土佐人 2015-05-26 05:15:51 |
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11月『ブラックペアン1988』文庫化にあたり、映画「バチスタ」で桐生役の吉川晃司さんと対談。吉川さんにしみじみと「海堂さんってひょっとしてバカなんですかね」と言われた時は、その言葉、そっくりお返ししたい、と思ったが気の弱い私は口にだせなかった。やはり吉川晃司、『あばれはっちゃく』だ。
二度目の「たかじんのそこまで言って委員会」に出演。今度は声が出たので、ばきばき言いまくる。死因究明の議論なら、相手が誰でも負ける気がしねえ(by土屋アンナ@下妻物語)。講演七ヵ所。かなりへばる。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』History 海堂尊物語 2009◆海堂尊・4歳 より
ためらいながら、重い足取りで階段を上がり続けた俺は、ようやくその部屋にたどりついた。重い扉を押し開くと、薄暗い部屋に灯りが点る。人感センサーらしい。
灯りに照らし出された大講堂の内部を見て、息を呑む。
天井には青を基調としたフレスコ画が描かれている。天使と女神がたわむれるモチーフは、なだからな曲面で側壁に移行し、十二枚の扉には世界各地の神話の寓意が描かれている。つまりこの部屋は、十二の神話で支えられているわけだ。
よく見るとそれらはタイルを細かく貼り付けたモザイクでできている。
ステージ左側は三つ頭の犬、ケルベロスがモチーフになっていることに気がつく。“ケルベロスの塔を破壊する”という脅迫状の文言が浮かぶ。
その反対側、ステージ右側には美しい女性の半裸像が配置されていた。笑みを浮かべたふくよかな笑顔には笑窪(えくぼ)が浮かんでいる。その目は真っ直ぐに、身を低くしたら今にも飛びかかってきそうな猛犬に注がれている。愛の女神、プシュケだろうか。
碧翠院をなぞった構造のAiセンターだが、この部屋の内装だけはまったく違う。----この季節、この時間に、この窓から見える桜宮湾はきらきらしてとても綺麗なの。跳ね返りで俺に逆らってばかりいたその女性が、はにかんで告げた表情を、今でも、ありありと思い浮かべることができる。
海風の通り道だからとっても涼しいのよ、とも教えてくれたその部屋は確かに、真夏にもかかわらず今もひんやりしていた。
海堂尊『ケルベロスの肖像』19章 司法解剖が見落とした虐待 本文 より
ここがにこちゃんの家?
弟の虎太郎です
ばっくだんさー……。うん!
あはは、こんにちは……
お姉さまは普段は事務所が用意したウォーターフロントのマンションを使っているのですが、夜だけここに帰ってきます。
ウォーターフロントてどこよ?
もちろん秘密です。マスコミに嗅ぎ付けられたら大変ですから。
あはは……
どうしてこんなに信じちゃっているんだろう
u’sの写真や動画を見れば私たちがバックダンサーでないことくらいすぐわかるはずなのに
ねぇ、虎太郎くん。お姉ちゃんが歌ってるところとか見たことある?
あれ〜
ん?u’sのポスターだ!
いや、なんかおかしい!
え!?
合成っ!?
ああ……
ここがにこちゃんの部屋?
これ、私の顔と入れ替えてある
こっちもにゃあ!
わざわざこんなことまで……
涙ぐましいというか
アニメ『ラブライブ(二期)』第四話 宇宙No.1アイドル 高坂穂乃果 園田海未 南ことり 小泉花陽 星空凛 西木野真姫 矢澤にこ 東條希 絢瀬絵里 矢澤ココロ 矢澤虎太郎 より
季節はあの日と同じだが、この部屋に海風が吹き抜けることはもうない。
俺の中に保存されていた古い音源が、ところどころ雑音で途切れながら再生される。
----旧陸軍が設計したこの病院は、ある仕組みで簡単に崩れてしまいます。
どうしてあの時、あの女性はあんなに嬉しく笑ったのだろう。まるで破滅の闇をスキップしながら歩くのが楽しくて仕方がない、という様子で。
そう考えたその時、初めて俺は、記憶に保存されていた言葉がひとりのものではなく、ふたり分の女性の言葉が入り混じっていたものだったということに気がついた。
するとあの時、この部屋に俺は、ふたりの女性と一緒にいたのだろうか?
すっかりその事実を忘れ去ってしまっていた自分の記憶の曖昧さに愕然とする。
自分の記憶でさえ定かでないというのであれば、俺は一体この先何を信じていけばいいのだろう。
記憶の中の画像には、明るい瞳をした跳ね返りの女性の姿しか映っていない。かくの如く記憶というものは、いともたやすく捏造されるものなのだ。
封印されていた古い記憶が、建物の構造と共鳴して呼び起こされ、古傷のように苛む。これ一体、何の因果だろう。
遠のいていく記憶を追って深い淵に沈潜し、自分を見失いそうになる。
俺は静かに部屋を出た。胸にうずく、古傷の痛みに耐えながら。
海堂尊『ケルベロスの肖像』19章 司法解剖が見落とした虐待 本文 342の続き より
島津がライスケーキ症例で気道が確保されている事実を呈示すると、観客席から嘆息が漏れた。真っ先に反応したのは、医療事故被害者の会の飯沼さんだった。
「素晴らしいです。こうして死因が市民社会に呈示され、それに対し説明が加えられると、医療の質の向上に役立つでしょうね」
すると白いマスクを装着した医療ジャーナリスト、西園寺さやかが音声サポートシステムを稼働させ、電子音声で答えた。
「真実ガ、露呈スルノハ、素晴ラシイ、コトデス。デモ、望マヌ過去マデモ、露呈サレル、危険ガ、常ニ、ツキマトウ、デショウ」
それが一体、誰に向けられた発言なのか、誰にも理解できなかった。
海堂尊『ケルベロスの肖像』22章 サプリイメージ・コンバート(SIC) 本文 西園寺さやか 飯沼さん より
袋の鼠か・・・・
!!
10分隊だ 10分隊が 一方的に・・・・
あれは・・・・
まずい・・・・ ローターが・・・・
!?
ヌ・・・・ウ ウッ ウウ・・・ウ
行こうか 他のライダーも動き始めている
そして・・・・
10人目の仮面ライダーも
10人目・・・・ 「ゼクロス」
あちあち
!!
モグラ 急げ!!
モグラ・・・・ オレ・・・・「アマゾン」!!
ダメなんだよ・・そいつ バダンの再生怪人ってだけで・・・・
別人っていうか・・
俺達の知ってるモグラは・・・ 死んじまったまま・・
・・なんだ
チ・・チチ・・
・・・・・・・・そうか
あれが「アマゾン」・・・・
六番目の仮面ライダーか・・か
ゼクロス
守るぞ・・・・!!
漫画『仮面ライダーSPIRITS』15巻 第40話 ガランダー 仮面ライダーZX(村雨良) 仮面ライダーアマゾン(山本大介) 滝和也 岡村マサヒコ モグラ獣人 仮面ライダーX(神敬介・回想) SPIRITS6分隊 10分隊 より
「旧厚生省の名誉挽回やて?何や、それは?」
白鳥はうっすらと笑って、坂田局長の顔を覗き込んだ。
「二十年前、駆け出しの医系技官と体制護持に走った外科医がが共謀して、桜宮に花開こうとした桜の樹を無理やり引っこ抜いた、例の一件ですよ。今でも僕は、もしあの時に桜が植えられていたら、と夢見ることがあるんです」
坂田局長は目を固くつむって押し黙る。
海堂尊『ケルベロスの肖像』8章 霞が関のアリジコク 本文 白鳥圭輔 坂田寛平 より
上下巻には後日談がある。『バチスタ』が文庫化される際、宝島社は上下巻を提案してきた。さすがに論理的一貫性がないではないか、と編集Sさんに詰め寄ると、Sさんはあっさり答えた。「これは社の専権事項です」
なおも食い下がる私にぼそりと言う。
「文庫本のスタンダードサイズはこの厚さが一番美しいんです」
あう。世の中、私のロジックは通じない。
この物語で、『ハイパーマン・バッカス』なるウルトラマンのパクリ作品を登場させたところ、一部読者からかなり好評だった。当初はウルトラマン・バッカスとして円谷プロで映像化を目指した野心満々の企画だったが、「著作権上、問題なので絶対変えなさない」とI局長に言われ、泣く泣く変えた。私は編集さんのチェックも校正さんの指摘は九割は採用し、一割は我を通す。その一割は曲げたことがないが、唯一の例外がこのウルトラマン問題だ。ああ、円谷プロで見たかった。だが私にも意地がある。いつの日か書き下ろし作品を特撮ドラマにしよう、と一回り大きな野心を抱いて、挫折感に折り合いをつけた。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 2『ナイチンゲールの沈黙』(宝島社)本文 より
ど真ん中の剛速球、あとは野となれ山となれ、という気持ちで一気に書き上げた。脱稿寸前の六月『ナイチンゲール』進行を止め、一気に『ジェネラル』を書いた。苦労はすべて『ナイチンゲール』が引き受けてくれた。糟糠(そうこう)の妻である。モチーフは「飛ばないドクター・ヘリ」だ。NPO法人・ヘムネットの國松理事長とお会いした後、「吊るし」にあっていたドクター・ヘリ法案が国会を通過した。
◆格言3 江戸の仇を長崎で討つ(ちょっと違うかも)
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 3『ジェネラルの凱旋』(宝島社)本文 より
書いていて、いちばん楽しかった作品。昔の記憶だけで書き上げたため取材ゼロ。要は過去にそれくらい剣道に打ち込んだということだ。
(略)
単行本化の際に、速水の章を一人称から三人称に変更した。実に手の掛かる御仁である。
ブログ書評などでは、脇構えとか八相がなんてリアルじゃない、ファンタジーという感想があがったが、物語とはそういう荒唐無稽なものが、いけしゃあしゃあと展開するのが楽しいんだと思うんですけど、私。
ちなみに私は剣道三段である。だから脇構えや八相の構えが実戦では絶対に出現しないなんてことは、よーく知っているのである。そして日本剣道型にはきちんと保存されている、ということだって、よーく知っているのだ。
◆格言8 無念無想
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 8『ひかりの剣』(文藝春秋) 本文 より
(略)
取材後、あまりに夕張を意識しすぎた作品はやめようと思った。夕張で起こった医療問題は実は日本中の地域で起こっている普遍的な事態なので、夕張に囚われすぎると一般性は消失する。そこで北海道の架空都市、極北市にに舞台設定し公立病院が潰れるというセンセーショナルな物語にしようと考えた。ところが私の物語の中ではよくあることだが、物語が直後に現実化した。千葉の銚子市立病院の閉鎖問題が起こった。『極北クレイマー』連載中で、このままでは銚子市立病院事件をひき写したとだけと思われてしまうと焦ったりしたが、何しろ連載は週一回、どうにもならない。目の前でフィクションが現実に追い抜かれていくのを指をくわえて見送るしかなかった。
◆格言13 兵は拙速を尊ぶ
週刊誌連載は楽しかった。深津千鶴さんのイラストが楽しみで、駅の売店でちら見をすると立ち読みしてしまう。自分が書いたはずなのに……。バカである。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』13『極北クレイマー』(朝日新聞出版)本文 より
(略)
それにしても『バチスタ』を書いた頃、私の物語は現実を一〜二年先行していると自負していたが、このあたりで現実の速度に創作スピードが追いつかなくなりつつあった。
物語と現実未来が融合してゆく感覚を何度か経験した。これが物語の予見性というものだろう。精微に現実を写し取ったフィクションは、時に未来を創造するものなのだ。なんちて。
帯には「厚生労働省をブッつぶせ」なる過激な惹句が踊ったが、この帯は編集Sさんの専権事項で、私の意思ではない。直後に厚労省元技官の連続殺傷事件が起こり、とばっちりが飛び火するんじゃないかとびくびくした。結局事件は単なる通り魔だったが、そもそも誤報に近い見込み報道が受用されたのは、社会の空気を反映しているからだ。ああいうテロ類似行為の暴力行為は絶対に許されるべきではない。どれほど厚労省が腐敗していたとしても、言論と論理で追いつめればいいだけのことだ。
「厚生労働省をブッつぶせ」は、実力行使ではなく言論と事実呈示で自然に導かれるゴールなのだ。現実のイノセント・ゲリラにとって、テロ類似行為は迷惑千万なのだ。
(略)
◆格言14 義を見てせざるは勇無きけり
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』14『イノセント・ゲリラの祝祭』(宝島社)より
海堂作品はミステリーじゃない、という声が聞こえ始めていた頃なので、一度きちんとミステリーを書いてみたかった。どうせ書くならオファーをいただいた中では東京創元社さんだ。何しろ『ミステリ・フロンティア』、これならさすがにミステリーと認知されるだろう。我ながら負けず嫌いである。
(略)
コンゲームを書いてみたかった。私の中でのコンゲーム最高傑作は初期ルパン三世テレビ版だ。まあ私の教養などはその程度である。そんな折、一億円の地域振興費の記事を読んだ。土佐高知の金のマグロ像が盗まれたという話が面白く、その時、黄金でできた地球儀のイメージがぽっかり浮かび、あっという間にストーリーが出来上がった。
(略)
よろよろと書き上げた時、自分はつじつま合わせの天才だと思った。でも残念ながら『このミス』にはかすりもしなかった(泣)。
◆格言9 捕らぬタヌキの皮算用
作品自体の評価は二分している。他の作品を読んできた人にはおおむね不評である。だが、この本から入った人にはかなり好評だったりする。そしてこの作品から他へ流れていった人は、逆に他の作品を読んでおったまげているらしい。
こうしたこともシリーズ物の功罪なんだろう、と思う。
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 9『夢見る黄金地球儀』(東京創元ミステリ・フロンティア) 本文 より
『ジーン・ワルツ』を出産、じゃなくて出版した後、続編依頼に生返事していたが、ある日とうとう逃げきれなくなってしまった。
(略)
最初はなかなか話が進まない。何しろ結末がわかっているから、推進する意欲が湧かないこと甚だしい。ところが連載ニ、三回を過ぎたあたりから、物語の主人公の母親が暴走し始めた。あっちこっちをうろうろして、物語世界を嗅ぎ回るのだ。一見地味な、老年に近いおばさんのパワーが物語の本筋を翻弄し始めて、最後にはどんな風に決着をつけるんだ、と他人事ながら心配になった。いや、もちろん結末は知っているのだが、このまま無事にたどりつくとは思えず、少々焦った。なのに、きわめてナチュラルな結末に着地したのには、筆者である私がいちばん驚いた。
(略)
代理母問題は繊細な問題を孕んでいる。社会の対応も一貫しないし、そもそも誰が責任もって考えているのかすらはっきりしない。最前線の問題が無責任状態におかれるのが日本社会のデフォルトであるなら、それに対し異議を唱えることは社会のためだ。根津先生のような方がいらっしゃることに市民社会は感謝すべきだろう。
だが、そんな私個人の感情とはうらはらに、物語は能天気に進んだ。小説とは、そのようなものである。医学に尊厳があるように、小説には小説の尊厳があり、両者は必ずしも一致しないのだ。
◆格言 はるのうみ ひねもすのたりのたりかな(蕪村)(読めばわかる)
海堂尊『ジェネラル・ルージュの伝説』自作解説 28『マドンナ・ヴェルデ』(新潮社)より
いいかげんなヤツばっかでも
くそまじめだけでも
世界は完璧にならない。
神様はえらい。
NHK Eテレ『ヨーコさんの“言葉”』第7話 「神様はえらい」より
病院長室の扉を開けると、そこにヤンチャ坊主が座っていた。
机に足を長々と投げ出している。私を見て、あわて居住まいを正そうとするが、今さら間に合うはずがない。
コイツときたら、どこにいても思い通りにふるまわないと気が済まない困り者だ。
だが、コイツには何を言っても無駄だ。何しろ、天上天下唯我独尊なのだから。
(略)
「いかがですか、北は?」
院内で不始末をしたコイツを、私は北の果てに飛ばした。
苦汁の決断だった。ヤツの行為は間違いなく独断専行であったが。たが、おかげで救われた命もあったのだから。
社会や組織では、正義が勝つとは限らない。
そんなことはわかっている。だが……。
暗くなる気持ちを忘れようと、軽口を叩いてみる。
「君は寒いのが苦手だというウワサでしたが、お元気で何よりですね」
半分は本音だ。コイツの悪友の機転で、関連病院への出向で済んだのは不幸中の幸いだった。コイツにとって最大の誤算だったようだが。
それにしても、これだけ存在感のある代物を前にしながら、何も言わないのはどういうつもりだろう。
ひょっとしてこれは、新手の嫌がらせだろうか。
私は机の上を見て、口を開きかけるが、黙り込む。
(略)
「あと少しだけ、お時間をいただけませんか?」
ちらりと時計を見る。時間に正確な娘だから、今頃は病院長室の前の廊下を歩いているに違いない。
そろそろ種明かしをしてもいい頃合いだろう。私は何としても、コイツがあわてふためく様を、この目で見てみたいのだ。
(略)
「今からお見えになるのは、君がおいてけぼりにしたあの娘です。今度、新師長に任命しました。君からも是非、お祝いを言ってあげてください」
ヤンチャ坊主が腰をぬかしそうになるのが手に取るようにわかる。
あわてふためいて、立ち上がろうとするヤツを見て、微笑する。命がけの修羅場では軽々と行動するクセに、それ以外では相変わらずからっきしなんだな、思う。
煙草に火をつけ、深々と吸い込む。
旨い。
ヤンチャ坊主がドアノブに手をかける。そこにノックの音が重なった。
ゆっくりと扉が開く。
固まってしまったヤツの後ろ姿を見つめながら、私は頬にひっそりと、会心の笑みを浮かべた。
海堂尊『ケルベロスの肖像』ボーナストラック Nonsmoker’s View 古巣への帰還 本文 高階権太 速水晃一 より
突然、病院長室の扉が開いた。
あわてて居住まいを正そうとするが、間に合わない。俺は、行儀悪くソファに沈み込み、足を長々と机に投げ出していた。
まったく、この人はいつも唐突に現れるから困るんだよ。
といってもここは病院長室だから病院長は自室に戻ってきただけ、それを突然だとか、いきなり失礼などと責めるわけにもいかない。
失礼なのは勝手に病院長室に入り込み、勝手にくつろいでたのは俺の方だ。この状況では、どんな風にとがめ立てされたとしても、文句は言えない。
病院長は俺を見て目を見開いたが、すぐに微笑し「ほう、千客万来ですな」と呟いて、机に歩み寄る。
千客万来って、客は俺しかいないのでは、思ったが黙っていた。
そんな自分は今や、行儀の悪さでは招かれざる客になってしまっているわけだし。
(略)
俺はこの病院でどでかい不始末をしでかし、最果ての病院に飛ばされた。
その処分に不満はない。飛ばされても仕方がないようなこてをしたのだからそのこと自体に文句はない。
だが……。
「君は寒いのが苦手だというウワサでしたが、お元気そうで何よりです」
やっぱり知っていやがったんだな、この人は。
俺はげんなりして病院長の顔を見る。
そう、俺は寒いのが大の苦手だ。
だから不祥事の責任を取って大学病院を辞職したら、南の方の病院でのんびり過ごそうと目論んでいた。なのに俺を大学に縛り付けておくために、病院長とつるんだ俺の悪友がしゃしゃり出てきて、北の果ての関連病院という、俺の希望と正反対の環境に飛ばしやがった、というわけだ。
病院長は机の上の代物を見て何か言いたげたったが、口を開きかけて途中で止める。
(略)
こういう時に限ってチュッパチャプスを切らしている。病院長も内ポケットから煙草を取り出すが、空箱だったらしく握りつぶしてゴミ箱に捨てる。
それからふと思いついたように、引き出しを開ける。
予備の煙草と一緒に取り出したのは二本のチュッパチャプスだ。
そのうち一本を俺に差し出す。
「どうも」
コーラ味は苦手なんだよな、と思いながらも、俺は礼を言って受け取る。そしてふたりして棒付きのアメを舐める。
(略)
しかし、男ふたりがアメ玉をしゃぶっている図はどうにも様にならない。
こういう時は、せめて煙草を吸えればよかったな、なんて思ってしまう。
(略)
「君がいてくれないと私が怒られてしまいます。今からお見えになるのは、君がおいてけぼりにしたあの娘です。今度、新師長に任命しました。君からもお祝いの言葉を言ってあげてください」
俺は腰を抜かしそうになる。
冗談じゃない。今の俺が、どんな顔してアイツに会えるというんだ。
俺はようやく、「千客万来ですね」という、最初の病院長の言葉の真意を理解した。
あわてふためく俺を見て、病院長は、いつのまにかくわえていた煙草から、紫煙をくゆらせる。
余裕しゃくしゃくで、実に旨そうに吸ってやがる。まったく、油断も隙もありゃしない。
急いでドアノブに手をかける。その時、扉の向こうでノックの音がした。
固まってしまった俺の目の前で、ゆっくりと扉が開いていく。
俺は背中に、いじわるな、だが楽しそうな病院長の視線を感じる。
海堂尊『ケルベロスの肖像』ボーナストラック それから…… Nosmoker’View 古巣への帰還(上のタイトルは突然の来訪者) 速水晃一 高階権太 より
一文字さん・・・・ た・・・・ 助けて・・・・!!
!?
千恵さんか!?
どうした!? 今どこにいる!?
私達・・・・ 情報のあった教会に潜入して・・・・
でも・・・・ その情報は 罠で・・・・・
バッ バカヤロウ!!
いやあああ
森丘さん 丸山さん 赤井さん・・・・
あと・・・・ 二人・・・・
む・・・・ 無力・・・・ なんて・・・・ 無力だ・・・・
やはり 人間の力では ショッカーを叩く事などできないのか
何故だ
何故 キサマらは平和に暮らそうとしている人々を殺すんだ
「何故」?愚問だ
我がショッカーが求めるは「力」 「力」あるものが「力」なきものを贄(にえ)とし 次なる理想を望むのだ
弱き者よ キサマらはなにをしにここにきた?
その脆弱な怒りと肉体で
哀れなり人間 親の 子の 友の そして己の血をも 塗り重ねて 我らが強さの足跡となれ
!!
誰だ!!
仮面ライダー
!! ・・・・じゃ ねえけどよ
一文字さん!!
!!
どうした・・・・ 一人で死ぬのが怖くて わざわざ処刑されにきたか・・・・
汚職・・・・ 公害 詐欺 エログロ 傷害 殺人
この世には救えねえ事が多すぎる
だったら 剣よりペン
真実を暴くやり方を選んだつもりだった
だがよ・・・・
んなこたあ どうでもよくなったぜ!!
キサマ
何者だ
俺か
俺は・・・・ 柔道六段 空手五段
人間
一文字隼人
「一文字隼人」・・・・か
ククク 面白い素材だ
こやつこそ あの「仮面ライダー」を抹殺するための「更なる男」に相応しい・・・・!!
漫画『新仮面ライダーSPIRITS』一巻 第1話 孤独 一文字隼人 死神博士 ショッカー被害者 再生怪人軍団 より
----そういう新堀さんの地道な努力が『仮面ライダーアマゾン』の抜擢に繋がったんだと思いますが、あれはどのような形で決まったんですか?
あのときも師匠の高橋さんが推してくださったんです。「新堀も良くなってきたし、試しにやらせてみよう」と。それはそれで有り難かったんですけど、最初に聞いたイメージが「バッタではなくイモリのようなスタイル」「地べたをはいずるように動く」「殴る・蹴るのではなく、引っかく・噛みつく」といった感じでね。これまでの仮面ライダーとは全然イメージが違うわけですよ。だからと言ってそのまんまやるわけにもいきませんし、自分としてもかなり迷いながらポーズを作っていきました。
俺は身体が柔らかかったので、アマゾン独特の足を広げる構えはあまり苦になりませんでした。中屋敷さんからも「お前は低く構えても絵になる」って言われましたよました首と手が長くて、胴が長かったからなんでしょうけど(笑)。
(略)
----すでにその頃から後進の育成に当たってらっしゃったんですね。ちなみに2008年には仮面ライダーアーク役として-17年ぶりにスーツアクターに復帰されましたね。
いやぁ、本当はウチの矢部(敬三)がやる予定だったんですけど、舞台の都合でどうしても無理だということになってしまった。それで冗談半分に「何でしたら俺がやりましょうか?」って言ったら、「え、やってくれるんですか!?」という話になってしまって……。まさかこの歳でまた仮面ライダーに入るとは思ってもみませんでした。
(略)
ただ、アークの変身前を演じている堀内健くんがアマゾンの大ファンだったらしくて、撮影の合間にはその話で大盛り上がり。おかげでリラックスして演じることが出来ました。
漫画『仮面ライダーSPIRITS』15巻 巻末特別インタビュー 仮面ライダーアマゾン スーツアクター役 新堀和男 より
村枝:たしかに『V3』の後半あたりから「マジンガーZ」が台頭してきましたよね。だからといってライダー人気が下がってきてるだなんて感じは、まったくありませんでしたよ。少なくとも俺的には『ストロンガー』まではイケイケの状態だった。
鈴木:うん、わたしもそうでした。次の『アマゾン』についてはちょっとダメでしたけど、特別、ライダー人気が落ちているという感覚はありませんでした。そもそもアニメと実写では比較対象が違いますしね。
内田:そうかあ・・・・やっぱり業界というのは過敏に反応しすぎるのかもなあ。
鈴木:2〜3年経って振り返ってみればわかることなんでしょうけど、現在進行形で観ているわたしたちには伝わってこない情報ですよね。当時は今みたいにネットがあるわけじゃないし、マジンガーが出てきたことでライダーが脅かされているだなんて夢にも思わないわけですよ。むしろ「いろいろ出てきて楽しいじゃん」くらいの感じで。
村枝:たとえば『V3』という番組にしたって、V3だけがヒーローじゃない。そこには1号と2号もいるわけです。『X』なら1号からライダーマンまで、プラス4人の仮面ライダーがいる。そういう足し算で成り立っている世界ですから、パワーアップこそすれ、人気が落ちてるだなんて感覚がないんですよ。
もっというと、ライダーってタテ社会じゃないですか。新しい仮面ライダーがどんなに強くたって、元祖であり先輩である1号の地位は決して揺るがない。それはそのまま2号、V3、ライダーマン・・・・と、絶対的な序列にも繋がっている。歴史的な厚みが違うだけなんです。それはウルトラも同じ。この2大シリーズだけは別格なんですよね。
漫画『新仮面ライダーSPIRITS』2巻 「仮面ライダー」Time Slip 座談会 鈴木美潮 内田有作 村枝賢一 より
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