ショコラ 2015-10-06 16:09:50 |
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初夏。満月に照らされた窓辺に、1人の少年と銀色で毛足の長い猫が並んで夜空に浮かぶ月を見つめていた。
「いよいよ明日か…。」
少年はワクワクした顔つきでポツリと呟く。
少年の名は、ベルセルク・ブライト。(通称ベル)茶色い髪、薄茶色の瞳。身長178㎝、16歳の少年だ。
そして、ベルの隣でフサフサの長い尻尾をパタパタと振っているのがシルバニア(通称シルバー)。
シルバーは銀色の毛並に紫暗色の瞳を持つベルの親友ともいえる猫。一見普通の猫に見えるが、実はこのシルバーは妖魔である。
この国では16歳になると成人と認められ、仕事に付かなければならない。仕事の種類にも色々あるが、【商人】【農夫】【鍛冶屋】【役人】【兵士】【冒険者】などだ。
どの職業に就くかは個人の自由だが、好奇心旺盛なこの年頃の子供は殆どと言っていいほど初めは冒険者を選ぶ。
【冒険者】とは、色んな国を旅をし、そこで暴れている【モンスター】を討伐するのが主な仕事だ。当然初めは半人前以下の冒険者だが、経験を積むごとに冒険者のランクも上がって来る。モンスターを倒せば自動的に報奨金が入り、運が良ければドロップ品も手に入る。
しかしこの仕事は、常に死と背中合わせにある危険な仕事でもあった。その冒険者にベルは志願したのだった。
長い尻尾を振り振りしながらシルバーは言った。
「確か明日は商業鉄道でビリセントまで行くのよね」
「うん。商業鉄道はモンスターが出ないし襲わないからね」
「まぁ、ここら辺のモンスターならベルでも倒せるだろうから心配はしてないけど、当分は私の事は秘密にしておいた方が良いわね」
「分かってるよ…。俺みたいな駆け出しの冒険者が妖魔使いなんて知られたらダメなんだろ?」
ベルはシルバーの方へ顔を向け苦笑いをした。
妖魔使いとは、一定の高ランクに達すると妖魔使いのクエストが発生する。その試験に合格した者だけが妖魔使いとなれる難しい試験でもある。
まだ冒険者でもないベルが妖魔を従えていると言う事は、異例中の異例でもあり、その力を悪用しようとたくらむ輩も出てくる。そんな面倒くさい事に巻き込まれるのはごめんだとシルバーは思い、自分はただの猫と言う事にする事にした。
妖魔にもランクがあり、下級妖魔は瞳が黄色で、ランクが上がるにつれて黄色・オレンジ・緑・ブルー・赤・紫・紫暗となる。
黄色の瞳は魔力も弱いモンスターが一般的で、オレンジの瞳になるとそこそこ魔力が使えるエリアボスとなる。
だがこれは下級冒険者エリアでの事で、中級エリアでは緑やブルーの瞳のモンスター達が、今まで攻撃魔法しか使えなかった者達が防御魔法や補助系魔法も使ってくるのでかなり苦戦する。こと上級者エリアにおいては、赤い瞳・紫の瞳のモンスター達が変身能力を使い人間に化けて襲ってくる事もある。
だが、赤や紫の瞳になると感情を持ち、悪さをするものばかりではないが、その多くは人間を嫌い殺戮する事に喜びを感じる者達ばかりだ。
ベッドに入り眠りに付こうとしているベルの枕元でシルビーが尋ねた。(以降シルバーではなく「シルビー」)
「ベルはどうして冒険者になろうと思ったの」
「・・・・ん?・・・・内緒・・・さ…」
眠気に勝てず虚ろな思考回路で答えた後、ベルはゆっくりと深い眠りに落ちて行った。
ベルは夢を見た。遠い昔の夢を・・・。
幼い頃、住んでいた村に下級モンスターの大群が襲ってきた。
モンスター討伐には宿屋に泊まっていた数人の冒険者達が出向いたが、冒険者の数より遥かに多いモンスター達に苦戦した。中には大怪我を負い倒れる者も続出し、村人は逃げまどう中殺されていった。
ベルも他の村人同様に安全な場所まで逃げようとしたが、モンスターに見つかり襲い掛かられた。もうダメだと思い瞼を固く閉じ、恐ろしさに身を震わせ地面にしゃがみ込んだ時だった。すぐ側からモンスターの悲鳴が聞こえてきた。
ゆっくりと瞼を開けると、その目の先に映った光景は、銀色の長い髪をなびかせた冒険者の後姿であった。
冒険者が振りおろした剣の先には、先ほどのモンスターがこと切れて転がっている。次々にとモンスターを倒す銀髪の冒険者。先ほどの惨状が嘘のように辺りが静まり返る。
あっという間の出来事であった。
銀髪の冒険者はゆっくりと振り返り、ベルに手を差し伸べた。
「坊や、大丈夫?」
ベルはコクンと頷き冒険者の姿を見ていた。銀の髪、紫暗の瞳、綺麗だ・・・。言葉にならない感情がベルの中に渦巻く。『僕もなりたい。この人のように』と。
誰かの助けになりたい。愛する者を守りたい。誰よりも強く。あの人のように強く。その思いがベルを冒険者へと導いたのであった。
*** 出発の朝 ***
窓から差し込む眩しい朝日を浴びて俺は目を覚ました。
この村で16年育ったが、今日からしばらくこの村を離れて旅に出る。
少し寂しいような感じもするが、それよりワクワクとした気持ちを抑えられない自分もいた。
旅は1人じゃない。シルビーも一緒だ。俺の横でまだ寝ているシルビーを撫でながらぼんやりと考えていた。
「フミャ~ 珍しいわね、ベルがこんなに早起きするなんて」
「だってよシルビー!いよいよ今日なんだぜ!いつまでも寝てられるかってぇの!」
にこやかな笑顔と共にベッドから飛び起きた。
*** 広場にて ***
村の中心にある広場には、きょう出発する少年達が5名集まっていた。
少年達の家族や友達、近所の人達も集まりちょっとしたお祭り騒ぎだ。
大きなリュックを背負う者、身軽な荷物で行く者。各々個人差はあるが、みなこれからの冒険にワクワクとした顔つきで家族との別れをしている。
ほどなくして列車の出発時刻となり、少年達は列車に乗り込んだ。
子供達を見送った大人たちは、誰ともなくポツリと呟いた。
「やはりシルビーはベルに付いて行ったか…」
「あぁ…、シルビーがこの村に来て10年・・・・、やはりそうなんだろうよ」
「シルビーのおかげでこの村も平和だったしな…」
村人たちは知っていたのである。シルビーが妖魔である事を。
そのおかげで下級モンスターも村に現れない事もだ。
*** 東の首都ハーレルン ***
冒険者を志願した者はみな、一度首都に集まる。
そこで冒険者予備学校に通い、狩りの仕方と魔法を習うのだ。
学校に通うのは一年だけで、その間に個人に合った冒険者職業が割り当てられる。
【剣士】【魔術師】【弓】【槍】、もちろん俺が目指すのは剣士だ。
刀を自由自在に操る剣士はカッコいいだろ?俺の憧れさ。
弓も良いとは思うけど、弓使いって後方支援が主だし、やっぱ最前衛で戦う方が数倍カッコいいと俺は思う。
魔術は・・・なんだ‥上手く使いこなせないんだよ!悪いか!・・・・。
使いこなせないだけで使えない訳じゃないんだからな。
言い訳みたいに聞こえるけど使えるし…マジで…。
そんな事は置いといてだな、始めて来たけど首都ってやっぱデカイな。
村と違って店も多いし人も大勢いる。
ここで一年暮らすんだよな…。大丈夫かな俺・・・・。
一応寮もあるって言うし、シルビーもいるから不安は無いぞ。
でも、寮ってペット可なのかな。
「ちょっと!誰がペットなのよ!誰が!!」
いきなりシルビーがベルの方に乗り耳元で言った。
「うわぁ!!急に大声出すなよ…ビックリするじゃないか。なんで分かったんだ?俺、声に出してなかったはずだぞ?」
「ふん。そんなの顔に出てたし脳内思考ダダ漏れよ」
「シルビーにはかなわないな」
そう言ってベルは笑った。
学校の寮は二人一部屋。同室の男子は農村地帯にあるライダから来た「ルーク」と言う名前の大人しそうな子だった。
身長はベルと同じくらいだが体つきは華奢だ。優しい顔つきで物腰も柔らかい。それに言葉も丁寧だった。
「初めまして、僕はルークと言います。ノーザンからやって来ました。君は?」
「俺はベルセルク。ベルで良いよ。そしてこいつは相棒のシルビー。コウザ出身だ。よろしくな」
ベルはシルビーを抱き上げ笑顔で答えた。
聞けばルークは魔術師志望だった。
幼い頃高熱を出したのちに魔力が宿ったと言う。
主に治癒回復の魔法しか使った事はないが、訓練次第では他の魔法も使えるようになる。
ルークのように何かしらのきっかけで魔法が使えるようになる人もいれば、ベルのように知らぬ間に使ってる人もいる。
そう、それが魔法だと知らないまま、ベルは剣の技に魔法を乗せてシルビーに特訓を受けていた。
猫のシルビーが剣の手ほどき?と思う者もいるだろう。
シルビーが剣術を教える時は、人里離れた山の中で行っていた。
誰も居ない山中では野生のモンスターも多く出る。
そういう時シルビーは元の姿に戻り人間化する。
しかし昔一度姿を見られているので、髪の色を漆黒にしていた。
その為、ベルのあいまいな記憶から、昔自分を助けてくれた冒険者とシルビーが別人だと認識していたのである。
この予備学校に通う新米冒険者のレベルが1なら、ベルのレベルは既に60近い。
しかし冒険者登録を行なったばかりなので、実力とは裏腹にレベル1である。
これから学ばなければならない事も沢山あり、実力的には高レベルでも学力的にはまだまだ低い。
そんなベルの冒険が今始まった。
冒険者予備学校に入学して半年たった。
この学校は志望の職業別にクラスがあるんだけど、やっぱり剣士を目指すやつは多いな。
剣士の次に人気なのは魔術師というか魔法使い?
弓と槍はほとんど生徒がいない状態だな。
で、この半年で適正みたいなものを見られてさ、入学から半年後に適正職業に割り振られるんだそうだ。
その試験が今日あるんだぜ!
まぁ、俺は剣士になれると思うけど、他の奴らの何人かは違うクラスに行くだろうな。
午前中の試験は筆記試験か・・・俺、頭を使うやつは苦手なんだよな…。
魔法術の勉強が大事だってのは分かるけど、どうも俺には性に合わないみたいでさ、先生の声が子守唄みたいに聞こえて、ついつい居眠りしちまって怒られるんだよな。まっ、半分合ってれば問題ないだろ。
ベルは問題用紙に知っている所だけ書き込み、後は適当に鉛筆を転がしながら書いていった。
知っている所と言ってもそう多くは無いので、鉛筆で頭や眉間を突っつきながらの思い出し解答だ。
こう言う時にシルビーが居てくれれば全問正解間違いなしなのに、と思いながらの試験だった。
当然と言えば当然なのだが、ペットが教室内に入って来れるわけもなく、この時ばかりは授業中に居眠りしていた自分をぶん殴りたくなったベルだった。
試験終了の鐘がなり、ベルは大きな伸びを1つし、普段あまり使わない頭をフル活用したので少しクラクラとした。
「・・・やっと終わった・・・。もうダメだ。なんも考えたくねぇ・・・」
そうブツブツと独り言のように言いながら教室を後にした。他の生徒たちの反応も様々で、合格を確信して意気揚々と教室を出て行く者もいれば、どっぷり落ち込みながら出て行く者、見るからに明暗がきっぱりと別れている所が笑える。
仲間同士「どうだった?」「ギリギリかな…」「俺も危ないかも‥」と、お決まりの相手をけん制するかの様な受け答えがそこかしこから聞こえる。『ギリギリとかダメかもとか言いながら本当は受かる自信があんじゃねぇの?』と、ベルは言葉には出さなかったが内心は羨ましい。『ああああああああ‥‥俺だって授業中居眠りさえしてなかったらこんな問題屁でもないのに!』と思っていた。自業自得である。
午後。試験の結果は直ぐに出た。
既定の点数に満たない者は不合格となり、その場で退学となり学校を去らなければいけない。
残った者だけが午後からの試験を受けられる。
「今から名前を呼ばれた者は前へ。エクソドニア・コレット・グリム・・・・」
何名かの名前が呼ばれた後、ベルの名前も呼ばれた。
「ベルセルク・キラー・リラ・・・以上の者を合格とする。名前を呼ばれなかった者は荷物をまとめて退去するように」
筆記試験での合格者は3/4程度の人数だ。実技試験では更に人数が減るだろう。
半分に減ったとしても300人は残る。
この300人は今年モンスターとの戦いで命を落とした人数を補うには丁度良い人数だった。
*** 実技試験会場 ***
いつも実技訓練を行っている中庭に、特別に設置されている異次元空間で行われる。
この空間内ではどんなに大怪我を負ったとしても、異次元空間から出れば無傷の状態に戻る。
もしこの異次元空間で死亡したとすれば、その躰は光の粒子となり消え、元の世界に強制的に戻されると言う仕組みだ。それに、空間内に現れたモンスター達はそこから出られない。万が一外に出てしまってもその存在は一瞬で消滅してしまう。
試験に挑むにはスリーマンセルが必須。三人一組でなければ受けられない。
生徒達は各々にチームを組み始めた。
攻撃重視の【剣士・剣士・弓】のチームや回復も考えた【槍・弓・魔法使い】など様々だ。
元より剣士の人数が多く、弓使いや魔法使いは数が少ない。どのチームも魔法使いが1人は欲しいところだろう。
要領のいい人は普段から各職種の人達と仲良くし、半年後に行われると言う試験の為に備えていた。しかしベルは何も考えていなかったので、同じクラスの顔見知り同士でチームを組む事になった。
なので、剣士が3名と言うイチかバチかの挑戦だった。
「チッ‥魔法使い居ねぇのかよ」そう言ったのはクラスで一番力持ちで俺様なロックだった。ロックは自分の剣さばきに自信があり、何かにつけては人を見下す癖がある。その為、クラスのみんなもロックの事は遠巻きに見ているだけだった。自分の失敗は「わりぃ わりぃ」で終わらすくせに、他人の失敗は些細な事でも暴言を吐き罵る。その性格にみんなついていけないのだった。
「あの…僕、少しだけなら回復魔法使えますが・・・・」もう一人のチームメイトのクラドが小さな声で囁く様に言った。
クラドは背が低く華奢な体格だ。クラドの様な者がなぜ剣士志望なのか分からないほど頼りなげで、容姿も中性的な顔をしている。スカートを履かせたら女の子に見えるほど性別不可だ。
「クラド、お前は戦闘の邪魔だ。後ろで回復だけしてろ」
「おい!ロック!それは無いんじゃないのか?クラドだって十分戦える」
「甘いな、ベルは」
「えっと・・・僕はお二人の邪魔にならない様に戦うので‥ごめんなさい」
「クラドが謝る事じゃないだろ!?ロック、お前も言い過ぎだぞ!」
「はぁ?!本当の事を言っただけだろうが」
言い合いをしている間にベルたちの順番がきた。
「次!ロック・ベルセルク・クラド、中に入りなさい」
「「「 はい! 」」」
三人は少し緊張したおもむきで前へと進み結界の中に入って行った。
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