僕 2015-05-14 13:16:14 |
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(タイミングの悪さを誤魔化すように彼の手を取ると彼からも握り返してくれて、その後には自分に負けず劣らずの愛の告白が続く。自分から離れるなと言った後は真っ赤な顔で視線を逸らされてしまったのだが、彼も同じように思っていてくれていることが分かり、ただただ嬉しくて「うん。ありがとう。」そう言うのが精いっぱいで、もう一度彼の手を握り返した。この先も彼が今の気持ちと同じく自分を思ってくれている保証なんてどこにも無い。彼よりも数年先に生きている自分の方が、それは良く分かっているつもりだ。だけど、今この瞬間自分との未来を見据えてくれていることが分かっただけでも十分だ。その未来がどこまで先なのかは些か不安なのだが…。まさか老後なんて言われてしまえば、流石に自分もそこまでは未知の世界。時々突っ走ってしまう彼の思考を不安に思いながら、そこは流すことにした。時間を見れば昼はとうに過ぎている。本当なら一緒に昼メシでもと思っていたのだが、そこまでの時間は無い。ベンチから立ち上がり)昼メシでも一緒にと思ったんだけど、時間あんまり無くて。駅まで送るよ(ベンチに座る彼に手を差出し立たせる。一緒に駅まで歩きながら、先程彼が佐伯の言葉を気にしていたことを思い出した)遊ぶって…。なに?佐伯のこと気になるの?
(頑張って放った言葉に対して"ありがとう"そう返ってくると嬉しくて嬉しくて抱きつきたくなるが、此処は公園で誰に見られるか分からないと我慢する。今は彼の手を握っているだけで十分だ、自分のこの思いが伝わる様にと彼の手を力を込めて握る。これから先もずっとずっと一緒に居る!口には出さないが心の中でこういう時だけ都合良く神様の存在を信じて誓う。老後の介護もどんと来いだ!立派に果たしてみせる!彼の世話が出来るなんて本望だ!実際の介護がどれほど大変か知りもせずやる気だけは満々で、その為には柔らかくて美味しい料理も作れる様にならなきゃ!なんて呑気な事を考えていると彼がベンチから立ち上がる。見上げると手を差し伸べられ立たせてもらいながらあまり時間がないと言われ時間を確認すれば自分ももうすぐ学校へ行かなくてはいけない時間で、気を利かせて送ると言ってくれる彼に「一人でも帰れるのに。」と言いつつもお言葉に甘える事にした。並んで歩きながらさっき初対面を果たした佐伯さんが気になるのかと尋ねられ左右に首を振り「別に気にはならないけど、遊ぼうって誘われちゃったし…嫌って訳じゃないけど断ったりするのは失礼かなって。」と思っていた事を素直に話す。)
(本当は駅まで手を繋いで送ってあげたい気持ちで一杯だったのだが、流石にわずかに残っていた理性がそれを留めていた。何でもないように2人して駅まで、ボチボチと会話を交わしながら歩みを進める。それにしても、さっきの彼の意気込みは一体なんだったのだろうか。聞いてみたい気もするが、突っ込んだところで墓穴を掘るのも恐ろしく、考えた末にそのままにしておくことにした。本で読んだとか言って、不随になった自分を甲斐甲斐しく世話をするなんて言われた日には立ち直れないこと必須だ。気を取り直して佐伯の話に戻す。正直、これから毎日あいつに真尋のことを聞かれるのは精神衛生上非常に良くない。なおかつ、真尋のことを説明するには一度3人で飲みの場を設けるというのはどうだろうかと考えた。佐伯は問題無いとしてあとは彼氏次第だ。嫌と言うなら勿論却下だし、それでも良いというなら今日にでも一席設けたい)真尋、今日はバイト無かったよな。もし嫌じゃなかったら、佐伯も誘って夕メシでもどう…かな?
(駅へ向かって歩いているうちにこのまま彼を家に連れて帰ってしまいたい、なんて思ってしまうが流石にそんな事はしない。今朝は会えなかった為もし彼が忘れ物をしなかったら学校から帰って彼が帰って来るまで会うことが出来なかったと考えると彼には悪いが忘れ物をしてくれて良かったと思ってしまう。そんな事を考えていると佐伯さんも誘って三人でご飯に行かないかと誘われた。自分はてっきり佐伯さんと二人で遊ばなくてはいけないのかと心配していたのでほっとする。彼も一緒だし、彼が同僚と居る所を見てみたいと思い「いいよ、今日は5時に学校終わるけど篤達は?」集合はどうしようかと尋ねる。自分の知らない彼が見られるかもしれない、それにこれで佐伯さんに遊ぼうと言われていた事は無しになりそうだし一石二鳥だ。後、念の為に佐伯さんに篤は僕のだってちょこちょこアピールして取らないでよって見せつけとかなきゃ。と彼とは全く違った事を考えていて。)
(無計画な思い付きの提案だったが、彼も夜は時間が空いているらしくスムーズに約束を取り付けることが出来た。幸い自分の予定も今日は午後からのプレゼンだけなので遅くなりそうな要因は無い。あいつは…おそらく大丈夫だろう。万が一予定が入っていたとしても、あいつにとってこんなに興味を引く誘いは無いはずだから、喜んで乗ってくると踏んだ。いつも外に出るときは彼と2人だから、たまにはこういう機会があっても良いだろう。ふと時間を見ると、そろそろ社に戻る時間が近づいていた)立ち話のつもりが随分長くなってしまったな。こっちは6時には終わると思うから、少し待たせちゃうけど7時集合でも良いかな。場所は…。そうだなぁ。ここら辺はオフィス街であんまり店も無いから、隣の駅にしようか。それなら真尋の学校から少し近くなるし。(初夏の風が公園内の木立を吹き抜け、彼の柔らかい髪がさらさらと揺れる。キレイだなんて思えば、たまらず指を伸ばして抱き寄せる。誰も居ないことを良いことに頬に口づけて照れ臭そうに笑う)あとですぐ会えるって分かってるのにな。そうだ。今日何食べたい?おっさん2人もいるんだから、遠慮せずに食べたいもの考えといて。(そう呟いた後、彼を解放して駅までの道を歩き出した)
(7時か…学校終わった後は多分友人と少し話したりしてから帰る事になるだろうし、時間があれば本屋さんにでも寄ってから来ればいいし余裕のある時間で丁度いい。場所も彼が指定してくれれば異論はなく頷く。「分かった、じゃあ7時に隣の駅ね。着いたらまた連絡するよ。」今度は入れ違いにならない様にしないとな。そう言えば、佐伯さんの予定はどうなんだろう…もし来れなくて二人でも、それはそれで全然構わないけど。さらりと心地良い程の風が吹き抜ければ靡いた髪が顔に掛かり、少し邪魔そうに退けると不意に抱き寄せられドキッとする。内心戸惑い突然どうしたんだと彼を見上げると頬に柔らかい感触を感じ横目に見ると彼に口付けられていた。頬が熱くなるのを感じる。彼が自分と離れる事を名残惜しく思ってくれている事を知ると嬉しいけれど気恥しくもあり「たった数時間後でしょ。」なんて言うも自分も気持ちは同じで、照れ臭そうに笑う彼が愛しくて可愛くて見惚れてしまう。食べたい物を考えておくよう言われ歩き出した彼の隣を歩きながら「あ、僕居酒屋行ってみたい。篤達は行くんでしょ?僕まだ行ったことないんだよね。」と大人のお店だというイメージで友達となんて行ったりしないからこれを期に行ってみたいと訴える。)
(これから仕事に向わなければいけないと言うのに、この甘い空気は実に毒だ。勤労意欲をガッツリと削がれてしまう。気分を切り替えて歩みを進めていると、残念ながらあっという間に駅ついてしまった。たった数時間後に彼に逢えることが分かっているにも関わらず、もうお別れかと思うと寂しくも思う。どんなところに行きたいか尋ねると、てっきりイタリアンやフレンチなんて言われるかと思ったら、意外にも居酒屋なんて言われてしまい肩透かしにあった。そういえば、彼はあまり飲みに行ったりしないと言っていたので、そう言ったところには行く機会があまり無いのかもしれない。であれば、あまり気取ったところよりも、料理が美味い店のほうが良いかもしれないな)分かった。良い店探しとくから。とりあえず会社出るときに連絡する(再度今日のことについて感謝の言葉を告げた後、彼の姿が見えなくなるまで改札で彼を見送った。社に戻ると、にやにやとこちらを見つめる視線を感じ、視線の元凶に無言で歩み寄って一言告げる)今日、夜明けといて。(そう言って相手の反応も待たずに立ち去ろうとすると、間髪入れずに思った通りの返事が返ってきた)了解。お前こそ、残業なんてダサいことすんなよ。
(今から学校かぁ…普段は行きたくないなんてあまり思わないのに今日は凄く行きたくない。別にサボったってどうって事ないのだが、自分はサボれても彼はサボったりなんて出来ない。彼も今から仕事を頑張るのだから自分も頑張ろう。まだ少し歩いただけの様な気分なのにもう駅に着いてしまった、さっきは直ぐ会えるなんて言ったのにやっぱり名残惜しい。居酒屋がいいと提案したのだが自分はお酒が得意ではない、そういう人はあんまり行かないのかな…なんて考えていると彼が美味しいお店を探しておいてくれると言ってくれた。楽しみだ、初めての居酒屋…ちょっと大人になった気分だ。「有難う、じゃあまた後でね。」軽く手を振ると寂しい気持ちを抑え込み何ともないフリをして別れる。その後は、電車で家の駅まで帰って途中で昼食にとコンビニのおにぎり二つとシュークリームを購入して帰宅した。昼食を済ませば学校へ向かい、何時ものメンバーと講義を受ける。)
(社に戻ってからは、彼から受け取った資料のおかげでスムーズにことは運んだ。先方へ向かい、弱小ながら我が社のコンセプトである「ロウコスト・メニータイプス」について計画通りにプレゼンテーションを行うことが出来た。安かろう悪かろう。こと住宅建物に関してはまさにこれが当てはまるのではないだろうか。良い資材を使ってそれなりの敷地を取れば、誰しもが満足する居住空間が出来上がるのは当たり前の話だが、ほとんどの一般ユーザーがそうでは無い。そんな中で、強いられる訳では無く自ら選んだという充足感をユーザーに与えることが出来るという選択肢を用意することがうちの売りだった。もちろんメーカー各社には随分と頭を下げて、ここまで辿り着いたのだが。柄にも無く熱弁した後、ふと我に返ると先方から拍手が上がった。上気した顔で隣を見ると、ここまで一緒にプロジェクトを進めてきたユキちゃんから「グッジョブ」というように親指が上がった。全てとまでは行かないまでも、うちが潜り込めるスペースは確保できたようだ。安堵して席に着く。しばらく先方の上役と話したのち、会社に戻ってきた。時間は18:30。今日は残業は無しということで、本日の同伴者である佐伯を迎えに行くことにした)
(5時に講義が終わり何時もの様に雑談して帰るのだと思っていたが、翔太と拓未はバイトがあり優一郎もまた用事があるとかで急いで帰ってしまった。何時もは自分が先に別れる事が多いのだが今日に限っては反対で、何か少し寂しい。7時まで時間はあるし本屋さんで時間を潰そうと教室を出るとばったりと香菜に遭遇した。彼女はこれから帰る所らしく自分は空き時間があるのだと告げれば暇潰しに付き合ってくれると言ってくれ、大学を出れは帰る方向は違うので校門まで一緒に行って少し話す事にした。学校の事、友人の事などたわいもない会話をし、今日は夜に居酒屋に行くのだと自慢気に言えば少し笑われ行った事あるのかと問えば何回かあると答えられショックを受ける。普通に家族で行ったりもするらしい、自慢気に言った自分が恥ずかしくなる。詳しく尋ねるとやはり大人の人が多く皆お酒を飲んでいるらしい…そんな所に行くのなら大人っぽい格好の方がいいのではと思い「ね、髪とかこうやって行ったら変かな?服もこれで大丈夫?大人っぽく見える?」と前髪をかき揚げ格好を気にすれば彼女とでも行くのかと聞かれ「好きな人と!あと、その友達と行く。」と答えるとまた笑われ少々不機嫌になれば、そのままで大丈夫だと言われるも何だか腑に落ちなく一旦着替える事にした。校門で彼女と別れ時計を見れば5時45分で急いで帰れば、そそくさと大人っぽいと思う服装に着替える。黒い細身のズボンに首元の開いた白いTシャツにグレーのジャケットを羽織り、髪も彼のワックスを使って後ろに流す様な感じに整えれば満足気に鏡を見て、また急いで家を出る。待ち合わせ場所の駅に着き時計を見れば18時50分。何とか間に合ったみたいだ、後は彼とその友人が来るのを待つだけ。)
(時計を見ればちょうど18:30。今日出来ることは明日に回す。素晴らしい格言のもとに、今日同伴をお願いしている同僚のもとに歩み寄った。予想通り用意は万全らしい)じゃま、行きますか。(外から見られれば水と油な性格な為、こうやって2人して退社することはやけに目を引くらしい。今日一緒にプレゼンに立ち会ったユキちゃんからも「何かあったんですか」なんて改まって聞かれたものだから困惑してしまった。外野の意見はともかく、今日の主賓は自分の大切な彼だ。居酒屋が良いなんてリクエストを貰っていたが、果たして普段行くような店に連れて言って良いものか…。考えた末に正直に事の次第を伝えると、しばらくの沈黙の後に佐伯はどこかへ電話をし出した。耳を澄ましていると、どうやら予約を取ってくれたらしい。携帯を切ると)居酒屋だろ。たまたま個室が空いてるみたいだったから、予約しといた。メシも美味いし多分連れの子も満足してくれると思うけど。(さらっと店の予約を取ってしまい、こちらの事情も組んでくれる。これでモテない訳が無い。ありがとう佐伯。素晴らしい手際に呆気にとられるが、時間を見て慌ててメールを打つ)『TO:逢崎 真尋 SUB:RE:RE 仕事終わり。今から駅に向かうよ』
(駅の近辺はいろんな人が行き来するため、何だか少し視線を感じるがそんなはいちいち気にしてほいられない。今日は髪型も服装も完璧に決まってる、後出来るだけはスマートに振舞って大人っぽさをアピールすれば、愛しの彼もきっと格好いいと惚れ直すに違いない。早く来ないかなぁと待ち遠しく思っていると携帯が鳴った、そうだ駅に着いたら連絡するって言ったのにすっかり忘れてた。きっと彼だろうとメールを開けば思った通り彼からで今から向かうという内容で、返信画面を開けば『宛先:槇村 篤 本文:駅着いた。待ってる。』と打ち送信する。するとまたメールを受信し彼にしては返事が早過ぎると驚き送り主を見ると香菜だった。内容は『居酒屋楽しんで来てね!』の一言でふっと笑うとまた後で返信使用と携帯をしまい、辺りを少し気にして彼らの姿を軽く探す。)
(駅に到着し、愛しい彼の姿を見つける。さっき逢った時とは違う服装に違う髪型。どうやら一度帰ってから着替えて来たらしい。そんなに気を遣わなくても良いのにと思ったが、この時のために時間を割いてくれたのだと思うと可愛く思えて仕方ない。普段降ろしっぱなしの髪はワックスで撫で上げられ、襟元の開いたシャツは普段よりも少しだけ大人っぽく見える。片手を上げて手を振るとどうやら向こうもこちらに気付いたらしい。彼の待つところに寄ると、佐伯が挨拶を始めた。さすが出来るサラリーマン。溢れる好奇心を抑えて、まずは相手に不快感を与えないように、さらっと自分のアピールをしている)どうも。さっきはごめんね。改めてご挨拶。佐伯って言います。一応槇村の同僚なんで、そんなに警戒しなくて大丈夫だから。じゃぁ、店に移動しようか(出会いがしらのことを反省しているのだろうか。さっきとは打って変った態度で彼を懐柔する。普段の胡散臭さはどこに行ったのやら。訝しげに見つめるも、意に返さないように自分の出る幕も無く彼をエスコートする。着いた店は自分達が時々利用する小料理屋で、居酒屋と呼ぶには少しグレードの高い店だった。店内も静かで、多様な料理を食べることも出来る。何より味は確かだ。ここを選んでくれたことに感謝しながら、テーブル席に彼を案内する。メニューを広げ)最初に何飲む?あと、料理は?ここは何でも美味いから安心して頼んで良いよ。
(辺りを見渡していると此方に向けて手を振っている彼を見つけ手を振り返すと、彼の傍らに佐伯さんも見付けた。二人が近付いて来てくれるのを待ち、合流するなり佐伯さんの自己紹介が始まる。警戒…は少ししていたかも。自分も自己紹介した方がいいのかと思うも直ぐ様店へ案内されタイミングが掴めず諦める。エスコートされながらチラリと彼の様子を窺うも大人しく着いて来るだけ、今日はこんなに見た目にこだわったのに何にも言ってこない…もしかして気が付いてない?いや、明らかに何時もと違う髪型なのにそんな筈はない。内心モヤモヤと少々不機嫌になるも此処はぐっと我慢し店へと着けば、此処が居酒屋…と感心した様に外観を眺める。店内へ入れば想像していた賑わいはなく静かで落ち着いた雰囲気に大人のお店感を凄く感じる。テーブル席に腰掛け彼の持つメニューに目を通せば「僕、メロンジュース。…あ、唐揚げ食べたい。」とお酒は控える事にし、無難かつ今食べたいと思った唐揚げがいいと告げる。)
(先に佐伯が暖簾をくぐると予めテーブル席が確保されており、女将さんに案内された。普段は気まぐれに訪れては適当に開いている席に座るため、こう改まって案内されると妙に照れ臭い。時間は19:00ということもあって、いつもは混雑している店内も客の数はまばらだった。珍しく不機嫌そうな顔をしている彼に気が付いて、奴の見ていない隙にテーブルの下でそっと手を握り、彼へ視線を向けずに小さな声で囁く。精一杯背伸びをしたのだろう。普段は大人な癖に子供染みた仕草を見せる彼が可愛くて堪らない)なに拗ねてんの?気付いて無い訳無いでしょ。今日は随分雰囲気違うね。(おっさん2人は最初に頼む物など決まっているため、メニューを見る必要など全く無い。彼が見やすいようにメニューを広げ、どれにするかと尋ねるとメロンジュースと唐揚げと返ってきた。うんうん。メロンジュースと唐揚げね…って…)「「メロンジュース?!」」(そんなものこの店のメニューにあったのか?!佐伯と2人してメニュー表に食いつくと、確かに記載がある。しかも期間限定という表記のもとに。なんだってメロンジュース??夏だからか??思いがけずメロンジュースに注意を削がれたが、今日の目的はこんなことではない。注文を取りに来たバイト君にオーダーを告げて)生2つと…メ、メロンジュース。唐揚げ1つと。とりあえずそれで。(注文を済ませると急に手持無沙汰になってしまうが、ここで話を終わらせる訳にはいかない。不安そうに見つめる彼と、興味深げにこちらを見つめる佐伯に挟まれて、居心地の悪さに自分から口火を切る。自分達の関係を話すための意思表示として彼に一瞥を送ったあと)あ~…。分かってるかと思うけど。この子…。真尋くんと、一緒に住んでる。こ、恋人として…。
(女将さん、綺麗な人だ…品があって愛想も良くて…何だかこの場に自分が似つかわしくないような気がしてくる。また"大人"と自分の差を実感させられる。彼には嗚呼言う人の方が似合うんじゃ…とまで考えてしまう、元々ノーマルな彼を無理矢理男同士の世界に引き込んだ訳だし何時普通に戻ったって可笑しくない。それに隣に座ってもまだ何も言って来ない、本当に気付いてないのか?これだからおじさんは…と心の中で悪態付いていると不意に手を握られドキッとするも、これくらいで翻弄されたりしないんだから!と変に意地を張っていれば自分にだけ聞こえる声量で気付いていたと言ってきた。鼓動が速くなり顔も赤くなる、幸いオレンジっぽい照明のおかげで顔の赤みは誤魔化せた。「遅いよ、バカ。」と照れ隠しの言葉を告げる。すると自分が注文した"メロンジュース"に対して驚きの声を二人が発する。それに自分も驚き無言のまま内心慌てふためく。頼んじゃいけない物だったのか!?お酒は止めておこうと適当に言ったのが悪かったのか!?どうしよう、居酒屋のルールが分からない…世間知らずだと思われたかな、篤に恥をかかせていたらどうしよう…頭から血の気が引いていく。やっぱり来なければ良かった、それかもっと香菜に聞いておくべきだった。思わず俯く、こんなはずじゃなかったのに…もっとスマートに振舞う予定だったのに…失敗だ。彼が注文をしてくれ、少し気まずい雰囲気になるとチラリと不安げに彼を見る。一瞬目が合った後、彼から話を始めてくれた。「あ、逢崎真尋です…宜しくお願いします…。」先ほどの戸惑いの所為で少しぎこちなくなったが礼儀として佐伯さんの目をしっかり見てお辞儀をする。…やっぱり、隠しておいた方が良かったんじゃないか…男同士で歳の差、しかも世間知らずのガキ…いくら仲良しの同僚でも簡単には受け入れられないだろうし、彼の将来を思えば止めておいた方がいいのは一目瞭然。否定されたらどうしよう、どんどん悪い方へ考えていってしまう思考が止められない。佐伯さんはどんな返事をするだろう…待ってる間がとても長く感じる。)
佐伯:(ドリンクオーダーを済ませると、槇村が急に改まって目の前の青年と自分との関係を告げてきた。まぁ、自分の予想通りに恋人として付き合っているらしい。逢崎真尋。見た目通り、きれいな名前だと思う。だが、先程のメロンジュースの件から彼の印象は大きく変わってしまった。さっき会社で会った時は随分しっかりしているように見えたのに、中身はまだまだ子供なところがあるようだ。さらに追い打ちを掛けるように真面目くさった顔で自己紹介をしてきたでは無いか。堪えきれずに思わず吹き出してしまう)ぷっ!!!面白いね、君。そんなに緊張しないで良いよ。真尋君て、俺も呼んで良い?(なるべく緊張をほぐしてあげたくて、優しく話しかけた。そりゃそうだろ。年上の知らない男と一緒に食事の席についているのだ。しかも自分の恋人の同僚となれば緊張しない訳が無い。軽い自己紹介が終わると頼んだドリンクがテーブルにやって来た)ほら、真尋君が待ちに待ったメロンジュースが来たよ。グラス持って。はい、お疲れ様!(彼のグラスに自分のジョッキを軽くぶつけて歓迎の意を伝えた。目の前にはこちらを睨む怖い顔の男が、今は見なかったことにしよう)
(ついに言ってしまった…もう従兄弟やら知り合いなんて言って誤魔化す事は出来ない。後ろめたいなんて事は断じて無いが、やっぱり彼を思うと打ち明けてしまって良かったのかと複雑な心境になる。佐伯さんの顔色を窺う様に見ると吹き出されビクつく…笑われたっ…!!!ショックを受け開いた口が塞がらないでいると、自分の事を否定する事もなく寧ろ緊張しなくていいと優しく声を掛け気を遣ってくれる大人な対応に不安も和らぎ目を輝かせる。名前で呼んでいいかと尋ねられると「はい!勿論です。僕も佐伯さんって呼ばせて貰います。」とほっとしたことで自然と笑みを向ける。受け入れられたかどうかは分からないが否定されなかった…とりあえず一安心だ。それに素敵な大人の知り合いが増え、手本に出来る様な存在を見付けられた。これからは佐伯さんを見習って大人な対応とエスコートの仕方を学ぼう、それで何時かは篤を格好よくエスコートするんだ!すると飲み物が運ばれて来て一つだけグリーンの飲み物に先程の事を思い出すが、佐伯さんは気にしていないようで自分も気にするのはやめた。「べ、別に待ちに待ってないです…!」促されるままグラスを持ち軽くぶつけられると、篤以外の人と始めての乾杯だ…と感激し嬉しくなり彼を見ると眉間に皺を寄せていて心配になっては「篤?」と声を掛ける。)
佐伯:(やっぱり面白い。正直槇村が誰とどう付き合おうと知ったこっちゃ無いし、もっと言えば、相手が女だろうが男だろうがどっちでも構わない。今日誘いに乗ったのは、ああ見えて仕事一筋のあいつが恋人の前でどんな態度なのかが見たくて来ただけだったのだが、その相手というのが思いの外可愛くてついつい興味を引かれてしまった。もちろん男には興味は無いが、初めて会ったばかりの赤の他人の自分に対してこんなに無防備な笑顔を見せるなんて、あいつと2人の時はもっと色んな顔を見せるのだろうということは想像に易かった。そして、本日の目的であった槇村の表情と言えば、こちらが真尋君に対してフレンドリーに接すれば接するほど、どんどん眉間に皺が寄ってくる。普段は取引先からどんな難題を押し付けられても、飄々とした表情で躱す癖に。彼に対しては思考回路が全く別なのだろう。全く分かりやすいったら無い。そんなことには全く気付かない振りをして、尚もあいつの恋人に話を振る)さっき唐揚げは頼んだけど、他に食べたいものは無い?ここの店、刺身も美味いんだよ。真尋君は食べられないものは?
(隣で不機嫌そうな彼が気になり声を掛けたが、次の瞬間佐伯さんから話を振られてしまった。無視する訳にもいかないし、今自分が目指したいと思った存在からの声掛けに答えざるを得ない。「食べれない物は無いです。でもそれより、二人が食べたい物頼んで下さい。ね、篤。」先程とは違い少しだけ愛想笑いの様になってしまいながらも、もう一度チャレンジして彼に声を掛ける。もう下手に変な物を頼まない様に気を付けないと。ていうか…何だか、あんまり篤と話せないな…佐伯さんも僕が緊張してると思って気を遣ってくれてるんだろうけど、やっぱり篤と話せないと少しつまらなく寂しいと思ってしまう。何でか不機嫌そうだし、何考えてるんだろう…楽しくないとか早く帰りたいとかだろうか。この場で聞く訳にはいかないし、佐伯さんより彼が気になって仕方が無い。彼が楽しくないと自分も楽しくない。さっき彼がしてくれた様に佐伯さんにバレない様に彼の手を握ると、バレない様に誤魔化そうと「二人は良く此処に来るんですか?」といきなり自分から話題を振る。あからさまに怪しかったかな、まぁいい少しでも彼が話題にのってくれればそれで。期待を込めて二人の返事を待つ。)
(やっぱりだよ…。まさに予想通りの展開。目の前に座る同期の顔を見ると、それはもう楽しそうで楽しそうで。自分を意に関しないような態度を取りながら、こちらをチラチラと含みのある表情で見ながら、やたらと彼に優しく接している。まるで俺がキレるのを楽しみに待つような態度が癪に触って仕方ない。笑顔でうまくやり過ごそうと思いながらも、なかなかそう上手くは行かなくて…。そう思っているとテーブルの下でそっと手を繋がれる。敏感な彼のことだから、自分の不穏な空気を察したのだろう。折角美味い飯でも食べさせてあげようと思って連れて来たのに、これじゃ本末転倒で何の意味も成さない。彼に気を遣わせたことを深く反省し、こちらからも彼の手をそっと握り返した。気を取り直してこちらからも話し掛ける)しょっちゅうって訳じゃないけど…。でも、割と使わせて貰ってるかもな。うちの会社からも近いから、代々先輩上司が使ってるんだよ。それで俺達もここを遣わせて貰うようになったって訳。で、何かほかに食べたいものはある?(彼の不安を取り除こうと、ちゃんと目を見て話しかける)
(話題を振ってみたけど彼は乗ってきてくれるかなぁ…メロンジュースをちびちびと飲むとメロンそのものの甘さが口内に広がる。美味しい、やっぱり頼んで良かった。するとさっきまで殆ど黙ったままだった彼が話始め自分の振った話題に乗ってくれた。ちゃんと目を合わせてくれた事にほっとしたと同時に嬉しくなると「そうなんだ、いいねこのお店。雰囲気も素敵だし。」と頬を緩メニューをチラリと見れば「だし巻き卵食べたい!」と安心した事で空腹を感じては素直に告げる。良かった、良かった…彼の機嫌が直った、何がどうなって直ったのか分からないがとりあえず良かった。またメロンジュースを飲もうかと思えば、美味しかったから彼にも飲ませてあげようと思い「そうだ、メロンジュース美味しいよ。篤、飲んでみる?」とまだ結構残っているグラスを彼へと差し出す。普段なら人前であまりそういう事を自分からする方ではないし、人目が気になるが今は彼と話していたいという気持ちが大きく全く気にならない。)
(それなりに歳を食ってるくせに、どうにも昔からこういう自分のパートナーの紹介というのにいつまでたっても慣れない。変に畏まってるのは自分だけだということは良く分かっているのだが、変に構えてしまって、つい言葉少なになってしまうところを、彼にフォローされてしまった。口火を切ってしまえばなんてことは無く、いつも通りに彼とも佐伯とも言葉を繋ぐことが出来た。彼が学生であることやバイト先が図書館であることなど話を振ると、聞き上手な奴は上手く話を膨らませてくれる。自分の隣に座る彼も段々と雰囲気に慣れて、食べたい物をオーダーしてくれるまでになった。敢えて追及はしないが、どうせ今日もろくなものは食べていないはず。そして何を頼むかと思えば、ここ2日間毎日食べているにも関わらず、出汁巻卵が食べたいなんて言うから思わず笑みが零れた。自分たちが作るものとプロが作るものと比べたかったのかもと察し、何も言わずに追加オーダーをした。他には刺身や煮魚。定番のメニューを何品か。そんな中、急に彼が飲みさしのメロンジュースを差し出してきた。普段ならこんなことは滅多に無い。先だってのランチですらこんなことは無かったのに。勿論自分は躊躇わずグラスを受け取り口を付ける。生のメロンを使っているのだろうか。爽やかな甘味とほんのり鼻を抜ける青臭さが初夏を感じさせる)うん。案外美味いね。(自分の知らなかったメニューに出会い、少々感動しながら彼にグラスを返すと、まじまじとこちらを見る視線に気付いた。急に真面目くさった顔で問われる)「お前と会ってから、付き合ってる子とこんなに仲良いとこ見るの初めてだわ。歳とか色々違うし…変なこと聞くけど…。真尋君は何が良くて槇村と付き合ってんの?」(さすが佐伯。直球すぎるわ…。しかも偏見無いところが余計に性質悪い)
(グラスを差し出せば何ともない様に普通に受け取り口を付ける彼を見て反応を窺っていると彼も美味しいと言ってくれた。「でしょ。」と少し威張って見せると佐伯さんから彼の何処が良かったのかと尋ねられた。「え!?…えっと…、」突然の問い掛けに少し戸惑い視線を落とす、こういう事を聞かれる事は予想出来たのに全然考えていなかった…。何処がって言われても…なんて答えよう。…今から数ヶ月前を思い出す、彼を初めて見たのは今の最寄駅。高校生になってから一人暮らしをしていた自分も今の最寄駅付近に住んでいて電車通学をしていた。同じ時間帯の電車に乗っていてバイトで帰りが遅くなる日はよく彼を見かけていて、何時も違う女の人を連れていて軽い男って印象で自分はあんな風になりたくないと軽蔑していた。それでもやっぱり見掛けるとつい見てしまって少しだけ気になる存在となっていったそんな時、何時もの時間帯に一人で居るのを見掛け珍しく思っていると仕事の資料なのか紙を真剣に見る表情が格好よく、紙を持つ指も細く綺麗でつい見入ってしまった。それからというもの、家に居ても学校に居ても彼の事が気になり初めて見掛けるとついじっと見詰めている自分が居てきっと"恋"なんだと思った。女の人と居る時はそれなりに嫌な気持ちにもなったし…。そう思ってからは彼をもっと知りたいという好奇心と女の人に取られたくないといった気持ちから彼が一人の時は必ず声を掛けて、家まで着いて行って、入り浸って、好きになったんだと繰り返した。諦める事なくしつこく迫っているとある日彼が自分を受け入れてくれて、今に至る。あの頃は具体的に何処が好きかなんて考えていなかったけど、付き合って色々知っていくうちに好きな所は沢山見つけた。全部伝える訳にはいかないし、ピックアップというか今思い付く事を伝える事にした。「…一所懸命仕事してる所とか些細な事に気付いてくれる優しい所、髭も髪型も格好いいし指も綺麗で、声も良くて…後…こんな僕を好きで居てくれる所…です…。」言葉にすればやっぱりスラスラと出てくるが、とりあえずここまでで止める。彼が居る所でこんな事を打ち明ける日が来るとは思わなかった…恥ずかしい…。言葉にしながら恥ずかしさが募り段々と俯き耳まで真っ赤に染める。)
(うわぁ…。なにそれ…。ちゃんと聞いたことは今までなかった、大体、自分のどこが好きだなんて聞く男なんて居ないだろ。そういや初めて彼と話をしたことを思いだした。身の丈も弁えずに、参考にもなりやしないウェーバーの写真集を落としてしまったが、見知らぬ若い男の子が拾ってくれた。ぶっきらぼうにこちらに手渡す癖に、自分が勤めている図書館には他にも画集があるから見に来れば良いと誘ってくれた。本好きなことは分かったが、彼の見た目のジャンルとしては自分とは全く相容れないように見えたのに、何度か彼の務める図書館へ足び会話を交わすうちに、段々と彼の人柄に魅せられてこのような関係になってしまったのだ。自分が彼に好意を寄せるようになってからのことは…。そればかりは2人だけの秘密なので、ここでは割愛しよう。あほの佐伯のせいで、色々な思い出が蘇ってきた。今まで考えてもいなかったが、もしかして出会う前の時のことを彼が知っていて、女連れのところを見られていただなんて考えると…。今すぐに死にたい…。自分がこんな思いをしているのだから、さぞかし彼もと横を見ると頬まで真っ赤に染めているではないか。たまらず口を挟み、さらに墓穴を掘る)でも、逢った時より今の方がずっと好きかも。つか…可愛いんだよな。全部。(言い終わった後、自分が何を言ったのか漸く理解して頗る動転する)グラス開いたけどどうする?メロンのお酒もあるけど(手持無沙汰な彼の前にメニュー表を広げる。自分の慌てふためく姿に込み上げる笑いを噛み殺す男の姿は、やはり見なかったことにした)
(色々話してしまった…一つに絞れば良かった…いや、一つなんて選べないけど。彼の居ない所では親友である優一郎に惚気まくってはいたが、実際に聞かれるとなるとやばい。日頃から何処が好きとか伝えまくる様な人なら普通に答えられるんだろうけど、生憎自分はそういうのが苦手な方で、付き合う前は必死過ぎて伝えまくってはいたけど付き合ってしまえば途端に言葉にして伝えるのが恥ずかしくなってしまった。まぁ本来の自分はこうなのだろう、あの頃は気が狂ってたというか…本当にただただ必死で思い出すだけでとんでもなく恥ずかしく餓鬼で軽率な行動だったと思う。自分の話を聞いた彼はどんな顔をしているだろうか…見たいけど赤い顔を上げられずに居ると、隣の彼から追い討ちを掛ける様な言葉が発された。俯いたまま更に顔に熱が篭もり体も熱くなってきて鼓動も早くなって…あ、頭も回らない…オーバーヒートしそうだ…。俯いたままくたり、と力なく彼へ体を預けては慌てる彼に「…じゃあそれ、メロンの、飲む…。」とぼそぼそと告げる。お酒飲んで程よく酔えば恥ずかしさも紛らわせるかもしれない。)
(未だかつて他人の前でお互いに相手のことをどう思うかなんて話したことが無かったので、彼の口からそんな言葉が出て来るなんて思っても見なかったし、自分もこんなことを言うつもりなんて毛頭なかった…。お互いに想い合っていればそれで良いと考えていたが、他人の前で彼に対する気持ちを告げることによって伝わることもあるのだということも良く分かった。まぁ、これは他人に対して面白いか面白くないかの判断基準しかない佐伯相手だからこそ許される行為なのだが。そうでなければ、おっさんの惚気発言なんて気持ち悪い以外何物でも無い。今日が最初で最後の機会だと思って開き直ることにした。隣には頬を染めて、自分の肩に顔を埋める彼が居る。可愛すぎて本当にやばい…。自分が勧めたメロン酎ハイを飲みたいと小さな声で囁かれる。そんなこと言われたら断る理由も無く、追加でメロン酎ハイとビール2つを頼む。そもそも勘違いされているかもしれないが、彼がアルコールを飲むことに対しては概ね反対ではない。自分も好きな訳だしそれを制限するつもりも基本的にはない。ただし、自分の前でならという前提の話なのだ。強くないわりに好きな方だから余計に性質が悪い。しかも甘え上戸…。それを知らないあいつが余計な一言を吐く)飲め飲め。帰りはどうせ槇村が送ってくれるんだから。
("可愛い"なんて言葉、学校ではからかわれる時しつこい程言われていて、もう照れるどころか否定し反抗するくらいの免疫がついている。そもそも男に対して可愛いはどうなんだと思っているくらいだ。しかし、彼に言われてしまえば何時もの威勢は何処へやらで心底照れてしまう。嬉し過ぎて今直ぐ抱き着きたいっ!!そんな衝動に駆られるも佐伯さんも居るし外出先だし、何だか力が抜けてしまっていて今は彼に凭れ掛かるのが精一杯。メロン味のお酒、楽しみだけど酔わないようにしなきゃ…そう思っていると佐伯さんが沢山飲んでもいいと言ってくれた。そっか、篤も居るし少しくらい酔っても大丈夫かな、記憶が無くなってしまわないように気を付ければ。そう思い直せば気分も何だか軽くなって頬の赤みも治まってきた。二人が自分に対してとても気を遣ってくれている事に感謝して「佐伯さんも、遠慮なく飲んで下さいね。篤も。」と二人に向けて柔らかい笑みを浮かべる。)
(佐伯に乗せられて言わされてしまったような感は拭えないが、彼と自分との関係はこれで分かって貰えただろう。本日の一番の目的を遂げたことで肩に入った力が抜けた。後は酒と料理を楽しむだけだ。料理が来る前にドリンクオーダーを追加する。日本酒にはまだ早いし、まだビールで良いだろう。いつもの流れを考えると佐伯もビールで良いはずだ。先に頼んだ料理と共にアルコールが運ばれて来た。それぞれ自分のジョッキを手に取ると、改めて乾杯の意を込めてグラスをぶつける。彼の紹介を終えたことで場の空気も随分と和やかになった。テーブルに乗った出汁巻卵を彼の小皿に乗せたところで)真尋君、知ってる?こいつってばさぁ、入社したての頃なんてアホみたいに青臭くて、施主から条件言われてんのに勝手に図面に手ぇ加えて「自分はこっちの方が良いと思う」なんて言い張って、すんごい怒られたりしてたんだよ。それからさ、そうそう…(やばい。恐れていたことのもう一つの懸念事項が発動された。こいつの暴露話だ。今まで築き上げてきた真面目に働く会社員像が、音を立てて崩れてしまう。仕事のことだけでは無くて過去のプライベートについて話されては絶対にまずい!上手く話題を変えようと、それとなく彼に話題を振る)真尋はこう見えて図書館でバイトしてるんだよ。どう?バイト面白い?
(目の前に綺麗に盛り付けられた料理が並ぶとその美しさについ見入る。…どうしてこんなに綺麗に作れるのだろう、プロって凄い…!自分の料理が料理とは思えなくなる程、比べ物にならないや!食べるのが勿体無いと思っていれば彼が自分の取り皿へ入れてくれ「じ、自分で出来るよ!」と子供扱いなのではと顔を向けて不機嫌そう告げる。すると、佐伯さんから自分の知らない彼の話が始まり、目を輝かせては興味津々とばかりに食い入る様に頷き、真剣に話を聞く。自分の意見通そうとしてたんだ…格好いい!でも、怒られたんだ…可愛い!流石に会社での彼がどんな風なのかは全然知らない、きっと真面目に卒なく振舞っているのだろうと勝手な想像はしていたが。もっと知りたい、自分の知らない彼の事と話の先を促す様に頷いていると突然彼からバイトの話を振られ少々驚く。「え?バイト?うん、楽しいけど…?」このタイミングで聞くような事かと不思議そうに答えつつ、それよりもっと聞きたいと佐伯さんに話を振ろうとする。「佐伯さん、続き!聞きたいです!」)
(なんで食いついてんの、この子!本当にやめて!!バイトの話、聞かせてよ!その冷めた目で見るの止めて!折角の自分の振りが全て無駄になった。今日ほど佐伯のことを恨んだことは無い…。そりゃ仕事は至って真面目にこなしている。なぜなら好きだからとしか言いようがないから。だが、会社とプライベートは別だろう!俺はお前とは違って仕事には全力なんだよ。時には恰好の悪いこともある。いるよね。こういう暴露好きな人。というかお前のことだよ。佐伯。もう、こうなっては収集が付かない。嬉々としてこいつは話始めるし、へぇ…なんて言いながら、いままで決して見せることの無かった自分の失態に耳を貸している。若い頃はともかく、今は自分がしがない図面屋だということは充分理解してるのだから良いじゃないか。大体昔からお前は要領良すぎなんだよ。返す言葉も無く、諦めの境地でビールを煽る。いつか絶対、お前にリベンジするからと固く誓いながら隣をみると、アルコールのせいか、気持ち潤んだ瞳で出汁巻卵を頬張る彼が目に入った。閑話休題。もぐもぐと頬張る姿が可愛くて訊ねる)どう?美味しい?
(相手の振った話題もそこそこに返し、また佐伯さんに話の続きを強請る。うわぁ〜篤可愛い、おじさんなのに可愛い!更に目を輝かせて心の中で繰り返しながら、彼の頼んでくれたメロン酎ハイを飲む。あ、美味しい…果物味のお酒ならいくらでも飲めそうだなぁ。でも、少しだけぼーっとしてきた…まぁ、大丈夫か、まだ正気で居られてるし。てか、出汁巻卵も見た目通り出汁の味が濃く卵も柔らかく美味しい。自分達が作ったのもそれなりに美味しかったが、やっぱり何処か違う…プロの味を堪能する様にゆっくり噛み締めていると美味しいかと尋ねられ、口の中の物を飲み込むと「うん、美味しい。篤も、食べる?」と何時もと違い緩い笑みで出汁巻卵を一口大に箸で切り、大根おろしもちょこんと乗せて箸で挟めば彼の口元へ片手を添えてあーん、近付ける。…あ〜何か気分が良くなってきた、酔ったのかな…とぼんやりと考えながら彼を見詰める。)
(散々な暴露話も終わり、会話も落ち着きを見せ出した頃、良い気分で酔いの回りだした彼が、切り分けた出汁巻卵を差し出してきた。普段なら絶対こんなこと家でもしてくれることは無いのに。しかもご丁寧に大根おろしまで乗せてくれている。このシチュエーションを見て佐伯は笑いをこらえているが、ここまで来てもう恥じることなど何も無い。彼の誘いを甘んじて受けることにした。差し出されるままに口に含むと、出汁が口に広がってプロの味を実感する。たまにはこうやって美味い店に一緒に行くのも良いかもしれない。それで、2人でゴハンを作って。つくづく地味な男になったものだと痛感する。だけど、こういうことに幸せを感じてしまうのだから仕方ない。酢の物に煮つけ、そして出汁巻卵。もちろん自分の好きな和食にばかり付き合わせる訳にはいかないから、洋食店にも連れて行こう。隣で酔いどれている彼を眺めながら目配せする)佐伯。おあいそ。(飲み会のお開きには早い時間だが、彼をこのまま野放しにする訳にはいかない。それは自分だけの特権なのだから。会計を済ませて駅に辿り着く。俺達にしたら明日も明後日も同じ面子だ)んじゃな。また明日。(こちらからそう告げると、佐伯が彼に寄って来て名刺を渡していた)『何かあったら連絡しておいで』(そんなことが書かれているなんて露知らず、駅で別れを告げた)
(自分の差し出した出汁巻卵をパクリと食べる彼の姿を見て「あは、篤可愛い。」と突然笑いだし、アルコールが回り始めたようで体中が火照った様な感覚で頭もぼんやりしてきた。またメロン酎を口にするとその冷たさが体の中に流れ心地良い。虚ろな瞳でもそもそと唐揚げを頬張り「美味しいね、今度は唐揚げ作ろう!山盛り!」とハイテンションでにこにこと彼を見る。すると"おあいそ"と聞え「えーもう帰るの?もうちょっと居ようよ。あ、そうだ!僕も、僕も出します。」と何時もより饒舌でゴソゴソと財布を取り出すも覚束無い手付きで、そんな自分にむすっとしては「篤、ここからお金出して…」と彼に財布を手渡す。外へ出れば夜風が心地良い、彼に手を引かれながら駅へと辿り着く。ほんの少しの酔いが覚めて正気を取り戻し「あの、今日は有難うございました。」と此処で別れる佐伯さんへと挨拶をすると名刺を手渡され「わぁ、僕、名刺初めて貰いました!有難うございます!」と丁寧に嬉しそうに受け取り、書かれている文字に優しい人だと思いカードケース等は持ち合わせていないので失礼ながらポケットにしまう。ひらひらと片手を振って別れると「佐伯さん、いい人だね。」と彼に微笑み掛け。)
(アルコールが入って、いつもより少しだけ饒舌になった彼はとても可愛らしくて。美味しそうに出てきた料理を頬張る姿を微笑ましく眺めていると小声で話し掛けられる。「面白いね。彼」「あぁ。可愛いでしょ。うちの真尋くん。お前には絶対やんねぇから」「ほら、また眉間に皺が寄ってる。ったく、どんだけ好きなんだよ…。あの子も苦労するよ。こんなのと一緒にいるなんて」「うっせぇ」ふと時計を見れば店に入ってからそこそこの時間が経っていた。会計を済ませようとレジに立つと彼が財布を出してきた。いつもそうだ。こちらが年上なのだから甘えていれば良いものを、自分も出そうとしてくれるその気持ちが嬉しい。しかも財布毎こちらに寄越してくるなんて。どこの大名様だよ。苦笑いで受け取るも、もちろん彼の財布には指一本触れない。「じゃぁ。また」3人での飲み会が終わり2人だけになり駅まで歩きだす。佐伯のことを「良い人」だなんて言われて思わず言葉に詰まる。自分にとっては「良い人」と言うよりも「食えない奴」なのだが。そんなことより、急にこんな飲み会に彼を呼びつけたことを申し訳なく思い)今日は急に付き合わせちゃって、本当にごめん。まだ時間が早いから、どっかで飲み直しても良いし。それとも家に帰ってからゆっくりする?(夜道を歩きながらそっと手を握った)
(何やらもそもそと話している二人を仲良しだな、なんて呑気な事を思いながら眺め、レジで彼に財布を預ければきっと自分のからもお金を出してくれたと勝手に思い込み一人満足気に会計が終わるのを待っていて。長かった様な短かった様な3人での食事が終わり、緊張していた行く前とは随時気持ちが変わって意外と楽しかったし来てよかったと思えた。手を握られると普段なら誰かに見られたらどうするんだなんて言う所だが、軽く酔っているのと夜だという事に作用されてかそんな言葉は口から出ず更に自分から腕を絡めては「…今日はね、帰る。帰って、篤と…いちゃいちゃしたい…。…駄目?」と上手く回らない舌で途切れ途切れ告げて見上げる。何時もなら絶対に言わない様な台詞を甘ったるい声で言って甘える様な仕草まで取る、こんな自分が居るなんて思いもしなかったが案外居たりするもんだ。今日の事、ちゃんと覚えてられるかな…なんて考えながら彼の返事を待つ。)
(預かった財布を返してこのあとの予定を尋ねると、ほろ酔いの彼は思った以上に積極的で、家で2人になりたいと答えられて思わず赤面してしまう。彼がどこかに行きたいと言えばもちろん連れて行くつもりだったが、本音は家で一緒に過ごしたかったので彼からの提案に喜んで乗ることにした。普段なら振りほどかれる手も握ったままにさせてくれることを嬉しく思って、さらに強く握り締める。アルコールが入ったせいか、普段より少し高い体温を感じながら)じゃぁ、家で飲み直しだな。今日は最後まで付き合ってよ。それにしても、居酒屋でメロンジュースを頼む子なんて初めて見た(握っていた手をほどき肩を抱き寄せて、堪えきれないといった風に思い出し笑みをこぼした。電車に乗ると、あっという間に自宅の最寄駅に着いてしまう。改札を出て駅前のコンビニに立ち寄りながら買い物籠を手に取ると)欲しいものあったらここに入れて。(前は仕事帰りに夕食を買うために一人でコンビニに日参することが常だったが今は違う。こんな些細なことが嬉しくて仕方が無い)
(自分の財布が彼から手渡されれば何故?といった風に受け取るが、瞬時に預けていた事を思い出し納得した様にズボンのポケットにしまい。ふと彼を見上げると珍しく顔を赤らめていて、自分の言動が原因だと分かりそれが何だか可愛らしく「何?おじさんの癖にあんなので照れちゃった感じ?」とニヤついた笑みでからかう様に告げ、握っている彼の手を力を入れたり抜いたりして弄ぶ。自分が原因で照れる彼が嬉しくて上機嫌になっていた所に忘れていた事を掘り返され、笑われると気分は一転して不機嫌になり、失態の恥ずかしさから顔を赤らめる。「あれは!僕はビールの飲めないから、何頼めばいいか分からなくて仕方なかったんだよ!」と肩を引き寄せられ縮まった距離を離す様に押し返し反論する。そうこうしながらも電車に乗り家の最寄駅まで大人しく乗り継いで、コンビニに立ち寄ると欲しい物を買っていいと言われ店内をうろつく。特に欲しいなんて物はないがふとアイス売り場の冷凍庫の中に、シュークリームのクリームの変わりバニラアイスの入った斬新なアイスを見つけ、二つ手に取れば彼の元へ行って「篤、見てコレ!」と凄い物を見付けたかの様な煌めいた視線で手元のアイスを見せ付ける。)
(いつもの銘柄のビールを見つけ、数缶籠に放り込む。あとはミネラルウォーターを1本。それとつまみになる様なものをと考えてポテトチップスの並ぶ棚を眺めた。それにしても最近は色んな味が出ているもんだと感心してしまう。定番の薄塩味、コンソメ、他には夏限定や他メーカーとのコラボ商品などが山のように並ぶ。考えれば考えるほど迷ってしまうので、ここは彼に決めて貰おうと店内を探すと、冷凍コーナーからひょいと顔を出すと、その手にはシューアイスが握られている。こちらに向ってそれはそれは嬉しそうな顔でシューアイスを差し出した。アイスなんて滅多に自分で買うことは無いが、彼が欲しいと言うならもちろん断る理由は無い。彼のあまりにも眩しい笑顔に釣られてこちらもつい笑顔になる)良いよ。籠に入れて。それにしてもシュークリーム好きだな。って、これはシュークリームじゃ無いか…。そうそう、ポテチ買おうと思うんだけど一杯あり過ぎて決められないんだよね。悪いけど、真尋、選んでくれる?(彼の手を引いて、再びポテトチップスの並ぶ棚に向った)
(彼の持つ買い物籠にシューアイスというらしいアイスを入れた。すると、手を引かれ何かと思えばポテトチップスの味を選ぶよう頼まれ、そんなの好きな味とか無難な薄潮味を選べばいいじゃんと思ったが、棚を見れば悩んでしまうのも分かる程様々な味が並べられていた。あんまりポテトチップスを食べないから、こんなに種類があるなんて知らなかった。「…こんなの食べたら太るんじゃない?」と無愛想気味に言いながらも、選んでやる事にし気になるのを手に取り良く見てはまた棚に戻す。ふと脇に並べてあった"紀州梅味"を見つけ手に取ると「これなんかどう?梅酒があるくらいだし、お酒に合うんじゃないの?」と彼に見せる様に少し持ち上げる。)
(夜中にこんなものを食べようとしているところで、「太る」なんて痛い指摘をされる。どうせ何食っても太らない細身の彼を恨めしそうに見ながら、隙をついて脇腹を軽く摘まんでやる)うっせ。美味いもんはカロリーが高いと相場が決まっているんだよ。(彼が手に取った梅味を受け取り、籠に放り込んだ。最後にレジでいつものタバコを店員に告げて会計を済ませコンビニを出ると、あとは家に帰るだけ。2人でいつもの道を歩きながら話し掛ける)今日は急なことに付き合わせてゴメンな…。疲れただろう。大丈夫だった?(自分の知人・友人に彼を合わせたことが無かったので、随分と気を遣わせたのではないかと心配になる。ましてや、自分の会社の同僚で年も離れた相手だ。もっとフォローしてあげるべきだったと反省する点もあった。人気のない道すがら、優しく彼の頭を抱き寄せて彼を労った)
(人が折角選んであげてるというのに恨めしそうな視線に何なんだと眉を寄せるも、その隙に脇腹を摘まれその痛い様な擽ったさに「ひゃっ!?」と変な声と共に彼から勢い良く離れる。不意を突かれた事で情けない声と大袈裟な反応をしてしまい、その恥ずかしさに顔を赤くして「いきなり何するんだ!折角選んでやってるのに!」と怒りを露にするも手に持っていたポテトチップスをスッと抜き取られ籠に入れてレジへと向かう彼を不機嫌な表情はそのままに大人しくついて行く。レジに立つ彼の隣に居ると煙草を買おうとするのを見て「程々にしなよね。」と小声で忠告する。二人してコンビニを出た後は何時もの道を辿って帰るだけ。労う言葉を掛けられ頭を抱き寄せられると、不機嫌で居たのに振り払う事なんて出来ずそのまま寄り添う様に歩く。心配なんてする必要ないのにそんなに今日の事を気にしているのかと思い「別に、あれくらいなんて事ないよ。気にしすぎ。」と安心させるべく考えた言葉も口から出れば少々生意気になってしまう。が、それでもきっと彼はちゃんと言いたい事は分かってくれると信じているけど。)
(脇腹を摘まめば思った通りの反応が返ってきて、してやったりとニヤリと笑う。コンビニを出て帰るまでの道程、彼に今日のことを詫びると、いつものように飄々とした口調で「何でもない」と答えが返ってきた。きっと自分に気を遣わせないように配慮をしてくれているのだろう。プライベートでこれ以上彼に会わせるつもりの友人も居ないし、今日だって成り行きでこうなってしまった訳で。こんなことでも無ければ、彼を自分の知人に会わせることは無かっただろうということを考えれば、良い機会だったかもしれない。少なくとも、これで佐伯は自分に恋人がいることを納得した訳なのだから。何にも言わずに自分に寄りそう彼と言葉少なに歩みを進める。家に帰ったら、彼を抱きしめよう。きっと彼のことだから文句の一つや二つは返って来るかもしれないがそれでも構わない。エントランスを開けて、エレベーターに乗り込む。自宅のあるフロアに辿り着き部屋の鍵を開けると、手に持った荷物をその場に投げ出し彼を抱き寄せた)はぁ…。やっと真尋に触れる…(隙を見ては触れていたくせに、人目を気にせず彼を抱きしめることが出来るということは、どうやら別腹らしい)
(何ともないなんて言ったけど本当は凄く緊張していたし、少し気疲れもした。だけど、自分の知らない彼を知れた事や初めての共通の人脈に嬉しい気持ちの方が大きく、美味しいご飯も食べれたしとても満足している。おじさんの癖に小さい事を気にしすぎ、なんて心の中で悪態つくもそれも自分を思っての事だと分かっているから何だか擽ったい様な嬉しさとなって心の中に留まる。自宅のマンションのエントランスが見えて来ると他の人に見られない様にと用心の為、さり気なく離れ、エレベーターに乗って自分達の部屋へ辿り着けば何だかほっとしてしまう。さて、ゆっくり寛ごう…と靴を脱ごうとすれば背後から突然抱き締められ吃驚して肩を揺らす。自分と同じくほっとしたのか吐息と共に力が抜けた様な言い方で告げられた言葉にまたも照れ淡く色付いた頬で「ちょっと、ここ玄関なんだけど。アイス溶けるしビールも温くなるじゃん。」と照れ隠しに文句言いながらも振り払いはせず。)
(玄関に入った途端、手に持った荷物はその場に投げ出し、壁越しに彼を抱き留めた。アイスが溶けるだとかビールが温くなるだとか小さな文句が聞こえたが、敢えて耳を貸さないことにする。今日は昼からずっとお預けを食らっていたのだからこれくらいは許されても構わないだろう。まだ何か言いたそうな唇を自分のそれで塞ぐことにした。軽く舌を潜り込ませると、普段はしないアルコールの甘い味が舌に触る。微かに分かるメロンの味を堪能した後、今度は首筋に唇を寄せる。夜になったとはいえ蒸し暑い最中歩いてきたのと、締めっぱなしの室内で身体を寄せていたのとで、汗ばんだ素肌に情欲を掻き立てられる。そのまま舌を這わせると汗のせいか少し塩味を感じて、さらに情欲を掻き立てられ、シャツごしに汗ばんだ彼の香りを堪能するかのように自分の方へ抱き寄せて、首筋に顔を埋める)今日はお疲れ様。これから飲み直すから付き合ってよ(そのままの姿勢でこの後の予定を一方的に告げる。時間は21:00を過ぎたばかりで夜はまだ長い)
(自分の文句に耳を貸さず未だに抱きしめてくる彼をとりあえず部屋に入る様に言おうとすれば言葉を遮る様に唇を塞がれる。「ちょっと、聞いてるの?あつ…んっ」突然の事で薄く開いていた唇の隙間から彼の舌が潜り込んでくる。ぬるりとした感触にキツく目を閉じると今度は唾液の絡まる音が耳に響く。羞恥心が掻き立てられ体中が熱くなり始める。上手く息が出来ずに声を洩らしていると漸く解放され少し乱れた息を整えていると、これで終わりではなく首筋に唇を当てられ反射的にピクリと体を揺らす。この先何をされるか予想がつくと引き離そうと彼の背中へ回した手で服を引っ張るも遅く、予想していた通り首筋に舌を這わされる。「…あっ、篤…本当、ダメだって。僕、汗かいてるから…汚いんだって。」と止めるよう懇願しながら押し返す。今日も外は暑くて普通に汗もかいていて、シャワーだって浴びてない、そんな汚い状態の自分を抱き締められる事にも抵抗があるのに舐められるなんて有り得ない。やっとの事止めてくれたと思えばまだ解放する気は無いらしく引き寄せられ、もう抵抗するのを諦め大人しく抱かれたまま彼の声を聞き「分かったから、とりあえず部屋に入ってくれる?おじさん。」と半ば強引に歩き出しリビングへと向かう。全く、部屋に入るまでどうして待てないのだか…ていうかせめてシャワーを浴びてからにして欲しい。どう考えたって清潔でない他人の肌をどうして舐める事が出来るのかと疑問で仕方が無いが、ふと自分が彼に同じ事をしてと言われたとすると愛しさ故にあまり抵抗がないかもと思い立てば少し彼の気持ちが分かった気がした。だけど!やっぱり汗かいた肌を舐めるなんて有り得ない!と認める事はしなかった。)
(身を捩る彼をそのまま押さえつけてシャツの裾から手を忍ばせると、指先にもしっとりとした感触が伝わった。そのまま背骨のラインに指をすっと這わせて、その指を抜き取ると自らの口に含み、に見せつけるようにニヤリと笑う)汚いってどこが?真尋に汚いところなんて無いんだけど。(汗ばんだ前髪を掻き上げてやり呟くと、やっとのことで彼を解放した。これ以上続けると、流石に彼に嫌われかねない。まぁ、ここまでの長い付き合いだから、自分がいかにしつこいかは分かってくれているだろうと思っているが、本気で嫌われてしまっては元も子もない。手元に落とした荷物を拾い上げ、ダイニングテーブルで中身を確認すると、ビールが保冷材になっていたのか、彼の大切なシューアイスは無傷だった。慌てて冷凍庫に入れて事無きを得る。リビングの窓を開けると、心地良い風が吹き抜け、室内の温度は一気に下がった。気持ちの良い風を浴びながらソファに腰掛け、少しでも彼の機嫌を取ろうと話しかける)今日はシャワーで良いか。どうする?真尋くん、先に入る?
(自分の抵抗も虚しく押さえ込まれてしまい、着ていたシャツの中へ手を入れられ背骨のラインをなぞられるとくすぐったい様な焦れったい様な刺激に思わず体を捩らせる。「…ん、…」上擦った声が出てしまった。やばい、このままじゃ自分もその気になってしまって、彼に流されてしまいそうだと飛びそうな理性を何とか引き止める。引き抜かれほっとすれば、見せ付ける様にその指を口に含むといった衝撃的な行動と台詞に信じられないといった表情で真っ赤に顔を染める。「…馬鹿なんじゃないの!?本気で言ってんの!?き、汚いに決まってんじゃん!」と全力で反論する。時々可笑しな行動をするとは思っていたけどさ、何してんのこの人、絶対可笑しい!頭が混乱してきた所で自分をさておき、彼は何事もなかったように何時も通りに買って来た物を冷蔵庫にしまってリビングの窓を開ける。さっきまでのは何だったんだと突っ立ったままでいると、いつの間にかソファに腰掛けた彼が尋ねてくる。「あ、お風呂?今日は篤先に入って来なよ、譲ってあげる。」と自分もソファへ移動しては彼の隣に腰掛ける。)
(変態で大いに結構。オッサンは変態な生き物なのだと開き直り、隣に腰掛けた彼の髪を指でクルクルと回しながら彼の返答を待っていると、自分に先に入れと促された。彼が先に入ると言うのならば、あとから追いかけるというシチュエーションも考えられたものの、そう言われてしまっては仕方ない。確かに自分は一日中がっちりとスーツを着込んで、汗臭さにはかなりの自信がある。クールビズだなんて言って半袖のワイシャツもあるが、下らない自分の見栄でそれは絶対にしたくない。日本の気候を恨んでしまうが、あくまでもスーツは長袖でないとだめなのだ。ここは彼のありがたい言葉に甘えて、自分が先に入るとする。大人しく寝室に向いクローゼットにスーツを掛けて。ルームウェアを手に取る。本当なら脱ぎっぱなしのままでバスルームへ向かいたいところだが、流石にそこは恋人に気を遣いシャツとスウェットを身に付けて移動する)じゃ、先に入るから。(リビングを抜けて洗面所に入るとすぐに振り返り)一緒に入りたかったらどうぞ。(罵声が返って来ることを予想しながら、悪戯めいた笑みで声を掛けてバスルームに消えて行った)
(ソファに腰掛けると髪を彼に弄られる。髪を触られるのは嫌いではない、彼だからというのもあるのか分からないが気持ち良く感じる。何時も先に入らせてくれるから今日はと彼に譲れば、何か企んでいた様な気がしてじとりと見遣るも先程の事で敏感になり過ぎかと疑うのをやめて「何時も僕が先だから、今日は篤が先ね。」と自分は半袖を着ているが彼は長袖をきっちりと着こなしていて、涼しげな顔をしているが暑いに決まってると早くさっぱりさせてあげたい気持ちから告げる。ソファから彼が立ち上がり着替えの準備をするのを眺めていると去り際に、後から入って来てもいいと勝手に許可され「行く訳ないじゃん!おバカ!」と彼の背中へ向けて叫ぶ。何言ってんだ、もう…とソファにぽすっと横になる。さっき背中を触られた感覚がまだ残ってる、欲求不満なのか?と疑問に思いながらウトウトとしてきては浅く眠りに落ちて。)
(熱めの湯を勢いよく頭からかぶると一瞬で汗も引きとび、心身共に洗われるような気がする。気がするだけで、洗われるのは心だけなのだが。風呂に浸かるのも勿論好きだが、この時期はシャワーだけでも十分心地よい。声を掛けたものの勿論入って来ないことは承知だったので、身体を流したあとはさっぱりと着替え、癖毛の髪をタオルで無造作に拭きながらリビングに戻ると、小さな寝息を立ててソファでうたた寝をする彼の姿が目に入った。そりゃそうだ。忘れ物を取りに来てくれて、その後学校に行って授業を受けて。自分の誘いを快く受けてくれた後、飲み会に付き合ってくれたのだ)真尋くん。お布団行こうか…(遠慮がちに頬を付くが起きる気配は無い。このままベッドに連れて行こうかとも思ったが、あんまりにも気持ち良さそうに寝ているものだから、起こすのも気が引けてしばらくそのままにしておくことにした。時間もあることだし、仕事の続きでもしようと考えたが。さて…どこでしようか。ソファは占領されているし…。書斎は今では彼の私室のようなものだ。考えた結果ダイニングテーブルが一番適しているらしい。タバコもOKだし。家主も随分追いやられたものだ…。彼に気を遣いながら生活をしていることをちっとも不満に思わず、むしろそれが嬉しく思う自分に笑みが込み上げながら、軽快にキーボードを叩いて行く)
(彼が戻って来た事にも頬を突かれた事にも全く気付かず、スヤスヤと寝息を立てていたがカチカチとキーボードを打つ様な音に段々と意識が戻って来て目を覚ます。起き上がりダイニングテーブルの方を向けばいつの間にか彼が戻って来ていて「あれ、戻って来てたの?起こしてくれれば良かったのに。」と。自分に気を遣ってくれたと分かったが、パソコンの開き仕事をしているらしい彼に気付くと「あー!」と急に大きな声を出してドタドタと近寄り「何で仕事してるの!?飲み直すんじゃなかったの!?」と問い詰める様に詰め寄る。この後一緒にまったり過ごすのを楽しみにしていたのにと不貞腐れた顔をするも、自分が寝てしまっていたから彼は仕事を始めてしまったのかと気付き、寝てしまった自分への悔しさから彼に八つ当たりをしてしまった事を反省して「…ごめん。」と謝っては「僕も、シャワー浴びて来る。」と寝室へと向かおうと彼に背を向ける。)
(液晶の画面に目を凝らしていると背後から物音がした。どうやら眠っていた彼が起きて来たらしい。画面から目を逸らさず片手にはマウスを握ったままで、起きたであろう彼に向って振り向かずに話しかける)おー。起きた?(すると覚醒した彼から不満の声があがったため、動かしていた手を休めてメガネを外して彼の方へ振り向く。急にメガネを取ったため視界が明るくなり、条件反射で眉間に皺が寄るが特に他意は無い。目つきが悪いなんて言われてしまう所以だが、彼にも見慣れた光景だろう。視界が慣れてくるといつものように笑いかけ、椅子を跨いで背もたれに正面から寄りかかりながら話し掛ける)悪い悪い。あんまり気持ち良さそうにしてたから起こすのも悪くてさ。(そう声を掛けるも、風呂に入るという力ない返事が返ってきた。2人の時間を楽しみにしてくれてたのなら悪いことをしたか…。素直に謝るのも照れ臭くて、寝室へ消えた彼を追い着替えを用意する彼の肩に腕を回し)早く来ないとアイス食っちゃうよ。待ってるから、風呂入ったらおいで(髪をガシガシと乱暴に撫でながら、またダイニングへと戻って行った)
(今は座っている彼より立っている自分の方が目線が上で不服といった表情で見下ろしていると眉間に皺を寄せた彼が振り向き思わず息が詰まる。今まで自分にこんな表情を向けた事なんてなかったのに。それが眼鏡を取った所為なんて思わなくて僅かに動揺すると、彼は何も無かった様に笑いかけてくる。あれ?見間違い?少し混乱しながら風呂に行く準備をしに寝室へと行くと肩を抱かれ髪を乱す様に撫でられながら「う、うん。」と一言返し着替えを持つとそそくさと風呂場へと向かう。さっさと服を脱ぎシャワーを浴びるとべたついていた汗がサラリと流されていくのが気持ちいい。頭と体を手早く洗い、洗い流しながらさっきの彼の表情を思い出す。ガキみたいにギャーギャー騒いだからか、仕事の邪魔をしたからか…自分に気を遣ってやったのに自分があんな態度をとったからか…いや、全部か…。何時も優しい彼があんな表情をするなんて珍しい、いや、見た事がない。もしかしたら、気付いていないだけで彼は何時もあんな心境だったのかもしれない。流石に大声で問い詰めたのは良くなかった。どうしてこんなガキみたいな行動しちゃうんだろう、彼の事となると何時もこうだ。「はぁぁぁ…」重く長い溜息をシャワーの音で誤魔化して。)
(これで少しでも機嫌が直ってくれれば良いのだが…。時々彼は自分の行動を深く読んで考え過ぎる傾向があるような気がする。繊細な彼の性格とがさつな自分の性格の違いなのだろう。もう少し自分に対して図々しくなってくれても良いのだと思うが、彼からして急にはそうはいかないだろうし、完全に自分に合わせろだなんていうのはエゴでしかない。)幾つになっても恋愛は難しいもんだ…(彼の気持ちをうまく汲んであげることが出来なくて自嘲気味に呟く。気分転換にベランダでタバコでも吸おうと、冷蔵庫から1本缶ビールを取り出しベランダに出る。日中の暑さが嘘のように心地良い風が吹き抜ける。空を見上げれば今にも無くなりそうな三日月が浮かんでいた。100円ライターで消え入りそうな炎を両手で囲いタバコに火を点けると、最初は小さな煙を立てるだけだったそれが、強く吸い込むことによって先端を赤く灯しだした。漸く火が着いたことを確認して軽く煙を肺に入れると、手に持った350mm缶を勢い良く煽る。振り向いた瞬間にこちらへ向けられた視線…。彼に怪訝な表情が浮かんでいた。ベランダの手摺に凭れながら考える。今日のことがやっぱり嫌だったか、それとも家で仕事をされるのが嫌なのか…。小さな不満が後々大問題になることはよくある話だ。自分勝手に悩むのは辞めて、彼に直接聞いてみることに決めた)
ふぁ…さっぱりした…。
(髪と体を拭くのもそこそこに何時ものダボダボの服を身に着けてリビングへ戻る。部屋着に着替えると気が抜けるというか、落ち着くというか…一気にグダグダしたい気分になるなぁ…。汗を流してさっぱりしたからか、さっきまで考えていた事はあまり気にならなくなっていた。リビングへ戻って来たものの彼の姿が無いと室内を見渡せばベランダで煙草を吸う姿を発見し、自分の所為で仕事を中断させたかと思うと少しだけ罪悪感が湧く。「そうだ、」ふと何かを思い立てば冷凍庫からシューアイスを一つ取り出してから彼の戻るへ向かう。そっと彼の背後へと近寄れば、手に持つアイスを彼の首筋にピトッとくっつける。「へへ、吃驚した?」と悪戯を仕掛けた子供の様ににっと歯を見せて笑い。)
(ぼんやりと外を眺めていると、不意に首筋に冷たい感触が走った。ふと横を見ると、彼が子供のような顔をして先程買ったシューアイスを当てて来たらしい。条件反射でビクっと身体を震わせるも、振り向く際にはわざと落ち着いた風を装って冷静に返す)びっくりするでしょ。全く。(片手に持った缶はベランダに置いた小さなガーデンテーブルに置いて、差し出されたアイスを受け取ると、徐に包装を破いて一口齧る)うん。美味い。たまに食べると美味いよな。こういうのって。(アイスを片手に齧りながら、さっきまで考えていたことを反芻する。問うなら今だ。側に居る彼の腰に手を回して力強く引き寄せた。まどろっこしいことは好きでは無い。ここは単純明快に彼の本音を尋ねることにした。2人してベランダに凭れるような姿勢で、自分が出来る精いっぱいの優しさを込めて問いかける)さっき…。風呂に入る前さ。なんかあった?俺さ、真尋のこと全部分かってあげたいと思ってるんだけど、なかなかそうも行かなくて…。ごめんな。俺に思ってることあるんだったら何でも言って。今日のこと嫌だった?それとも…家で仕事されるの…嫌かな?落ち着かない?他にも何かあるんだったら言って欲しいな…、なんて。(ここまで言ってしまうといつもみたいに上手く笑えている自信は無いが、あえて彼に向き直った)
(ビクリと肩を揺らした彼に悪戯成功とばかりに笑い、構ってくれといった意思表示だったのだが思ったよりも冷静に返されて不貞腐れた様な顔をする。自分用にと持ってきたアイスを取られ食べられてしまえば「あー、それ僕のだったのに。」と唇を尖らせるも、そのままあげる事にし機嫌を直し「珍しい奴だしね、もう一つ取って来よ。」と部屋へ戻ろうとすれば腰を引き寄せられた。「わっ!」と思わず彼にしがみつき、何なんだと尋ねようとすれば彼が先に口を開いた。大人しく聞いているとまさかの言葉に目を見開き、彼がそんな風に思っていた事を知って驚く。彼の何気ない言動に一々反応してそれが彼にも伝わってしまっていて、不安な思いをさせていた事に気付くと腕を背中へ回してキツく抱きしめる。此処はちゃんと言葉にして伝えなくてはと決意しては彼の胸元へ顔を埋める。「…違う。嫌とかそんなんじゃない。…ただ、お風呂上がり一緒にゆっくりするの楽しみにしてたのに、僕、寝落ちちゃって…起きたら篤、仕事してて…僕と違って別にどっちでも良かったのかと思って…僕が寝てても、じゃあ仕事してよって切り替えられるくらいなのかなってなって…八つ当たり、した。でも、分かってるんだ。篤が僕に気を遣ってくれたって事は。分かってるんだけど、篤相手じゃ何か上手くいかなくて、どうしていいか分からなくて…。ごめん、こんなガキで。篤は何にも悪くないんだ、僕が勝手なだけ。何にも気に入らなくなんてないのに…。」話していると段々と涙が溢れて来て彼の服を濡らしてはいけないと少し離れ、話し終えると涙を拭う子供もなく子供の様にわんわん泣いて。)
(今まで一緒に居る間に何度も思ってきたことだった。もっと言うなら、自分と一緒に居たいと言ってくれた日からずっとそうだった。年の差や立場の差から、彼はどうにも自分に必要以上に気を遣おうとするが、それは自分が望む2人の関係では無く、あくまで対等な立場で笑ったり怒ったりすることが「恋人」という関係だと思っている。今日のことを良い切っ掛けだと思って、それこそ捨て身でこの話を切り出すと、やはり予想通り、いやそれ以上の返答が返ってきた。まずは1つ。今日の飲み会はスルーだったと言うことは、これは大丈夫らしい。良かったな佐伯。これで彼の機嫌を損ねることがあれば、明日は無事で無いと思って欲しいところだ。2つ目。自宅での仕事も辛うじてスルー。今日はたまたま日が悪かっただけの話のようだ。仕事の遅い自分としては、持ち帰らないことには益々仕事が終わらない。そして3つ目。自分とどうやって接して良いか分からない。だなんて。自分と同じように考えているなんて思いもしなくて、つい吹き出した)ぷっ!それ、俺も同じ。あーあー。折角の男前が台無しなんですけどー(わざとぶっきら棒に言いながら顔を覗き込むと、案の定きれいな顔がグチャグチャデ。本当は袖で拭ってあげたかったのだけど今は半袖だと言うことを思い出して、取りあえず抱きしめてTシャツの裾で涙を拭う。顎に手を掛けて顔を上げさせると、長い睫に光る涙が目に映る)なんで今まで言わなかったの。そんなこと。……。言わせてあげられなくてゴメンね。俺も一緒。真尋と一緒に居ると好きすぎてどうしたら良いか分かんなくなる。(夜風に揺れる前髪を掻き分けて、自分の額を合わせた)
(情けないけど流れる涙は止められない。次々と溢れ出て顔中がべちょべちょでおまけに鼻水まで出てくる。ズッと音を立てて鼻を啜り嗚咽混じりに泣きじゃくっていると、彼が突然吹き出し"同じ"と聞こえたが自分の声が煩くてしっかりとは聞き取れなかった。「男前、なんかじゃないっ!」何とか落ち着こうと息を整えていると抱きしめられしがみつけば、何かの布で涙を拭われちゃんと見ると彼のTシャツの裾で慌てて少し距離をおき「わぁ!折角濡らさない様に離れたのに意味ないじゃん!」と涙腺が緩んでしまったのかまたじわりと涙が滲む。顔を上げられ彼を見ると怒るでも呆れるでもなく優しげな表情で、それを見て安心したのか涙はぴたりと止まった。なんで言わなかったかなんて決まってる、嫌われたり呆れられたりしたくないから。少しでも余裕がある様に見せたくて意地を張っていたけれど、やっぱり何処かで素は出てしまうもので混乱していたのかもしれない。これからは、恐れず本当の自分を出していけるようにしたい。額が合わさり彼を見つめると、自分と同じなのだと告げられた。そうだったのか、そんなことならもっと早くに打ち明けていればよかったと今更後悔する。が、別に自分からでなくても彼から打ち明けてくれても良かったのになんて風にも思ってしまう。「篤こそ、なんで言わなかったのさ。…泣きそう?泣いてもいいよ?」自分が泣いてしまった様に彼も泣くのを我慢しているのだしたらと的外れな事を思っては、気を利かせたつもりで優しく問い掛けて。)
(自分の前で感情を露わに泣くだなんて初めてのことだった。切っ掛けはほんの些細なことだったのに、今まで溜めていたものが溢れ出してしまったのだろう。普段は気丈な彼が幼子のように泣きじゃくる姿を見て、我慢させていたことを悔やんだと同時に、やっと本音を言ってくれた嬉しさが込み上げてくる。ゴメンね。そしてアリガトウ。泣き顔を間近で見られたく無かったから離れたのだろうと思ったが、尚も涙を流す彼を放って置けなく抱き寄せると、自分の好きな彼の顔が何やら大変なことになっていることに気付いて、小さな子供でもあやすかのように思わずシャツで拭うと、汚れるからなんて言われるがそんなことを聞くつもりは更々無い。自分より少しだけ下にある彼の視線に合わせるように身を屈めて)仕事のことは本当にゴメン。配慮が足りなかったね。でも、真尋のことを最優先にしたい気持ちは分かって。俺は我儘だから、仕事を終わらせて真尋が寝る頃に帰るよりも、仕事を切り上げて真尋と少しでも一緒の時間を作りたいと思ってる。でも…。真尋が嫌だっていうなら家に持ち帰らないようにするから。これからはどんな小さなことでもいいから、何でも言うようにしよ。な?(話終わる頃には涙も止まり、いつもの彼に戻っていた。すると、ホッとしたのかすっきりしたのか何なのか分からないが、唐突に「泣きそうなら泣いてもいい」なんて言われて一瞬言葉を失った。いやいや!オッサンが若い男の子に抱きついて泣くなんてビジュアル的にきつ過ぎるだろう。たまに発せられる彼の言葉にはとてつもない破壊力があるため油断出来ない。引き攣った笑みでなんとか躱しながら、彼の背中を押すようにして部屋に戻ることにした)き、今日は間に合ってるから大丈夫。ほら、アイス食うんだろ。部屋に戻ろうか
(額を合わせた至近距離で彼を見詰め紡がれる言葉を聞く。彼はさっきから謝ってばかりだ、彼はちっとも悪くはなく悪いのは自分なのに。自分を最優先だと言ってくれたのはとても嬉しかったが、それでは彼を束縛するのと同じなのではと考えてしまうもそれが彼の気持ちならと受け止める事にした。こんなにも自分を思ってくれていたなんて、自分が思っていたよりも深く愛情を注がれていた事に今更気付いて、先程の自分がどんなに愚かだったのだろうと後悔する。自分は思い込みが激しく一人で考え込んでしまう傾向があるのは自覚済みで、彼からどんな小さな事でも伝え合う様にしようと提案を受ければ素直にそうしようも思えた。何となく目を合わせているのが気恥しくて視線を落としては、ちゃんと自分の思いを言葉に紡ぐ。「…大丈夫、篤が僕を一番に思ってくれてるのは分かってるから。だから、もう謝らないで…。…僕、仕事してる篤好きだし家で仕事するのも全然気にしない。篤が居てくれる方が僕も安心するし、寂しくない。…これからは、ちゃんと言う様にするよ。」そう言い終わると今度は自分が同じ思いをしていたという彼を慰める番だと涙を受け止める準備をしていたのに、今日は大丈夫なんだと断られた。背中を押されながら、なんだ、泣かないのか…泣いてる所見たかったな、なんて思うもいい歳したおじさんが声を荒らげて泣く姿はやっぱりちょっと気持ち悪い。やっぱり見なくて良かったかもと思い直し室内へと足を踏み入れれば、くるりと彼の方に正面を向けて抱き着く。胸元に顔を埋めて「…篤、…ありがと。…あと……だい、すき。」そう告げると勢い良く離れ赤らめた頬でキッチンの冷凍庫へと駆けて行って。)
(いつもはつい大切なこともはぐらかしてしまう癖がついてしまってなかなか本音が話せないが、今日ばかりは自分の気持ちが彼にちゃんと伝わるようにと、一言一言思いを込めて言葉をつ繋げる。上手く自分の気持ちを伝えられたかどうかは確信が無いが、少なくとも自分が伝えたいことだけはちゃんと話が出来たのでは無いだろうか。自信無さげな面持ちで彼を見つめると、自分の気持ちを汲んでくれたかのような真摯な言葉が返ってきた。だが、それに加えて謝り過ぎだと指摘されると、先程から「ゴメン」だの「配慮が足りなかった」だの謝罪の言葉ばかりだったことを思い出して苦笑してしまう。確かにそうかもしれない。だがそれも彼に伝えたかった言葉の一つだったのだから、女々しいと思われようとも仕方が無い。少し落ち着いた彼が自分に対して無茶な提案を持ちかけたが、どうにか部屋に戻すことに成功した。さて。仕事もひと段落ついたことだし、今までの時間を取り戻すべく飲み直そうかと思ったその時、振り向き様抱き着かれた。一瞬何が起こったのか分からずに衝撃を受け止めると、思っても見なかった言葉が返ってくる。「だいすき」と…。言った途端、すぐさま姿を消したところを見ると、余程恥ずかしかったのだろう。だが、残された自分はもっと恥ずかしいのだと言うことを分かって欲しい。この顔を見られなかったことを幸いに思う。どうせキッチンには彼が食べるアイスを取りに行ったのだろうから、すぐに戻って来るに違いない。それまでに、照れたせいでにやけてしまうこの顔を、なんとか平常に戻す必要がありそうだ。ソファに腰掛けて手摺に肘を付くと、未だにやついた表情のまま畏まった風を装って呟く)ったく…。人のことをどんだけ振り回すんだよ…
(ついに言えた、やっと言えた。口下手な自分はついつい生意気で釣れない言動をとってしまい、なかなか上手く伝えられないと気にしていたから今回の事は丁度良かったのかもしれない。言えた達成感と満足感でスッキリとした気持ちで冷凍庫を開けて自分の分のアイスを取り出しては、彼には珈琲を持って行ってあげようと思い付きアイスを一旦キッチン台に置いて珈琲の準備をする。お揃いで買った彼のカップに珈琲を注ぐとカップとアイスを両手にリビングへ戻ると、ソファに彼の後ろ姿を見つけ隣へと行くとけろっとした様子で「はい、篤。珈琲入れたよ。」とカップを手渡し、ソファへ腰掛ける。待ちに待った二人でゆっくり出来る時間に嬉しくて緩みそうになる頬を堪えながら「ねぇ、篤はお祭りとか興味ない?」と唐突に尋ねてはアイスの封を切って一口齧る。最近良く見かけるお祭りのポスター、彼を駅で待っていた時に掲示板に貼ってあったのを何気なく見たら、どうやら近所らしくて週末辺りの3日間ほどやっているみたいだ。少し子供っぽいかとも思ったが、一度くらい二人で行ってみたいと思った。人混みだし彼の年齢ではさほど興味は無いかもしれない、だけど聞いてみるくらいはしてもいいだろう。あまり興味を示していなければ適当に世間話の様に流してしまえばいい。彼の反応を見ようと彼の方へ顔を向ける。)
(未だに先の言葉の余韻に浸っていると、先日買ったカップを持って漸く彼がキッチンから戻って来た。さっきのことをまだ気にしていたらと彼の顔を窺うと、自分の心配を余所に予想に反していつもと同じ表情で、ブラックコーヒーで満たされたグリーンのカップをテーブルに置く。少々拍子抜けしたが、普段の彼に戻っていたことで安堵した。こちらも普段通りの表情で「ありがとう」と告げると、自分のために入れてくれたコーヒーに口を付ける。自ら好んで飲まない癖に、自分好みの味・濃さで入れてくれる彼のコーヒーはどこの店のものよりも美味しくて、1日の疲れを癒してくれるようだ。そんな折、突然「祭り」だなんてことを聞かれて首をかしげるが、ぼんやりと思い出した。もうそんな時期なんだな…。そりゃまぁ、嫌いでは無い。普段人混みの中を歩くのは苦手なのだが、こと祭りに関しては話は別だ。安っぽいソース味しかしない焼きそばも、高いだけで美味くもなんとも無い焼き鳥も、コンビニで買うよりも倍近い高いビールも、祭りでしか味わえないものだ)嫌いじゃないよ。どうしたの、急に。(自分はさっき食べた癖に、人が食べているのを見るとつい欲しくなり、彼の手に持っていたシューアイスに一口齧りつく。うん。美味い。コーヒーに実に合う)
(突然祭りの話なんて切り出して可笑しいと思われただろうか。何だか変に緊張してきた…。様子を窺う様に隣を見れば何やらぼんやりとしていて、不思議に思いながらも黙って返答を待ちつつアイスを齧る。すると嫌いではないと返事が来てぱぁっと嬉しくなるも何とか表情に出すのは堪える。続けて急にどうしたんだと尋ねられ、つい"別に。"と言ってしまいそうになるのを止め「え?…あ、…えっと…」と言葉を濁す。嫌いじゃないんだったら躊躇する必要ないよね…よし!密かに意気込むと「僕…お祭り、行きたい!一緒に!」と彼の方に勢い良く体を向けて真剣な眼差しで見つめる。よし!言えたぞ!誘ってやった!と内心ガッツポーズを決めていると自分のアイスが彼に齧られたのに気付き「あー!篤はさっき食べただろ!」と大声を出せば彼の頬を押し返し、アイスを彼から遠ざける様に離して不服そうな表情でじとりと見る。)
(大人の余裕とやらで上手く隠しきれただろうか…。コーヒーをすすりながらチラリと横目で見ると、そこから言葉が返ってこない。な、なんだったの?さっきの?!勝手に行く気になってしまった自分を盛大に恥じた。もしかしたら、学校の友達と行くつもりだったのを自分に相談したのかもしれない。それか、バイト先で行くことになったのか。危うく自分から誘って、いつもの調子で「なんに言ってんのさ」なんて言われてはダメージが大きすぎる。ここは大人しく様子を見ることにしよう。やはりさりげなさを装い)そういや、このあたりであるよね。(例年通りに会社帰りにたこ焼きでも買って、君の帰りを待つよ。そう思った瞬間、まさかの返答が返ってきた。一緒に行きたい、と。一気にテンションが上がる。どうしよう。これではまるで中学生男子だ。夏好きとしては恋人とのデートとしては祭りは絶対外せない。彼が言っているのが近隣の祭りならば3日間あるはずだ。確か金土日の3日間ならどこかスケジュールが合うはず。アイスを齧ったせいで若干彼の機嫌を損ねながらも、やはり冷静に尋ねる。彼から奪ったアイスを咀嚼しながら)確か週末だったよね。真尋、いつなら空いてるの?
(自分から何処かへ行こうと誘ったのは何時ぶりだろうか、誘うってやっぱり緊張して苦手だ。友人なら気兼ねなく誘えるのに彼を誘うとなると断られた時にショックは大きく、気恥しいのもあってなかなか言い出せない。しかし、偶にはと勇気を出して誘ってみれば何時が空いているのかと尋ねられ、一緒に行ってくれるのだと分かれば嬉しくって頬が緩む。ソファの側に置いていた自分の鞄からスケジュール帳を出し今月のページを捲れば今週の欄を指でなぞり「えっとね、僕は…18時以降ならどれでも大丈夫。篤は都合何時なら行けそう?」と手帳から顔を上げて彼を見る。平然としているが心の中では、万歳をしたいくらいの喜びと今からワクワクが止まらないくらいの楽しみでいっぱいだ。お祭りといえば…林檎飴食べたいな…後、たこ焼きとかカステラとかかき氷も。花火も上がるみたいだから一緒に見て…うわぁ、恋人っぽい!恋人だけど。浴衣とか来て行った方がいいのかな?その方が大人っぽいかな?と想像を一人膨らませる。)
(彼から漸く誘いの返答が返ってきた。尋ねてみると3日間とも時間に余裕があるらしい。慌ててスマホの予定表を確認する。金曜日…。これは危険だ。残業の入る可能性がかなり高い。土曜日。仕事は入っているが、午後は必ずず終わる予定だ。日曜日。まぁ予定は無いが、世間一般に盛り上がるのは土曜日だろう。よし決めた!)土曜日はどう?仕事はも夕方には絶対終わるから。どっかで待ち合わせでもしようか。(このエリアに長年住んでいながら、地域の祭りに参加するなんてほとんど無かった。先にも述べたように会社帰りにデリバリーのように、何品か買って家で楽しむくらいが精々だったのに、まさか大好きな彼と一緒に祭りに参加出来るなんて夢のようだ。確か花火も上がるはず。ぐーぐる先生に聞いて、人通りも少なく、尚且つ花火が見れる場所を探しておく必要がある。そこで一つ問題です。どうしても浴衣の彼と祭りに行きたい場合はどうすれば良いでしょうか。彼の浴衣姿がどうしても見たい!なんなら買ってやる!!下心を隠しつつサラッと)土曜日はどうかな。あと、せっかくの祭りなんだからさ。真尋、浴衣着たら?似合いそうだけど。
(彼が携帯で予定を確認している間、勝手にお祭りの風景を想像する。賑やかな通りを人混みに混じって、色んな売り物に目を奪われながら歩く。半分こしたりして…。花火が上がったら二人並んで見上げて…ロマンチックだ…少女漫画みたい…。少し照れくさいけど、こんな機会は滅多にない。いい思い出になればいいなぁ。彼から土曜日はと聞かれ、勿論大丈夫で頷く。「いいよ、土曜日。待ち合わせは…駅にする?何時も僕達が使う。」此処からでも歩いて行ける距離で、彼が仕事帰りに寄りやすい場所…となるとやはり駅だろうか。何時もとあまり代わり映えしないが、待ち合わせは人混みではない方がいいだろうと考えて提案した。今度は今日よりもっと大人っぽく格好よくキメた装いで行こう、新しい服でも買いに行こうかと考えていた所で浴衣を提案された。ついさっき薄らと頭を過ぎったが、似合いそうなんて言われては断る事が出来ない。しかし、自分が求める様なイメージの物は持っていない。母さんに聞こうかとも思ったが子供の頃のしかないだろうし、友人に借りるのも何だか気が引ける。「けど、僕、浴衣なんて持ってないよ。それに篤はスーツなのに僕だけって変じゃない?」断る訳ではないが、着れる様なのがないのと彼と服装が違い過ぎておかしいのではとどうしようか迷う。買ってもいいが、彼好みのなんて正直分からないし…。)
(さりげなくこちらが持ち出した提案に彼が乗ってくれた。これはチャンスだ。この機会を逃す手は無い。だが、仕事帰りとなるとこちらはスーツで待ち合わせ場所に現れることになる。自分は全く気にならないのだが、敢えて突っ込んでくるところを見ると、どうやら気にしているらしいことが分かった。確かに言われてみるとそうかもしれないな…。しかしここで有耶無耶にしてしまっては、彼の浴衣姿を見られるのが1年先となってしまう。それだけは何とか阻止したい!別にコスフェチな訳では決して無い。…はずだが。好きな子が普段着ない浴衣を着て、しかも大手を振って一緒に外を歩けるだなんてそうそう無いだろう。この数分の間に策を練る自分にも我ながら呆れるが、今はそんなことを言っている暇は無い。どんな手を使ってでも、彼に浴衣を着せることが最優先事項なのだから。先程の彼の発言を踏まえて返答する)別に変じゃないとは思うけど。真尋が気になるんだったら一緒に着ても良いし。祭りの日は早めに仕事切り上げて帰るから、家から一緒に出れば良いんじゃない?来週、真尋がバイト無い時に一緒に買いに行くってのはどう?(コーヒーを飲みながらさらりと告げる)
(…浴衣かぁ…やっぱりそういうの着た方が大人っぽいのかな?彼が着たのを想像してみると…か、格好良すぎて…やばい。彼の浴衣姿なんて見た事もないし、見たいと考えてた事もなかったけど、今はすっごく見たい。彼はスーツで自分は浴衣でお祭りに行くのは変じゃないかと尋ねてみると、一緒に着てもいいとまさに願ったり叶ったりの返事が返ってきた。目を輝かせて表情を明るくし彼に訴える。「一緒に着たい!」彼と二人で浴衣を着てお祭り…うわぁ、素敵すぎる!!どうも彼との事となると思考が乙女化してしまう。ロマンチックに憧れもなければ少女漫画なんて読んだ事もないが、女の子達が好きなのも今なら分かる気がする。それに家から一緒に行けるのなら、待ち合わせをしなくてもいいし。浴衣を買いに行こうと提案されては、来週の予定を思い浮かべる。「そうだね。来週は、木曜日と金曜日ならバイト無いよ。」よし!大人っぽい浴衣で彼を悩殺だ!自分だって、もうこんなに大人なんだと見せ付けてやらないと!あ、でも…。「僕、自分で着たことないんだけどさ…篤は着付け出来るの?」小さい頃は着せて貰っていたし、大きくなってからは着た覚えすらない。簡単そうに見えるけど、全く持って知識がなく特に帯なんてどうやって結ぶのやら。彼はどうなのだろうと問いかけてみた。)
(自分から一緒に着ようと提案すると、先程とは打って変って前向きに検討してくれるらしかった。ヨシっ!!心の中でガッツポーズをする。浴衣かぁ。どんなのが似合うだろう。シンプルなのも良いだろうし、普段身に付けないような鮮やかな色合いのものも良さそうだ。合わせる帯や下駄の鼻緒も大切だし…。って、キモいな。俺。女の子の買い物に付き合うことほど不毛なことは無いと常々思っていたくせに、彼のこととなれば話は別だ。買い物、特に服。こっちが似合うだか色はどっちが合うだとか聞かれても全く興味が持てず、専ら荷物持ちの役目に回ることが大半だったが、彼が着るとなれば話は別だ。自分も一緒に買うと言う大義名分があれば、試着から付き合うことが出来る。我ながらナイスアイデアだと自画自賛したところで、彼から一体誰が着付けるのだということに指摘が入る)俺もそんなこと出来ないからさ…(勿論抜かりは無い。自分もそこは気にしていた点だったので、計画としては今度一緒に選んで購入し、祭り当日に店で着付けて貰うという流れを伝える。本当なら任せとけなんて言えればいいのだろうが、和装なんて全く知識も無く、温泉に行っても襟の左右前すら分からない自分に恰好良く着付けるだなんて不可能に近い)
(あの…。真尋くんのこと、絶対に大切にします!!至らないところも多々ありますが…今後とも宜しくお願い致します/)
(普段の服も特にこだわりがなく適当に買って適当に着ていたのだが、彼と出会ってからは割とこだわる様になった。出掛ける時なんてそれはもう持っている服を全て引っ張り出す勢いだ。理由は勿論、大人っぽく見られたいから。今回は流行りも着飾り方もイマイチ良く分からない浴衣を選ぶのだが、これがまた難しい。彼はどういうのが好きかな。自分的には落ち着いた色で大人の色っぽさが出る様なのが理想だが。こればかりは行って売っているのを見なければ分からない。彼に着付けは出来るかと尋ねると、やはり出来ないと返ってきた。男はあんまり着ないからな…こういうの。店で着付けてくれると聞けば、そんな事全く知らず驚く。「売るだけじゃなくて着付けまでしてくれるんだ…凄いね。」わざわざ店に出向くのが面倒だが…。あ、そうだ!こういうのは女の子なら良く知ってるんじゃないかな…香菜に聞いてみようかな。「ね、僕が着付け方教わって来ようか?女の子なら知ってると思うんだよね。」彼に事を切り出してみる。家で着れた方が楽だし、何より着付けが出来るなんて格好いい。何時もは世話を焼いて貰ってばかりだから、今回は自分が彼を着付けていい所を見せよう。)
(/わぁっ!有難うございます!!! 此方も篤さんの事、大切に愛していくと誓います!!!これからもお隣に真尋を置いて頂けたらと思います。末永く宜しくお願い致します。)
(浴衣を購入しに行くところまでは概ね同意を得ることが出来た。問題の着付けに関しては、彼がどこかで調達してきてくれるという案を出してくれた。恐らく学校の友人に、そう言ったことに詳しい人間が居るのかもしれない。茶道部や和楽部ならば、なんてことない話なのだろう。ここは素直に彼に任せることにした。相手が女の子だということには目を瞑ることにして…。彼の友人に女の子の話が出て来るなんて初めてだから、つい怪訝な顔をしそうになったがなんとか押し留めることに成功した。と思う。そりゃ、共学なのだから女の子も居るだろう)真尋がしてくれるなら手間が省ける。じゃぁ、当日は真尋に任せることにして、今週の木曜に一緒に買いに行こうか。(大型デパートか呉服屋か…。これも迷うところだ。考えあぐねた結果、今回はカジュアルなものも選べるようデパートでの待ち合わせにすることにした。これなら彼の好きなブランドからも選べるかもしれないし、もしまた欲しくなれば来年また買いに行けば良い話だ。というか、何着でも買ってあげたいと言うのが本音なのだが)19:00に駅前で待ち合わせで良い?
(香菜、彼女の事は数少ない女友達だとは思っているが、それ以外の感情で接した事はなく何の気なしに話題に出した。彼も何も突っ込んで聞いてこなく、不機嫌といった様子も見受けられないし時に気に障る事はなかったようだと判断する。自分に任せると言われては、頼りにされている感を感じてつい張り切ってしまう。「任せといてよ、凄く格好いい着方教わって来るから!」まだ彼女が着方を知っているかどうかも分からないが、もう教わる気満々で早く明日になって欲しいなんて思ってしまう。買い物の日時を彼が決めてくれれば異論はなく頷く。「木曜日の19時に駅ね。送れないでよ!」余計な一言を添えながらも楽しみだと頬を緩める。「どんなのがあるかな。僕、浴衣買いに行くの初めて。」俯き加減で何処か照れくさそうにしつつ、初めてなのだと彼に打ち明ける。お祭りに行きたいの一言から浴衣を買いに行く所まで話が行くとは思わなかった。何だかお祭りよりも浴衣を着る方が楽しみになってしまっている様な気がするが、まぁいっか。)
(浴衣を購入することにも同意を得て、彼のツテで着付けの問題も解決した。あとは予定通りにことを運ぶのみだ。彼に祭りに誘われた瞬間に頭を過ったこの計画が、こんなにうまく乗るとは思わなかった。祭り当日は勿論楽しみだが、一緒に浴衣を選びにいくというオプションまで付いてくるなんて。やっぱり夏は良い。実に良い。時間厳守と言われたからには、約束を守るために仕事を終わらせる必要があるが、それはなんとかなるだろう。しかし彼が着付けを乞う女の子とは一体どんな子なんだろう。本当は聞いてみたいところだが、仲の良い友人だと言っているのだからそれ以上の詮索はしないことにした。第一そんなことに嫉妬するなんてみっともないということくらいの自覚はある。そして、頬を染めて浴衣を買いに行くことが初めてだと告げられてしまえば、自分のちっぽけな嫉妬心なんて一瞬にしてどうでも良くなった。嬉しそうに微笑む彼につられて、こちらも思わず笑みが零れる)俺もだよ。真尋が祭りに誘ってくれなかったら、一緒に浴衣を買いに行くなんて出来なかったもんな。ありがと。(素直に喜んでくれる彼の髪を、愛おしそうに優しく撫でる。淹れてくれたコーヒーも空になり、夜も随分と更けてきた。)そろそろ寝ますか。(ソファから立ち上がると、彼にも立ち上がるよう腕を差し出す)
(木曜日は午前と午後跨いで講義があるが待ち合わせの時間までは時間があるし、本屋にでも寄って流行りの浴衣をばっちり学んでおこう。無知なまま何かをするといった事が苦手で、料理も取り敢えずは本を熟読する所から始まるし、彼との関係だってドラマや雑誌を立ち読みして積極的に知識を取り入れようとしたりと興味がある事に関しては特に積極的で学ぶ事に貪欲である。が、知識はある程度身に付くもののそれを踏まえて行動するとなると不器用を発揮し上手くいかないのが何時ものパターン。今回はそうならない様に気をつけると自分に言い聞かせる。自分が始めてな事が彼にとっても始めてだと知ると、些細な事だが一緒の初体験が嬉しくまたほんのりと頬を染める。誘った事に対して礼を言われると何だか気恥しく、うっかり…僕は興味ないけど篤が好きかなと思ったからとか、今時お祭りに行かない方が流行遅れなんだとか照れ隠しの言い訳を思い付いてしまうが、髪を優しく撫でる手付きと愛しげな視線を見るとそんな言葉は出てこず、代わりに「どう致しまして…。」と照れ臭そうに俯き告げる。そろそろ寝ようかと立ち上がった彼を見上げると此方に手を差し伸べていて、その手をゆっくり掴めば「あーあ、今日は篤の所為で凄く疲れちゃった。」と本心ではなく冗談で軽口を叩いて立ち上がる。)
(予定も決まり、あとはその日を待つだけだ。いつもより幾分素直な彼が可愛くて髪に触れると、普段のような軽口は無くて、照れたようにこちらからの礼を受け入れてくれた。手を差し出せば握り返してくれたので、彼が立ち上がりやすいように軽く手を引く。疲れたという彼の言葉に苦笑をもらしながら、こちらも彼の調子に合わせる)まぁ、そう言うなって。今日は本当に感謝してるんだから。真尋さんのおかげで仕事も上手く行ったし、飲みにも付き合ってくれて、本当にありがとうございました。今度のデートの時には必ず埋め合わせするからさ(少し芝居染みたようにそっぽを向きながら不満を告げる彼の頬に口づける。今日は自分に付き合って貰ったのだから、今度の買い物の際は彼に合わせようと決めていた。甘いものの好きな彼のことだから、そう言った店に行っても良いし、普段彼が行く店というのにも単純に興味がある。リビングの電気を消し、2人して寝室へ移動しながら話し出す)買い物終わったら真尋が食べたいもの食いに行こう。考えといてくれると助かるんだけど、どうかな?
(同じ事をするにしても友人と行く時より彼と行く時の方が楽しみな気持ちは大きく、ついつい色々想像してしまって浮かれてしまう。しかも夏限定のイベントとなると尚更。夏っていいな。今までは暑いだけあまり好きではなかったけど、今は一番好きな季節に思える。手を握り立ち上がり彼から一日のお礼と埋め合わせをすると聞けば頬に口付けられる。反射的にほんのり色付いた頬で照れを隠す様に態と不貞腐れた表情をして彼を横目に見る。リビングの電気を消すために手を繋いだまま彼に引かれる様にして歩きながら、今度は自分の好きな店に行こうと提案されると少し考えた後頷く。「…分かった。考えておくよ。」電気を消し終え暗い中歩き寝室へと辿り着くと手を離して先にベッドに寝転べば、真ん中で大の字に手足を広げて「ふふん、篤の場所は占領した。」とドヤ顔を向ける。)
(寝室へ移動するすがら予定を考えておくと伝えられ、より一層次のデートが楽しみになった。手を引きながら、さて寝るかと寝室へ入った途端、大の男が2人並んでも少し余るくらいのベッドのセンターを占領されてしまった。子供染みた仕草だと思いながら、案外こういう彼を見るのは嫌いでは無い。寧ろ年相応で可愛らしく見えてしまう。これも彼を愛する故の恋愛補正なのかもしれないが…。上から見下ろすと、彼の長い手足のせいで自分の寝るスペースはわずかにしか残っていないので、このままでは自分の睡眠を確保することは出来ない。しばし考えた末に思いついた。自分が眠る場所を確保するにはこれしか無い。結果、彼が寝ころぶ上に覆い被さり羽交い絞めにしてしまう。これなら自分の寝場所も確保して、尚且つ彼を抱き締めることが出来る。腕力では、まだほんの少し自分の方が上だと自負しているつもりだ。文系の学生さんには負けないぜ。先程まで得意げな顔でこちらを見ていたところ、一挙形勢逆転。ベッドのセンターを占拠しながら背後から抱きしめた)甘いよ。真尋くん。(室内はエアコンを利かせてある。ベッドを占領しようとした罰として、朝まで自分の抱き枕になってもらうことに決めた。最高の抱き心地を堪能しながら眠りに落ちていく)
(自分を見下ろし何やら考え込んでいる様子に、困ってる困ってると口角を上げる。本気で困らせる事はしないよう心掛けているが、時々こうして自分の行動に悩む姿を見るのは密かに好きで何だか可愛いと思ってしまう。何て返してくるだろう。頭を下げて場所を譲って下さいとか?それとも、押し退けて強引に入ってくるかな?どっちにしろ、直ぐにちゃんと彼のスペースを返す気でいるが反応が見たくて取り敢えずまだ動かずにいる。すると、ベッドに乗って来たからてっきり押し退ける事にしたのかと体に力を入れるも自分を退ける事無く上に覆い被さられ…あれ?ときょとんとする。彼に声を掛けようかと思えば羽交い締めにされた。「うわっ、ちょ、篤!」思ってもみなかった行動に慌てて離せともがくも、歳の差なのか筋肉量の差なのか彼の方が少し力が強く身動きがとれずにいると、背後から抱き締められ渋々といった様子で大人しくする。甘いと言われると悔しくなって何か言い返そうとするがその通りで返す言葉が無く不貞腐れる。背後から寝息が聞こえてきては、自分も大人しくそのまま目を閉じて眠る事にした。)
(そして、彼と買い物の約束をした当日。時計を見ると時刻は15:00を過ぎたところだった。仕事の消化率も予定通り。これなら約束の時間に十分間に合うように退社することが出来る。いつもよりもペースを上げて業務をこなしていると、面倒臭い奴…もとい佐伯から今日はどうしたのかと尋ねられる。目の前のモニターに向ったまま見上げることもせずにデートと一言答えると、「あぁ、例の…。せいぜい捨てられないように頑張れよ」なんて捨て台詞を残して去って行った。うっせぇ。今日はお前に構ってる暇は無いんだよ。言い返してやろうかと顔を上げるが既にその姿は無く、こちらに背中を向けて歩きながらひらひらと手を振る様が目に映った)言われなくても分かってるっつの…(愛想の無い言葉で返してしまったことに少し反省する。普段は他人に興味が無いように見えて、自分を気に掛けてくれている同僚の何気ない言葉に感謝しながら、残りの仕事を片付けていった。18:15。予定通りに終了。帰り際に佐伯のデスクまで行き、「捨てられないように頑張ってんの」と声を掛けると、「良い子じゃん。逃したら絶対後悔するよ。お前」と返されてしまい、自分の気持ちを見透かされたようで苦笑が漏れる。分かっているとの気持ちを込めて、先程されたように背中を向けたまま手を振り立ち去った。事務所を出てすぐに携帯を取り出しメールを送る)「TO:逢崎 真尋/SUB:Re/今終わった。待ち合わせの時間に間に合いそう。着いたら連絡下さい」
(今日は楽しみにしてた浴衣を買いに行く日。朝から機嫌良く学校へ向かった。午前中の講義を終え何時ものメンバーで昼食を摂った後、一人別行動をすると告げしつこく理由を聞かれたが無視して香菜を探して学校内を歩く。そうだ、探さなくても携帯に連絡すればいいんだ。探して10分、今頃気が付いて携帯を出した所で背後から女子に声を掛けられた。聞き覚えのある、まさに自分が今探していた人物の声で慌てて振り返る。「まーひーろ!」「香菜!良かった、丁度探してた所なんだ。時間ある?」「あるけど、何か用なの?」彼女に要件を尋ねられ、男性の浴衣の着付けが知りたいのだと告げる。すると詳しくまでは知らないが、一般的な着方についてはある程度知っているらしく教えてもらう事になった。暫く口頭とジェスチャーで説明を受け何となく掴めた所で説明は終わった。「今度は彼女とお祭りにでも行くの?」「彼女なんていない。…けど、お祭りは行く。」彼女は自分に彼女が居て自分も浴衣を着て行きたいから教わりに来たと勘違いしている様で、一応勘違いは解いておこうと彼女の存在は否定する。「じゃあ、誰と行くの?」「…好きな人。」どこまで彼について話していいのか分からず、取り敢えず当たり障りのない程度で答える。「ふーん、真尋ってさ、その子の事よっぽど好きなんだね。何時も真剣な顔で聞いてくる時は、基本その子絡みの事ばっかりだし。」確かにこの前聞いたのは居酒屋に行く格好についてで彼関連の事だった。ていうか、子なんて歳じゃないし髭の生えたおじさんだし。何も言って来ないから気にしていないのかと思っていたけど、そんな風に思われていたんだ。好きな人の存在は知られている事だし、ここは素直に答える事にした。「世界一好き。」少し照れながらもそう言い切った。「そっか。それじゃあ、頑張ってね。」少し驚いた顔をしたが笑顔で自分を応援してくれたのが嬉しく「うん、有難う。」と手を振って別れた。これで祭り当日はばっちりだ。その後午後の講義を受けアイツらと話して駅で別れた。家の最寄駅を一旦離れ本屋に寄って雑誌をチラッと見たが男の浴衣に関する事は載っていなく店を後にする。携帯の着信音に気付きメールを確認する。彼も仕事が終わった様で待ち合わせの駅に向かいながら返信をする。『宛先:槇村 篤 件名:僕も間に合う。 本文:今向かってる。後少しで着く。』日中とは違って大分暑さがマシになったと感じながら駅へと歩く。)
(目的の駅に着き、改札を出ようとして定期を取り出そうとすると、ジャケットの胸ポケットに入れていた携帯がブルブルと震える。慌てて取り出し起動させると差出人は彼だった。メッセージにはもう少しで着く書かれている。どこかで時間でも潰そうとも思ったが、自分が出遅れて彼を待たすのも申し訳なく思い、大人しく待ち合わせ場所に居ることにした。昼間の猛暑に比べると、流石にこの時間ともなれば気温が下がっているとはいえ、スーツを羽織っていては汗が滲んでくる。仕事も終わったということで、ジャケットを脱ぎ手に持つことにした。彼を待ちながら道行く人たちをぼんやりと眺める。場所柄、大きな駅の乗継点と言うこともあって、アパレルショップだけでなくオフィス・飲食店が集中しているため、色んな人間が目の前を通り過ぎて行く。その中には、夏休みのデート場所として使っている彼と同じ年頃の学生カップルも勿論居る。こういうのを見るとせっかくの夏休みなのに、自分が色んなところに連れて行ってあげられないことをもどかしく思うが、だからこそ2人の時間を大切にしたくなる。後ろ向きな気持ちは横に置いておいて、今は彼の到着を心待ちにすることにした)
(駅に近付くに連れて人通りが多くなってきてカップルがちらほらと目に付く。ふふん、僕らだって今からラブラブデートなんだから!と口角を上げては、きょろきょろと見渡し彼を探すと行き交う人の隙間にその姿を見付け、上手く人を避けて彼の元へ駆け寄る。「お待たせ。」何時もは自分が待っている事の方が多く、こうやって彼が待っていてくれるのは新鮮に感じて嬉しい。下ろされている手を掴んでは「ほら、早く行こう。いいのが売れちゃったらどうするのさ!」と何処か楽しげに告げてはグイグイと彼を店まで引っ張って行く。デパートの入り口から入って涼しい冷房を感じながらタイミング良く来たエレベーターに乗り込む。この間も彼の手は握ったままで着物や浴衣の売り場の階を押す。エレベーターの中には二人だけで外の騒がしさと打って変わって静かな空間だ。「どんなのが売ってるかな。篤は落ち着いた色が似合いそうだよね。」楽しみだと心待ちにしながら彼に笑いかける。)
(メールが来てから数分後、人混みを眺める先から待ちに待った彼の姿が目に入る。すぐにこちらに気付くようにと片手を上げると、自分に気付いた顔が綻んだのが分かった。)お疲れさん。ちゃんと約束守っただろ?(珍しく自分の方が先に到着したことをさも得意げに自慢すると、「お待たせ」と言葉が返ってきた。その表情を見上げると、駅から駆けて来てくれたのだろうことが容易に分かる。外で待ち合わせをする度に、彼を待たせてしまっている自分は、きっと知らないうちに心細い思いをさせてしまっていたのかもしれない。そんな言葉を掛けようとした途端に手を引かれた。普段の彼なら絶対に自ら触れてくれるなんてことはありえない。ましてやこんな人混みの中だ)ちょ、真尋!(普段のクールな彼からは想像出来ない行動に戸惑うが、彼がこの日を楽しみにしてくれていたのだと言うことを素直に受け入れることにした。もちろん、こちらがどれだけ楽しみにしていたかは推して測るべきなのだが。手を引かれるままにエレベーターに乗り2人きりになる。自分に似合う物をと話掛けられると、ついこちらの欲目も出てくる)真尋は何でも似合うと思うよ。(祭りの話が出てからこの日まで、彼に似合いそうな物でシュミレーションを重ねて来たことを悟られまいと冷静を装う。目的のフロアに着くと、レディース・メンズ問わず浴衣の催事になっていた。余計なことはグッと抑えて、彼が欲しいもの、着たいものを優先に選んで欲しいと思い)着たいのからいくつか選んで、その中で決めようか。(そう言って、取りあえず店内を見て歩くことにした)
(戸惑い慌てた様な声で名前を呼ばれたが早く買いに行きたい一心で特に気に掛けもせずに引っ張って行った。エレベーターの中で何でも似合いそうなんて言われたが"何でも"は言い過ぎだろうと思い、自分に対してはとことん甘い彼が少し気恥しく態と言葉を返さなかった。エレベーターを下りれば売り場は直ぐ目の前で、シーズンだからだろう広いスペースが設けられていて、女性物は鮮やかな色彩が多く男性物は落ち着いた色で控えめな柄が多い様に思える。流石に店内で手を繋ぐ勇気はなくパッと手を離し、男性物の売り場の方へ歩く。思った通り、色も柄も様々でこの中から選ぶのは大変そうだなんて思ってしまう。すると、何着か選んでその中から絞ろうと彼から提案され、その方法が一番だと頷く。彼の後をゆっくりと着いて行きながら浴衣を眺めていく。白は何だか幽霊みたいだとか、あまり厳つい柄は流石に着る気にはならないだとか考えながら歩いていると、ふと視界に入って来た苗色の細縞柄の物を手に取り彼に声を掛ける。「篤、これなんてどうかな?」自分の肩の高さに当てて見せて彼の反応を伺う。本当はもっと暗い色の大人な感じのを選ぶ予定だったけど、これを見た瞬間に色味が好きだと思って少し気に入ってしまった。「あ、紺色のもある。」と苗色のが掛けてあった隣に色違いを見付けてそれも手に取る。)
(フロアに着くと先程まであんなに積極的だったにも関わらず、あっさりと手を離されてしまい、急に空いた手をのやり場に困り、ポケットに突っ込むが、フロアを眺めると彼の気持ちは分からなくもない。そりゃまぁそうだろ。店内にはずらりと並べられた浴衣と、自分達と同じようにそれを見に来た客で随分と賑わっているのだから。彼に好きな物を選ぶように告げながら、自分も興味深く店内を物色していく。それにしてもこんなに沢山のデザインがあるなんて思っても見なかった。シンプルなものから、古風な柄、果ては昇り竜のような奇抜なデザインの物まである。すげぇな、おい…。そんなことに気を取られていると、気に入ったものを見つけたのだろうか、彼から声を掛けられた。手に持っているのは淡い優しいグリーンに縞柄の入ったものと、色違いの紺色の浴衣。自分の中では彼には淡い藍のようなものを漠然と想像していたのだが、グリーンは予想外で…。だけどそれは非常に似合いそうだと、瞬時に目を奪われた。浴衣なんて同じものを何年も着るものでは無い。年を重ねればそれ相応の物を着なくてはいけないのだろう。それを考えれば、この色は今の彼にしかきっと着れない色だ。大人と少年の間を行ったり来たりしている彼の雰囲気にもすごく合っている。だが、ここで自分がゴリ押ししてしまうのもなんだからと、一息ついて敢えて冷静に答える)紺と緑だったら、緑…かな。他にもあるかもしれないし、それも候補に入れといたら?
(彼にどうかと浴衣を見せるも絶賛する感じはなく悪くはないといった風な返答に、何だか自分もこれじゃない感を感じてきてはそっと元の場所に掛け直す。「やっぱり、他のにする。…そうだ!篤が選んでよ、僕に似合いそうなの。自分じゃ良く分かんないし。ね、いいでしょ?」彼の片腕を両手で掴んではいい事を思い付いたと瞳を爛々とさせてお願いをする。彼の方がセンス有りそうだし、きっと大人っぽいのを選んでくれるはずだ。来年も再来年もお祭りがあるなら一緒に行きたいし、どうせ行くなら彼好みの浴衣を着たい。人に着る物を選んで貰った事なんて大きくなってからはなく、少し照れ臭いけど折角の浴衣だし大好きな彼に選んでもらいたい。こんな思いは口には出さないけれど。「あ、派手なのとか厳ついのは嫌だからね!白もお化けみたいで嫌だ!」もう選んでもらう気満々で、却下な物を告げていく。)
(控えめに彼の選んだ浴衣を褒めたが、やはり伝わりにくかったようでハンガーに戻されてしまった。代わりに自分にも選んで欲しいと言われてしまう。多分自分に期待されているのは、大人っぽく見えるようなものなのだろう。本当は先のような若々しい色合いこそ彼に似合いそうだと思っていたのだが、彼が選んだものと自分が選んだものとで、最終的に決めれば良いかと考えた。昇り竜だって面白いのにと思った途端、考えを読まれてしまったのか、早々に却下されてしまった。大人っぽい浴衣…。そうだなぁ…。委ねられたからには真剣に選び出し、その中から2点に絞った。濃紺ベースに薄い藍のシンプルな縦ラインの入ったものと、もう一つは非常に深い紫の地にグラデーションのように薄い藤色が少し太めのボーダーのように入ったものだ。濃紺は彼のストイックさと清廉なイメージから、紫は時折見せる艶っぽい仕草表情からこの2点を選んだ)俺からはこの2つかな。折角だから、さっき真尋が選んだのと合わせて試着してみたら?(濃紺の浴衣には淡いグレーの帯と、紫の浴衣には濃紺の帯を手渡し、さりげなく全てを着るよう提案する。もちろん自分が見たいからだなんてことは言わずにだが)
(彼はどんな風なのが好きなのだろう、自分に選んでくれるのだろうと楽しみに手を離して隣で大人しく待つ。すると、濃紺と濃い紫の浴衣をチョイスしてくれ、どちらもシンプルで落ち着いた色味が大人っぽさを感じさせる上品な柄で普段自分が選ぶ事は少ない様な物だった。どちらにしようかと浴衣を交互に眺めていると先程自分が手に取ったのも加えて着てみればいいと彼に提案され、確かに着てみないと似合うかどうか分からないなと思っては頷く。苗色のを手に持つと、丁度近くに店員さんが居て試着したいと声を掛けたら試着室へ案内してくれ、彼の手を引いて試着室へ向かう。自分で着れると告げるとごゆっくりと店員さんは去って行った。これで着付けを練習するいい機会になると思っての事で、彼の方を向くと「じゃあ、着てくるから。ちゃんとそこに居てよね。」と彼が何処かに行ってしまわない様に忠告するとカーテンの向こう側に消える。まずは苗色のから。帯は深緑で自然を連想させる様な組み合わせだ。香菜に教わった着付けの仕方を思い出しながら順序よく丁寧に作業を進める。暫くして何とか一人で着れた。襟元を整えてカーテンを開ける。「…どうかな?」何だか気恥しくて視線は合わせられずに彼の胸元辺りを見る。)
(自分の提案を受け入れて、彼の選んだものと自分の選んだものとを試着してくれると言う。フィッティングルームの前に来て、店員さんを呼び試着の旨を伝えると着付けについて話してくれたが、彼が自分で着ると答えると、試着室の前には彼と自分の2人になってしまった。同級生の女の子にしっかりとレクチャーを受けて来たのだろう。そこに居ろと釘を刺されるまでも無く、ここから1歩も動かないつもりで待機する。器用な彼のことだからどうやら心配なさそうだが、足りない物や自分が手伝うことがあるならと思って待ってはいるものの、時間が経っても一向に声は掛らない。余りの静けさに声を掛けようとしたその時、試着室のカーテンが開いた。中から出て来たのは、落ち着いたグリーンでまとめた浴衣をキッチリと身に纏った彼だった。帯もしっかりと締められて、着付けも全く問題無い。爽やかさとこれから大人になろうとする彼の雰囲気にとても合っていて頷きながら思わず呟く)うん。すごく良い。着付けもとても上手いし。(自分の中ではこれで確定なのだが、せっかくの機会だ。自分の選んだものも来て貰えると嬉しいと考えて)じゃぁ、あと2着も見てみない?(完全にオッサン目線で声を掛ける。良いじゃないか!だって1年に1度の機会なのだから!それにしても浴衣の破壊力はハンパ無い。3着買いそうな自分をなんとか押し留めた)
(自分なりにまぁまぁいい感じに着れたと思う。彼の反応を待っているととても良いと言ってもらえて、着付けも上手だと褒めて貰えた。真剣に着付けをしていたのと初めての浴衣を彼はどう思ってくれるかといった緊張で、表情が硬くなっていたがいい反応が貰えた事で嬉しくて僅かに頬が緩む。鏡で後ろ姿を何度も確認していると彼から他のも着てみたらと言われ、勿論そのつもりでいたと頷く。「うん、ちょっと待ってて。そこ、動かないでよ。」念の為としつこく忠告しては再びカーテンの向こうに身を隠す。丁寧に帯を解き浴衣を脱いで元の通りに畳む。綺麗に戻した後、今度は濃い紫のを手に取りさっきと同じ手付きで着始める。苗色と違って大人な雰囲気に色っぽさを出したいとアレンジ精神が顔を出し、襟元を広げて着てみる。自分がこうして着ると着崩れている様に見えてとても色っぽさは出なかったが取り敢えずこの状態で帯を締めて彼へ見せる事にした。カーテンを開けると「どう?ちょっと着方変えてみたんだけど」と彼の前へ近寄り見詰める。)
(試着室から出てきた彼を大手を振って褒めそやしたいところをグッと抑えて、ただ良いとだけ伝える。そうするとさっきまで強張っていた表情が急に綻び、鏡の前で何度も角度を変えながら自分の浴衣姿を確認するのを見て、ますます鼻の下が伸びるのを懸命に堪える。可愛い…。ただただ可愛い…。振り返りながら裾を気にしたり、慣れないからだろうか何度も襟を直したり、襟から覗く項、何と言っても長い袖裾を手繰り寄せる仕草。なんなら写メを撮りたいところだが、シャッター音で不審者認定されることは必須だ。記憶と言うアルバムに留めておくことにして、次の浴衣姿を待つことにする。しばらくして出てきた彼は艶やかで、先程の浴衣とはまるで違う雰囲気を纏っていた。華やかで艶やかで、心なしか目元にも随分と色気を漂わせている。先程よりも空いた胸元と鎖骨が妙にそそる。まず思ったことが、こんな恰好で彼を歩かせる訳にはいかないということだ。男女問わず、余計な虫がつくことは極力避けたい。相当彼に病んでいるという自覚のもと、これは却下だ。写メ…)すごく似合うんだけど今の真尋の雰囲気じゃない…かな。
(何着も着替えて何度も鏡で見て…何だか自分がデートに行く服装を決める女の子みたいに思える。続いて濃い紫の浴衣に着替えて彼の前へと出ると良く分からない返答が帰ってきた。似合うけど雰囲気が違う…どういう意味だろうと首を傾げるが、特に気にせず濃紺のに着替える事にした。「じゃあ、次紺色のね。そこに居てよ!」三度目の忠告をして再度カーテンの中へ。三度目となれば慣れてきたもので先程より早く着替えられた。今度はきちんと襟元も整えてカーテンを開ける。「これはどう?緑のよりこっちの方が大人っぽい?」両手を広げて見せながら、三着着た中で一番大人っぽく上品なのではと思い彼に尋ねてみる。彼はどれが好みだろう、どれが一番似合ってただろうと考えながら彼の返答を待つ。)
(最後の1着に着替えて彼が出てくる。ここまで自分の我儘に付き合ってくれて、本当に感謝としか言いようがない。最後の濃紺の浴衣に着替えてくれた彼が試着室から出てくる。キリっとした藍が映えて、普段の彼のようにストイックで清潔感のあるイメージ通りの浴衣姿だった。男らしく見えるしこれはこれですごく良いのだが、いかんせん男はバカだからギャップと言うものに弱い生き物な訳で…。そこから言うと、やはり最初に彼が選んだグリーンの浴衣がイメージにピッタリなように思える。見れば見るほど他に欲しくなってしまうが、それは来年再来年の楽しみに取って置くことにしよう。最後の浴衣姿を目の前にして、そんなことを言いながら、やはりしっかりと目にその姿を焼き付け)そうだな…。やっぱり、最初の浴衣が好きなんだけど、真尋はどうだった?(随分年の離れた男の子を試着室に浴衣姿で立たせながら、真剣に感想を述べる自分の姿はどうだろうと思いながらも、今はそれどころではない。やはり最終的には彼の意見を尊重したいと思い、最後のジャッジを委ねる)俺の意見はともかく、真尋が好きなのを選んだら良いよ
(三着着終わって自分でもどれがいいかなと思いながら姿見で見た自分の姿を思い出す。やっぱりしっくりくるのは苗色のやつかな?爽やかな感じするし…だけど、彼が一番似合うと思ってくれたのがいいな…。そう思っていると彼が話し出し彼の返答を聞くと、自分の考えていたのと同じでぱぁと表情が明るくなる。「本当?僕も初めのがいいと思ってたんだ!」嬉しそうに近寄り彼の片腕を掴んで輝かせた瞳で見上げる。彼と同じ考えだった事が嬉しくて堪らない。機嫌が良くなっては今度は彼の浴衣を決める番だと張り切りを見せる。「じゃあ、次は篤のね!僕も一緒に選ぶからちょっと待っててよ!」そう言い残すと慌ててカーテンの中へ姿を消し、そそくさと着て来た服に着替える。浴衣も綺麗に畳んで元通りにして試着室から出る。他のは戻して苗色のを片手に持ち「篤はどんなのがいいの?厳つい柄とか来たら怖い人に思われたりして」と可笑しそうに笑いながらも空いている方の手は彼の腕を掴んでいる。)
(彼が来た3着の中でどれが一番良かったかと尋ねられ考え込むが、最初に選んだ浴衣が一番だと思った気持ちには変わりなく、素直にそのことを伝えると彼も同じように思っていたらしく意見が一致した。そのことで彼がはしゃいでいるのがまた可愛くて、今日ここに来て良かったと心から思った。それに自分が彼に似合うと思った物を、再び祭り当日に見れるという素敵なオプションも付いてくる。やれやれ、やっと決まったと思ったのもつかの間、今度は自分の浴衣を選んでくれるらしい。またもやそこを動くなと釘を刺されて、はいはいと苦笑しながら、彼が試着室から出てくるのを待つ。今度の祭りは彼の引き立て役なのだから自分の服装にはあまり興味は無い。なんなら甚平でも羽織ってればそれっぽいかな位にしか考えていなかったのだが、ここまで来たら彼に見劣りをしない程度には揃えるかという気になってきた。彼が出てくると、持って歩くのも面倒かと思い、手に持った浴衣と帯をレジに預けて再度売り場に戻る。厳つい柄なんてどうかとからかいながら腕に手を絡めてくる彼に)俺がそんなの着たら、自由業の人と間違えられるでしょ(自分の風貌を少々気にしながら顎をさする。それでも、一緒に選んでくれるいうことが嬉しくて)真尋も真剣に選んでよ。厳つくないのでお願いします。(先程の彼を真似るように言葉を返した)
(少し邪魔だが浴衣を持ち歩こうかと思っていれば彼がレジに預けてくれた。そういう事をした事がなくこんな事すら大人に感じて彼が格好良く見える。自分は彼中毒なのだろうと最近は思う様になってきた。他の人がしていても何とも思わない事も彼がしているとなると釘付けだ。もう立っているだけで格好いいなんて思ってしまうが当然彼に言う事はしない。揶揄いの言葉に返された台詞が尤もな事で可笑しそうに笑いながら「じゃあ、可愛いのにしようか!顔とのギャップ、いいと思うよ。」なんてまたもや冗談を言う。真剣に選んで欲しいと言われ厳つくないのと要望を受ければ「任せてよ!僕がね、篤に世界一似合う浴衣選んであげるからさ!」と自信満々に告げる。再び浴衣コーナーを彷徨きながら、彼に似合いそうな物を探す。「あ、これは?」目に付いた物を手に取り彼に見せる。薄いグレーに濃いグレーの縦縞模様で帯は綺麗な黒。色味はないが地味ではなく、爽やかな印象を受ける。彼の反応を窺う様に見つめる。)
(自分の浴衣を選んでくれると言うからにはと思い、さっき彼が言った言葉を返すと、可愛い柄はどうかとさらに提案された。可愛いのってなんだ??辺りをよく見まわすと、売り場の片隅に国民的な猫キャラクター(リンゴ3個分の体重)をあしらった浴衣が目に入った。あれは流石にまずい…。試着だけでもどんな顔で着れば良いのか思わず考え込んでしまう。嬉々とした表情で物色する彼を戦々恐々と見守っていると、差し出された浴衣は思いの外シンプルで、しかも自分が良いと思っていた色だったので本当に驚いた。ここに来るまでに、彼には明るい色を、自分にはチャコールグレーの物をとずっと考えていたので、自分の好みをバッチリと把握されていたことに嬉しさを隠せなかった。浴衣は文句無しこれに決まりだ。しかし、帯はこの色だとあんまりにもキマリ過ぎて、天邪鬼な自分はつい外したくなる)うん。それが良い。浴衣はこれで決まり。でも帯はこの色だと恰好良すぎるから…。これを合わせたらどうかな…(傍らにあったハンガーからダークブラウンと臙脂の混じったような深いボルドーの帯を差し出し、お目利き役に意見を伺った)
(冗談はさて置き真剣に彼に似合う物を見つけようと目を凝らす。自分のを見つけた時と同様にピンときた物を手に取り彼に見せれば、これがいいとの事で一発で彼好みのを見つけたと嬉しくなり口角が上がる。しかし、帯が格好良すぎるなんて彼は言うので「別にいいじゃん。格好いい方が良くない?」と格好良さにこだわる自分としてはいいと思うのにと告げる。が、差し出されたダークブラウンの帯を見るとこなれ感と表現するのか?分からないがそっちの方がいいと思った。流石彼、オシャレだ。「そっちのがいいや!」絶賛するも、彼のはこんなに大人っぽいのに自分のは何だか子供っぽい様に思えて来た。「…僕の、あれでいいかな?」彼はあれがいいと言ってくれたが不安になってきて彼に確認を取る。隣に並んでもおかしくないだろうか。やっぱり濃紺のか紫のにしようかなと今更また迷い出した。)
(選んだ帯に賛同を得て、あっさり自分の物は決まった。それもこれも、彼が選んでくれた浴衣が自分の理想に非常に近かったからこそだ。後は小物を選ぼうと思い場所を変えようとすると、彼が不安げな表情で、先程選んだものが良いのか悩み始めた。自分からすれば、この広い売り場の中で一番似合うものを彼が選んだと思っていたので、なにがあったのかと考えた。懸念される要因として3つ考えた。1つ目はめったに買わないものなので念のためもう一度気に入ったものが無いか見直したい。2つ目は他に気に入ったものがあってそれをもう一度見たい。3つ目は自分の選んだ浴衣と彼の浴衣のバランスが悪い。このうちのどれかだろうと踏んで彼に尋ねる。少し俯き加減な彼の頭に優しく手を乗せて)どうした?さっきの浴衣、真尋にすごく似合ってると思ったけど。他に見たいんだったらいくらでも付き合うよ。
(少し気分が下がり拗ねた様に唇を尖らせる。すると、頭に手を乗せられ顔を上げると優しく気遣ってくれる彼に似合ってると言ってもらえると心のモヤモヤは消えていき「本当に?じゃあ、あれでいいかな。」と微笑み機嫌を取り戻す。「じゃあ、次は小物だよね。僕、下駄とか履いたことないなぁ。」そう言いながら彼の腕を引っ張って小物売り場へと足を運ぶ。下駄なんて普段履くような物ではないし履いた記憶もあまりなく、ただ歩きにくそうというイメージだけがある。が、下駄を履く機会がある事は楽しみで好奇心が刺激される。並べられた下駄を見るなり意外と色々な形や色がある事少し驚き「こんなに種類があるんだねぇ」と感心しながらもどれにしようかと選び始める。)
(選んだものに不安になったのだろうか。だけど、彼の選んだ浴衣は自分も相当気に入っているし、出来れば変えて欲しくないのが本音だが、着るのは彼自身なので納得の行くものを選んで欲しいとは思う。正直に気持ちを伝えると、先程のもので良いとの答えが返ってきた。曇りそうだった表情にも笑顔が戻り、気分を入れ替えて小物選びにかかる。なるべくわざとらしくならない様に軽く肩を抱いて小物売り場へと移動する。先程までは彼から触れて来たのだから、自分から同じようなことをしても文句は言われまい。売り場へ到着すると、所狭しと並べられる下駄に困惑しながら、隣で物色する彼に倣い、自分も探し始める。黒…それとも…。先に選んでくれた帯のような黒と鮮やかな赤の、鼻緒の色違いを2点選び彼に意見を乞う)真尋は決まった?どっちかにしようと思うんだけど、どっちが良いと思う?(買い物に来て、おっさんが恋人に意見を求めるなどという乙女な行動を取るのもどうかと思うが、開き直って尋ねてみる)
(浴衣が緑だから鼻緒は色味ではごちゃごちゃとしてしまいそうだからモノトーンにしようか。そうざっくりとした感じで取り敢えず浴衣に似合いそうな物を絞っていく。自分は濃いグレーのにしようかと手に取った所で彼にどちらがいいかと問われ、片手に自分の選んだ下駄をぶら下げて彼の方を向く。綺麗な黒と鮮やかな赤、どちらも彼の浴衣に生えそうな色でうーん、も声を漏らして悩んだ結果決めた。「赤、かな。帯と良く合っていいと思うんだけど。」彼の帯は赤みがかっている色だから相性がいいんじゃないかと思うが、自分のセンスは良いとは思っていないため控えめに答えた。彼の問い掛けに答えた後、今度は自分のについても尋ねてみる。「僕、これにしようかと思うんだけど、どう?合うかな?」自分はいいんじゃないかと手に取った濃いグレーの鼻緒のを彼へと見せながら彼の意見を聞きたいと顔を上げる。)
彼に2つの下駄を差し出すと、それぞれを見比べて真剣に悩みだした。結論は赤となったらしい。同感。自分もこっちの方が気に入っていたので文句なしに彼の意見を受け入れる。少々軽薄な風貌になってしまいそうなセレクトだが、滅多に着ないものなのだから遊びがあっても良いと思う。自分のものが決まれば、今度は彼のものに意識を向ける。手に持った下駄は濃いグレーで先に選んだ浴衣とは対照的に、シックで大人びた色合いだった。自分とは逆で、浴衣本体は若々しい色合いだが、小物ですっきりと締めるようなコーディネートになりそうだ。勿論、彼の選んだ色合いに何の異論も無い。自分へ意見を求める彼に自信満々で応える)うん。絶対合う。それに、この下駄だと、真尋がもっと大人になっても使えそうだし。良いんじゃないかな。(これから先か…。クローゼットに毎年買い足す浴衣と下駄が増えて行くのを想像すると、なんとなく嬉しくなってしまう。必要なものは何とか決めて、あとは会計を済ませるだけだ。最後に変更や見直すものが無いか確認し、レジへと向かう。エレベーター近くのベンチを指差し)これ終ったらすぐ行くから、そこのベンチで待ってて
(自分が選んだ方に彼も同感に思ってくれているみたいで良かった。自分のも尋ねて見ると"絶対"の言葉と共に合うと答えてくれた。"絶対"が物凄く嬉しくて得意げな表情をしているとこの先も使えそうと言われ胸を打たれた。来年も再来年もお祭りがある限り使えたらいいな、勿論彼も隣に居て。浴衣も増えていったりして、どれを着ていこうか悩むのも楽しいかもしれない。「僕、一生この下駄使う
よ!」大切に履こう、今回の事を思い出しながら。彼に大事にすると熱意を告げると、後は会計だけでレジへと向かおうとすれば彼に待っているように言われた。普通に自分の分は自分で買う気でいたので思わずきょとんとしてしまう。「え?待って、僕自分のは自分で買うよ!」彼を行かせまいと彼の腕を掴み引き止める。何でもかんでも買ってもらうのは申し訳ない、普段からも色々と彼がお金を払ってくれる事が多いのに、浴衣は案外高く付くし二人分となれば自分からしてはとんでもない出費だ。この為に財布にはいつも以上にお金を入れているし、今回は流石に払って貰う訳にはいかないと揺るがない気持ちで彼に訴える。)
(彼の選んだ下駄の鼻緒の色合いが殊の外気に入り、悩む間もなく即答で同意すれば、彼も同じように思っていてくれて即決してくれた。一生使うなんて言われれば彼の気持ちが嬉しくて、釣られてこちらも笑顔になる。買い物は済んだし、もとより今日は彼へのプレゼントと考えていたので迷うことなく自分で払うつもりでいたが、思わぬところで意見が入った。まぁ、彼の性格から考えると予想できたことではある。だが、払わせるつもりは毛頭ない。ただでさえ特別なイベントごとでも無い限りプレゼントを受け取ってくれない彼だ。付き合い始めの頃は、無駄に贈り物をしようとして何度怒られたことか…。でも、今回は譲れない。なんなら、浴衣を買ってあげるという毎年の恒例行事にしたいくらいだ。それに、年下の男の子と別会計でレジに並ぶなんて、流石にどうかと思う)んー…。じゃぁ、ここは払うから、店出たら真尋がなんか奢って。喉乾いたからビール飲みたい。早く会計終わらせるから、店考えておいて!(そう言って自分はレジへ、彼をベンチに追いやってやり過ごすことにした)
(ひょっとしてお金がないと思われているのだろうか?だから彼は何時も払おうとしてくれるのか、と一番有り得そうな事を考える。バイトだってしてるし、本以外の出費はあまりないので無駄遣いはしていない筈だ。貯めておけとでもいう事なのか…と思考を巡らせる。が、自分が次の言葉を発するまでに彼が早口に此処では自分が払うから食事の会計は自分がしてくれと、行きたい店も決めておくよう言われた。そう告げるなり足早にレジへと向かってしまった彼の背中を見つめながら仕方なさげにベンチへ腰掛け彼を待つことにした。行きたい店はもう決まっている、行きつけというほどではないが友人とよく行くお店だ。味は美味しいと思うが彼の口に合うかな。お酒もあるところだし楽しんでくれたらいいな。)
(自分も若い頃は年上の人間に金を出して貰うことを不服に思っていたが、いざ自分の年になると両方の気持ちが分かる。自分が若い時は相手に軽んじられているのではないかといぶかっていたし、年相応になると若い頃はどれだけ日々の支出が大変だったかということを思い出してしまう。ましてや
今回の買い物は生活必需品では無いのだから、通常の生活費とは別の出資となってしまうことは容易に判断できる。いつも甘えることなど無い彼に、せめて何かしてあげたいという気持ちも込めて、今日だけは自分に任せて欲しいと思い、自分から遠ざけることにした。それに、次の約束まで漕ぎ着けることも出来たことだし、計画は概ね成功だ。店員さんに包装はどうするかと尋ねられたが、どちらも自宅用だと答え一緒にバックに詰めてもらう。清算を終わらせると彼のもとに戻り、ベンチから立ち上がるよう手を引きながら、優しく声を掛ける)お待たせ。それじゃ、真尋のお勧めの店に行きましょうか。
(悶々と考え込んでいるといい事を思い付いた。来年の浴衣は自分が彼にプレゼントする、これでチャラになるしお返しにもなる。既に来年が楽しみになってきては気持ちがスッキリし大人しく彼を待つ。大きな紙袋を下げて彼が此方に向かってくる。浴衣と下駄二人分は重たいだろう、これからまた歩くし途中で交代しようと考えつつ手を引かれながら立ち上がる。「篤、ありがと。次は僕がお返しするから。」そう告げると今日は自分が彼をエスコートする日だ張り切ってお店へ向かおう。「僕のお勧めのお店、デパートの近くだから10分くらいで着くよ。」彼の持つ紙袋の取っ手に指を数本絡めて軽く引っ張りながら彼の斜め前を歩く。下りは楽だろうとエスカレーターで下りる事にして彼を誘導する。賑やかなデパートから少し離れた路地にあるお店へと歩を進めていくと、段々と人気はなくなってきたが直ぐに赤い提灯が見えてくるとそれを目の前に足を止める。「ここ、僕のお勧めのお店。お好み焼き屋さんだよ、お酒もあるし寛げる雰囲気だから篤も気を遣わないかなって。」彼に店を軽く紹介して反応を窺う。どうだろうか。)
(支払いのことで些か気に病んでくれていたようだが、彼のもとに戻る頃には割り切ってくれたようでホッとした。今日ばかりは自分の我儘を聞いてもらいたいと思っていたので、彼が何でもないようにやり過ごしてくれるのをありがたく思い、これ以上は言及しないようにした。待ち合わせの時間から買い物までをこなし、ウインドウから外を見ると夏とは云え真っ暗で、小腹が空いて居ることに気付かされる。ベンチから彼を立ち上がらせると、彼の行きたい店へと案内を促す。話しぶりからここからそう遠くは無い場所にその店はあるらしい。手を引かれるままに大人しく付いて行くことにした。しばらく歩き、着いた店は以外や以外。お好み焼き屋だった。てっきり小洒落たカフェか、スイーツのビュッフェにでも行くのかと思っていたが、まさかのお好み焼き屋ということにテンションが上がる。産まれのせいか粉物は嫌いでは無くむしろ好きな方なので、今日の彼のセレクトは自分にとっては何よりものプレゼントだった)真尋はなんでもお見通しだな。やばい…。腹減ってきた…。(空腹を訴える腹を摩りながら、案内の主を店内に押し込めるように背中を押した)
(もっとオシャレな店も考えていたのだが、自分や彼は庶民的な雰囲気のお店の方が落ち着くのではとこの前居酒屋に行ったことで思ったのだ。彼の反応が嬉しくてお見通しなんて言われるとつい調子に乗ってしまう。「当たり前でしょ、篤の事なんてお見通し。」威張る様に告げると彼は空腹の限界なのか腹を摩っては自分の背中を押し店の中へと入れる。押されるまま店内へ入り、従業員とは特に関わり合いもないので出迎えてくれた店員さんに二人ですと告げて奥へと通して貰う。四人掛けのテーブル席へと案内され座るとお冷とお絞りを持って来てくれた。他の人が頼んだお好み焼きのソースの匂いに自分も空腹を感じては二つあるメニューを一つ彼へ渡し自分ももう一つ手に取る。「僕は何時もね、お餅とチーズ入ってる奴にするんだ。篤も食べてみる?」メニューに目を通すなり慣れた手付きでパラパラとページを捲りながら彼に尋ねる。)
(店の前に立ってるだけで、中から漂ってくるソースの匂いに吸い込まれそうになる。提案者の彼を急かすように店内に入れば、自分のイメージ通りの店で尚のこと嬉しくなる。長年に渡って壁に染みこんだ油と変わらないメニュー表。どれをとっても完璧と言わざるを得ない。こんな渋い店をよく知ってるななどと感心しながら、彼に倣ってメニュー表を眺める。シンプルに豚玉か…、それとも蕎麦の入ったモダン焼きか…。久々のお好み焼き屋ということで悩み果てているところで、彼から助け舟が出た。どうやら餅とチーズが入っているらしい。それだけ聞くと絶対に美味しいに決まっている。なら、自分は定番の品を頼むことにしよう。そうすれば2人でシェア出来る訳だ。そっちは餅とチーズで割とボリュームのあるメニューだからこちらはどうしようか…)餅チーズは決定で、もう一つはどうしようか…。海鮮か広島焼き、それとも全く変えて焼きそばにする?(どれも美味しそうでつい迷ってしまう)
(自分は何時もと同じのを即決してしまい、偶には違うのにした方が良かったか?とも思ったが彼もそれを食べたいと思ってくれているみたいで一つは決定した。自分もシェアするつもりでいたので異論なくもう一つメニューを悩む。大学生になってから何度か来たが同じ物ばかり食べていたので他にお勧め出来る様なメニューはなくて彼と一緒に悩むが、一番気になったのが広島焼きと名前のついたもので食べてみたいと思った。「じゃあ、広島焼きは?まだ食べた事ないし、麺が入ってるんだよね?美味しそう。」メニューに向けていた視線を彼の方へ移しては食べた事ない物への好奇心と彼だから気を遣わずに新しい物に挑戦出来る安心感で何処か楽しげに告げる。)
(さすが成長盛りの男子。数ある中でボリュームのある広島焼きをセレクトしてくれた。自分もそれには異論は無い。こんなところも男同志で出歩くことのメリットの一つだ。ガッツリ食べたい時に一緒に食べてくれるのは実に嬉しい。なんせ年頃の女の子はダイエットだなんだと下らないことで、せっかくの美味しいものもスルーしてしまうのだから…。それはともかく、案外広島焼きの食べれる店は少なくて、意外に期待してしまう。彼がテッパンだと言うノーマルの物に餅とチーズをトッピングしたものと、広島焼きをオーダーする。他にも鉄板焼きやホイル焼き、果ては串焼き等、メニュー表を開ければ魅力的な品々に目を奪われるが、ここはグッと抑えてお目当てだけを注文する。足りなければ、あとから注文すれば良いだけの話だ。あとはドリンクオーダーだが、自分は勿論ビールで決まっている。それと、すぐに出てくるようにときゅうりの浅漬けに決めた。彼はどうだろう。メニューを見ても、メロンジュースは見当たらない)俺はオーダー決めたけど、ドリンクどうしようか?
(メニューを決めると彼がオーダーをしてくれる様で店員さんを引き止めてくれた。餅とチーズのお好み焼きに広島焼きを頼んだ後、彼はドリンクにビールを追加し自分へはどうするのか尋ねてくれた。普段は昼間に来ている事が多いし友人には酒が弱いと公言しているのでアルコールを頼まない時だってある。が、幾つか飲めそうな物はあるのでその中から今の気分のを選ぶ。「僕は、カシスオレンジをお願いします。」どうだ、僕だって飲めるお酒はあるんだ!と彼に見せつける様に頼んでみせる。注文を確認した後店員さんは厨房の方へと向かって行った。「僕だって、何時もメロンジュースばっかり飲んでるんじゃないからね!」と体を前のめりにして上目で彼を見上げて得意気に告げる。この前は居酒屋で失態を晒してしまったが今回は大丈夫。最近、酔って記憶を無くす事は少なくなってきたし、彼が居るから酔っても介抱してくれるだろうし。やっぱり彼が居ると自分は安心出来て行動出来る、信頼しているから。)
(彼の頼むメニューを聞いて、最近のお好み焼き屋さんは随分洒落たものを置いていると、つい感心してしまった。先日の件からメロンジュースがあまりにも可愛らしかったのでそれに突っ込むと、カシスオレンジなんてものを注文されてしまう。彼のことだから、てっきり謎のソフトドリンクを注文するかと思いきや、普通なオーダーに少々つまらなさを感じながらも、久々に自分に合わせてアルコールを頼んでくれたことが嬉しくて、互いにジョッキが来るや否や勢いよくぶつけた。カシスオレンジを手にして得意げな彼に)お疲れ様!今日は付き合ってくれてアリガト。(手元のジョッキをグッと煽ると、今日1日の疲れが全て吹き飛びそうになるほどに癒される。ましてや、共に着る浴衣まで一緒に揃えて、その充実感たるやひとしおだ。珍しく一緒に飲んで、気分良くなってくれればこんなに嬉しいことは無い。彼と一緒に摂る食事が、過ごす時間が何物にも代えがたいほど自分にとっては大切なのだ。他の客に聴かれないように小さな声で囁く)連れて帰ってあげるから、好きなだけ飲んで良いよ。酔った真尋も可愛いから…。(恥ずかしい自分の発言には触れないまま、程よく温められた鉄板に出来立てのお好み焼きを乗せられ、彼のと自分のを切り分けた)
(あの時は平常心を保つ為アルコールは控えた方がいいかと思い頼んだのがメロンジュースだった。今回は誰に気を使うでもなく美味しくアルコールを頂ける。直ぐに運ばれてきた二つのジョッキとお好み焼きと広島焼きに目を爛々とさせる。ジョッキを合わせられ乾杯をするとカシスオレンジを一口飲む。何時も彼は有難うというが彼に付き合ってあげている訳ではなく、一緒に来たくて来ているのに何となくその言葉が腑に落ちないと思うも、お礼の言葉は大切だと思い気にしない事にした。「僕こそ、浴衣有難う。いいの買えて良かったね。早くお祭り行きたいよ。」満足気な表情で告げてはもう一度カシスオレンジを口に運ぶ。すると、彼から心を見透かされた様な台詞と自分の欠点だと思っている酔いやすい所を可愛いなんて言われてはみるみる顔を赤らめ固まってしまう。「篤の手なんか借りなくたって大丈夫だし。」ツンと返すと切り分けてくれたお好み焼きを自分の取り皿に取り恥ずかしさを紛らわす為にパクパクと口に運ぶ。)
(ついつい彼に感謝の言葉を告げてしまうことに特に深い意味は無く、純粋に忙しいだろう中で自分に時間を割いてくれることが嬉しくて出てしまうだけなのだ。彼からも今日のこの時間が有意義だったと聞かされれば、こちらもつられて嬉しくなってしまう。彼が喜ぶ顔が見られれば、それが自分にとって一番の幸せなのだから。幾分自制しているのだろうか、酔ったところも好きだと伝えれば、途端に顔を赤くして、照れ隠しか切り分けたお好み焼きを勢いよくつまみ出した。細身の身体の癖に食べる時はしっかり食べる。この歳の男子らしく気持ちの良い食べっぷりを披露してくれる彼を、ジョッキを傾けながら微笑ましく眺める。この光景が最高のつまみだなんて言えば「早く食べなよ」なんて軽くいなされそうだと、自分で切り分けたお好み焼きを軽く摘まむ。空になったジョッキを軽く掲げてお代わりを追加して、彼が披露してくれた浴衣の着付けに感想を告げる)それにしても、真尋の着付けには本当に感心した。上手いもんだよな…。あれなら当日任せても全然問題無いよ。学校で練習してきたの?
(照れ隠しと空腹から普段なら取り皿で少し冷ましてから食べるお好み焼きを、皿に置いて間もなく次々と口へ入れる。もぐもぐと頬張った後、頬の赤みも引いてきて顔を上げるとビールをおかわりする彼にもう飲んでしまったのかと驚く。「本当よく飲むよね。炭酸ってお腹いっぱいにならない?」自分はあまり炭酸を好んで飲まなく、初めのうちの炭酸のキツイのが苦手なのだが彼はそれをゴクゴクの喉に流し込む、しかも大量に。あれだけ飲んでご飯も普通に食べられるなんてどういう腹をしているのか不思議で、彼に聞いてみる。やっぱり食事は二人の方が落ち着くなとしみじみ思い食事を進めていると彼から今日の着付けについて話題を振られる。上手いと褒められると気分が良くなり口角を上げる。「当たり前、ちゃんと教わって来たんだから。練習はしてないよ、想像しながら話聞いてただけ。」)
(小気味良く目の前のお好み焼きを片付けて行く様を眺めながら2杯目のジョッキに口を付けていると、呆れた目で腹がいっぱいにならないのかと尋ねられる。確かに同じ量の炭酸水を飲めと言われると難しい話だが、ことこれに関しては体内に収められる場所が違うらしい。自分でもどこに収納されているのかイマイチよく分からないので、改めて聞かれると返答に困ってしまう)そう言えば、どこに入ってんだろうな…。ていうか、真尋こそそんな細い身体のどこに、そのお好み焼きは入ってんの?(自分は酒を飲むから肴程度にしか摘まんでいないし、みみっちくも幾らかは体型のことを計算しながらの食事に対して、なかなかの量を胃袋に収めて行く彼を恨めしそうに見つめる。それにしてもこうやって気の置けない軽口を交わしながらの食事は実に美味しく感じられる。しかも今日は彼のお勧めの店に招待されたのだから尚のことだ。さっき購入した浴衣の着付けのことについて感想を伝えると、どうやら実践は無く聞いただけだと言うではないか)そうなの??それであんなの出来ちゃうの?(余程教え方が上手い子なのか、それともうちの子が頭が良いのか…。恐らく両方の理由だろう。相変わらず器用な彼に返す言葉が無く、何でもこなしてしまう彼には感心するばかりだ)当日は頼りにしてますよ。真尋センセ。(得意げな顔が可愛くて、どさくさに紛れ頬を軽く指で突く)
(真尋くんの背後様。ご無沙汰しております。暑い日が続いておりますがいかがお過ごしでしょうか。明日より槇村の背後が少しお休みを頂くことになり、PC環境の無い状況が数日続きますのでご報告させていただきます。17日には戻って来れるかと思いますが、それまでお待ちいただければ幸いです。こちらの都合で無理を言い申し訳ありません。勝手ではありますが、真尋くんと祭りに行けますこと楽しみにしております。)
(ソースの味や香ばしい匂いは食欲をそそる。お気に入りのお好み焼きを突つきながら彼にビールの行く末を尋ねたが本人もイマイチ分かっていないみたいで、逆に自分の食べた物が何処へ行くのかと尋ねられるとそこは真面目に答える。「胃だよ、胃。当たり前じゃん。その後は知らない。あんまり脂肪にはならないみたいだから、僕の体。」摂取した栄養素は無駄なく使われているのか知らないが、腹部や太ももに脂肪としてつく事はない。そんなに活発に動いている訳でもないのに、一体何処へ。恨めしそうな視線は気にしない事にする。まぁ、なにはともあれ浴衣も買えて彼もこの店で満足してくれているみたいだし良かった。着付けは口頭で聞いただけで特に練習はしていない。男性の着付けは思ったよりも簡単な物で帯さえ結べれば誰だって着られるのではと思えた。自分も初めは難しい物だと思っていた様に彼も同じ考えの様で不思議そうに尋ねてくる。「簡単簡単。変わった結び方にしなければ篤だって出来そうだよ。まぁ、僕が着せてあげるからその必要はないんだけど。」もぐもぐと頬張りながら話していると頬を突かれ頼りにされている事が嬉しくてつい大口を叩く。「任せなよ、世界一格好良く着せてあげるからさ!」)
(/篤さんの背後様、何時もお世話になっております。夏真っ盛りですね、此方はそれでも元気に過ごしております。篤さんの背後様こそ、お忙しそうに窺えますが体調等は崩されていないでしょうか?レスも頻繁に返して下さって無理をなされていないか勝手ながら心配をしています。何か規約について変えて欲しい所などありましたら遠慮なく仰って下さいね。2人のペースでやっていけたらいいなと思ってますので。それと、お休みの件、了解致しました。わざわざ丁寧にご報告を有難うございます。いくらでもお待ちしておりますので、此方の事はお気になさらず、お休みを満喫して頂けたらと思います。素敵なお休みになる事を願ってますね。それでは最後に、此方もお祭り凄く楽しみにしています!素敵な思い出に出来る様にしたいと思いますので、宜しくお願い致します。)
(涼しい顔で「太らない体質」だと言われてしまうと返す言葉も無い。気持ちの良い食べっぷりを横目で眺めていると、自分もつられてつい箸が伸びる。浴衣については予想通りの返事が返ってきた。自分にも出来ると簡単に言ってくれるが、さっき試着室で彼が見せたあれを自分に出来るなんて到底思えない。しかも実践無しのぶっつけ本番だったというのだから、その器用さと飲み込みの速さに感心するやら呆れるやら…苦笑を漏らしながら)真尋が恰好良くしてくれるなら、俺は覚えなくても良さそうだ。当日は真尋くんにお任せしますよ。(気が付くと自分と彼のジョッキが残り少なくなり、頼んだお好み焼きの類もほとんど無くなってしまった)どうしよっか。他に何か欲しいものがあれば頼んじゃうし。それとも帰った方が良いならお会計するけど?(飲み目的なら退店するには早い時間だが、食事のために来ているのだからそう早くも無いと思い彼に尋ねてみる)
(こんばんは。戻って参りました!真尋くん、そして背後様、急に天気が崩れたりしておりますが、お変わりございませんでしょうか?こちらの勝手でお時間をいただき、大変失礼致しました。。。規約についての変更希望など全くございません。むしろ、こちらに不備があれば遠慮なく仰って下さい。最近の来訪ペースではご迷惑をお掛けしているのでは無いかと心配し、素敵な背後様なので自分よりもっと相応しい方が居るのでは無いかと思ってみたりもするのですが、真尋くんが他の方のものになるのは耐えられそうに無く//9月になれば槇村の背後も落ち着いて来るかと思います。これからも共に時間を重ねて行ければと願っております)
(自分は食べても太らないと彼も知っていると思うが、面と向かって告げると黙ってしまった。きっと、羨ましいなんて思ってるんだろうなぁと察しつつお好み焼きを平らげた。料理以外の事に関しては不器用ながらも何とか出来る。料理は時間や焼き色、味付けから下味等工程が多くそれを更に手際良くこなすとなると手元が狂い出す。浴衣の着付けも工程があるものの時間が掛かっても着られればそれでいい為焦りもなく落ち着いてやれるので、練習しなくとも案外すんなりと出来た。彼は自分がいるから覚える必要は無いと着付けに対してあまり興味を示さなかったが、自分もそう思っているし問題ない。「おじさんでも勝手良く見える様にしてあげるから、安心して。」と冗談半分本気半分に告げては、この後どうするかと尋ねられる。お腹も満たされたし浴衣もあるし今日はもう帰ろうと判断しては「お会計しよっか。あ、僕が払うからね!邪魔しないでよ!」と念を押し席を立つ。何時も自分が払うと決めていたって何時の間にか彼が払っていたりする事があるので今日はそうはさせないと釘を刺す。)
(/お帰りなさいませ!此方は変わらず過ごしております。いえいえ、これくらいお安い御用です。天候の事もありましたが、充実したお時間が過ごせましたでしょうか?楽しく過ごされて居たら幸いです!不備等、滅相もございません。篤さんも背後様もロルも何もかも素敵過ぎて、此方こそお相手をして頂けるのが幸せ過ぎます!レスのお時間や頻度の事は何も心配ございません。他の方の所になんて行きません!もう篤さんでなければダメになってしまいました!手放す気も離れる気も微塵もありません!此方こそ、これからも素敵な時間が紡いでいけたらと思います。)
(こちらの羨望のまなざしに気付いているのか居ないのか、残りのお好み焼きもキレイに平らげってしまった。こんな時ばかりは、彼の若さに感心してしまう。こんなことを言えば「オジサン」なんて言われてしまうことが分かっているので敢えて口には出さないが…。着付けに関しては、今日の試着で自信も付いたらしく、任せろと誇らしげに言ってくれるもんだから、食後のタバコを吹かしながら微笑ましく思っていると、「おじさんでも大丈夫」などと妙な太鼓判を押されてしまった。彼の軽口にわざと拗ねたような口ぶりで返す)うっせぇ。真尋がその「おじさん」を連れて一緒に歩くんだから、せいぜい恰好良くしてくれないと恥かくのは真尋なんだからな。(しょっちゅう繰り返される会話なのに何故か楽しくて、毎度同じようなフレーズを返してしまう。そろそろ席を立ち財布を取り出そうとすると、自分が出すと先に制されてしまった。変に気を遣わせてしまったかとも思ったが、今日のお礼にと考えてくれたのだろう。その気持ちが嬉しくて、その言葉に大人しく甘えることにした。先にレジに立つ彼が会計を終わらせると、荷物を持ち一緒に外に出る。年上の自分が財布も出さずに店を出ると言うのも少々気恥ずかしいが、今日のところは気にしないでおこう。外に出ると素直に感謝の気持ちを告げる)ありがとう。ホント美味しかった。また、この店に連れて来てくれる?
(背後様のお人柄から出る真尋くんの言葉や何気ない仕草に、どれだけ毎日癒されているか…。本当に感謝してもしつくせない程です。素直なところも、一所懸命なところも、少し生意気なところも大好きです//槇村および背後共々、こんな素敵なお相手様に愛想を尽かされないよう常々反省しきりですが、これからもどうぞ宜しくお願い致します!)
(満腹感を感じながら彼に対して何時もの様に"おじさん"と軽口を叩く。これも本当におじさん扱いをしている訳ではなく愛情故のおちょくりで、寧ろ自分は彼と同じくらいの歳になりたいとさえ思っている。自分のおちょくりに対して拗ねた様に言葉を返されるとクスクスと可笑しそうに笑うも、自分が恥をかかない様になんて言う彼に穏やか且つ自信を持った面持ちで告げる。「恥なんてかかないよ、どんな篤の隣でも。」少々キザな台詞だっただろうかと今更ながら少々恥ずかしくなりつつも、本心だった為後悔はしていない。自分にとって彼の隣がどれほど大切な場所か…どんなにボロボロだって、ヨボヨボだって恥ずかしいなんて思わない、自分は彼の隣を誇らしく歩ける。恥ずかしくなって足早にレジへと向かい、会計をする。が、彼が払ってくれた浴衣の値段からしたら自分が払った金額なんて安すぎる。そこが少し腑に落ちないが、今は取り敢えずこれで満足しておこう。また何か買う機会があればその時は自分が。会計を済ませ外に出ると夜風が何時の間にか涼しくなっていて心地良い風が吹いていた。また此処に連れて来てくれるか?なんて当たり前な事を聞いてくる彼に冗談でちょっとした意地悪を言う。「そうだなぁ、今度来る時は父さんと母さんも一緒でも楽しいかも。」帰りの道を先に歩き出しながら楽しげな声で話し彼が追ってくるのを待ち。)
(/こんな息子でこんな駄ロルから癒しが与えられていたなんて…!此方こそ、真尋のドタバタに毎度付き合って下さり、寛大で優しく見守りつつも一緒になって戯れてくれる篤さん大好きです!背後様のお人柄も篤さんから伝わっております!こんな素敵な方に出逢えた事がもう奇跡すぎて…!愛想なんて尽きませんよ、まだまだ愛させて貰います!!此方こそ至らない部分がありまくりですが善処していきますので、これからも宜しくお願いします!)
(それなりにちゃんと着付けてくれると言うものだからこちらも調子に乗ると、やけに真剣な表情が返ってきた。どんな自分でも受け入れてくれると…。その言葉を聞いた瞬間、それはそれは嬉しかったのだが、よくよく考えてみると彼と自分とではそこまで歳は離れて居ないだろうということに気付いた。だって12歳でしょ!?たぶんまだガンガン働いているし、なんなら君より稼いでるかもしれないよ?!確かにこの先何があるかは分からないが、、例えば20年後の38歳と50歳で、そんな労りの眼差しで見られても大いに困る。未来を見据えて遠い目をする彼に「介護まではまだ時間があるから」と心の中で涙ながらに声を掛けた。店を出ると招待してくれたことに礼を告げる。彼の行きつけの店に行きたかったことは今日の自分の目的の一つでもあったのだが、思いの外雰囲気も味も良かったのでまた一緒に来たい旨を告げると、「両親と一緒に」という思ってもみない返答があった。彼の冗談めいた表情に気付かず、その瞬間に思わず固まる。いくら自立しているとはいえ学生である彼を住まわせている自分としては、ちゃんとご両親に何かしらの挨拶をすべきところが筋だろう。今までろくな付き合い方をしていなかったため、この歳になってこんな大切なことに気付かない自分に自省する。取り落した荷物を手に持ち直し、真剣な表情で向かい合い決意を込めて)その時は言って。ちゃんと時間空けるし。……。ヒゲ剃ったほうが良いならそうするから。
(凄く遠回しなプロポーズにも取れる発言に少し照れてしまったが、悪い気はしなく一層の事自分から彼にプロポーズしようか…大学を卒業して一人前になったら…。婚約は出来なくても想いを誓い合った証として、お揃いの指輪を持ったりとか…。他のお揃いの物とはまた違った想いを形にした物と考えただけで頬が緩む。何時か彼に送ろう、自分の想いを形として。そんな事を考えながら自宅への道を彼を置いて進んで行く。途中、次来る時は自分の両親を連れて来てもいいかもなんて冗談を言ったら後ろから着いて来ていた足音が止まり振り返ると、何やら彼は固まっていた。どうかしたのか?と首を傾げる。あ!もしかして今の発言を真に受けてしまったのか!?こんなに軽くそんな事を言う訳ないだろう!全く…と冗談だと告げようとすれば何やら真剣な顔付きで近寄って来たかと思うと、決心した様な顔でちゃんと時間を作ると言ってきた。髭の事まで気にして…。冗談だと言いにくくなってしまったが、ちゃんと伝えなくては彼はずっと気に掛けていそうだとちゃんと話す事にした。「なーに真剣な顔してんのさ、冗談だよ冗談。篤がびっくりするかと思って言っただけ。」額にデコピンをくらわせからかう様に口角をあげる。その後は、伏せ目がちになりながらも今の自分の考えを告げる。「…そういうのはまだ先でいいんじゃない?…僕がちゃんと一人前になった篤の両親にだって挨拶に行けるしさ。」)
(彼からご両親の話が出てから時間にして2~3分の間に様々なことが頭を過ったが、ここで有耶無耶にしては男がすたると思い、まずは自分の真剣な気持ちだけでも伝えようと、落とした荷物を改めて握り直してツカツカと歩み寄る。ご挨拶はいつにするか具体的な日程を決めるくらいの勢いで、彼の手を強く握り締めると、心底呆れた顔でデコピンを食らい尚且つ冗談だと告げられた。一瞬頭の中が真っ白になって我に返ると、自分のとった言動に段々と顔に血液が集まるのを感じる。やってしまった…。)はははは!!はは…は…。ですよね…。ゴメン。(失態を誤魔化すように乾いた笑い声を放った後、1人で勝手に舞い上がったことを素直に謝る。しかも、今はその時期では無いと窘められてしまった。確かに彼の言う通りだ。これではどちらが年上だか分かったもんじゃない。舞い上がってしまったのは酒のせいにしてしまおう。ご両親の話が出たついでに良い機会だと思い、彼の家族の話に触れることにした。思い返してみると、お互いに身内の話なんてあまりすることは無かったかもしれない。再び帰路を歩みながら、まだ見ぬ彼の家族を想像して話し掛ける)真尋のご両親ってどんな感じ?そういや兄弟居たんだっけ。真尋はしっかり者だから、なんとなく長男って感じがする。
(あまりにも真剣な顔付きで手を握られ、今にも日にちを決めてきそうな勢いの彼にデコピンをする。真っ赤になった顔を見て「早とちり。」なんてぶっきらぼうに告げるも、真剣に受け止めてくれた事が本当に嬉しくて赤い目尻で視線を逸らす。彼が隣に並び家路に着きながら、不意に両親や兄弟について聞かれた。そう言えば、あまり話した事なかったかも。高校の時から一人暮らししていたから最近はあまり会っていない。でも、実家もそんなに遠くない所にある。一人暮らしのきっかけは早く自立したいと思ったからで、両親にそれを伝えると寂しいと言いながらも分かってくれた。あんまり厳しい感じではなく、何でもやってみなさいと受け入れてくれる両親だった為自由奔放に育った。「父さんも母さんも、優しい…というか甘い。あんまり怒らないし、適当な所あるし…。5つ上の兄さんが居るけど、兄さんも兄さんでヘラヘラしてて頼りない。」緩い家族の中に居たからか、細やかでしっかり者と言われる感じに育ったのだろうか…。兄は現在都会に一人暮らしをしている、勿論社会人。はっと何か思い付いたように彼の腕に自分のを絡めぎゅっと抱き締めると「家の後継ぎは兄さんだし、彼女も居るみたいだから…僕は篤と居ても問題ないよね!」と嬉しそうに見上げる。夜で人通りも少ない道だからか、カシスオレンジで少し酔っているのか分からないが何時もよりくっついて歩く。が、新たに何か思い付いては急に大きな声を出して「あー!僕が良くても、篤が駄目だったら意味ないじゃん!」と項垂れる。彼が長男で家の後を継ぐならやっぱり結婚して子供が出来た方がいいだろうし…。)
(家族構成について尋ねたところ、以外にもお兄さんが居るらしい。ご両親は予想通りに優しい方達のようで、彼の奔放さと繊細さはその家庭環境で培われたのだろう。高校生の頃から一人暮らしをしているとは聞いていたが、決して放任なだけでは無く家族内でお互いに信頼しているからこそ成り立ってきたのだろうと言うことが想像できる。そして5歳上のお兄さん。俺よりも少し下か…。年は下でも真尋のお兄さんなのだから、関係性からいうなら自分もお兄さんと呼ぶべきなのだろうか…。彼から聞いた家族構成から、優しいご両親と離れれた場所から彼を思いやるお兄さんを想像すると、そんな大切な息子さんとお付き合いさせていただいているのだから、自分ももっとしっかりしなくてはなんて気持ちになる。少しアルコールが入っているせいか、普段よりも密着して歩いてくれるのが嬉しくて肩を抱き寄せようとした瞬間、彼が突然声を出した。何事かと思えば、自分と一緒に居ることに対してどうやら負い目を感じているらしい。何を今更。そんなことは、彼と付き合うと決めた時からとうに決めていることだ。思い悩んだ顔を覗き込み、軽く鼻を摘まんで安心させるように話しかける)うちは、真尋んちと違って歳の近い姉ちゃんが3人。女系家族だから、俺には何にも期待されてないの。だから要らない心配はしないで良いよ。(姉達には既に姪も甥も居ることだし、自分もさして子供には興味は無い。仲が悪い訳では決してないが、自分の家族のことを思い出すと少々気が重くなる。長男とは言え末っ子の自分がこんな可愛い子を家に連れて行ったら、奴らは構い倒すに違いない。そんな恐ろしい光景がまざまざと目に浮かんだが、そのことは告げないことにした。)
(自分の家族事情を話した後、つい自分の事ばかり話していたが彼の立場も考慮しなくてはいけない事に気付き彼の家庭について尋ねると、元気を無くした自分に気を遣ってか戯れる様に鼻を摘まれうっ、と声を漏らしてしまった。鼻を摘まれた事にも驚いたがお姉さんが3人も居ると聞いて更に驚く。「え!?お姉さん居るの!?しかも3人も!」姉が居る様には見えない…が、それは黙っておく。後、彼が後を継ぐ役目を担っていないと知ってほっとした。自分の家族構成とは全く逆にも思え想像してみるが、彼が同じ弟という立場である事が既に似合ってない様な気がして想像出来ない。「僕は母さんしか女の人居ないからなぁ…どんな感じか想像つかないや。」母さんを女性として接する事もなかったからなぁ、母さんは母さんだし。篤の家族…会ってみたい。何時か会う予定だけど。しかし、それに比べてうちの家族の方が問題ある様な気がして、彼に紹介するのが少し億劫だ。何時かは紹介する事になるのだろうけど。天然な母さんと何処か抜けている父さん、それに加えてアホ過ぎる兄。自分は何とか家族の中ではまともに育ったと思っている。)
(物心ついてから高校を出るまで、自分の立場と言えば「下僕」と言っても過言では無く、あまり良い思い出は無い。今となっては本人達に悪意は無かったのだろうことは分かるのだが…。多数決の正義は絶対で女4人・男2人で意見が通るはずも無く、家庭の指針は専ら母と姉達に委ねられていた。父は唯一自分の味方であったが表立って自分の意見を言うような人では無く、どちらかと言うと寡黙であるため家庭内では影の薄い存在だった。姉達は自分から見てもそれなりの容姿をしているように見えるが、性格を知っている故に手放しで褒めそやすことは決して出来ない。地元外の大学に進学した理由もそこにある。今でこそ、たまに帰省する分には彼女らの我儘を許容することも出来るが、思春期の頃には無駄に構いたがる彼女達から逃れたくて仕方なかった。これらのことから、彼との交際は反対されることは無いにしろ、過干渉されるということは十分に想像できる。自分から家族の話を振ったにも関わらず、思いがけずお互いに気まずくなってしまい、しばし黙り込んだまま歩き続ける。そうこうしているうちに自宅に辿り着いた。鍵を開けて部屋に入ると2人だけの空間が広がる。先程まで気に病んでいたことなど急にどうでも良くなり、先にソファに腰掛け隣に座るよう促し苦笑する)まぁ、家のことに関してはお互い色々ありそうだよな。でも、先のことはその時に考えれば良いし、取り敢えず専らの課題は祭りで何を最初に買うか。俺は絶対焼きそばなんだけど真尋は?
(心配症で細かい所まで気にかけてくる両親と兄は自分に対して過保護気味で、そんなに心配症しなくてもいい、寧ろ自分達の心配をしろと思う程で嫌いではないが絡まれる事はこりごりで離れたい気持ちもあって一人暮らしなんて思い付いたのだろうと今では思う。一人でも大丈夫だと思い知らせないと、と。今はまぁ彼と二人で暮らしているけど。温厚で寛大な人達だから、驚きはしても彼との事は受け入れてくれると思う。今までもそうだったから。何だか家族の事を話していると急に色々と少し心配になってくる…自分も家族に似て心配症の気があるみたいだ。両親に関しても今までトラブルなんて無かったし、兄も彼女という頼もしい存在もいるらしいし自分が心配するまでもないか。そんな風に思いながら歩いていると家に着き彼の後に続いて部屋へ入る。毎度の事ながら、家に帰って来るとほっとする。先にソファに腰掛けた彼が自分にも座る様促してきて、素直に従い彼の隣へ腰掛ける。先の事はそうなった時に考えればいい、そう言われると自分も同感で頷く。続けてお祭りでの買い食いについて問われる。「最初?最初はねぇ…林檎飴かな?お祭りといえば林檎飴でしょ。僕、結構アレ好きなんだよね。食べにくいけど。」)
(家族構成は多少違えど、末っ子と言うものはどうやら色々と干渉されるらしい。話を聞いていると、自分と彼との干渉のされ方は多少違いがあるようだが…。自分の場合、家族の中での立ち位置は完全にネタ要員だが、彼に関してはそうでは無く、皆が彼のことが可愛くて仕方が無くてのこの結果のようだ、ご家族の気持ちは痛いほど良く分かる。何故なら自分も彼に構いたくて仕方が無い訳なのだから。だが、あまりに構い過ぎて自分までも敬遠されるようになっては元も子もない。精々彼に疎まれぬよう、適切な距離感をたもつようにすることを決意した。いつもならスーツから着替えてから寛ぐのだが、それも面倒になりソファに2人して腰掛けた。未来のことを心配するよりも先に迫った祭りのことを考える方が余程楽しいと思い、最初に何を買うか相談を持ちかける。自分は焼きそばだと伝えると、彼からは林檎飴と返ってきた。浴衣を着て歩きながら林檎飴に齧りつく姿は可愛くない訳が無く、そんな姿が見られるのならそれだけで祭りに行く甲斐があるというものだ。肩に腕を回して軽く抱き寄せる)そんなに好きなら、オジサンが10個でも20個でも買ってあげるよ
(常日頃から家族から過度に絡まれていて自分から構って欲しいなんて思う事は少なかったし、学校でもつるむ友人は居るものの、四六時中一緒ではなく単独行動する事もあった。しかし、彼と出会って一緒に居るようになってからは時々しつこいと思う事があっても不思議と嫌ではなく、偶に構って欲しいなんて思うようにもなった。彼限定で。だが、こんな事を話したら構い倒してきそうだから言わない。珍しくスーツから着替えるよりも先に寛ぎ始める彼の問いに答える。チラリと見るとまだカッチリ締まったままのネクタイに気付き彼の首元へ両手を伸ばして緩めてやる。すると軽く引き寄せられ、10個も20個も買うなんて言ってくるものだから溜息をつく。そして、自分に対して何でも幾らでも買ってやるだのという発言が多いと思っていた事を告げる。「はぁ…そんなに食べられないよ…篤は僕に甘過ぎ。…そんな貢がなくても、僕は居なくなったりしない。」偶然見たドラマで好きな女性に逃げられたくないから、手放したくないからといった理由で貢いでいる男性が思い浮かび、彼がもしそんな風に思っていたらと考え告げる。しかし、何となく言うのが恥ずかしく視線を逸らし目尻を赤らめ不貞腐れた様な顔をする。)
(話を聞いていると彼の自立心の強いところは、どうやら家庭環境にあるらしい。それが嫌で今の彼があるのなら勿論尊重すべきだろうが、大概一緒に居る自分に対しての嫌悪感はそれほど無いように思える。色**のせいで気付いていないだけかもしれないが、少なくとも横に居てくれているということは彼の許容範囲だと判断することにした。ただしここがボーダーラインだということは自覚しておこう。帰って来た姿のままソファでぐだぐだと寛いでいると、不意に手が伸びてネクタイを緩められ心臓が跳ねる。何気なくこんな仕草をするものだからこちらとしては堪ったものでは無い。動揺を隠すように、少し風通しの良くなった首元のボタンを1つ外して抱き寄せる。何でも買ってやるなんて言いながら林檎飴な時点で随分せこい台詞なのだが、即座に甘過ぎとの指摘が入り、そんなことをしなくても一緒に居てくれると言ってくれた。照れてくれているのだろうか、そっぽを向く彼の顎に指を掛けこちらに向かせる)そんなことで真尋の関心を向けられるんだったら何だってする。というか…。喜ぶ顔が見れるならって言った方が良いのかもしれないけど…。……。(自分の発言にあまりの恥ずかしさから言葉に詰まる。照れ隠しに彼の頭をワシャワシャと掻き撫でて、勢いよくソファから立ち上がる。彼からしたら押しつけがましい発言の後に髪を乱されて、とんだとばっちりだろう)今日は先に風呂入るわ。すぐ上がるから。ゴメン…。(そう吐き捨てて、バスルームに消えて行った)
(お好み焼きを食べている時も緩めていなかったのか、きちんと締められているネクタイが窮屈そうで慣れない手つきではあるが緩めてやる。自らもボタンを外し始めたのでやっぱり窮屈だったのだろう、その様子を眺めていると抱き寄せられ彼の腕に触れつつ大人しく腕の中に納まる。背けていた顔を彼の方へ向かされ照れくささから不貞腐れた様な表情をするも、告げられた言葉に目を丸くする。自分の心配していた事とは違い、自分の喜ぶ顔が見たいからなんて言われては途端に鼓動が速くなり顔に熱がこもってくる。続く言葉は無く髪を乱す様に撫でてきたかと思うと、そそくさとバスルームへ去って行ってしまった。残された自分といえば、未だ彼の言葉が脳内でループしていて微動打にせず真っ赤になって口を固く閉じ瞬きを繰り返していて、静かになった部屋で僅かに狼狽えている。徐々に正気に戻ってくるとソファにぱたりと横たわり「僕だって…喜ぶ顔が見たいって何時も思ってるよ。」と誰も居ない部屋でぽつりと呟く。そして思い立った様にソファを離れれば、寝室から下着と寝巻きを持ってバスルームへと向かい、ぱっぱと服を脱ぐと彼の影が微かに透ける扉を開けて「僕も入る。」と平然とした告げる。)
(自分の発言に居た堪れなくなり、ソファから立ち上がるなり即バスルームへと向かった。バタンと扉を閉めた、ハァと大きなため息を一つ付く。普段から常々思っていることが、つい口を突いて出てしまった。恥ずかし…。気を取り直してシャツを脱ごうとネクタイに指を掛けて解くと、さっき彼が自分のネクタイを緩めてくれたことを思い出す。ほっそりとした少し温度の低い指が自分の喉に触れた時に目に入った彼の表情が随分と大人びていて、つい見入ってしまったのだった。当の本人は全くの無意識なのだろうが。子供扱いするなと拗ねてみたり、かと思えば目を見張るほどの大人びた仕草を見せてくれる彼のことをどう扱ったら良いものか…。今日は振り回されてばかりだと、彼が触れた首筋に指を当てて苦笑する。こんな贅沢なことで悩んでいるなんて、自分はさぞ幸せ者なのだろう。いつまでもこうして時間を食っている訳にも行かない。脱ぎ終わるとバスルームへ入り、熱めのお湯をシャワーから出して勢いよく頭から被った。シャワーをハンガーに掛けて鼻歌交じりに浴びていると、洗面所からなにやら音がする。早く出ろとの催促か、洗面所に用でもあったのかと気配を感じながらボディーソープを泡立てていると、扉が開いて入浴体制万全の彼が立っていた)珍しいな。真尋から一緒に入って来るなんて。風邪引くから早くおいで。(シャワーの下を彼に譲り、こちらへ来るように手招きした)
(喜ぶ顔が見たい…自分が彼の事となると目の色を変えた様に熱心にあれこれと考え始めるのはこの理由が大半だ。出来る所を見せたいや頼りにされたい、追い付きたいといった理由もあるが。彼が同じように思っていたなんて知らなかった。あんなに照れた様子もそうそう見ないから、明らかに本心だ。嬉しいような恥ずかしいような複雑な心境になるも彼にまた一歩近付けたような気がする。そう思うと彼が急に愛しくなって今すぐ近くに行きたくなって、衝動に素直に従いバスルームへと向かった。この前一度一緒に入ってから彼と風呂に入る事に抵抗がなくなり、また機会があればと思っていたのでちょうどいい。服を全て脱ぎ準備万端で扉を開けると、彼は迎え入れてくれた。「別に、ただの気まぐれ。」珍しいと言われるとその通りでやっぱり少し恥ずかしい。シャワーの下を譲ってもらうと素直に浴室へ足を踏み入れると体を流れるお湯が気持ち良く僅かに目を細める。気持ちも和らぎ彼を見ると先程の愛しさを思い出し彼の首へ腕を回し顔を近付けると口付ける。)
(思っても見なかった行動を取られ思わず面食らうも、彼からこの場に来てくれたことは純粋に嬉しいので自分としては大歓迎だ。一人で入るよりも2人で入った方が楽しいし、時間短縮にもなる。自分は軽く汗を流したところだから、シャワーの下は彼に譲ることにして先に自分は泡立てたばかりのタオルで身体を洗いだす。何事かと尋ねれば「気まぐれ」だと答えられる。珍しいこともあるもんだと思いながら、これ以上突っ込んで彼の機嫌を損ねないように、はいはいとこちらも軽く流すことにした。自分が洗い終われば彼の背中を流してあげようと、先程のように鼻歌を歌いながら平時のように身体を擦っていく。すると突然目の前に彼の顔が迫り、首に腕を回されたかと思うと突然キスをされた。咄嗟のことに思考が止まり泡だらけの身体をなすが儘にされていたが、意識が覚醒するとシャワーの下に彼を押しやり壁に縫いとめた。流れ出る湯のせいでボディーソープはすっかりと落ち、見上げると色素の薄い髪から水滴が滴たり頬をとめどなく濡らしている。その姿が堪らなくて濡れ続けるのも構わずこちらからも唇を重ねた後、顔を覗き込んでにやりと笑う)どうしたの、今日は。さっきのは、ちょっとやばかったよ。
(泡立てたタオルで体を洗う彼の横でシャワーを浴びていたが、不意をついてキスをした。無抵抗の彼の唇を堪能していると唇が離されシャワー下の壁へと押しやられる。背中に壁のヒヤリとした感触が伝わりピクリと肩を揺らし、頭上から降るシャワーで髪も濡れ頬に張り付くのを構わずに彼を見詰めるとお返しとばかりにキスし返された。此方も無抵抗に受け止め、唇が離れると顔を覗き込まれニヤついた顔でどうかしたのかと尋ねられる。愛しくなったからなんて恥ずかしくて言えないから適当に誤魔化す。そして、それよりも気になったやばかったとの台詞に対して今度は此方から問う。「どうもしないよ、したかったからしただけ。…それより、何がどうやばかったの?教えてよ、篤。」艶美にも取れる笑みでじっと見詰めて態とらしく首を傾げる。からかいの気持ちもあるし、彼が何をどうやばいと感じたのか知りたいというのもある。返答を待ちわびるように視線は逸らさずにニヤニヤとして見上げる。)
(滅多に彼からこういうことを仕掛けることは無いし、どちらかと言うと淡泊な方なんでは無いかと思う。日常のボディータッチも、主に自分からすることがほとんどだ。最初の頃はあまりこういうことが好きでは無いのか、もしくは最近の子はそう言うものなのかとあれこれ考えたがそうでは無く、彼の性格故なのだと思っている。だから、普段クールな恋人から急にこんなことをされて、燃えない男は居ないはずだ。悪戯が成功したと言うような得意そうな笑顔を浮かべる彼に、こちらも応酬して同じような笑みで気持ちを伝えると、相手はさらに上手でこちらの心情に突っ込んでくる。出会った頃の純粋だった彼が、一体どこでこんな駆け引きを覚えてくるのだか…。シャワーに打たれながら軽くため息をつき、濡れ続ける前髪を掻き分けてやると)普段そっけない真尋にそんな情熱的なことをされると、そりゃくるでしょ、普通。ギャップに弱いんだよ、俺は。(余裕をかまして壁に凭れかかる彼の手を強引に引いて抱き締め、首筋に軽く歯を立てた)
(普段は照れて恥ずかしがってばかり居るが、たまに何かのスイッチが入ると彼にぐいぐいと迫る。こういう事が出来るのは嫌がられないと受け入れてくれると分かっているからで、付き合い初めの頃は適度な距離感やスキンシップの度合いは探り探りで、時が経つにつれ何となく掴めてきたがこの前までも多少なりと悩んでいた。しかし、あの号泣をした時を境にもうそういう事は嫌だと言われた時に改ればいいと考え直したのだ。お互い思っている事はちゃんと話すと約束したし、嫌なら嫌だと言ってくれるだろう。まぁ嫌がられていないのは分かっているけど。だから、今はこうしてやりたい事は即座に実行した。ため息をつくのを楽しげに見て、少し鬱陶しく思っていた前髪を掻き分けられると伏せ目がちになるも再び見詰める。自分のギャップにやられたのだと聞けば気分が良くなりニヤニヤした顔はおさまらず、いい事を聞いたと内心もニヤリとする。「僕だってずっと何でもされる側じゃないんだから、甘く見ないでよね。」生意気発言を繰り出した所でぐっと引き寄せられ彼へ凭れかかる様な形で腕の中に収まれば、首筋に感じる硬いものの感触に歯だと察しては「んっ…ちょっと、そんな所見えちゃうじゃん。」と注意する。)
(彼の肌はどうしてこうも嗜虐欲をそそられるのだろうか。前髪を掻き上げると長い睫にも水滴が付いていて、見慣れたはずの二重の瞳をより艶やかに見せている。しかも挑発するような表情でこちらを煽るものだから、そのきれいな身体に傷を付けたくなってしまうのだ。身体を重ねる時もそう。無防備な脇腹や太腿の裏などについ歯を立ててしまう。本当なら血が滴り落ちるほどの一生消えない傷を付けたいところだが、わずかに残った理性が押し留める。勿論本心で彼を傷つけたいと思っている訳でも無いし、するつもりも無い。彼を自分だけのものにしたいという本能が、そういう気持ちにさせるのかもしれない。跡が残ると咎められるが、こんなものは明日には消えてしまうだろう。惜しい気がしなくもないが、消えればまた付ければ良いだけの話だ。今だけ少し赤くなった首筋を見て悦に入る。赤くなった箇所に優しく口づけ、肩越しに顎を乗せたまま)へぇ…。真尋からそんな風に言ってくれるなんて光栄だ。で、この後はどうしてくれんの?(表情が見えないことを良いことに、今度はこちらから仕掛けてみる)
(彼には噛む癖があるのではないかと思う。体を重ねる時や戯れている時も首筋や脇腹、挙句の果てには太腿まで甘噛みされる。決まって自分の弱い箇所ばかりにしてくるものだから、堪ったもんじゃない。不意にされるのも困るが快感に呑まれている時は敏感になっているから刺激に過剰に反応してしまう。嫌だという訳ではないが、恥ずかしいというかなんというか…。でも、見えない所になら一生消えない様な彼のものだという印が欲しいなんて思ってしまう事もある。彼にも勿論付けたい。普段は全く顔を出さない独占欲が彼に対してだけはメラメラと湧いてくる。自分にこんな感情があるなんて彼に出会うまで知らなかった。歯型が付いたのだろう噛み付いた箇所に優しく口付けられ、何そのギャップと密かに笑う。そして、肩に彼の顎が乗せられ自分が意地を張って言った事の先を促される。「こ、この後?この後は…その…えっと…」先の事なんて考えていなくてニヤついた顔から一転してどうしようか戸惑うが、いい事を思いついた。お返ししてやろう。彼の肩を押して少し体を離しては今度は彼を壁の方へ追いやり、両腕を握って拘束し彼の鎖骨下に口付けキツく吸い付く。口を離せば紅く色付いたそこを満足気に見つめて見上げる。「…痕、付けてあげる。篤の歳の数だけ。」悪戯を思いついた様な愉しげな声色でまたニヤリと口角をあげる。)
(彼の身体に付けた自分だけの証しを眺めるこの時だけは、奔放な彼が自分のものだという充足感を得ることが出来る。こんなことをうっかり彼に言ってしまうと、自分は物では無いだのと不平を聞くことになるのは分かっているので、絶対に口が裂けても言わないが。普通に彼氏彼女という関係なら、大っぴらに相手は自分のパートナーだと言うことを公言出来るのだが、自分たちはそうはいかない。彼とこういう関係になると決めた時から、そう言ったことに対して理解しているつもりだったが、もともとノーマルなせいか時々フラストレーションを感じることがある。自分が愛する人を想い守るために、その気持ちを隠さなければならないということはなんて皮肉なことなのだろう。彼に残した赤い鬱血を見てそんなことを考えていると、いきなり体勢を逆転されてお返しとばかりに今度は自分の身体に跡を付けられた。何事かと彼を見つめると、さも自慢げに自分の年の数だけ跡を付けると言い放つでは無いか。あまりにも斜め上な発言に堪え切れず吹き出してしまう)ぷっ…。真尋…ゴメン…。ふぁはっっ!俺の歳だけそんなもん付けてどうすんだよ!お前は唇腫れるだけだし、俺は体中湿疹だらけの病気だろ!!ったく、なんでそんなとこだけズレてんだよ!(ダメだ、この子は。やっぱり俺が付いてないと。ひとしきり笑うと無理やり頭を抱えて)バカなこと言ってないでこっち来い。頭洗ってやるから(言葉とは裏腹に、丁寧に髪を泡立てる)
(首筋の痕…優や他の奴らにばれたらややこしいし明日は襟のある服を着て行かなくちゃ、と平常心を取り戻し冷静に考える。特に優には自分達の事を話してしまっているし厄介な事この上ないから気をつけないと。見せつけられるものなら見せつけたい気もする…彼に誰も言い寄って来ないように。自分のものだと知らしめたいし、気持ちを形にして見えるものがあると安心する。まぁ、やらないけど。その代わり、見えない所になら幾つ付けても問題ないだろう。どうせなら彼の歳の数にしよう、節分の豆みたい。そう考えていた事を彼に告げると吹き出す程笑われた。自分としては少し格好付けて言った事で思ってもみない反応に驚いた顔で硬直する。『歳の数も付けられたら恥ずかしいっ!』て恥じらうとばかり思っていたのに…。今回は自分から格好良く攻めて恥ずかしがったり照れたりさせてやろうと試みたのに…。見事に失敗した。しかし、彼の言う事が最も過ぎて返す言葉がない。大人しく頭を洗ってもらいながらも顔は思いっきり不貞腐れた表情で、彼に見せつける様に頬を目一杯膨らませる。)
(真尋くん、そして背後様。いつもお世話になっております。本日までどうにもお返事が出来そうに無く報告に参りました。明日は必ずご連絡させて頂きます!)
(/篤さん、本体様此方こそお世話になっております。わざわざご丁寧にご報告下さって有難うございます。誠実な本体様で毎回感激しております。レスはお時間のある時やお暇な時で構いません!どうか此方の事はお気になさらず、リアルの方を優先して下さいませ!それでは、お休みなさい。)
(彼の口から飛び出した発言があんまりにも可笑しくて、堪え切れずについ吹き出してしまった。そうなっては中々笑いが止まらず、しまいには目尻に涙まで浮かべてしまう始末だ。ひとしきり笑った後、彼を見ると明らかに気分を害してしまったようで途端にご機嫌取りに走る。自分のリアクションが、どうやら彼のご期待に応えられなかったようだ。動揺を悟られないように平静を装い彼を引き寄せ、自分よりも色素が薄く手触りの良い髪をシャンプーで優しく泡立てる。目に入ると大変だと上を向かせると、不貞腐れたように口をとがらせる顔が目に入った。宥めるように話し掛けながら)なにそんなに怒ってんの?ゴメンゴメン。だって真尋が…(途中まで言いかけて先程のことを思い出し吹き出しそうになるが、これ以上機嫌を損ねる訳にはいかないと思い必死に堪える。わざとらしく咳払いをし)コホン…。ほら、終わった。流すからそのままでいろよ。(上を向かせたままシャンプーを流し、トリートメントを撫でつけた後に再度それを流す。ポンと頭に手を乗せて)はい。一丁上がり。終わったから湯船に浸かりな(一連の工程を終え満足すると、彼を湯船に浸かるよう伝える)
(笑われている最中、分かりやすく不機嫌を示す様に頬を膨らませて見せる。目尻に涙まで溜めて笑ってる…このオジサンめ。そう心の中で悪態つく。引き寄せられシャンプーで泡立てられると目に入らないようにといった配慮だろう、上を向かされる。大人しく洗われながらも表情は未だ変わらず、彼が思い出し笑い始めると態とらしく頬に空気を溜めたまま前方の鏡越しにじとっとした視線を送り不機嫌を見せつける。トリートメントまで丁寧にやってもらい全て終わると湯船に浸かるよう言われ従おうと思うも、その前に一つ。詰め寄り背伸びをして彼の唇を一瞬だけ奪うとさっと離れ今までの沈黙を破りやっと言葉を発する、不貞腐れた声で。「全く。キスの一つくらいでもして、ご機嫌とってよね。」じとりと見詰めてはもっと自分の機嫌をとれ、なんてこの上なく生意気な発言をすると言われた通り湯船に浸かる。湯船を独り占めとばかりに脚を伸ばし、うーんと唸りつつ両腕を上げる。「あーあ。篤はオジサン過ぎて僕の格好良さが分かってなかったみたいだけど、さっきのは笑うんじゃなくて照れる所!分かった?」機嫌は直ったようで表情は普通になり湯船から顔を上げて彼を見る。)
(丁寧に濯いで仕上げも終えてゆっくり浸かるように背中を押すと、くるりとこちらに向いて触れるか触れないかの軽いキスを送られる。思わず不意打ちを食らい彼を見つめると、不満の声が聞こえた。どうやら彼のご機嫌の取り方が間違っていたらしい。あー…、なんて情けない声を出しながら視線を合わすことも躊躇われて返す言葉を探していると、キスの送り主はとっとと風呂に浸かってしまった。さて…。このまま彼の機嫌を損ねたままというのも気まずく思いながら、自分もシャンプーを泡立てて癖っ毛を適当にがしがしと洗い出すと、様子を窺うようにそっと視線をバスタブに向けると気持ち良さそうに手足を伸ばして湯船を満喫している。「入れてあげない」なんて言われてしまっては非常に困ると考えながらシャワーで洗い流そうとした時、やっと彼から言葉が発せられた。つまり、さっきの発言に対して、自分は恥ずかしがるべきだったようだ。数秒考え込んだ挙句に出た結論は「無理」の二文字。だが、ここで反論するのも得策ではないと思い、そのことは自分の胸にしまっておく。煩雑にシャンプーを洗い流し、機嫌の直った彼の横に陣取るように湯船に浸かって、肩を並べながら先程の彼の言葉に続く。勿論笑わないと心に誓い)ゴメンゴメン。でもさ、キスマーク数十個付けられるより、さっきの真尋のキスの方がオジサンは照れるけどな(そう言って頬に口づける)
(押し掛けるようにして入って来たけど髪も体も洗ってもらって手間が省けてラッキーだったかも。それにしても、自分の髪を洗う時とは随分違って煩雑そうに洗うなぁ。面倒な気持ちは分かるけど、女子みたいに気を遣ったりしないから。一人湯船でリラックスしながら彼を見る。鎖骨下に自分が先程付けた痕が見えると満足気に静かに口角を上げる。そこらじゅうに付けてたらどんな風になっていただろうと想像してみれば、湿疹以外の何ものでもなく何だか思っていたより気持ち悪いかもしれない。やらなくて良かったと密かに思う。照れるべき所だったのだと指摘するも『そうだったのか』や『本当は恥ずかしかった』なんて言葉は返ってこず、むすっとする。頭を洗い終え湯船に入って来る彼の為にスペースを空けてあげる。もう一言二言文句を言ってやろうなんて考えたが彼の発言と頬のキスに顔を真っ赤にする。「何言ってんの!?キスはその時だけだけど、キスマークは消えるまでずっと恥ずかしいんだよ!?見る度思い出すんだから!」と勢い良く反論する。)
(/こんにちは。何時もお世話になっております、真尋の本体でございます。9月に入り気温も朝晩は肌寒いくらいになりました。体調を崩されてないでしょうか?誠に勝手ながらお忙しい事と存じ上げております。お時間のある時、お暇な時にお返事を頂ければと思っておりますが一旦上げさせて頂きますね。催促のつもりはないのですが、そのような形になってしまい申し訳ございません。ご不満やご希望等ございましたら遠慮なく仰って頂けたらなと思ってます。お祭り、楽しみにしてます!それでは、ゆっくりとお待ちしております。失礼致します。)
(乱雑に髪を流しサッパリとした面持ちではあるが果たして彼は入れてくれるだろうか…。あまり遠慮がちにしても彼の神経を逆撫でするだけだと判断して、思い切っていつものように湯船に足を入れると、少し機嫌の直った彼はこちらの心配を余所にあっさりと自分のスペースを開けてくれた。良かった…。気取られないように胸を撫で下ろし、彼の横に身体を沈めると、さっき彼からされたキスが嬉しくてこちらの気持ちを伝えると、一瞬にして顔を真っ赤にしながら反論される。どうやら自分が残した跡が恥ずかしいらしい。彼に跡を残すのには3つ目的がある。一つ目は自己満足の為。二つ目は彼の素肌を見た人間に自分の存在をアピールするため。三つ目は彼自身がそれを見て自分のことを思い出すように。だから、彼がその跡を見て恥ずかしいと思っているなら、以上3つのどれかには該当するのだろう。だが所詮はいずれ消えてしまう。ムキになる彼にこちらもつい大人げない一言を吐いてしまう)だったら、ずっと消えないようなもの、真尋に残したらどうすんの?例えば指輪とか…(言ってしまってから思わず固まる。なに言ってんの?!自分!男が貰ったからと言ってそうそう簡単に指輪なんて付けないだろ。ダメだ今日は…。失言続きの自分に呆れながら、先程の彼よりも赤面した姿を隠すように、湯を掬って顔に掛けた)
(/こんばんは。真尋くん、背後様。例年なら残暑のはずのこの時期に今年は随分と気温が下がっておりますが風邪などひかれておりませんでしょうか。申し訳ございません。まずは謝罪させていただきます。応募の際に「3日に1回は」という募集要綱がありながら、この度お守りすることが出来ずに大変失礼致しました。このようなことを言うべきではないことは重々承知してはおりますが、夏季休暇以降も仕事がなかなか落ち着かず、日々帰宅もこの時間になっております。今後もし、最初のお約束を守れない場合に背後様にご迷惑を掛けるようであれば、遠慮なく仰って下さい。自分のために上げて下さったこと、本当に嬉しかったです。いつもお優しい言葉を掛けて下さり、ありがとうございます)
(上げさせていただきます。台風は大丈夫でしょうか?もし外なら、くれぐれも気をつけてお帰り下さい。こちらは雨脚が強くなって来ました)
(歯型が恥ずかしいのだと訴えた後、以前鎖骨辺りだったかキスマークを付けられた時に親友である優一郎に見られてしまった事を思い出した。見られないようにと気にかけてはいたのだが椅子に座る際、前屈みになった時に見えてしまったらしい。案の定からかわれて恥ずかしさでいっぱいになりながら彼を置いてバイトへ行ったのだ。彼にこの事を告げる。「前だって、優に見られて"愛されてるな"とかニヤニヤしながら言われて恥ずかしかったんだから。」鼻下まで湯に顔を沈めてじっと見る。見られていない内は見せつけてやってもいいかなんてほんの少し思ったりもしたが、いざ見られてしまうと恥ずかしくていたたまれない。自分はそういう所がある、"やる前は強気"みたいな。気付いていてもなかなか直せないもので…。未だ視線を送り続けていると彼から驚くような言葉が発せられ目を見開く。咄嗟に出るような物じゃないだろう、指輪なんて。自分も社会人になってお金が貯まれば彼にプレゼントしようかと思っていた物だが、彼も少なからずそういう事を考えていてくれた事を知れば嬉しいやら気恥しいやら。自分で言っておきながら顔を赤くする彼が可愛らしく思えてお湯を拭う彼へ詰め寄り、下から見上げるようにして「そんなの、付けるに決まってるじゃん。」と告げる。彼が買ってくれた指輪になんてなれば話は別だ。一生の宝物だ。無くしてしまったらなんて心配になるがやっぱり肌身離さず持っていたい気持ちの方が強い。)
(/お返事が遅くなり申し訳ございません。謝罪なんて必要ないですよ、お仕事お疲れ様です。日頃からお忙しい様だと勝手ながら気にかけておりました。体調は大丈夫ですか?精神的にもお疲れ様ではないですか?こちらの事は気にせずゆっくり休める時は休んで下さいね。今回、少し時間が空いてしまいましたがきっとお忙しくされているんだろうなと心配はしていたものの、もう来なくなるのではなんて不安は感じていませんでした。なので、もう「3日に1度」という規約は撤廃しようかと思います!こちらは迷惑なんて思ってなどおりません、全く!寧ろお忙しい中、こんなにも頻繁にお返事が頂ける事を幸せ者だと思っています。何時も本当にありがとうございます。そして、先程は上げて下さりありがとうございます!こちらはまだ普通の雨程度で明日の朝から酷くなるらしいです。気を付けますね。篤さんの背後様もどうかお気を付け下さい。思ったより長くなってしまいました。長々と失礼致しました。)
(お返事ありがとうございました!真尋くんの顔半分湯船は可愛くて可愛くて本気で反則です…orz明日改めてご連絡させて貰うつもりではおりますが、取り急ぎ伝えさせて頂きます。いつもお相手頂きありがとうございます。こんなに大切な方にお会い出来たことに心より感謝致します。こちらに出来ることがあれば、何でも仰って下さいね。最初のお約束だけは守りたいと思っておりますので、守れて居ない場合は、真尋くんから槇村にいつもの調子で叱ってやって下さい(笑)こちらこそ長くなり申し訳ありません。風邪など引かれませんように)
(自分が付けた跡を、どうやら優という友人に見られたらしい。肌を見られたと聞いて一瞬頭に血が上りそうになったが、彼の口から良く聞く名前であることから仲の良い友人だったことを思い出して少し冷静になる。しかし友人だとて、「ハイソウデスカ」とはすぐには納得できず恨みがましく彼の方を見やると、彼は彼で思うところがあるらしく、こちらにじっと視線をよこしながら湯船に顔を半分ほど沈めている。その姿が子供みたいであまりにも可愛らしくつい意地悪がしたくなり、ほんの一瞬鼻をつまんでやった。今まで付き合ってきた相手には、自らアクセサリーなんてあげたことは無い。誕生日や何かのイベントの時に、考えるのも面倒で何が欲しいか尋ねた際にアクセサリーと答えられた時にのみ送ったくらいだ。勿論自分で選びに行ったことなどある訳も無い。だが、彼が自分の送ったものなら付けてくれると言うではないか。指輪は最後の最後に取っておくとしても、何か身に付けるものを送りたい。それにもうすぐ彼の誕生日がやってくる。側に寄る彼の肩に軽く頭を乗せて)そうだな。そんな風に言ってくれるなら、何か考えさせてくれる?見られても恥ずかしくないような俺専用の証し。しっかり温まったことだしそろそろ上がるか(濡れた彼の髪にぽんと手を乗せて、自分は勢いよく立ち上がると、彼にも立ち上がるよう手を差し延べて)ほら。早くあがって。あんまり夜更かししてると、せっかくの明日は祭りなのに疲れちゃうぞ
(こちらこそ、遅い時間にわざわざお返事有難うございます。あざとい行動も取りますよ、こいつは。自分が愛されていると分かっての行動です、あざといです。しかし、それに振り回されてしまう篤さんが可愛くて仕方ありません!何時も癒しを有難うございます!こちらも同じでございます!こんなに誠実で信頼が置けて、大切な方に出逢えた事は奇跡だと思っています!分かりました。規約はこのまま変えない事にしますが、お忙しい時やお疲れの時は無理なさらないようにお願いしますね!居なくなったり致しませんので、ご安心ください!そうですね、では真尋に何時もの様に怒らせる事も視野に入れておきます(笑)篤さん本体様もお体にはお気を付けください!)
(彼の心情などいざ知らず、何だか不機嫌な表情を見ては恥ずかしい思いをしたのはこっちだぞ!なんて思い負けじと視線を返せば鼻を摘まれ、一瞬息が詰まる。「ぷはっ!何すんの!」と勢い良く顔を上げ顔に掛かったお湯を拭いながら文句を言う。自分は今まで付き合った人など居らず、ドラマを見たり良く聞く話でしかアクセサリーの贈り物の知識はない。しかも相手が男性となればアクセサリーなんて付けるだろうか?とそもそもな問題もあるし、付けている所も見た事もない。要らない様な物は贈られても迷惑なだけかもとか分からないなりに思案していたが、結婚を示す時に使われる指輪には憧れがあり彼の重荷にならなければ同じ物を持ちたいと密かに思っていた。彼から指輪の話が出て驚いたが付ける事に抵抗は無さそうに思えたし、いずれは僕から…なんて想像してしまう。勿論、貰う側でも嬉しい。指輪はまだ先としても他の物ならと代わりの物を色々と想像するが、恋人らしい物への憧れがある自分は結局何でも嬉しい。そんな事を考えていると肩に頭を乗せられ其方を見る。自分に何か贈ってくれると聞いて嬉しさで胸がいっぱいになり「な、何でもいいけど…高価な物じゃないのにしてよね。」と大切なお金を無駄にするなと忠告をする。差し伸べられた手を握り立ち上がっては「そうだった!明日は無駄に動かない様にしなくちゃね!」と今度は自分が手を引き脱衣所へと出ては張り切った様子で嬉しそうにバスタオルを渡す。)
(顔半分潜ったところで鼻を摘まみ、どこまで我慢出来るものかと様子を見ていると次第に顔が赤くなり勢いよく顔を上げた。ジロリと睨まれるが、そんな可愛いことをする方が悪いのだと責任転嫁して、敢えて視線を逸らせた。表情は見えていないが恐らく怒っているだろうことはなんとなく分かる。だが知ったことか。自分のツボの来るようなことをする方が悪いのだ。もうすぐやってくる彼の誕生日に何を送るかと考えてぼそりと呟くと、高値のもの以外でと釘を刺されてしまった。軽はずみに指輪なんて言ってしまったが、やはりあれは最後の最後に取っておきたい。となると…。考えれば考えるほどドツボに嵌りそうで、取り敢えず風呂から出ようと立ち上がり、自分の後に彼を立ち上がらせる。明日は祭りだと声を掛ければ、いつもの大人びた表情とは一転して、子供のように瞳が輝きだす。脱衣所に出るとこちらにもタオルを渡してくれて、自分も後を追うように水滴を拭っていく。ついこの間までは遠慮するようにお互い接していたのに、今ではそんな素振りは見られないようになってきた。もちろん彼のことは大好きだ。そして愛している。ふとした表情や仕草に見惚れ、そして彼の肌を見れば勿論欲情だってする。だが、こうやって一緒に風呂に入ったり、寄り道して夕飯を食べに行ったり、下らない話をしたり。何気ないことを当たり前のように出来るようになったことがとても嬉しく思えて、身支度を整えて行く彼の背中に向け、聞こえないような小さな声で一人呟く)やっと、距離が無くなったかな…
(彼は何時も落ち着いていて余裕があるように見え、つい自分との差を感じてしまう。しかし、時折こうして悪戯を仕掛けてくる所は唯一子供っぽいと思う一面で文句を言ったりもするが、実際はその一面が垣間見得る事で差も気にならなくなり本心では嬉しく思っている。じとりとした視線を送っているが顔を逸らしてこちらを見ない様にしているのに気付き更に視線を送る。彼が贈り物なんて言い出したからにはきっと高価な物を買おうとするに違いないという思い込み、即座に高価な物は無しだと伝えておく。彼から貰える物なら何でも宝物になってしまう自分にとっては100均で売っているような物でも世界で一つだけの物に思えるのだ。お祭りが明日に迫れば遠足前の子供のように楽しみな気持ちが膨らみ、これから寝るというのにテンションが上がってしまう。手を引かれて風呂場を出た後は彼にバスタオルを手渡してやり、自分もバスタオルで体を拭っていく。この前まで一緒に入った事がなかったような気がしない程自然な空気でもう緊張や恥ずかしいといった気持ちは持たなくなっている事に気付いた。背後から彼の声が聞こえた様な気がして振り返ると「何か言った?」と問いかける。)
(遅くなりました!!真尋くん、21歳のお誕生日おめでとうございます。ちゃんとお祝いが出来ておりませんが、必ずさせて下さい!真尋くんにとって素敵な1年になるよう、自分にもそのお手伝いが出来れば幸いです。リアルタイムでレス出来れば良かったのでしょうが…。改めてまたお祝いさせて下さいませ。お誕生日おめでとう。あなたが居てくれて本当に良かった。)
(遅くなりました!!真尋くん、21歳のお誕生日おめでとうございます。ちゃんとお祝いが出来ておりませんが、必ずさせて下さい!真尋くんにとって素敵な1年になるよう、自分にもそのお手伝いが出来れば幸いです。リアルタイムでレス出来れば良かったのでしょうが…。改めてまたお祝いさせて下さいませ。お誕生日おめでとう。あなたが居てくれて本当に良かった。)
(/ありがとうございます!!篤さんに出会えて、大好きな人にこうして祝って頂けただけでもう十分嬉しいです!幸せ者です!泣きそうです!出会ってから今日まで毎日幸せな日々が続いておりますが、篤さん無しでは有り得ない事なのでこれからも肩を並べて二人のペースで歩んで行けたらと思います!お忙しいのにわざわざお祝いの言葉、本当にありがとう。こんなに嬉しい誕生日は初めてで、本当に涙がでそうなくらい幸せを噛み締めてる。出会えて本当に本当によかった。)
(目の前で身体を拭く自分より少し華奢な背中を見つめていると、思わず出てしまった独り言に反応したようで不思議そうな顔で振り返るが、照れ臭さから敢えて言葉を濁し、拭き終わった自分のタオルを彼の頭に被せる。下着とハーフパンツを身に付けると、まだ濡れている彼の髪を愛おしむように掌で押し当てながら)いや、何でもない。ほら、ちゃんと拭いて。そのまま乾かしてやるからじっとしてろよ。(洗面台に置いてあるドライヤーで、温度を確かめながら温風を当てて行くと、先程までしっとりと湿っていた髪がもとの肌触りを取り戻した。ぽんと頭に手を乗せてシャンプーの香りを楽しむように鼻先を彼の髪に寄せると、鏡越しに視線を合わせたまま話しかける)出来上がり。先に行ってるから早くおいで(適当に取ったTシャツを被りキッチンに立ち、冷蔵庫から取り出した缶のプルタブを立てて煙草に火を着けると先程の彼の笑顔を思い出す)あんなに楽しみししてくれてるなら、絶対に遅刻厳禁だよな。明日に備えて今日は早めに寝るか…って、遠足前の子供かよ(そして彼と同じくらい、もしくはそれ以上に楽しみにしている自分に気付いてクスリと笑う)そうだ、写真…。デジカメ持って行くか…(折角の彼の浴衣姿だ。スマホのカメラ機能では心許なく、最近使っていないカメラの充電をしておくことにした。まぁ、取らせてくれるかどうかは全く別の話なのだが)
(改めて。真尋くん、お誕生日おめでとうございます!ちゃんとお祝いが出来ず、大変失礼致しました…。先にも書かせて頂きましたが、後日ちゃんとお祝いをさせていただいても宜しいでしょうか。これからも一緒に同じ時間を歩んで頂けるなんて言葉を頂けるなんて、こちらこそ感謝のしようもございません。言葉を交わすたび、時が過ぎるたびに、益々あなたに魅かれていく自分に戸惑うばかりです。22歳のお誕生日をあなたと迎えられますように。大好きな真尋くん、そして親愛なる背後様。これからも宜しくお願い致します)
(聞き取れない程の声が聞こえた気がして振り返るも何でもないと濁されてしまった。いや、本当は何も言ってなくて空耳だったのかもと思った所に頭上にタオルを被せられ、タオルの隙間から顔を覗かせると髪を乾かしてくれるらしく大人しくしていろという言いつけを守り動きを止める。温かい風と髪に触れる優しい手付きが気持ち良くうっとりと目を細め、鏡越しにぼんやりと彼を眺めていると乾かし終わった様でドライヤーが止まってしまった事を名残惜しく感じていると鏡越しに視線が合う。「ありがと。ん、直ぐ行くよ。」何だか気恥ずかしく直ぐに視線を逸らし、返事を返しながら自分はまだ裸だった事に気付きいそいそと下着と寝間着を身につけていく。明日はいよいよ、待ちに待ったお祭りの日。一緒に選んだ浴衣が早く着たい。早く彼の浴衣姿が見たい。「…きっと、凄く恰好いいんだろうなぁ…。」服を着終え明日の事を考えると思わず心の声が漏れる。ハッと我に返り小さくはにかんでは足早に彼の元へと向かう。どうせ何時もの様にキッチンでビールを片手に煙草を吹かしているのだろうと迷わずキッチンへと足を運び、予想通り彼の姿を見つけては「毎日飽きないよね。」と呆れ半分に声を掛ける。)
(/こちらも改めて、お祝いの言葉、ありがとうございます!いいえ、お気になさらず!でも、ここはお言葉に甘えてお祝いして頂けるのを楽しみにしておきますね!本当にありがとうございます!うひゃ〜もう殺し文句ですよ、その台詞!心臓に悪いです← 勿論です!篤さんの誕生日もその次の真尋の誕生日もその先もずっと、一緒にお祝いして行きましょう!本当に素敵な篤さんと背後様、この出会いは奇跡だと思っています。末永く、これからもよろしくお願いいたします!)
(キッチンに凭れかかり至福の時を過ごしていると例のごとく呆れたような声が聞こえてくる。ぼんやりと考え事をしていたため気付くのに1テンポ遅れたが、声に反応して視線を向ける。考え事と言えば明日どのタイミングで彼の浴衣姿をシャッターに収めるかという、極めて私的なことな訳だったのだが。いつもの習慣を飽きないものだと揶揄されてしまうが、こればかりは変えることは出来ない。吐き出した煙をフル回転で回る換気扇に吸わせながら鷹揚に答える)飽きないよ。これが無いと、風呂から上がった気になんないしね(短くなった煙草を携帯灰皿でもみ消しながら、缶に残った僅かな液体を飲み干し)で、明日は昼過ぎには戻って来るけど。3時くらいで大丈夫かな。(恐らく、朝は自分の方が出るのが早いだろうから話す時間は無いと思い、最終の時間確認のため彼に尋ねた)
(自分は煙草もビールも嗜まないのでその良さがイマイチ分からず、毎日風呂上りに同じ組み合わせで一息つく姿が当たり前となったが本当に飽きる事等無さそうでよっぽど好きなんだという事が伝わってくる。短くなった煙草を片付けビールを飲み干し飽きないと答える彼に少し悪戯してやろうと思い立っては近寄り、彼の胸元に両手の平をぺたりと当て態とらしく上目遣いをしては「じゃあ、僕とビールと煙草、どれが一番好き?」と楽しげに口角を上げて問う。こんな事を聞けるのは自分が一番だと答えてくれるのが目に見えているからで、少しでも不安があれば問いたりしない。早く自分と答えろとばかりにじっと視線を送る。明日の予定を伝えられては異論はなく頷き「うん。僕は土曜日だから学校もないしバイトもないから、それまで課題して家の事してるよ。」と自分なりの明日の予定を伝える。)
(普段の習慣、1年が365日なら350日は必ず行っている習慣を指摘され、何気なく飽きることは無いと断言する。禁煙だっていまだに成功出来ずにいる自分が、風呂上りのこのセットを止められる訳は無い。ちなみに、起床時・食後にも漏れなくこれらがついてくることから、余計に呆れているのだろう。主義思考は複雑な癖に生活だけは健康な彼に、オジサンの日々繰り返されるルーティンを理解してもらえる日が来ることは無さそうだ。答えたあとにさらなる説教が返って来るかと思えば、つかつかと自分の方に歩み寄り、それらと自分のどれが一番かと尋ねられる。あぁ…。本当にこの子は性質が悪い。日常の嗜好品と彼とを比べて即答できる訳が無いのを知っての問いかけだ。しかも、身体を密着させて上目使いときた。伝えられた予定なんて頭に入って来やしない。彼だと答えれば、今すぐそれらを止めろと言うに違いないし、選べないと言えば、得意満面にさも鬼の首でも取ったかのように、自分は二の次だと言うに決まっている。彼特有の言葉遊びだと分かっていながらも真剣に考え…。したり顔ですり寄る彼と視線が合わないように胸に抱き寄せて最終結論を伝える。天井を仰ぎ見て)降参。真尋くんが一番好き…です…。わかった?(恥ずかしさに耐えきれない。オッサンに何言わせてんの??このままここに居たら、この小悪魔に何言わせられるか分かったもんじゃない。夜も大分深くなってきたことだ。今日は率先して自分から彼の手を引いて、寝室に向いベッドに潜り込む。眠りに落ちる前にさっきのお返しとばかり、自分の胸元に抱き寄せ額に口づける)仕事終わったら連絡する。煙草より酒より大好きな真尋くんに。
(一日何度この光景を目にする事か…時間があれば常にやっている様な気がしてくる。だけど、これが彼の趣味で落ち着く時間なのだろうと理解しているので辞めてほしいとは思っていない。だが、自分は絶対こんなふうにはならないと決め込んでいるのは内緒だ。態とらしく媚びる様な仕草で彼に詰め寄る、これはこの前ドラマでやっていたのを見て得た知識。勿論やっていたのは女の人で、自分はこんな女性は好かないが彼がどんな反応を見せるのか興味があり仕掛けた。絶対自分だと即答してくれると思っていたのに何やら考え込む姿に楽しげな顔はじとりとした疑いの眼へ変わろうとしていたその時、抱き寄せられ漸く自分が一番だと答えてくれた。機嫌を損ねかけていたがその一言で単純に機嫌が良くなり「ん、宜しい!」と得意気に威張る。何故か上を向いているのを不思議そうに見ると「ねぇ、照れてるの?」とからかう様に問いかけながら寝室へと手を引いて貰う。彼に続いてベッドへと潜れば引き寄せられ額に口付けを受ける。まださっきの事を引き合いに出してくる彼に小さく笑い「じゃあ僕は、大好きな篤の連絡を大人しく待ってるよ。」なんて言えば途端に睡魔に襲われ直ぐに深い眠りに落ちて。)
(いよいよ当日。今日は何がなんでも仕事を終わらせる。いつもより少しだけ早く目が覚めると、隣に眠る彼を起こさないようにそっとベッドから這い出す。カーテンの隙間から見える光りは願った通りの晴天のようで、こんな日にはもってこいの天気だった。いつものカップにコーヒーを注ぎ、リビングのカーテンも開け放つと、眼前には青空が広がっていた。うんと伸びを一つ。少し凝った肩を回すと次第に目が醒めてくる。淹れたてのコーヒーを口に含みPCの電源を入れて今日の予定の予定を再確認するも、取り立てて急ぎのメールも案件も入っていない。よし。大丈夫だ。買ったばかりの浴衣を横目にニヤける顔を必死に堪えながら、いつものスーツに着替える。少し涼しくなった気候のせいで、この厚ぼったいスーツも苦にはならなくなってきた。皺の無いシャツに袖を通し、ジャケットに合わせて選んだネクタイを首に回す。これだけキレイに整頓されていると着て行く物も選びやすい。自分一人の時ならば、山の中から探し出すという作業だったのだが、彼と暮らすようになってから一転した。こればかりは几帳面な彼に感謝してもしきれない。準備が終わると、未だ寝息を立てる彼の枕元にそっと腕を付き耳元に唇を寄せ)行って来る。会社出る時に連絡入れるから。(言い終わると、唇を寄せていた耳たぶに軽く歯を立て)
(明日は休日だからと目覚ましはオフにしたままで起きなくちゃという緊張感に似た気持ちもなくスヤスヤと熟睡していて彼がベッドから抜け出した事など全く気付く様子もなく、彼が居なくなったスペースに寝返りをうてばさっきまで彼が居た残り香に無意識に安心感を抱き頬を緩める。再び深い眠りへと誘われようと耳に擽ったさを感じては眉間に皺を寄せる。「…ん、…篤…今の、何?」半分程意識が戻って来た所に先程の擽ったさを越えるゾクッとした感覚に意識を取り戻し、寝ぼけ眼で目を開け至近距離にある影を彼だと認識してはまだ正常には回りきらない思考で耳に感じた違和感について尋ねる。)
(/お疲れ様です!レス、気付くのが遅くなり申し訳ありません!お疲れだと思いますので、ゆっくりして下さいね。レスの方もゆっくりで構いませんので。^^*)
(自分が与えた刺激に目を覚ましたようで、ベッドの中で身じろぐ彼にまだ寝てるようにと諭すように髪をそっと撫で、少し寝癖の付いた柔らかい髪に顔を埋める。ぐっすりと眠っている彼を起こすのは少々気が引けたが、気付いてくれれば嬉しいと思い仕掛けた悪戯だ。時刻はまだ7:00を回ったところ)良いよ、まだ寝てて。今日はちゃんと帰って来るから。行ってきます。真尋。(寝ぼけ眼でこちらに反応を返す彼に対して頬に口づけ、いつものように家を出る。あの可愛い寝姿を見れるのは自分だけの特権だ。学校で仲の良いナントカくん…。優くんだっけ?その優くんだとて、こんな姿は見たことあるまい!!ましてや、今日は真尋の浴衣姿が見れるのだ。家を出て駅までの道すがら、下らない優越感に浸りながら歩みを早める。事務所に着くと土曜日と言うこともあって出社している人間もほとんどおらず、社内は静まり返っている。こういう日は問い合わせの電話もならず、溜まっていたデスクワークも順調に片付いていく。予定通りに仕事を終わらせ、一息ついたところで携帯を取り出した)
(真尋くん・背後様、お疲れ様です//良い連休をお過ごしでしたでしょうか?本当に段取りが悪く…槇村以下の進行に情けなく思っております…不甲斐ない自分にいつもお気遣い頂き、ありがとうございます。仰りたいことがあれば何でも行って下さい。)
(眠たい目を擦り彼を見れば優しい手付きで髪を撫でられ、髪に顔を埋められる。上手く回らない頭で彼の行動の理由をぼんやりと考えているとまだ寝ていていいと告げられ、起こした張本人はアンタだろなんて内心悪態つく。頬に口付けを受け今から出社するという彼に「…ん、行ってらっしゃい。」と軽く手を振り見送る。ベッドサイドの時計を見ればまだ午前7時でもう一眠りしようと毛布を被り直し目を閉じる。午前9時過ぎ、再び目を覚ませば身を起こし両腕を頭上に上げ伸びをしては洗面所に向かい身支度を済ませる。今日は浴衣で出掛けるけど取り敢えず服を着替えて朝食にパンと紅茶を摂り、リビングのテーブルで課題に取り組む。勉強が苦手ではない自分にとってはそう難しくもなく課題はスムーズに進み、洗濯、掃除と家事をこなしていく。一通りやり終えると浴衣の着付けの最終確認をしようとソファに腰掛ける。)
(/連休は充実した時間になりました!今日はこうして篤さんや背後様とやり取りも出来ましたし!いえいえ、忙しい時は誰にでもありますよ。背後様がリアルで頑張っておられる事、私はちゃんと知っていますのでその様な事は仰らないで下さい!それより、ご無理はなされませんでしたか?気候も大分涼しくなってきて温度差もありますのでお体に気を付けて下さいね!こちらから背後様にお伝えしたい事と言えば、忙しい中お相手して頂ける事への感謝くらいです!背後様こそ、遠慮なさらずお気軽に何でも仰って下さいね!)
(頬に顔を寄せて囁けば、起ききれないまま舌の回らない口調で返事が返ってきた。突然眠りを妨げられたからか少々恨みがましい思いも込められていたようだが、愛しい彼を置いて家を出る寂しさには変えられない。いつものように何も言わず見送ってくれる彼に甘え、心の中で「ゴメン」と呟きながら、寝室の扉を締め玄関を出る。仕事がひと段落して時計を見れば、予定通りの時間でホッと胸を撫で下ろす。今日は口さがない同僚も後輩もここには居ない。遠慮なく自分の携帯を取り出し、履歴の一番上に鎮座するアドレスにメッセージを送る。時間は正午丁度。昨日は課題があると言っていたが、いまもその最中だろうか。要領の良い彼のことだろうから終わらせているのかもしれないが、邪魔をしては申し訳ない。このまま会社を出れば昼過ぎには家に着けるだろうから、昼飯でも買って帰るか…)TO:真尋/Sub:(non title)/仕事終わったよ。今から帰るところだけど、昼飯一緒に食わない?帰りにデリで買って帰るからリクエストあったら言って
(真尋くん・背後様!良い休日が過ごせたようで何よりです♪先週まで台風などで天候が崩れて随分寒い日が続いておりましたが、風邪など引かれておりませんでしたか?こちらは日常の読みが完全に外れ、真尋くん・背後様にご迷惑をお掛けし…。背後様こそ、お忙しい中レス頂きありがとうございます。自分にとっては、今日お会い出来たことが休日一番のトピックです!お優しい言葉に感謝の仕様もございません。頼りがいの無いヘタレではありますが、こちらに出来ることがあれば遠慮なく仰って下さい。いつも貴方のことを想っております)
(ソファに腰掛け背凭れに凭れては顔を上に向け目を閉じる。まずは浴衣を羽織って、それから…と頭の中でシュミレーションを始めようとしていると携帯が鳴った。課題が出ていたから友人の内の誰かかと思いつつ側に置いていた携帯を手に取り液晶画面を見るといつの間にか正午過ぎでこの時間ならきっと彼だろうと緩む頬をそのままにメールを確認する。予定通り仕事は終わったみたいで帰りにデリに寄ってくれるらしい。そういえばもうお昼だった…いろいろ作業しているうちに時間の事なんてすっかり忘れていた。リクエストを聞かれると売っていそうな物を思い浮かべ暫し悩んでは唐揚げに決めて返信する。宛先:槇村 篤 本文:お疲れ様。お昼、一緒に食べる。リクエストは唐揚げ。後は篤が好きな物買って来て。ご飯は炊いておく。いつも通りシンプルで単調に文字を打てば送信し、ご飯を炊くためにキッチンへ向かう。お米を洗い、炊飯器にセット完了。後は炊けるのと彼を待つだけ。再びリビングへ戻って来ると直ぐに準備出来るようにと置いてある浴衣が視界に入り暫くじっと見詰めてはふっと微笑む。あの時勇気を出して誘って良かった。照れ臭かったけど、緊張したけど、断られたり好きではないと言われたらどうしようかと不安に思ったけど良く頑張った!自分!これからは躊躇せずもっといろんな事に誘ってみよう。それでもっといろんな思い出を沢山作ろう。アルバムを作る、なんていいかも。あ、でもそのためにはカメラで写真を撮らなきゃだなぁ。そんな事を考えながら浴衣の前に座り、嬉しそうに浴衣を眺める。)
(/ご心配ありがとうございます!体調は問題なくいつも通りでございます!迷惑だなんて思っておりませんよ。他の人はどうであれ、私にとってはこのくらいの事、迷惑になんてなりません^^* なので、どうかお気になさらず。こちらも同じ気持ちです!今日お会い出来た事が連休の中で一番嬉しい事になりました!本当にありがとうございます!頼りないなんてとんでもない!頼りにさせていただいてますよ、何時も。お気遣いありがとうございます!では何かありましたら、その時にでもお伝えするようにしますね^^* こちらも同様に、いつも想っておりますよ貴方様の事を。)
(ランチのお伺いを立てたところ早々に返事が返ってきた。この様子だと彼の課題も順調に消化できたのだろう。どうってことは無い日常のやりとりなのに、彼からのメッセージだというだけでつい口元が綻んでしまう。画面に映る文字を見るや否や間髪入れずに返答する)TO:真尋/Sub:RE:/了解。唐揚げね。あと1時間くらいで着くと思うから待ってて(送信ボタンを押して駅までの道を急ぐ。そういや…。今の携帯に買い替えたばかりの時に、彼からメールや電話があった際にすぐわかるようにと彼の写真が出るように設定しようとしたら、速攻で却下されてしまったことがあったことを思い出した。別に常時の待ち受けにする訳でも無かったのに、寝てる時にこっそり盗撮した画像を使おうとしたのがいけなかったのか、なかなかの剣幕で怒られてしまった。その時は彼の機嫌を損ねるのを恐れて止めてしまったが、今日浴衣姿の写真を撮ることが出来れば、こっそり設定してしまおうと固く心に誓った。自宅最寄駅近くのデリで、目的の唐揚げとサラダ、あとは適当におかずになりそうな物を買って家に辿り着き、こんな時間に一緒に居られることが嬉しくてご機嫌な様子で声を掛けながら玄関を開ける)ただいまーっと。ごめん、ちょっと遅くなった。
(浴衣に見蕩れていると再び携帯が鳴り、今度は彼だと確信して浮き足で携帯を取りにソファへと戻る。ボスッと音を立てて腰を下ろしメールを確認すれば、思った通り彼からだった事にふふん♪と一人ご機嫌に笑い内容に目を通し直ぐに返信を打つ。宛先:槇村 篤 本文:早く帰って来てよ! 普段なら送らない様な一言を今日はお祭りの事で浮かれているのか送ってみたりして。さて、彼が帰って来るまでどうしようか。洗濯物はまだ乾いていないだろうし、おかずを買って来てくれるんなら作らなくてもいいし…。背凭れに凭れ天井を仰ぎ見て暫く考えていると、いい悪戯を思い付き寝室の彼の服が入っているタンスへと足早に向かう。タンスの中の彼の服を漁り自分が着れそうな物を探し出せば、自分の着ていたTシャツを脱ぎ彼の私服のシャツを代わりに着る。姿見で服装を確認してはこれで完璧!と口角を上げる。これで出迎えたらびっくりするぞ!絶対!と楽しげににやけては再びリビングのソファでテレビを見る事にした。暫くして玄関の扉が開く音が聞こえ玄関へ小走りで向かえば「ちょっと!遅いんだけどー!」と大して遅れた訳でもない彼へ文句を交えて出迎える。)
(ったく…。「早く帰って来て」なんてメッセージを返されたら、急がない訳にはいかないじゃないか。誰に言うでもなく、携帯に向ってニヤついた表情のまま)はいはい。分かってますよ。(なんて答えながら、返信する時間も惜しくなりジャケットの内ポケットに携帯を仕舞う。買い物を手っ取り早く済ませて家に帰り玄関を開けると、リビングから不満を抱えた声が聞こえてくる。そんなに待たせたつもりは無く、腕時計を見ても伝えた通りの時間に帰って来たつもりだったが…。余程お腹が空いてたのかと合点し、すぐにメシにするかと靴を脱いだところで顔を上げると、腕を組み頬を膨らませた彼の姿が目に入った)悪ぃ!ほら、言ってた唐揚げ買って来t…たし…(荷物を手渡そうとして袋を差し出したが、思わず落としそうになってしまった。俗に言う彼シャツ?!付き合いたての頃に彼の着替えが無くて無理やり着せたことがあり、それはそれは盛大に萌えたのだが。今では彼の衣服が揃っているのでそんな必要も無い。しかもその時はルームウェアとしてTシャツだったのでさほど違和感は無かったが、今彼が着ているのは自分が普段着ている前開きのシャツだ。少し大きめのシャツから見える鎖骨と手首まで覆う余った袖に眩暈がする。真昼間から何してんのこの子は…。ひん剥くぞコラ。痛むこめかみを指で押さえながらなんとか理性を保つことに成功して、眼前に立つ彼の首に腕を回して抱き締める)ハァ…。分かったから…。取りあえず着替えて来なさい。そんな恰好でメシなんて食えないでしょ?
(遅いなんて言ったのは単なる冗談だが、さも怒った風を装っていながら彼の服を着ている自分に対して彼がどんな反応を見せるのかを楽しみに考えた悪戯だ。冗談の文句と共に玄関まで出迎えると、時計を確認する様子を見てニヤリと口角を上げる。早くこちらを見ないかとワクワクしていると顔を上げかけた彼がこちらにデリの袋を差し出してき、それを受け取ろうと手を差し伸べれば彼が硬直した。この状況を見て混乱しているのだと解釈しては悪戯が成功した事への満足感が湧いてきてニヤニヤが止まらない。怒るか困るか戸惑うか、さてどれだろうと様子を窺おうとすれば不意に抱き締められ予想外の事に少し驚くも背中に手を回し「吃驚した?ちょっと驚かせてあげようと思って。」と楽しげに話し掛ける。彼が出張の時、寂しい夜は密かに彼の服を着て寝る事があるから彼の服を着る事にあまり抵抗はない。彼の前ではしなかったけれど。着替えて来いと言われては「え、いいよ。どうせまた浴衣に着替えるんだし。汚さないようにするから。」と平然とこのままで居ると告げる。きっとご飯を食べる時に汚されると思っているのだろうと勝手に思い込み、着替えるのが面倒になっては袖口を捲り上げて心配ないと。)
(驚かせてあげようだなんて事も無げに言ってはいるが、日の高いうちから自分の服を着て出迎えてくれるなんて、一体何のご褒美だよ。こんな時ばかりは、持ち前の妄想力が遺憾無く発揮される。ちなみに少し我儘を言わせて貰えば、前ボタンはあと2つほど外して貰って鎖骨をアピール。左右アシンメトリーな感じで、どちらかが少しずれて肩が露わになっていれば尚良し。ボトムは…。それ以上は望むまい。そして上目遣いで「ちょっと。遅いんだけど(ハート)」なんて言われたら、10秒待たずに押し倒す自信がある。一呼吸入れて自分を落ち着かせるために彼を抱き寄せ着替えて来るように伝えるが、まるで意に介さず「汚さないから大丈夫」と着替える気は更々無いようだ。これ以上言っても無駄だと諦めて、何も言うまいとスーツからルームウェアに着替えるために寝室に向った。着替えた後は何事も無かったようにキッチンに向い、買ってきた惣菜を皿に移しレンジで温める。彼も続いて先に用意してくれていたご飯を茶碗によそってくれ、ささやかな昼食となった。彼には冷えたウーロン茶を、自分には缶ビールを眼前に置き2人手を合わせて)いただきます(何時に出るか何処で花火を見るかなど、他愛も無い話をしながらも食事を進める。なるべく彼の首より下に視線を合わせないように。これさぁ、完全に事後翌日の昼食じゃねぇか)
(体重を掛ける様に抱き締められ支える様に回した腕に力を込める。大量の仕事を急いで片付けて来て脱力しているのだと的外れな解釈しては"お疲れ様"の意を込めて背中をぽんぽんと優しく叩いてやる。勝手に服を着た事には怒っていなさそうだと判断しては、少しスカスカするがどうせまた着替える事になるからそのままで居ると答える。デリの袋を受取れば無言で寝室へと行ってしまった背中を見て、やっぱり少し怒らせたか…と僅かに眉を下げる。キッチンに惣菜を置きつつ考える。彼は基本的に優しいから怒るなんて事は今までにも無く、きっと怒っていても表には出さない様にしているんだろう。今から着替えるか…と考えていると何事もなかった様に彼が現れ惣菜を温め始めたので自分はご飯をよそいながら彼の様子を窺う。…何時も通り、みたい。別に、怒っている訳では無さそうだと密かに胸を撫で下ろす。自分も気を取り直して茶碗を食卓へ運び、二人揃っての昼食となった。少し長い袖を綺麗に捲くり上げ、いただきます。と手を合わせるとふと目彼の前にあるビールに気付き「…もう飲むの?まだお昼なんだけど…仕事が終わって気が抜けたのは分かるけど、解放され過ぎじゃない?」なんて鋭く問いビールを凝視する。)
(温め直した惣菜各種と唐揚げを並べ、あとは彼が用意してくれた炊き立てのご飯。一緒に食べるのだったら何だってご馳走なのだが、彼からのリクエストを受けて用意した品とその他、そして炊き立てのご飯なんて、普段の仕事中なら絶対にあり得ないシチュエーションだ。しかも、目の前にいる愛しい彼が何やら可愛いことをして待ってくれていたことだし。経験上昼間の酒ほど美味いものは無いことも知っている。ここまで条件が揃っていて飲まずにはいられないだろう。それぞれがテーブルに揃えば自ら率先して手を合わせる。まぁ、これは2人で暮らすようになってから、一緒に食卓に着くようになってからの習慣となっている。ご機嫌でプルトップを開けようとした瞬間、冷たい視線と辛辣な言葉が浴びせられた。どうやら自分が飲むことに不満らしい。確かに飲まない人間にしたら昼日中に飲むなんて自堕落な行為だろうと言うことは分かる。だが、昼に飲む酒ほど美味いものは無いことも事実。これ以上説明するのも面倒臭くなり、ニヤリと笑いながら意地悪くこちらから反撃することにした)じゃぁさ、真尋くんは何で昼間から俺のコスプレしてんの?もしかしてそういうの好き?
(丁寧に手を合わせて箸を持てば、リクエストした唐揚げを一番に頬張る。食べたい時に食べたい物が食べられるというのは、なんて幸せな事もあるだろう。炊きたてのご飯と合わされば更に美味しく感じ、何が食べかわざわざ聞いて買って来てくれた彼に感謝しながら食べ進めていく。もぐもぐと動かしていた口を止め、真昼間からビールを飲もうとしている彼に冷ややかな視線を送る。どうせ、ごめんごめんと悪びれもなく軽い謝罪の言葉を並べつつ止めたりはしないのだろうと今までの彼の言動から予想するも、問い掛けには答えずに自分に質問してくる。コスプレなんて言われては急に恥しさが込み上げてくる。そんなつもりでやったのではないと即座に反論する。「コスプレなんかじゃない!篤を驚かせてやろうと思って着てみただけだし!。」彼の意地悪な質問の所為で一気に体温が上がり、心拍数が増える。真っ赤になった顔を背け、不貞腐れた表情で呟く。「…でも、篤の匂いがするから…好き、かも…。」)
(テーブルに着くと真っ先に唐揚げを頬張る姿を見て、その姿を見ながら買ってきて良かったと思い、目の前の缶に口を付ける。その矢先に彼からの指摘が入るものだから、こちらからも今日の悪巧みについて問いかけると、急に口ごもりコスプレでは無いと言われてしまった。そして理由はと言えば、自分の匂いがするからだそうだ。なんだ。コスプレは趣味じゃないのか。もしそうだと言えば、アレもコレもと夢と言う名の妄想が広がったのだが…。じゃなくて、自分の匂いが良いの?いつも一緒に居るし、寝る時も同じベッドじゃないか。よく見れば心なしか頬も赤く、俯いたままこちらを見ようとしない。なに??いつもは小生意気な癖に、可愛いところがあるじゃない。いや、いつも可愛いには可愛いんだよ。もう全部可愛いし。もちろん生意気なところもそうなんだけど、こんなあからさまに恥じらわれると、いつもに無い反応につい調子に乗ってしまう。唐揚げを摘まもうとした手首を取り俯く彼の瞳をじっと見つめながら、その手を自分の口元に寄せてパクリと一口食べ呟く)まだ足りないの?俺のこと。
(唐揚げや他のお惣菜、ご飯を口に入れるため素早く動かしていた手は彼の質問に寄って止められる。ぽっと思い付いただけの悪戯でこんな恥ずかしい思いをするなんて思っても見なかった。しかもコスプレと間違われるなんてっ!男子がメイド服やチャイナ服といった偏ったものを想像しては、自分にそんな変態趣味はない!と断言する。しかし冷静に他人の服を普通に着る事もコスプレになりうるのか…といった未知の分野について考える自分もいる。彼が喜ぶなら…一瞬考えが過ぎるも自分はそのような道に踏み外したりしないと自分を制する。こんなシャツ一枚でコスプレだなんだと言ってくるのだから、これから着る浴衣を着た後はどうなるんだ…。ていうか、彼だって着るんだし人の事とやかく言えないよね。お揃いでコスプレするようなもんだし…お揃い…お揃いのコスプレなら…いい、かも。それに、服でなくてもマフラーとか鞄とか揃えるのもいいかも〜。ってダメダメ!変な想像をしてしまっていた思考を正常に戻すために小さく首を振る。つい口が滑って彼だって匂いがするから好きなんて言ってしまった…。本心だけど、一応隠し気味にしてきた事。変な奴だと、気持ち悪いと思われたくないから。でも、とうとう自らの言葉で伝えてしまった。思わず顔を逸らしたが彼の反応が気になる。嫌そうにしているかな…なんてマイナスな思考が過ぎった所で唐揚げを挟もうとしていた箸を持つ手を捕まれ彼を見れば、そのまま手を食べられた。こちらを見詰める瞳にドキッとするも、彼の行動と質問の意図が分からず戸惑う。足りない?篤が?匂いが好きだと言ったのは安心するからで、寂しさ紛らわす為でも何かを我慢している訳でもない。赤みの引いた顔で真剣に彼を見詰め、彼の不安を解こうとど直球に自分の想いを告げる。「…何勘違いしてるのか知らないけど、僕は今の篤に不満はないよ。コスプレだなんだ煩いし、今だって手を齧られた意味も分からない。こんな昼間からお酒を飲む事も理解出来ない。…だけど、僕は本当に良くして貰ってると思ってる。世界中何処探しても僕以上に幸せな思いしてる人なんて居ないと思うよ。…だから、余計な事考えてないで僕の事だけ考えてればいいの。分かった?バカ篤。」自分が彼の服の匂いを堪能したからって彼が足りてないって結論に辿り着くなんて…この心配症。足りてなかったらもっと構えだの、ああしろこうしろって我儘言ってるよ、ったく。時々バカなんだから。まぁ、そんな所も好きだと思ってしまえる程に惚れてるんだけど。これで彼の勘違いも解けたかと様子を窺い見る。)
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