蛙 2015-05-23 17:44:04 |
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ハロー、ミシェーラ。突然ですがお兄ちゃん、口から花が出るようになりました。
「ゲホッ、ゴホッ、カハッ………ふぅ…」
突然の咳の後の花は既に日常と変化していた。
事の始まりは1ヶ月前、単独の時に血界の眷属と接触した時に、
「アンタ片想いしてるだろ?俺が手助けしてやるよ」
という言葉と同時に謎の錠剤を口に突っ込まれ、そのまま呑み込んでしまったのが原因だ。
血界の眷属は一瞬で飛び去り、どうしたものかと途方に暮れた時、症状は現れた。突然の嘔吐感に襲われ、堪らず胃の内容物を吐き出した。先程食べたばかりの昼食の中に、有り得ないものが混ざっている。そう、花が混ざっていたのだ。
僕はブラッドベリ総合病院に向かい、診察を受けた。ルシアナさんに告げられた病名は…
「嘔吐中枢花被性疾患。通称花吐き病。厄介なものにかかったね。」
「な、治るんですか…?」
そう聞くと、彼女は言葉を濁した。
「治るけど、治る可能性は本人次第かな…この病気は片想いしてる人しかかからないから。」
「へ?……ま、まさか…」
「そう、片想いの相手と両想いにならないと治らないよ。」
その言葉を聞いた途端、目の前が真っ暗になった。同時に薬を飲ませた血界の眷属に殺意が湧いた。
僕の恋は、その種を植えるまでも無い程、絶対に叶わない。だからこそ、僕はこの病を一生背負って生きる
事を決めた。
なのに…
「レオナルド君…?」
見られてしまった。しかも、想い人のクラウスさんに!
クラウスさんは僕が口から花弁をポロポロと吐き出されているのを見て、
「だ、大丈夫かね?!」
と、言いながら僕に近付いて来た。しかし、そこで僕は思い出した。
「こ…来ないで…下さい…」
この病気は、吐き出された花に触ると伝染るのだ。それだけは避けなければならない。
だが、無情にも彼は気付いてしまった。
「それは、花吐き病…かね?」
僕はバレてしまったショックで何も言えず、俯いて押し黙った。しかし、永遠の様な沈黙に耐え切れず、僕は事務所を飛び出した。
扉が音をたてて閉まったのを確認すると、顔に傷跡のある優男―スティーブンはそっと物陰からその姿を現した。
「追い駆けなくて良いのかい?」
「私に…そんな資格など…無い…」
するとスティーブンは呆れるように大きく溜め息を吐いた。
「君はやっぱり鈍感だね…」
「?」
しかし、赤髪の紳士は気付かない。
「あ~…君は彼の事が好きなんだろう?」
「なっ!?」
「彼もまた、君と同じ想いを抱いてたと言う事だよ。」
分かったらさっさと行ってこいと言った男にクラウスは…
「…礼を言う。」
と一言放つと駆け足で出て行った。
そこで、7徹目のスティーブンは…
「…うん、良い仕事したから寝よう。」
とムードもへったくれも無い言葉を言い放って自宅へと急いだ。
その頃、レオナルドは見知った公園のベンチに座っていた。どうやって辿り着いたかは分からないが、酷く疲れていた。
(クラウスさんに会わせる顔が無いなぁ…)
そんな事を考えながら、夜の街を眺めていたら、見覚えのある赤髪が近付いて来るのが見えた。
(あれは…)
とても、愛しい、ひと。
「レオ!」
息を切らしたクラウスさんが僕の名前を呼んだ。
(追い駆けて来てくれたんだ…)
「クラウスさん…」
事務所からここまでの距離は相当なものだ。それを車も使わず、その足で駆け付けてくれた事が、レオはとても嬉しかった。
「レオ、今まで君の想いに気付けなくて本当に、すまなかった。」
その言葉に僕の体は少し強張った。
「だからここで、私の想いを晒そう。」
拒絶されるのでは無いかと、とても怖くなった。耳を塞ぎ、目を閉じて、外界からの情報を完全にシャットアウトして、現実から逃げたくなった。だが…
「私は、君が好きだ。」
「…………………………え?」
(クラウスさんが僕を、好き?)
頭がその言葉で埋め尽くされ、混乱してしまった。
そんな時に…
「私はまだ、君の想いを、君の口から聞いていない。答えを聞かせてくれないか?レオ。」
僕の顔は一瞬で耳まで朱に染まり、恥ずかしさで俯いてしまった。だが、やっとの思いで声を絞り出した。
「……僕も…クラウスさんの事が…好き…です………」
その言葉を口にした途端、今までに無い嘔吐感が僕を襲ったが、クラウスさんが背中を擦ってくれたお陰で幾分か気分が落ち着いた。
息を整えた僕は恐る恐る、吐き出された物を見た。
そこには、とても白い…否、白銀の百合があった。それが出るのはこの病が終わる時だと、ルシアナさんは言っていた。やっと終わったのだ。長い 長い、苦しみが…。
そう思った僕は少し泣いた。その間、クラウスさんはずっと僕を優しく抱き締めてくれた。
それを知っているのは、珍しく霧が晴れて顔を覗かせていた、美しく輝く満月だけ…。
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