ハナミズキ 2015-10-30 16:57:47 |
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◆ 終わりと始まり ◆
俺は弱い。臆病者だ。
世界が終ろうとしている時に、現実から逃げ出したくてここに居る。あと一時間くらいで、現実世界もこの世界も終わるだろう。ならばせめて、安らかに消えたい。死の恐怖を味あわないで…。
俺が今居る場所は俗に言うバーチャル世界だ。ゲームの中に居る。何故俺がこんな所に居るかと言うと、現実世界で地球は、いま滅亡の危機にさらされている。
一年ほど前に新たな彗星が発見され、そいつが地球に近づいてきて、とんでもない事に地球の引力圏に接触するとニュースで流れたのがひと月前だった。
そしてとうとう地球めがけて落下してくる時間が、あと一時間なのだ。見たくなくても空を見上げれば大きな惑星が見える。月よりもはるかに大きく、その姿は徐々に拡大していくのが肉眼でもはっきりわかるほどだ。
俺はその恐怖に耐えられなかった。だから逃げたのだ。非現実世界「バーチャル」の中へと。
「ここは相変わらず平和だな・・・・。あっ、そうでもないか、町を一歩出れば魔物が沢山居たんだっけか・・・」
町の城壁の上に立ち、何処までも広がる草原を、心地よい風に撫でられながらモリトは眺めていた。
しばらくして町の中に戻ると、モリトと同じ考えでここに来ている人達がチラホラと見受けられた。
友人たちが来ているのか気になったモリトは、友人リストを開いてINを確認してみると、1人だけ居た。ユーリと言うハンドルネームの女の子で、つい3週間前に四天王の加護を受け、その器を授かった女の子だった。
モリトがこの世界に来た時、最初に声を掛けてくれた人で、その後も色々と面倒を見てくれ、分からない事を教えて貰ったり、狩りの手伝いをしてもらったりと、結構仲が良かった。そのおかげでここに来て半年くらいだが、初めて育てた剣士のキャラが、特化型剣士としてLv70を超えたところだ。
特化型剣士とは、剣士の中でも一番育てづらい職業で、Lv40までは結構楽に経験値を貰え育てる事ができるが、Lv40を超えると溜めなければいけない経験値が大幅に増し、ほとんどの人はそこで脱落してしまう程の職業だった。しかし、特化型を極めれば最強のキャラになる。ユーリはその特化型を各職業別に育て上げた強者である。
剣士・弓・盗賊・魔法使い。この4種の特化型を極めると、四天王の加護を受けられる。それぞれのキャラの属性・得意技法が1つのキャラに集まり、誕生と同時に全てのスキルが使える。体力・マジックパワーも、一般のキャラより遥かに多い。そして何よりこのキャラは、リメイクというスキルがあり、今まで育てた特化型キャラに変身できるスキルがある。ただし、この四天王の加護を持つキャラは、レベルが無い。永遠のLv1、または永遠のLv100なのだ。
つまり、四職業の極キャラの、倉庫みたいなものである。四天王の加護を受けたキャラを持つ者はそんなにいない。それだけ大変な作業だからである。その中の一人がユーリと言う訳だ。
モリトはユーリに念話を飛ばしてみた。
「こんにちは。ユーリも来たんだね」
「うん、まぁねwなんだか落ち着かなくってさw」
「俺もだよwww」
「ねぇ、モリトは今どこにいるの?」
「俺?俺はアクシリアの町に居るよ」
「マジで!?私もそこに居るwww」
「じゃあさ、会わない?」
「OK!」
2人は待ち合わせ場所を決め、そこで落ち合う事にした。1人より2人でいた方が、不安が紛れる。お互いにそう考えていた。
町中を見渡せる丘の上に行き、草花が咲き乱れる大地に腰を落とし、大空を見上げる様に2人は寝転び、静かに話し出した。
「静かね・・・・。」
「あぁ…」
「あと5分でこの世界ともお別れね・・・・。」
「そうだな…」
ユーリは空を眺めたままゆっくりと、そして静かに話しはじめた。
「・・・・私ね…、死ぬのは怖くないんだ・・・。リアルでは私、病気で入院しててね…、本当なら今まで生きて来れた方が不思議なくらいなんだ・・・。余命3年・・・。そう言われて10年も生きちゃった。
筋無力症って言う病気知ってる?それなの・・・私・・・。筋力がだんだん無くなっていって、立つ事ができなくなって、手で握る事も出来なくなって…、いま動かせる所って言ったら目・・・くらいかな…。顔の筋力も無くなったから喋る事も出来ないんだ・・・。」
いきなり自分の身の上話を始めたユーリ。モリトはユーリの言った事に驚きを隠せなかったが、しかし、あと5分で世界は消滅すると言う時の中で、そんな事はもうどうでも良かった。
モリトは何も言わずに、ただ黙ってユーリの話しを聞いていた。
「病気の特効薬なんか無かったから諦めてたんだけどね、病気の進行を遅くする新薬が開発されてそれを使ったの。ある意味人体実験のモデルよね…。それが功を奏して10年。まだ生きてる。でもね、ただ生きてるだけ。あと5分で私は自由になれるのかな…?真っ白い壁や天井はもう見飽きちゃった…。
あっ、いま、じゃあ何でここに来れてるんだ?って思ってるでしょ。そのからくりも実験台かな?最近発表された3Dゲーム機械のヘッドギアがあるでしょ。それの試作品を使わせてもらって実験されてたの。私みたいな病気の人は、病気の進行が進むと会話も出来なくなるでしょ?でも、意思疎通はしたいって思ってるから何か方法はないかっ…て。で、脳が正常ならこれはどうだ!って事で使ってみたら、意外とうまくプロミングされててね、考えてる事や思ってる事を他人に伝える事ができる事が分かったの。思ってる事が会話になって画面に表示されて、本当にびっくりしたわよ…。
・・・・・・それにね、現実世界を離れてゲームの中に入ってるとね、痛みや苦痛から解放されるの。鎮痛剤を打たなくてもいいのよ!?凄いでしょ? ・・・・だから私は1日の大半をこの世界で過ごしてたわ…。四天王を極められたのもそれのおかげかしら・・・・・。」
ユーリはクスリと微笑みゆっくりと目を瞑った。いきなり衝撃的な話を聞かされたモリトは何も言う事ができないでいる。ただ驚いた顔をしてユーリを見ているだけだった。
「・・・・そろそろ時間かしら。モリト…、今までありがとう。楽しかったわ」
「・・・…ユー」
モリトが何かを言おうとした時、それを遮るように、ついに地球最後の時を迎えた。視界が急に真っ暗になり何も見えない。何も聞こえない…。どこまでも広がる静粛と暗闇。
あぁ…これが世界の終わりってやつか…。あっけないもんだったな。
もっとユーリと色んな事話したかったな・・・・。
もっと早くにユーリの事を分かってやれてたら、俺は何かできただろうか。
自分の体が徐々に動かなくなる。
そんな恐怖にユーリは1人で耐えてたんだな…。
最後に「ありがとう」なんて言えるか…?俺なら言えないかもしれない。
病気を恨んで、親を恨みながら、なんで俺がこんな病気にならなきゃいけないんだって最後まで恨み言を言うだろうな…。
やっぱユーリは凄いや・・・・。
ボーっとする思考でぼんやりと考えていた。
ん?
あれ?
何でこんなに意識がはっきりしてるんだ?!
それに、三途の川とか綺麗な花畑とかが見えないぞ!?
ふつうは見えるんじゃないのか?何だ?! どう言う事だ?!
それとも死後の世界ってこんなもんなのか?・・・・。
無重力のように、身体の重さも感覚も、何も感じない真っ暗な空間にふわふわと漂う躰には、意識を集中すれば微かに感じる四肢の感覚が残っていた。すると、眩いばかりの光が身体を包み込み、意識が次第に遠のいていったのだった。
瞼をすり抜けて感じる日差しと温かさで、モリトは目を開けた。目の前に広がるのは何処までも続く青い空。
「ここは・・・・、天国かな?」
太陽の眩しさに目を細めながら1人呟いた。
モリトは人の気配を感じ、横を向くと、そこには見知らぬ女の子が寝ていた。
「・・・・誰だ?」
「んん…ん…」
隣で寝ていた女の子が目を覚まし、モリトの姿を見て驚いたような顔をし
「あなた誰?!ここは何処なの?!」
口早に質問をしてくる。
顔は見た事はないが、その服装は良く知っているものである。
女の子は呟くように、「その服・・・モリトと同じ?・・・」
「えっ?!」
モリトは一瞬驚いた。なぜこの女の子はゲーム内のハンドルネームである「モリト」と言う名前を知っているのだろうか。
しかしまた、その女の子の着ている服も、モリトが良く知っている人物「ユーリ」の物とそっくりだ。
まさか…。一応確認の為に聞いてみる。
「・・・・ユーリ?」
「えっ…」
2人はお互いに、自分の顔をつねってみた。
「「痛たたたた…」」
何が何やら…、意味が解らない…。
確かにあの時死んだはずだった。
でも生きている。
この痛みが何よりの証拠だ。
おかしい……。
バーチャルの世界では痛みや眩しさなどの感覚は無いはずなのに、つねれば痛いし、太陽が眩しい。
それに・・・・木々や草花の匂いも感じる…。
「これは一体どういう事?」
「さぁ…、俺にもさっぱり・・・」
辺りを見まわすと、今までやってきたゲームの世界とは微妙に違う事に気が付いた。建物や周りの風景がやけにリアルに感じる。草に手を添えれば感覚もある。
そして2人が目覚めた場所は町の城壁の外だった。
草むらが、わさわさと音を立て揺れると、そこから出て来たのはピクシーという魔物であった。
慌てて立ち上がり、条件反射でピクシーに攻撃をした。Lv20程度のピクシーなので、モリトの剣一振りで退治できた。
「今のピクシーよね?」
「そうみたいだね。・・・・ってことは、ここはエメラルダスの世界なのか?」
2人は顔を見合わせ頷き、そしてほぼ同時に、何もない平原に向かってスキルを発動させた。
「エレメント・ファイア!」モリトの剣先から青い炎が噴き出し、一直線上が焼け跡とかす。
「ブリザード!」ユーリが持つ魔法の杖から吹雪は発生し、辺りが氷漬けになった。
「・・・・スキルは使えそうね」
ユーリはコマンドを開いて確かめたが、コマンドにも異変が起こっていた。スキルや他の情報は残ってはいるものの、終了コマンドだけが無くなっている。つまり、この世界から永遠に出られないという事だ。
ある程度の事を把握したユーリはモリトの方を見ながら
「へぇ~、モリトってリアルではそう言う顔してたんだw」
ニヤニヤとしながらモリトに話しかけた。身長178㎝で細身。容姿は中々のイケメンである。
「なんだよ。あんまりジロジロ見んなよ。恥ずかしいだろ」
「だって意外だったんだもんwこういうゲームするくらいだからオタクっぽいかな?って思ってたからw」
「そういうユーリだって意外だったな。年上かと思ってたし」
「ちょっと、それどういう意味よ!wこれでも一応21でモリトよりは年上よ」
「えっ!?・・・・・マジですか・・・、てっきり中学生かと・・・・」少し照れながらモリトは言った。
ユーリは超童顔であった。病気の進行を遅めるために使った薬の副作用で、体中の細胞の成長が著しく遅く、15歳前後という風貌である。
実年齢よりかなり若く見られ、端から見れば兄と妹という感じだろう。間違っても姉と弟とか、恋人同士には見えない。
それに、ずっと寝たきりだったせいもあるだろう。物凄く線が細く、清楚で儚い感じの美少女であり、身長もそれほど高くはなく、153㎝程度だ。強く抱きしめれば折れてしまいそうなほど細く、守ってやらなくてはという感情にかられる様な外見だった。
ユーリは自分の手をニギニギと、閉じたり開いたりしながら、足で大地の感覚を感じ取るかのように一歩、また一歩と歩きだした。
「・・・・私…、自分の足で立ってる…。ちゃんと歩ける。
見て!モリト!!
私ちゃんと立って歩いてるわよね?!」
そう大声で叫ぶように言うと、大粒の涙が頬を濡らした。
筋力が衰え寝たきりになって8年。久し振りの地面の感覚と手の感覚。嬉しさのあまり涙が止まらない。
そんなユーリを見たモリトは、どうしていいのか分からず、側に近寄りそっと抱きしめながら頭を撫でた。
「うん…。ちゃんと立ててるよ。ちゃんと歩いてる」
ユーリの頭をポンポンと軽く叩くようにしながら、「涙は拭いても良いけど、鼻水はかんべんなw」そう軽口をたたいたのだった。
こう言う場面に慣れていなかったモリトは、この場合喜びの言葉を掛けるべきなのか、それとも慰めの言葉なのか、どう接したらいいのか分からず、とりあえずユーリの気持ちをリラックスさせようと言う思いからの言葉だったのだ。
「鼻水も一緒に拭いてやるううぅぅ」
そう言いながら顔を上げたユーリは、満面の笑顔で答えたのであった。
「さてと・・・。これからどうする?モリト」
「とりあえず町に行ってみないか?」
「そうね。今この世界で何が起こってるのか、確かめないといけないものね」
2人は町に戻り情報を集める事にしたのであった。
1話 完
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。
次回作は 《 新たなる冒険への旅立ち 》 です。
2人は、ある場所を目指し旅をする事にします。
しかし、これから冒険者として生きていくためには、この世界での仕様が少し変わっていました。
その事に戸惑いを覚えながらも、途中で立ち寄った村で何やら騒動が起こっている事に気が付きました。
元来好奇心が旺盛な2人は、自分達の素性を隠しながら、村人たちの手助けをする事にします。
◆ 新たなる冒険への旅立ち ◆
町に戻るとあちこちで見た事のある顔を見かけた。この世界がゲームだった頃に居たモブ達だ。モブは以前と変わらず店を切り盛りしている。
「モブは変わってないのね」
「でもさ、モブ以外の人って元は冒険者だった人達だろ?何であんなに落ち着いていられるんだ?」
「そうよね。普通はさっきの私達みたいに驚くわよね?なんか変じゃない?」
ユーリがそう指摘したように、普通ならパニックになっていてもおかしくないはずなのに、至って平常心の様に見える。モリトは思い切って話しかけてみる事にした。
「あの、変な事を聞くようですけど、最近何か変わった事はありませんでしたか?」
「変わった事?さぁ…。お前なんか知ってるか?」冒険者は近くに居た知り合いの冒険者に聞いた。
「変わった事ね…」少し考えた後に「そう言えば、最近魔物が増えたとは聞いたが、それの事か?」
「魔物が増えた?・・・・それは一体どういう事ですか?」
「そこまで詳しくは知らねぇよ。そういう噂があるってだけだ」
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