僕 2015-05-14 13:16:14 |
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(やっぱりだよ…。まさに予想通りの展開。目の前に座る同期の顔を見ると、それはもう楽しそうで楽しそうで。自分を意に関しないような態度を取りながら、こちらをチラチラと含みのある表情で見ながら、やたらと彼に優しく接している。まるで俺がキレるのを楽しみに待つような態度が癪に触って仕方ない。笑顔でうまくやり過ごそうと思いながらも、なかなかそう上手くは行かなくて…。そう思っているとテーブルの下でそっと手を繋がれる。敏感な彼のことだから、自分の不穏な空気を察したのだろう。折角美味い飯でも食べさせてあげようと思って連れて来たのに、これじゃ本末転倒で何の意味も成さない。彼に気を遣わせたことを深く反省し、こちらからも彼の手をそっと握り返した。気を取り直してこちらからも話し掛ける)しょっちゅうって訳じゃないけど…。でも、割と使わせて貰ってるかもな。うちの会社からも近いから、代々先輩上司が使ってるんだよ。それで俺達もここを遣わせて貰うようになったって訳。で、何かほかに食べたいものはある?(彼の不安を取り除こうと、ちゃんと目を見て話しかける)
(話題を振ってみたけど彼は乗ってきてくれるかなぁ…メロンジュースをちびちびと飲むとメロンそのものの甘さが口内に広がる。美味しい、やっぱり頼んで良かった。するとさっきまで殆ど黙ったままだった彼が話始め自分の振った話題に乗ってくれた。ちゃんと目を合わせてくれた事にほっとしたと同時に嬉しくなると「そうなんだ、いいねこのお店。雰囲気も素敵だし。」と頬を緩メニューをチラリと見れば「だし巻き卵食べたい!」と安心した事で空腹を感じては素直に告げる。良かった、良かった…彼の機嫌が直った、何がどうなって直ったのか分からないがとりあえず良かった。またメロンジュースを飲もうかと思えば、美味しかったから彼にも飲ませてあげようと思い「そうだ、メロンジュース美味しいよ。篤、飲んでみる?」とまだ結構残っているグラスを彼へと差し出す。普段なら人前であまりそういう事を自分からする方ではないし、人目が気になるが今は彼と話していたいという気持ちが大きく全く気にならない。)
(それなりに歳を食ってるくせに、どうにも昔からこういう自分のパートナーの紹介というのにいつまでたっても慣れない。変に畏まってるのは自分だけだということは良く分かっているのだが、変に構えてしまって、つい言葉少なになってしまうところを、彼にフォローされてしまった。口火を切ってしまえばなんてことは無く、いつも通りに彼とも佐伯とも言葉を繋ぐことが出来た。彼が学生であることやバイト先が図書館であることなど話を振ると、聞き上手な奴は上手く話を膨らませてくれる。自分の隣に座る彼も段々と雰囲気に慣れて、食べたい物をオーダーしてくれるまでになった。敢えて追及はしないが、どうせ今日もろくなものは食べていないはず。そして何を頼むかと思えば、ここ2日間毎日食べているにも関わらず、出汁巻卵が食べたいなんて言うから思わず笑みが零れた。自分たちが作るものとプロが作るものと比べたかったのかもと察し、何も言わずに追加オーダーをした。他には刺身や煮魚。定番のメニューを何品か。そんな中、急に彼が飲みさしのメロンジュースを差し出してきた。普段ならこんなことは滅多に無い。先だってのランチですらこんなことは無かったのに。勿論自分は躊躇わずグラスを受け取り口を付ける。生のメロンを使っているのだろうか。爽やかな甘味とほんのり鼻を抜ける青臭さが初夏を感じさせる)うん。案外美味いね。(自分の知らなかったメニューに出会い、少々感動しながら彼にグラスを返すと、まじまじとこちらを見る視線に気付いた。急に真面目くさった顔で問われる)「お前と会ってから、付き合ってる子とこんなに仲良いとこ見るの初めてだわ。歳とか色々違うし…変なこと聞くけど…。真尋君は何が良くて槇村と付き合ってんの?」(さすが佐伯。直球すぎるわ…。しかも偏見無いところが余計に性質悪い)
(グラスを差し出せば何ともない様に普通に受け取り口を付ける彼を見て反応を窺っていると彼も美味しいと言ってくれた。「でしょ。」と少し威張って見せると佐伯さんから彼の何処が良かったのかと尋ねられた。「え!?…えっと…、」突然の問い掛けに少し戸惑い視線を落とす、こういう事を聞かれる事は予想出来たのに全然考えていなかった…。何処がって言われても…なんて答えよう。…今から数ヶ月前を思い出す、彼を初めて見たのは今の最寄駅。高校生になってから一人暮らしをしていた自分も今の最寄駅付近に住んでいて電車通学をしていた。同じ時間帯の電車に乗っていてバイトで帰りが遅くなる日はよく彼を見かけていて、何時も違う女の人を連れていて軽い男って印象で自分はあんな風になりたくないと軽蔑していた。それでもやっぱり見掛けるとつい見てしまって少しだけ気になる存在となっていったそんな時、何時もの時間帯に一人で居るのを見掛け珍しく思っていると仕事の資料なのか紙を真剣に見る表情が格好よく、紙を持つ指も細く綺麗でつい見入ってしまった。それからというもの、家に居ても学校に居ても彼の事が気になり初めて見掛けるとついじっと見詰めている自分が居てきっと"恋"なんだと思った。女の人と居る時はそれなりに嫌な気持ちにもなったし…。そう思ってからは彼をもっと知りたいという好奇心と女の人に取られたくないといった気持ちから彼が一人の時は必ず声を掛けて、家まで着いて行って、入り浸って、好きになったんだと繰り返した。諦める事なくしつこく迫っているとある日彼が自分を受け入れてくれて、今に至る。あの頃は具体的に何処が好きかなんて考えていなかったけど、付き合って色々知っていくうちに好きな所は沢山見つけた。全部伝える訳にはいかないし、ピックアップというか今思い付く事を伝える事にした。「…一所懸命仕事してる所とか些細な事に気付いてくれる優しい所、髭も髪型も格好いいし指も綺麗で、声も良くて…後…こんな僕を好きで居てくれる所…です…。」言葉にすればやっぱりスラスラと出てくるが、とりあえずここまでで止める。彼が居る所でこんな事を打ち明ける日が来るとは思わなかった…恥ずかしい…。言葉にしながら恥ずかしさが募り段々と俯き耳まで真っ赤に染める。)
(うわぁ…。なにそれ…。ちゃんと聞いたことは今までなかった、大体、自分のどこが好きだなんて聞く男なんて居ないだろ。そういや初めて彼と話をしたことを思いだした。身の丈も弁えずに、参考にもなりやしないウェーバーの写真集を落としてしまったが、見知らぬ若い男の子が拾ってくれた。ぶっきらぼうにこちらに手渡す癖に、自分が勤めている図書館には他にも画集があるから見に来れば良いと誘ってくれた。本好きなことは分かったが、彼の見た目のジャンルとしては自分とは全く相容れないように見えたのに、何度か彼の務める図書館へ足び会話を交わすうちに、段々と彼の人柄に魅せられてこのような関係になってしまったのだ。自分が彼に好意を寄せるようになってからのことは…。そればかりは2人だけの秘密なので、ここでは割愛しよう。あほの佐伯のせいで、色々な思い出が蘇ってきた。今まで考えてもいなかったが、もしかして出会う前の時のことを彼が知っていて、女連れのところを見られていただなんて考えると…。今すぐに死にたい…。自分がこんな思いをしているのだから、さぞかし彼もと横を見ると頬まで真っ赤に染めているではないか。たまらず口を挟み、さらに墓穴を掘る)でも、逢った時より今の方がずっと好きかも。つか…可愛いんだよな。全部。(言い終わった後、自分が何を言ったのか漸く理解して頗る動転する)グラス開いたけどどうする?メロンのお酒もあるけど(手持無沙汰な彼の前にメニュー表を広げる。自分の慌てふためく姿に込み上げる笑いを噛み殺す男の姿は、やはり見なかったことにした)
(色々話してしまった…一つに絞れば良かった…いや、一つなんて選べないけど。彼の居ない所では親友である優一郎に惚気まくってはいたが、実際に聞かれるとなるとやばい。日頃から何処が好きとか伝えまくる様な人なら普通に答えられるんだろうけど、生憎自分はそういうのが苦手な方で、付き合う前は必死過ぎて伝えまくってはいたけど付き合ってしまえば途端に言葉にして伝えるのが恥ずかしくなってしまった。まぁ本来の自分はこうなのだろう、あの頃は気が狂ってたというか…本当にただただ必死で思い出すだけでとんでもなく恥ずかしく餓鬼で軽率な行動だったと思う。自分の話を聞いた彼はどんな顔をしているだろうか…見たいけど赤い顔を上げられずに居ると、隣の彼から追い討ちを掛ける様な言葉が発された。俯いたまま更に顔に熱が篭もり体も熱くなってきて鼓動も早くなって…あ、頭も回らない…オーバーヒートしそうだ…。俯いたままくたり、と力なく彼へ体を預けては慌てる彼に「…じゃあそれ、メロンの、飲む…。」とぼそぼそと告げる。お酒飲んで程よく酔えば恥ずかしさも紛らわせるかもしれない。)
(未だかつて他人の前でお互いに相手のことをどう思うかなんて話したことが無かったので、彼の口からそんな言葉が出て来るなんて思っても見なかったし、自分もこんなことを言うつもりなんて毛頭なかった…。お互いに想い合っていればそれで良いと考えていたが、他人の前で彼に対する気持ちを告げることによって伝わることもあるのだということも良く分かった。まぁ、これは他人に対して面白いか面白くないかの判断基準しかない佐伯相手だからこそ許される行為なのだが。そうでなければ、おっさんの惚気発言なんて気持ち悪い以外何物でも無い。今日が最初で最後の機会だと思って開き直ることにした。隣には頬を染めて、自分の肩に顔を埋める彼が居る。可愛すぎて本当にやばい…。自分が勧めたメロン酎ハイを飲みたいと小さな声で囁かれる。そんなこと言われたら断る理由も無く、追加でメロン酎ハイとビール2つを頼む。そもそも勘違いされているかもしれないが、彼がアルコールを飲むことに対しては概ね反対ではない。自分も好きな訳だしそれを制限するつもりも基本的にはない。ただし、自分の前でならという前提の話なのだ。強くないわりに好きな方だから余計に性質が悪い。しかも甘え上戸…。それを知らないあいつが余計な一言を吐く)飲め飲め。帰りはどうせ槇村が送ってくれるんだから。
("可愛い"なんて言葉、学校ではからかわれる時しつこい程言われていて、もう照れるどころか否定し反抗するくらいの免疫がついている。そもそも男に対して可愛いはどうなんだと思っているくらいだ。しかし、彼に言われてしまえば何時もの威勢は何処へやらで心底照れてしまう。嬉し過ぎて今直ぐ抱き着きたいっ!!そんな衝動に駆られるも佐伯さんも居るし外出先だし、何だか力が抜けてしまっていて今は彼に凭れ掛かるのが精一杯。メロン味のお酒、楽しみだけど酔わないようにしなきゃ…そう思っていると佐伯さんが沢山飲んでもいいと言ってくれた。そっか、篤も居るし少しくらい酔っても大丈夫かな、記憶が無くなってしまわないように気を付ければ。そう思い直せば気分も何だか軽くなって頬の赤みも治まってきた。二人が自分に対してとても気を遣ってくれている事に感謝して「佐伯さんも、遠慮なく飲んで下さいね。篤も。」と二人に向けて柔らかい笑みを浮かべる。)
(佐伯に乗せられて言わされてしまったような感は拭えないが、彼と自分との関係はこれで分かって貰えただろう。本日の一番の目的を遂げたことで肩に入った力が抜けた。後は酒と料理を楽しむだけだ。料理が来る前にドリンクオーダーを追加する。日本酒にはまだ早いし、まだビールで良いだろう。いつもの流れを考えると佐伯もビールで良いはずだ。先に頼んだ料理と共にアルコールが運ばれて来た。それぞれ自分のジョッキを手に取ると、改めて乾杯の意を込めてグラスをぶつける。彼の紹介を終えたことで場の空気も随分と和やかになった。テーブルに乗った出汁巻卵を彼の小皿に乗せたところで)真尋君、知ってる?こいつってばさぁ、入社したての頃なんてアホみたいに青臭くて、施主から条件言われてんのに勝手に図面に手ぇ加えて「自分はこっちの方が良いと思う」なんて言い張って、すんごい怒られたりしてたんだよ。それからさ、そうそう…(やばい。恐れていたことのもう一つの懸念事項が発動された。こいつの暴露話だ。今まで築き上げてきた真面目に働く会社員像が、音を立てて崩れてしまう。仕事のことだけでは無くて過去のプライベートについて話されては絶対にまずい!上手く話題を変えようと、それとなく彼に話題を振る)真尋はこう見えて図書館でバイトしてるんだよ。どう?バイト面白い?
(目の前に綺麗に盛り付けられた料理が並ぶとその美しさについ見入る。…どうしてこんなに綺麗に作れるのだろう、プロって凄い…!自分の料理が料理とは思えなくなる程、比べ物にならないや!食べるのが勿体無いと思っていれば彼が自分の取り皿へ入れてくれ「じ、自分で出来るよ!」と子供扱いなのではと顔を向けて不機嫌そう告げる。すると、佐伯さんから自分の知らない彼の話が始まり、目を輝かせては興味津々とばかりに食い入る様に頷き、真剣に話を聞く。自分の意見通そうとしてたんだ…格好いい!でも、怒られたんだ…可愛い!流石に会社での彼がどんな風なのかは全然知らない、きっと真面目に卒なく振舞っているのだろうと勝手な想像はしていたが。もっと知りたい、自分の知らない彼の事と話の先を促す様に頷いていると突然彼からバイトの話を振られ少々驚く。「え?バイト?うん、楽しいけど…?」このタイミングで聞くような事かと不思議そうに答えつつ、それよりもっと聞きたいと佐伯さんに話を振ろうとする。「佐伯さん、続き!聞きたいです!」)
(なんで食いついてんの、この子!本当にやめて!!バイトの話、聞かせてよ!その冷めた目で見るの止めて!折角の自分の振りが全て無駄になった。今日ほど佐伯のことを恨んだことは無い…。そりゃ仕事は至って真面目にこなしている。なぜなら好きだからとしか言いようがないから。だが、会社とプライベートは別だろう!俺はお前とは違って仕事には全力なんだよ。時には恰好の悪いこともある。いるよね。こういう暴露好きな人。というかお前のことだよ。佐伯。もう、こうなっては収集が付かない。嬉々としてこいつは話始めるし、へぇ…なんて言いながら、いままで決して見せることの無かった自分の失態に耳を貸している。若い頃はともかく、今は自分がしがない図面屋だということは充分理解してるのだから良いじゃないか。大体昔からお前は要領良すぎなんだよ。返す言葉も無く、諦めの境地でビールを煽る。いつか絶対、お前にリベンジするからと固く誓いながら隣をみると、アルコールのせいか、気持ち潤んだ瞳で出汁巻卵を頬張る彼が目に入った。閑話休題。もぐもぐと頬張る姿が可愛くて訊ねる)どう?美味しい?
(相手の振った話題もそこそこに返し、また佐伯さんに話の続きを強請る。うわぁ〜篤可愛い、おじさんなのに可愛い!更に目を輝かせて心の中で繰り返しながら、彼の頼んでくれたメロン酎ハイを飲む。あ、美味しい…果物味のお酒ならいくらでも飲めそうだなぁ。でも、少しだけぼーっとしてきた…まぁ、大丈夫か、まだ正気で居られてるし。てか、出汁巻卵も見た目通り出汁の味が濃く卵も柔らかく美味しい。自分達が作ったのもそれなりに美味しかったが、やっぱり何処か違う…プロの味を堪能する様にゆっくり噛み締めていると美味しいかと尋ねられ、口の中の物を飲み込むと「うん、美味しい。篤も、食べる?」と何時もと違い緩い笑みで出汁巻卵を一口大に箸で切り、大根おろしもちょこんと乗せて箸で挟めば彼の口元へ片手を添えてあーん、近付ける。…あ〜何か気分が良くなってきた、酔ったのかな…とぼんやりと考えながら彼を見詰める。)
(散々な暴露話も終わり、会話も落ち着きを見せ出した頃、良い気分で酔いの回りだした彼が、切り分けた出汁巻卵を差し出してきた。普段なら絶対こんなこと家でもしてくれることは無いのに。しかもご丁寧に大根おろしまで乗せてくれている。このシチュエーションを見て佐伯は笑いをこらえているが、ここまで来てもう恥じることなど何も無い。彼の誘いを甘んじて受けることにした。差し出されるままに口に含むと、出汁が口に広がってプロの味を実感する。たまにはこうやって美味い店に一緒に行くのも良いかもしれない。それで、2人でゴハンを作って。つくづく地味な男になったものだと痛感する。だけど、こういうことに幸せを感じてしまうのだから仕方ない。酢の物に煮つけ、そして出汁巻卵。もちろん自分の好きな和食にばかり付き合わせる訳にはいかないから、洋食店にも連れて行こう。隣で酔いどれている彼を眺めながら目配せする)佐伯。おあいそ。(飲み会のお開きには早い時間だが、彼をこのまま野放しにする訳にはいかない。それは自分だけの特権なのだから。会計を済ませて駅に辿り着く。俺達にしたら明日も明後日も同じ面子だ)んじゃな。また明日。(こちらからそう告げると、佐伯が彼に寄って来て名刺を渡していた)『何かあったら連絡しておいで』(そんなことが書かれているなんて露知らず、駅で別れを告げた)
(自分の差し出した出汁巻卵をパクリと食べる彼の姿を見て「あは、篤可愛い。」と突然笑いだし、アルコールが回り始めたようで体中が火照った様な感覚で頭もぼんやりしてきた。またメロン酎を口にするとその冷たさが体の中に流れ心地良い。虚ろな瞳でもそもそと唐揚げを頬張り「美味しいね、今度は唐揚げ作ろう!山盛り!」とハイテンションでにこにこと彼を見る。すると"おあいそ"と聞え「えーもう帰るの?もうちょっと居ようよ。あ、そうだ!僕も、僕も出します。」と何時もより饒舌でゴソゴソと財布を取り出すも覚束無い手付きで、そんな自分にむすっとしては「篤、ここからお金出して…」と彼に財布を手渡す。外へ出れば夜風が心地良い、彼に手を引かれながら駅へと辿り着く。ほんの少しの酔いが覚めて正気を取り戻し「あの、今日は有難うございました。」と此処で別れる佐伯さんへと挨拶をすると名刺を手渡され「わぁ、僕、名刺初めて貰いました!有難うございます!」と丁寧に嬉しそうに受け取り、書かれている文字に優しい人だと思いカードケース等は持ち合わせていないので失礼ながらポケットにしまう。ひらひらと片手を振って別れると「佐伯さん、いい人だね。」と彼に微笑み掛け。)
(アルコールが入って、いつもより少しだけ饒舌になった彼はとても可愛らしくて。美味しそうに出てきた料理を頬張る姿を微笑ましく眺めていると小声で話し掛けられる。「面白いね。彼」「あぁ。可愛いでしょ。うちの真尋くん。お前には絶対やんねぇから」「ほら、また眉間に皺が寄ってる。ったく、どんだけ好きなんだよ…。あの子も苦労するよ。こんなのと一緒にいるなんて」「うっせぇ」ふと時計を見れば店に入ってからそこそこの時間が経っていた。会計を済ませようとレジに立つと彼が財布を出してきた。いつもそうだ。こちらが年上なのだから甘えていれば良いものを、自分も出そうとしてくれるその気持ちが嬉しい。しかも財布毎こちらに寄越してくるなんて。どこの大名様だよ。苦笑いで受け取るも、もちろん彼の財布には指一本触れない。「じゃぁ。また」3人での飲み会が終わり2人だけになり駅まで歩きだす。佐伯のことを「良い人」だなんて言われて思わず言葉に詰まる。自分にとっては「良い人」と言うよりも「食えない奴」なのだが。そんなことより、急にこんな飲み会に彼を呼びつけたことを申し訳なく思い)今日は急に付き合わせちゃって、本当にごめん。まだ時間が早いから、どっかで飲み直しても良いし。それとも家に帰ってからゆっくりする?(夜道を歩きながらそっと手を握った)
(何やらもそもそと話している二人を仲良しだな、なんて呑気な事を思いながら眺め、レジで彼に財布を預ければきっと自分のからもお金を出してくれたと勝手に思い込み一人満足気に会計が終わるのを待っていて。長かった様な短かった様な3人での食事が終わり、緊張していた行く前とは随時気持ちが変わって意外と楽しかったし来てよかったと思えた。手を握られると普段なら誰かに見られたらどうするんだなんて言う所だが、軽く酔っているのと夜だという事に作用されてかそんな言葉は口から出ず更に自分から腕を絡めては「…今日はね、帰る。帰って、篤と…いちゃいちゃしたい…。…駄目?」と上手く回らない舌で途切れ途切れ告げて見上げる。何時もなら絶対に言わない様な台詞を甘ったるい声で言って甘える様な仕草まで取る、こんな自分が居るなんて思いもしなかったが案外居たりするもんだ。今日の事、ちゃんと覚えてられるかな…なんて考えながら彼の返事を待つ。)
(預かった財布を返してこのあとの予定を尋ねると、ほろ酔いの彼は思った以上に積極的で、家で2人になりたいと答えられて思わず赤面してしまう。彼がどこかに行きたいと言えばもちろん連れて行くつもりだったが、本音は家で一緒に過ごしたかったので彼からの提案に喜んで乗ることにした。普段なら振りほどかれる手も握ったままにさせてくれることを嬉しく思って、さらに強く握り締める。アルコールが入ったせいか、普段より少し高い体温を感じながら)じゃぁ、家で飲み直しだな。今日は最後まで付き合ってよ。それにしても、居酒屋でメロンジュースを頼む子なんて初めて見た(握っていた手をほどき肩を抱き寄せて、堪えきれないといった風に思い出し笑みをこぼした。電車に乗ると、あっという間に自宅の最寄駅に着いてしまう。改札を出て駅前のコンビニに立ち寄りながら買い物籠を手に取ると)欲しいものあったらここに入れて。(前は仕事帰りに夕食を買うために一人でコンビニに日参することが常だったが今は違う。こんな些細なことが嬉しくて仕方が無い)
(自分の財布が彼から手渡されれば何故?といった風に受け取るが、瞬時に預けていた事を思い出し納得した様にズボンのポケットにしまい。ふと彼を見上げると珍しく顔を赤らめていて、自分の言動が原因だと分かりそれが何だか可愛らしく「何?おじさんの癖にあんなので照れちゃった感じ?」とニヤついた笑みでからかう様に告げ、握っている彼の手を力を入れたり抜いたりして弄ぶ。自分が原因で照れる彼が嬉しくて上機嫌になっていた所に忘れていた事を掘り返され、笑われると気分は一転して不機嫌になり、失態の恥ずかしさから顔を赤らめる。「あれは!僕はビールの飲めないから、何頼めばいいか分からなくて仕方なかったんだよ!」と肩を引き寄せられ縮まった距離を離す様に押し返し反論する。そうこうしながらも電車に乗り家の最寄駅まで大人しく乗り継いで、コンビニに立ち寄ると欲しい物を買っていいと言われ店内をうろつく。特に欲しいなんて物はないがふとアイス売り場の冷凍庫の中に、シュークリームのクリームの変わりバニラアイスの入った斬新なアイスを見つけ、二つ手に取れば彼の元へ行って「篤、見てコレ!」と凄い物を見付けたかの様な煌めいた視線で手元のアイスを見せ付ける。)
(いつもの銘柄のビールを見つけ、数缶籠に放り込む。あとはミネラルウォーターを1本。それとつまみになる様なものをと考えてポテトチップスの並ぶ棚を眺めた。それにしても最近は色んな味が出ているもんだと感心してしまう。定番の薄塩味、コンソメ、他には夏限定や他メーカーとのコラボ商品などが山のように並ぶ。考えれば考えるほど迷ってしまうので、ここは彼に決めて貰おうと店内を探すと、冷凍コーナーからひょいと顔を出すと、その手にはシューアイスが握られている。こちらに向ってそれはそれは嬉しそうな顔でシューアイスを差し出した。アイスなんて滅多に自分で買うことは無いが、彼が欲しいと言うならもちろん断る理由は無い。彼のあまりにも眩しい笑顔に釣られてこちらもつい笑顔になる)良いよ。籠に入れて。それにしてもシュークリーム好きだな。って、これはシュークリームじゃ無いか…。そうそう、ポテチ買おうと思うんだけど一杯あり過ぎて決められないんだよね。悪いけど、真尋、選んでくれる?(彼の手を引いて、再びポテトチップスの並ぶ棚に向った)
(彼の持つ買い物籠にシューアイスというらしいアイスを入れた。すると、手を引かれ何かと思えばポテトチップスの味を選ぶよう頼まれ、そんなの好きな味とか無難な薄潮味を選べばいいじゃんと思ったが、棚を見れば悩んでしまうのも分かる程様々な味が並べられていた。あんまりポテトチップスを食べないから、こんなに種類があるなんて知らなかった。「…こんなの食べたら太るんじゃない?」と無愛想気味に言いながらも、選んでやる事にし気になるのを手に取り良く見てはまた棚に戻す。ふと脇に並べてあった"紀州梅味"を見つけ手に取ると「これなんかどう?梅酒があるくらいだし、お酒に合うんじゃないの?」と彼に見せる様に少し持ち上げる。)
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