大倶利伽羅 2015-04-14 21:18:45 |
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(寝坊助にはならないようにしている。
それも困難な時期が、此れからやって来るんだな。
…見つかった、か。
別に、俺は思ったことを口にしたまでだ。
そんな戯言を預かるお前はかなり物好きだろう。
遅れてすまな、…待たせた。
それと、特別な日だからと背後から言うことを脅された。
何故こんなことを…、…めりーくりすます。)
(ふうん。目覚ましの声が必要なのは君の方だったりして。
…暖冬と言われても寒いものは寒い。いっそ雪が降ればいいんだがなあ。
君達の言葉に触れる事が多いからか、俺を真似ていたからか直ぐに分かった。
…卑怯とまでは言わないが、君も十二分に狡い男だな。
何とでも言うがいいさ。こんな物好きも酔狂も、俺だけで良い。
嗚呼、今日は南蛮の祭事だったか。枕元に靴下を引っ掛けて眠ったかい?
そういや、俺のところにもさんたが来たぜ。
…めりーくりすます。佳い一日を過ごしてくれ。)
(声がなくとも、お前と共に眠りこけるのなら別に構わない。
雪。…積もれば、お前は埋まってしまいそうに感じる。
良いだろう。…まだ、口にすることが出来ない故にだ。
狡い男なのはお前もだろう、国永。お互いさまだ。
それ以上言うな、――っ嗚呼、くそ。調子が狂うだろう。
靴下はもう引っ掛けていない、子ども扱いをするな。
さんた?…嗚呼。俺の所にも来た。
昨晩の望月は見たか。…お前の眼のようで、見惚れるほどに綺麗だった。)
(言い忘れていた、すまない。
三百を越えたこと、某叫び板での足跡を嬉しく思う。
もう一度巡りめく季節とただお前の隣に在れたら、それでいい。
残念ながら、あの数字の意味は良く分からないでいる。
お前の唇から直接、聞きたい。)
(二人で仲良く寝過ごして、長谷部の説教を受けるかい?
雪遊びは好きだぜ。俺はあの白に埋まっていたいんだが、雪の方が先に溶ける。
こういう場で口にするのも、なあ。雰囲気も驚きもなく、つまらんだろう。
だが何も言わずに君が離れてしまうのも惜しい。
…調子でも何でも狂えばいいさ。なあ、大倶利伽羅。
あっはは、そうか。その言葉だと、以前は引っ掛けていたんだな。
さんたが来たなら重畳。君はいい子にしていたんだろう。
目に望月を二つ浮かべているのは君もじゃないか。…確かに綺麗だった。
此方こそ。君の記した言葉も本当に嬉しかった。
数字は大した事じゃあないんだが、君に解いて欲しい。
――…いろは唄を数字にして、読んでくれ。)
(説教については俺がお前を褥に引きずり込んだことにしてすれば良い。
まったく、お前は…。遊ぶのも程々にしろ、俺は掘り返したりしないからな。
嗚呼、そうだな。言うべき所は、もっと相応しい所で口にしなければならない。
?…俺はお前から離れる気は毛頭ない。
うるさい。
そんなことはどうでもいいだろう。
俺がいい子ならば、お前もいい子にしてたんだろう。
これからあの月は、欠けるのか。
(桜吹雪)…――っ!すまない、…止まらない。)
(真昼の街中以上の人口密度と賑わいの中、濃紺の夜空を見上げる余裕も無く芳ばしい香り漂わせる熱々の唐揚げの容器を隻手に人混みの喧騒を縫い歩んで行く。道行く者の多くは絢爛な装飾や十人十色の可憐な柄の浴衣を纏う女人、緩んだ衿や愛らしく結い上げた御髪に因り白い項を晒している姿な何とも艶めかしく、好悪に関わらず無意識に目線が取られてしまうのは男の性だろう。次いで視界を過るは指を絡め睦まじい様子が窺える男女二人組、彼らのような関係を望まずには居られぬ蕩けた思考を夏の宵の熱の所為にして薄く汗ばんだ掌に蘇る先の感触に拳を握り締め自嘲めいた笑声を吐き。それでも親子連れや女人の多い列の最後尾に懸想の相手の姿を捉えると胸中は高揚を抑え切れず自然と頬も緩み。小走りに駆けようとした矢先に腕掴む感触と後方に引く力、歩み出す事は叶わず反射的に振り向いては甚平姿の見知らぬ人間が立っており。怪訝そうに首を傾げ唇を開こうとするも"女の人ひとりなんて危ないよ。良かったら一緒に回らない?"女人に対す誘い文句に開いた口が塞がらないとは此の事で、憮然とした面持ちで何度か瞬くも綿菓子の列を一瞥すると何やら機械の中で棒を掻き回す相手が見え、 「俺は男だぜ。他をあたってくれ。」 揶揄うような笑みと共に小麦色の肌の手を掴み引き剥がすと、目を白黒させている青年を余所に竜の打刀の元に向かい。雪白の淡い甘味に口を付ける手前、辿り着くと殆ど変わらぬ身の丈故に並ぶ肩。先程の男女の姿が脳裡を過り胸の奥を弱く締め付ける。周囲の声に紛れぬ穏やかな低音と己を優先する相手の優しさに目尻を緩めながら、 「一口目を譲るとは優しいなあ。…有難う。いただきます。」 唇を寄せて一口齧り、名の如く綿が引くような感と口内でじわりと溶ける素朴な甘さに表情を綻ばせ) ん、美味い。…君はこっちを食べてくれ。きっと美味いぞ。 (代わりに唐揚げの一片に楊枝を刺し其れを相手の形良い口許に近付けて)
(…それは…その、あらぬ誤解を受けるんじゃないか?
おっと、つれないな。君が前を通りかかった時には驚かせてやろう。
そうさな。…君は本当に…、俺の杞憂だったという事か。
あっはは、厳しいねえ。まあ、それでもいいさ。
そんな事はないさ。君の幼い頃なんて気になる。
勿論。俺はいつだっていい子だぜ。
これから少しずつ小さくなって、見えなくなるな。
拙い説明と言葉の意味が伝わったなら何よりだ。
ふふ、君はよく桜を散らすなあ。)
(あらぬ誤解を受けたとしても、褥で共に寝た事実は強ち間違ってはいないだろう。
はあ…お前と言う刀は。掘り返すからじっとしていろ、何にしても必ず見つけるんでね。
杞憂。お前の杞憂が晴れたなら、それで十分だ。
何を思っているのかは知らないが、俺にはお前だけだ。
厳しくしなければ、俺はお前に甘えてしまう。それも、砂糖を吐くような。
気にならなくていい。聞いても面白くもなんともないだろう。
そうか。…じゃあ、今年最後の満月が見れたと言うことか。
伊達に春の三番と呼ばれていないからな。
改めて。
春先にお前と出逢ったこの年ももうすぐで終わりを告げる。
お前に出逢えて、本当に良かったと思っている。ありがとう。
拙い俺で良ければ、背後共々…――否。俺は何を言っているんだ。
馴れ合うつもりはない、と思っていたものが…嗚呼。俺も随分と、毒されたものだ。
どうか来年も、共に巡る季節を。)
(そう…か。……いやいや、待て。君、大胆だな。…驚いた。
俺は君の驚いた顔も好きなんだがなあ。…隠れ鬼なら仕方ない。
君のそういう所は本当に男前だな。有難う。
甘えてくれていいんだぜ。そんな一面を見られるのも俺の特権というやつだろう?
君の事を知りたいと思うのは当然さ。…今度光忠に聞いてみるとするか。
お、確かにそういう事だな。君も同じものを見たと思うと嬉しい。
…ふふ、流石は春の三番。本物の桜を纏った姿も見せてくれよ。
…君からは嬉しい言葉を貰ってばかりさな。本当に有難う。
断ち難いと感じ得る縁に巡り逢えたのは、春の日の君の言葉の御蔭だ。
卑下も謙遜も要らない。俺は君達が良いんだ。此方こそ、背後共々宜しく頼むぜ。
…これからもどんどん俺に絆されていってくれ。
来年、そして次の年と――君と永く共に在れますように。)
(相変わらず遠くから盛り上げる為に響く和太鼓の音、熱気が籠らんばかりの人混みは何処も彼処も賑やか。不意に見上げると月は少しずつ時間が暮れる度に夜更けへと傾いており、夏季だと言うのに其処ばかりは涼やかで神秘的なものを思わせる。目的のものを手にしながら屋台から伸びている列を外れ、もう一度行き交う人々の中に紛れ込むように歩き出す。時折すれ違って行く、世間話や眼前の出来事に花を咲かせる男女の姿や女人の団体。その中でも恋仲である人らは目立って気になり、ふと離れるまで繋ぎ合わせていた手を握り込んで微かな普通に対しての劣等感を抱くもののさして気になる程でもなく。そうして歩いて見つけた彼の後ろ側には既に男がおり、それを振り払うようにして彼が此方側に来ると少し遠くで目を丸くさせたまま立ち竦んでいる男に含んだ視線を向けて睨みつけ。途端に男は蛇に睨まれた蛙となり、その場から踵を返すように去って行く背中を見送る事もなく早々に視線を外して。「…傍から離れるな。」距離と共に傾けたぽってりとした桜の、綺麗で形の良い唇が近寄って来るともなればそれに少し見惚れるような目元となりつつ譫言のように続けるも彼の一言によって見入っていた世界から一気に現実へと引き戻され。甘やかなる顔を浮かべる彼に此の侭何処かへ手を引いて去って行きたく思うも、その思考は熱気蒸す夏の所為にして脳裡から追い出す。眼前に差し出された食欲を唆す唐揚げ、身を寄せる為に近づいた時に触れる微かな手元の肌。其れほどまでに近い距離だった事を思い知りながら、そのまま手元の食指一本を彼の指先に絡ませるように擦り付けて唇で食むように唐揚げを咥内へと運び入れ。咀嚼をしてみると程よい辛みと肉の柔らかさに、「ああ、美味い。」良く味わって食べながらその香りが口の中で広がっていくのを感じつつ次の屋台へと視線を配らせると歩く速度はゆっくりめながら自分も綿菓子を食べて周りを見物し始め。)
(?褥で共にする事で何か困る事でもあるのか。
勝手にしろ。隠れ鬼なら、雪に紛れ込んだりするな。肝が冷える。
嗚呼、つくづく敵わない。俺も、弱ったものだ。
あと光忠には聞くな、あいつは余計な事まで言う。だから止せ。
俺の桜よりも、お前の方がはるかに似合いだろう。
それこそ、目出度いんじゃないのか。
嬉しく思える言葉を有難う。
明けまして、おめでとう。現世で言う二千十六年が来た。
らしくもないがこの年も、明くる年も。お前の傍に永く在れたらと思う。
その中でまだ見ぬ景色を、共に見て行きたい。
お前こそ、俺に絆されてくれ。かくいう俺は、もうお手上げだ。)
(あるに決まっているだろう…!正気か?君にとって共寝は――っ…否、何でもない。
確かに雪とは同系色だが、君ならちゃんと見つけてくれると信じているぜ。
その余計な事が知りたいんだ。貞宗が来ればもっと詳しい事も分かるのになあ。
桜の美しさには目出度いも何もないが、叶うなら赤に染まりたいねえ。
…ただ、君からあの飾りを貰ってから薄紅の色も好きになったぜ。
明けましておめでとう。
新年早々、君からの嬉しい言葉を貰えて幸せだ。幸先が良い。
年の移ろいはあまり関係ないが、節目に改めて――これからも宜しく頼むぜ。
五条が一振り、銘を国永。
分霊に過ぎぬこの身だが君達の幸福と更なる躍進を言祝ぎ奉る。)
(―――!す、まない。意味を、はき違えていた。悪い。
嗚呼。見つける、それ迄に眠るな。眠っていても見つけるが。
否、眠る前に見つける。
貞宗はもっと余計だ。お前は一体何を聞き出そうとしているんだ。
桜も、良いものだろう。あれはお前に、良く映える。
俺こそ新年早々に嬉しく思う。幸先が良いな。
馴れ合うつもりはないが、お前とならば宜しくしたい。
無銘刀、大倶利伽羅。誉なる目出度い鶴の名を冠した五条の、銘を国永へ。
千代に八千代に、お前らに幸があらんことを願う。
まったくお前と言う刀は、何故こうも俺を喜ばせるのが上手いんだ。)
(季夏の夜の蒸暑と露店や人混みの熱気、活気に皆が一様に浮足立った広い神社の中。夕涼みとは程遠い空間の中で石畳の通路を犇き合う人の中に紛れる刀の付喪が二人、ほんの僅かな時間且つ互いの姿を視認出来る距離にあったにも関わらず、長らく離れていたかのような錯覚を抱くは、就寝時や互いの出陣時以外を共に過ごす事が多かった故だろう。中性的な顔立ちである事は薄々自覚はあったものの、身の丈や鍛えた体躯は男性そのものであると自負していた故に、勘違いは少々心外なもの。同時に斯様な情けない光景を相手に知られる事も憚られ素知らぬ顔で歩み寄るものの、寸刻の間のみ己の背後に鋭利な眼差し向けた後に呟き落とされた言の葉に鼓動は高鳴り。気まずさ逃がすよう項背を掻きながら参ったと言わんばかりに僅か眉尻を垂らし。 「気にするな。…それにしてもきみ、そんなに睨んでは人の子の寿命が縮むんじゃないか?」 伏目がちに淡雪の如く咥内でじわりと溶けゆく甘味を一口堪能し冗句交じりの文言を吐きながら曖昧に口許を緩めて。差し出した手を掴む事無く、己の白に絡む無骨ながら繊細な褐色の食指のもどかし気な所作に僅かに身動ぎ。互いの距離感を自覚するは同様で、薄い唇がやおらと開き揚げた肉片を咥内に含むだけの行為が酷く扇情的に映り、幾度も見ているにも関わらず間近での其れに僅かに眦を下げ生唾を呑むように小さく喉を鳴らし。淡泊ながら何処か満足気な感想に我に返り、熱に浮かされたような思考を小さくかぶりを振る事で追い払うと相手の斜め後ろに付き歩みながら、先程の相手の様子を思い出さぬように心がけつつ唐揚げを楊枝で刺し一つ口に運び。) …君はそれだけじゃあ足りないわな。何か並ぶなら付き合うぜ。
(――っ!…き…、気にしないでくれ。…眠るだけならそれで、良いんだ。
雪の中じゃあ眠るにはちと寒すぎるぞ。君が掘り出すのを待ってる。
そりゃあ君の愛らしい頃を…なあ?俺が皇室に行った後の事も気になるしな。
君にそう言われるのも嬉しいが、桜は好きだ。…美しく滅びるものにこそ血が騒ぐ。
…君達の慶福を願える事がこんなにも幸せな事だとはなあ。
喜んで貰えて嬉しい。あと、…君こそ有難う。
俺の後ろは左胸を押さえて蹲っているぜ。男前も程々にしてくれよ。)
(…―ああ。否、…お前が傍で眠るとなれば俺がもたないだろう。きっと。
貞宗に迫るのは止せ、何か聞き出したい所があれば俺が答えてやる。それでいいだろう。
刀の本分は絶対的だ、滅び行くものに悦を覚えるのも必然なものだ。
そう言う此方の背後もお前の誠実さにいたく胸を打たれている。
幸せな事は良いことなんじゃないのか。お前と、これからの日々を歩みたい。
本文はもう少し後だ。すまない。
此方の任務も落ちついて来た、だから余裕が出来た時にでも直ぐにしたためる。)
(や、……それ以上は言わないでくれ。この話は止そう。いいな?
君に聞きたいのは山々なんだが、まともに答えてくれないだろう。
ふふ、君もかい?ひとの身を得たとはいえど、俺達はちゃんと刀なんだな。安心した。
誠実?…いや、俺には程遠い言葉じゃないか?此処には好きで来ているしなあ。
…、幸せ過ぎて持て余してしまうくらいだ。君も、そうだといいんだが。
嗚呼、急かす気はないからな。無理のない範囲で筆を執ってくれ。)
(夏季と言う季節も手伝って熱覚めやらぬ雰囲気は相も変わらずに何処も彼処も喧騒に溢れ、煩わしいばかりな人々の混みように普段よりも悪くないと思えるのは今傍らに居る彼のおかげだろう。然しそれだけ人も多ければ矢張り十人十色。先の彼に気安く声を掛ける輩も居ると言うのは紛れもない事実であり、その事について少し不安なるものに胸が翳り。自然と眉も寄って肌に触れる空気が滲む感を覚えるも、「縮んだだろうが何だろうが、どうでもいいな。」危機感のあまり持ち合わせていないさまを見ると気が抜けて肩を落とし、吐息を深く詰まった胸元から唇へと逃がすように吐き出して。その息も未だに色がつかない夏の時期、額に光るは滴の玉。彼の指へ微かに絡ませた己の手元、少しでも欲を掻き立たせる真似をすると迷わずその白く幾らか華奢な手を絡め取ってしまいたい衝動に駆られて初めてこの場における特別な感情を奮い立たされ。その熱気籠る胸元の奥に潜んだ燻りは火薬に火を灯らせてしまう前に見ぬ振りをし、同時に指先で少し手元を巻きつけてから滑り引いて行くように手を引き上げつつも己と同じような葛藤を彼がしている事は露知らず。熱も浮かされた心を持つは行き交う人々も己も例外ではなく、すぐ傍にいる想って止まない彼との時間はいくら混んでいようともまるで二人だけの世界に迷い込んだように思える。その思想を振り払うべくゆったりと双眸を瞬きさせ、いざ露店に目を向けた刹那に足元へ柔い衝撃。必然と其方を見てみると短刀くらいの見目をした人の子の子ども、愚図り泣いている姿を見るや恐らく親族と離れ離れになってしまったのだろうと窺える。「…おい、お前。」控え目に声の質を落として唇を開き、その子どもも限界だったのか足元にしがみついて離れないようで仕方ないと言ったようにため息をこぼして。通りすがる人々も迷惑そうな視線、触らぬ神になんとやらと言いたげに彼と己、そして子どもも含め避けて過ぎて行く。泣き過ぎてしゃくりあげている姿、少し困惑したようにすぐ傍らの相手へと視線で問い掛け。)
(分かった、止めにする。
まともに答える気はないからな。かと言って貞宗や光忠に迫るのは止めにしろ。
刀であるからこそ、俺とお前…他の奴も戦う悦びを知れるんだろう。
そうか。俺も好きで此処に足を運んでいる。
お前が幸せに溢れていれば、それだけで十分だ。
実の所、俺も持て余している。如何すれば良いんだ。)
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