ビギナーさん 2015-01-13 00:07:22 |
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(今更何をよろしくするのだろうか、自分の授業なんて出てもでなくてもテストの結果次第でなんとかなる、実技試験なんてないし必ずしも将来使うとは限られない教科。出ようが出まいが関係ない、相手もこんなギスギスした状態で受ける授業なんて身に入らないだろう。そう考えていたが相手は一応出る気でいるのだからそこに関しては高校生らしいなと感じ。自分のように一度拗れてしまった人間関係をばっさり切り捨ててしまうタイプではないんだろう。受け取った部誌をパラパラとめくりながらチェックったってどうすれば、と不満を零しそうになるがとりあえず前のページを参考にしながらチェックしていき、相手の字に見かけによらず繊細な字を書くな、なんて多少失礼なことが頭をよぎったが国語教師なのだから仕方ないと割り切り部誌のチェックを終えては倉庫の鍵をしめて
(制服に着替え終わりチームメイトたちへの謝罪メールも済ませれば戸締りを確認して部室の鍵を閉め。自分のような運動部員くらいしか残っていない校内を進み、職員室の入口で席を確認し相手の元へと鍵を返しに行き。場所が場所なため礼儀正しくぺこりと頭を下げては「お疲れ様です。部室の鍵、返しに来ました」と用件のみを簡潔に伝えて。この時間になるとやはり昼間よりも職員室内に残っている教員の数が少なく、相手が早く帰りたがっていた気持ちも今なら少しは分かる気がして。それを口実に脅されたりはしていないものの、今後何かの機会で相手に盾にとられぬよう後腐れ無く終わらせたく、「…それと、今日は生意気な事言ってすみませんでした」と小さく零して。
(早く帰りたい、と思いながら爪をいじっていると人の少ない職員室のドアが音を立て相手の姿が目に入ると他の教師の前だからか相手ににこりと笑顔を作り鍵を受け取ればチェックのいれた部誌を相手に見せながら、これはどこに置いておけばいいんですかと問い掛けようとしたら相手からの謝罪が聞こえ、自分にもそれなりに原因があるため「いえ、俺も悪い所があったので謝ります。すいませんでした」と相手にみあった言葉をかける。自分にとっては最早早く帰りたい一心で出た言葉にすぎないかもしれないが形的には謝罪したのだから相手も先程よりは気分がいい、とまではいかないが通常通りになったのではないかと考えて。荷物を手短にまとめると「もう暗くなってきましたし、校門まで送りますよ」と少しだけ背の高い相手の肩を叩きながら近くの教師に一声かけつつ相手を外にでるように促して
(同じく謝られれば露骨に安堵したように表情を緩め、と同時に益々相手の事が掴めなくなってきて。本当に相手は女子たちが言うようなただ悪いだけの問題教師なのだろうか。抵抗はせず促されるままに職員室を後にすれば、靴を履き替えるために昇降口を目指して。先程見せられた涙が頭から離れず、職員用のロッカーに靴がある相手と一旦別れローファーに履き替えてから外で待っている間ももやもやとした感情は募っていく一方で。ふとスマホを取り出して時間を確認してみると幼馴染から心配のメールが届いており、心配を掛けた事への申し訳なさを感じつつも嬉しさや安堵から自然と口元を綻ばせて。穏やかな表情でそれに返信を済ませれば再びスマホをポケットへ戻し。
(相手と一度別れた後にずっと通知音を鳴らすスマホを取り出すとたくさんのメールが来ておりそれらを一つずつ確認する。もう関わることがないだろうと思っていた生徒の名前が目を通り抜け、何処にいるの、とか話がしたい、とか女々しい言葉の羅列に思わず吐き気がしそうになりながら全て消去していく。自分にはもう関係ないのだと割り切りながら、靴を履けば相手の方に近づいて「ほら、校門まで送ります。」と先程職員室でいった事と同じことを繰り返すとポケットに手を入れて春先なのにまだ寒さが残るこの時間帯になぜ校門まで生徒を送らなければならないのかと自分の浅はかな考えで発した言葉を悔やみつつ相手より先に歩き出し、話すことなど何も思い浮かばず、部活の時間帯に考えていた相手を誑かす作戦も今はどうにもならない気がするし、演技だとしても涙を見られたわけであんなことした自分が馬鹿みたいだと感じ
先生。
(先に歩いていってしまう相手を追いかけ数歩で隣に並ぶと、自分より少し下にある相手の顔を横目で見遣りつつ短く呼んで。相手の本性は今すぐに分からなくてもいい、周りや本人から少しずつ情報を集めていこうと密かに決意し。どうしてバレーに関係の無い一教師の事がこうまで気になるのかは分からないが、このままでは何と無く自分の気が収まらない。教師の言葉を何でもかんでも鵜呑みにしてしまう純粋な生徒を装い「俺、先生の事信じるよ」といかにも心の優しい人間が言いそうな台詞を口にして。この作り物の一生懸命さを信じさせようと相手の双眸を見つめて。
及川くんがいい子だと俺も嬉しいです。
(相手の企みなんて手に取るようにわかり、どうせいい子ぶった作戦だろうとあたりをつければ上記を笑顔で述べる。周りから潰していけばいい、そんな邪心を抱きながら相手の交友関係をあとで把握しなければなんて怖いことを考えてはあのうるさい女子生徒から情報とか入ってるんだろうなと予想をつけてそこからまず崩すことを笑顔のままイメージして。あまり作り笑顔を続けていると怪しまれるかもしれない、一度相手を真剣に見つめれば「信じてくれてありがとう」なんて純粋な言葉を吐きながら自然を装ったように笑い。笑うと笑窪ができることが嫌で嫌で仕方ないがこの暗がりなら相手には見えていないはずだと縋る思いで。笑窪なんて男子にあっても何も得をしない、むしろ昔からこのことでからかわれた思い出しかなくていやなことを思い出してしまったと笑った瞬間に複雑な心境になり
いえ…。
(此方の思惑がばれている、不自然な言葉選びからそう察した途端相手の頭の良さに背筋が凍り。恐怖心と緊張感から思わず詰めた息をひっそりと逃がせば、どうしたものかと思考を巡らせて。今日限りで相手の興味も自分から離れるだろうか、だとしたら少なくとも面倒事に巻き込まれる事は無さそうだが相手の考えが読めない以上用心するに越したことは無い。柔らかな笑みを浮かべる相手を悪人だと思いたくはないが、疑う理由はありすぎていて。少なからず混乱していたせいか、目についた笑窪について「…笑窪、可愛い」と何の脈絡も無くふれ。悪ふざけでもからかいでも企みでもない、純粋に胸に浮かんだ感情をそのまま口に出してしまったため、すぐさまはっとしたような表情を浮かべて気まずそうに目を逸らし。
(相手が自分を模索しようと、先入観のある目で見ようと自分はこの体裁を崩さないし相手に負ける気なんてさらさらない。相手が今後、どのようなことをするかなんてまだ予想出来ないし予想する気もない。だが先程の自分の言葉に相手は違和感を覚えたということだけは確かで、それに対してどう動くのか、新しいおもちゃを買ってもらった幼子のように楽しみで。そんなことを考えてるさ中、自分の笑窪の話になり、目を見開く。見えないと思っていたはずなのに、驚きが隠せなくて。可愛い、そんなことを言われたことなんてなくどう反応したらいいかわからなくて、「え、っと…」なんて歯切れの悪い反応をしてしまって。恥ずかしい、なんでこんな恥ずかしい思いしなくちゃいけないんだ。少しだけ顔を赤くしながら自然を下に落として
すみません、男に言われたって嬉しくないですよね。
(いつだったか、自分もファンの女子に言われた事のある‘可愛い’という言葉。そもそも男に使うべき形容詞ではないし、異性に言われるならまだしも同性に言われたところで困るだけだろう。すぐに苦笑しながら謝って相手を見ると予想外な、それも初めて見るような反応を示していて。おそらくこれが相手の素に極めて近い部分なのだろうと気づけば、同時に一つの可能性が脳裏に過ぎり。──勝てるかもしれない。女子たちをあしらう内に嫌でも身についてしまったこの特技を活かせば、相手を翻弄する事だって可能なはず。頬を赤らめる相手を目にした途端先程とは一変して余裕の笑みを浮かべては、「いつもの笑顔よりそっちの方がいいんじゃない?」と歯の浮くような言葉を掛けて。オプションでもつけてみるかと軽い気持ちで少しだけ屈み、伏せ目がちになってしまった相手の顔を下から覗き込んで微笑み。
ば、馬鹿じゃないですか…!早く帰ってください…!
(ぶわっ、という言葉がつくほどの勢いで顔を赤くさせると相手の後方に周り背中を押しながら上記を述べる。恥ずかしい、情けない、顔を見ないで欲しい。相手にいいように転がされる気がして、それが癪に障りもう早く帰ってくれと心で願っていた言葉が口をついて出てしまい。余裕がないのを悟られないように話したせいか、少しだけ声が裏返り、それすらも羞恥に感じる。顔が熱くなる気がして、自分のどうしようもない醜態晒しに唇を噛みしめる。今まで一度だってこんな風に生徒に有利に立たれたことなんてあっただろうか、考えて見る限りそんなことはなく、相手に絆されてる気がしてもう泣きたい気持ちになって。ぐ、と背中を押しつつ自分の顔を隠すように背中に顔を押し付けてみて
わ、ちょっと、押さないでよ!
(予想外すぎる反応に此方まで恥ずかしくなってくる。つい先刻まで散々憎たらしく感じていた相手を一瞬でも可愛いと思ってしまった自分に動揺するが、不思議とそれほど違和感は感じずこの感情をすんなりと受け入れて。俺ってホモじゃないよな、なんて自分の事ながら不安になってしまい、背中をぐいぐいと押されながら片手で口元を覆い。相手が生徒を弄ぶ極悪教師だろうが知ったこっちゃない、手玉にとられる前に此方が弄んでやればいいだけだ。可愛いと思ってしまった自分の感覚を信じてみたいが、かつて相手に弄ばれた生徒たちの一人に自分も成り下がるのは気に食わない。くるりと振り返って相手に向き直れば、「遊ぼうよ先生、付き合ってやるからさ。本気になった方が負けでいいでしょ?」と上から目線な台詞を耳元で囁いてやり。
(先刻より、相手の上から物をいう態度にプライドやら何やらがズタズタにされる気がするが最早そんなものは気にしてない。相手の遊びに付き合ってやる、という体はそのまま、本気になったら負けだと言われると誰が生徒相手に本気になんてなるかと悪態をつきながら「いいですよ?最初に言っておきますけど本気になるなんてあり得ませんから」そんな風に言えば制服のネクタイを掴んで自分の方に引き寄せ、先程の自然に近い笑顔は何処へやら、最高に悪役じみた笑顔で「キスの仕方も知らない高校生に絆されるほど俺も馬鹿じゃないので」と。自分が負けるなんてあり得ないし相手に本気になる気もさらさらない。相手が自分に本気になるかはわからないが仕掛けによってはすぐに落とせると自信満々の笑みを見せ
っ…、はなせ。
(一瞬で可愛さの掻き消えた相手に呆れて良いものか嘆いて良いものか戸惑っている内に隙を突かれ、ぐっと近くなった距離に不快そうに眉を顰めて。不意打ちで首周りに感じた圧迫感のせいで無防備な面を晒してしまった事が悔しく、意図的に相手から視線を外して。挑発に乗るのは気に食わないが小馬鹿にされ子供扱いされるのは我慢ならず、きゅっと真一文字に結んだ唇を思い切って相手のそれに重ね。男相手では視覚的に萎えるだろう、と固く目を瞑った効果もあるのだろうがそれほど嫌悪感が湧かなかった事に我ながら驚いて。数秒ほどで唇を離せば挑発し返すように目を細めながら「キスがなんだって?」とせせら笑って。
(やはり相手もただの高校生なんだ、と高を括っていればふいに唇に温かい感触がしてそれが相手の唇だと気づくのに少しだけ時間がかかり。挑発しているつもりなのか、唇が離れたあとに薄く笑う相手に向かいこちらも余裕の笑みを浮かべながら「あれぐらいで俺に勝とうなんて思ってたら後で痛い目みますよ?」とネクタイを掴んでいた手を離すと相手に更に畳み掛けるように「お前と俺とじゃ経験が違うからね、そこらへんはちゃんと覚えておいた方がいいよ。」と言えばもう暗くなっているというのに生徒を帰さないというのはやはり他の教師に印象が悪くなってしまうと思えば早く帰れ、と相手を促すように道路を指差して。こんなことで俺は負けないよ、とでも言いたげに笑って見せながら手を振って
……‘叩くなら折れるまで’だよ、笑窪が可愛い安田くん。
(肩からずり落ちそうになっていた鞄をしっかり掛け直せば、乱れた襟やネクタイを軽く直しながらにっこりと微笑みピースサインを突きつけて。相手にとって勝負はまだまだこれからだと言うのなら此方も応戦する気満々である事を宣戦布告も兼ねて言い放ち。自主練習できなかったのに結局いつもと帰る時間が大差ないな、と真っ暗になってしまった辺りに目を遣りつつ門を出て数歩歩いたところで振り返れば「今度はもっと色々俺に教えてよね、先生」と再び挑発しながら手を振って。返事を待つ気は無いのかそのまま歩き出して帰路につき。
(相手が帰るのをしっかり見届けた後、高校生が調子に乗るなと少しばかり焦りを感じなが自分の車に乗り込み。相手を送っていくのが筋だろうかと考えた後、相手が歩いていった方に走っていけば後ろ姿を発見して「及川くん」と声をかけ、久しぶりに走ったからか息が上がってしまい、それを整えながら「もう暗いので送っていきます。一応心配ですし」と特別な理由があるわけではないと釘を刺すように言いたしては相手の家なんか知らないし別に知りたくはないが送っていくなんて言ったら相手がそう思ってしまうのではないのかと少しだけ発言に注意した方がいいかななんて考え。怪しまれてしまったら元も子もない、相手の親に良い印象を与えておけば後々言い訳することも可能だろうと底意地悪く考え
(口ではああ言ったものの軽率にキスなんてするべきではなかった、と少し後悔しながらバス停を目指して。まだ学校からそんなに離れていない内に後ろから走ってくる足音と名前を呼ぶ声が聞こえれば振り返り、「先生?」と少し驚いたような表情で答えて。暗いから心配だと言っても自分は男だし、試合前であればこの時間帯に帰る事だって珍しい事じゃない。送らせるのは申し訳ない気もするが練習後の気怠さと眠気に負けて、相手の申し出を素直に受け入れる事にして。緊張の糸が切れた事もあり眠気で多少目をしょぼつかせながら相手の隣まで戻れば、先程のやり取りの後では何と無く言いづらかったのか、「ありがと」と小さく口にしながら目を伏せて。
(こんなに走ったのはいつぶりだろうかと考えてみるも思い出せないほど昔ということは学生時代もさほど体育やそれら体を動かすことにたいした興味がなかったんだろうなと思い。相手の眠そうな顔に思わず笑ってしまいそうになるが自分だって相手から見れば相当面白い顔をしているのだろうからそこには触れずにまだ遠くない学校を目指すべく相手のありがとうに頷きながら「別にいいですよ」と返し。車の鍵を体育館の鍵と同じように指先で遊びながら部活を一生懸命やるとこんな風になるのかと学生時代部活なんて入っていなかった自分には無縁のことだなと他人事のように考えながら「歩きながら寝ないでくださいよ」と歩きながら寝られたら自分じゃ運べないであろうからそれだけは勘弁してくれと心底迷惑そうな顔で言い
寝ないよ〜…。
(歩きながら寝られるほど器用ではないが、気を抜けば立ち止まってしまいそうになるのは事実で。間延びした声で答えれば、学校まで連れて行けと言わんばかりに相手の腕を緩く片手で掴んでもう片方の手で目を擦り。さすがに誰かに見られたらまずい事くらいは眠たい頭でも理解できるらしく、敷地内に入るか入らないかのところでそっと手を離して。駐車場まで歩きながらさっきの相手はわざわざ走ってきてくれたんだよな、なんてふと考え。本来バスの中で仮眠をとるつもりだったがこれで寝過ごしてしまう心配も無くなった、と安心した途端眠気の波が一気に襲ってきて、相手の後について車まで来れば助手席側に回って立ったまま船を漕ぎ始めて。
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