。 2015-06-27 11:33:13 |
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あの冬からもう早いことに二年がたった。
時間は早いことにお互い二十歳を向かえ、桜は少し遠い大学に進学、俺は喫茶店のバイトを偶に手伝いながらサラリーマンをしている、という曖昧な立場だった。
何も、何一つ変わらない二人の生活。
唯一変わったことと言うのなら、お互いの薬指に付けられたシルバーリングや新しい家だろうか。
恋人から夫婦へ、あいつの名前も玉樹から河野へ、河野桜として俺の隣に居てくれることになった。
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「河野くーん?ここの書類一部まとめで明日迄に定時出来るかなー?」
「分かりました。」
かと言え、新米サラリーマンとうのはこき使われ、働かされ。
もう何日も桜と話していないくらいに残業続きだった。見慣れた数字へと目を動かしながらキーボードへと指を動かす。
打ち込まれていく数字。
疲れから欠伸をして、ふとパソコンに示されている時刻を見た。
深夜の0時、…か。
椅子から立ち上がり一人しか居ない部署から出て、喫煙室へと脚を運ばせた。
そして自販機で眠気覚ましの珈琲を購入して、壁にもたれかかり珈琲を口に運ぶ。
苦い風味が少しの眠気覚ましになり、眠気からぼーっとしてきた頭さえも冴えさせた。
「…あいつにメール、しておくか。」
きっと俺が心配だの何たの言ってて起きているかもしれない。
ポケットに直したままのスマホをスライドしてロック解除をしてはメールを開く。
宛先は桜へと。
{悪い、今日も遅くなりそうだ。先に寝てろ。}
もう簡単に予測変換で出てしまう一文を素早く打ち込んでは送信。
軽快な音と共に戻される画面を見て溜め息を吐き出す。
本音、云ってしまえばあいつに触れたいというのは勿論、キスだってしてえし、頭だって撫でたい。
でもそれは、出来ないことなのだ。
{バニー!把握ですっ、お仕事頑張り過ぎたら駄目だよっ、テーブルにお料理置いてるから食べてね、おやすみなさい。}
相変わらずの律儀な内容に無意識に頬が緩む。
「…よし。」
最後だ、頑張るか。
桜お得意のガッツポーズをして俺は一人きりの部署とへと脚を向けた。
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「ただいまー……」
時刻は深夜の2時。少し静かに帰宅の言葉を告げれば明かり付いたままのリビングが目に入る。
靴を脱いでスーツの上着を手に持ちつつ、リビングの扉を開けると、目前に広がる光景に少しだけ安堵していた自分がいた。静かなリビングのテーブルに置かれた色とりどりの食事が置かれている。
頬を弛ませつつ、リビングの扉を閉めてソファーへと上着を置いた。
ふと、食事の隣に置かれている小さなメモ書き。桜らしい丸時でしっかりと書かれていた。
「すーちゃん、おかえりなさい………」
すーちゃん、おかえりなさいっ。
今日も残業お疲れ様です、わたしの食事で癒やされてねっ!お風呂のお湯も温めてるからしっかり温まって寝てねっ。それじゃー、私はベッドに行ってきますっ。
「………あいつは…ったく…。」
紙を濡らしたのだろうか、所々小さな丸い跡が残っている。
「…強がり過ぎだ。」
また一つ紙へと新しい水分が落ちた。
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風呂も食事も終わり、漸く寝室に立ち寄ったのは深夜を過ぎ、もう早朝になる時間。
ぐっすりと眠っている桜の隣に寝転がり、何も遠慮することなく抱き寄せた。
…久し振りに感じる桜の暖かさ、匂いに目を瞑る。
「…んぅ……すー…ちゃん…?」
「…わり、起こしちまったか?」
「…んーん…だいじょうぶ…」
まだどこか夢見心地の桜は俺の首へと手を回して抱擁に応える。
「……桜、御前泣いた、だろ?………御免な。」
「だいじょうぶ、すーちゃんも立派な大人になるんだもんね、だいじょうぶだよ、ちゃんと分かってる、」
「でも、…でも、…さみしいよ、撫で撫でして貰えないし、ちゅーも出来ない。…朝起きたらもう居なくて、夜寝る時も居ない、」
「…っ寂しかっ…たぁ…っ。」
強がっていたメール文、書き置き。
涙の堤防が崩れたように幼い子供のように桜は涙を流す。
「…ごめん、ごめんな…」
「…っぅ…っひぐ…っ、」
白の髪を撫でて背中を落ち着かせるように叩き、その髪へとキスをする。
結局、桜が落ち着いたのは朝になってからだった。
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「すーちゃん、今日もお仕事?」
「あ?そうだけど。」
「分かったっ!私もバニー弁当頑張るねっ!」
バニー弁当、というのは朝、毎日作ってくれる昼食のこと。
ぴょんぴょん跳ねる桜の頭へと手を伸ばし数回撫でた。
「さんきゅう。」
(色々ある新婚生活、だけどその困難さえも愛おしいんだ。)
初雪×桜 _
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