ショコラ 2015-10-06 16:09:50 |
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*** 訓練用モンスター監視塔 ***
― ビィーッ ビィーッ ビィーッ ―
監視塔のコンピュータールームの中で、モンスターを調整する制御パネルの画面上が赤く点滅している。コンピューターの画面には【ERROR】の文字。それもすべての機械に表示されている。けたたましい警戒音。赤く点滅する画面。何かが起こっているのは間違いない。
職員達も急に起こった異変に大慌てで、原因が何なのかさえ分からない今は、なす術もなかった。
「これは一体どうしたって言うんだ!原因を早く調べろ!」
「は、はい!」
いくら調べても故障の原因は見つからなかったが、1つだけ、今出てるモンスターを表示するパネルだけが元に戻った。
それを確認した職員達は固唾を飲み冷汗をかく事となる。
今は前期の試験中だ。異次元訓練場内に生徒達が取り残されている。というか、その異次元空間さえもがコンピューターの故障で3次元である元の世界と繋がってしまっていた。
異次元空間であれば、どんなに暴れ物を壊したとしても、我々が住んでいる3次元に影響はないが、その防壁が無くなった今となっては、その被害は甚大なものになるだろう。何せ今出現しているモンスターはドラゴンなのだから…。
ドラゴンを倒すには、上級者の冒険者が3人以上でなければ倒せない。
この学校に6か所あった異次元訓練場に応援を呼んだとしても、最低18人は必要になる。無理だった。
たとえ来てくれたとしても、時間がかかるだろう。
それまで何とか持ちこたえなければならない。
これは訓練ではない。
したがって、怪我をすれば現実の痛みにもなり、万が一死亡などしてしまうと生き返る事などできないのだ。
教官たちが先陣を切って対戦していたが、力が及ばず次々にと倒れていった。
部屋でのんびり昼寝をしていたシルビーの耳にも、この騒ぎの音が耳に入り、何が起こったのかと窓から外を覗いてみると、学校を囲むようにドラゴンがその姿を現している。
「なぜここにドラゴンが・・・・」
ふと脳裏を過ぎったのはベルセルクの事だった。
今は試験中でドラゴンが居る場所に居るはずだと。
いくらベルが強いと言っても、ドラゴン相手に1人では倒せないのはシルビーも知っていた。
慌てたシルビーは変化を解き元の姿に戻った。
が・・・、髪の色を変え忘れていた。
ベルの姿を確認したシルビーは側に駆け寄り「ベル!怪我はない!?」と言ったが、当のベルはキョトンとした顔でシルビーを見ていた。そして、「あっ…貴女は・・・!!」
その発言でシルビーは気が付いた。『……髪の色…、忘れた…」と。
髪の色とか正体とか、今はそんな事を言ってる場合ではない。
なかば強引に「そんな事はどうでもいいのよ!ここに居るドラゴン全部倒すわよ!」そう言い切った。
「えっ?ちょっ、待ってください!無理ですよ!」
「無理でも何でもやるのよ!!男でしょ!?」
この場合、男とか女とかは関係ないと思うが・・・・。
明らかに実力の違うモンスター相手に戦えと?死・ねと言ってるのかこの人は…。
ベルは心の中でそう思っていたのだった。
呆気に取られているベルを尻目に、シルビーは呪文を唱えた。
― 天と地の精霊王 光と闇の精霊王よ 我が元へ集い その力を見せよ! ―
天の精霊王は天から現れ、地の精霊王は地から。
光の精霊王は眩い光と共に姿を現し、闇の精霊王が現れる時は、辺り一面が漆黒の闇に一瞬包まれたかと思った瞬間、その闇がはれた時にはそこに居た。
「この学園内に居るドラゴンを退治する。お前達は結界を張り動きを止めよ」
「承知しました、シルバニア様」
精霊王たちが答えると、頭上高く巨大な魔法陣が幾層にもなって現れ、6か所に居るドラゴン達を檻にでも入れたかのように囲い込み、漆黒の帯がその躰に巻き付く。
その姿は、獣が檻に入れられ縄で縛られているようだ。
ドラゴンは身動きが出来ないでいた。
しかし、唯一動かせる尾を上下左右に激しく振り、誰も近づかせないようにしていた。
「ドラゴンの動きは止めたは。これなら何とかできるでしょ?皆で力を合わせて倒しなさい。私は他の場所を見てくるから」
そう言ってその場を去ろうとした時、シルビーは後ろを振り返りベルに言った。
「そうそう。言い忘れてたけどその魔法、10分しかもたないから。10分以内に倒すのよ。いいわね」
そう言い終わるか終わらないかのうちにシルビーの姿は消えてしまい、文句を言いたくても言えなかった。
『やるしかないのかよ!?』半ば諦め気味のベルであったのだ。
「みんな!あの人が言ってだろ!? 先生たちが居ない今、俺達でどうにかしなきゃいけないんだ。
10分はドラゴンが動かないって言ってたから、俺達だけでもなんとか出来るかもしれないぜ?!
手を貸してくれるやつはこっちに来てくれ!」
先ほど、教官たちが赤子の手を捻られるように倒されていった光景を見ていた生徒たちは、怖さでドラゴンには近づけないでいた。
「時間が無いんだ!早く!!」
ベルの掛け声で何人かの勇士が前に進み出てきて「俺達も闘う」「私もやるわ」と、総勢15名の生徒達が名乗りを上げた。
他の生徒は怖気づいて震えている。
「よし!弓隊は後方支援で後ろに回ってくれ。狙いはドラゴンの目だ!首から上を集中的に頼む!」
「任せとけ!」
「魔術師は補助系呪文を頼む。素早さと防御はMAXで頼む。あと、回復もこまめにやってくれ!」
「それなら僕たちの得意分野だ。任せといてよ」
「槍と剣士。一ヵ所を集中攻撃するぞ。ドラゴンの皮は厚いからバラバラに攻撃してちゃだめだ!
一ヵ所集中!穴が開いたらそこに一斉にスキルを叩き込む!いいな!
時間が無いから3班に別れて行くぞ!」
「おう!!」
ベルは時間内にドラゴンを倒せなかった時の事を考えて、目を潰しておけば動きが鈍くなり、応援が来るまでの間の被害を最小限にとどめようと考えていた。
ベルたちの狙いは足。
足を一本でも切り落とせればドラゴンの動きも確実に悪くなる。
バランスを崩して倒れたところを一斉に呪文を放てばなんとかなるかも知れないと考えていたのだった。
足を狙っての接近戦。
ドラゴンに近付けば容赦なく尾の餌食になってしまう。
1人、また一人とドラゴンの尾に弾き飛ばされ怪我を負うものが出始めた。
即座に待機していた魔術師が回復魔法とヒーリングをかけて、復活した戦士たちは再びドラゴンへと向かう。
様々な訓練はこれまでしてきたが、実戦はこれが初めてだ。
初めての割には中々連携が取れていた。
弓使い達も通常攻撃に加え、覚えたてのスキルを使い何本かの矢がドラゴンの目に命中している。
先ほどまでドラゴンに傷を負わせても、自己回復能力のせいで傷口が直ぐに塞がってしまっていたが、闇の精霊王の力で自己回復をする事ができなくなっているようであった。
これならいける!と、思った時だった。
シルビーがかけた魔法の効果が時間切れになった。
下の層の魔法陣が消えて行き、最後に一つだけ大きな魔法陣だけが残り、その魔法陣もだんだんと小さくなっていく。
「くっそ…時間切れか!」
誰もがそう思い絶望を感じた時、小さくなっていく魔法陣に反応するかのように、ドラゴンを囲んでいた光の檻が、大地から天へと向かって伸びていった。
その光は中に入っているドラゴンを圧縮するように狭まり、最後には一本の細い光となって天へと消えていったのである。
光が消えた後には、そこには既にドラゴンの姿は無く、ドラゴンが居たであろうと思われる場所に無数のオーブが漂っていた。
このオーブが魔物を形とっていたのだろう。
気が付けば先ほどまでの騒がしさは聞こえなくなり、辺りは静けさに包まれかえっている。
「・・・・・終わった…のか?」
その場に居た生徒達に、やっと安堵の表情が現れた。
ドラゴンを退けた喜びは勿論あるが、シルビーが来る前にドラゴンの餌食になってしまった仲間たちの事を思うと、喜んでばかりはいられず悲しみが込み上げてきた。
それぞれが友や教官の側へ行き、その悲しみに泣き崩れた。
すると再び空に大きな魔法陣が浮かび上がり、魔法陣からは光のシャワーが降り注いできたのである。
その光が体に当たり吸収されると、怪我を負っていた者達は全回復をし、死んだ者達も息を吹き返したのである。
その不思議な光景に視線を空に向けてみると、そこには天の精霊王の姿があった。
死んだ者をも生き返らせる事ができる力を持っているのは天の精霊王だけだ。
だが、その強大な力ゆえに、いまだかつて人間に、使役できる者は居ない。
それを目の前でやってのけたのがシルビーだったと言う訳だ。
あまりにも現実離れをしたこの状況に、初めから一部始終を見ていた者達は思考が追い付いてこない。
一体何が起こったのか分からなくなってきた。
死んだと思って居た人達は、いま目の前で元気に居る。
自分達は目を開けて夢でも見ていたのか?と錯覚してしまう者もいた。
しかし現実は、人間は生き返っても壊された建物はそのままに残っており、凄まじい戦闘の爪痕が禍々しく感じられている。
この事態の一部始終を見て居た人間は生徒だけではなかった。
管理等の防犯カメラにより、その光景も記録として一部始終残されていたのである。
数か所のカメラに映っていた人物。
ほぼ同時刻に映り込む人物はみな同じ人物だ。
人間業ではできない様な瞬時の移動。
四大精霊王の召還。
そのどれもが目を疑う映像ばかりであった。
後日、管理制御等のコンピューターが直り、再試験を行われたが、前回の試験で合格していた者とドラゴン退治に参加した者だけが無条件で合格となった。
冒険者に必要な【心の強さ】【諦めない心】【仲間を思いやる心】この【三心の心】に相応しい人物だと判断されたからである。
ただ一つだけ疑問が残った。
カメラに映っていた人物。あれはいったい誰だったのだろうか。と言う事である。
生徒達に聞いてみても、みな「知らない」と言うばかりで手掛かりがつかめなかった。
しかし、その記憶は次第に人々の脳裏から薄れ、今ではその事を気にする者は誰も居ない。
これもシルビーがかけた魔法の一種なのだろうか。
そう思っていたベルであった。
なぜなら、ベルだけがその記憶が鮮明に残っているからだ。
その後、生徒達にはいつも通りの生活が戻り、卒業までの数カ月を切磋琢磨し精を出していた。
あと数ヶ月で夢と希望に満ち溢れた冒険者となるべく、これからも頑張っていく事であろう。
*** 余談 ***
「なぁ、シルビー」
「うん?」
「あの時助けてくれたのってさ・・・・本当はシルビーだろ」
「し…知らないわよ!」(;゚Д゚)
「俺さ…前にもシルビーに会ってるよな?10年前にもさ…」
「さぁ~、な…何の事かしら?」(-。-;)
「ありがと。シルビー」
『バレてたのか・・・・』|||(-_-;)||||||
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