ち去ろうとする相手の腕を引き止めるように引っ張り)
ちょっと待ってこの学校"出る"の?!…………じゃなくて、違うわ。違うのよ、今のは忘れて。聞きたいのは……そう、ここが寮ってどういう事なの?
(どうやらまだ多分に動揺していたようで、思った事をそのまま口にしてしまってから慌てて首を横に振る。これでは幽霊が怖いと言っているようなものだ。魔術なんて代物が存在するのだから幽霊が居たって可笑しくはない、人間世界において「常識的に考えて有り得ない」のはさっきの喋る猫も一緒。そんな風に自分に言い聞かせながら全力で話題を逸らしにかかるも、何となく周囲に飾られたただの絵が気味悪く思えてしまい相手の腕は掴んだままで)
"出る"?……ああ、そう言うことか。それはもうウジャウジャ出るぞ。寝る時も気を付けることだな。
(腕を掴まれたので一瞬驚いて退かそうと思ったものの、次いで発せられた言葉に"なるほど"とノエルはすぐに意図を理解すれば、からかうように表現を大袈裟にして上記を述べ。確か、あちらの世界では幽霊は存在してはならないものとして扱われているので、畏怖の対象だと聞いたことがある。こちらの世界に置いてゴーストと言うものは珍しくもない種族な為、自分としては既に慣れているが。それにここにいる幽霊は、学校案内にも書かれていた通り人間に危害を加えてくる種族ではない。なので、相手の怖がるような反応にニヤリとした嫌な笑みを浮かべれば、掴まれている腕に視線を落として)
――それで、そちらいつまで腕を掴んでいるんだ? しおらしいのは結構だが、これではここが寮だと言うことを説明出来ないのだが。
(ちょうど鍵を持っている腕だったので動かすことが出来ず、寮の部屋を出現する為の動作を行うことが不可能で。故に、意地の悪い笑みを深くしてそう言っていき)
う、嘘でしょ……?
(完全にからかわれているのは分かるのだが、今は正直それどころではない。部屋に出没する大量の幽霊を想像してしまい、小さく肩を震わせて消え入りそうな声で呟く。ほんの数日滞在していた父の家では遭遇することがなかったのもあり、まさか学生寮がそんなことになっているとは思いもしなかった。寝る時は絶対に灯りを消さないと心に決めていれば、意地の悪い笑みで見下ろされてようやく一連の自分の行動を客観的に理解して慌てて相手の腕を離し)
っ……み、見慣れてないから少し驚いただけよ!別に怖くなんてないわ!
(動揺しているのが丸分かりな様子で今更感溢れる台詞を述べれば、ふいと顔を背けて先ほどキャッチし損ねた鍵を拾い上げて視線を落とす。見た目は何の変哲もない鍵だが、これも魔法道具的なものなのだろうか。室内には入って来た扉以外に扉らしいものはなく、鍵が差し込めるような場所も見当たらないため大人しく相手の説明を待つことにして)
(慌てて離れていく相手を見ては、強がっていることが明らかだったので全く素直ではないなと、やれやれと言うように肩を竦めていき。今度暗がりで脅かしてみるかと、捻くれたことを思っていれば、視界の端で先ほど相手が取り損ねた鍵を拾っているのを捉えて。こちらが説明をすると言った手前、待たせるのもどうかと思い、手早く使い方を教えようと前へと歩き出し)
使い方は至ってシンプルだ。単にこの鍵を持ってこの肖像画に近付けば――このように自身の寮部屋へと繋がる扉が現れるので、持っている鍵を使ってその中に入れば良いだけだ。
(扉から入って真正面にある天使の肖像画に来れば鍵を取り出していき。すると、本棚と肖像画しかなかった目の前の風景が一変して木製のドアが現れる。恐らく、変容魔術の応用だろうと思いながら後ろにいるであろう相手へと簡単に説明をしていき)
と言うわけで、もう分からないことはないだろう? こちらはこれにて失礼するぞ。
(魔術学校は皆一斉に大ホールで食事を取らないといけないが、席は決められていないのでパートナー制と言えどそんな時まで一緒にいなくても良いだろうと考えていき。なら、今日はここから先は別行動を取れるので楽が出来るなと、ノエルは失礼なことを思いつつ相手の返答を待ち)
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