ノアール狐 2015-04-06 19:38:42 |
通報 |
この世界は、少しおかしい。
社会文明の進歩が遅れているクセに、やたらと武器の進歩が著しい。
これには、数百年前の天変地異が関係していると言われている。
一度、書物で読んだ事があるけど、天変地異が起こった後、どこからともなく『魔法生物』や、『妖(あやかし)』と呼ばれるモノが出現したと言う。
そして彼らは、その当時に栄えていた文明をめちゃくちゃに破壊した。
今、生き残った人類は自分達を守るために武器の開発に力を入れている。
天変地異以前の時代のものは、そのほとんどが失われてしまっていて、今や土の中らしい。
各地で発掘作業が進んでいるらしいが、掘り出されたもののほとんどが既に使い物にならないものばかりで、今では未知のエネルギーとなっているモノまで存在する。
ごくまれに、使用可能なものもあるらしいが、それらは本当に貴重なため、研究に使われるらしい。
まぁ、独自に発見して、使ってる人もいるけどね。
僕もその一人で、三つくらい持ってる。
これら全部、前に土砂崩れに巻き込まれた時に、偶然見つけたもの。それだけでも凄いというのに、三つともどれも使用可能状態だったのだから、これ以上の幸運はないだろう。
僕の武器は三つとも銃。
銃口が長い銃、銃口の下部が刃になっている銃…
そして、シンプルなようで、複雑な亀裂の入ったライフル。
僕はこれらを駆使して戦っている。
普段は、旅をしながら昼間に活動している魔物や妖(あやかし)を討伐したりしている。
でも、今日は違う。今は夜だ。今回訪れた街で、面白い話を聞いたのだ。
何でも、この町には、『鬼』と呼ばれる妖が存在するという。それのせいで、今や街の人口は少なくなり、もう今年で街を放棄するらしかった。この街は、天変地異以前の建物の跡に作られている。各地にこういった場所がいくつかあるので、それらに向けて、またはどこかの街に移住するという。
そして、僕は『鬼』について詳しい話を聞いて、驚いた。
曰く、『鬼』とは、妖力の影響を直に受けてしまった人間なのだという。
「え!?『鬼』って、人間なんですか!?」
「ああ、そうさ。妖力の影響を直に受けて鬼になっちまったら最後…目は赤く光り、肉体は変化し、理性を無くして暴れまわる。」
「そんな……それじゃあ、誰でも鬼になるっていうんですか?」
「ああ、そうさ…詳しい原因とかを唯一知ってる奴を知ってはいるが…」
「誰です!?」
その話に、僕が食いつくと、お店のおじさんは少し渋い顔をした。自分で言ったクセに。
しばらく黙っていたおじさんは、唐突に口を開いた。
「……この街の一番東側にはな、『修羅の一族』と呼ばれている『黒ノ宮』という名の人間が住んでいてだな」
そうしておじさんはいろいろ教えてくれた。
がしかし、自慢ではないがこの僕が覚えられる訳がない!!
おじさんはいろいろ教えてくれた。
教えてくれるのはいいけど、僕はその『黒ノ宮』って人について聞きたいわけであって、『黒ノ宮』とこの街の歴史とかそういうのは別に知りたいとは思ってない。
「…というわけだ。」
「え、えーと……それで、その黒ノ宮さんとはどうやってお会いすれば?」
「ん?ああ、普通に行けばいいんじゃないか?」
「ふ、普通?」
「ああ、普通に。」
たったそれだけを聞きたかったのに、数分もの間、ずっと歴史の勉強やらをさせられただなんて……
このおじさん、殴っていいかな?
「まぁ、黒ノ宮のお嬢ちゃんはいつもどっかに行ってるからなぁ。会えるか分かんないけどね」
「そうですか………って、お嬢ちゃん…?」
え?お嬢ちゃん?今、お嬢ちゃんって言った?黒ノ宮さんって女の人なの?
『修羅の一族』ってくらいだし、てっきりものすごいいかつい顔した男の人とか、無愛想な男の人とか想像してたんだけど………
「あー、そういや言ってないっけか?黒ノ宮の家の人間は今じゃもう、女の子一人しか居ないんだよ。名前は……確か…えーとぉ……あっ!凛(りん)だ!黒ノ宮 凛!」
「黒ノ宮…凛…」
「ああ!凛だよ!り・ん!この街じゃ知らない奴は居ない!」
今、このおじさんおもいっきり忘れてたよね?大丈夫かな、この人。
それはさておき、目的が決まった。
よし、行こう。
「黒ノ宮 凛さんですね。ありがとうございます」
「ん?もう行くのか?」
「ええ、善は急げですから」
それに、これ以上使う時間もないし。
おじさんは少し残念そうな顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「そうかい、気をつけてな!…えーと…?」
「澪斗です。」
「れいと?………………って!!ま、まさかッ……!?綾次 澪斗!?」
「…ええ」
そう。僕の名前は綾次 澪斗(あやつぐ れいと)だ。
それ以外の何者でもない。
名を聞いた途端、おじさんの態度がすっかり変わった。
好奇心が理性より上回っているのが丸わかりだ。
「き、き、き、君が!?あの!?綾次 澪斗!?君が!?」
「綾次です。澪斗です。」
「マジか!?」
「マジです。」
「本当に!?」
「本当です。」
「人違い!?」
「じゃなく。」
「真面目に綾次澪斗なん (ry
*
*
*
あのあと、あのうるさくてウザいおじさんの元を逃れた僕は、今現在、街の近くの林にいる。
ワケを簡単に説明すると、黒ノ宮 凛さんが不在で、ここに来ていると聞いたからだ。
数時間前
~街の東エリア~
「あのー…黒ノ宮って人がどこにいるか知りませんか?」
「んー?ああ、凛さんならそっちの裏道に行ったよ」
「そう、ですか。ありがとうございました」
~裏道~
「あの、黒ノ宮って人を見かけませんでしたか?」
「ヒック……あぁ?黒ぅノぉ宮ぁ~?あ~…小娘ならあっち行ったぜぇ~……へっくぅ…何だぁ?小僧ぉ~?あの小娘に一目惚れでもし」
「ありがとうございました。」
~表通り~
「あの、黒ノ宮って人、どこに行ったかしりませんか?」
「ん?黒ノ宮さん?んー…どっちだべが……確かこっちだったっけかなぁ?」
「ちょっとあんだ、何いってんの~、黒ノ宮さんはこっちさ行ったべっちゃ」
「んぁ?そうだが?おらぁ、忘れだっちゃや」
「えーと…こっちですね。ありがとうございました。」
~門の前~
「すいません、黒ノ宮って人がここに来ませんでしたか?」
「ひゃいぃ!?あっ、そのっ!えーとぉ……あぅ…」
「えーと…」
「あっ、ごめんね~!この子とっても人見知りだから~。黒ノ宮さんだよね?それならさっき門から外に行ったよ!」
「そ、そうですか。ありがとうございます。その……驚かせちゃってすいませんでした」
「いえ…その…あぅ…」
「あはは!気にしないで良いよ!ね?」
「う、うん!」
「そ、そうですか…?じゃぁ、僕はこれで…」
タッタッタッ………
「あの人…好きかも…」
「マジかッ!?」
*
*
*
というわけで今に至る。
僕は、竹が所々混じっている林の中を進む。
普段なら、眩しいから嫌いな満月の月明かりが、少し暗い。
林に入ってから急に空気もベタつくように重くなった気がする……この先に、『鬼』がいるのだろうか?だとしたら、黒ノ宮さんは『鬼』と……
そんなことを考えていると、林の中に、少し開けている場所を見つけた。
警戒しつつ、慎重に様子を確認してみると、そこには、驚きの光景があった
「ふんッ……」
『ガアァァァ!?』
「斬る…」
『グガッ……』
「!!」
一人の少女が、刀を手にし、その美しい黒髪を乱しながら、迫り来る“化け物”を次々に斬り倒してゆく……
その化け物は、人の形こそしているものの、目は赤く光り、手や顔からは血管が隆起している。これが、『鬼』だろう………
しかし……
「ふっ……」
『ギャァァァァ!!!!』
「はっ……」
『グァァ………!?』
今は『鬼』よりも、少女の方が気になる。美しいのは黒髪だけではない。
まるで死人のように色の白い肌、人形が如く整った顔、『蒼炎』の表現がピッタリ合う綺麗な目、黒色のスカートに、膝辺りまであるパーカーを来ているその少女…
黒ノ宮 凛は、素早く華麗な動きで次々に『鬼』を斬って、斬って、斬って、斬りまくる。
その様子が美しくて、つい見いってしまった。
だが、武器を用意するのを忘れない。
鬼がこちらに来ないとは限らないので、油断するわけにはいかない。僕の銀色の髪は、世闇でもよく目立つので、パーカーのフードを被る。
これ、猫耳の飾りが付いてるんだよね
「ん、しょっと……おわぁ!?」
ガサッ
「!」
まずい!?気付かれた!?今見付かれば、『鬼』の残りと間違えられてしまうかもしれない……!!
そんなことになれば、勿論首が飛ぶ。リアルに。
そんなことを考えていた、その瞬間
「!!」
「!!」
見付かった。僕は慌てて後ろへ距離を取る。それに 驚いたのか、黒ノ宮 凛らしき人も後ろに距離を取る。
フードが外れてしまったが、もうどうでもいい。
「…」
「…」
苦しい沈黙……いつ切り殺されてもおかしくはないかもしれない。
必然、襲われたら応戦しなければ……
「あなたは……誰ですか?」
「ッ…」
急に話しかけてきた!?まずい…対応が……!
「え、えぇと……」
「?」
「すみません!!」
それだけ言うのが精一杯だった…
気付けば林の外に向かって走り出していた。
あぁ…何か大変なことしちゃった感がヤバイ…
これからどうなるんだろうか?
【撃つ】その1 終
トピック検索 |