_tokumei_ 2015-11-19 20:56:45 |
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___...痛い。
( 放課後になり昼間のような騒がしさが嘘のように消えた図書室にて一人、やたらと文字数の多い小説をわざと選んで立ち読みしており。 活字の羅列が続いているせいか、元より読む気も然程無かった本だからなのか内容が全くと言って良い程頭に入って来ず眉を顰めて。 それでも懲りずに次々と頁をはぐっていた其の指先をうっかり紙の端に擦らせて切ってしまい、じわりじわりと押し寄せる地味な痛みに更に眉間に皺を寄せ。 無駄に積み重ねられていく苛立ちに、今現在手に持っている此の本を窓にでも投げ付けてしまいたい衝動に駆られるが、目の前が水彩絵具のように徐々に滲んでいくのを感じて思い止まり。 「...どうして」と、明らかに震えを加えた声質をも隠さず呟けば“私は果たして何の為に生きているのだろうか”と綴られた本の一文を目にして、何かが解けたように頬に生温い雫を伝わせていき )
いつの間にか人差し指に傷が出来ていた。
自分の手を見る機会を逃せば気付かない程度の小さな切り傷。 痛みも出血も無い。
「これ、鎌鼬...ってやつかな」
友人から鎌鼬(かまいたち)現象の話は聞いた事があったが、まさか自分に起こるとは思っていなかった。
それどころか、勝手に皮膚が切れて堪るかとも思っていたぐらいである。
しかし現にこうして知らぬ間に傷が出来てしまっているのだから驚きだ。
とはいえ痛みは全く感じない為、放っておくかと特に気に留めない事にした。
寧ろ今、一番気になるのは____
「あの子...ずっと外見てるな」
つい先程まで自分も授業を受けていた学校の校内。
其の3階の......彼処は恐らく図書室だろうか。
窓際に立って、随分長い間外を見つめている女子生徒が一人。
ずっと真っ直ぐ先を、何の目的も持たずにただ眺めているだけのように見える。
彼女の事を一度見つけると、其の姿が不自然にも思えて何故か目を離せずにいた。
「...って、これじゃ俺が変人みたいだな」
気付いたら軽く3分くらい彼女の方を見ていた。
これでは完全に自分は不審者である。
流石にそろそろ立ち去ろうかと右手首に付けている腕時計に目を遣ると、現在時刻は“17時59分”。
小腹も空いてきた事だし、いい加減帰途に着こうと心の中で考えつつも、やはり彼女が気になり其方へと自然に顔を向けてしまう。
すると、先程まで女子生徒が立っていた場所に其の姿は無かった。
時計を見ていたあの一瞬で、彼女は何処かに消えてしまったらしい。
少しだけ残念な気持ちになりながらも名残惜しさを残して自宅へと歩みを進めた____
あまりにも不可思議な事が起こった。
確かに飛び降り自殺というものを図ったつもりなのだが、落ちた場所が花壇だったという事もあってなのか体の節々が鈍く痛むだけで傷一つ無い。
屋上への扉には鍵が掛かっているので仕方なく、一番思い出深い場所から。
しかもそれは3階であり、寧ろ確実にこの世とさよなら出来る筈だった。
これは、一種の奇跡というものなのか?
____それなら、もっと早くに起こってもらいたかった。
こうして身を投げる前に。
しかしこれだけの高さから飛び降りたのなら骨の一本や二本は軽く折れているだろう。
そうすれば其れを理由に休める。
“行きたくないから”では理由にならないだろうし、これで確実。
「...でも本当は...目を覚ましたくなかったんだけどな」
誰に聞かせる訳でもなく、自分にだけ言い聞かせるように小さく呟いた言葉にまたしても泣き出しそうになる。 でもそれを必死に堪えた。
上に置いてきた荷物を取りに行く為に立ち上がってみるが、痛みのわりに擦り傷や骨の折れた感じが見当たらない。
花壇に落ちたとはいえ、あの高さ。
怪我一つ無いわけがないのだが...。
思い返してみると、さっき本を読んでいた時に紙に擦ってしまった指先には痛みを感じるだけで傷は無かった。
可笑しな話だ。 こういう時ばかり運が良い。
出来る事なら其の運を、もっと別のところに生かしたいものだ。
「阿呆らしい...」
体に付いた土を払って花壇を整えてから、意外にも動かせる足を目的の場所まで進めた。
本ッ当に意味が分かんねぇんだよ! 俺だって説明して欲しいくらいだ...。
( 金曜日の朝というのは多くの学生にとって、本来ならば週末に向けての最後の授業日である為に喜びに満ち溢れている筈であろうが本日の自分の調子は其れに完全に背を向けていて、全く良いと言えるようなものでは無く。 理由としてまず第一に挙げられるのは、がっちりと固定され包帯まで厳重に巻かれた此の左腕と左脚。 誰がどう見ても分かるように、骨が折れてしまっており。 其の為、学校に顔を出すのはかなり久しぶりで。 生まれて此の方骨折など経験の無い自分にとっては人生最大の問題であり。 しかも原因が全く分からないというあまりにも突飛過ぎる出来事のせいで不機嫌が異常なまでに膨れ上がってしまっていて。 こうした不満を友人たちにぶつけ続けていくうちに幾分気持ちが落ち着き、一つ大きな溜息をわざとらしくついてから、手にしている松葉杖を使って自分の席まで進み。 杖を使った移動など不慣れでしかない故に何度か転けそうになった所を友人に助けてもらい。 なんとか椅子に腰を下ろすとふと思い出したような顔をして「でもさ、母親に言われるまで気が付かなかったんだよ。 自分の骨が折れてるなんて」と述べては心底不可解だという表情を滲ませ。 気が付かなかった理由は“痛みが全く感じられなかった”からで、其の旨を医師に伝えた時も結局詳しい事は分からず仕舞いで。 実際は骨折の他に原因不明の擦り傷や切り傷が複数箇所にあり、父親には何かの祟りではないかとも言われてしまったぐらいであり。 自分の体は一体どうしてしまったのだろうと不思議な違和感に苛まれるが、取り敢えずは遅れた分の授業を取り戻そうと教材を机上に置き勉強を始めて )
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