ハナミズキ 2015-10-30 16:57:47 |
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◆ モリトの苦悩 ◆
王都に来て分かった事。それは、この世界に取り残されたのは、モリトとユーリの2人だけだと言う事。そして、この先もこの世界で生きて行かなければならないという事だった。
この世界で生きていくという事は、衣食住を確立しなければならない。
お金の心配はしなくてもいいだろう。狩りをして稼いだお金で十分にやっていけるからだ。
住む所も、アパートを借りるか宿屋暮らしでもいい。しかし問題は、ユーリを1人にする事が心配だった。
年齢的には既に成人をしているユーリだったが、見た目が幼すぎる。それに世間慣れもしていない。そんなユーリを1人放り投げるような真似は、モリトにはできなかったのだ。
だからと言って、これからも一緒に居ようとは言い出せないでいたモリトであった。
王都に来るといつもお世話になっている定宿がある。今回もその宿屋に泊まる事にした。
当然の事だが、店主たちにとってモリトは、今回が初めての客と言う設定になっているらしく、いつもの様に「おかえり、今回は何日間の滞在だぃ?」とは聞かれなかった。
「一週間で良いんだね? 悪いけどうちは、料金前払いになってるんだよ。いいかい?」
「はい。 それで構いません」
「じゃあ、一週間二人分、二食付きで42000メルだ」
ユーリが自分の分のお金を出そうとしたが、そこはモリトが断り二人分を払うと、宿屋の主人は ポン と鍵を1つ手渡してきた。
「部屋は一つですか?」
モリトが確認をすると、
「そんなに可愛い妹を1人で寝かせるなんて危ないだろ。最近この王都も物騒になってきてるからな。 こんな宿屋でもいつ押し込み強盗が現れるか分かったもんじゃない」
宿屋の主人が話し終わった頃に、ユーリが尋ねた。
「ベッドは二つですよね?」
主人は、変わった事を聞く子だな、と思いつつも
「まぁ、二人部屋だから、普通にベッドは2個あるな」
「なら問題は無いです。変な事聞いてごめんね、おじちゃんw」
満面の笑顔で話すユーリは、天使のように見えた。
2人の会話を聞きながらモリトは思っていた。
『おぃおぃおぃ!
それって俺と同じ部屋で良いって事なのか?!
仮にも俺は男でユーリは女なんだぞ?!
まぁ、見た目はアレだが…、それでもダメだ!!
夫婦でもなけりゃ、恋人同士でもないのに、同じ部屋なんて…。
ダメだダメだ!
世間様が許しても俺の良心が許さない…。
・・・・・・‥、まてよ?
まさかとは思うが・・・・。
ユーリは俺の事を男として見ていない?
それとも、信用されてるのか?
どっちにしてもダメだ・・・・。
俺の理性が・・・・。』
「お兄ちゃん。 顔芸の練習は後でやったら?」
「えっ?!」
ハッと我に返るモリトであった。
「さっきから、なに百面相やってるのよ。 ちょっと面白かったけど…。」
「いや・・・、別に…、その・・・。」
そんな微笑ましいやり取りを見ていた宿屋の主人だったが、二人を2階にある部屋に案内をする。
「この部屋です。ごゆっくりどうぞ。」
部屋の中に入り荷物を床に置くと、ベッドに力なく腰を掛けたモリトは、今後の事を考えていた。
『この狭い空間で、女の子と二人きり。
俺は1週間も耐えられるのか?
ハァ~・・・・・。
耐えるしかないんだよな・・・・。
これじゃあ拷問と同じだよ・・・・。』
「ねぇ、モリト。さっきから考え事をしてるみたいだけど、やっぱりモリトも同じこと考えてる?」
「同じ事を考えてる?」、と聞かれてドキッとしたモリトだった。あまりにも突然に聞かれたのでシドロモドロになる。
「えっ?! 同じ事って?! べ…別に俺は何も・・・」
額から変な汗が噴き出してくる。
「なに慌ててるの?変なモリト? だからね、私たちのこれからの事なんだけど、この王都にずっと住むなら家を探さなきゃいけないわでしょ?拠点となる所が無いと不便じゃない」
と、話しはじめた。
ユーリの話しによると、このエメラルダスは、ここ王都がある《 グリーン大陸 》その南に海を挟んで位置する《 ローレライ大陸 》、両方の大陸から飛行船で行ける《 天空都市 》、この三つの大陸から成り立っている。
ユーリ達は一度行った町や村になら転移できるスキルがある。それを使えば何処にいてもこの王都に帰って来る事ができるのだが、なぜそこまでしてこの王都にこだわるのかと言う事は、ユーリ自身も分かってはいなかった。
たぶん、このグリーン大陸が、病中にテレビで見たヨーロッパの街並みに似ていたからだろう。
憧れの町というか、現実世界への懐かしさと言うのか、自分でも分からない気持ちからであった。
「ユーリはこれからずっと王都に住むつもりなのか?」
「えっ?! モリトは違うの?」
少し驚いた表情でモリトを見つめる。
「俺は・・・、他の大陸にも行ってみたいと思う。
このゲームをやり始めてまだ半年だけど、俺が行ってない場所もあるはずなんだ。」
あまりにも真剣な顔で言うので、ユーリは思わず
「じゃ、私も一緒にいこ~っと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・はあああああアアアぁ???!!! 」
しばらく間があった後に、モリトはすっとんきょうな裏返った声で叫んだ。
「何そんなに驚いてるのよ。私が一緒だと迷惑なの?!」
ベッドに腰かけているモリトの前で、腰を下ろして床にしゃがみ込み、頬に両手を付きながら上目遣いでモリトに問いかけた。
モリトは慌ててベッドから立ち上がり言い訳をしようとする。
「いやイヤイヤ!迷惑とかそんなんじゃなくってだな…、なんて言うかその~・・・。
―――― 本当に良いのか?」
「ん? ここでの知り合いなんてモリトしかいないし、モリトになら嘘をついたり素性を隠したりしなくてもいいじゃない? それに・・・。」
「それに?」
「なんか面白そう!」
『・・・・・・、やっぱ、そういう事だよな…。
俺の事が好きとか、そういう理由じゃないんだ・・・。
やっぱり俺って…、男として見られてないんじゃないのかな…。』
そう再認識をすると、緊張していた糸がプツンと切れて、力なくベッドへ座り直したのである。
王都での滞在は一週間を予定している。王都には、近隣の町は勿論だが、遠方にある村やローレライ大陸からも出稼ぎに来ている人がいるので、このグリーン大陸の話しだけではなく、他の大陸の話しも聞ける絶好のチャンスともいえよう。
話の多くは露店商人たちから仕入れたのだが、おかしな話も耳に入ってきた。
今までモリト達が遊んでいたゲーム内では、各大陸に〈王〉と呼ばれる者はおらず、このグリーン大陸だけに存在していた。
それが最近では、南の大陸であるローレライに、王が誕生したと言う。
そして、その王座を巡り人々の争いが絶えないと言う話しだった。
「いったいどういう事だ?!」
「あの大陸は元々小さな町や村しかなかったはずよね?」
「ああ。」
「確かに鉱山や遺跡はあるけど、それが目的かしら…?」
「俺達がここに残った事で何かが変わったのかもしれないな」
「それって、私たちのせい・・・ってこと?」
「分からない…。」
「なら、論より証拠よ。行って確かめて来ましょうよ!」
ユーリはにこやかな笑顔と共に、早速旅の準備を始めるのであった。
― 6話 完
次回は【 モリトの理性 残り1%? 】です。
懐かしいあの三人組に会ったモリト達は、これからの事を考えてある行動に出ます。
そしてそこで、モリトとユーリに襲い掛かるハプニング。
自覚の無い天然 ユーリvs理性大事!ヘタレ モリトの話しになります♪
あまり期待をしないで待っててくださいね(@^^)/~~~
◆ モリトの理性 残り1%? ◆
旅の準備も大体終わった頃、モリトはある事に気が付いた。
それは、ギルドに所属していないと一般のクエストが受けられないと言う事だ。
今までは運営側から指定の高額クエストが定期的に配布されていたが、運営する者が居ない今は、それらのクエストは無い。
一般者からのクエストのみとなる。
金額はそこそこだが、塵も積もれば山となる。と言う訳だ。
もちろん武器を錬金して稼ぐと言う手もあるが、ギルド無所属ではうさんくさがって誰も相手にはしてくれないだろう。
そこら辺のわずらわしさを解消する為にも、2人はどこかのギルドに入る事にした。
できればあまり干渉のしてこないギルドが良い。
もっと欲を言えば、ギルドに入れてもらえるだけで良い。とさえ思っていた。
あまり深入りをしたくないのと、詮索をされたくないからだ。
2人はギルリスト協会に行き、どこか良いギルドはないかと尋ねた。
受付の人はいくつかのギルドを紹介してくれたが、どこも大人数所帯であまりピンと来なかった。
少人数で、レベルの低い者でも入れるところなど、ほとんど無いと言ってもいいだろう。
少人数と言う事は、自分達の食いぶちは自分で稼ぐと言う事だ。他人の面倒を見ている余裕などない。
少人数なので当然、持ち店も無く、店番で資金稼ぎと言う事も出来ない。
狩りに付いて行くとしても、レベルが低いと足手まといになるので、5人以下の時には連れて行ってもらえない。
つまり、10人以下の小ギルドに入るためには、設立当時に数合わせ程度に入るか、そのギルドの身内のみが入れると言う事になる。
ギルドを設立する際には、最低でも6人が必要になる。なのでたまに、そこら辺をうろついている無所属冒険者に声を掛けて手伝ってもらう事もあるらしい。
2人はそれにかけてみた。
ギルリスト協会の前にある公園で、人の流れをぼんやり見ながら協会の出入りを眺めていた。するとそこに、見覚えのある人物がやって来た。
「あっ・・・・。」
「ん? どうしたの?モリト」
「あれ、あいつ、スワンの村であったやつじゃないか?」
「どれどれ・・・」
ユーリはアーチャースキル《 スコープ 》を使い、拡大して見てみる。
「本当だ。・・・・、あれ? あの人、ギルドバッヂ付けてないわよ? この間会った時は付けてたはずだけど…。」
「本当か?! 俺、ちょっと話ししてくるから、ユーリはここで待っててくれ」
そう言ってモリトは駆け出して行った。
しばらくするとモリトが協会の中から出てきて、ユーリを手招きをして呼び寄せた。
「ユーリ、ハロルドが自分のギルドを作りに来たらしいよ。でさ、丁度あと2人足りないんだって。で、俺達にギルドを作るのを手伝って欲しいってさ!」
「本当?! あの人達なら面識もあるし、良いんじゃない?」
「そういうと思ってOKしといた」
モリトは頼りになる男、のつもりでの報告だったがユーリは・・・・。
「モリト、ちょっとしゃがんでくれる?」
「ん?」
ユーリに言われた通りに素直にしゃがみ込むと
「偉いぞ!モリト!」
と、頭を撫ではじめたのである。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
とても複雑な心境のモリトである。
「なんか君達って面白い兄妹だよね」
そう声を掛けて来たのはハロルドだった。
ハロルドはギルドに入ろうと思っている人をスカウトに来たのだと言う。
この間のゴブリン退治で一緒にいたケントとリズの他に、もう1人アンズと言う剣士の女の子がいるらしい。
アンズはレベル30代のオレンジ色の腕輪と付けていると言う。その4人と新しくギルドを作るのだと話してくれた。
モリトとユーリは、ギルド作りを手伝う代わりに、そのままそこに居させて欲しいと頼んだ。
しかし、自分達にはあまり干渉をしないで欲しい、とも頼んだのである。
虫が良い話しではあるが、こんな頼みをできるのはハロルドくらいだからと頼み込んだのだ。
ハロルドの方も、何か人には言えない事情でもあるのではないかと察知をして、もしハロルド達が困った時には手を貸してくれる事。という条件を出し、双方納得をしてこの件は交渉成立となった。
ギルド設立の為に新しい仲間が見つかった事を、集合場所であるハロルドの家まで行って知らせる事になり、ハロルドが戻って来るのをモリト達はその場で待っていた。
しばらくすると、ハロルド達4人が現れて、懐かしの再開をする。
「いよ~、モリト、久しぶり~ ユーリちゃんも元気だった?」
相変わらず軽そうなケントである。
「久しぶりって、まだ一週間くらいしか経ってないだろ・・・・。」
少々呆れた顔で答えるモリトだった。
「こんにちは~、初めまして。あなたが新しい仲間なの?」
挨拶してきたのはアンズだ。
アンズはモリト達の腕輪の色をジロジロと見ながら、いかにも格下と言いたそうな顔つきで話しかけてきた。
「ギルドには入りたいけど、別行動がしたいんだって?いい心がけよね~。
ほら、私達ってまだ人数がそろってないじゃない?
あなた達を狩りに連れてっても安全を保障できないのよね~。
だから別行動の方が私たちにとっても助かるのよ~。」
少しトゲのある言い方だが至極まともな意見だ。
「おい、こら、アンズ、そんな言い方はないだろ?」
ハロルドがたしなめると、アンズは甘えたような声を出しながらハロルドにしなだれかかる。
「えぇ~、そんなつもりで言ったんじゃないのにぃ~
ひっどぉ~い、ハロルドってばぁ~」
『あぁ…、いたいた…こんな女の子、どこの世界にも居るんだな…。』(by モリト
『・・・・・・・。なんだろ・・・・、この違和感・・・。』(by ユーリ
見る限りこのアンズと言う人は、ハロルドに夢中のようだ。ハロルドに執着をしている間は、こちらには何もしてこないだろうと、とりあえずは安心をする二人であった。
無事にギルドを作り終えた6人は、祝賀会と言う名目の宴会をハロルドの家で行う事になった。
ハロルドの家に着くと、途中で買った食べ物を皿に並べて、リズとユーリ以外はお酒を飲んでいる。
良い感じに酒が回った4人は楽しそうに会話をし、そして悪い癖が出たケントは悪戯をし始めた。
ユーリがトイレに立った隙を見て、飲んでいたジュースに酒を混ぜたのだ。
ケントは時々こういう悪戯を酒が飲めないリズに対してやっていたが、今回はユーリにしてしまったのだ。
何も知らないユーリは、酒が混ぜられてるとは知らずにジュースを飲み続けると、いささか様子がおかしくなってきはじめた。
先ほどまでは「お兄ちゃん」とモリトに対して言っていたのだが、急に「モリト」に変わったのである。
「モリト~。なんかぁ~、楽しいね~」
「ユーリ? 急にどうしたんだ?」
「ん~、なんかぁ~、良い気持ち~」
ニヘラ~、と笑いながら、おもむろにモリトの膝の上で寝てしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ユーリから微かに酒の匂いがする。
「ユーリ、酒なんか飲んだのか…?」
ハロルドとリズが一斉にケントの方を見た。
ケントは申し訳なさそうな顔をして
「・・・・・・・・、わりぃ。」
「「ケント!!」」
2人から同時に怒られたケントだった。
「そう言えばまだ聞いてなかったけど、モリト達はこれからどうするんだ?」
ハロルドが今後の予定を聞いてきた。
「ああ、明後日辺りにローレライ大陸の方に渡ろうと思ってる」
「ローレライに? 俺達もローレライに行こうと思ってたんだ。
どうせなら一緒に行かないか?」
と、そこに口を挟んできたのはアンズだ。
「えええ~、あんた達のレベルでローレライに行くなんて馬鹿じゃないの?!
もしかしてハロルドに守ってもらおうなんて考えてるんじゃないでしょうね!?
誰かに守ってもらおうなんて甘い考えで行くなら迷惑だから来ないでくれる? 」
「アンズ!!」
「アンズちゃん言い過ぎですよ!」
ハロルドとリズの2人からたしなめられると、アンズは口を尖らせながら甘えた声で言った。
「アンズ、悪くないもん・・・。本当の事言っただけだもん…。」
そう言いながらケントの後ろに隠れるようにして、ケントの援護射撃を待っていた。
しかしまた、ケントもスワンの村での事を知っていたため、アンズが期待をするような答えは返って来なかったのである。
「今のはアンズが悪いな」
そう言われたのであった。
このメンバーの中で、スワンの村での出来事を知らないのはアンズだけ。
他の3人はモリトの強さを目の当たりにしていたため、腕輪の色と実力が違うのを知っていた。
でもその事は詮索をせず、人にも話さないで欲しいと頼んでいたので、一応仲間でもあるアンズにさえも黙っていた。
何も知らないアンズは、腕輪の色=実力、という認識しかないのである。
この先、行動を供にすれば、いつかは二人の実力がばれる事だろう。
その時はその時で仕方がないのだが、他の3人はともかくアンズにだけは、バレルのは危険だと本能的に悟ったモリトであった。
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