大倶利伽羅 2015-04-14 21:18:45 |
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(歩行に伴い夜気を掬い靡くは同じ位に伸びた襟髪。薄らと汗ばんだ項が垣間見えると、否応にも其処から視線を外せなくなってしまう。無意識に足運びが疎かとなり、共に歩んでいた相手と距離が出来て始めて我に返り、再度隣に立ち並ぶと意識を逸らすべく伏し目がちとなる。不意に隣から注がれる視線に気付き流し目に視界に捉えるも、艶やかな黄金の眼の奥に潜む欲がもどかしく胸を焦がし微かに瞠目してしまう。朱夏の所為と己を律し揚げ鶏に向けられたものだと言い聞かせても、面映さを消し去る事は困難で思わず口を噤み視線を外し。人間達の催事の喧騒に溶け込む付喪神、共に本丸を出て来た他の者達の存在が脳裡を過り辺りを見回すもそれらしい姿を見つける事は出来ず、ある種好都合な状況に無意識にも表情が緩む。手を伸ばせば容易く触れられる位置に立ち甘味に舌鼓を打つ懸想の相手と、戦から遠く掛け離れた平和な場所。刀の本分を忘れさせてしまうような危さを孕むも、敵を屠る昂りとは似て非なる高揚は心地好い。 「きみが選んでくれたんだぜ?きみの目利きは正しかったって事さ」 幾ら他の何十人に称賛されようと彼から言われなくては意味がない。飾り気の無い一言で心臓を柔く掴まれたような息苦しささえ抱くのは単純さと彼に傾ける恋情ゆえ。表情を綻ばせながら自分も一つ小さめの唐揚げを咥内に放って咀嚼。腕に抱えた幼子への対応が他と変わらぬあたり、相手の独立独歩さが窺えて思わず可笑しそうに笑みを零し。人の数が減り行動しやすくなった露店の参道を歩みながら、緊張や不安を解きほぐす為に他愛の無い言葉を交わす。辺りを見回しながら歩んでいると不意に幼子へ向けて差し出される二つの品、素気無いものの彼なりの気遣いを持って接する様子は何とも微笑ましく 「お、お兄さんから貰ったのかい?良かったなあ。遠慮せず食べていいぞ」 内容物が半分ほどに減った容器の中に鼻先を近付けて匂いを嗅ぎ、一つ齧っては表情を緩めるさまに目尻を緩めて。小さく紡がれた御礼の言葉は相手に届いただろうか。軽く髪を整えてやり露店の周囲を見回す。店主に声を掛けようとしたところ、耳元で発せられる嬉々とした"おかあさん!"という言葉と呼応する声。其方に視線を向けると,丁寧に結われた髪を乱し不安を顔に書いた表情が喜色と安堵に綻ぶ浴衣姿の女性が映り。腕の中でもがく幼子を地面に下すや否や、抱き合って再会を喜ぶ二人の心温まる光景を少し離れた位置から眺めて。母親が見知らぬ唐揚げの容器を不思議に思ったのか、子が此方を指差し何かを懸命に語っている様子が窺える。連れ立って此方にやって来ると何度も頭を下げ御礼の言葉と共に差し出された容器を受け取り、笑み浮かべながら 「いやいや、気にしないでください。見つかって良かったです。な?」 隣に立つ彼を肘で軽く小突きながら目配せをして)
(有難うな。…と言いつつ、待たせてしまってすまん。
昨日は猫の日だったな。本丸にも猫が居るだろう。遊んでやったかい?
梅に鶯は花札にもあるからなあ。
俺も蝋梅は見たぜ。きみは梅を見に行ったかい?
俺やきみの背後が暮らす時代は甘味を重視しているらしいけどな。
渡せて良かったぜ。南蛮の菓子を作るなんて初めてだから、その…期待はし過ぎないでくれ。)
(すまない、大分待たせてしまって居る。
ああ、彼方此方得物に対し飛び回る猫の脚力は凄いものだと改めて知った。
梅は近くに咲いているだろう。見に行った。
俺の場合は白梅だがな。
有難う。…がとーしょこら、だったか。美味かった、またあんたのものを食べたいと思うくらい良いだろう。
如月も末、今月も世話になった。刻一刻と迫る春の訪れに何処か懐かしさを感じる。
体調には気を付けろ、俺も気を付ける。文の返事はその内。すまない。)
(いいや、構わないさ。それにしてももう弥生とは月日が経つのは早いなあ。
と…飛び回る?そりゃあ驚きだな。丸くなって寝ているもんだと思っていたぜ。
白梅も好いな。何となく桜に似ているから、春が待ち遠しくなる。
口に合ったなら何よりだ。ふふ、きみが望むならいつでも作るぞ。
どうやら花粉症が流行り始めているらしいからな。きみも体調には気を付けてくれ。)
(大分日が空き、待たせてしまっている。
既に弥生も中腹、月日の流れは早いものだ。
今日一日は春先とは思えない冬の気候だった、あんたは風邪を引いていないだろうか。
否、そんなことは如何でも良い。
南蛮に伝う、先月のお返しとして今日が指定されているらしい。
俺は何が良いか分からなかったものでね、適当ですまないがこれで許せ。(縦縞模様、彩とりどりの飴玉が入った透明で小さく白い紐が蝶結びになっている装飾の小袋を懐から取り出し)
(気にするな。この時期は何処も忙しないな。
きみと出逢った日まで、あとひと月と少しか。
時間ってのは本当に矢のように過ぎていくなあ。
心配有難う。確かに冬に戻ったような気候だった。
此の頃は春一番か、風が強い。飛ばされていないかい?
へえ、洒落た日を作るもんだ。…これ、きみが選んだのか?(包装越しに見えるは和風の細工が為された色彩豊かな甘味の珠。嬉々と双眸輝かせつつ両手を伸ばし大切そうに受取り、視線相手の黄金に向け)
(ありがとう、恩に着る。春先だ、何処も忙しないのも頷けるだろう。
考えれば既に弥生は下旬か。桜、何時が見頃だろうか。
あっと言う間の一年だった、春先の出逢いがつい先日のように思える。
飛ばされるわけがないだろう。俺は確りと此処に居る。
あんたこそ飛ばされないか心配だ。
…俺でなければ何と言う。(何処か嬉々と輝く眸奥に安堵の吐息を密かに吐き出し、和風にて見目色鮮やかな手毬飴に注視する金の飴玉を思わせる双眸の視線と絡み合わせ、確りと頷いて意思を示し)
(ふふ、全くだ。やり取りを見返すと、初々しくて笑ってしまうぜ。
俺だって飛ばされないさ。一度くらいは飛ばされてみたいもんだがな。
きみは趣味が良いなあ。…嬉しい。有難う。(首肯と共に徐々に表情綻ばせてゆき、感心と満ちる喜色を逃がさぬよう包みを胸元に抱いて)
そういや、平成できみの本霊が展示されるらしいぞ!
その日は桜が満開になるそうだ。桜にまで祝福されるとは、春の三番の異称に相応しい。嬉しいもんだ。)
(もう少しで年度末、卯月も近しい。
其れでもお前が空に飛ばされたら俺が捕まえに行く。
桜も綻び始めた、…春だな。
喜んでもらえたならば良い、俺も嬉しかった。
…摘まんで見たりすれば、お前の退屈凌ぎにもなるだろう。(自身が想い秘めたる胸元の箇所と同じように抱える姿に眦微かに和らげて)
平成で本霊…ああ、そうだな。
お前は本当に自分のことのように喜ぶ。其の異称に相応しく在れるように努める、有難う。)
(何て事を言っていたら卯月だぞ。慌ただしい時期だな。
…ん、きみが来てくれるなら安心だ。心置きなく飛ばされておこう。
風もだいぶ暖かくなったし、桜も満開。春だなあ。
目にも楽しいってやつか。きみも分かっているじゃないか。
今度一緒に食べようぜ。(視線戻すと穏和な表情の相手に双眸を細め)
(きっと卯月も瞬く間に過ぎ行くだろう、季節とはそう言うものだ。
…勝手に何処か行ったら知らないからな。
こうも満開となれば、お前と邂逅を果たした日を思い出す。
いらない。それはお前に贈ったものだ、俺が食べてどうする。(ため息を唇から滑らせ頭部左右に揺らし)
(嗚呼、あっという間に春が過ぎて夏が来るんだろうな。
おいおい、見捨てるのかい?まあ、ちゃんときみの元に戻るさ。
…懐かしいなあ。少し気は早いが、あれからもう一年か。
こういうものは一緒に食べた方が美味く感じるだろう?これだけあるんだからきみが食べたって良いじゃないか。(刹那不服気に眉間を狭めるも包装を片手に持ちかえ強請るように強弱をつけて腕を引き)
(二度目の夏か。桜から葉桜に、終われば藤と紫陽花。今年も新緑がまた見れるとはな。
お前が戻って来るならば尚更だろう。余りに何処か行ってしまえばそれこそ迎えに行く。
…それに、一年経った実感が未だ無い。
序でに言うが、漸く暇がそろそろと出来るようになった。
分かったから、やめろ。…それで?其処まで言うからにはお前が俺に食べさせてくれるんだろうな。(強弱込める腕の引力を片方の手で制して告げ、彼の手に持つ見目彩る色彩の包装一瞥して姿へ視線見据え)
(二度目の夏でも暑さには参るだろうなあ。…時間が許す限り、何度でも見られるだろうさ。
迎えに来たきみと隠れ鬼をするのも楽しそうだ。見つけてくれよ。
確かに、体感は半年も経っていないようにすら感じる。
…お、そいつは何よりさな。機を逃さずゆっくりと身を休めるんだぞ。
流石は大倶利伽羅だ。物分かりが良くて助かるぜ。…これを、俺が…きみに?(渋々ながらも了承の意を聞くと表情を緩め大人しく腕から手を離し。然し、次いだ想定外な文言には包装を一瞥の後に呆けた面晒し、双の黄金を見遣り瞬いて)
(巡る季節は如何であれ、同じ季節は二度と巡らないから大切にしたいものだな。
またお前は突飛なことを。言ったからには見つけるからな。
一年とは早いな、桜も疾うに散った。
休んだら腕が訛った。刀だからだろうか、振るっていないと落ち着かない。
…お前がやらなければ俺は食べないからな。(解放された温もりの気配のむず痒さ誤魔化す為に余手で擦り。途端に綻んだ花が微かな震えを見せるような呆けた顔付きを一瞥、双眸に据える金の眼へ意思を貫く姿勢を変えずに)
(…きみはそういった感性が豊かなんだなあ。記憶の中で大切にしてくれ。
ふふ、意地でも探し出しそうだ。見つからないと泣き出す前には出て行こう。
催花雨かと思えば直ぐに散らしてしまったな。だが、桜は散る最期の瞬間まで美しい。
きっと刀だからさ。鈍った分は鍛錬して、戦場で刀を振るって来いよ。
…驚いた。随分と突飛な要望だな。いや、構わないんだが…(冗句とも取れぬ声色と真っ直ぐ過ぎる眼差しに、一度睫を下ろし声に面映さを含める。動物や短刀に対す餌付けと何ら変わらぬ行為に心拍跳ねる理由は一つ。小さく頭を振って躊躇を払い、紐を解いて包みから和柄の飴玉を一粒摘み上げ。二つ指に挟んだ其れを、形良い唇へと近付け)…ほら。
(言われなくともそうする。お前も、そう言ったものは大切にすれば良い。
…それは幼い頃の話だろう、今となっては泣き出すなどしない。
桜は散った、季節の移り変わりを想う新緑もまた綺麗なものだな。
少し過ぎてしまったが、お前と俺が此処に顕現して一年が経つ。相変わらず此方の雑談でしか綴れない身だが、どうか此れから先も宜しく頼む。
…別に、良いだろう。(何処か困惑気なる銀の睫が震わす眦の眉目秀麗さに思わず知らず内に唾液を喉奥に嚥下して送り込む。自身から願い出たものとは言え、時差で此方も微かに面映さが伝わり。所在無さげに視線彼から外し、自身の頸元に伸びる紅と共に項を掻くも眼前に華奢且つ逞しさ思わす指先が迫る侭に此方も躊躇の意を見せ、覚悟を自身の中で固めては唇を近付けて和柄の飴玉を食み)…ん。
(そうさな。過ぎ行く季節も大切に抱き締めていよう。
すまんすまん。冗談だったんだが…そうか、きみは存外泣き虫だったんだな。
桜が散れば次は藤の花が咲く。いつか一緒に見に行こう。
…嗚呼、本当だ。もう一年が過ぎてしまったか。そう気にしなくていい。永く言葉を交わせたら幸いだ。此方こそ宜しく頼むぜ。
…これくらい、だしな。咎めちゃいないさ。(互いの間に漂う気まずさを誤魔化すよう指の動きに従い震える朱雑じりの髪を視界に捉える。柔い唇が手套から露わとなった指の腹に触れ、飴玉を艶やかな赤い舌で掬い取っていく単純な動作だけが時間の流れから切り取られたように緩慢と映り、その妖艶さに小さく咽喉を鳴らし。気も漫ろに胸中に沈殿する形容し難い感情を平常心で塗り固め、手を遠ざけると表情を窺い) どうだい?
(新緑の時季か、此れから先青々と茂るだろう。
……煩い、くそ。余計なことを口走った。
藤。…藤ならば下部の描写序でに見に行こう。今年は昨年よりもいろいろな景色を共有していたいものでね。
永く、お前の傍に在れるだけで良い。それで、彼方の叫びはお前のものか。
…それに、減るものでも無いだろう。(何処か所在無く彷徨う視線も彼の胸元に光る、独占の証を示す梵字の胸飾りが鈍く煌く心地で密かに優越の感を抱く。緩慢と唇で食み、彼の眼を形にしたかのような飴玉を至極丁寧に咥内へ迎え入れると共に舌先を始めとして蜜の味含む悦のまま転がし、遠ざかる華奢で白絹思う手指を思わず掴まえては一寸の甘味も残さず食そうと飴玉摘まむ指の先へ徐に想いの丈を微かにぶつけるかの如くに唇を寄せ)
(緑が濃くなっていくんだろうな。それからすぐに夏になる。
あっはは!いや、可愛らしいじゃないか。今はもう泣かないのかい?
藤の前に躑躅…?まあ、きみと見られるなら何だって構わないぜ。俺もきみと同意見だ。
!…たったあれだけで気付いたとは、驚いた。…正解だよ、よく見つけたな。
…それもそうだな。(ふと同様の行為を求める相手の貌が脳裡を過り表情が翳る。然しそれも寸刻、暗鬱とした劣情の靄が胸中を巣食う前に密やかに息を吐き。些細な表情や所作が網膜に焼き付き離れず顔を見る事も憚られる。顔を伏せ紐解いた包みの中に視線を向けては飴玉を択ぶ素振りで燻る熱が治まるのを待とうと試みるも、引く手に次いで舞い戻る柔らかな感触に反射的に面を上げ呆け面) 俺はどれにし――…え。あ…、大倶利伽羅…?
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