大倶利伽羅 2015-04-14 21:18:45 |
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そうかい、…そりゃあ良かった。
(一般的に素直には分類し難いものの突っ撥ねる事無く相手の形良い唇から落ちる言の葉、満足げに唇端を僅かに上げると嬉々とした響きを含む声色にて。其の手触りの良い髪を手櫛で梳くかの如く己の指間に通し、絡め取るように指を曲げながら生え方に沿って手を下ろす所作は整髪というより愛撫である。忍び見ると小型哺乳類を思わせるような無防備な反応に胸の内を擽られるような感覚を抱き、半分以上視界を閉ざした彼を如何驚かしてやろうか等と思案を巡らせるも遂には何処か眠たげとも取れる仕草を成す姿に思わず小さく吹きだしてしまう。込み上げてくる笑声を堪えるべく喉奥で響きを殺しながら薄く肩を震わせ顔を伏し空いた側の手の甲にて口許を押さえて。漸く本丸に辿り着いたものの高く昇っていた太陽が姿を隠す最中、敷地内にも関わらず建物の中に入る事無く至近距離にて見つめる間に徐々に怪訝なものへと変わりゆく彼の表情は燈籠の明かりと夕日に照らされる。己の行為に其れは如何変化するかという好奇心と別の感情に因る高揚に急く気持ちを抑えながらの頬への接吻。店内にて相手から受けた物と同様ではあるものの吃るようにぎこちない返答や垣間見えた仄かな朱を帯びた頬など手に取るように分かる彼の動揺に吐息漏らすよう笑み。心の内を満たしてゆく愛おしさに双眸を細めながら弱弱しく紡がれる批難とも取れぬ呟きに対し「君もしただろう。…審神者の居る時代では、帰還した者をこうして出迎えるそうだ。」指に掛かる力を感じつつ表情を窺うべく首を横に傾けて。)
(御久し振りです、かな? 別のトピで貴方の呟きを見た時、凄く嬉しかったです。
いえいえ、そんな事ないですよ!読みやすい素敵な描写で凄く勉強になっております。
それに話の流れが滞らないように引っ張っていってくれて、本当に有難いです。
引きかえ此方は誤字脱字が多い上に分かり難い表現ばかりで申し訳ないです…、うう。
いつも本当に有難うございます。此方こそこれからも宜しく御願いしますね。)
…何を笑っているんだ。
(自身が発言した先ほどの言葉は嘘偽りも無く、驚く程素直に口から出たものであり反応はいかほどと言えば、それはもう嬉しさ滲ませている様子が直接形に成る程分かりやすいもので。相手の指先は時折姿を変え、撫で梳いていく動きは魔法と呼ばれる何かなのだろうか、心地よさに瞼が閉じかけるもののふと隣から聞こえる声にならない息。瞼を起き上がらせ直接相手の素振りを見遣って注視をしてみれば僅か小刻みに震えているような肩、その姿から読み取れる動作は一つ、"笑"であることを知り、上記を小声にて一言。しかし良く耳を澄ますと些か声の抑揚を抑えきれていないもの、堪えているそれを目にも耳にも飛び込んでは一層訝しげな表情と共に気分は不機嫌を引き連れて行く。屋敷の引き戸前へ辿り着き突如自身に襲い掛かった驚きという感情により状況が理解できないで居たが徐々に落ち着きを取り戻して冷静な心持ちに切り替え、手中に感じる手の温もりと感触を布越しでは或るが今彼が其処に居る事を実感するが為に指先を切なく微弱ながらも力を込めて行き、やがて其れは確かに握りしめていて。時代、と呼ばれるものに俯けていた頭徐々に起こしそう言えば万屋の時自分もやってしまっていたなとと未だ真新しい記憶を呼び覚ますものの「どうでもいいな」口元の奥から搾り出した声という音はまるで何処か誤魔化すような色を滲ませる。こうして出迎えるのであれば、と思考が追い付いてくると今度は此方側がと思い、握りしめた手掴み其れを名残惜しくも離れさせたかと思えば重力を此方側へ引き寄せる様、力強く、かつ優しく引っ張ってしまうと緩慢に頭を動かし次第に彼の目前へ。「御帰り、…国永」先程彼がした動作を真似る様に耳元へと小さく言葉を紡ぎ出し、そうして触れた唇の先は相手の柔らかな口許よりも端、綺麗に整った唇を支える口角であり。)
(/御久し振りです。本当ですか、良かった。自分も、貴方様のお返事を頂いた時、同じように酷く、凄く嬉しかったです、有難うございます。
よ、読みやすいですか良かった。話の構想の大体は俺得状態なのですが、何かやってみたい等あれば遠慮なくお申し付けくださいませ。
いえいえ、此方としても貴方は素敵な文章故に勉強させて頂いてます、目の保養です。
まだまだ未熟ですが、此方こそいつもありがとうございます。是非宜しくお願い致しますね。
では本体はこれにて、ドロン。)
―…いやなに、君があまりにも無防備な顔をしてるからさ。
(夕暮れの柔い橙の光を取り込み艶めきながら風に靡くと容易く指から零れ落ちてゆく毛房の感触に飽く事無く、心地好さげに薄い瞼を伏せる彼の姿に刹那瞠目し無意識に所作は止まり。以前程では無いものの自己防衛の為の虚勢とも取れる警戒心は張り詰めた糸の如く、相手に対しそういった印象が強い為か今のように己に対して隙を見せる彼に心内は欣快に満ちてゆく。然し其の様子も束の間、自身の笑声に因って怪訝さを含む相手の声は徐々に不機嫌の色を帯び、漸く髪から手を離し腕を下ろした所で取り繕うでもなく何処か嬉々とした声色にて。視界に映る新鮮な反応と羞恥に染まった目尻、其れらは時間の経過に伴い落ち着きを取り戻していくも心を満たす優越感と愛惜の念に唇に薄らと笑みを浮かべて。その余裕は力強く引き寄せる腕の力と共に御返しとばかりに返される接吻に因って終わりを告げる。鼓膜を振るわせる優しい低音に背筋が震えるのを感じながら、「ただいま。…それは、煽ってるのかい?」扇情的な位置に残る柔い感触に煽惑され沸き立つ心に、挨拶の返答は義務的なもの。屋外且つ本丸の手前という事にも構わず、至近距離のまま視線を絡み合わせると昂りを押し殺したような吐息混じりの声で問い。)
(いえいえ、此方も楽しく好きなようにさせていただいております。
けれど、一緒に居る時間が長くなればなるほどしたい事も増えていくと思うので
その時は御付き合いくださると嬉しいです。同じように、したい事があれば教えてくださいね。
これに対する返事は無くても構いませんので。それでは此方もどろん。)
無防備…ちっ。
(優しく自身の髪が相手側に引き寄せられる感覚はまるで共に柔らかな風も引き連れているようで、其れが心地良く思ってしまったのがいけなかった。うっかり、自分らしく無い箇所を見つけられてしまってはどうしようもなく。声色を低く唸らせた後に直ぐ離れて行く指先を横目で追う様見送ればまるで新しい事を発見した小童に似た声音、それには軽く舌を打つ。屋敷の前にて、目の前の白い彼へ口元の端ではあるが柔らかな唇を触れさせると耳朶を打つような男らしく低い音色と言える短い声の色。其れに愛おしさと云うものを心に感じながら、頭を彼から離れさせるよう後ろへと動かせば次第に狭い視界から露わになる夕暮れの日差しに照らされた相手、だがその動きは彼が此方を見つめる鋭い双眸にて視線同士絡み合った侭制止される。否、其処へ縫い付けられたかのように、金色の眸により胸元へ射抜かれて刺さった様な感覚に内心酷く動揺に揺さぶられる。この気持ちの根を辿った先は目の前の彼、零れた吐息は熱く感じた。「…、別に。」乾いた喉から声を出すのもやっとの事、絞り出た声音は情けなくも掠れ、此の儘彼に囚われているようでは鼓動が持たないと警鐘が胸の内を鳴らす。一度視界を遮断すべく瞼を寝かせ、次の瞬間には逸らす様に横目へと頭も同時に其方へ移動しつつ、この煩い鼓動を潜ませるべく呼吸は深く一息すれば引き戸の窪んでいる取っ手に指を掛け。)
まあまあ、そう照れるな。
(指摘した事は己からすると正に越度である、愛らしいとも言える無防備な表情は早々と姿を潜めてしまい気まずさや不機嫌さを示すような軽い舌打ちの音を拾うと新たな一面を垣間見る事が出来た故に此方は上機嫌であり彼と相対した軽活な笑みを溢し。視線を絡め合うは刹那か永劫か、宵闇と黄昏と狭間の幻想的な時刻の所為だろうか時間の流れから切り離されたような不可思議な感覚を脳内の片隅にて思案しながら探り合うでも無い視線の遣り取りに徐々に胸の奥に朧な熱が帯びてゆくのを感じ。心地好いとも焦れったいとも取れる沈黙の後、挑発するが如く吐いた言の葉に対し紡がれる艶めいた掠れ声は余裕の無さを強調しているかのようで一層己の心を掻き立てる。間近に在る彼の動揺は些細な仕草から見て取れる程、其れが可笑しくも愛おしくもあり胸の内を擽り思わず笑みが零れてしまいそうになる。高鳴る脈動は息苦しさを伴い逸早く此の空間から逃れたいような何時までも此の侭で居たいような相反する感情が沸き立ち混ざり合う。然し引き戸へ伸びる相手の手首を目聡く捉えると容易く逃がすのも癪らしくまた一歩距離を詰め其の腕を隻手にて掴み、「おっと、…これで仕舞いか?それとも後で、を期待していいのかねえ。」煽るようにわざとらしく語尾を僅かに上げ、此方から意識を逸らすが如く顔の向きを変えた彼を追い込むように下から覗き込むような体勢へ。)
ふざける、な。
(此方側が軽く舌を打ったのにも拘らずに自身と対照的にご機嫌な様子に柔らかく溢れた笑い声には無言を貫き通す。もう空の色は星を宝石の様に夜空へ散らしており、各々がより一層輝く時間帯になるに連れ月が此方を照らしていく。先程の至近距離にて落とされた声色、何故か強く印象に残ってしまったのか思い返してしまうと静まりかけていた心臓の鼓動が熱く脈を打つ様跳ね上がり、共に大きく高鳴る。そんな中引き戸の窪み取っ手部分に指を掛けた途端、地面を足裏で擦る音と同時に開けてしまうのを留まらせようかと言わんばかりな細い指と暖かな手が手首へと這い寄っては、力が柔く込められていく感覚は振り払える事が出来たのだろうが、再び筋肉が硬直したかのように動けなくなり。態とらしく煽るような口振りと、先程の距離と同じくして現れた彼の儚くも見える顔立ちに息はさらに詰まらせ、視線は噛み合うこと無く自身の口許からは拒否を示すような言葉しか出ず。「お前こそ、頬で満足しているのか。」此方の唇が触れたのは口角、対して彼は頬だったという事実を今更突きつけつつ金色の双眸を鋭く細めさせれば、直ぐ其処に位置する相手の表情をやっとの事視界内に納め見下ろす様にしながら問うて。)
君って奴は、…本当に狡いな。
(濃紺の夜空に浮かぶ望月は煌々としており周囲に散らばった星々の瞬きを危うく打ち消してしまう程、其れや本丸の玄関前に在る燈籠の灯りに因って相手の精悍な顔立ちは朧に映る。三白眼気味な黄金色の双眸は白昼に見る其れと異なり何処か妖艶で見惚れるには十分であり、何時までも此の侭でありたいとの淡い欲さえ沸き立ち。彼の隻側の手首を拘束するは殆ど力を加えていない状態の五本指、彼の腕力ならば振り払う事は容易いだろう。高揚を抑え余裕綽々を装った己の揶揄に対し悪態を紡ぐ彼の薄く形の良い唇に一度視線を移しては此の侭塞いでやろうか、何て脳裏を過る衝動的な思考を抑えながら漸く噛み合った同色の眸と此方に負けず劣らず煽るような強情な発言に刹那目を瞠り。今掻き消そうとした感情は彼の発言に因って容易く燃え上がるも、吐く言の葉は何処か弱り果てたような語調で。双眸は柔和ながら獲物を見据える其れであるにも関わらず確かな愉悦を覚えた唇には薄ら緩やかな弧を描き「その言葉、接吻されたって文句は言えないぜ?なあ、大倶利伽羅よ。」姿勢を戻しながら徐々に目線の高さは彼を越し、其の侭距離を詰めると耳元へ唇を寄せて。秘め事を囁くが如く、呼気を多く含んだ声質を作り上げると彼の手首に掛けた指を緩慢に解き這い上がるように相手の肩に添えると最終忠告を一つ。)
お前も、…だ。
(夕闇は濃紺を引き連れ、尚且つ道連れでもしている様にふと気を緩めてしまえば一寸の闇を連想させる空模様になって来た時。玄関前にて灯篭が淡く優しい色を帯びてひかり、其れが彼と己に影を落としながらもお互いの表情、顔つき等が辛うじて認識出来る位には暗がりの中でその灯りはひっそりと咲く一輪の花のよう。其の効果によって相手の表情は部分的にしか読み取れずにいながら、目の端に映る彼は何時もとは又違った雰囲気が纏わりつく。照明の角度によって不気味な色さえ漂う筈の空間が、今ではそんな気も起らず、逆に自身の淡く消えてしまいそうで、それで居て何かが溢れてやまない心が其れを消し去っていく。此方を暫し見詰める視線に居た堪れなく、遂に言葉を発したと思えば陽気な彼からしては随分と弱った声音。その弱弱しい言葉さえ、自分の気持ちが掻き乱れて滅茶苦茶になってしまいそうな心内は何とか制止を掛けるかの如く、一呼吸を置いたのちに手首という袖が捲られた先に覗く肌からやんわりと消える温もりと共に相手が段々上へと移動するのを自然とその双眸の侭目で追いつつ、耳元へ囁かれた吐息がまた艶めかしく、掻き立てられる扇情と同時に違った肌に触れれば「……ッ!」声にならぬ声が洩れる。線をなぞる様な手つき、ぞわぞわと背中が震え、やがて肩に触れてしまうと窪みに掛かっていた指を緩慢に欲の侭に動かすと、其の隻手はやがて彼の柔い頬から緩やかな微笑が描かれる口許へ持って行き、親指で下唇を撫で遣り「文句を云うつもりは毛頭無い。俺は今、お前に触れたい。…国永」切なげに一息置きつつゆっくりと口にしながら、今朝噛み付く様な接吻を首筋へ落としたばかりなのを思い出し、其れにより自身の中の燃えさかる火は更に背を高くさせて行き。)
…覚えがないね。
(透明な刷毛で塗り重ねられるかの如く闇色は深まり、水の底を思わせるような夜空は昼間の晴天の御蔭か雲一つ見当たらない。暗順応に因り暗所に慣れた視界には頼りない星彩さえ不要な程に至近距離にある相手の精悍な面、屋外の本丸前という雰囲気など皆無な場所であるにも関わらず燈籠の明かりと比較出来ぬ程に溢れんばかりの熱情を止める事は難儀であり。露わになった腕から黒い衣服に覆われた肩にかけて褐色の肌には見事な倶利伽羅竜が刻まれているのだろう、其処に触れている手は掴むとは程遠い力の入れ具合で追い詰めるような言動を為しながらも彼に逃げ道を作ってやる事を忘れない。互いの吐息すらも確かに感ず事の出来る距離に因り刹那息を詰まらせるような動揺は容易く耳に入り、嫌悪の響きが含まれぬ其れに相手に対す自身の感情は更に色を濃くしてゆく。言葉を交わし触れ合う事で満たされてゆくと同時に其れ以上を求めてしまう心中、気の遠くなる年月を刀として生き永らえようと人と成った事で此れほどまでに人間らしい感情を抱いてしまう事には内心で驚きである。不意に伸びてくる手を無条件に受容するが如く緩慢に睫を下ろし輪郭をなぞるように動く細い指を視界に捉え、共に紡がれる切な言の葉に衝動を掻き立てられもどかしさに僅かに眉尻を下げると、肩に置いていた手にて口許に触れる相手の其れを包むように取り少しばかり遠ざける。首を曲げ鼻先同士が触れ合う位置まで近付き唇を重ねようとした矢先、――遠く背後から少しずつ近付いてくる幾つかの足音と聞き覚えのある賑やかな刀剣たちの声に寸前の所で踏み止まり。此の侭行為を続行する思考が脳裏を過るも恐らく一度の口付けでは止まれないだろう、水を差す間の悪さに不本意ながらも滾っていた熱を醒ますべく深く息を吐いた後に「その言葉は嬉しいが、…続きは後だ。」彼の掌に軽やかな口付けを一つ、悪戯な笑みを浮かべては引き戸を開き敷居を跨いで。)
…恍けるな。
(更に周りの闇は己達をまるで囲おうとしているかのよう。此のまま、闇が此処ではない何処かへと連れ去られてしまいそうな深く暗い空間、燈籠が灯す火は微かにその周りを照らすだけで頼りないがそれは今の自身にとっては十分な程の暗さ。不気味な程、ぽつぽつと光に浮かび上がる燈籠はまるで火の魂を連想させ、そのわずかな灯りだけが、主役だと言わんばかりの自身と相手を照らし出せば案外すぐ其処へ美しく儚く、触れたら溶けて無くなってしまいそうな雪のような姿と肌が在る事を知りながら、肩へと乗せられた手先からはじんわりと其処が根を張って暖が贈られるかの如く熱く帯びていき。そのまま、相手の体温が自分のものに出来たらと言う黒い感情を振り払う様、軽く無言にて頭を左右へと揺らし。ふと、隙のある隙間。この腕さえ退ければ自身の身体はいともたやすく、彼の腕の中から逃れることが出来よう。頭の片隅で思案をするものの呆けた返答には眉間に皺を刻ませ、胸の内に感じるふつふつと今にも溢れんばかりの気持は何とか無視をするように突き放して来ていたが、余りにも相手の言動、声音が此方側を煽る。その時は最早、自身が退くという選択肢は打ち消されて。元々は唯の鉄から生まれた刀、付喪神としてこうして生まれ落ち、この身体は何かと不便だと聞いたが全くもってその通りだと答えを己の中で結論に至る。ふわり、彼の唇を撫ぜた黒い手は簡単に捕まえられてしまい、その次の瞬間、迫る白い雪を引き連れて遣って来る相手の顔は段々と目前に。手足に杭を打たれたかのよう、動く筈の足が動かず。唇と唇があと一寸で触れ合う、―とその時に複数の声にて此方へと向かう足音により残念ながら柔いそれは重なり合う事は無く。彼が離れていった事により、自身はようやっと力が抜けつつもふと、代わりに掌へ落とされる柔いそれに「…くそ、調子が狂う。」握りこぶしを作り、其れを額に持って行けば握った手を解放し長い前髪をくしゃり掻き乱す。彼の後を追う様に、屋敷の中へと足を運ぶと目の前に眼帯の刀剣。その男は"遅いよ!"と声を響かせ聞かせて来る。その返答には、「済まない…光忠」先程の甘い空気、それを掻き消すのに精いっぱいであり、声音は短く震えたもの。)
…さて、どうだろうな。
(白皙の肌に白銀の髪、纏う和装全てが白一色の己と相反するが如く黒の装束に褐色の肌、危うく宵闇に混じり幻の如く霧散してしまうのではないかと非現実的な考えが過る程。情緒的な思考は黄昏から禍時へ移り変わる此の時間帯と懸想している相手との麻酔のような陶酔感すら抱かせかねない雰囲気の所為だろう。白昼戦から帰還した刀剣達に急かされるかの如く、遮断されてしまう甘美な行為に言動こそ普段通りの余裕綽々なものであれど、其れは取繕われた平然であり内心では行き場の無い熱を持て余しており。翻弄されているのは相手か己か、前者であるならば今のように胸中掻き乱されるような感情は抱かなかっただろう。自覚しているよりも遥かに相手への熱情は積もっていたらしい、髪を乱し弱り切ったように困惑を表に露わと為す彼を視界の端に捉えると微かに唇端を上げる。屋敷内に足を踏み入れた所で玄関にて待ち構えていた刀剣の姿に焦点を合わせると、不満や心配などが綯交ぜになった言の葉を素直に聞き入れる相手を一瞥。微かに違和感のある声色は聞き違えではないだろう、「いや、すまんなあ。街というものは興趣が尽きんでな、俺があちこち連れ回してしまった。あまり叱らないでやってくれ。」嘘も方便、謝罪の意を込めて己の片側の頬付近にて両の掌を合わせると、申し訳無さげに眉尻を下げるように笑みを浮かべ反応を窺うように視線を向けておく。斜め後ろの彼に何かと世話を焼いている相手の事、此処で待機していた事も踏まえ気苦労を掛けさせてしまった事に僅かながら罪悪感はあるようで。報告は御遣いの品を持ち、且つ直々に頼まれ事をされた彼が適任であろうとの判断に落ち着き先に履物を脱ぎ簡素な靴箱へと仕舞い込んで。)
…ふん。
(暗がりの灯籠に灯る灯りは今に消えそうな位になって来た時。時間帯からして白昼の戦場から帰路に帰った際に日が暮れてしまったとみる。騒がしくも取れる賑やかな多数の声は時々後ろで笑い声も含まれ、その声に押される様に屋敷へと戻ればとある眼帯男の小言は慣れたもの。前髪を乱す隻手は落ち着きを取り戻し、何事も無かったと言わんばかりその腕は力なく下ろされる。耽美で秘めやかな静かにともる炎は何時迄も消えぬ、表面を悟られてしまうと更に面倒ごとに巻き込まれるのは目に見え、極力目の前の刀剣とは顔はおろか眸も合わさずにいれば嘘か誠かと取れぬ白い布を纏った男が発言するそれは今だけは救われたような気持ちで構え、肩に入って居た力と言う緊張の強張りは徐々に抜け。同時に表情筋にも強張りが入っていた様で、安堵の顔を浮かべれば目の前の藍色の眼帯男は困ったようにしつつも笑ってくれている。気が付けば下駄箱の音、その動作をする背中を真似しながら微かに空気に留まった彼の香りを無視し、密やかに双眸はきつく。自身の靴も踵から両足を覗かせ其れを丁寧に厚みのある下駄の隣へ爪先揃えて置き。先程の複数存在する刀剣が自身が床へ足を着かせた時にやって来、ぞろぞろと姿を現す事で狭くなる玄関は些か窮屈であり、御使いの品が入っている風呂敷の重ね部分に手を忍び込ませ頼まれたものとは別に、無関係で密かに購入した桜の花が象られた胸飾りを片手にて取り出せば半ば札が幾らか入って包まれている布を押し付ける様に光忠の胸前へ。受け取ってくれたのを確認すると、その足は足早に自室へ向かおうと爪先を自室の方面へと向けさせ、胸飾りは手の内で隠すかの如く柔く手のひらで包んではその足はやがて歩むことを始め。)
(以前の所有者を写したような姿形を為す刀剣の、呆れと諦観の混じる筆舌に尽くし難い微笑を視界に捉えると其れ以上言及する気配の無い様子に秘密裡に胸を撫で下ろし。完全に虚言という訳では無く多少なら上手く躱し言い繕う事も可能だが、厳しく追及されようものなら襤褸が出てしまう事も否めない。相も変わらず先程の甘美なやり取りに因る、胸の奥に余韻を残す熱は暫く抜けそうに無い。足袋越しに伝わる滑らかな木目の床の冷たさは、長時間立ち歩きを繰り返していた足裏に心地好く背後にて倣うよう靴を脱ぎ並べる音を聞きながら、夕餉まで半刻程時間がある事を漠然と察知しているが故に如何しようかと思案を巡らせている所に、再度引き戸の開く音が。談笑と共に本丸へと帰還する刀剣達によって随分と賑やかになった玄関は少々窮屈さを感じる程である。「おお、御帰り。御疲れさん。皆、怪我はないか?」近付いてきた瓶覗色の短髪の太刀に声を掛けながら、土埃や返り血であろう滲みに和装を汚した彼らに対し労いの言葉を。二言三言会話を交わしていると、ふいに視界の端にて風呂敷包みを有無を言わさぬ様子で押し付けられている2人の光景へ焦点を合わせる。残された眼帯の彼は苦い微笑を浮かべており、其の肩を軽く叩いてやると他人事のように"頼んだ"と言わんばかりの笑みを送り。帰還した彼らが各々審神者の元へと報告に向かってゆくのを背後に感じ取りながら、約束を果たすべく既に姿の見えぬ隻腕に竜を刻んだ彼の元へと足取り軽く駆けてゆき。)
…。
(玄関先にて賑わう刀剣達の中では、派手な色合いをした服装のいかにも物腰柔らかそうな声音と先程のやり取りを仕掛けた張本人の声にて進む足は縁側付近に止まり、今朝開け放たれていた窓に自身の姿が鏡を連想するかの様に映る。この窓の向こうに生い茂る草木は今朝よりかは鬱蒼に見え、静かに風に吹かれ隣同士肩を並べている葉が擦る音が聞こえる。その風を今、この熱い気持ちを冷ますのに適しているのではないかと考えつけば、その窓を固定している鍵を開けては片方だけ僅かだけずらすと狙っていたかのように静かな空気と柔らかな風は自身を包み込む。そんな時にはっきりとではないが声のする方へ無意識に意識が少しばかり離れた玄関側に向く。そう言えば彼と明るい空色を模した髪の刀剣は共通する点があり、面識はあると言うことを思い出す。何を話しているか、聞きたくないといえば嘘になる。好奇心は自身も殺してしまうと言うのは体験したことは無いが心得ているつもりではある。が、同時に胸の内が月に雲が掛かって見えなくさせた様に、黒く妖しくぼやける。ふと手の内の胸飾りを見れば今日1日の出来事が鮮明に思い出す事が出来、無意識の内にその桜の花弁を指先で微かに撫でてしまい、その自身の行いに気が舞い戻り自己嫌悪に似た気持ちに陥りながらもそう言えば何故当該者の彼の事ばかりを考えているのか、馬鹿らしくなって来た所で軽やかな足音。気にせずともその足音は此方側に向かっており、窓に映るもう一つの姿は白い着物を纏った白一色の彼である。その姿がまみえると靄の掛かる雲は月の本来の明るさを取り戻すかのよう。)
そうか!それは何よりだ。それにしても君は血が似合わんな。
(爽やかな色彩の髪と己と相対し真面目な性格に不揃いな煌びやかな衣服、外面や彼の言葉に因ると目立った創傷は無いらしく安堵に目の端を細める。物腰柔らかで世話焼きな気質、刀としての生を全うしている頃に皇室御物として数百年共に在った気心の知れた相手。彼との会話は快活であるにも関わらず、内心にて気掛かりなのは馴れ合いを避けるように足早に立ち去った竜の彼の事。面妖と頭に浮かび離れぬ相手に胸中が落ち着き無く疼くようなもどかしさを抱き。普段通りに剽軽な言葉を紡ぎながらも、心ばかりは目に見えないのを良い事に彼が姿を晦ませた方へと引き寄せられる。ふと目の前の彼の腹部に回された腕は粟田口の短刀の一つのもの、審神者の元へと急かす言動に因り好機を得て各々に同じ目的地へと向かって行く彼らを見送り。逸る心を抑え切れず足早に向かった先には意外にも遠からぬ位置にて佇む見慣れた背姿。窓から吹き込む風に髪を遊ばせ何故か哀愁に似たものを漂わせる彼に距離を縮める手前にて失速させ。彼の背に因って直接視界には入らぬ位置、然し窓に映る事により窺える彼の手元には昼間に彼自身が購入した花の胸飾り。撫ぜるように添えられた指は寸前の動作を予見させるもので、刹那双眸を丸くするも期待に胸は高鳴りすぐに嬉々と形を変える。「もう見せびらかしてもいいんじゃないか?」店内での発言を引用するかの如く、わざとらしく揶揄を交えた声色にて尋ねながら頭部を横へと傾けて。)
(窓を開けた先は一寸の闇だが、静かで柔らかな風だけが自身の身に感じられる。ざあ、と草木が倣って揺れながら月の一抹の光が照らす庭はいかにも幻想的であり、また今宵の月は満月なだけあってその明るさは強いもの。そんな庭を眺める振りをしながら意識は玄関先へ向き、共に明るい声と柔らかな声音が聞こえる。不思議と、その多数の声の数よりも彼の発する言葉はきちんと聞き取れてしまうあたり悪趣味をしているなと自嘲気味に。手の内の桜の胸飾りに視線を落としていると何と後ろからの声、いつの間に此方へやって来たのだろうかと考える暇もなく。相手の声音がすぐ近くにあるだけでも胸がいっぱいになる感覚を隠すよう「…ふざけるな。」出た言葉は振り払って近づけなくさせるような牽制の声。中々素直な気持ちとは反対の短い台詞はまるで言霊に縛られた感覚を伴わせて胸の奥が苦しくなる。この感情のまま、足を後ろの方に向けては目の前の彼へ近づく為に数歩進ませれば手の内の胸飾りを見せて、空いている側の隻手はゆっくりと付けるために重なっている衿元へ伸ばしてゆき。)
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