ネコ時々イヌ 2015-04-07 17:49:51 |
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「政略結婚」 多分長編…になると思う。
「-----は?お父様、今何とおっしゃいましたか?」
父、母、祖母、祖父、兄、妹。そして私を入れてだだっ広い居間に家族全員が集まり、少し大きめのテーブルを囲んでいる。
私は真正面に正座して座っている父に眉を顰めて問い返した。
「空[そら]、信じられないのは分かる。だが、決まった事なんだ。空と園田財閥の御曹司、園田 巧[そのだ たくみ]氏が婚約する事になったのは」
そう、これが今回の家族会議の議題だ。
深刻な顔をしていたと思えば、突然何を言い出すんだお父様は。
まだ小学校6年生の妹が私の服の裾を掴んで不安そうに見上げてきた。因みに私は高校2年生だ。
妹の頭に手を置いて微笑む
「海[うみ]は心配しなくても大丈夫だよ。」
「…ん。ほんと?空おねーちゃん、大丈夫?」
「うん。海は優しいね」
「へへ」
大丈夫と聞いて安心したのか可愛い笑顔で抱きついてきた海の背中に腕を回して軽くポンポンとリズムよく叩く。
ああ、何で海はこんなに可愛いんだろう。私もこんなふうに可愛くなりたかった。無理だろうけど
そしてお父様に向き直る。
「婚約をしないといけないのは分かりました。ですが、何故そうなったのかの経緯を教えてください。」
「ああ。我が矢崎[やざき]財閥の経営ははっきり言って苦しくない。寧ろ売り上げも伸びて順調、だからこそ空は疑問に思うんだろう?」
「はい。安泰しているから、政略結婚にはならないとお母様が以前おっしゃっていました。」
視線をお母様に一度向けるとお父様もつられてそっちを向いた。
「…そうか。確かに数日前まではそれで良かった。だが、数日前----」
「父さん。僕は巧氏との婚約は反対です。何故、空が相手を勝手に決められるのですか」
「陸[りく]、僕だってこの婚約は本意ではないんだ。」
「ならなんでッ…!」
さっきまで顔を俯けて聞いていた陸お兄様が不満そうな声を上げている。
お父様は陸お兄様の様子に困り果てたように眉を下げてしまった。その近くに座っているおばあ様、おじい様は静かに成り行きを見守っているのか先程から一言も話さない。
「…陸お兄様。私なら心配いりません。大して好きな人も出来た事がありませんので、寧ろ決めて頂いた方が助かります。」
「っ、空。…我慢しなくていいんだぞ?お兄ちゃんは味方だ」
「ありがとうございます。けど、これは私が決める事です。陸お兄様は気になさらないでください。」
いくら仲が良いとはいえ、心配を掛けてしまうのは申し訳ない。
それに、決めてもらったほうが本当に助かる。私モテないし、絶対結婚なんて夢のまた夢。それなら政略結婚でも何でもしたほうが何倍も楽。
今は好きじゃなくても、後で気持ちがついてくるかもしれない。
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今出た登場人物まとめ
私 → 矢崎 空[やざき そら] 高2
兄 → 矢崎 陸[やざき りく] 大学生
妹 → 矢崎 海[やざき うみ] 小6
父 → 矢崎 哲郎[やざき たくろう] 社長
母 → 矢崎 史子[やざき ふみこ] 社長夫人
祖母 → 矢崎 薫[やざき かおる]
祖父 → 矢崎 昌介[やざき しょうすけ]
出てくるごとに増やします。
渋々言葉を引っ込めた陸お兄様に申し訳なくなってくる。
私のために言ってくれたのに…私ってやつは。妹失格だよ
「…空、そろそろいいかい?」
「あ、はい。」
「じゃあ、話すよ。数日前、いきなり僕の会社に園田巧氏の父親、僕の古い友人から連絡が来てね。急に会えないか、なんて言い出すもんだからその日のうちに話を聞きに行ってきたんだ。」
「それで、何とおっしゃっていたのですか?」
「それが、"僕の息子が空ちゃんのことを気に入ったらしくてね。どうしても会いたいと言うんだ。それと出来れば結婚したいとも言っていてね、どうだろう?"ということだったんだ。」
「は?」
まさかそれだけって事はないよね?
お母様を見ると苦笑を浮かべて私を見ていた。
その笑みはどういう事を意味しているのか。怖くて聞けない。いや、聞かなくても何となく分かりました
あれだね、つまりその巧様が私を何処かで見て気に入ったからぶっとんで婚約話になったわけですね。
「それをお父様は受け入れた、という解釈で宜しいですか?」
「…ああ、すまない。押しに負けてしまって」
「…いえ、いいんです。」
お父様が押しに弱い事は幼い頃から学習済みです。私が欲しいオモチャを買ってほしいと強請った時、最初は『駄目だ。戻してきなさい』と言っていたのに私が『何で駄目なのですか、お父様?』と言うとすんなり買ってくれた。
これは流石に押しに弱すぎるだろうと思う。これでよく社長が務まったものだ。
「空おねーちゃん、わたしが代わりに結婚しちゃだめなの?」
「え?どうしたの、海。」
「だって、おねーちゃんかわいそーだもん。」
くっ、なんていい妹なんだろう。
未だ抱きついている海を見ると純粋な瞳が私を真っ直ぐ見据えていた。
純粋からは遠ざかっている今の私にはきつい攻撃だ。
「ううん。いいんだよ、私は自分で決めたの。それに海には好きな子がいるでしょ?」
「うん!いるよ。」
「じゃあ、海は好きな子と結婚しなきゃ。じゃないと、私も幸せになれないよ」
「そーなの?…んー、分かった。空おねーちゃんが幸せなるなら好きな子と結婚するー!」
「応援してるから、頑張るんだよ?」
「がんばるー!」
元気に返事しながら頷く海はまさに天使のようだ。
そしてここまでで家族会議は終わった。
まだ現実味がない。いきなり呼び出されて居間へ行くとぶっとんだ理解不能な私の婚約話で、しかも私を気に入っただとか凄い物好きがいるのが発覚した。
やだ、怖い。
ちょっとした放心状態で自室へ戻ると、直ぐに誰かが部屋の扉をノックした。
「どうぞ。」
と言うと扉が開き、入ってきたのはお母様だった。
「?お母様、私に何かご用でしょうか?」
「ええ。空さん、本当にお受けしてよかったの?」
「はい、流石に合わないと思いましたら考え直しますが、一度会ってみてから次はきちんとしたお返事をさせて頂きます。」
「そうするといいわ。空さんが選んだ事に私は口出しなんてしないから、頑張りなさい」
「はい、お母様。」
私はいつも、お母様の言葉に安心する。
何故だかは分からないけど、包容力のある物腰と声音、それに付け加え柔らかい表情。全部が私を安心させるためにあるようなものなのだ。
思わず笑顔になるとお母様が私の頭を数回撫でた。その心地良さに目を細める。
「そういえば、哲郎さんが巧さんは貴方と同じ学校に通っていると言っていたわ。学年は1つ上だと言っていたけど」
初耳だ。
あんなお金持ちの御曹司が同じ学校?しかも意外と年が近いんですけど、どこぞの変態おっさんだと思ってたなんて言えない。
でも、そうか。若い人なんだ。
「あの、そうなると…巧様は学校で私を見かけて、という事なのでしょうか?」
「そうねえ。そうなるんじゃないかしら?」
お母様は小首を傾げながらも口では肯定の言葉を発した。
うっそ。私見かけた事ないんですけど、どこで私の事を知ったんですか。
「…明日、学校で探してみます。」
「分かったわ。どんな方なのか、帰ったら聞かせてね。」
「はい。」
楽しみそうに手を振ったお母様はそのまま私の部屋から出て行ってしまった。それを見送ってからベッドの端に座る。
ああ、どうしよう。そうだよね、私どんな人なのか知らないんだ。怖い人だったらどうする?酷い人だったら?女遊び激しかったら?
モンモン。
一度不安になると徹底的に気分が沈んでいく。私、大丈夫なのかなあ
私の心はもうどん底だ。這い上がりたいのにズルズルと闇に引きずられていく、そんな心情。
力を抜いてベッドにゴロンと寝転がる。
いっそ仮面夫婦にでもなっちゃえばいいんだよ。…あれ、でも巧様、私の事気に入ったとかなんとかいって----あれ?
「疲れてるんだ。うん、もう寝よう!」
考えるのを止めた私は布団に潜って目を瞑った。
その後、なかなか寝付けずに悶々としたのは言うまでもない。
「巧くんっ、私お弁当作ってきたの!食べてくれる?」
「ちょっとぉ、何抜け駆けしようとしてんの?私の巧くんよ!」
「はぁ?自意識過剰なんじゃなあい?」
「みんなのものだよ!!」
「はは、…みんなおはよう。元気だね」
……。
「…なに、これ」
こんなに分かりやすい所にいるとは思ってなかった。いや、まあ、目立つんだろうとは思ってましたよ。流石にここまでとは予想してなかったけど
私が今いる場所は校門。
見つけ出して取り合えず今日は様子見でもしようと思っていた矢先、校門前にある集団に遭遇したわけだ。
興味本位で誰がいるのか覗いてみたら"巧くん"なんて昨日聞いた名前が早速呼ばれてるもんだから吃驚した。
そうか、この集団に囲まれてるのが巧様なんだ。
…それにしても凄い人気。何も私じゃなくたってこの中から美人な子選び放題じゃない?金持ちの考えることが分からない。
あ、私もか。
人が囲んでいるせいで巧様の姿は確認できない。この分じゃ、今日は無理そうかな。
そう思っていると急に肩を叩かれた
「っ!無礼者!」
「ぶふっ…!!無礼者って、空。それ口癖?昨日も言ってたよ!」
「あ、彩。なんでいっつも、こう…普通に出てこれないの。いきなりされたらそう言うのが私流だよ」
「私流って…!」
何故かお腹を抱えて笑い出す私の親友、野口 彩[のぐち あや]。この子は掴み所がないせいかよく分からない性格をしている。
でも、このテンションが好きな私も多分少しおかしいのかもしれない。
お互いに顔を合せて笑い合う。友達と会えた時は何故か無性に嬉しくなる。
「じゃ、教室行こっか!」
「そうだね。」
彩に手を引かれながら、前の集団を避けて下駄箱へ近づく。
あ、巧様の顔一回見たかったんだけど…後ででいいか。もうすぐで予鈴もなっちゃいそうだ。
外履きから上履きに履きかえると、彩と並んで廊下を歩く。
「あ、そういえばさ、3年生の園田先輩婚約者が出来たとかなんとか言ってるよねー。」
「え、そうなの?誰に聞いた?」
「聞いたって言うか、3年の間で流行ってる噂らしいから耳に入って来ちゃってさ!」
早くない?私昨日聞いたよ?しかもきちんと受けるって返事してないし…それとも、私とは別の方と?
どっちでもいいけど、広まりすぎじゃない?こんな噂流したの誰なんだろ。
「あ、あの、あの、矢崎 空先輩!」
「!…え、あ、はい?」
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野口 彩[のぐち あや] 親友
園田 巧[そのだ たくみ] 婚約者
突然目の前に現れたのは、身長が男子にしては低い可愛らしい顔をした男の子だった。
男の子は私と目を合わせるなり、ほんのりと頬を紅色に染めた。
…どうしたんだろう。
「えっと、私に何か用かな?」
私とほぼ同じくらいの背丈の男の子を見て問い掛けると余計顔が真っ赤になってしまった。何故だ。私の顔が面白すぎて笑いを堪えているのかな、ちょっと失礼。
男の子は口を開いては閉じて、口を開いては閉じて、を繰り返している。
何をそんなに言いずらそうにしているのか。私の悪口でも言うつもりかな?僕の方が可愛いんだって。確かに私より可愛いけど
「その、…あの。」
「ん?」
声を発した男の子はチラリと彩を見た。
えーっと、彩がいちゃ言えない事?まさか、恋愛相談、とか?彩が好きだから私に?…協力するする!
「彩、ちょっと話してくるから、先教室入ってて。」
「うん、了解!」
何故か敬礼のポーズをして教室へ駆けて行った彩を苦笑して見送った後、男の子と人気のない場所へ移動した。
なんか、ドキドキしてきた。
今は屋上で2人で向き合うようにして立っている。男の子はさっきからずっと顔が赤いままだ。
年下の男の子ってこんなに可愛い物なんだね。キュンキュンだよ
本当に恋愛相談かはさておき、私相談されても役立たずなんですけど…。なんもできないし、逆に邪魔してしまいそう。
「そ、空先輩!」
「っ、はい!」
不意に叫んだ男の子の声に無意識に背筋が伸びる。
「あの、俺…1年の竹井 夏[たけい なつ]って言います。ずっと見てました!好きなんです。つ、付き合ってください!」
「うん、いいよ。」
「え…、本当ですか?」
「うん?…彩が好きだからどうやって振り向いてもらえるかの作戦を立てるのに付き合ってほしいんだよね?私でよければ、何でも協力するよ!」
「へ?」
情熱的な子なんだなあ。私に頼み込むなんて、そんなに彩の事好きなんだ。羨ましい。
どこか呆けている男の子…竹井くんの様子に首を傾げる。
あれ、私変なこと言ったかな。もしかして竹井くんの好きな子彩じゃないとか?ハッ、海!?
そう考えているうちに竹井くんは何時の間にか私の手首を掴んできた。
「先輩、まさかそうくるとは思いませんでしたよ。」
「え、え?ごめん。私役立たずだからてっきり彩の事かと…」
「そうじゃないんです。…どうして俺のこの熱い愛が伝わらないんですか?こんなに空先輩が好きなのに」
……。…え、今。わ、私!?
「漸く気付いたんですか?可愛いですね、こんなに鈍感だと他の奴等の好意にも全く気付いてないんでしょうね。ね、空先輩、俺のモノになっちゃいませんか?幸せにしますよ。誰よりも空先輩が好きです好きです好きです好きです大好きです、愛してます。めちゃくちゃにしたいほど、ね?」
両手首を強く握って顔を近づけてくる竹井くんはさっきの可愛らしさが微塵も残っていない。
獲物を狩る様な瞳に怖くなってきた。
「っ…。」
何か言いたいのに、声が出ない。
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竹井 夏[たけい なつ] 後輩、危険
「せんぱーい。逃げないでくださいよ。…俺は空先輩の返事を聞きたいんですよ?」
逃げ腰になって一歩ずつ下がる私の手首を掴んだまま近づいてくる竹井くん。
わ、私、告白とか初めてされたから分かんないけど、普通告白ってこんな感じなのかな?みんなよくこんな怖い告白されて嬉しがれるよね…。私はもう満腹です。
本当はこんなこと考えている余裕なんてない。でも、こんなんでも考えとかないと意識を保てない。
「た、…竹井くん。」
「!なんですか、先輩?」
「ごッごめんなさい!私、竹井くんとは付き合えない。お友達からとか…どう、かな?」
「……。」
急に黙り込んでしまった。
その沈黙が私にはきつい。どうしよう、無意識なのか掴まれてる手に力が入ってるよ、痛いよ竹井くん。後で見たら痕ついてそうな勢い。
「あの、竹井くん…?」
本当は逃げ出したいけど後が怖そうだから我慢する。
竹井くんは顔を俯かせてずっとその状態のままだ。その間私はハラハラドキドキしていた。
「…して、すか…」
「え?な、何?」
「どうして俺じゃ駄目なんですか!!?俺だったら幸せに出来るのに!何でなんですか!好きな人がいるんですか!?」
一気に捲し立てる竹井くんに真後ろにあった壁に背中をぶつける。声こそあらぶっているものの竹井くんの表情はどこか悲しげだ。
キュン。
うわああああ。こういうのが母性本能って言うのかな、何とも言えない。
「ごめんね。私、婚約者がいるんだ。だから、竹井くんとはお付き合いできない。それに私はまだ竹井くんの事よく知らないし、竹井くんだって私の事あんまり知らないでしょ?」
竹井くんは静かに話を聞いている。
かっわいい!ぎゅーしたいよ、ぎゅー。
目尻に涙を溜めて我慢している竹井くんは手を離して涙を拭った。
「私はまず友達になって竹井くんの事を知りたいんだ。…だからね、今はそれでお願いしてもいいかな?」
「…はい。…でも、いつか絶対振り向かせます。空先輩を幸せにするのは俺です」
少し赤くなっている目で見詰めてきた竹井くんはそう言って屋上から出て行ってしまった。
なんだか、嵐みたいな子だった。そして…めちゃくちゃ可愛かった。こういうのを萌えというのかな、ああいう子が彼氏だったら毎日萌えるのかな…って、駄目駄目。まだ決まってはないけど、私には婚約者がいるんだから
私はふわふわとした意識のまま午前中は授業に取り組んだ。
「そーらっ。朝、例の後輩くんと何話してたん?」
彩は私が教室に戻ってきてから休み時間は毎度この事を聞いてくる。それを私が曖昧に流して授業が始まる、の繰り返しだ。
今回の時間もそれで行こうと思っていたのに、今は昼休み。取り敢えず、長い。
「はいはい、ご飯食べよ。」
一体どのくらいこの話を流したら彩は諦めてくれるのだろう。
鞄からお弁当箱を取り出しながらそうぼんやりと考える。彩は私の前の席に座っている。
「もー、なんで教えてくれないんだよー!そんなやましいことしてたの?」
そういう訳ではないけど、そう易々と言えない内容だからな。
竹井くん、人に言われたくないだろうし、彩に言えないのは仕方ない事。もう少し彩が察してくれればな…。
と思っていると、
「空先輩!俺と一緒にお弁当食べませんかッ?」
と教室の前の扉から竹井くんが現れた。
---------------
竹井 夏 後輩 [危険] → [天使]
「お、噂をすれば」
なんて言っている彩の顔はニヤついている。
どうしよう、彩が不審者だ。…よし、他人のふりしておこうかな。
「いいよ、竹井くん。あ、彩も一緒でいいならだけど」
「ちょっと空。私の事付け足した感満載だったんですけどぉ…」
私の席に頬杖を突きながらブーブーと呟いている彩の事は一切気にしない。
「勿論!大好きな空先輩といられるならどんな障害物があっても乗り越えます!」
ピシ。
「「えええぇぇぇぇ!!!!」」
「え、ええぇ…?」
自分からバラしてしまった竹井くんがそう言うなり、クラス中に雄叫びが上がった。
そのダメージで私の耳は死んだ。御愁傷様だ。キンキンする、何にそんなに驚く必要があるんだろう。みんなには関係ない事だし
「ちょ、障害物ってもしかしなくても私の事…だよね!?」
「彩は黙ってて。頭に声が響く…」
「先輩大丈夫ですか?今すぐ先輩を苦しめる全員に制裁を下したいんですけど、空先輩は望まないだろうから我慢します。その代わり…これでどうでしょう?」
私の直ぐ傍まで寄ってきていた竹井くんは何処から持ってきたのかガムテープを彩の口に貼り付けていた。
…、わあ、お。何て言えばいいのか分からない。
彩は目で私に詳細を求めてくる。
そこは助け求めようよ。自分の置かれてる状況解ってるのかな?分かってなさそうで怖い。
このままじゃ収集がつかなくなりそう。騒ぎの元凶が私の周りに集まっているこの悲劇。
「え、と…取り敢えず落ち着こうか。竹井くんはそこの椅子借りておいで、彩はガムテープ取って。」
「はい。」
「……。」こく
大人しく椅子を持ってきて私の隣に座った竹井くんの様子を見ながら彩はガムテープを剥がした。
「ね、もしかして空のかれs」
「違うから。…いいから話し聞いてってば」
「俺はそう思ってもらっててもいいんですけどね。どうせ俺のになるんです」
…この2人は、人の話しを聞いてくれちゃいない。私にどうしろと言うんだ。もう既にお手上げ状態ですけど
それと気付いてないとでも思っているのか教室にいるみんなが何故か聞き耳を立てて話を聞こうとしている。面白い話なんてないですよー…。
竹井くんが自分からバラしちゃった以上、聞かれても何の問題もないから気にはしない。
彩は早く詳細プリーズ。と口パクで言っている。
「じゃあ、話すね。…私、竹井くんに告白されたの。」
暫しの沈黙。
…簡潔過ぎ、かな?もう少し詳しく言ったほうがいいのかな?
竹井くんは私の隣でにこにこしている。彩なんか瞬きもせずに私を真っ直ぐに見ている。その視線が物凄く突き刺さった。
「………で?」
うんと間を空けた彩はたった一文字口に出した。まさに「は?」とでも言うような表情だ。
何気に怖い。普段バカっぽいからかな
「で、どうなったの。」
中々話さない私の目の前まで顔を近づけた彩は静かに返答を持っている。
「え、それで…私が断って、友達からって事になった。んだよね、竹井くん?」
「はい、今はそうですね。関係が変わればお伝えしますよ」
さっきから竹井くんはどうして余計な言葉を…。頷いてくれるだけでいいんだけどなあ。
「成程ねえ。だからこんなに馴れ馴れしいんだー。いきなり男と仲良くなってるから吃驚しちゃったじゃんか」
やっと満足したのかお弁当を開けながらそう言う彩。竹井くんも持ってきていたお弁当の蓋を開けている。
私だけ置いて行かれてるよね。
慌てて私もお弁当を開ける。
周りの緊張感が一気になくなったような気がした。聞き耳を立てていた子達は何事もなかったかのように再びざわざわと話しだした。
…何だったんだろう
「ねえ、私が男の子と仲が良いのって変なの?」
思い切って聞いてみる事にした。すると、彩は
「当然。だってあの空だよ!?空なんだよ!空だよ!?!?」
と何故か興奮気味に返してきた。
「え?うん?…よく分かんないけど、分かった。」
はっきりいって微塵も理解できなかった。何が言いたかったのだろう。ああ、あれか、私可愛くないから男の子と仲良いのが奇跡的過ぎて皆驚いただけなんだ。うん、失礼でしょ。
その後、竹井くんに促されてご飯を食べ。存分に彩にからかわれて昼休みが終わった。
濃い一日だ。
こんな濃さ求めてない。
ブブブブッ
ブブブブッ
ブブブブッ
ポケットにある携帯が震えている。
今は放課後で早退してしまった日直の子の代わりに日誌を書いている所だ。一緒に残ると言っていた彩と竹井くんを先に帰らせたから今は教室に一人。
意外と寂しい。
静まり返っている教室の空気に溜め息一つ零しながらシャーペンを置いて携帯を取り出す。
表示されているのはお父様の名前だった。普段あまりかけてこない相手からの着信に首を傾げながら通話ボタンを押す。
「…もしもし。お父様、どうかなさったのですか?」
「ああ、空。まだ学校に残っているのかい?」
「はい。もう少しで帰れると思いますが、何かあったのですか?」
「…実は、今家に巧氏が来ていてね。一度顔を合せたいと言っているんだ」
巧…さん?あ、婚約者の!色々あったからすっかりその問題を忘れていた。
「分かりました。用が終わり次第急いで帰ります。」
「ああ。怪我しないようにするんだよ?」
「はい。」
通話を切る。
今日はもう結構、疲れたんだけどな。まあ、いいか。
携帯を仕舞って残りの記入欄をさっと埋め、職員室へ持っていく。その間廊下ですれ違う人は殆どいない。教室に数人残っているのを見た程度だ。
何で私日直の代わり引き受けたんだろう。自分で自分が分からない。
職員室の扉をノックして中に入る。
「失礼します。西野先生いませんか?」
「ん?矢崎空か、今西野先生はいねェぞ。何か用か?」
私に声を掛けたのは本当に教師かと疑いたくなるような、ホスト…イケメン先生だ。確か名前は足立 湊[あだち そう]。
女生徒から人気があり、よくお弁当やらお菓子やらを渡されている所を見る。
「…何だァ?俺に見惚れてんのか?」
「いえ、そんな、ありえません。」
「ありえっ…随分素直じゃねェか。」
…つい。反射的に言葉が漏れてしまった。口にチャックが欲しい。
ジトリと私を見てくる足立先生に苦笑いで誤魔化す。
「あ、それより、日誌。日誌持ってきたんですけど、いないなら机に置いていきますから」
「あァ、日誌な。俺から言っとくから適当に置いとけ。」
何処か不服気に見えなくもない先生の表情に引き攣り気味に笑みを浮かべていると、小さく息を吐いた足立先生は西野先生の机を指差した。
案外、いい先生?
「はい、お願いします。」
「おう、気ィつけて帰れよ。」
「はい。さようなら」
机に置いた私に手をひらりと振った足立先生は他の子ならノックアウトされるであろうイケイケな笑顔を向けてきた。
正直一瞬ドキッとしたけど美男子はあまり好きではない。何となく横に並ぶと私の不細工加減が目立ちそうだからだ。
負けじと綺麗ににっこりと笑って軽く頭を下げた。
私の超絶不細工スマイルでも見て体調崩せばいいんだ。別に妬んでるってわけじゃないけど、けど…うん。
ほんのり顔を赤くさせて怒っていた足立先生を見てから逃げる様に職員室の扉を閉めた。
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足立 湊[あだち そう] 教師、男
西野 ネオ[にしの ねお] 教師、男、担任、ハーフ
廊下に出てからふと気づく。
先生と競ってる暇なんてなかったじゃないか。家で巧さんが待っているのだからのんびりなんてしてられない。
今、正直言うとお父様の言ってた事頭になかった。記憶力はいい方だと思ってるけど、違ったようだ。
走ってはいけないから早歩きで廊下を歩く。急いでいる時に限って廊下が長く感じる。
もう少し教室と職員室近くにしてくれないかな…結構、きつい。
「はっ、はあ…ついた」
地味に息を切らして教室に入る。
「あれ、矢崎さん、まだ残ってたんだ?」
いつの間にか教室には先客がいたようだ。聞き慣れたこの声音に顔を上げる。
「はい、のろのろしながら日誌書いてたらこんな時間なってしまって。先程、職員室へ持っていったところです。」
「ああ、そういえば矢崎さんに任せたんだよね。助かったよ、ありがとう。」
綺麗な白髪で深い吸い込まれそうなグリーン色の瞳。加えて柔らかく笑みを含んでいる口元、立派に整ったこの顔立ちの男性は、私の担任の西野 ネオ先生だ。
確か男女共に人気があり教師陣の中で一番好かれている…んだったかな?
そんな事を考えながら自分の席に歩く。
「いえ、私が暇人だっただけですから。じゃあ、先生お疲れ様です。」
横に掛けていた鞄を机に置き、出しっ放しにしていた筆箱を鞄の中に入れて西野先生に向き直る。軽く会釈すると先生が私を呼びとめた。
「ちょっと待って。…矢崎さんさ、園田くんと婚約するって本当?」
「…え?」
何で、私が巧さんの相手だって知ってるの?確か相手は誰も知らないって彩が言ってた。
先生の表情は至っていつも通りでにこやかだ。なのに私の顔は今引き攣っているだろう。そりゃそうだ、予想外すぎなんだから。私にどうしろと言うんだ。
一度、深呼吸する。
「…嘘ついても、バレちゃいそうなので言います。私と巧さんの婚約話は本当です。けど、まだ正式に決まったわけではないんです。一度お会いしてから決断を出すよう言われてますので。」
私は嘘ついてもバレやすい。特に西野先生は洞察力があるから尚更だ。誤魔化すだけ無駄になるだろうと考えて暴露すると西野先生は瞼を閉じた。
早く帰らないといけない、んだけど…口止めはしておかないといけない。
静かに先生の言葉を待つ。
それにしてもこんな教室にいても絵になる人だ。両親がハーフらしくかなり顔の堀が整っている。
無意識に見惚れていたのか先生が目を開けるまで私が西野先生から目を離す事は無かった。
目があった事でパッと視線を逸らす。
「そうか。本当なんだね。…残念、なんてね。はは、引き止めて悪かった。気を付けて帰るんだよ?」
一瞬寂しそうな表情を浮かべた先生は、直ぐに綺麗な笑みを浮かべて手を振った。
私もさっきの表情が気になりながらも手を振り返した。
「はい。…あ、今の事は他言しないでくださいね?では、また明日。」
「うん、勿論分かってるよ。…さようなら」
私はいつも通りに戻ってしまった先生の声色に何か引っ掛かるものを感じつつ教室を後にした。
ガララッ
「!空、おかえり。」
学校を出て15分くらいの道のりを歩き、それなりに広い和風と言えるであろう家について扉を上げると直ぐにお父様が出てきた。
待ち伏せしてたのかな。ある意味、怖い。……なんちゃって
「ただいま、お父様。」
軽く会釈して家に上がるとお母様が近くの部屋から出てきた。
「空さん、巧さんがお待ちになってるから鞄を置いたら居間へいらっしゃい。」
「はい、お母様。」
柔らかいお母様の笑顔に癒されながら早足で自室へ行く。ベッドの下に鞄を置いて、着替えようかとも思ったけどそんな時間はない。
直ぐに部屋を出て若干長ったらしい廊下を歩いて居間の前で止まる。
スッと戸を開いて中を覗くと、父、母、そして巧さんと思われる端正な顔立ちの男性がテーブルを囲んで座っていた。
「空?こっちへいらっしゃい。」
「あ、はい。」
ぼんやりと立ち尽くしていた私にお父様が手招きをする。私は慌てて巧さんの前に腰を下ろす。
うわ、うわあ…校内の噂では聞いてたけど、本当にこんな格好良い人っているんだ…。
直視するわけにもいかず軽く目を伏せる。
「大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。」
そのまま誤魔化す様に頭を下げると、遅れてしまった事への謝罪の言葉を口にする。
ああ、怒ってるよね。あれだけ待たせて怒らないわけないもん。
「……。」
下唇を軽く噛み絞めて返事を待っていると、不意に肩に誰かの手が乗った。
「?あの、」
不思議に思い首を傾げて顔を上げると、とてつもなく至近距離に巧さんの顔があった。
え、どういう事。この場合私は何をすればいいのか。経験のない私に何を求めているの
幸いキスをしているわけではないので、騒ぎはしないけど隣のお母様が「まあっ」と口元押さえて変な妄想をしているのを止めてほしい。
真っ直ぐに見詰めてくる巧さんの瞳に吸い込まれるように見詰め返す事3分。
「……はは、空さん。」
漸く言葉を発した巧さんは、顔を離してきちんと姿勢を整えた。その様子にパチクリと瞬きをする。
「あ、は、はい?」
「遅れた事は気にしないで。僕が知らせていなかったんだから僕の責任だよ。」
そう爽やかな微笑みで言ってのける容姿端麗なこの方が、本当に私と婚約したいと思ってるのか不安になった今日この頃。
といっても、聞いたのは昨日ですけど。私には勿体無い気がしてならない
「そういってもらえると嬉しいよ。では、空も来た事だし親は退散するとしようか。」
「そうですね。退散しましょうか」
「え、え?お母様、お父様?」
戸惑う私を余所に立ち上がってスタスタと出て行くお父様にお母様。
ちょ、え?そんなの聞いてない!男の人と二人何て、無理無理無理無理っ
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