僕 2015-05-14 13:16:14 |
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(タイミングの悪さを誤魔化すように彼の手を取ると彼からも握り返してくれて、その後には自分に負けず劣らずの愛の告白が続く。自分から離れるなと言った後は真っ赤な顔で視線を逸らされてしまったのだが、彼も同じように思っていてくれていることが分かり、ただただ嬉しくて「うん。ありがとう。」そう言うのが精いっぱいで、もう一度彼の手を握り返した。この先も彼が今の気持ちと同じく自分を思ってくれている保証なんてどこにも無い。彼よりも数年先に生きている自分の方が、それは良く分かっているつもりだ。だけど、今この瞬間自分との未来を見据えてくれていることが分かっただけでも十分だ。その未来がどこまで先なのかは些か不安なのだが…。まさか老後なんて言われてしまえば、流石に自分もそこまでは未知の世界。時々突っ走ってしまう彼の思考を不安に思いながら、そこは流すことにした。時間を見れば昼はとうに過ぎている。本当なら一緒に昼メシでもと思っていたのだが、そこまでの時間は無い。ベンチから立ち上がり)昼メシでも一緒にと思ったんだけど、時間あんまり無くて。駅まで送るよ(ベンチに座る彼に手を差出し立たせる。一緒に駅まで歩きながら、先程彼が佐伯の言葉を気にしていたことを思い出した)遊ぶって…。なに?佐伯のこと気になるの?
(頑張って放った言葉に対して"ありがとう"そう返ってくると嬉しくて嬉しくて抱きつきたくなるが、此処は公園で誰に見られるか分からないと我慢する。今は彼の手を握っているだけで十分だ、自分のこの思いが伝わる様にと彼の手を力を込めて握る。これから先もずっとずっと一緒に居る!口には出さないが心の中でこういう時だけ都合良く神様の存在を信じて誓う。老後の介護もどんと来いだ!立派に果たしてみせる!彼の世話が出来るなんて本望だ!実際の介護がどれほど大変か知りもせずやる気だけは満々で、その為には柔らかくて美味しい料理も作れる様にならなきゃ!なんて呑気な事を考えていると彼がベンチから立ち上がる。見上げると手を差し伸べられ立たせてもらいながらあまり時間がないと言われ時間を確認すれば自分ももうすぐ学校へ行かなくてはいけない時間で、気を利かせて送ると言ってくれる彼に「一人でも帰れるのに。」と言いつつもお言葉に甘える事にした。並んで歩きながらさっき初対面を果たした佐伯さんが気になるのかと尋ねられ左右に首を振り「別に気にはならないけど、遊ぼうって誘われちゃったし…嫌って訳じゃないけど断ったりするのは失礼かなって。」と思っていた事を素直に話す。)
(本当は駅まで手を繋いで送ってあげたい気持ちで一杯だったのだが、流石にわずかに残っていた理性がそれを留めていた。何でもないように2人して駅まで、ボチボチと会話を交わしながら歩みを進める。それにしても、さっきの彼の意気込みは一体なんだったのだろうか。聞いてみたい気もするが、突っ込んだところで墓穴を掘るのも恐ろしく、考えた末にそのままにしておくことにした。本で読んだとか言って、不随になった自分を甲斐甲斐しく世話をするなんて言われた日には立ち直れないこと必須だ。気を取り直して佐伯の話に戻す。正直、これから毎日あいつに真尋のことを聞かれるのは精神衛生上非常に良くない。なおかつ、真尋のことを説明するには一度3人で飲みの場を設けるというのはどうだろうかと考えた。佐伯は問題無いとしてあとは彼氏次第だ。嫌と言うなら勿論却下だし、それでも良いというなら今日にでも一席設けたい)真尋、今日はバイト無かったよな。もし嫌じゃなかったら、佐伯も誘って夕メシでもどう…かな?
(駅へ向かって歩いているうちにこのまま彼を家に連れて帰ってしまいたい、なんて思ってしまうが流石にそんな事はしない。今朝は会えなかった為もし彼が忘れ物をしなかったら学校から帰って彼が帰って来るまで会うことが出来なかったと考えると彼には悪いが忘れ物をしてくれて良かったと思ってしまう。そんな事を考えていると佐伯さんも誘って三人でご飯に行かないかと誘われた。自分はてっきり佐伯さんと二人で遊ばなくてはいけないのかと心配していたのでほっとする。彼も一緒だし、彼が同僚と居る所を見てみたいと思い「いいよ、今日は5時に学校終わるけど篤達は?」集合はどうしようかと尋ねる。自分の知らない彼が見られるかもしれない、それにこれで佐伯さんに遊ぼうと言われていた事は無しになりそうだし一石二鳥だ。後、念の為に佐伯さんに篤は僕のだってちょこちょこアピールして取らないでよって見せつけとかなきゃ。と彼とは全く違った事を考えていて。)
(無計画な思い付きの提案だったが、彼も夜は時間が空いているらしくスムーズに約束を取り付けることが出来た。幸い自分の予定も今日は午後からのプレゼンだけなので遅くなりそうな要因は無い。あいつは…おそらく大丈夫だろう。万が一予定が入っていたとしても、あいつにとってこんなに興味を引く誘いは無いはずだから、喜んで乗ってくると踏んだ。いつも外に出るときは彼と2人だから、たまにはこういう機会があっても良いだろう。ふと時間を見ると、そろそろ社に戻る時間が近づいていた)立ち話のつもりが随分長くなってしまったな。こっちは6時には終わると思うから、少し待たせちゃうけど7時集合でも良いかな。場所は…。そうだなぁ。ここら辺はオフィス街であんまり店も無いから、隣の駅にしようか。それなら真尋の学校から少し近くなるし。(初夏の風が公園内の木立を吹き抜け、彼の柔らかい髪がさらさらと揺れる。キレイだなんて思えば、たまらず指を伸ばして抱き寄せる。誰も居ないことを良いことに頬に口づけて照れ臭そうに笑う)あとですぐ会えるって分かってるのにな。そうだ。今日何食べたい?おっさん2人もいるんだから、遠慮せずに食べたいもの考えといて。(そう呟いた後、彼を解放して駅までの道を歩き出した)
(7時か…学校終わった後は多分友人と少し話したりしてから帰る事になるだろうし、時間があれば本屋さんにでも寄ってから来ればいいし余裕のある時間で丁度いい。場所も彼が指定してくれれば異論はなく頷く。「分かった、じゃあ7時に隣の駅ね。着いたらまた連絡するよ。」今度は入れ違いにならない様にしないとな。そう言えば、佐伯さんの予定はどうなんだろう…もし来れなくて二人でも、それはそれで全然構わないけど。さらりと心地良い程の風が吹き抜ければ靡いた髪が顔に掛かり、少し邪魔そうに退けると不意に抱き寄せられドキッとする。内心戸惑い突然どうしたんだと彼を見上げると頬に柔らかい感触を感じ横目に見ると彼に口付けられていた。頬が熱くなるのを感じる。彼が自分と離れる事を名残惜しく思ってくれている事を知ると嬉しいけれど気恥しくもあり「たった数時間後でしょ。」なんて言うも自分も気持ちは同じで、照れ臭そうに笑う彼が愛しくて可愛くて見惚れてしまう。食べたい物を考えておくよう言われ歩き出した彼の隣を歩きながら「あ、僕居酒屋行ってみたい。篤達は行くんでしょ?僕まだ行ったことないんだよね。」と大人のお店だというイメージで友達となんて行ったりしないからこれを期に行ってみたいと訴える。)
(これから仕事に向わなければいけないと言うのに、この甘い空気は実に毒だ。勤労意欲をガッツリと削がれてしまう。気分を切り替えて歩みを進めていると、残念ながらあっという間に駅ついてしまった。たった数時間後に彼に逢えることが分かっているにも関わらず、もうお別れかと思うと寂しくも思う。どんなところに行きたいか尋ねると、てっきりイタリアンやフレンチなんて言われるかと思ったら、意外にも居酒屋なんて言われてしまい肩透かしにあった。そういえば、彼はあまり飲みに行ったりしないと言っていたので、そう言ったところには行く機会があまり無いのかもしれない。であれば、あまり気取ったところよりも、料理が美味い店のほうが良いかもしれないな)分かった。良い店探しとくから。とりあえず会社出るときに連絡する(再度今日のことについて感謝の言葉を告げた後、彼の姿が見えなくなるまで改札で彼を見送った。社に戻ると、にやにやとこちらを見つめる視線を感じ、視線の元凶に無言で歩み寄って一言告げる)今日、夜明けといて。(そう言って相手の反応も待たずに立ち去ろうとすると、間髪入れずに思った通りの返事が返ってきた)了解。お前こそ、残業なんてダサいことすんなよ。
(今から学校かぁ…普段は行きたくないなんてあまり思わないのに今日は凄く行きたくない。別にサボったってどうって事ないのだが、自分はサボれても彼はサボったりなんて出来ない。彼も今から仕事を頑張るのだから自分も頑張ろう。まだ少し歩いただけの様な気分なのにもう駅に着いてしまった、さっきは直ぐ会えるなんて言ったのにやっぱり名残惜しい。居酒屋がいいと提案したのだが自分はお酒が得意ではない、そういう人はあんまり行かないのかな…なんて考えていると彼が美味しいお店を探しておいてくれると言ってくれた。楽しみだ、初めての居酒屋…ちょっと大人になった気分だ。「有難う、じゃあまた後でね。」軽く手を振ると寂しい気持ちを抑え込み何ともないフリをして別れる。その後は、電車で家の駅まで帰って途中で昼食にとコンビニのおにぎり二つとシュークリームを購入して帰宅した。昼食を済ませば学校へ向かい、何時ものメンバーと講義を受ける。)
(社に戻ってからは、彼から受け取った資料のおかげでスムーズにことは運んだ。先方へ向かい、弱小ながら我が社のコンセプトである「ロウコスト・メニータイプス」について計画通りにプレゼンテーションを行うことが出来た。安かろう悪かろう。こと住宅建物に関してはまさにこれが当てはまるのではないだろうか。良い資材を使ってそれなりの敷地を取れば、誰しもが満足する居住空間が出来上がるのは当たり前の話だが、ほとんどの一般ユーザーがそうでは無い。そんな中で、強いられる訳では無く自ら選んだという充足感をユーザーに与えることが出来るという選択肢を用意することがうちの売りだった。もちろんメーカー各社には随分と頭を下げて、ここまで辿り着いたのだが。柄にも無く熱弁した後、ふと我に返ると先方から拍手が上がった。上気した顔で隣を見ると、ここまで一緒にプロジェクトを進めてきたユキちゃんから「グッジョブ」というように親指が上がった。全てとまでは行かないまでも、うちが潜り込めるスペースは確保できたようだ。安堵して席に着く。しばらく先方の上役と話したのち、会社に戻ってきた。時間は18:30。今日は残業は無しということで、本日の同伴者である佐伯を迎えに行くことにした)
(5時に講義が終わり何時もの様に雑談して帰るのだと思っていたが、翔太と拓未はバイトがあり優一郎もまた用事があるとかで急いで帰ってしまった。何時もは自分が先に別れる事が多いのだが今日に限っては反対で、何か少し寂しい。7時まで時間はあるし本屋さんで時間を潰そうと教室を出るとばったりと香菜に遭遇した。彼女はこれから帰る所らしく自分は空き時間があるのだと告げれば暇潰しに付き合ってくれると言ってくれ、大学を出れは帰る方向は違うので校門まで一緒に行って少し話す事にした。学校の事、友人の事などたわいもない会話をし、今日は夜に居酒屋に行くのだと自慢気に言えば少し笑われ行った事あるのかと問えば何回かあると答えられショックを受ける。普通に家族で行ったりもするらしい、自慢気に言った自分が恥ずかしくなる。詳しく尋ねるとやはり大人の人が多く皆お酒を飲んでいるらしい…そんな所に行くのなら大人っぽい格好の方がいいのではと思い「ね、髪とかこうやって行ったら変かな?服もこれで大丈夫?大人っぽく見える?」と前髪をかき揚げ格好を気にすれば彼女とでも行くのかと聞かれ「好きな人と!あと、その友達と行く。」と答えるとまた笑われ少々不機嫌になれば、そのままで大丈夫だと言われるも何だか腑に落ちなく一旦着替える事にした。校門で彼女と別れ時計を見れば5時45分で急いで帰れば、そそくさと大人っぽいと思う服装に着替える。黒い細身のズボンに首元の開いた白いTシャツにグレーのジャケットを羽織り、髪も彼のワックスを使って後ろに流す様な感じに整えれば満足気に鏡を見て、また急いで家を出る。待ち合わせ場所の駅に着き時計を見れば18時50分。何とか間に合ったみたいだ、後は彼とその友人が来るのを待つだけ。)
(時計を見ればちょうど18:30。今日出来ることは明日に回す。素晴らしい格言のもとに、今日同伴をお願いしている同僚のもとに歩み寄った。予想通り用意は万全らしい)じゃま、行きますか。(外から見られれば水と油な性格な為、こうやって2人して退社することはやけに目を引くらしい。今日一緒にプレゼンに立ち会ったユキちゃんからも「何かあったんですか」なんて改まって聞かれたものだから困惑してしまった。外野の意見はともかく、今日の主賓は自分の大切な彼だ。居酒屋が良いなんてリクエストを貰っていたが、果たして普段行くような店に連れて言って良いものか…。考えた末に正直に事の次第を伝えると、しばらくの沈黙の後に佐伯はどこかへ電話をし出した。耳を澄ましていると、どうやら予約を取ってくれたらしい。携帯を切ると)居酒屋だろ。たまたま個室が空いてるみたいだったから、予約しといた。メシも美味いし多分連れの子も満足してくれると思うけど。(さらっと店の予約を取ってしまい、こちらの事情も組んでくれる。これでモテない訳が無い。ありがとう佐伯。素晴らしい手際に呆気にとられるが、時間を見て慌ててメールを打つ)『TO:逢崎 真尋 SUB:RE:RE 仕事終わり。今から駅に向かうよ』
(駅の近辺はいろんな人が行き来するため、何だか少し視線を感じるがそんなはいちいち気にしてほいられない。今日は髪型も服装も完璧に決まってる、後出来るだけはスマートに振舞って大人っぽさをアピールすれば、愛しの彼もきっと格好いいと惚れ直すに違いない。早く来ないかなぁと待ち遠しく思っていると携帯が鳴った、そうだ駅に着いたら連絡するって言ったのにすっかり忘れてた。きっと彼だろうとメールを開けば思った通り彼からで今から向かうという内容で、返信画面を開けば『宛先:槇村 篤 本文:駅着いた。待ってる。』と打ち送信する。するとまたメールを受信し彼にしては返事が早過ぎると驚き送り主を見ると香菜だった。内容は『居酒屋楽しんで来てね!』の一言でふっと笑うとまた後で返信使用と携帯をしまい、辺りを少し気にして彼らの姿を軽く探す。)
(駅に到着し、愛しい彼の姿を見つける。さっき逢った時とは違う服装に違う髪型。どうやら一度帰ってから着替えて来たらしい。そんなに気を遣わなくても良いのにと思ったが、この時のために時間を割いてくれたのだと思うと可愛く思えて仕方ない。普段降ろしっぱなしの髪はワックスで撫で上げられ、襟元の開いたシャツは普段よりも少しだけ大人っぽく見える。片手を上げて手を振るとどうやら向こうもこちらに気付いたらしい。彼の待つところに寄ると、佐伯が挨拶を始めた。さすが出来るサラリーマン。溢れる好奇心を抑えて、まずは相手に不快感を与えないように、さらっと自分のアピールをしている)どうも。さっきはごめんね。改めてご挨拶。佐伯って言います。一応槇村の同僚なんで、そんなに警戒しなくて大丈夫だから。じゃぁ、店に移動しようか(出会いがしらのことを反省しているのだろうか。さっきとは打って変った態度で彼を懐柔する。普段の胡散臭さはどこに行ったのやら。訝しげに見つめるも、意に返さないように自分の出る幕も無く彼をエスコートする。着いた店は自分達が時々利用する小料理屋で、居酒屋と呼ぶには少しグレードの高い店だった。店内も静かで、多様な料理を食べることも出来る。何より味は確かだ。ここを選んでくれたことに感謝しながら、テーブル席に彼を案内する。メニューを広げ)最初に何飲む?あと、料理は?ここは何でも美味いから安心して頼んで良いよ。
(辺りを見渡していると此方に向けて手を振っている彼を見つけ手を振り返すと、彼の傍らに佐伯さんも見付けた。二人が近付いて来てくれるのを待ち、合流するなり佐伯さんの自己紹介が始まる。警戒…は少ししていたかも。自分も自己紹介した方がいいのかと思うも直ぐ様店へ案内されタイミングが掴めず諦める。エスコートされながらチラリと彼の様子を窺うも大人しく着いて来るだけ、今日はこんなに見た目にこだわったのに何にも言ってこない…もしかして気が付いてない?いや、明らかに何時もと違う髪型なのにそんな筈はない。内心モヤモヤと少々不機嫌になるも此処はぐっと我慢し店へと着けば、此処が居酒屋…と感心した様に外観を眺める。店内へ入れば想像していた賑わいはなく静かで落ち着いた雰囲気に大人のお店感を凄く感じる。テーブル席に腰掛け彼の持つメニューに目を通せば「僕、メロンジュース。…あ、唐揚げ食べたい。」とお酒は控える事にし、無難かつ今食べたいと思った唐揚げがいいと告げる。)
(先に佐伯が暖簾をくぐると予めテーブル席が確保されており、女将さんに案内された。普段は気まぐれに訪れては適当に開いている席に座るため、こう改まって案内されると妙に照れ臭い。時間は19:00ということもあって、いつもは混雑している店内も客の数はまばらだった。珍しく不機嫌そうな顔をしている彼に気が付いて、奴の見ていない隙にテーブルの下でそっと手を握り、彼へ視線を向けずに小さな声で囁く。精一杯背伸びをしたのだろう。普段は大人な癖に子供染みた仕草を見せる彼が可愛くて堪らない)なに拗ねてんの?気付いて無い訳無いでしょ。今日は随分雰囲気違うね。(おっさん2人は最初に頼む物など決まっているため、メニューを見る必要など全く無い。彼が見やすいようにメニューを広げ、どれにするかと尋ねるとメロンジュースと唐揚げと返ってきた。うんうん。メロンジュースと唐揚げね…って…)「「メロンジュース?!」」(そんなものこの店のメニューにあったのか?!佐伯と2人してメニュー表に食いつくと、確かに記載がある。しかも期間限定という表記のもとに。なんだってメロンジュース??夏だからか??思いがけずメロンジュースに注意を削がれたが、今日の目的はこんなことではない。注文を取りに来たバイト君にオーダーを告げて)生2つと…メ、メロンジュース。唐揚げ1つと。とりあえずそれで。(注文を済ませると急に手持無沙汰になってしまうが、ここで話を終わらせる訳にはいかない。不安そうに見つめる彼と、興味深げにこちらを見つめる佐伯に挟まれて、居心地の悪さに自分から口火を切る。自分達の関係を話すための意思表示として彼に一瞥を送ったあと)あ~…。分かってるかと思うけど。この子…。真尋くんと、一緒に住んでる。こ、恋人として…。
(女将さん、綺麗な人だ…品があって愛想も良くて…何だかこの場に自分が似つかわしくないような気がしてくる。また"大人"と自分の差を実感させられる。彼には嗚呼言う人の方が似合うんじゃ…とまで考えてしまう、元々ノーマルな彼を無理矢理男同士の世界に引き込んだ訳だし何時普通に戻ったって可笑しくない。それに隣に座ってもまだ何も言って来ない、本当に気付いてないのか?これだからおじさんは…と心の中で悪態付いていると不意に手を握られドキッとするも、これくらいで翻弄されたりしないんだから!と変に意地を張っていれば自分にだけ聞こえる声量で気付いていたと言ってきた。鼓動が速くなり顔も赤くなる、幸いオレンジっぽい照明のおかげで顔の赤みは誤魔化せた。「遅いよ、バカ。」と照れ隠しの言葉を告げる。すると自分が注文した"メロンジュース"に対して驚きの声を二人が発する。それに自分も驚き無言のまま内心慌てふためく。頼んじゃいけない物だったのか!?お酒は止めておこうと適当に言ったのが悪かったのか!?どうしよう、居酒屋のルールが分からない…世間知らずだと思われたかな、篤に恥をかかせていたらどうしよう…頭から血の気が引いていく。やっぱり来なければ良かった、それかもっと香菜に聞いておくべきだった。思わず俯く、こんなはずじゃなかったのに…もっとスマートに振舞う予定だったのに…失敗だ。彼が注文をしてくれ、少し気まずい雰囲気になるとチラリと不安げに彼を見る。一瞬目が合った後、彼から話を始めてくれた。「あ、逢崎真尋です…宜しくお願いします…。」先ほどの戸惑いの所為で少しぎこちなくなったが礼儀として佐伯さんの目をしっかり見てお辞儀をする。…やっぱり、隠しておいた方が良かったんじゃないか…男同士で歳の差、しかも世間知らずのガキ…いくら仲良しの同僚でも簡単には受け入れられないだろうし、彼の将来を思えば止めておいた方がいいのは一目瞭然。否定されたらどうしよう、どんどん悪い方へ考えていってしまう思考が止められない。佐伯さんはどんな返事をするだろう…待ってる間がとても長く感じる。)
佐伯:(ドリンクオーダーを済ませると、槇村が急に改まって目の前の青年と自分との関係を告げてきた。まぁ、自分の予想通りに恋人として付き合っているらしい。逢崎真尋。見た目通り、きれいな名前だと思う。だが、先程のメロンジュースの件から彼の印象は大きく変わってしまった。さっき会社で会った時は随分しっかりしているように見えたのに、中身はまだまだ子供なところがあるようだ。さらに追い打ちを掛けるように真面目くさった顔で自己紹介をしてきたでは無いか。堪えきれずに思わず吹き出してしまう)ぷっ!!!面白いね、君。そんなに緊張しないで良いよ。真尋君て、俺も呼んで良い?(なるべく緊張をほぐしてあげたくて、優しく話しかけた。そりゃそうだろ。年上の知らない男と一緒に食事の席についているのだ。しかも自分の恋人の同僚となれば緊張しない訳が無い。軽い自己紹介が終わると頼んだドリンクがテーブルにやって来た)ほら、真尋君が待ちに待ったメロンジュースが来たよ。グラス持って。はい、お疲れ様!(彼のグラスに自分のジョッキを軽くぶつけて歓迎の意を伝えた。目の前にはこちらを睨む怖い顔の男が、今は見なかったことにしよう)
(ついに言ってしまった…もう従兄弟やら知り合いなんて言って誤魔化す事は出来ない。後ろめたいなんて事は断じて無いが、やっぱり彼を思うと打ち明けてしまって良かったのかと複雑な心境になる。佐伯さんの顔色を窺う様に見ると吹き出されビクつく…笑われたっ…!!!ショックを受け開いた口が塞がらないでいると、自分の事を否定する事もなく寧ろ緊張しなくていいと優しく声を掛け気を遣ってくれる大人な対応に不安も和らぎ目を輝かせる。名前で呼んでいいかと尋ねられると「はい!勿論です。僕も佐伯さんって呼ばせて貰います。」とほっとしたことで自然と笑みを向ける。受け入れられたかどうかは分からないが否定されなかった…とりあえず一安心だ。それに素敵な大人の知り合いが増え、手本に出来る様な存在を見付けられた。これからは佐伯さんを見習って大人な対応とエスコートの仕方を学ぼう、それで何時かは篤を格好よくエスコートするんだ!すると飲み物が運ばれて来て一つだけグリーンの飲み物に先程の事を思い出すが、佐伯さんは気にしていないようで自分も気にするのはやめた。「べ、別に待ちに待ってないです…!」促されるままグラスを持ち軽くぶつけられると、篤以外の人と始めての乾杯だ…と感激し嬉しくなり彼を見ると眉間に皺を寄せていて心配になっては「篤?」と声を掛ける。)
佐伯:(やっぱり面白い。正直槇村が誰とどう付き合おうと知ったこっちゃ無いし、もっと言えば、相手が女だろうが男だろうがどっちでも構わない。今日誘いに乗ったのは、ああ見えて仕事一筋のあいつが恋人の前でどんな態度なのかが見たくて来ただけだったのだが、その相手というのが思いの外可愛くてついつい興味を引かれてしまった。もちろん男には興味は無いが、初めて会ったばかりの赤の他人の自分に対してこんなに無防備な笑顔を見せるなんて、あいつと2人の時はもっと色んな顔を見せるのだろうということは想像に易かった。そして、本日の目的であった槇村の表情と言えば、こちらが真尋君に対してフレンドリーに接すれば接するほど、どんどん眉間に皺が寄ってくる。普段は取引先からどんな難題を押し付けられても、飄々とした表情で躱す癖に。彼に対しては思考回路が全く別なのだろう。全く分かりやすいったら無い。そんなことには全く気付かない振りをして、尚もあいつの恋人に話を振る)さっき唐揚げは頼んだけど、他に食べたいものは無い?ここの店、刺身も美味いんだよ。真尋君は食べられないものは?
(隣で不機嫌そうな彼が気になり声を掛けたが、次の瞬間佐伯さんから話を振られてしまった。無視する訳にもいかないし、今自分が目指したいと思った存在からの声掛けに答えざるを得ない。「食べれない物は無いです。でもそれより、二人が食べたい物頼んで下さい。ね、篤。」先程とは違い少しだけ愛想笑いの様になってしまいながらも、もう一度チャレンジして彼に声を掛ける。もう下手に変な物を頼まない様に気を付けないと。ていうか…何だか、あんまり篤と話せないな…佐伯さんも僕が緊張してると思って気を遣ってくれてるんだろうけど、やっぱり篤と話せないと少しつまらなく寂しいと思ってしまう。何でか不機嫌そうだし、何考えてるんだろう…楽しくないとか早く帰りたいとかだろうか。この場で聞く訳にはいかないし、佐伯さんより彼が気になって仕方が無い。彼が楽しくないと自分も楽しくない。さっき彼がしてくれた様に佐伯さんにバレない様に彼の手を握ると、バレない様に誤魔化そうと「二人は良く此処に来るんですか?」といきなり自分から話題を振る。あからさまに怪しかったかな、まぁいい少しでも彼が話題にのってくれればそれで。期待を込めて二人の返事を待つ。)
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