彩美 2015-09-26 12:21:27 |
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リリィ「私達、帰ってきたのね…」
目の前に、今も当時と変わらない景色が広がっていた。
ーそれは、離ればなれになってしまった恋人が住んでいる街だった。
リリィ「かれこれ、何年ぶりかしらねー」
誰に話しかけるでもなく呟くと、足元で反応があった。
使い魔のアッシュだ。
アッシュ「さぁ?でも久々なのは確かだな」
リリィ「あの人、私達のこと忘れてないといいけど」
くすりと笑って、再び歩き出す。
そしてー、懐かしい地へと一歩踏み出したー。
リリィ「どこもかしこも、変わってないわねー」
アッシュ「まぁな」
リリィ「何よ、気の無い返事ね」
アッシュ「今のお前、猫に話しかけてる変なヤツだからな」
リリィ「う…」
辺りをきょろきょろと見渡す。
…街の人は、誰も気にとめてないようでよかった。
リリィ「…」
この街は小さな街だけれども、それでも、たくさんの人が行き交う。
私も、この街で大切な人に出会ったー。
リリィ「…行こっか」
小さくそう言うと、ちりんと足元で鈴の音がした。
ー私たちがそこへ辿り着くと、早速、鐘の音で迎えられた。なんてことは無い、定時の鐘の音だ。
だけど、それすらも、ひどく愛おしく感じられる…。
ここはー、私の恋人が住んでる場所。
彼は、この教会の牧師だった。
多分、今もきっと。
リリィ「今の時間だと…、まだ、礼拝堂にいるかしら?」
アッシュ「お、おい、勝手に入るなよ…!」
リリィ「いいじゃない、教会なんだから」
男の声「ー本日の礼拝は、終わりましたよ?」
背後から聞こえたその声に、胸が高鳴った。
私は振り返りー、そしてー。
リリィ「ただいまっ!」
ーそのまま抱きついた。
リリィ「…」
…あれ?
おかしい、何も反応が無い。
私はゆっくり顔を上げるー。
男「…」
リリィ「…」
思わずきょとんとする。
確かに似ているけれど、私の記憶にある‘‘彼’’とは違う…?
リリィ「ごっごめんなさい!人違いでした!」
男「…いえ、別に」
リリィ「えっと…、あの、あなたはここで働いている人ですよね?」
男「そうですが、何かご用ですか?」
リリィ「私、ここの牧師さんにお会いしたいのですが…」
男「牧師は私ですが?」
リリィ「はぁ?」
男「…」
リリィ「ああ、いやいや!もしかして、牧師さんが複数いるとか?」
男「そんな訳ないでしょう」
リリィ「そしたら、つい最近牧師さんが変わったとか…?」
男「ここ6年は、私が務めています」
リリィ「…だったら、あなたの前の牧師さんは?」
男「ブライアン牧師なら、ご隠居されましたが?」
リリィ「…」
ブライアン?
そんな名前じゃなかったはずだ。
だったら、一体…?
男「ーそれで、どういったご用で?」
リリィ「わ、私、逢いたい人がいるんです、この教会の牧師をやっていた人で…」
男「名前は?」
リリィ「…」
男「覚えていらっしゃらないんですか?」
リリィ「…その、ーでもっ…」
リリィ「…」
リリィ「…あなたに似てるんです、とても」
男「なら、私なんでしょう」
リリィ「でも…!私、その人と恋人だったんですよ!?」
私がそんなことを言うと、その牧師はきょとんとした。
リリィ「私、彼に逢いたいんです。ここには、彼に逢うために来たんですから。」
男「…」
男「失礼ですが…、あなたのおっしゃっていることは、どうもおかしい」
男「私は、あなたに見覚えがない。私と顔が似ているということは、先代のブライアン牧師も違うでしょう」
男「ブライアン牧師は50年も牧師を務めてきましたし、ーあなたの年齢を考えて、それ以前の牧師は考えられません」
男「ーあなたの勘違いではないでしょうか?」
リリィ「ちっ違うわよ!私は、確かにここでー!」
彼と出会った。
その記憶は、確かなんだからー!
男「…」
男「…はぁ」
リリィ「な、なによ…」
男「悪いが、お前には付き合ってられないな」
リリィ「なっ…!」
リリィ「ちょっと!あなた、それでも牧師なの!?」
男「建前上は、な」
リリィ「なによ、それ!ま、待ちなさいよ!」
去っていこうとするその姿を、むんずと捕まえる。
男「…」
男「離せ」
リリィ「わ、私、あなただけが頼りなのよ!あの人に逢いたいの!」
男「お前ー」
少女の声「あーっ!だめなんだよ、パパ!」
ふと可愛らしい声が聞こえて、思わずそちらに目を向ける。
そこにはー、小さな少女が立っていた。
少女「パパ!‘‘こまってる人には、てをさしのべなきゃ’’だよ?」
男「コゼット…、そうは言ってもな…」
コゼット「めっ!」
あ、子供に叱られてる。
ーって、ん?この子、‘‘パパ’’って言ってた?
リリィ「…この子、あなたの娘さん?」
男「…」
返事の代わりに、ため息が返ってきた。
つまりはそういうことなのだろう。
コゼット「おねぇちゃん、はじめまして!わたし、コゼットっていいます!」
リリィ「あ…、えっと、私はリリィよ」
コゼット「ほら、パパもじこしょうかいしたの?」
男「…」
エリオット「…エリオットだ」
コゼット「んもう、それだけ?パパごきげんななめ?」
エリオット「誰かさんのせいでな」
リリィ「どうして、そこで私を見るのよ…」
まぁ、私が悪いのだろうけど。
ーでも、私にも譲れないものがあるのだ。
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