アニメ・漫画・ドラマ・小説・特撮ドラマなどの名言&名文を伝える2

アニメ・漫画・ドラマ・小説・特撮ドラマなどの名言&名文を伝える2

土佐人  2015-05-26 05:15:51 
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アニメ・漫画・ドラマ・小説・特撮ドラマなどの名言&名文を伝える2

諸事情により最初に作ったトピに入れないので2を作りました。

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  • No.481 by 風人  2016-06-18 14:06:37 

そう、今日はAiセンターの創設会議の当日だ。
病院のカフェテリアで僕はハコを待っていた。一緒に創設会議に参加するためだ。
僕の向かいには冷泉深雪がいて、授業が終わった後に一緒にお茶をしている。スマホをチェックしていると、少し前に田口センター長から簡素なメールが届いた。

(略)

これは提案ではなく通告だ。しかも発信者は放射線科の島津先生だ。やはり田口先生は傀儡で、黒幕は島津先生なのでは、と思えてしまう。それにしても、この傲慢なメールの印象と、極楽病棟で目にしたカルテの中の田口先生の実像は乖離(かいり)が大きすぎる。
気がつくと田口先生は、僕の前に巨大な壁として、立ちはたがっていた。
携帯画面を眺めている僕に、冷泉深雪が言う。
「さっきのメール、私も読みました。何だかどきどきしちゃって」
本日の冷泉深雪は、白いブラウスに細身のジーンズというシンプルないでたちだ。
だがその分、スタイルのよさと胸のふくらみが強調されている。
それは男心の妄想がなせる業だけど、何より自分の剣呑さに無自覚である点が、コイツの問題点だ。などとそんな他愛もないことを考えていたら、僕の中に溢れていたはずの美智を失った悲しみは、いつの間にか薄らいでいた。まったく、男ってヤツはどうしようもない生き物だ。

海堂尊『輝天炎上』23章 落第王子の当惑 本文 天馬大吉 冷泉深雪 より

  • No.482 by 風人  2016-06-18 14:38:19 

高階病院長は立ちすくむ田口先生と彦根先生の肩を引き寄せ、小百合に言い放つ。
「この二人が東城大の良心、そして医療の未来です。彼らが生き残っている限り、私たちの希望が打ち砕かれることはありません」
僕のこころを、高階病院長の咆哮を貫く。
これが東城大の魂ぱくか。圧倒的不利な状況にありながら、何という傲慢な勝利宣言を高らかに謳い上げるのだろう。その不撓不屈の精神力に僕は感服していた。

海堂尊『輝天炎上』30章 よみがえる面影 本文 天馬大吉 高階権太 より

  • No.483 by 風人  2016-06-18 16:38:51 

村枝 (略)でも、いまの子供が見ても、あの回は泣くと思います。何より死ぬ間際のセリフが素晴らしい。いつもモグラ獣人のことを小バカにしているマサヒコが、このときだけは「死んじゃイヤだよ」って泣くんです。それに対してモグラ獣人は「マサヒコはモグラ獣人を尊敬するかい?」って聞くんです。その拙(つたな)い言い回しがすごく名言たなと思いました。
岡崎 やっぱり先生は、作品の捉え方が僕ら凡人とは違うんですね。いま改めて聞いてみて、死ぬ間際に「尊敬するかい?」なんてセリフは普通は出てこない。たぶんシナリオを書いた人の意図としては、いくら悪いことをしてきたヤツでも正義のために働いた者に対しては敬意を表さなければならない、というこっなんでしょうね。
村枝 愚か者なんだけど勇敢なんですよ、モグラ獣人は。
岡崎 良いですよね。愚か者で勇敢って。『アマゾン』の世界でいえば、文明という知恵も力もないけど、ただ己が信じる“正義”のために何かをまっとうしようとする----その真摯な姿勢に子供たちは拍手喝采を送るんでしょう。
村枝 そういうところもナチュラルなんですよね。思想として正義や平和を語るのではなく例えば鳥を殺したヤツがいたら、アマゾンは「何故、鳥殺した?鳥悪くない」というスタンスをとる。子供には、これが一番分かりりやすいんです。
岡崎 ちゃんと子供の情操教育を教えて作られていましたよね。

漫画『仮面ライダーSPIRITS』16巻 ZKCファイナル特別対談 岡崎徹(アマゾン・山本大介役)× 村枝賢一 より

  • No.484 by 風人  2016-06-18 19:17:10 

ちゃんとUFOと書いた映像ファイルがある

ええ〜!?

いや、いやウソついてる。最後にフォロー入れてたやん。
こんだけ(宇宙が)広いねんから我々以外のものにいつか会えるやろみたいな

そやね

もう……、ホンマは会ってるんですけどね

アハハ……

あとでもうじきバレるから「あいつ嘘ついてた」思われたら嫌。一応最後に言うてたけどな

保険をかけてるコメント!保険!

たぶん

バラエティ『世界の何だコレ!?』 宮迫博之 岡田圭右 三上丈晴 他 より

  • No.485 by 風人  2016-06-18 19:34:40 

(略)休刊決定により気になったのは『仮面ライダーSPIRITS』の終わらせ方だった。はたして大団円を迎えられるのか。広げに広げた大風呂敷は『マガジンZ』の休刊までに畳めない事は明らかであった。かつて石ノ森章太郎先生の描いた『サイボーグ009 神々との闘い』が頭をよぎった。009最終章と冠されたこの作品は、009らゼロゼロナンバーサイボーグが人類の想像主たる神を相手に戦うと究極の作品だったが、残念ながら“未完”に終わっている。と、思い悩んでいるところへ『月刊少年マガジン』が手をあげてくださり、連載が継続する事となった。そこに至るまでにはどこの雑誌が引き受けるか様々な検討がなされたという。ありがたい話である。『仮面ライダーSPIRITS』の初掲載が2001年1月号で、9年もの長期連載となった。村枝賢一さんの描いた作品の中で最も長い連載である。
石ノ森先生のライフワークが『サイボーグ009』であったように、本作も村枝さんのライフワークになりそうな印象さえ漂う。あいにく009は完結にはいたらなかったが、ファンに愛され、雑誌のみならず、出版社を変えてまでも連載が続けられた。村枝さんも雑誌変更という状況になったが、是非石ノ森になり代わって、大団円を迎えるまで描き続けて欲しい。ファンの夢は終わらない。

漫画『仮面ライダーSPIRITS』16巻 あとがき 2009年、平成仮面ライダーは生誕10周年を迎えた。 早瀬マサト(石森プロ)より

  • No.486 by 風人  2016-06-18 20:32:24 

(血塗れヒイラギはいつになったら花咲くことやら)
心の中で僕は呟く。僕が葉子につけた渾名を、葉子は知らない。血塗れは真っ赤な校正原稿の隠喩だ。
「とにかくこれはボツ。要求に応えてないから。いいものと売れるものは別物なの」
葉子は僕に少しだけ優しい視線を向ける。
「引用グセはやめた方がいいわ。ぴったりの引用をしても手柄にならないし、不適切なら見苦しい。大体、風俗嬢が餓死したという些細な事件記事に、トルストイなんて、大袈裟すぎる。読みたいのは、天馬君のオリジナルの言葉よ」
オリジナリティは、堅牢たるパーソナリティから生まれる。人格の輪郭が不明瞭なモラトリアム青年の僕は、葉子に痛いところを衝かれて黙り込む。

海堂尊『螺鈿迷宮』一章 血塗(ちまみ)れヒイラギ 本文 天馬大吉 別宮葉子 より

  • No.487 by 風人  2016-06-19 05:24:25 

「明朝十時。桜宮病院事務室に集合よ。よろしくね、大吉クン」
葉子が、小学校の頃の呼び名で僕を呼ぶ時は、文句は言わせない、という無言の圧力をかけたい時、絶対に引かないわよ、という葉子の決意を雄弁に語っている。
「やなこった」
捨て台詞を吐いて、僕は時風新報のオフィスを後にした。果たして逃げ切れるのか。自分自身の逃走能力に疑問符をつけながらの遁走(とんそう)だった。
「後悔しても、知らないわよ」
葉子の捨て台詞が、僕の背中をおいかけてきた。

海堂尊『螺鈿迷宮』一章 血塗れヒイラギ 本文 天馬大吉 別宮葉子 より

  • No.488 by 風人  2016-06-19 08:28:49 

メジャーとマイナーがある。間にマイジャーがある。

NHK Eテレ『ニッポンサブカルチャー史2』第二回 深夜テレビの伝説 泉麻人 より

  • No.489 by 風人  2016-06-19 08:40:30 

村枝 ところで岡崎さんは、今でも漁に出てらっしゃるんですか?
岡崎 ええ。でも、漁というよりは釣りですけどね。
村枝 僕は、岡崎さんが俳優をやめて長崎で「漁師」をしているって聞いたとき、最初にイメージしたのは「猟師」だったんですよ。長崎と言えば「猟師」ですからね。
岡崎 なるほどね(笑)

(略)

岡崎 本来、自然と共生することが人間の基本姿勢なんですよ。現代ではなおのこと、そういう認識をみんなが持たないとダメだと思います。僕もさっき「同じ魚を釣っていると飽きる」と言いましたけど、それはたぶん、もう自分には必要でないからなんでしょう。どんなに美味しい魚だって、自分が食べられる量なんてたかが知れている。
村枝 そうですよ。「鳥、殺すのよくない」って言っていたアマゾンだって、実は鳥や魚を捕らえて食べている。しかし、それは生きるために食べるのであって、むやみに殺しているのではないということを、ちゃんと子供たちに教えていたわけです。
岡崎 そういう『アマゾン』のテーマ性みたいなものに僕も惹かれたんでしょうね。自分自身の生き方というか、ライフスタイルが見事なまでにリンクしていた。そういう意味で『アマゾン』との出会いは、僕にとって運命だったのかもしれません。

漫画『仮面ライダーSPIRITS』16巻 ZKCファイナル特別対談 岡崎徹(アマゾン・山本大介役)× 村枝賢一 より

  • No.490 by 風人  2016-06-19 09:59:54 

僕は結城に笑いかけた。
「当たりましたか」
結城は頬を痙攣させ”それから僕の愛車の屋根を撫でる。結城は肩をすくめる。
「ゲン担ぎです。ツイてない時には”ツイている人の持ち物に触ることにしてるんです」
百万円をむしり取った相手をツイているなんて、よく言えたものだ。
結城が目を細める。見つめる先に、セピア色のでんでん虫が聳え立っていた。
その視線の先に、“仮想敵”という言葉が脳裏を掠める。

海堂尊『螺鈿迷宮』五章 銀獅子 本文 天馬大吉 結城 より

  • No.491 by 風人  2016-06-19 14:14:13 

すみれは、首を傾げて、続ける。
「ここだけは理解してもらいたいの。患者は病気にかかった人間であって、病人として扱うことではじめて病人になる。ベッドに縛りつければ悪化する。桜宮の終末期患者の平均存命期間は他施設の二倍よ。あたしは患者をこき使い、命を延ばす。これも医療のひとつの形だとあたしは考えてる」

海堂尊『螺鈿迷宮』七章 わがままなバイオレット 本文 桜宮すみれ より

  • No.492 by 風人  2016-06-19 15:00:20 

(……)
蓮は仮面の下で悲しげに歪む真司の顔を見たように思った。
(じゃあ、俺は戦いを止めるために戦う)
(馬鹿げたことだ)
(わかってるさ、それぐらい。でも、おれにはそれしかできないんだ)
(城戸、お前には願いはないのか?戦いを止めることなんて言うなよ。お前自身の、お前のためだけの夢だ)
(あるさ)
(聞かせてくれ)
(おれの故郷で、みんなに出会うんだ)
ふと、真司は夜空を見上げた。
(赤く実った林檎の木の下で、お前と、恵里さんと、美穂と、優衣さん、みんなと会うんだ。偶然だって構わない。そこでみんな初めて会って知り合いになる)
(それで?)
(あとは出会ってからのお楽しみさ)
(いい夢だ)
(でもおれのは叶わなくていい。夢でいいんた)
ナイトが変身を解き、それに応えて龍騎も真司の姿に戻っていく。
(戦ってくれ、城戸)
仮面越しでは伝わらないものがある。
ミラーワールドで変身を解くのは死に近づくことを意味していた。
蓮の言葉はそれだけに重い。
(ああ、わかってる)
真司の気持ちは決まっていた。蓮が引き返せないことはわかっている。だったら戦ってやろう。それはただの戦いじゃない。秋山蓮の全存在を受け止めることだ。
蓮は真司が戦いを受けるであろうことは知っていた。どんな気持ちで戦うかを理解していた。だから友人と呼ぶ価値がある。
「変身!」
ふたりは同時に変身した。
相手のいるその場所になにか大切なものがあるように、龍騎はナイトを、ナイトは龍騎を目指して突っ込んでいた。



朝日の射す病室で、恵里はゆっくりと目を覚ました。

井上敏樹『仮面ライダー龍騎』18 本文 仮面ライダー龍騎(城戸真司) 仮面ライダーナイト(秋山蓮) 小川恵里 より

  • No.493 by 風人  2016-06-19 17:46:04 

巌雄の言葉が重々しく響く。
「死者の言葉に耳を傾けないと、医者は傲慢になる」
巌雄は僕を見つめた。初めの頃と比べて、言葉が柔らかくなった。

海堂尊『螺鈿迷宮』十章 屍体の森 本文 桜宮巌雄 天馬大吉 より

  • No.494 by 風人  2016-06-19 18:20:29 

「平気です。病院には死が眠っているというのが、現実なんですね」
巌雄はフン、と鼻先で笑って、腕を組む。
「少し見直した。これが医療の現実だ。誰でも死の前には平等だが死に際し誰もが平等に扱われるわけではない。だからワシは、せめて桜宮では誰でも等しく扱いたい、と思っている」
最後の言葉は、自分に言い聞かせているかのようだった。
「だがな、これしきでひびるな。医学とは屍肉を喰らって生き永らえてきた。クソッタレの学問だ。お前にはそこから理解を始めてもらいたい。医学の底の底から、な」
巌雄の言葉が、僕の想念と同期(シンクロ)した。巌雄の言葉は、僕が真っ直ぐに道を追い続けてていれば、いつか僕の目の前に立ち塞がるであろう未来の壁を、一足先に垣間見せてくれたのかもしれない。
巌雄は僕の瞳の底を覗き込む。
「人は誰でも知らないうちに他人を傷つけている。存在するということは、誰かを傷つける、ということと同じだ。だから、無意識の鈍感さよりは、意図された悪意の方がまだマシなのかもしれない。このことがわからないうちは、そいつはまだガキだ」
僕には唐突な巌雄の呟きの文脈が理解できず、またその言葉が孕む不可知の重さを支えることもできなかった。

海堂尊『螺鈿迷宮』十章 屍体の森 本文 桜宮巌雄 天馬大吉 より

  • No.495 by 風人  2016-06-20 05:35:36 

僕は腕時計はしない。それは時間に無頓着ということではない。腕時計をしないことで却って時間には過敏になる。それは貧乏人がささやかな支出に敏感なのと似ている。腕時計をしないなんて社会人失格よ、と葉子にたしなめられたことがあるが、アポイントさえ守れば支障ないし、何より僕はモラトリアム真っ最中の落第医学生であって、社会人ではないので、葉子の指摘は気にならなかった。
腕時計は首輪だ。巻けば他人に自分の時間を縛られる。

海堂尊『螺鈿迷宮』十四章 白鳥は舞い降りた 本文 より

  • No.496 by 風人  2016-06-20 05:59:04 

美智は二枚の写真を交互に見て、真剣に検討し、勢い良く片方を指さす。「こっち!」「伝染性軟属腫ね。それでいいの?実態はミズイボと同じだけど、後悔はしない?」
美智はこっくりする。決心は固いようだ。それにしても、後悔する事態って何だろう?
「本に書いてある通りにお薬だすからね。僕とみっちゃんが二人で決めたことだから、文句はいわないこと。あと、お薬を塗って症状がひどくなったら、すぐお薬中止、看護師さんに報告。これだけは守ってね」
白鳥は小指を差し出す。
「指切りげんまん、具合悪くなっても文句言わない。指切った。おーい姫宮、処方箋持ってきて」
遠くで様子を見守っていた姫宮はぴょんとはねると奥に消え、処方箋一式を持って駆け戻ってきた。投げられたボールをくわえた犬みたいだ。姫宮ならさしずめシェパード。白鳥は薬の名前を書きあげると、ひょいと姫宮に投げる。うぉん。姫宮は処方箋をくわえ、じゃなくて、小脇にはさんで、とたとたと駆け出す。
「こういうのをインフォームド・コンセントって言うのさ。患者さんとお医者さんがお互いに納得してから治療を始めるっていう、最先端医療なんだよ」
おお、と西遊記の三婆が感心してどよめく。だが僕は白鳥の言葉に納得がいかず、首をひねる。どこかが違う。絶対そんなはずはない。落第医学生の僕ですら、そう思った。これでいいならひょっとして、僕なんかでも医者になれるかも、僕は自分の考えにぎょっとする。医学生なんだから、医者になれて当たり前だろ。

海堂尊『螺鈿迷宮』十六章 白鳥皮膚科病院 本文 天馬大吉 白鳥圭輔 姫宮香織 三婆 より

  • No.497 by 風人  2016-06-20 06:11:39 

頭を動かさないで
強い洗脳を受けたらしいわ

こっちは大丈夫です

・・・・・

大丈夫だよ 神さんは・・・・・

5分隊 唯一の生き残りか・・・・か
ち・・・・ また やっかい者が増えやがるぜ・・・・

あら?仲間に入れてあげるの

さすが

・・・・・

おい

!えっ

おい・・・・動いていいのか

滝さん

立て・・・・敬介
泣くな・・・・
強くなれ 敬介----・・・・

・・・・・・
・・・・・!
あれ・・・・?
俺何やってんの?

クス・・・・

漫画『仮面ライダーSPIRITS』14巻 第36話 父 神敬介 村雨良 コンラッド 10分隊 アンリエッタ・パーキン 神啓太郎 より

  • No.498 by 風人  2016-06-20 06:30:40 

「ところで田口先生って誰ですか?」
すみれは押し黙る。それから、まるでムキになって日記帳を取り返し終えた少女みたいに、照れたように微笑む。初々しい表情に、僕はどきりとした。
「昔、研修の時に世話になった人。東城大でさ、まあ、ましな方かな……グズでどうしようもない人だけど」
すみれの笑顔の裏側には、僕には手の届かない膨大な時間があることに気づかされる。不意に僕は、小さな苛立ちを感じた。

海堂尊『螺鈿迷宮』十六章 白鳥皮膚科病院 本文 天馬大吉 桜宮すみれ より

  • No.499 by 風人  2016-06-20 07:59:38 

「トクは立派だった。今朝、解剖させていただいたが、身体中身癌だらけだった。悪いところは全部とってしまったから痛むことはないだろう。トク、ゆっくり眠れ」
巌雄の言葉は、百万遍の読経より心に響いた。僕は瞑目した。美智が噛みつく。
「ジィさん、戯言をぬかすんじゃねえ。立派な死なんてありゃあせん。死んだら負けじゃ。トクは立派じゃねえ。負けたんじゃ。ワシは絶対負けんぞ」
巌雄は、美智を見つめる。
「大した婆さんだよ。薔薇の知らせに逆らって生き延びているのは、あんただけだ」
「大したことじゃねえ。あっちへは行きたくないから行かねえって言っただけじゃ」
「それだけ大したことなんだよ。婆さんは、桜宮最高のクソッタレさ」
巌雄はじっと美智を見つめる。
「生きるも地獄、死ぬも地獄……死ぬも極楽、生きるも極楽、どっちにしても同じこと」
巌雄の言葉に美智は答えず、棺を睨みつけて言う。
「トク、ジンジョーセーユーゼーはお前にやる。どこぞでも好きなところへ持っていけ。この根性なしめ」

海堂尊『螺鈿迷宮』十八章 煙と骨 本文 天馬大吉 高原美智 桜宮巌雄 より

  • No.500 by 風人  2016-06-20 08:41:41 

「君って、結構面倒くさいヤツなんだね。黙っていればわからないことなのに。甘ったれなセリフに聞こえるけど、そればかりではなさそうだし……きっとこれまでずっと、一人ぼっちで生きてきたんだね」
白鳥の言葉が、切れ味鋭く僕の過去を断罪した。白鳥は続ける。
「要するに、天馬君には隠されミッションがある。だから客観的な視点で物を見なければならない。同時に桜宮病院とは表沙汰にはできない取引がある。それで単純な社会的正義から、この病院を一方的に弾劾する立場にもない、ということなんだね」
細部は少々不満だが概ねその通りだ。そうした時には四捨五入して、ビンゴ、と呟くことにしている。僕はうなずく。ビンゴ!
「わかりました。それなら今日から天馬君のことをコウモリ君と呼ぶことにしよう。こうして名づけてみると、我ながらとてもしっくりくるな。僕って天才かも。だけどよくわからないのは、天馬君がこの病院にそこまで肩入れする本当の理由だね」
ものすごく不愉快な気持ちにさせられながらも、その言葉には妙な説得力があり、僕は同意せざるを得ない。なかなか鋭いぞ、白鳥。
僕の中で不意に、ある夏の日の光景が甦る。

海堂尊『螺鈿迷宮』十九章 真夏の神話 本文 天馬大吉 白鳥圭輔 より

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