karasu=925 2015-08-09 22:05:44 |
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春。出会いの春。
他の人間にとって終わりでもあり、始まりでもある春。
自分にとっては、なんの意味も無い春。
自分には季節など関係ない。周りが何をしてようとも、関係ない。ただ、何の問題も起こさず、親の言うとりに生きるだけだ。
「ーたすけて!」
そんな俺が一人の少女に出会った。
そうーこれが全ての始まりだったー
「ー助けて!」
歩いて行った先で少女が数人の男か女か分からない人間に襲われていたら、普通の人間は驚くだろう。だが、俺は動じない。無駄な事はしない。どんな状況であろうと、何と言われようと、俺は動じない。ただただ、平凡に今を暮らす。これまでも、これからも。それが俺の人生であり、俺の役目だ。
「お願い!助けて!」
何と言われようと、俺はどうじない。少女とその周りの人間達を無視して、目的地に歩き続ける。
『たすけてあげてね』
刹那、ゾクッという悪寒とともに、頭に声が響く。そして、少女が襲われている様子に似た、記憶の中にあった映像が頭の中にうつしだされる。
「(思いだすなッ思い出すなッ思い出すなッ!!)」
その場に立ち止まり頭を抑え、必死にその映像と声をかきけそうとする。自分にとってこんな記憶は必要ないのだ。
『そらクンは優しいから…』
余分なものをかきけしたはずの頭に、とぎれとぎれの声が響く。その声に怯え、頭を抑えながら地面に膝をつく。
『また…僕みたいな人に頼られると思う…だから…その時は…』
「(やめろッ!もう…やめてくれ…)」
『たすけてあげてね』
「あ…ああ…」
力が抜け、地面にペタリとその場に座りこむ。
「助けて!お願い!」
自分のすぐ隣で聞こえた声は、放心状態だった自分にとってはずいぶん遠くからの声に聞こえた。しかし、その声は、自分を現実に引き戻すのには充分だった。
「くっ…畜生…助ければ…」
地面に手をつき、フラフラしながら立ち上がりながらそう呟く。
「助ければいいんだろぉッ!!」
少女を襲っている人間に向かって全力の拳を繰り出す。こんな事をしたら、いけないと分かっていた。こんな事をしたところで何も変わらないと分かっていた。ただ、頭の中にこんな言葉を並べおわる前に、体が動いていた。
「チッ!」
「ぐほぉっ!」
繰り出した拳が届く前に相手の振り向きざまの拳をくらい、空気の塊をはきだして後ろに軽く吹っ飛ぶ。
「くっそおぉぉぉ!」
体制をたてなおし、拳を強く握る、が。
「えっ!?」
「何!?」
0コンマ1秒前、拳を握ったその瞬間、地震が起きる。ゆっくりだがかなり揺れは大きい。
「クッ!」
「危ねぇ!!」
「キャアアアアアアアア!」
少女の近くの桜の大木が倒れる。周囲の人間はその場から飛び退いたが、少女は尻餅をついていて、大木をよけれそうにないため、とっさに少女の上に覆い被さるように四つん這いになる。
「くそっ!」
大木が倒れてくる。全力で横に転がればかわせるだろうが、それでは少女が危ない。少女を抱えて大木をよけるほどの時間もないので、そのまま四つん這いで大木を受けることにする。
「がはっ!」
倒れてきた大木を予想以上に重く、意識が薄くなって行く_
一体俺は何をしていたのだろうか。今日は確か_4月7日くらいだった気がする。新しい学校に行こうとして、それで_
「っつうかここどこだよ!」
何か揺れている感覚がしたので目を開けた。そして全てを思いだし、今自分の置かれている状況を理解する。
「やっと起きた…」
ちょこんと座っている少女に話しかけられる。
しかし敵はよっぽど脱出されない自信があるのか、何の拘束も見張りも無しに俺達を放置している。そしてこの揺れから察するに、トラックの荷台あたりであろう。部屋の上には今にも落ちそうな裸電球がユラユラと揺れている。先程少女を襲っていた人間全員はこの車に乗れないだろうから、二人がこのトラックに乗り、残りは別の乗用車などに乗っているのであろう。つまり、このトラックにいるのは俺達と油断している敵二人ということになる。なんとか荷台さえ壊せれば逃げられるだろうが、まず無理だろう。この少女が役にたたないかな_なんて事を思いつつ、少女の方を見る。
「そういや、捕まっちまったのに、なんでそんなに落ち着いてるんだ?」
「二人だから…怖くないの!」
「そうか。」
少女の様子を見るに怪我は無さそうだ。自分の背中の痛みが消えた訳ではないが。
「で、なんで襲われてたんだ?」
「…」
少女は問いかけに答えず、首を横にふった。
「う~む…」
考えていると、勢いよく壁が開けて光が入ってくる。
「抵抗せず外に出ろ!」
スーツ、それとも少し違う何かの制服みたいなものを着た女が叫ぶ。
「あーはいはい、出ます出ます。」
両手をあげ、降参のポーズをとる。
「う…」
少女は目をうるませて震えだす。その様子はまるで捨てられた子犬の様だった。
「大丈夫だ。俺がいる。」
外を向いたまま、小さく少女にそう言う。
「…うん。」
少女は震える手をつき立ち上がり、俺の後ろにくっつき、手を握ってきた。
「早くしろ!」
少女の小さな手を握ったまま、ゆっくりと地面を踏みしめて外に出る。
「うわぁ…」
外の景色に言葉を失う。目の前にはいかにも未来らしい感じのするビルや建物がいくつも建ちならでいた。
「ほう…君が例の特殊個体(スペシャル)か。そしてそっちのお前は…地震発生(クエイクスキル)系の能力、それもかなりの能力等級(スキルレベル)と聞いたが…本当か?」
「え…ええと…え?」
突然の意味のわからない質問に、焦っているとき急に地面が揺れる。大きく、ゆっくりと。その揺れはさっきの地震ととても似ているように感じた。
「分かった分かった。もうやめてよろしい。」
「えええっ!?」
「きゃあっ!」
女がそう言った瞬間、急に地震が止まる。地面の揺れに揺さぶられていた体が、地面が止まる事でバランスがとれなくなり地面に倒れこむ。
「まだ能力を制御できていないようだな。能力のことも知らなかったように見える。このタイプの能力者は珍しいからウスエ様も喜ぶだろう。」
「何言って…」
「独り言だ。行くぞ。そっちの君もだ。」
「うわわわっ!」
「ぼ、僕も…?きゃ!?」
女に腕を引っ張られ、それに合わせて立ち上がる。さっきの揺れのせいだろうか尻餅をついてしまっていた少女に手を伸ばし、少女の手をつかむ。
「いいな、とりあえずついて来い。」
「は、はい。」
女が腕を離したので少女の手を離そうとするが、少女の方が強く手を握っていたので、こちらから離すのは何かアレなのでそのまま少女の手を握る。
「さっきから気になってたんですが、ここはどこなんですか?」
「天下世界(アマツシタノセカイ)。それがここの名前だ。日本の地下、国家気密の隠された町だ。地下なのに名前に天(アマツ)ってついてる理由は突っ込まないでくれ、俺がつけた名前じゃねぇからな。」
「誰がなんのために…」
「ここを作ったのな今の首相、ここではウスエ様とよばれる者がつくったんだ。特殊な力を生まれ持つ者、または優れた頭脳や身体能力をもち能力の素質を持つもの、を育成する場所だ。去年から学校かなんかで、血液検査が始まっただろ?あれで能力の素質があるやつはここに勧誘されるんだ。」
「でも、そんな勧誘来ませんでしたけど…」
「たまにバグがあるんだ。これはまた修正が必要だな…まぁお前みたいに能力に気付かなかったりして入学してない奴もいるようだがな。」
「そうなんですか…卒業した人はどうなるんですか?」
「知らんな。ここもまだ作られて2年目だしよ。」
「…あと、能力というのは?」
「多いのは読心能力(サイコメトラー)
とかだな。あと他にメジャーなのは精神干渉(テレパシー)や発火能力(パイロキネシス)などだ。」
「はぁ…この子は?」
「妖精(フェアリー)だ。それぞれ特殊な力を持っている。まぁ妖精は特殊能力者とは違って多種多様ではないがな。ゲームの属性みたいに、火や水、雷とかがある。一体一体が全て違う、なんてことはねぇ。基本的にはな。」
「基本的には?」
「そうだ。お前にくっついてるそいつもだ。そいつは特殊個体(スペシャル)といって、他の属性とは違う力を持ってるんだ。そいつは«感情»の妖精だ。感情を力に変えるという特殊なものだ。そうそう、いい忘れてたが妖精はこちらの世界には干渉できねぇ。」
「え?でも現にこの子は俺に触れているし、それに、この世界とは?」
「あぁ、そいつはこちらの世界の者じゃねぇ。いや、そうとも言い切れねぇな。そいつはこの世界に迷い混んだ、別世界の妖精女王(ティターニア)っつう妖精を産む力をもつ奴から産まれたんだ。だが、妖精女王は弱ってるから完全な状態の妖精を産みだせねぇから、こちらの世界のクローン技術などを使ってちゃんとした形にしてるんだ。」
「干渉出来ないっていうのは?」
「妖精は特殊な力を持っているが、この世界では直接その力が使えないんだ。例えば火の妖精は、火の力を持っていても、火を出したりはいたりすることはできないんだ。」
「じゃあ意味ないんじゃ…」
「ああ、まだ相棒武器(パートナーウェポン)のことを言ってなかったな。その相棒武器ってのは特殊能力者にしか使えない、特殊能力者専用の武器だ。それぞれ、一人に一つづつ適応品がある。そして、相棒武器と妖精をリンクさせる事で、相棒武器に妖精の力が付加されるんだ。」
「じゃあ俺もその武器を?」
「まぁあとでだけどな。ほら、ついたぞ。」
「これは…」
目の前には見たことのないような、変な形の建物が建っていた。
「行くぞ。」
「どこにですか?」
「さっき言った、ここを作った人でここ一番のお偉いさんのところだ。」
「分かりました。」
「ウスエ様、入ります。」
女が扉の前でそう言うと、扉が小さく光り、シャーと音をたてて開いた。
「おお、青雲か。待っていたよ。」
「はい、お待たせしてしまってすいません。こちらが特殊個体と例の地震発生系能力者です。」
「そうか、とりあえすラボに向かえ。その特殊個体の処遇はそちらに任せる。」
「承知しました。」
玉座の様な大きさの、変な形をした椅子にどっかりと座ったウスエと呼ばれたわりと若い男と、俺の手を持ったままの青雲と呼ばれた女の会話。王と兵隊長みたいな、そんな様子だった。ウスエ、という日本語、英語でもない何かの暗号のような名前に、何かゾクッとする。
「行くぞ。」
「え、あ、はい。」
腕を強く引っ張られ、そのまま建物の外に出る。
「ラボへ行くぞ。」
「ラボ…とは?」
「さっき言った相棒武器(パートナーウェポン)があるところだ。お前のを行くぞからとりにいく。」
「俺の武器はもう決まってるんですか?」
「いいや、まだ決まっちゃいない。お前がラボへ入れば、武器の方がお前を選ぶ。」
「そうなんですか。」
「ほれ、ついたぞ。」
「割りと近いんですね。」
「ウスエ様は先程のラボ近くのコンピュータ制御室に用があったからな。」
「なるほどです。」
「ほいほいほいっと。」
青雲さんが扉の隣にあるキーボードに何かをカタカタと打ち込んでいく。
シャー、と青雲さんが手を止めた瞬間に薄い金属でできた宇宙アニメの戦艦ないの扉が開く。先程打ち込んでいたのは、おそらくパスワードか何かだろう。
「さ、行くぜ。」
「あ、はい。」
腕を引っ張られそのまま建物の中に入る。内部は先程の扉と同じでアニメなどで見る研究所みたいな鉄でできた壁で、一瞬見とれてしまう。
と、そんなボーっとしてた自分を起こす用に腕が引っ張られ、奥に進んでいく。進んでいる方向を見ると、そこには画面とキーボード、そして薄く青白く光るパネルのついた大きな機械があった。
「じゃ、武器を選ぶぜ。」
「え、でも、どうすればいいんですか?武器なんてないし…」
「この機械の奥にあるさ。さ、この機械のパネルに触れな。」
「わ、分かりました。」
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