フランソワーズ・ボヌフォア 2015-11-11 11:38:46 |
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(国の化身は死なない、という漠然とした意識がある。その上に胡坐をかいていたことは否めないが、だからこそ今まで彼女を守ってこれたのだ。今回は随分入れ込んでいたように思えるが一体何処で引っかけてきたのだろう、それとも。所詮膝枕をされてもいいアングルだ、と思う程度に脳内ははっきりとしている訳だが)死ぬわけ、ねえだろ…ばぁか。…お前はいつもみたいに、悪女気取ってればいいんだ…。(唇から漏れる声はどうしても掠れ、自分でも情けないものにしかならない。涙を落とした彼女を慰めるように手を握り、弱弱しく微笑む。ああ、レディを泣かすなんて紳士失格だとか、あの髭野郎は妹の一大事に何をしてるんだとか、次の会議には間に合うだろうかとか。次々に浮かぶ感情が泡のように消えていく。サイレンの音が徐々に近づくのを聞きながらそっと意識を手放した)
(負傷した腹部からとめどなく血を流しながらも未だ此方に気を遣っているのか苦々しく笑む相手に、こんな時まで紳士振らなくても、と僅かな苛立ちがこみ上げる。然しそうさせてしまっているのは紛れも無い自分自身で、溢れ出る泪袖口で無理矢理拭うと何時ものように毅然とした表情見せ手を強く握り締めた。)アンタこそ…死んだらその眉毛全部毟りとってやるんだから。(近くまで来た救急車に搬送される彼を見つめると隊員に簡潔に状況を説明し付き添いとしてそれに乗り込む。国としてこの地に生を受けてから苦しい事が無かった訳では無い。数多の戦の歴史を重ねても国がそう簡単に死ぬ事はないと理解しているが、だからこそ今回の件での自身の責任は重いものだ。何せ自分の不始末が祟り隣国を傷つけてしまったのだから。回らない思考の中無意識に携帯で電話を繋げる。その相手は今目の前で懸命に生きようとしている彼の妹だった)
(/申し訳ありません、近頃忙しく此方へ書き込む暇もありませんで…!)
(電話口から聞こえる声は女性特有の、まだ幼さの残る高音で、それでいて淡々とした機械を思わせる声色はただ兄の身に起きた出来事を事実として受け止めただけだ。それは原因たる彼女を責める訳でもなく、自虐すらなく、一言判った、とだけ告げられ電話は切られる。そうしている間にも彼は医師の診察を受け、命に別状はないが暫く安静にしていることを告げられる)……いてて。(まるで重傷を負ったかのような懸命な手当てにうんざりしつつ、何とか上体を起こした。ちくり、と痛みが腹を刺すようで顔を顰める。この程度、毎日のように国と戦っていたあの頃と比べれば怪我の内にも入らないのに。平和になったよなあ、なんてぼやいてぼす、と枕に背を預けた)
(/こちらこそ気づくのが遅くなってしまい申し訳御座いません。返信は本当、手が空いた時で良いので無理なさらないで下さいね。)
(処置が終わり一人部屋の病室へと運び込まれた相手の容態は其処まで悪いものではなかったらしく、医師からの説明に其れまで張り詰めていた空気が漸く緩まる。こういう時、国であることに本当に良かったと思えるのだ。普通の人間より遥かに高い生命力と再生力には毎度毎度感謝してもしきれない。彼のベッドの隣の丸椅子に腰掛けると先程まで通話していた携帯電話ギュッと握りしめて、渇いた唇を漸く開いた)…大丈夫、なんて聞かないわ。大丈夫じゃない事くらい見れば分かるから。今回は完全に私のせいね。責めてくれて構わない…というか、そうしてくれないと、私、どうしたらいいか分からないわ。(電話先の彼女も、実際に刺されて倒れた彼も、一向に私を責めない。その事に罪悪感は増すばかりで、息苦しいのか胸元の服強く握ると震える声で言葉紡ぐ。あの目の前で大切な愛しい弟が崩れるように倒れる姿が頭から離れない。目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる、あの喪失感。もう二度と味わいたくないとアメジストの瞳強く閉じた。)
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