臆病な自分と冷たい相手

何でもないようには見えないぞ。
なんだ、はっきり言え。
(言いながら、流れる涙をセーターの袖で拭ってやり、「男が泣くな、みっともない」と続け、)

いえ、本当に何でもないです(ほんのり作り笑いをしては上記を述べて相手の言葉を聞き泣いてはいけないと勝手に思い込んでしまい服で涙をゴシゴシと強く拭いていき)


(すみません、今日はもう落ちます。ありがとうございました！)

本当だな…？
後から何か言うなよ、俺は面倒な事は嫌いなんだ。
(相手から手放すと腰に手をあて確認し、)

(/了解です
また明日よろしくお願いします！)

えっと、僕は触れられるのがダメなんです(面倒なことが嫌だと言う相手の言葉に小さい声でボソッと呟き)

(上げます)

触れられるのが…？
……まぁいい。とりあえず入れ。
(相手の呟きを聞き取り、反芻した後少し考えるも、溜め息ついて踵返し、)

はい(入れと言われれば大人しく家のなかに入っていき何をすればいいのかと相手をじっと見て)

先に言っておくが、この家に執事はお前しかいない。
他に使用人は数人いるが、人手が足りていない上、執事という役職上いちばん働く事になるのはお前だろう。
だから……
(相手に背を向け歩きながら言えば、くるりと振り返って、)
まずは他の使用人の仕事を訊いてこい。そしてできるようになれ。
お前が人に馴れていないのはよくわかった。だが、俺はそんな事は知らない。
(びしりと人差し指突きつけ、相手には酷であろう事を命令し、)

はい、それは承知していますし仕事は大体覚えました(相手の命令を聞き自分は人に触れられるのが無理だと言うハンデがあるので大抵の仕事は覚えたし昔のことがあるので大抵の仕事は体に染み付いていて｢だから他の方の仕事を訊いてくるのは…｣嫌だと言うか無理と言う涙目で相手を見て)

なんだ、そうなのか……。
だったら仕事自体に問題はないな。
(腕を組めば独り言のように呟くも、再び涙目になった相手に「だが、それでももっと人に馴れろ。使用人が無理なら、せめて俺に馴れろ。話す度に泣かれたら面倒でならない」と冷たく言い、)

ごめんなさい、もう泣きませんからなにもしないでください(相手の冷たい言い方に昔のことを体が覚えていて体を震えて目をギュッと閉じて泣かないようにしていて)

まだ何もしてないだろう。
それと、もっと堂々としろ。
(怯えだした相手に軽く苛立ちながら言い、おどおどとした相手の様子に我慢できなくなって指摘し、)

はい、すみません(苛立っている相手を見ては腕を強く握り爪をたてたせいで少し血がにじんで)

だから堂々としろと言ってるだろう…っ。
(相手の様子にいよいよ我慢できなくなり、相手に触れる面積は最小限にと意識して相手の顎に指をかけ、「まずは顔を上げろ、そして目を開けろ」と無理矢理上を向かせ、)

でも…(昔だったら主人とは顔も会わせてはいけなかったし泣くのなんて持っての他感情を出してしまえば暴力をふられる世界だったため相手に触れられては無意識に体を強張らせて)

……すぐに馴れろとは言わない。
だが、俺にくらいは早く馴れろ。
毎回毎回こんな調子では俺が困る。
(これ以上はやめた方がいいと判断し、手を放せば矛盾した事を言い、踵を返し歩き出し、)

(/すみません、少し落ちます！)

わかってますが…(相手の言葉に頭ではわかっているが体が無意識に体を強張らせて相手に慣れると頭で考えていて小さく相手の服の裾を小さく握り今自分にはこれが精一杯で)

(了解しました！)

……ふん、やればできるんじゃないか。
(相手に服の裾を引かれ立ち止まり、軽く振り向くと自分にしては珍しく微笑み、)