アリス 2015-08-04 11:17:13 |
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【肝試し】
八木「カスミ、肝試ししようぜ!」
カスミ「・・・え、今から?」
八木「おう!」
今、昼の2時なんですけど。
肝試し。
高二の夏。
その貴重な時間をだらだらと過ごすのは勿体ない。
だからイベントを催してくれるのは嬉しい。
・・・うん、嬉しいよ?
でもさ・・・
カスミ「なあ、八木よ」
八木「ん?」
カスミ「もうちょい日が暮れてからにしねぇ?」
八木「え、なんで?」
カスミ「こっちの台詞だよ!なんでこんな明るいのに肝試し!?」
八木「・・・あのな」
カスミ「えっあっはい」
急にマジメな顔になった八木に戸惑う。
なんだこいつ。
八木「ホントは今日、普通に遊ぶつもりだったんだよ」
カスミ「そ、そうだったのか。せめて事前に連絡くれよ」
八木「でもさ、俺の家からここに来るまで、墓地の前の道を通るじゃん?」
カスミ「ああ、そういやそうだな」
八木「そこからさ・・・人の気配がしたわけよ」
カスミ「えっ、うん」
八木「少し覗いてみたら、若くて綺麗な女の人がいてな」
まさか、その人が幽霊だったとでも言うのだろうか。
絶対ただお墓参りにきただけだと思うんだけど。
八木「もうな、めっちゃ綺麗だったんだよ!」
カスミ「お、おお・・・そうか・・・」
八木「色白でさ!目がパッチリしててさ!胸もデカくてさ!」
カスミ「ちょ、そういうことあんま家ノ前で・・・」
八木「だからさ、カスミ!」
グッ、とガッツポーズして、八木はキメ顔をした。
八木「男の肝試しに行かないか・・・?」
なんか上手く言ったった感出してるけど、ようするに
『ナンパしようぜ!』
ってことだろう。
当然俺は、
カスミ「その話、ノッた!」
バァン、とハイタッチの音が高らかに響く。
だって夏だぜ、夏!
プールとか海とか遊びに行きたいだろ!
女の子と!!
終わり
【肝試し2】
カスミ「お、おおお・・・あれが・・・!」
八木「な、美人だろ!?」
二十代前半、といったところだろうか。
女性らしい色気のある人だ。
日焼けを知らないかのような白い肌が、眩しい。
カスミ「・・・行くぜ」
八木「マジかカスミ!ちなみに自信は・・・」
カスミ「ない!・・・だが」
八木「だが?」
カスミ「行動に移さなきゃ、可能性はゼロのままだぜ・・・!」
八木「か、カスミぃー!」
当たって砕ける覚悟を決め、俺は歩きだす。
自然に、そう、ごくごく自然に歩いて、女性に近づいーー
女性「何か用?」
カスミ「えっ」
女性「なんだかおかしな足音がしたものだから・・・勘違いだったらごめんなさい」
全然、自然じゃなかったらしい。
女性は俺を不思議そうに見ている。
ええい、ままよ!
この地に眠る方々よ!
俺に勇気を!!
カスミ「あ、あの、よよよよかったら、今度の日曜とかにですね、あ、ホントによかったらでいいんですけど、一緒に海水浴なんて・・・」
女性「いいわよ」
カスミ「あっ、そうですよね、すみません俺みたいなゴミ虫がそんな・・・えっ!?」
八木「め、マジっすかぁ!?」
八木が俺を押しのけて、女性の前に跳びだす。
お前はなにもしてねーだろ。
いや、情報提供してくれたことには感謝してるけど。
ユウコ「うふふ、まさかこんな可愛い子達にお誘いを受けるなんて・・・あ、アタシのことは気軽に『ユウコおねえさん』って呼んでね⭐」
八木「は、はい!」
ユウコ「あ、ちょっとごめんなさい、電話が・・・」
カスミ「あ、どうぞお構い無く!」
俺達は、喜びに満ち溢れていた。
そう、このときまでは。
ユウコ「もしもーし・・・あ?」
ユウコさんの声が、急に野太くなった。
ユウコ「んだよ、またテメーか!何回も間違い電話かけてくんじゃねーよ!ふざけんじゃねーぞ、コラ!」
カスミ「えっ」
八木「あっ」
ユウコ「ふぅ・・・あ、あら、ごめんなさいね!怖いとこ見せちゃったわね!それじゃ、海水浴楽しみにしてるワ⭐」
ユウコさんはケータイをバッグにしまうときに、一枚のカードを落とした。
慌てているせいか、それに気付かないまま可愛らしい女走りで去っていく。
そのカードとはーー
八木「・・・オカマバーの、名刺・・・?」
カスミ「うそ、だろ・・・?」
とりあえず今回の肝試し、暑さは吹き飛びました。
終わり
【Bloody-rain day】
血の雨が降る。
どろり、ぬるりと、なまぐさい、暗紅色の液体だ。
比喩などてはない。
現実に、血液が空から落ちてくる。
それは、人間の血だと言われているが、全て非公式の発表である。
鉄錆色の空から叩きつけるように落ちてくるその雨が確認されたのがいつのことか、公式の記録には残っているが、人々の記憶には定かではない。
だが、毎年“Bloody-rain day”と呼ばれるようになったその日に始まったということだけは、誰もが知っていた。
誰の血が降り注いでいるのかーー誰も知らないし、知りたくもない。
ただ一つ言えるのは、血雨の日が近づいてくると、町の治安がよくなるということくらいだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
辺り一面、血の海だった。
この世でも、あの世でもない世界の狭間には、断末魔の絶叫がBGMのように絶えず響いている。
モルテ「人様に迷惑掛ける畜生共がノウノウと生きてんじゃねえよ!あ゛ぁ゛!?」
トート「ちょっとやめてよ。アタシまで返り血浴びちゃうじゃない」
モルテ「アァン?そのドレスの赤は全部返り血じゃねえのかよ。しれっと、最初から赤いドレス着てましたぁ、みてぇな顔しやがって」
トート「アタシのか・お・に。返り血掛けないでって言ってるんじゃなぁい?」
モルテ「言ってねえよ」
トート「そうぉ?だったらいいのよぉ。アンタまでミンチにするところだったわー」
モルテ「チッ、つーか、人間どうにかなんねえのかよ。潰しても潰しても湧いて出やがって」
トート「仕方ないわよぅ。神様の最高傑作にしては最低の駄作だもの」
トート「他のもふもふたちを見てみなさい!みぃんな生きるために必死だっていうのに。ころすためにころす生き物なんて、人間くらいなものよぉ?」
??「ぅぁ・・・たすけ・・・っ」
すがりつこうと手を伸ばした男の手をピンヒールの踵で踏み抜いて、トートはうっそりと嗤った。
トート「んもう。いえない子ね。レディのスカートの中を覗こうだなんて」
モルテ「誰がレディだよ。んなゲテモノ覗いたら楽に**るだろうが。しまっとけよ、そのグロいの」
トート「モルテちゃぁん。ミンチになる?それとも、スライスされる?」
モルテ「やんのかコラ、あ?ぶっころすぞ!」
ビリッと辺り一面に殺気が満ちた、その時。
アンジュ「んもー!ケンカしちゃだめっていってるでしょー!」
モルテ「・・・!!」
トート「ヒィ!?」
あどけなく響いた声に、モルテとトートはピンと背筋を伸ばした。
水溜まりを渡るように、軽やかに血溜まりに飛沫を上げながら向かってくる小さな姿に、二人はただ頬をひきつらせた。
アンジュ「きみたちがケンカをすると、お仕事が進まないんだから」
身体に似合わぬ大きな鎌を振り上げて一閃する。
辺りに転がっていた死体は、形も残らずペースト状になって、モルテとトートの上に降り注いだ。
アンジュ「はーい、終わり。明日はお掃除の日なんだから、二人でここ、綺麗にしてね」
背中に生えた純白の羽をふわりふわりと揺らし、スキップをしながらアンジュは去っていく。
誰よりも人間を葬るその純白には、返り血一つ付きはしない。
その後ろ姿をしばし見つめ、二人は小さくため息をついた。
モルテ「・・・片付けるか」
トート「・・・そうね」
今日も地上に雨が降る。
それが、あの世でもこの世でもない場所の、年に一度行われる掃除の排水だと言うことを知っているものは、今のところ、地上にはいない。
終わり
【ホント、ばか】
ミユ「・・・今日、来ないのかな」
一人しかいない病室で、ミユは呟く。
外は雨。
やむことなく降っていて、なんだか物哀しい。
そんな中、ミユは枕元に目を落とした。
ミユ「・・・渡そうって思ってたのに」
そこにはキレイにラッピングした小さな箱がある。
ミユはゆっくり手を伸ばそうとしーー。
???「いや~、参った参った!」
ミユ「っ!?」
開いた扉からそんな声が聞こえてきて、ミユは手をとめた。
ミユ「・・・って、キョウマ?」
振り向いた先には、同級生のキョウマの姿。
自慢の髪型が雨を浴び、へにゃっている。
キョウマ「ったくよぉ、降っても小雨~って言葉を信じたらこれだぜ?」
滴る水をたらしながら、キョウマが病室に入ってくる。
ミユ「ちょ、ちょっとアンタ!?」
キョウマ「折りたたみでも入れときゃよかったわ~、な?」
ミユ「な? じゃないわよ!」
キョウマ「つれねえな~。ツンケンしてっとシワよるぜ?」
ミユ「誰のせいだと・・・!ああもうっ、それより頭ふく!ほらっ!」
ミユは備えつけのタオルをとり、キョウマに投げた。
キョウマ「お、さんきゅー」
キョウマは手にとり、わしわしと濡れた髪をふいていた。
ミユ「・・・で?なにしに来たのよ」
キョウマ「逢いにきたに決まってんじゃん、ミユに」
ミユ「あ、逢いに~~~っ!?」
てらいもなく言われ、ミユは体温がちょっと上がった気がした。
ミユ「・・・ま、前から思ってたんだけど・・・」
キョウマ「?何が?」
ミユ「アンタって・・・友達いないの?」
キョウマ「いるわっ!何、俺ってぼっちに見える!?」
ミユ「だ、だってほぼ毎日ここに来るじゃん!ま、まぁどうしてもって言うなら?私が友達になってもーー」
キョウマ「は、ミユと?いやいや、ないだろ」
ミユ「・・・そう、だよ、ね・・・」
そっか、ないんだ・・・。
バッサリ言われ、予測以上にショックだった。
ミユ「・・・なら、どうして」
キョウマ「ん?」
ミユ「どうして来るのよっ」
思わずトゲを含んだ言葉がでる。
キョウマ「いや、だから逢いにーー」
ミユ「友達でもない私なんか、ほっとけばいいじゃんっ!わざわざ病院まで来ちゃってさ・・・!馬鹿みたい!」
違うっ、そんなこと言いたいんじゃないのに・・・!
だけど止まらなかった。
ミユ「私に期待、させないでよ・・・」
キョウマ「ミユ・・・」
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
病室内が静まり返る。
聞こえるのは雨音だけで。
ミユ「(また、やっちゃった・・・。なんでこうなっちゃうかなぁ・・・これじゃ馬鹿なの、私じゃん・・・)」
ミユは自分に呆れていた。
キョウマ「・・・気になるんだよ」
そのとき、キョウマが口にする。
キョウマ「ミユのこと、ほっとけないんだ。それじゃ、ダメか?」
ミユ「・・・キョウマ・・・」
キョウマ「でも、ミユが嫌なら帰るよ。迷惑かけたくないしな」
力なく笑い、キョウマが病室から去ろうとする。
ミユ「あ・・・っ」
このままじゃキョウマが行っちゃう・・・。
せっかく来てくれたのに、今日も顔見れたのに、私ーー。
ミユ「ーーま、待って!」
ミユは枕元に隠していた箱をつかみ、ベッドから出てキョウマのそばに駆け寄る。
そしておもむろに、差し出した。
ミユ「ん!」
キョウマ「・・・それ、なんだ?」
ミユ「なんていうか・・・アンタに、その・・・」
キョウマ「ミユ、お前・・・」
ミユ「べ、別に深い意味とかないからっ!いっつも来るし、ただのお礼っていうか・・・!?と、とにかく受け取ったら帰ってーー」
キョウマ「ーー俺、めっちゃ大事にするわ!」
クシャッとした笑顔を浮かべたキョウマに、ミユはぎゅっと抱きしめられる。
ミユ「~~~っ!?」
ミユ「(ーーちょ、な・・・!え、と・・・な、なな・・・っ!?)」
いきなりのことで、ミユは一気に顔を赤面させた。
何か言おうとしても、あわあわして声が出てこない。
キョウマ「ありがとな!また明日来るからな!」
そんなミユの様子に気付かず、受け取ったキョウマは屈託のない笑顔で、病室を後にする。
な、なんなのよ・・・なんなのよ、もうっ!
い、いきなりあんなことしたくせに・・・ずるいよ。
思わせ振りな態度ばっかとってさ・・・。
ホントに、本当にキョウマはーー。
ミユ「・・・ばかっ」
終わり。
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