シェルン=ヴェルク 2015-03-06 00:26:50 |
通報 |
「おぉぉーーー!!」
「…はぁ……はぁ…」
「おーいルゥ、大丈夫かー?」
オレ達は今、絶賛坂登り中だ。この坂の上に学園がある。が、この坂は地味に急になっているため、登る者の体力を急激に削る。何故か熱血気味の織ノ瀬や、何故か体力が有り余っているオレはともかく、ルゥにはかなりナンセンスだろう。現にオレの肩にしがみついている。
「だ…誰が…オイルだー!」
「オイルな…ぐぇー!?」
オイルなんて言ってない!と言おうとした途端、ルゥが急に飛び付いてきた。転びそうになるものの、なんとか踏ん張る。「レッツゴー!」とか言ってる辺り、このままおんぶして進め、ということだろう。
「うーーー!!」
「えーーー!!」
「おーーー!!」
…………誰かに見られたら絶対変な人だと思われるだろうな………
そう思いながら腕時計を確認すると8時23分を指してている。
「マズイ!!あと7分しかねぇーーーーー!」
「学園長の孫として、遅刻は出来ない!!急ごう!!」
「お?なんか真面目になったね~」
「舌噛むぞー」
「そんなことな……いぎぃ!?」
ほら言わんこっちゃない。
そんなルゥをよそに、オレと織ノ瀬は更にペースを上げる。織ノ瀬の方は疲れが出てきているようだが、オレはまだ余裕だ。自分でも意外で、なんだか少し嬉しい。
そんな事を思いながら走っていると、やっと門が見えてきた。ああ、これからが本当の一日の始まりか………
「………」
「とうしたの、レイレイ?鋭い目つきして…」
「……いや別に」
「そう?えい!」
「あだだだだだだだ!!??!?!?」
………気を抜くと足元をすくわれるのは世の掟、か…………………
「痛い!!耳がぁ!千切れるーー!?」
「わははは~」
「ははは、愉快な人達だ」
*
*
*
教室に入って直ぐに鐘が鳴った。案の定、オレとルゥはみんなから注目されてしまったが、遅刻は免れた。織ノ瀬は教室が違うから途中で別れたから問題ないだろう。
この学園は、朝に基本教室へ行き、一時間過ごしてからそれぞれの学科専用の教室に行く。普通科はそのまま基本教室にて授業を行う。
……言い忘れたが、オレの行く秘匿学科専用の教室はこの学園の校舎内には無い。学園の裏山にある小さな小屋から『地下施設』に行くのだ。
何かすごくかっこいいと思うのはオレだけか?なんて考えながら席に着く。
だが、周りから視線を感じた。顔を上げると、みんながオレの頭に、つまり帽子に注目している。
「………しまった」
完全に忘れていた。今のオレの頭には猫耳があるのだ………故に必然、帽子を外す訳にはいかない。何人かがオレの目を見てこれまたびっくり。だよなぁ、何せオッドアイだったもんなぁ…………
教室全体が少し騒がしくなる。カラコンか?や、寝癖でもひどいのか?など、様々な憶測が飛び交う。中には直接聞いてくる奴も居る。主に女子が。何でもないと誤魔化す。ルゥの方を見ると、何故か頬を膨らませて敵意とも嫉妬とも取れる視線を向けている。何だ、アイツ?
「はぁ……」
「隙ありぃ!!」
「!?」
突然、後ろからそんな声が聞こえたため、反射的に体を横に反らす。左には女子がいるから必然的に右に避ける。案の定、今まで頭があった場所には男子生徒の手があった。
「ちっ!ばれたか!」
「わざわざ『隙あり』なんて言えば、ばれるだろ!!」
「ぜってぇーにその帽子取ってやるからなー!!」
「むぅ!!」
学校によく居る、物を取って逃げるような輩だ。普段なら、取られたら取り返す。しかし、今回は取られたらマズイ。
男子が数人、便乗して立ち上がる。何故こんな時に教師はやってこないのか……役立たずめ!!
「くっ!」
「逃げたぞ!」
「追えー!!」
「待てー!」
今のオレは捕まえられない!!そう!この足の速さがあるから!!
そう思って走り出したは良いが、その先が悪かった。
「ふびゃッ!?!?」
「…アァ…?」
「いっつつ………げッ!!」
前にあった何かに思いっきり正面衝突して転んだ。
そいつはかなりデカくて、丸くて、重くて、性格が悪い女子だった。よく居る『女番長』とか言うやつだ。
「おいテメェ、このアタシにぶつかっといて、げっ!って何だよ?オイ?」
「あー…えー…許してくれ。あと、そこ退いて………ぐぇぇぇぇぇ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い!!首ッ!!死ぬ!?マジ死ぬからぁ!!
「テメェコラァ!!調子乗ってんじゃねぇぞ!!あぁん?気取って帽子なんか被りやがって!!こんなもん……………………………は?」
「……………え?」
・・・・・・・・・・・・・・
沈黙、唖然、絶句……………それら全てが一気に襲って来た。
帽子がとられた。必然、見えるものがある。隠していたもの……
…………猫耳がバレた…………
「………な、なんだい、これ……」
「いぎぃぃ!?!?ひっぱるなぁぁッッ!!!」
「あ、は?すまねぇ………って!そうじゃねぇ!こりゃぁなんだよ!?!?!?」
「あぎゃッッ!?あやややややや!!!!!!!」
猫耳を引っぱられて激痛が走る。涙も出てくる。千切れてもおかしくなだろう。この怪力女め!!ガルルルルル!
「い…痛い!痛いよぅ…」
「ちょ、やめてあげなって!!!」
「お、おう……すまねぇ…」
「痛いって……神経が繋がってるの?」
「え!マジ?信じなんないんですけど!」
さらに教室が騒がしくなる。状況が理解不能なのだろう。まぁ、当たり前だ。
そんな時、何者かがオレの猫耳を引き千切らんばかりに引っ張っていた女番長の巨体を思いきり弾き飛ばした。
「ぐぉ!!?」
「きゅぅ………」
衝撃でオレまで倒れたが、あの怪力女から解放されてほっとした。一体誰がやったんだ?上を見上げる。そこに居たのは…
「大丈夫!?猫耳君!」
「えと…まぁ」
「よかった~、じゃあ約束通りに猫耳君の猫耳をいじらせてもらうね!!」
「……は?」
そこに居たのは華奢な女子だ。が、そんな約束、した覚えはまったく無い。もしやと思い、ルゥの方を見ると、にこにこして手を振って来た。そして合掌…………縁起でもないことするな!!しかもこの女子、ケモナーでかなり有名なやつじゃなかったっけ!?
「よし!行こう!」
「え?ど、どこに?」
「さぁ!早く!」
「うぉぁ!?」
オレは引っ張られるままに廊下に出て走り出す。ルゥの奴もちゃっかりついてきた。
「月ちゃん!このかぁいい猫耳君、食べていい?」
「ダメ」
「えぇー…」
「食べるって……どーゆー意味だよ……」
「猫耳君の猫耳をはみはみするんだよ!」
今のは聞かなかったことにして、本当に何処に行くんだ?今は階段を駆け足で登っている。そして、この先にあるのは…
「推して参るー!!」
「ハ○メンさん!」
「…屋上か」
二人のは無視する。着いたのは屋上。なかなか良い景色だ。青空がずっと広く続いていて、時折、心地よい風が吹いてくる。そして、どこからか呼ばれてる気がする…………ずっと向こう……何処……?
「よし!着いたぁーー!それでさ!早速だけど……って、猫耳君?」
「ちょ、レイレイ?何してるの!?そっち危ないよ!!」
「…」
ルゥが何かを言っているが、わからない…………呼ばれている。何かに。はっきりとはわからない。
行かなければならないような気がする。
「澪斗ッッ!!!」
「びゃぁぁぁぁぁ!?!!?」
体中に電気が走る。尻尾を強く握られたんだろう。それで我に帰る。一体何をしてたんだろうか?
「目を覚ませこのバカーー!!」
「えぅ……もう覚めた……」
「ほっ…よかった…って!その目、どうしたの!?」
「目?いや、朝からオッドアイだろ?」
「じゃなくて!オッドアイの金色のほうが光って……………って、あれ?」
ルゥは途端にキョトンとする。実に不思議そうだが、オレの方がもっと不思議だ。目が金色に光って?そんな馬鹿な。
「今、確かに……」
「私も見たよ」
「え……………」
………………一体、何なのだろうか?この猫耳と尻尾といい、さっきの呼ばれる感覚といい、オレに一体何が起きている……?
*
*
*
抜き足、指し足、忍び足……………
オレは今、地下施設にいる。しかし、泥棒の如く忍び足である。原因はついさっき見た貼り紙……
『祝!綾原陽穂、帰国!!』
だと……?
非常にマズイ。綾原陽穂(あやはら あきほ)………………その名を見た途端、オレの防衛本能が究極の叫びを上げる。
逃げろ!それができないなら逃げろ!!最終手段として逃げろ!!!
とにかく逃げろ!?!?!
と、本能が叫んでいるのだ。
「見付かったらアウトだな……」
「誰に?」
「貼り紙見たろ?綾原陽穂に決ま……ってぇぇぇぇいッ!?」
「やっほーーー!!レイ君!!元気だったーーー!?!?!?」
嗚呼、見付かってしまった…………核の冬が来るぞ!!
最初に説明しなかったが、綾原陽穂は教員であり、博士であり、どっかの何かの超偉い人であり…………
オレの保護者となっている人物だ
「は、離せぇーー!そして放せーーー!!」
「だが断るッ!!はぁ~!この感じ、久しぶり~!!」
頬擦りをされる……だけならいいものの、あれで……このでかい胸で、肺が圧迫されて息が出来ない。もう無理、死ぬ……
「綾原先生ぇ……!死ぬ!!い、息がッ!」
「ぎゅ~~~!!!!」
「ぐ……ぇ……し………し、ぬ……」
「うは~!!このサラサラの黒い髪!!漂う甘いようなフレッシュな香り!!……って、何で帽子?」
そこでオレが酸欠なのに気付いたらしく、やっと解放してくれた。頭痛ぇ………
「あ……綾原先生……殺す…気ですか……」
「ごめんごめん~。ってか、綾原先生じゃなくて、お姉ちゃんとか、姉さんとかで呼んでよぅ。家族でしょ~?」
「年中日本からその姿を消すというのに、しかも血縁関係も無いのに、保護者面しないでくださいませんか、姉上。」
「か、堅ッ!クルミ!?レイ君、クルミなの!?いやむしろ石!?頭が石になってるよ!?ミジンコ以下の低脳動物になるの!?」
「本性を現しおったな!!この毒舌性悪お姉さんめ!!」
「わっはっはー!よくぞ見抜いたな~!!褒めてやる~!!」
……何だこれ。地味だし、馬鹿っぽい。でも何か楽しくて、懐かしくて………それでいてこそばゆい………ルゥと一緒にいる時と似た感覚がある。
赤の他人なのに、幼馴染みといるみたいだ。何だか…変な感じがする。
「おっ!!やっと笑った~!」
「……んぇ?」
「ふふ、ニッコニコ~」
……いつの間にか、口元が綻んでいたらしい。
綾原陽穂先生………いや、あき姉はオレの頭をポンポンと叩く。元々、背が高くないので自然と見上げる形となる。
少し、姉らしく見えなくもな
「えい」
「…は?」
結論。もう、オレに救いは無いのでしょうか?オレは一体、何をしたのでしょうか?バレたよ、猫耳。予想以上にあっさりバレたよ。帽子が防止の役割をサボったの?
嗚呼、数秒先の未来が見える………
「あ…えと…コレ……何?」
「えーと…その…は、生えた」
・・・・・・・・・・・・・
沈黙。
そして………
「可ぁぁぁぁ愛いぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」
「ぎゃーーーーーーーーー!!!!!!!」
目
の
前
が
真
っ
暗
に
な
っ
た
。
夢……だろうか?だとしたらこれは見事に暗い夢だ……比喩ではなく、本当に暗い夢。辺り一面、オレ以外の全てが黒い。右を見ても、左を見ても、上を見ても、下を見ても、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、真っ黒。
そんな中に自分だけが居る。
本当に夢を見ている?
夢?
意識がしっかりしている。
夢独特のぼやけた感じもしない。足元をよく見ると、ガラスのようなものが……いや、実際にガラスだろう。しかし、歩いても蹴っても思いきり踏んでも、音ひとつ鳴らない。変な夢だ。いや、夢だからか?
そんなとき、ふと、自分の目の前にある存在に気付く。
人ではない。あれは……大きな剣?
「……………」
近寄って見ると、その色や形がはっきり見える。黒い剣だ。周りの暗さに同感して溶けてしまいそうなほど黒い。
無意識に手を伸ばしてしまう。
呼んでいる
「無駄だよ」
「ッ!!」
後ろから声がして、オレは慌てて振り返る。しかし、後ろを見てオレはそこにある姿に呆然とした。
「………黒猫?」
「やぁ、久しぶり」
「喋ったし」
目の前の猫が喋った。声からして、オスだろう。男って言った方がいいか?
普通の一般人なら驚いた声を出すだろう。そう、“普通の一般人”なら。
「お前か!オレにこんなもの付けたの!!」
「正解。一応、お礼の意味も込めてるさ」
「どこがお礼だ!!むしろ迷惑なだけだっつーの!!」
「そうかな?確かに、周りから痛い目で見られるかも知れないけど…」
「だったら」
尚更これを取れよ、と言おうとしたが、黒猫が「しかし」と遮った。
「それのお陰で、多分だけどお前の生活に彩りが出る。それに、お前からは面白い匂いがする。そう、戦の匂いが」
「ッ!?」
…何なのだろうか、この黒猫は………一体何を知っている?一体何者だろうか?ただの猫じゃない。夢?夢だからだろうか?だとしたら、相当な夢だ。
オレが呆然と立ち尽くしていると、黒猫は近くに寄って来た。
「ま、そのうち会える。そしたら全てを教えてあげるよ」
「……………」
「? どうし……ぐぇぇ~…」
オレは黒猫の首根っこを摘まんで持ち上げた。黒猫は舌を出して、「うぇぇぇぇーーーーー」と声を上げている。
「放してくれー」
「だが断る」
「お放ししようよ」
「わかった。放す………とでも思っていたのか?」
「HA☆NA☆SE☆」
「………」
飽きた。オレは黒猫を放すしてやった。黒猫は直ぐにオレから距離を取る。あれで逃げたつもりか?
そう思っていた瞬間、黒猫の周り、約半径30センチメートルのところから、ガラスっぽい地面にヒビが入った。そのヒビは、どんどん広がり、とうとうオレの足元をまで来た。
「また今度会おう。じゃあね」
「え、ちょ、ま………ッ!?」
足元が崩れた。落ちていく。感覚がリアルで夢とは思えない。そう、これは夢じゃない。でも夢だ。でも、それでも現実味がある。
「わけわかんないよーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」
ここでまたオレの意識はブツリと途絶えた。
*
*
*
「………ん…」
眩しい。眠い。でも眩しい。逃れるように顔を右に逸らす。そうすると、目の前に顔があった。保護者(仮)であるあき姉の顔が。
「お!!レイ君!起きた!?」
「うぅ……眠い…頭痛い…あと眩しい………」
「ご、ごめんね!!レイ君に突撃しちゃって、気絶させちゃった」
てへぺろ、だと?
何がてへぺろだよ!人に突撃して、そのうえ気絶させたって、一体どんなだよ!!原因はこの猫耳かッ………………
そういえば、今さっき変な夢?を見た。夢なのか?いや、オレは今ここにいるから絶対夢だろう。しかし…
「何だったんだ……?」
「ん?どうしたの?」
「……………………………なぁ、あき姉」
一人で考えてもわからない。だから思いきって聞くのが一番だ。
「黒い剣、知らないか?」
蒼鱗学園秘匿学科。その実態は世間一般には知られていない。知っているのは、国のお偉い方と外国のお偉い方、そして学園に通っている生徒と、その親のみ。厳重な情報漏洩阻止能力を有し、もし万が一情報漏洩が発覚すれば、全力で隠し通し、漏洩した情報を削除、並びに原因の捜査をし、処分する。
そこまでして隠してあるこの学科で行われていること、それは
境界線(ボーダー)の防衛及び敵の殲滅
一見、はぁ?何それ美味しいの?と思える。しかし、実在するのだから面倒なことこの上ない。
オレらは、秘匿学科に自主的に入った訳ではない。この学科は、学園に入学するための試験の前に行われる検査にて、とあるモノが基準点を越えていると発覚すれば、強制的に入れられる。無論、拒めば拒否できるものの、結果として学園に通えなくなる。徹底したシステムで構成されている。
そして、そのとあるモノとは、“感情”だ。
秘匿学科にいる生徒は皆、感情が溢れ出す沸点にそれぞれの特徴をもっている。単に沸点が物凄く高いやつもいれば、ある特定の状況下で感情爆発するやつもいる。
まぁ、全員変わり者扱いと言えるかもしれない。そんな中で、オレは特別な人材らしく、普通の人と同じく、通常の感情の沸点がありながら、もうひとつの感情の沸点があるらしい。自分でも理解できないのだが。
話を戻す。秘匿学科でのオレ達の役割は『戦うこと』だ。さっきもいった通り、境界線の防衛と敵の殲滅が目的とされる。
境界線は、空間と空間の間にできた歪みにより生まれる空間のことで、そこには無があり、それでいて様々な『異物』が紛れ込んでいる。それらは稀に『結晶』の中に入った状態でこちら世界、現世に漂着することがある。秘匿学科は、それらの結晶の中にある『異物』の回収も目的のひとつとし、時と場合によって、それらを使ったりもする。早い話、それら異物の力を最大限に生かして戦闘をするために厳選され、招集されたのがオレ達秘匿学科の生徒ということだ。
「おまたせー!」
「待ってないよ。ここ出て5秒で戻ってきたよね?」
「まぁまぁ、それよりこれ。最近、結晶から採掘された『異物』のチェック表。」
あき姉から渡された機材の画面には、ここ数年間で採掘された『異物』が種類別に表になってまとめられていた。
「黒い剣は……0件……?」
「あらら~、残念」
「やっぱり無いか……」
「でも、何で急に黒い剣なんか?」
あき姉の質問にオレは答えず、別に何でもないと誤魔化しておいた。あき姉は不思議そうな顔をしたが、すぐに「まぁいっか!」と笑顔に戻った。そして、話は向いてほしくないところに向く。
「でさぁ!その耳!!」
「え、あ、こ、こここれは!!」
「はみはみさせろ~~!!!」
「いやぁぁぁぁーーーーーッ!?!?!?」
*
*
*
オレは身体検査を受けた。この耳と尻尾についての検査だ。既に学園全体にオレのこの猫耳のことがバレているらしく、教師達の対応は迅速だった。
各クラスにて話が出回り、娯楽を求める青春真っ盛りの男女には絶好の餌となったようだ。
「はあ……もうあっちに行きたくない……」
「こらー!そんなこと言わない!クラスの人達と一緒に青春を楽しめー!」
「はぁ…あき姉の側なら安心だと思ってたのになー」
「今すぐ学園長と交渉して来るッ!!」
そう言ってあき姉は白衣をなびかせてダッシュして行った。これで何とかなるはず。何せ、あき姉はどっかの何かの偉い人だから。
「計画通り」
「うわ、ひでぇ」
「ふぁ!?雉根さん!?いつから!?」
声を掛けられ、驚いて後ろを見ると、医療担当の雉根隼人(きじね しゅんと)先生が居た。この人は神出鬼没先生として有名で、気付けば背後にその人ありと言われている。
医療に詳しく、医療に関することなら何でもお任せだ。体格がそれなりにいいので、酒好きに見えなくもないが、飲酒、喫煙を一切せず、逆にしてる人を注意したりする。
オレは何度も怪我をして世話になっていたりもする。
「ほぉ~、それが噂の猫耳か。検査はしたのか?」
「えぇまぁ。一応神経は通ってますし、意外にも音が聞こえるんですよ」
「ふぅん。……よっと」
雉根先生は椅子から立ち上がってオレの近くに来る。オレは不思議に思いながら、ただただその様子を見ているだけ。
って、近い!近いよ!?何その目?オレ何か怪しいことした?
と、思った次の瞬間だった
「わあぁッ!!!」
「ひぎゃぁぁぁーーッ!!?!?!?」
急に大声を上げられ、猫耳がそれを拾ってしまう。耳がキーンとして、頭がぐらぐらする。視界がゆーらゆーゆぐーらぐーらして体のバランスが取れず、床に突っ伏す。
頭痛ぇ…………
「あや、あやややや……」
「おっと、本当に聞こえるんだな。」
「耳がぁ…痛い!何すうんれすかー…」
「オッドアイの方も気になるな……って、いお、澪斗?お前呂律回ってないけど大丈夫か?陽穂に見付かったらヤバイぞ?きゃーかわいいーとか言って突撃されるかもしれないぞ?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「よし。やっぱり精神論だな。」
そんな話をしていたところ、あき姉が戻って来た。あと少し早かったら危ないところだったかもしれない。そんなこと知るよしもないあき姉の顔は、予想通りにっこりしていた。
「レイ君!学園長からオッケーもらったよー!!…って、雉根?何してるの?」
「久しぶりの挨拶もなしか………いやなに、ちょと澪斗が面白いことになったと聞いてな」
「そっかー!うんうん!レイ君とっても可愛いよねー!この猫耳と尻尾!!それにこの金と銀のオッドアイ!!すごくきれいだと思わない!?」
「まぁ、確かに興味深いけどさ……そうか、尻尾もあるかー」
「触らせませんよ!?」
さっきのこともあり、オレは雉根先生に容赦なく威嚇する。それに対して雉根先生は笑ってあとずさった。
「ほんと、猫みたいだな、澪斗。はっはっはっ!!」
「あーもうッ!!ぐうぇー!?」
「レイ君ー!今日はずっと一緒だぞーー!!」
本当にオレに救いはないのだろうか!?
「何してるんですか?」
「ん?」
「おぅ、須賀乃か」
おお!来たぞ!!オレに救いの助け船が!!
彼女の名前は須賀乃魅雪(すがの みゆき)。この施設で働いているものの、教諭ではなく、境界線から飛ばされて来た異物の調査や情報管理などを専門として活動している。
「須賀乃さーん!助けてーー!!」
「逃がさないぞーー!!ぎゅぅ~~!」
「ぐぇぇーー!?」
「あ、えーと…澪斗君、学園長さんが呼んでたよ?」
それを聞いて、オレとあき姉は揃って固まった。
呼んでる?学園長が?オレを?オレが呼ばれてる?
………………………
「「マジでッ!?!?」」
二人でハモった。いやその前に!!マジで!?オレが!?あの人に!?マズイ……非常にマジでマズイ。
と言うのも、この学園の学園長は………
ド変態なのだ!!それもどんなジャンルにも適応するほどの!
「ま、マズイよ!?あの人が今のレイ君の姿を見たら……!」
「ど、どうなるんだろ……」
「『うほっ♂可愛いねぇ』とか言って何かしてくるに違いねぇな。」
「雉根先生ぇーーー!!そんな怖いこと言わないでぇぇーー!!!」
いくら冗談でも、あの人なら本気でやりかねないのだから笑えない。
織ノ瀬只征(しきのせ ただゆき)…………彼に呼び出しをくらうなんて……今日は人生最大の厄日かッ!?
「うおぉーーーーーーッッッッ!!!」
「「「「!?」」」」
な……何だ…?この声…!?嫌な予感しかしない……
声と爆走している足音が確実にこっちに迫っている。こっち来んなよ。あっちいけ、シッシッ!
「レイ君、覚悟を決めよう…」
「やっぱりか…」
「澪斗、ご愁傷様」
「澪斗君、危なくなったら逃げてね…」
マズイ。今すぐ逃げたい。でも、どうせまた会わないといけない人だろうしな……せっかくあっちから来たんだから、手間が省けたと考えるべきか……
「ん…来るぞ」
「うぅ……!!」
ドガン!!!!
その瞬間、オレらはあり得ないものを見た。今いる場所は休憩室で、ドアはそんなに頑丈には作られていないのだが………………
そう頑丈には作られていなかったのだが………
いないけれども………
「どうやったらそんな風になるんですか学園長ッ!?!?」
なんと、ドアが真っ二つになっていたのだ!無理があるだろ普通!?この人普通じゃねぇよ!?化け物!?化け物なの!?
そう混乱しているうちに、学園長はオレの目の前に来ていた。今年で62歳のおじいさんの筈なのだが、あんなに音を立ててダッシュしていただろうに息切れひとつしちゃいない。本気で化け物じみている。身長は180くらいだろうか。細身で白髪で、眼鏡をかけている。
何か怖ぇ……
「…君が、波樹君だね?」
「は、はぃ…そうです…」
「それが噂の猫耳と尻尾か……」
「うぅ………」
一体何を考えているのだろうか?怖すぎて足が震えてくる…………って!何か急に床に正座し始めたしッ!?!?
オレは思わずあとずさった。あき姉達が何やら構えているんだが……一体何が始まるんだ!?
「波樹澪斗君」
「は、ははははいッ!?」
この場全体に緊張が走る……そして次の瞬間ッ!!
「私のペットになってくれぇぇぇッッッ!!!」
「………ハァ?」
土下座されたしそれに、ペット?ペットって、ペット?ペットがペットでペットのペット?
…この人馬鹿?頭イカレてんの?
何か、目の前のモノが人間じゃなくて塵屑に見えてきた……竜士には悪いけど。
学園長こと、織ノ瀬只征は更に悲願の声を上げる。
「たのむッ!!私の!私専用のペットになってくれ!!悪いようにはしな」
「雉根!魅雪!その屑を拘束!!」
「「了解!」」
あき姉の指示で、学園長はたちまち拘束された。そして床にゴミ同然に転がるそれを見てあき姉は
「あら、学園長さん。さっきぶりですね。」
「おぉ、綾原君か。相変わらずセクシーなボ……グェフゥ!!?!」
「ちょっと黙ってくださいこのゴミクズ。」
「あ…いや…ははは、やっぱり君は美し…げふぅ!!」
「罵られてハァハァしないでくださいこのドM」
うわぁ……何か、さっきより学園長が塵屑に見えるんだけど……っていうか、何かうれしそうなんだけど!?何このドM!?気持ち悪いッ!!
「あ、レイ君は魅雪と一緒に別の休憩室に行っててねー!」
「え?あ、うん………」
「それでは澪斗君、行きましょうか」
こうしてオレは第二休憩室へと避難した。休憩室から出る際に
『雉根、このゴミはどーする?』
『サツにつき出せばいいんじゃないか?』
『そっか!うん、そうしよう!!』
という会話が聞こえて来たが、まさか本当に警察につき出したりしないよね?仮にも学園長だし………いや、でもあき姉のことだし……
結局、あの後の学園長の行方を知る者は居なかった。
10時35分現在、オレは魅雪さんと一緒にお茶を飲んで一息ついている。
魅雪さんの入れるお茶はとても美味しい。本人曰く、茶葉にはこだわりがあるらしい。
「ほっ」
「ほっ」
同時に息をつき、湯飲みをテーブルに置く。魅雪さんはオレの方を見てニコニコしている。疑問に思いながら、目の前にある饅頭を手に取る。この饅頭もまた、魅雪さんが用意した物で、このお茶に結構合う。オレが饅頭をもぐもぐ食べてる間にも、魅雪さんは相変わらずオレの方を見てニコニコしている。正確にはオレの頭………
猫耳を。
「あ、あの…魅雪、さん?」
「はい?何ですか、澪斗君?」
「いえ…あの、オレの頭に何かあります?」
「ええ、猫耳が」
「あ、いや…そうじゃなくて……」
うーん……何ていうか……その……
そんな風に、何て言おうか悩んでいると、魅雪さんが急に立ち上がった。そしてそのままオレの方に歩いて来た。
「ふふふ…ごめんごめん。澪斗君のこの猫耳の動きが、見てて面白いから、つい」
そう言って魅雪さんはオレの後ろに立つと、突然、猫耳をワシャワシャといじくりはじめた。
「はぅッ!?」
「え!?」
触れられた瞬間、尻尾を握られた時と同じような感覚がした。
オレが急に声をだしたせいか、魅雪さんもかなり驚いた様子だった。しかし、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。
嗚呼、オレに救いは無いのだろうか……
いや……ないな……
待って!
私美月よ記憶なくした男であった
おぼえてないの?
覚えれるわけじゃないか
え……
忘れたのあのとき約束したじゃん!
仕事いっしに働くって!
だから嘘に決まってだろう
思い出したよあの記憶
ヒビキさんは復帰して一緒に働くようになった
二人は幸せでした
「ぶわはぁ~……」
あれから一時間、俺はずっと魅雪さんにいじられっぱなしだった。
めっちゃくちゃいじられた……
マジ疲れた……
「さてと、じゃあそろそろ行きましょうか」
「……え?」
行く?どこに?まさか……
「この状態で集会するんですか!?」
「もちろんですよ?」
う、嘘だ……頼むから誰か嘘だと言ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!?!!!!
トピック検索 |