荒本 鋭理・霧乃 巽・ノアール狐 2015-05-08 22:29:08 ID:59ef8691c |
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プロローグ
"魂を得よ。
さすれば、貴殿の求めるモノが手に入る"
……思えば、浮かれ過ぎていたのかもしれない……
いや、実際に浮かれていた……
"魂を得る?
それは一体……"
無駄だと、無意味だと分かっていたばずだったのに……
"魂を喰らえ。
ただそれだけだ。"
望むモノが手に入る。
そんなことが、何事も無く叶うものか…
そう、疑うべきだった……
"それで、得られるのですか…?"
"うむ。そなたが望む『力』を得られるであろう"
……自分の愚直さに心底失望する…
"さぁ、行くが良い。その先にあるモノが貴殿にとって良いモノである事を祈って、な。ふふふ………"
"…………"
何故だろうか………
何故、こんな目に………
"ふっ。………さようなら、だ。"
"………!?"
…闇に、落ちた。
"う、うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?"
"良い悪夢を。フハハハハハハハハ!"
許さない…
赦さない…!
ゆるさないッ…!!
絶対に……
「………滅ぼして、やるッ……!!!」
一幕【怨み】
薄暗い広間の真ん中を、くすんだ赤い髪をした一人の青年が進む。その先の祭壇は、広間で唯一日の光が差し込んでおり、暖かな光が満ちている。
青年は、祭壇を見上げる。そこには、浮世離れした美しい少女が椅子に鎮座していた。彼女は、アメジストのような輝きを持った長い髪をしており、サファイアのような綺麗な目をしている。そんな彼女が、青年のことを面白そうに見下ろしていた。
「…………へぇ」
「…………」
「なかなか面白いね。一体、これは何の真似かな?」
「…………」
少女は青年に問い掛ける。
青年は、微動だにせず、ずっと少女を見つめたままだ。
喋る様子を見せない青年をよそに、少女は続ける。
「…………言っておくけれどね、ボクは『本物』だよ」
「……そうか」
青年は、そのまま足を踏み出した。
すると、少女の隣から、メイド服を着た女が現れる。見た目からするに、年齢は20歳前後だろう。だが、その耳は異様に長く、人間ではないことが分かる。
「…………ハーフエルフ、か。」
「貴様!一体何者だ!!答えろ!!」
メイド服の女は、青年に対して、敵意を丸出しにして警戒する。しかし、それを少女が片手で制した。メイド服の女は、そのまま一歩後ろに下がった。
だが、まだ青年を睨み付けて警戒している。
「まぁまぁ、ヒルダ。客人に失礼だよ。少し殺気を押さえて」
「……申し訳ありません」
ヒルダと呼ばれたメイド服の女は殺意こそ消したものの、敵意だけは完全には消せていなかった。
「………」
「………」
「………」
沈黙。
そして、それを破ったのは、青年だった。
「貴殿が、先代魔王の娘、『エルミア・フィルール・アルザーノ』か」
「そういうキミは、我が父を殺した、勇者さまかい?」
エルミアの言葉に、青年は顔をしかめた。
「……なぜ、そう思う?」
「いや、なに。見覚えがあるのさ。そのくすんだ赤い髪に。」
「……そう、か。俺の名前は、ディラ・ヴァルアーサ。まぁ、貴殿ならしっているだろう。」
「まぁ、ね。………で?その勇者様が一体何の用だい?まさか、ボクの首を討ち取ろうって?そんなことしたって無駄だよ?」
「分かってる。今回ここに来たのは、頼みがあってだ。」
今度はエルミアが顔をしかめた。
当然だろう。よもや、自らの父を殺した相手が目の前にいて、しかも頼みごとなどしてくるのだから。
だが、次の瞬間、その場が凍り付いた。
「俺を、魔王軍に入れてもらえないだろうか」
「………………は?何を言い出すんだい?君は?」
「聞こえなかったか?俺を魔王軍に入れてくれと言っているんだ。戦場に出られるなら、雑用でも捕虜でも何でもいい。」
「……………………正気かい?勇者が魔王軍に入る?ふん。鬼が笑うよ。寧ろ大爆笑モノだ。」
「だが貴殿は大爆笑どころか、呆れたような顔をしているぞ」
言い終わると、両者は互いに笑みを浮かべる。しかし、ただ一人、ヒルダだけはその様子を動揺を隠せない様子でオロオロしている。その様子を見て、エルミアは言った。
「心配は要らないよ。彼はどうやら人間界(あっち)で何かを知ったんだろうさ。ねぇ?ディラ・ヴァルアーサ君?」
「…まぁ、な。」
「し、しかし……」
尚もオロオロしているヒルダに、エルミアは「おや?一目惚れかい?」と、からかうように言うと、ヒルダは顔を真っ赤にして「わ、わわわ私は決してそんなことはッ…!?」などと言う。そして再び、赤い顔のまま鋭い視線をディラに向ける。
しかしディラは、戯れはここまでだ、とばかりに真剣な目をエルミアに向ける。
「で、どうなんだ?俺を魔王軍に…」
「いいだろう。」
即答。
「……そうか。なら、これから宜しく頼むよ。」
「ふむ。こちらこそ、期待しているよ。」
「それは、今後の働きに関してか?それとも、今後の関係に関してか?」
その問いに、エルミアは笑みを浮かべるだけ。
そして、話は終わりだとばかりにおもむろに立ち上がり、別の通路に通じるドアへと歩いていく。ヒルダは慌ててエルミアについていくが、「ヒルダ、彼のお世話役を頼むよ」と言われ、その場でカチリと固まってしまった。
そして、エルミアは去り際にこう言った。
「ボクは、今後の君の行動全てに期待しているよ。ボクを楽しませてくれることを祈るよ。」
そう言って、ドアを閉めた。
* * *
コツコツ、カツカツと、2つの足音が響く。
あの後、ディラはしかめっ面のヒルダに連れられて、城の中を案内されることになった。
今は、城の一階の廊下を歩いている。
「本当にデカイな、この城。人限界の普通の城の三倍はあるな。」
「当たり前だ。ここは魔界だぞ?図体のデカイやつも、空を飛べるやつもいるのだからな。」
「そうだな。確かにこの程度のことはできそうだ。」
そうこう話しているうちに、3メートルはあろうかという、巨大は紫色の扉の前に着いた。
するとヒルダは、おもむろに扉の脇にあるスイッチを押した。
「これは……魔導動力機関を使ったモノか」
「この大きさだからな。上に行くのも階段じゃ一苦労だ。ほら、早く乗れ。」
その巨大なエレベーターに素早く乗ると、ヒルダは内側にあるスイッチを押した。
扉が閉まったかと思うと、上に………
………ではなく、下に動き出した。
「…下に動いていないか?」
「あ」
「おい。まさか……」
「だ、だ、だ、大丈夫だ!ちょっとスイッチの押し間違いをしただけでだな…!」
そう言ってヒルダは別のスイッチを押した。すると、今度はしっかりと上へと動き出した。
…ヒルダが安心したように息を付いたのは、見なかったことにしておこう。
ファンタジーものかと思ったらエレベーターか、そういう科学もそこそこ発展してる感じか。もうちょい世界観が見て取れる描写があると一気に引き込まれると思う。
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