主 2015-06-09 23:42:14 |
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何時も通りの時間割。
何時も通りの光景。
何時も通りの日常。
そんな何時も通りの世界が何時も通りじゃ無くなったのは、何時からだっただろう。
××side
ガヤガヤと騒がしい教室の中心に人集りが出来ていた。其処に集まったクラスメイトは中心に居る青年の話に耳を傾けている。青年の名は姫川 雅嗣。少し癖のある黒髪の青年で先輩からも後輩からも人気がある人物だ。其の姫川の家は骨董品だとか、昔からのものを主に扱う店(でも何か色々扱っているらしい)で、雅嗣は時期当主と呼ばれる人間だとか聞いたことがある。店の商品の話ばかりする奴だが話術が巧みで、壺とか巻物の話ばっかりなのに聞いてて飽きない。
今日は珍しく、一冊の本の話をしていた。本はあんまり話題に上らない為か、俺はつい教室の端の席で聞き耳を立てていた。
表も裏も真っ黒な本で、鍵付きの日記帳みたいにサビた鍵が付いてるんだけど…、開くとル-ン文字みたいなのがズラ-っと書いてあるんだよね。所々黒に近い茶色っぽいシミもあってさ-?最後には日本語?かな…漢字っぽいのが書いてあって終わるんだ。
喚…………世…滅…時……黒…悪……目覚…光…闇……壊……だったかなあ…。ヤバイ日記だったりして…!あははッ!!
雅嗣の笑い声と同時にチャイムが鳴り、担任が現れた。担任は何だか青白い顔をしていて、声にも覇気が無い。雅嗣がセンセ-?お腹痛いの?なんて笑うとクラス中が心配そうに担任を見る。遂には黙りを決め込んだ担任に雅嗣はもう一度問おうと口を開いた。
ドシャリ
最初は俺も、雅嗣もクラスメイトも、誰一人として今起こった事が理解出来なかった。クラスの太ったイケイケ系の女子が、豚の鳴き声の様な金切り声を上げる迄は。イケメン不良だと言われていた奴が叫び、失禁してしまう迄は。大人しそうな子が小さく悲鳴を上げ、その場に倒れた所でやっと、俺の脳味噌は動き出した。
身体が半分に裂け、中身をぶちまけた担任は既に事切れていた。
込み上げる吐き気を堪え、半無意識に側で倒れた少女を抱えると足早に教室を出た。
××side
今のは何だ。担任の身体が鋭利で巨大な刃物で斬られた様にズレて…。
俺は込み上げる吐き気を我慢しきれず、抱えていた少女を中庭のベンチに置いて近くの外の水道迄走り、遠慮無しに戻した。殆ど胃液しか出て来なかったが、少しだけ落ち着けた様な気がする。まあ、平常心ではないが。
自己防衛なのか現実逃避をしようとする脳と、夢ではないと言う誰かがせめぎ合う様な感覚に頭を抱え乍ベンチに戻ると少女が目を覚ましていた。名は旭川 雛。幼い顔に似合わない豊満な胸で、更には染めていない自然な黒髪が男子に受けていた事を思い出す。ただ、女子からは妬みの的だったらしいが。
『 …あの…、××君…。……わ、私ッ…!! 』
俺の姿を見付けるなり泣きそうな表情を浮かべた旭川。…うん、男子に人気があるっていうのも解った気がする。今迄関わることと言えば日直の引き継ぎくらいで、ろくに話した事も無かった俺は耳が熱くなるのを感じ、慌てて俯いた。
青春っぽい雰囲気になってしまった(というか俺が勝手にそうなっただけだが)場に一瞬沈黙。それから旭川は先程の事を恐る恐るといった表情で問掛けて来た。俺も状況を把握しようと耳を傾けた所、誰かが走って来る事に気付いた。
××side
『 お、お前ら…!! 』
走って来たのは姫川 雅嗣だった。元々の白い肌が一層白く見えたのは気の所為ではないだろう。先程の事が怖かったのだろう、俺の手前で崩れ落ちた雅嗣は息も絶え絶えに言った。
『 お前らが教室を出た後、俺も這って教室を出て来たんだけどさ…、可笑しくない?お前ら…、人に出会ったか?普通、希奈とか光伸の悲鳴聞こえたら誰かしら来る筈。来た人がまた騒いで今頃警察沙汰の大騒ぎ…。なのに静か過ぎる。 』
そう言われてみればそうだった。俺が出て来た時も誰にも擦れ違わなかった。其れ処か、
“人なんて居たか?”
その時は冷静じゃなかったにしろ、人に会ったか会わなかったか位は覚えている。…答えは否、隣のクラスにも通った筈の職員室にも人は居なかった。昇降口の近くの事務室も明かりは点いていたが人影は全く見えなかった。ひんやりとした頬が俺達の頬を撫でる。
『 すみません…、気絶していたばかりに何も確認出来ず… 』
申し訳無さそうに謝る旭川に雅嗣は優しげな笑顔を浮かべ、励ましていた。雛ちゃんの所為じゃないから、ね?_ポンポンと頭を優しく撫でる雅嗣に旭川は涙を浮かべて有難う御座います、と俯いた。
××side
『 さて、ど-する?財布とか教室だから一旦戻らなきゃならない。 』
確かに雅嗣の言う通りだ。然し、あの場所に戻るのは少しどころか大分嫌だ。だからといってこのまま家に帰るには電車代も無い。2分程話し合った結果、俺達は戻る事にした。静かということは白昼夢か何かだったのかもしれない、そう自分に言い聞かせ校舎内に足を踏み入れる。
先程と変わらず静かな事務室。誰も使っておらず、明かりすら点いていない特別教室。誰かが降りる様子も上る様子も無い階段を上り、2Fに足を踏み入れると廊下に人影は無かった。其れ処か話し声も一切聞こえない。
『 あれ…?1組も2組も電気が消えてる…? 』
旭川の言葉に雅嗣も俺も其方を見遣る。確かに、電気が消えていた。
『 今は帰りのホ-ムル-ムだから消える筈無いんだけど…… 』
雅嗣が腕に付けた時計を確認し辺りを見回す。廊下に設置された時計を見て俺は頷く。
『 …変……ですよ…。私が気絶する時と時間が変わってない…!! 』
同じく時計を見ていた旭川が震える声で言った。帰りのSHRが始まるのは15:45。分針が指すのは9…45分。確かに、可笑しい。逃げる時間や話し込んだ時間、移動する時間を考えると16:00は過ぎている筈。眉を顰めた雅嗣がゆっくりと俺達のクラスである3組の教室に近付く。
『 …居ない…!? 』
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