ハナミズキ 2015-06-19 22:03:00 |
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この世には、我々が住む世界とそれと異なる世界が存在する。
人々はそれを異次元という。
異次元とは、時空のねじまがった空間によりその存在が目に映る事はない。しかし稀に、その歪みに隙間ができ、小さなドアの様な入口を作り出してしまう。昔から言い伝えられている神隠しがその歪のせいだとは誰も知る由は無いのだ。
そして、一旦その異次元へと入り込んでしまったのなら、もう元の世界に戻る事は不可能に近い。その歪の隙間ができる場所は特定されておらず、条件さえ重なれば何処にでも出現する曲者だ。
例えば、普段生活している家の中や、通勤や通学で使っている道に現れるかもしれないし、人里離れた山の中かもしれない。いつ、どんな形で現れるのかは定かではない。
そしてここにも、その歪にできた隙間に入り込んでしまった一人の少女が居た。
少女の名は、山城 桃華(17歳)。高校2年生だ。武道家の両親に育てられ、幼い頃から武術に励んでいた。父により、日本古来の武術である居合い抜きを習い、その腕前はかなりのものだ。母親からは合気道の指南を受け、今では師範の免状も持っている。
身長は160㎝に少し足りないくらいで、すらりと伸びた手足、背中まである黒髪、歳より少し幼く見える可愛い顔立ちが、とても武道の達人だとは思えない様な可憐な姿をしていた。
夏休みに入り、甲府の田舎に住む祖父から電話があり、渡したい物があるので一度こっちに来てほしいと言われた。
祖父は、甲府で代々続く鍛冶屋職人をやっている。居合で使う刀などは全て祖父の作品だ。その祖父からの呼び出しと言う事は、新しい刀が出来たのかもしれないと、桃華は喜んで祖父の元に行った。
祖父の家に着くと、黒い鉄製のケースを見せられた。ケースには鍵が付いている。いったい何だろうと思いながら祖父の話に耳を傾けた。
「桃華。これをお前にやろう」
そう言って黒いケースを桃華の前に差し出した。
「これは、我が家に伝わる由緒正しき宝刀でな、その名は【 龍神刀 】と言ってな、龍神
の力を宿した妖刀なのだ。これをお前に渡せとお告げがあったのだよ」
そう言い終わると、祖父はケースのカギを開けて中身を取りだした。黒いケースの中には、更に木箱が入っており、それは厳重に封印されていたのだった。
桃華が龍神刀を手にし、鞘から刀を抜いてみると、眩いばかりの光が辺りを照らした。その光の中から小さな龍が姿を現し、桃華に話しかける。
―― 汝 龍神の巫女よ 我は巫女に使えし者なり
我の主となるのならば その鞘の封印を解いてほしい ――
「封印を解くってどうやって!?」
―― 巫女がその刀を抜けば良いだけだ ――
「分かったわ」
桃華が刀を鞘からすべて抜きとると、光は収まり元の刀に戻っていった。今のはいったい何だったのだろうか。鞘から刀を出そうとした時に、桃華は確かに見たのだ。柄の先にある刃先が龍の形に変わっていたのを・・・。そしてその龍が眩い光を帯びていたのを・・・。
元に戻った刀は、それは見事な色合いであった。その刀を手に取り眺めていると、胸に一瞬熱みを感じた。
「熱っ!!」
何だろうと胸に手を当てたが、その熱さは直ぐに消えてしまったため、深く考えはしなかったのだ。
そして、その日は祖父の家に泊まり明日家に帰る事にした。夜、お風呂に入ろうと服を脱いだ時、昼間に熱さを感じた場所に、痣の様な紋章が刻まれていたのだった。
「・・・・・・何これ・・・」
その紋章は、丁度胸の上に龍の形を取り、赤く浮かび上がっていた。その痣こそが、龍神刀との契約の印だったのだ。
龍神は、古くから神の使いとされ、己の主は龍神自身が選んでいた。主以外の者が刀に触ったものならば、その人物は気が触れるか【 死 】あるのみである。こうして龍神の力は守られ、受け継がれてきたのであった。
次の日、桃華は家に帰るために駅に向かって商店街を歩いていると、急に目の前にスポットライトが当たっているかのような光が現れ、桃華はその中へと吸い込まれてしまったのだった。
光の中は真っ白で何も見えない。上も下も分からない無重力の様な感覚だった。ここは何処だろう。いったい何が起こったのだろうと考えていると、足先の方から光が差し込んだ。再び光に吸い込まれるようにその中に入ると、青い空と緑の大地が目に飛び込んできた。桃華の躰はそのまま、地上へと落下して行ったのだった。「落ちる!死ぬ!!」と思った時、背中に担いでいた龍神刀が入ったケースが光、ふわふわと、ゆっくりと降下をし始めた。「助かった・・・」と思い、地上に降り立った桃華は、龍神刀にお礼を言った。
「ありがとう、龍ちゃん」
―― それは我の名前か 主よ ――
「ええ、そうよ。可愛いでしょ?」
―― 可愛い・・・か・・・。 ――
地上に降り立ってはみたものの、見渡すが限りなにも無い草原だ。人影も無ければ道さえも見当たらない。見えるのは草木と山だけだ。どっちに行けば町があるのか分からず途方に暮れていると、龍神刀が提案をしてきた。
―― 主よ よろしければ我が町の近くまで送り届けよう ――
桃華は龍神刀をケースから取り出すと、刀はその姿を龍に変えて、桃華を背中に乗せると空高く舞い上がった。龍の背中から見えるその景色からは、山の向こうに村が見える。しかしその町並みは桃華が知っている物とは違っていた。日本らしい建物が何一つないのだ。何処かのテーマパークの様な、中世ヨーロッパ調の建物が並んでいた。
ビルなどは1つも無く、せいぜい3階建ての建物が一番高い建物と言ったところだろ。土壁と煉瓦の壁の建物が目に入ってきた。
桃華が推測するところ、ここは日本ではないと言う事になる。その事実を確かめるために、桃華は村はずれの山道に降ろしてもらい、そこから歩いて村に入る事にした。
地上に降り立った桃華は、今まで気が付かなかったある事に気が付いた。体が異常に軽く感じるのだ。まるで背中に羽が生えたかのように軽い。桃華は、ダイエットをした記憶も無く、この身体の軽さは何だろうと、体重を確認する為に軽く飛び跳ねてみた。すると、軽く飛んだはずなのに、かなり高く飛び上がってしまったのだ。
「きゃああああ 何これ!」
悲鳴を上げながら空中に舞い上がり、ゆっくりと、ふわふわと地上に舞い降りたのだった。
「・・・・・何これ・・・・。私の体、一体どうしちゃったの・・・」
龍神刀は、一つの仮説の話しをし始めた。
―― 主よ この世には我々と異なる世界が存在すると言う
主達の言葉で言うなら 異次元 と言う所だろう
その存在は 古(いにしえ)の昔から言い伝えられているものだ
だが 彼の地へ行って帰って来た者は居ない
したがって 我もその存在は伝え語りでしか聞いた事が無いのだ
・・・・たぶん この世界がそうなのだろう。 ――
仮説を話し終えた龍神刀は、気を集中させ、大気を読んだ。龍神刀の結論によれば、この世界は地球とさほど変わらないが、重力が違うらしい。地球の10分の1だと言う。桃華の体重が46㎏だとすれば、ここでの体感重量は4・6㎏だ。・・・・赤子の体重である。その話を聞いた桃華は、飛び跳ねるのは極力避けようと考えた。では、他の事はどうなのだろうか。桃華は試しに、道端に落ちている小石に手を伸ばし、それを投げてみた。・・・・軽いのでよく飛んだ。軽く100mは飛んだだろうか。次に、近くに生えている木に、趣味で習っていた空手の技である蹴りを入れてみる。・・・・折れた。感触的にはベニヤ板を割っているようだった。
「・・・・・・・・・・」
―― ・・・・・・・・・・ ――
この世界では迂闊に騒ぎを起こせないと言う事だ。ただでさえここの住人より10倍の体力がある。それに、武術をたしなんでいるとなれば、ひとたび乱闘騒ぎなど起こしたら死人が出ると言う事だ。桃華は、これから先、慎重に行動をしようと心に固く誓ったのであった。
村に向かう道中、桃華と龍神刀は今後の事を話し合いながら歩いていた。すると龍神刀が、自分を箱から出してほしいと言ってきた。桃華は銃刀法の厳しい日本で育ったので、刀をそのまま持ち歩く事には抵抗があり、その事を龍神刀に言うと、そうではなく、このままではいざと言う時に役に立てなく不便なので、とりあえずここから出してほしいと言う事だった。
言われた通りにケースから龍神刀を取りだすと、刀は鞘から勝手に抜け出し宙に浮いた。そして、桃華の胸元に刃先を向け、刀はそのまま桃華の胸元に突き刺さるように、桃華に吸い込まれて行ってしまったのだった。すると、今まで刀があった方向から声が聞こえてきていたのに、今度は頭の中に直接語り掛けて来たのだ。
―― これで 我と主はひとつとなった
いついかなる時も 我は主を守ろう ――
桃華は不思議な感覚に囚われていたが、今更驚く気にもなれなかった。突然に刀が光り喋りだしたり、商店街の真ん中で光に吸い込まれ異次元へ来たりと驚きの連続で、もう何が起こっても驚きはしなくなってしまったのだ。この先何かがあるたびに驚いていたら、神経が持たないだろうと思ったからだ。
村の外れにある小さな家の前で、40代くらいの男性と兵士らしき人物が何やら揉めているようだ。何かあったのかと様子を伺ってみると、どうやらこの男性の息子が働きに行っている山の方でドラゴンが出たらしい。息子を助けに行こうと山に向かったところ、邪魔になるからと追い返されて来たようだ。しかし、なかなか言う事を聞かない男性を、兵士達が力ずくで家まで連れ戻したところだった。
「龍ちゃん、この世界にはドラゴンが居るのね」
―― ここは異次元なのだから 居ても不思議はない ――
「実在するのなら見てみたいわ」
―― ・・・・主は面白いお方だ ――
「でも、ドラゴンって、竜よね?」
―― 確かに竜だが 我とは違うものだ ――
「会った事あるの?」
―― ・・・・主よ。ひとつ忠告をしておこう
我はいま 主の頭の中に話しかけている
よって 今の主の言動は 独り言を言っているに過ぎないのだ ――
そう言われ、辺りを見回すと、今まで揉めていた男性と兵士たちがこちらの方をじっと見つめていた。1人でブツブツと喋っている桃華を、可愛そうな子を見るような目で見つめていたのだった。フリルの付いた可愛い洋服を着た可愛らしい女の子が、誰も居ない所で1人呟いていれば、頭がおかしいと思うだろう。そんな子とは関わり合いになりたくないと思うのが人間と言う者だ。
気を取り直し、更に聞き耳を立てていると、どうやら今回のドラゴン討伐隊は難航しているようだ。本来なら白の騎士団が討伐に出向くのだが、数日前に出たドラゴンを倒しに、違う場所に出払っていたのだった。その隙を狙ったかのように出現したドラゴンの所に、青の騎士団が向かったとのことだ。青の騎士団もドラゴン討伐隊なのだが、いささか経験が浅い者が多い騎士団だった。その為に少々苦戦しているようだ。
だいたいの内容は分かったが、ここで桃華はある事に気が付いた。
『ねぇ龍ちゃん。わたし、何で言葉が分かるのかしら?』
―― 我が主と同化した事により 先ほど大気から得たこの地の情報を
共有し 言語の組換えを行っただけだ ――
『・・・・龍ちゃんって便利な技を持ってるのね・・・』
『ねぇ龍ちゃん。あの人の話しだと、苦戦してるのよね?
助けに行かない?きっと私たちの方が役に立つと思わない?』
―― 確かに我々の方が強いだろう
しかし 危険な事には変わりはない ――
『でも、助けられる力があるなら助けてあげようよ!』
桃華の押しに負けるような形で、龍神刀は渋々ドラゴン退治に承諾した。
「おじさん、ドラゴンは何処に出たの?」
「あの山だが、それがどうかしたのか」
男性が指をさした場所は、ここから少し離れた山だった。
「じゃぁ、わたしがおじさんの子供を助けに行ってくるね」
「お前さんの様な子供が行ったって邪魔になるだけだ。やめとけ」
「そうだ。ドラゴン退治は遊びじゃないんだぞ!子供は大人しく家に居ろ!!」
兵士たちに怒鳴られはしたものの、どうしても気になった桃華は龍神刀に声を掛けた。
「龍ちゃん!」
そう桃華が叫ぶと、桃華の胸元が光り、眩いばかりの龍が姿を現した。現れた龍の背中に乗り、桃華はドラゴンが出現した山に向かって飛んで行ってしまったのだ。たった今目の前で起こった出来事に呆気にとられている男性と兵士達。今のはいったい何だったんだろうと、顔を見合わせて立ちすくんでいた。
ドラゴンの場所に到着した桃華は、上空から辺りを見回し、男性の子供らしき人物を探し始めた。すると、逃げ遅れたのか一人の少年を発見した。青の騎士団らしき軍隊がドラゴンと闘っているようだったが、騎士団の方が劣勢なのは一目瞭然だった。騎士団は少年をかばう訳でもなく、ドラゴンと闘っている。少年はその場から離れようとするも、間が悪いのかドラゴンは少年の方へと進行するのだった。
このままでは少年が踏みつぶされてしまうと思い、桃華は龍の背中から飛び降り、地上へと舞い降りた。龍は再び桃華の中へ戻り、桃華に助言をする。
―― これは地竜と言うドラゴン
破壊力だけは凄まじいが さほど強敵ではない
主よ 我を使うと良い ――
桃華の掌に、あの龍神刀の姿が具現化した。龍神刀を握りしめた桃華は、地面をひと蹴りすると物凄いスピードでドラゴンに突撃して行った。普段から鍛錬をつんでいる居合抜きの成果で、眼にも止まらぬ早業でドラゴンを叩き切っていったのだった。それはあたかも大根かきゅうりを切り刻んでいるようにだ。
重力が軽いせいもあるが、軽く飛び上がっただけでドラゴンの頭上まで跳ね上がり、そのまま龍神の指示により、地竜の弱点と言える眉間にとどめを刺した。
空から光と共に現れた一人の少女が、騎士団20名でも苦戦していたドラゴン相手に一瞬で片を付けてしまったのだ。ざわざわと騒めく中、桃華は少年に「お父さんが心配してたわよ。早くお帰りなさい」と言い残し、再び龍に乗って消えて行ってしまった。
桃華は、騒ぎを起こしてしまったので、先ほどの村にはもう戻れないと思い、次の町を目指して飛ぶ事にした。今夜はそこに泊まろうと思ったのだったが、肝心な事を忘れていた。桃華はこの地の通貨を持ってはいないと言う事をだ。
お金が無くては旅どころかご飯も食べられない。何も食べなければ飢え死にをしてしまう。何処か働き口でも探してお金を稼ぐしかないのかと考えていると、龍神がバッグの中を見ろと言うので見てみると、中には見慣れない小さな巾着が入っていた。その中に、見た事も無い金貨が沢山入っており、龍神が言うには、その金貨はこの国の通貨で、巾着一袋分で一月は楽に暮らせる金額だと言う。桃華は、このお金が何処から湧き出たのか聞きたかったが、少し怖くて聞けないでいたのであった。なにはともあれ、当分のお金には不自由しない事が分かり、少しホッとするのであった。
夕方、大きな町に降り立った桃華は、今晩の宿を探し泊まる手配をした。そして、これから始まる旅に伴い、色々と荷物を買い揃える事にしたのだった。まずは着ている物だ。この姿のままでは目立ちすぎる。それに女の子の1人旅と言うのは危険極まりない。そこで数点の洋服とフード付きのマントを購入した。フードを被れば顔が分からないからだ。後は大きめのリュックに食料を買い込んで良しとした。後は何とかなるだろう。
突然見知らぬ土地に、知り合いが誰も居ない状態で放り出された桃華だったが、くよくよ悩んでもしょうがないと思い、巨大なテーマパークに来たんだと思う事にしたのであった。そうすれば、少しは不安も吹き飛ぶからだ。それに、1人と言っても一人ではない。龍神が一緒に居る。それは何よりも心強い事だった。龍神が言っていた【 龍神の巫女 】、それがどんな意味を成しているのか今はまだ分からないが、これは自分に与えられた試練なんだと思う事にしたのだ。これから先、何が起こるか分からないが、自分が出来る精一杯の事はしようと思ったのであった。
この小説は思う所があり途中で中断します。
書き進めていくうちに、どうも違うのではないかという思いからの中断としました。
内容を一変し、改めて書いていきたいと思います。
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