大倶利伽羅 2015-04-14 21:18:45 |
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俺は嬉しいのさ。…だからそう素っ気ない事を言うな。
(無関係とばかりに優しく突き放すような発言は彼の保身の為か別の意図故か、真意を汲み取る事は困難であるものの靄のように纏わり付く不満を呑み込み、淡い微笑を浮かべた侭に相手の表情を窺い見て。此の事に限らず何事も独りで背負い込む癖のある彼には数百年も昔から困却しており、不意に蘇る遠い過去の記憶を思い懐古の念を抱くと共に胸中は物悲しさに似た憂いを帯びる。食事室に到着すると数十を悠に超える刀剣が一堂に集まる事が可能な広い空間を見渡し、数少ない空席の一つが彼の正面であった事を偶然と考えられぬ程度に思考は浮付いており。歩行の度に揺れる花飾りは仄かな色合いでありながらも繊細な優美さを持ち、男には不釣合いではないかと不安が過る程。ふと正面から投げ掛けられた簡素な問いに顔を上げた矢先、掛け声に次いで揃う食事に対す感謝の言葉。何処か不満を孕んでいるような言葉を脳内で反芻させながら箸を手に取り「さあ、どうだろうな?」彼にしか聞こえぬ程の声量と諧謔を弄するような語調にて紡ぐと、彼の顔色を覗く悪戯な一瞥を向けて。先程燃え上がった熱情は緩和されたと言えど気休め程度のもの、脳内を蕩かすような耽美な余韻までも取り去る事は到底不可能で顔を合わせる事に因り再度身体の芯は熱を思い出す。その上、妨害された事で残った靄は静かに胸の内に鬱積していくばかり。其れを思考から追い出すべく正面から伸びてくる手より先に漬物を1つ摘み上げると、歯応えの良い其れを幾度も咀嚼する事で意識を逸らしていると、"あれ、鶴丸さんそんなの付けてましたっけ?"出汁巻き卵を一切れ摘み口内に放った後、目聡く花飾りに目を付けた刀剣に視線を向ける。「嗚呼、どうだ?鶴らしいとは言えないが、似合っているだろう?」演技めいた得意気な声色にて問いながらも、大層気に入っているらしく硝子細工に触れるような所作にて花弁を一撫ぜし嬉々と口角を上げて。)
…相変わらず、変な奴だな。
(全て此方側が招いた感情、放った言葉はあくまで彼に余計な重荷を肩に背負わせたく無い為。まさかそれが予想外の形になり返って来るとは思わず、ふわりと笑む表情に対し"くっ"と喉奥に込み上げるそれを抑えるかのように手の甲を口許に宛てて柄にも無く口角が思わず上がる唇を隠し。賑やかな数多くの刀が集う食事室、本日も彼方此方で忙しなく当番であろう数人の刀剣は行き交う。当然目の前に座り付いたのは神の悪戯かと思い、その時ばかりは空席だった其処を恨む程。此方側の不満を募らせた一声、返って来るは問いに対し曖昧に躱され少しばかり表情は不機嫌を宿らせ、まるで余裕じみた視線は周りに聞こえない程度に小さく舌を打って。周りに続き、箸を向かわせた先の漬物は一足先に相手によって一つ減るものの大して気にもしていなく、迷わず箸で挟んで口内へと塩味の漂う漬物特有の爽快な咀嚼音を立てつつ頬張れば相手が目の前に居る事により意識が其方側へと気を抜けば向かってしまっている為かそれほど味は無いように思え。其処で一つの刀の声音にて相手の胸元の飾りへの指摘、思わず頬張っていたものを喉に詰まらせ少し潜った咳き込みを数回か洩らしてしまえば当然聞こえる方向は其方に。声を掛けた刀剣は此方側を不思議そうにして心配の色を目に宿らせるのが見えたが、"心配には及ばない"と告げ。騒がしい周りの中、一つだけ凛とした声だけはしかと拾う耳は一層はっきりと聞こえ、ふと一瞥しようと向けた先は何と自身が贈った胸の飾りを柔らかく大切そうに触れる指先、直視したそれは先程触れられた箇所が再び熱く灯ってしまい、それが見えてしまえば心持ちは次第に乱れ始めて視線を外せず。込み上げる秘めていて募る思慕は今にもはち切れんばかりにいて、唇の熱は甘い行為を思い出させ眸や心に宿りつつある欲を孕んだ色を取り払うかの如く眉を寄せつつ用意されたご飯を駆け足気味に食べ進めていき。)
退屈しないだろう?
(口許を隠し表情を悟らせぬように持ち上げられた側の腕へと僅かに目線を落とすと、此方に向けられている掌の中心部付近の窪みに人差し指の腹を押し当て。変化が無ければ隠蔽する必要は無い、故に彼の薄い唇が珍しく弧を描いている事を薄々勘付いており。然し其れを垣間見る事を許さぬ手は障碍とも言えるもの、緩慢とした所作にて擽るよう彼の掌に幾度か円を描きながら反応を確認するべく両の眸を彼の其れと合わせ。大きな座卓に堵列された人数分の料理は今日の内番に当たった刀剣達の手製、審神者の命とあれど刀が料理など型破りにも程がある。然し今では大凡慣れ毎日異なる献立や盛り付け、味加減に食傷は無く楽しみの一つとなっており。歯当たりの感触が良い胡瓜を奥歯で噛み締める事で脳内まで響く小気味良い音に程良く思考は紛れ、漸く周囲と同様に夕餉を満喫する余裕も表れ始め正面の大皿にある料理へと箸を進めてゆく。一振りの刀剣に因る何気無い指摘に露骨な動揺を見せる相手、其れに一度は気付かぬ素振りを為し、己の茶化すような自慢に対し"お似合いだと思います。"褒めるような返答には満悦の笑みを浮かべ素直に御礼を告げておく。其の刀剣もまた別の談笑の輪の中に入り、不意に正面へ目線を送ると何処か不服げな面持ちにて料理を口へ運ぶ相手の姿。心無しか急いているようにも映り心中を汲み取る事が出来ぬ故に、相対し悠々とした手付きにて白米を食しながら不思議そうに僅か首を傾げる。「どうした、また喉に詰まらせるぞ?」口内の物を嚥下した後、一度箸を置き湯呑を手に取ると隻側の掌を底の高台に添え湯気の立つ緑茶を一啜り。)
さあな。…擽りをやめろ、むず痒いだろう。
(相変わらずの口振りよりも指の腹の動作に眉を動かす。僅かに上がってしまう口角を隠す手元、掌の窪み部分に添えられる人差し指の先はいたずらに動き、少々擽ったくもどかしい。その動きによって表情は徐々に険しいもの、とうに口許に咲いた笑いは消えており、潔く掌をそのまま彼の方へと持って行けば此方側に注がれる視線に対しなんだとでも言いたげな怪訝さを眸の内に潜ませて見遣り。彼の胸元を彩り華やかに飾る桜色の飾りは淡く、そして儚い。やがて一つの御礼によりその刀剣は又何処か、他の雑談の輪の中へ入って行くのを視界の端にて捉え、そうしてついに自身に向く視線の先、それには僅か急く自身の白米や野菜を口に運ぶ箸も止まる。緩やかな動作にて茶を啜る姿と小言には「うるさい、…そういうお前はもっと力をつけたらいい。」変わらず着物の上でも解るくらいに細く華奢な身体に対しそう言葉を投げ。此れからの激しい戦いを強いられる戦場、それには些か細身では不安だ。食を取る事で漲る体内はいつの間にか満腹感と満足感が満たされ、漸く白米が入った椀とみそ汁が入ったものを空にして箸を置き、手のひら同士を合わせ。"倶利伽羅、おかわりは?"という隻眼の男が此方へと向き、問うてくると頭を左右に振って「要らん」拒否の意を表し。彼を手本とするように、自身の陶器の湯呑みを隻手にて手に取ると淹れたてというのもあってか湯気が立ち込めるそれを一つ息を吹き、啜って口内へ。その所為で身体が暑くなり、耳に迄掛かる少し長く多い前髪の一部を後ろ側へ掛けやればその湯呑みを卓上へ戻し、胡坐をかいた足元へ両腕を置き。)
(/とと、本体からたびたび失礼致します。
勘違いでは無ければこの間、別トピにての書き込みを拝見しました。
ふと何気なく見たら…本当驚かされました、ありがとうございます…!
本当、勘違いであればあれなんですが、嬉しかったです。
100レスを共に祝ってくださり、胸がいっぱいです。
此処まで来られたのも貴方のお蔭です、ありがとうございます。
貴方の鶴丸は魅力的で、とても惹きつけられます…なんて重いでしょうか(←)
お返しにと言っては何ですが、私もあちらに感謝の意を込めて
書き込みをさせていただきました、是非どうぞこれからも宜しくお願い致します。
直接御礼を言いたくて…長くなりましたがこれにて失礼、どろん。)
…笑うと思ったんだが、おかしいなあ。
(素直な肯定は見受けられないが確りとした否定を表さず往なすような返答は彼らしく、思わず唇端が上がる。拳は口許から離れるものの一度は穏和に緩んだと思われる相手の表情は戯れに因る行為に、己が望むものとは相対し顰蹙の意を含んだような渋面へと塗り変わっており。強ち想定外と言えずとも、演技めいた頓狂な面持ちを浮かべ不思議そうに少しばかり頭部を横へと傾けながら、諦めたように掌を擽っていた側の腕を下ろして。贈物をされた事は数多あれど此れ程までに嬉々と為す事は珍しく、儚くも胸元を淡く彩る春色の飾りは胸の内を雀躍させる。喉元を下る渋味のある茶は一拍置いて胸元に熱の余韻を残し、其れを逃がすかの如く一息吐くと悪態と共に紡がれる指摘に一笑に付すが如く浅く笑みを溢す。「重い鎧を付けてるんだ、身軽でないと飛べないだろう。―…それに、細いのはお互い様だぜ?」自覚はあるものの体質故に致し方無く、自身を鳥類に喩えるは冗句紛いの剽軽な口振りにて。腕に残るは先程の抱擁の際の感触、逞しくも引き締まった胸板とは裏腹に座卓に隠れた細腰を一瞥しては揶揄するように隻眸を細めて。保護者の如く世話を焼くような声に気付けば食事を終え一段落するような相手の姿があり、「早いな。当番にでも当たっているのか?」味噌汁の碗を空にした所で何気無く問い掛け。茶碗の中に最後に残しておいた一口程の米に味付きの板海苔を被せ箸で器用に巻き取るように口に運んで咀嚼し。)
(今日和、本体です。
最近は中々時間が取れず、返事が遅滞気味で申し訳ないです。
気付いて下さったようで、恥ずかしいやら嬉しいやら…。
一匹狼の彼からも御返事を頂けて、嬉しい限りです。
いえいえ。こんな風にやりとりを続ける事が出来たのは
貴方と、魅力的な大倶利伽羅の御蔭ですよ。
展開や二人の距離感はもどかしいものですが、
少しずつ色々な事を乗り越えられたらいいなあ、何て。
此方でも改めて、有難うございました。 どろろん。)
――…阿呆か。
(掌へ擽る指先を緩く相手の方へ退けてやりつつ、態とらしい演技の口振りは自身の唇から呆れた言葉が思わず洩れ出る。怪訝そうな態度、傾く頭に倣って重力に従順な髪も揺れて見え、相手が此方へ可愛い悪戯を成した隻腕を下ろして行くと同時に自身の腕は美しくしなやかである長く白い髪に伸び、黒く纏われた布越しでは或るが流れる毛束を指の腹で挟んで摘まんで。此方側の指摘については軽い揶揄を混じらえて喩えるそれはいかにも彼らしく、鳥類らしき部分を思わせて、冗句だとしても合点が行く事に納得を。その次に紡がれるおそらく自分も細身だと言う所には「俺の事はいいだろう」突っ撥ねて、卓上に隠された机を挟んで向かいに居座る相手の細さは先刻の縁側で承知済み。そうして夕餉も済ませ一段落した所の自身の膝へ、何処からか迷い込んだのか尻尾の先に可愛らしく赤い紐でちょうちょ結びが似合う白い虎が遣って来る。向かいから爽快な海苔の音を小耳に挟みつつ、その膝元に遣って来た人懐こい様子の虎を拒む事はせず受け入れ、頭部や額を撫で擦りながら「そういう事じゃない。…落ち着かないだけだ」目線はあくまでも白い毛並の動物へ向けており、今度は首元の部分を指の背で撫でる事で癒しを与え。恐らくこの虎はとある短刀の所のだろう、生憎この虎の飼い主は遠い座席、一匹だけここに抜け出したのもあってその刀剣は今頃涙目で探している事を予想しつつ、足の上で寛ぐ虎が居る為か迂闊にこの虎を届けようにも立ち上がれなく。変わらずの賑やかな空間、各々はちらほら椀の中を空にさせ、台所に持って行くようだ。其れに合わせ自身も片付けを済ませたいのは山々であり。)
一筋縄ではいかんなあ、―…っ、なんだ、塵でも付いているか?
(此方へと手を押し戻す力と共に明瞭な感情をのせた膠も無い返答に気を害した風は微塵も無く、脳内に浮かんだ料簡を間延びした口調にて呟き落とすと柔和な笑声を添え。脈絡無く此方へと伸びてくる隻手を視界の端に捉えるも其れを受容為すも、襟首付近に在る彼の手に心臓が焦れるように浮付く心地を覚える。其の契機となるは昼間の出来事、首筋に残る柔い感触と歯に因る微弱な痛みが蘇り、刹那呼吸を詰まらせて。数刻前は相手に対し場所を選べと諌めたにも関わらず、身体の奥に熱が点るような感覚を取り去る事が出来ず自嘲を覚える。脳内に浮かぶ疑問符など瑣末ながらも髪に触れる手を掴むと其処から遠ざけながら浮かべた笑みは無意識ながらもぎこちないものだろう。自らに返ってきた指摘を素気無く往なす様に笑みを堪えるが如く小さく喉奥を鳴らすも其れ以上の言及は留め、茶碗が空に為ったところで箸を定位置に戻し湯呑を持ち熱い茶で喉を潤しておく。主語の無い返答に疑問抱きながらも彼の意識は己とは全く別の方向にある模様、興味を唆られるが侭に膝立ちになり身を乗り出し覗き込んだ先には、胡坐の内に入り込む一匹の子虎の姿。「へえ、珍しいな。そいつらがあいつ以外に懐いてるとこ初めて見た。」双眸を糸のように細め心を許し甘える様子に感嘆の声を上げ。彼の膝上を容易く占領する其れには少々癪である上に、気弱な飼い主を思うと放置しておく訳にもいかず腰を上げ、立ち上がると相手が座す側へと移動し一度傍らへと膝を折り腰を下とす。「ほーら、御主人様のとこに帰るぜ。」幸福そうな面持ちを妨害する事は心苦しくも、幼子をあやすような声色にて声を掛けてみて。)
…ああ。
(自身と、相手だけの空間は少々静かすぎる位にお互いの声は木造の家造りに響いている錯覚。彼の笑声と一言は反応を飲み込み、寧ろ如何言った意味かを探り考える位で。都合良く解釈すれば自惚れても良いだろうかと、心の何処かで甘い自分が顔を出すものの其れは直ぐに押し込め。糸も容易く伸ばした隻手は彼の襟首を垂れる髪に触れる事に成功、白く透き通る心地さえ覚える肌は昼間の事情を思い出させては感触がただただ柔い事だけがぶり返し、嗜虐の感情が湧き。やっとの事触れる事が叶った指先、其処から熱く感情によって包まれていくが彼の隻手に因って力無く髪や肌から遠ざけられ、遠回しの拒否に胸が割られた硝子の破片が突き刺さるような、酷い苦痛を覚え。微笑んだ顔、何処か飾られた笑い方、違和感が胸奥に付き纏って破片がもう一つ刺さる。それ故に一切塵等は付いていないと言うのに肯定を示す言葉しか浮かび上がらず。食後の膝元にて、子虎が一匹迷い込む。その子虎の背をゆっくりと手の平で優しく撫で遣り、ふと向かいで白い面積が増える視界の端。「偶々だろう。」懐いている云々の流れ、偶然迷い込んだ先が自分だった事実にしか過ぎず、そう答えて。相手が回り込んで傍らに迄来ると思わぬ至近距離に一瞬では或るが身体を堅くし、後に子虎へ掛けた台詞で力を抜けば子虎は円らな眸で彼を見遣った途端、"わわっ、虎さん…!"横から飼い主である当の本人とその兄であろう刀剣が慌てた様子で此方に声を掛けて来、見るに水色の髪色をした彼に頼ったのだろうと合点が行き。その短刀が現れた事に因って膝元で寛いでいた子虎は徐に起き上がり、あるべき場所へと向かって行くのを見送って。)
木の葉でも付いていたかな、…ありがとう。
(普段通りに殆ど其の精悍な面持ちを変える事無く紡がれる短くも肯定の意に、其れが行き詰った解答である事を察知出来ぬ程に余裕は無く。柔らかな低音にて紡がれる己の銘や扇情的且つ妖艶な唇、昼間の出来事は脳裏だけでなく身体に刻み込まれており思い返す度に背筋が薄く粟立つような心地を覚える。然し塵を取り除く為に触れただけにも関わらず身勝手に心拍を跳ね熱情を灯すは唯の自意識過剰に他為らず、胸の内が締め付けられるようなもどかしくも形容し難い痛みを持て余し僅かに眉尻を垂らし。他意の無い行為ならば感謝するのが当然であろう、直接肌に触れる事を許さぬ黒い布を纏う彼の手を名残惜しさを示すかの如く緩慢とした所作にて解放為すと口端を上げて。食事を終えた刀剣達が皿を持ち次々と食事室を後にする事で、賑やかな室内は徐々に落ち着きを取り戻してゆく。腿の上に腕を置き彼の膝上に陣取った白毛の虎を眺めながら、「そうか?君は動物に好かれそうだがなあ。」其の心地好さげな面持ちから撫ぜる手付きの優しさが窺い取れ、何処か微笑ましくもある光景に双眸を細め。強行手段ではあるものの抱き上げるべく両の腕を伸ばした矢先、近付いてくる綿菓子のような淡い声と共に現れた兄弟の姿に徐に頭を擡げた後、「もう迷子になるなよー。」立ち上がり、真っ直ぐに飼い主の元へと戻り行く一匹を見送り。「…さて、俺たちも行くか。」座した侭の彼へと視線を落とし、何気無く其の丁度良い高さにある頭頂部へと掌をのせ、先程の相手を真似るかの如く一度撫ぜ。)
礼には及ばない。
(布越しに触れた、透明な感覚を覚えさせる透き通る印象的な白髪。一つ一つの繊維が細い印象、塵一つも絡まっていない其れがしなやかに相手の襟元を沿って枝垂れる線は何処か艶めかしいもの。驚く程に白い肌色は外の直射日光を浴びれば一瞬で赤くなりそうな、或いは今の時刻に存在する煌めく月に攫われてしまいそうだなどと、そう思う位に目の前の彼しか視界に入っておらず。何処か弱々しい眉下がり、突き刺さった硝子の刃が抉られる感覚に何とも言えず遂に触れられた箇所の存在が無くなれば自制を制するかの如く拳を作り強く握り締め、その掌の先から想いが溢れてしまわぬように名残惜しく思いながらも擡げた腕を落としていき。異物は襟足に絡まっては居ないものの口から出た肯定の意は今更後に引けず、御礼も何も無い訳で。更に彼に触れたいと想う感情すらも、今だけは治まってくれずに何とも言えぬような、無意識の内に苦虫を噛み潰した表情になって行き、思わず「お前は俺に、触れないのか。」彼に対する謎の疑問をぶつけてしまっていて。賑やかで煩い程だった食事室は今は殆どの刀剣が各々自室に帰り、疎らになり始める。「俺は知らない、向こうが勝手についてくる。」動物は嫌いでは無いが何時の間に、と言った場面を思い起こせば少しばかり眉をしかめて難しい顔を。膝元を占領していた一匹の毛並の良い子虎は飼い主の有るべく箇所に帰って行ったのを見届け、掛け声と共に頭に乗せられる手は何気心地が良いもの。だが如何せん心の何処かでは気に入らなく、今された様な事を普段の仕返しとして徐に細く華奢な腕を柔く掴んでは体重の侭に身体を起こそうと此方側へ、つまり自分側へと引き寄せようとして身体は動いて。)
(後、此れは唯のどうでもいい伝言だ。
…遅滞は気にするなと背後が言っている、前にも言ったが自分のペースで書いてくれると有り難い、だ。
時間の都合はどうにもならない、ゆっくりで構わないらしい。
この伝言に関しての返事は蹴る事推奨だ。すまない、邪魔をした。)
(蹴り推奨と言われても、感謝の言葉一つも無いのは無礼だろう。
君の背後さんの気遣い、痛み入るぜ。気持ちが楽になった、有難う。
背後は愛想を尽かされてしまうんじゃないか、と不安で堪らないらしい。
…ああ、勿論俺もだぜ?君がいじけてしまうんじゃないかってな。
少し多忙な時期でな、あまり時間が取れない上に身体が不調でな。
文月の終わり頃には落ち着くだろうが、それまではこんな感じだそうだ。
君とやりとりしたいのは山々なんだがなあ、…本当にすまない。
背後さんからの伝言が余程嬉しかったらしい、先に此方だけ書き残しておくぜ。
返事は今日中に出来そうだ。君や背後さんも無理をしないよう。それじゃあ、又。)
―…っ、え。
(感情を露見する事の少ない取り澄ました表情や抑揚に変化の少ない声色、故に彼の心中を汲み取る事は困難であり独り善がりな高揚を隠蔽すべく己が起こした行為に傷心している事など露知らず。此方の髪に触れていた逞しくも細い腕が下り、元の位置へ戻る様に何処か切なさを感じるのは都合の良い解釈だろうか。手が離れたにも関わらず首筋に残る熱の余韻は引く事を知らず、短い間隔で刻まれる鼓動の音は外に漏洩してしまう事を懸念させる程に体内に煩く響き、どうにか意識を逸らす事すら叶わぬ始末。止めを刺すは、徐々に苦悶を滲ませてゆく表情にて紡がれる突拍子の無い問い。言葉が喉元で閊えたかの如く咄嗟に声を発す事が出来ず、間の抜けた頓狂な面持ちにて僅かに瞠目為すも慌てて硬直していた思考を巡らせ「否、…その、どうにも気恥ずかしくて、な。」唐突な質問に疑問を抱く事すら忘れ、素直な戸惑いを吐露し、視線を下方にて彷徨わせながら頬に含蓄の色を浮かべ。徐々に人の影も疎らと為る食事部屋は入室時よりも広さを感じさせる。「君の傍は落ち着くんだろう。…何というか、仲間だと思われるんじゃないか?」幼少の虎を引き連れ立ち去る彼らの背を見送りながら、揶揄の混じる楽しげな声色にて紡ぐ言の葉は強ち冗句でも無い様子。実際周囲と距離を置きたがる彼の傍らは柔らかな静謐が漂い、時間の流れすらも穏やかに心地好い。指に絡む艶やかな細い髪も毛並みの良い犬を彷彿とさせ、一人空想の中で密に笑んでいたところ、腕を掴んだかと思うと前触れ無く引っ張られる力に慌てて足の裏にて踏ん張り。「おわ…ッ!?」細身とはいえど男一人の重みの掛かった引力に咄嗟の対応虚しく、呆気無く体勢を崩し力の始点の側へと傾き。)
(ああ、お前の背後の気持ちが楽になったのならそれでいい。
…何だ、丁寧なものだな。
愛想を尽かされる?何を言っている。
俺の背後はお前とその背後の事に愛想を尽かす事はしない、
そう断言している。背後も愛想を尽かされるんじゃないかと不安にはなっていた様だが、どうやら同じ心情だったようだ。…俺はしかと伝えたからな。
安心していいとの事だ。
俺は子供じゃないんだ、いじけるような真似はしない。
―…おい、体調は大丈夫なのか。
此処の所気温の移り変わり、温度差が激しい。
お前も背後も、…体調の変化には気を付けろ。
文月の末迄焦る事は無いだろう、今まで通りゆっくりで構わない。
返事が予想外のもので背後が驚いて、思わず返事を書いてる。
走り書きではあるが、長くてすまない。
返事は不問だ、返したければ返せばいい。レスの返事は明日辺りに出来そうだ、今は此れだけにしておく。)
(今は先に此れだけ伝えておく、だ。
"背後がもし変に深読みして更に不安にさせたらどうしよう"
とのたまって煩い。
これで俺は引っ込むからな。…邪魔をした。)
…そうか。
(指先に触れた微かな柔く透き通る髪、一瞬ではあるものの指先は確りと感触や首筋の体温を覚えてしまっていて、その熱と質感の行き場の無い燻りにより一層と指先の力を握り締めた事に因る熱さの所為にして。然し、身体の左側に命の源と呼ばれる心臓は一向に高鳴りを止めず、これが彼に迄聞こえてしまうのでは無いかと言うくらいに煩い。彼に触れたとは言えど、手の先に想いを乗せた動きは些か柄にも無く一つの躊躇いと勇気が要るもので。此方が問うた質問、微かに戸惑いの色を乗せる表情に怪訝な疑問が湧き、無言の催促をした後に告がれる言の葉は羞恥に因るもの。足元や床に視線を彷徨わせる挙動不審な行動、予想外の返答は少なからず期待を胸に灯らせてしまう。仄かに色付く、彼の肌を彩る美しい色合いの花弁を連想させるそれに思わず触れたくなるように手元、指先の力をふと弱め、手の内を漸く外へ開放をするものの拒否を示された行動がぶり返し、躊躇いながらも彼の表情を視界内に入れないよう顔を横へ背けて僅か一言だけぽつりと。食事の終わりの際の礼儀をちらほらと耳にしながら台所へ向かう刀剣達、その傍らでのやり取り。「?…どうでもいいな。」一瞬の間だけ間を置き、やっと繰り出す言葉は素気無いもの。そう言った事は言われてもぴんとは来なく、今一理解がし難く僅かながらにも頭を傾け。髪を上から撫でる手付き、此方側へ寄せる力には容易く身体が傾く相手。まるで上から舞い降りて来た一羽の鶴と言う鳥、抱き留める為に自身の上体を微かに後ろへ傾け。まるで駒送り、視界の端に揺れては波を思わせる緩い小波の髪。身を以って漸く相手の背へ手や腕を纏わせ、確りとその背に回った隻腕で彼の受ける衝撃を和らげて。「案外、容易いものだな」まるで幼子が勝気に"してやったり"と口端を歪め、日頃の仕返しはこれくらいで良いだろうと見定めると手首を束縛していた隻手を柔く離れさせていくと身体も後ろへ引いていって。)
(お早う。 …ああ、君や背後さんの御蔭で楽になった。
丁寧なんて事はないだろうさ。感謝してもし切れない位だぜ。
ははっ、そうかい。…背後の不安は杞憂だったって事か。
案外君の背後さんと、うちのは似た者同士なのかもしれんな。
俺からすりゃあ、君は子供みたいなもんさ。…いやなに、其れ位可愛いって事だ。
…伝えておいてくれ。不安にさせてしまってすまない。
言葉だけじゃ心許ないだろうが、俺らも君たちに愛想を尽かす事は無い、ってな。
嗚呼、大事無いぜ。持病のようなもんだ、上手く付き合っていくしかないのさ。
今年の五月雨は長いと訊いた。君や背後さんも気を付けろよ。
描写付きのやりとりを疎かにする心算はないが、こういうのも新鮮で面白いな。
君への返事はまた今日か―…明後日になるやもしれん。
深読みに関してなんだが、思い当たるものが無いんだ。
…もしかすると、それは君の背後さんの方かもしれんなあ。
其れほど想ってくれているのは嬉しいが、考え過ぎると辛くなるだろう?
あまり心に負荷を掛けぬように。それじゃあ、又。)
(嗚呼、…おはよう。そうか、ならいい。
俺は感謝されるような事はしていない。
お前と背後の気持ちが楽になったのなら、それでいい。
杞憂…まあ、そうなるな。
似た者同士、気も合うんだろう。
不安になる部分がそっくりだ、怖いくらいにな。
…戯言を言うな、やめろ。俺は俺だ。
ん、確りと伝えた所背後が安堵でぐっすりだ。
それ程お前と背後の言葉は胸に来るものがあるんだろう。
言霊一つ一つで左右される心というものは中々に不便なものだな。
持病のようなもの…か。余り無理はしてくれるな。
五月雨が長いのか、其れは些か気落ちする。まあ、どうでもいいに等しい。
こういった会話は俺も嫌いじゃない。…“あんたと”だからかもしれないな。
返事については都合がついたらで構わない、此方もゆっくり目になるだろう。
土日は此方の返事は早い、これだけは言っておく。
背後の考えすぎか。道理で。
背後は俺の思って居る以上にお前等に惹かれている、…その所為か。
ほどほどにする、と言っている。心配する事も無いだろう。
返事態々丁寧に綴ってくれた事に礼を言う。…それじゃあな。)
…気に食わなかったかい?
(首許の肌に残る余韻でさえ脳内を甘美に蝕み、唯でさえ忘却等難い昼間の出来事は幾度も脳裏を過り切ない熱情を誘発させるばかり。自身の尾籠な高揚を押し隠す為、そして人目を憚るが故に彼の手を退けてしまった事に対し聊か後悔の念が湧き立ち。其れと同時に、虚勢を張った行動が彼に拒絶と解釈されたのでは無いかとの一つの料簡に因り、胸中に不安や焦燥が広がってゆく。現に何処か余所余所しくも取れる淡泊な反応と、此方の姿を視界から追い出すかの如く顔を逸らしてしまう彼に、胸の内が細い刃に抉られるような心地を抱く程。相手から素気無くあしらわれる事ならば日常茶飯事にも関わらず、形容し難い違和感と不慣れな感情に戸惑いは募る上に、先程の質問の真意は未だ汲み取る事が出来ず。然し半ば無意識の侭、隻腕を擡げ彼の頬へ伸ばすと滑らかな頬の輪郭に掌を添え、やんわりと力を込め顔の向きを此方側へ戻そうと試みながら、僅かな傷心を滲ませぬよう穏やかに問うて。広い食事室での談話の一つ、此方の揶揄に対し思い当たる節が無いとでも言わんばかりの不思議そうな反応には思わず気が抜けてしまいそうに為り、刹那僅かに瞠目した後に遅れて込み上げてきた笑みを軽快に零して。「そうかそうか。…全く、君らしい。」無自覚である事が何よりの証拠だろう、此のように時折垣間見える天然の気質に愛らしさを感じており。然し其れと一転、平衡を失った為に反射的に縋るかのように背に隻腕を回し、想定内なのか余裕綽々に己の身を支え、倒れる余勢すら難無く吸収してしまう相手の細い身体。何処か挑発的な微笑を浮かべる彼に湧き上がるは悔しさと羞恥、にも拘らずあっさりと身を引く彼に思い切り体重を掛け「してやられたなあ。…腰が抜けた、立たせてくれ。」拘束の解けた側の腕を相手の首へ緩く絡めながら、反応を窺うべく間近に在る精悍な顔立ちを覗き込み。)
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