xxx 2014-12-29 00:12:16 |
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>露木
( 相手に気付かれる前にさっさと退散しようとした所、突然腕を掴み取られては顔を逸して。
相手の口から一番最初に出た名前が兄の名前だったのにやはり相手の一番の存在は兄なのかと悲観的な解釈をしてしまい僅かに唇を噛み締める。
義理堅い相手の事、要らないと言っても礼をすると言い張るのだろうなと思えば小さく溜息を付く。
声を出してしまえばバレるだろうしと頭を悩ませてた所、不意に伸びて来た相手の手を瞬時の早さで掴み取れば“危なかった”と。
自分の携帯を取り出しメモ帳を開いては《生まれつき喋れないんだ》と文字を打って。
しかしそこまでした所で相手は自分の携帯を見ていたでは無いかと慌てるが表情に出さない様にフードを深く被ったまま落ちかかった眼鏡を上げる。
下を向いたまま一歩後ずさってはそのまま一歩一歩と後ろへ歩を進め逃げる様に走り出しては道の途中で青年と落ち合いバレなかった事を告げる。
『もう、奇跡だと思ってよね』
「分かってる。…気を付けるよ」
『はいはい、分かったから取り敢えず寮に戻ろっか。汗掻いたら兄さん顔黒くなっちゃうし』
「ん、分かった」
( こんな寒いのに汗掻く訳無いだろ、なんて考えつつそれでも青年には逆らえずに。
相手とも別れた事だしと僅かに顔を上げては再び街に出て。
ふとショーウィンドーに写った黒髪の自分を見詰めては青年に「生まれ変わりとか言って露木所行けたらな」と小さく呟く。
「髪も黒いしさ、これでカラコン入れれば俺普通じゃん」
『ちょっと、兄さんが嫌って言ったんでしょ』
「まぁ…でもまぁやってみたらやってみたで良いなって思ってさ」
『………ふ-ん、…そっか。そこまでして露木の事、』
「は??」
『ん、何でもない』
( 言い掛けた青年の言葉も特に気にせずフードを取っては眼鏡を掛け直したりして。
>桐崎
(“フード男”が走り去った方角を見詰めては良い奴なんだろうなと漠然と思い、携帯も偶々相手と同じだったのだろうと本人とは気付かず公園を出る。
すると慌てた様子の兄が駆けつけて来て何も無かったか聞かれては簡潔に今あったことを話して。
「…なんか綸に似てた」
『俺に?』
「でもどちらかと言うと彼奴に…、って彼奴はもう居ないんだったな」
『そ、そうだよ。世の中には似てる人が3人いるって、それじゃないかな』
(何か察したように笑う兄に軽く頷きつつまだ妙にざわつく胸に手をあてる。
初めて会った筈なのに胸がチクチクと痛んで心の中で誰かが“離れたくない”と叫んでいるような感覚。
きっと気のせいだと兄に腕を絡めては「今日はバイトないから綸といたい」と小さく微笑み。
兄は微妙な顔をするがそんな事は気にせず身体を密着させては兄の部屋へと戻って。
(兄の部屋に戻って暫く兄が大学の後輩に呼び出されては『絶対この部屋から出ないでね』と念押しされて部屋を出て行き、結局一人退屈になるもすぐに自分にも教授からの呼び出しの着信が来て。
部屋を出るなと言われたが流石に此れは仕方ないだろうと大学教務課へと趣きさっさと用事を済ませてはどうせ部屋に行っても一人だし兄の部屋を出てはいけない理由も分からないため共同スペースに足を向ける。
奥のソファに腰掛けてはふと“よく彼奴(相手)は此処で寝ていたな”と懐かしみ頬が緩むも何故憎いはずの相手にこんな感情を抱くのかとまた胸がざわついて。
最近こんなばっかりだと苛つきつつ一応兄にメールで共同スペースにいることを告げては暇だし何か読もうと部屋の隅にある大きめの本棚から普段あまり見ることのない“今どき全身コーデ”なるファッション雑誌を引っ張り出すも、高い位置から無理に出したからか何冊かが雪崩のように一緒に落ちてきて床に散らばってしまい。
明らかに自分が悪いのに内心“誰だよきっつきつに仕舞った奴”と悪態吐きながら、兄の服のため少しだけ長い袖をまくり散らばった雑誌を一冊ずつ拾い上げては手を伸ばして元あった位置に戻していき。
>露木
( 寮に戻るなり青年は前回のテストの結果がいきなり下がった事で呼び出しを食らってしまい一人になれば自室にてシャワーを浴びる。
黒髪の塗料が落ち銀髪に戻ってしまえば何処か寂しい気持ちになるもやはり一人になるのは苦手で部屋を抜け出してはコンビニへと向かう。
毎月見ていた雑誌を買おうとした所で同級生に出会しては入院の事を問われて。
『大丈夫だった??皆心配してたんだから………って言うかその雑誌買うの??確かそれ共同スペースに会ったけど………。先輩でも置いて行ったのかな』
「マジで??じゃあ買わない」
( さらりと上記を述べスタスタとコンビニを後にしては慣れないが為に何度も落ち掛かる眼鏡を上げる。
パーカーのフードの中にもヘアバンドをしてるしバレないだろうなんて安易に考えては共同スペースへと訪れる。
敷居の向こうに誰かが居るのは何となく気付いたがまさか相手だなんて気付かずに目当ての雑誌を探す。
しかし共同スペースの温かさに最近の寝不足が沸き上がっては眠気が襲い掛かりソファーへ横になり。
相手に会いたい、なんて考えが頭に浮べば無意識の内に「………露木」と息が漏れるか程の声を紡ぐ。
しかしそんな所で何かにぶつかり簡単な敷居がパタリと倒れては敷居の向こうに居た相手と目が合い。
眠気がぶっ飛び頭が覚醒しては段々と冷汗を感じバッと立ち上がれば窓をガラリと開け飛び降りて。
高さがあるがきっと大丈夫だろうと言い聞かせてはちゃんと青年の言い付けを聞くべきだったと。
>桐崎
(雑誌を戻し終えてやっと一息つけるとソファに腰掛けようとしたところ誰かが入ってくる気配を感じそちらに目を向けては丁度敷居が倒れ目に飛び込んできた人物に胸が大きく鼓動し目を見開く。
見間違いではない、居るはずのない相手が何故…と全身の細胞が沸き立つような動揺で手が震えるも相手が窓から飛び降りるのが見えては衝き動かされるようにその後を追うもその高さに飛び降りるのを躊躇してしまい。
小さく舌打ちしては階段を使っており全速力で相手が向かった先まで走ったところ、前方にややびっこを引く相手を見つけすぐさま駆けつけては相手の肩を後ろから掴みそのまま横の壁にドンと押さえ付けて。
相手の身体を封じたまま有無をいわさずヘアバンドごとフードを外しては顕になった銀髪に上がる息をグッと飲み込み幽霊でも見ているかのように紅い瞳を見詰めて。
「……な、んで……生きて……」
(歯切れ悪く言葉を呟きながら自分がどうしたいか分からず相手を押さえつける手に力が篭もる。
自分の中で催眠から逃れるため激しい感情が衝突し混雑するも僅かに男の能力が上回っては小さく身体を震わせながらも尋常でない力で相手の肩を掴み上げ、僅かに水膜の張った瞳で相手を睨みつけて。
「……どうして、あんたここに居る。……なんで死んでないんだよ」
(催眠による憎悪を制御できず怒りに声を震わせては自分が身勝手で正常ではない発言をしていることも気付かずに。
(その頃、兄は用事を済ませ自分からのメールを見たところで、悪い予感がしてはもしもの時は自分を気絶させるか何なりかして誤魔化さねばと相手と自分を探しに出て
>露木
( 相手の言葉にやはり相手は自分の死を望んでたのかと確信させられては眉を寄せる。
それでもどんな対応をされても相手に会いたかったのも事実で掴まれる肩の力の強さに表情を顰めつつ相手の髪にそっと触れては「ごめん」と口を開き。
「**ない、…あんたがそんな顔をしてるんじゃ**ないんだよ。………頼むから笑ってろよ」
( 瞳が潤むのを隠しつつ相手から伺える憎悪の他に何かを感じ取れば眉を下げる。
しかしその刹那、戻って来た青年と兄に引き離されては兄は相手に寄り添い何処かへ行ってしまい。
残された青年と二人になり青年に腕を引かれては自室へと戻る。
小さな説教をされながら、それでも先程の相手の表情を思い出しては青年の肩に額を置いて。
『に、兄さんどうしたの』
「俺があんな事しなければ今頃彼奴と過ごしたのに」
『……………』
「ま、いいや。ごめんないきなり。そうだ、明日出掛けようぜ。奢ってやるから」
『あ…う、うん!!!行く!!!あと…ほら、大きな水族館出来たじゃん、そこも行きたいな』
「分かった、じゃあ朝迎えに来て」
『うん!!!楽しみにしてるね』
( 笑顔で去って行く青年に微笑みを返しつつ、それでも何処か相手と重ねようとしてる自分は最低だなと。
頭の後ろで手を組んでは瞳を閉じて。
( そして翌日、青年が迎えに来た頃には珍しく着替えも済ませており携帯と財布のみをポケットにしまい込んでは自室を後にする。
分かり易く上機嫌な青年が先ずは何処へ向かおうかと問い掛けて来て。
「まだ飯食ってないんだよね、腹へったし朝飯食いに行こうぜ」
『分かった!!!』
( 適当なファーストフード店に入れば注文を済ませ最近のテストだったり自分は所属してない委員会の話だったり他愛もない話をして。
>桐崎
(翌日日が昇る前、薄っすらと目を開くと兄のベッドの中におりベッド脇に突っ伏して眠る兄に目をやっては眠る前の記憶を辿りながら上半身だけ起こす。
そして徐々に昨日相手に会ったことを思い出してはガバッと布団を引き剥がしベッドから起きようとするも目を覚ました兄に止められて。
『ちょっと、急にどうしたの』
「どうしたも何も、彼奴が生きてて……、って…なんで俺寝てたんだ?」
『なんでって昨日のこと何も覚えてないの?菊、久々に呑んで寝ちゃったんだよ』
「……いや、でも……、じゃあ彼奴は……」
『……夢、なんじゃないかな』
(悲しげな表情を浮かべて俯く兄を見てはこれ以上相手の話に振れられなくなり、それが演技とは見抜けず本当に酔って記憶が飛んで変な夢でも見たのかと思い込み。
それからまた寝るよう促されてはもう眠たくなかったが自然と瞼が重たくなって。
この時、昨晩からずっと相手の名を呼び頬に涙痕が残っていたことには気付かずに。
(数時間後、扉を叩く音で目を覚ましては身を起こすと共に若頭に抱き付かれ三枚の水族館のチケットを見せられて。
『此処新しく出来た所。イルカに触れるんだって。…イルカって癒やし効果あるらしいし最近菊疲れてるでしょ?一緒に綸も入れて三人で行こうよ』
「…俺は疲れてない。しかも癒やし効果って俺が精神病んでるみたいに……」
『でもイルカ好きでしょ?』
「………嫌いじゃないけど」
(面倒げに呟きつつ正直動物は好きで興味があったためチケットを受け取っては朝の身支度を始める。
その間に兄は少し焦った様子で若頭に耳打ちして。
『今日、赤城と繿もそこに行ってるんだけど』
『え…まじで?…動物と触れ合えば何かしら効果があるかもって医者に言われて来たんだけど。……いやでも此処かなり広くて人も多いから鉢合わないでしょ』
『…だと良いけど』
(そんな兄と若頭の気遣いと不安をよそに支度を済ませては三人で水族館へ向かう。
兄の手を握りながら平静な振りをしていたものの内心、“夢”で見た相手が悲痛に満ちた表情で紡いだ言葉が脳裏にこびりついていて、ジクジクと痛む胸を誤魔化すように笑顔を貼り付け兄と若頭の話に合わせて。
露木
( 朝食を終え早速水族館へと訪れては真新しく綺麗な館内へと足を向ける。
人混みが激しく迷わない様にと青年が肩にしがみつくのにやや苦笑いで溜息を付いてはパンフレット片手に順番に回ろうかと話をして。
大きな水槽の魚達を眺めてた所、青年の携帯のメール受信音が鳴り響いては一度腕を離す。
メールを開いた青年が血相を変え『に…兄さん今日帽子とか…持って来て無いもんね』と何処か余所余所しく言うのに「何で??」と首を傾げる。
今日の服にはフードも付いておらず増してや帽子なんて持って来てる弾も無い。
青年が兄とメールで連絡を取ってる事など露知らず「置いてくぞ」と言えばスタスタと歩き出して。
( その頃、水族館へ訪れた相手達の元にはしつこい程のナンパの手が襲い掛かっていて。
若頭も身を張って相手を守っていた物のやはり男だとバレてしまい、しかしその顔立ちの良さと以前雑誌に載った事から“可愛い”と女子ウケしてしまい。
『ちょ、…魚全然見えないんだけど!!!』
『困ったな-。折角来たのに』
『もう!!!こんなに女の子に絡まれたの初めてで戸惑うよ-。女の子の友達はいるけど僕菊にしか興味無いからさ』
『俺と付き合ってるんだけどね』
( 言い合う二人を気にも止めずまた相手の前に女子数人が来ては“一緒に回りませんか”と御決まりの台詞を問い掛けており。
>桐崎
(群がってくる女達に雑誌のモデルがいるから当然かと思うも水族館にわざわざ来てるのに見るものが違うだろうとうんざりする。
それでも女達に悪意はないため丁重にお断りして場所を移動するもまだ言い寄ってくる女達が居たため兄に腕を絡ませ頬に口付けては「そういうことだから」と微笑んで。
引きつった笑いで去って行くのを見ながら、そう言えば相手とは気恥ずかしくて中々こういうことが出来なかったなとぼんやり思い。
『き、菊ってば大胆ー。そういうこと普通にする性格だったっけ?』
「あの子達がしつこかったからだよ。…優希もして欲しかったのか?」
『うわ、意地悪な顔。っていうか優希じゃなくて優ね。前にも言ったでしょ』
(プイッとする若頭の仕草に女に人気がある訳だと思いつつ若頭が兄に『…繿と付き合ってる時と性格違うんだけど。猫被ってたんじゃない?』とぼやいているのは聞こえず。
(その後、そわそわする二人をよそに兄と腕を絡めながら館内を周っては目的の一つだったイルカとの触れ合いスペースに行く。
小さい子供たちやカップルが多い中流石に恥ずかしいからと渋るも若頭に無理矢理手を引かれてはイルカの前まで来て飼育員に促されるままイルカの胸ビレに触れその優しい眼差しと目を合わせて。
「………繿と来たかったな」
(突然正気に戻ったように呟いては兄が『菊…?』と呼びかけてくるもそれと同時に飼育員が『この後イルカショーがあるので是非来てくださいね。運が良ければお客様も参加出来ますよ』と声を掛けて来たことによりまた催眠に落ちて。
「…折角来たしショー見に行くか?」
『え?……あー、いや。ショーは次の時間のにしない?ほらペンギン館先に見に行こうよ』
『あ、それいいね。僕ペンギン大好き』
(相手と鉢合わないよう必死な二人の気など知らずに夕方からバイトが入っていたため「次の時間じゃバイトが間に合わないから。…イルカも後でゆっくり見たいし」としれっと言って、目の前のイルカを撫でては頬を綻ばせさっさとショーの会場へと足をすすめ。
そんな自分に若頭は『前から思ってたけど菊って繿がいないと結構我が儘だよね』と苦笑を零し、慌てて自分の後を追い兄と共に変に騒ぎながら自分の視界を遮るようにして歩いて。
>露木
( そわそわとする青年に疑問を持ち軽く頬を抓っては「具合悪いのか??…別に無理に誘った訳じゃねぇし…」と言い掛けるもぶんぶんと首を振る青年に再び微笑みを漏らしてはイルカのショーの看板が目に入り。
青年と兄の口裏合わせでは相手と鉢合わない様に自分と青年をショーへと押し込んでは兄達は別の動物を見に行く予定だった様で青年は『行こう!!!俺イルカ見たいな-』なんて何処か態とらしく言って。
「あ-、うん。別に構わないけど」
『本当??やったね、じゃあ行こ!!!』
( 背中をグイグイと押して来る青年に疑問を浮かべつつショーの会場へと足を進めては奥の席に腰を下ろして。
それから暫く経ちパンフレットを捲りながらショーが始まるのを待ってた所、いきなり青年が立ち上がっては自分の視界を遮る様にズイッと顔を近付けて来て。
「いきなり何だよ、変な目で見られてるだろうが」
『あ、…えと…』
「さっきからお前可笑しいぞ」
『そ、そうかな』
( 相手達が自分達より離れた席に腰を下ろしたのを確認しては漸く青年は再び席に付く。
瞬時携帯を取り出し《よ、予定と違うよ-。・:(゚^o^゚):・。》とメールを送って。
《ご、ごめん。兎に角繿の髪すっごい目立つから何か被せといて》
( 再び鳴った受信音と共に青年があわあわとしながら自分の頭にタオルを被せて来るのに首を傾げる。
「だから…何なんだよ」
『み…水!!!凄く水飛沫来るらしいからさ!!!』
「お前が掛けとけよ、俺別に平気だし」
『駄目!!!兄さんが掛けてよ!!!』
( 眉を寄せながら大人しく青年の言う事にしたがってた所、不意に相手の横顔が見えた気がしては立ち上がろうとする。
『ど、どうしたの??』
「今…露木が」
『気の所為だって!!!』
( 肩を掴まれストンと大人しく席に座っては先程から怪しい様子の青年をジトリと見詰めて。
>桐崎
(ショーの会場にて強制的に兄と若頭の間に座らせては(相手がいない側に座る)兄にやけに話し掛けられ目を合わせるよう仕向けられては必然的に兄をまっすぐ見詰める形になる。
が、ステージ上の客を映し出す巨大スクリーンに赤髪と相手が写った気がしては目を向けようとするも『あーー!喉乾いたからドリンク買ってくる』と大袈裟に声を張る若頭に視界を遮られてしまい「……あんた変だよ」と若頭を怪訝そうに見詰め。
(ドリンクを手にした若頭が戻ってきてすぐ、ショーが始まってはイルカのジャンプと共に沸く歓声に“小さい頃よくこういう所に父親に連れて来て貰ったな”と無感情に思いだす。
___相手は折角父親と和解出来たのにこういった思い出を作れず逝ってしまったのかとフと相手を想った時、『そこのタオル被ったお兄さん!良かったら前に出てきてこのリングをウミちゃん(イルカ)に投げてくれませんか?』とマイクを通したトレーナーの声で意識が引き戻されては“タオルを被ったお兄さん”に目を向ける。
顔は良く見えないが周囲の女子が黄色い声で囁き合っていてるのが分かり相当のイケメンなのだろう何となく気になって見詰めるも奥に赤髪が見えては「…赤城?」と首を傾げ。
『きーーく、あまり人をジロジロ見ると失礼だよ!!』
『っていうか僕急にトイレ行きたくなっちゃった!一人じゃ迷いそうだから菊もついてきて!あー、もうがまんできない。漏れる』
(ギャーギャー騒ぐ若頭にさっき一人でドリンク買いに行けたじゃないかと心中突っ込みを入れつつ「…あんた何歳だよ」と溜息混じりに席を立ち、ショーにお呼ばれした“タオルの男”と一瞬見えた気がした青年が気になりながらも若頭と共に階段上にある手洗い場へ向かおうとして。
>青年
( まさかの指名に“人前に出るのはあまり得意じゃ無いんだよな”と小さく溜息を漏らす。
『そこのお友達、赤い髪のお兄さんもご一緒に!!!』と言うトレーナーの誘いの元、若頭と相手が行ったのを見計らった青年が『ほ、ほら兄さん折角だし!!!』と急かす様に自分の背中を押して。
愛らしいイルカに癒されつつ輪投げを終え席に戻ろうとした時、兄の姿が見えた気がしてはそちらに視線をやるも察した青年に腕を引かれては確認は出来ずに。
先程から気に掛かる事ばかりで流石に怪しくなり席を立っては青年に「ごめん、ちょっとバイト先からメール来てたから電話して来る」と嘘を付き。
『だ、駄目だよ兄さん!!!俺も行く!!!』
「流石にバイトの電話はプライベートだろ、直ぐ戻るから」
『……………直ぐ、ね。絶対だよ、約束ね』
( やたら念押しして来る青年に呆れつつ一度席を外しては喫煙所へと向かい煙草に火を付ける。
ショーの最中という事もあり人目に触れる事も無く、例え触れたとしても年齢を誤魔化せば良いかと。
ふうっと煙を吐き出し煙草を一本吸い終えた所で喫煙所の扉を開けては最悪の状況か、若頭とばったり出会してしまって。
「あれ、木ノ宮何してんの」
『し、…静かに!!!』
「はぁ??」
( 泣きそうな程の表情をしながら慌てる若頭に口を塞がれた所で若頭の後から此方に向かって来る相手の姿が見え先程迄の青年の様子などの辻褄が全て納得出来ては顔を俯かせ「………もう行く、…てか帰るよ」と。
『ま、待って!!!…いや、えと………』
「……………」
『どうしよ、…綸か赤城に電話しなきゃ』
( グズグズと泣きそうになりながら携帯を取り出す若頭を何処と無く憐れむ様に見詰めてはもうバレているのだしと相手の前に駆け寄って。
「残念、俺まだ生きてんだよ。あんなんじゃ死なねぇな、今度はもっと上手くやれ」
( まるで軽い事でも言うかの様に僅かに身を屈め相手の顔を除き込む。
こんな時でさえも愛しい相手に見惚れてしまう自分が嫌になりつつ思い出した様に口を開く。
「綸と赤城と木ノ宮はあんたを騙そうってしてた訳じゃない。あんたの事殺人鬼にしたくなかったんだよ」
( 若頭が背後で泣きべそを掻きながら兄に連絡をしてるのに軽く目を向け「あんたとは元から“何も無かった”し俺は“何もされてない”。…あんたはこれからも綸と良くやれよ。綸ならあんたを嫌な思いにもさせないし普通の人間だから」と。
上記を言い残しさっさと相手の元を後にすれば青年に《ごめん、先に帰るよ。あんたは綸達と帰ってくれ》と短く返して。
>桐崎
(席に戻ろうとしたところ相手が駆け寄ってきては昨日の事は夢で無かったのだと確信すると共に激しい動悸に襲われる。
相手から紡がれる言葉一つ一つが胸に突き刺さり言い返したいのに声は一切出てくれず意に反して相手を強く睨みつけ。
しかし相手が去った瞬間、これまでにない頭が割れるような痛みに襲われてはその場に蹲りくぐもった苦痛の声を漏らしながら相手を探し求めるよう片手を宙に彷徨わせる。
意識が遠のく中、催眠が解け自我を取り戻していくのを感じては息を切らしながら相手の名を呼び駆け寄ってきた兄の手を誰の手とも分からず掴み、ただ相手を重ねて強く、強く握って。
(微かな薬品の臭いと共に目を覚ましてはすぐそこが病院だと分かり心配そうに覗きこむ兄と目を合わせてはまだ少し怠い身体を起こして。
「……俺……、」
『水族館で急に倒れて…。ここは木ノ宮の病院。今木ノ宮は医者と話してる』
「………………」
(兄の言葉をどこか遠くで聞きながら久々に戻ってきた自我にぼんやりしながらも少しずつ相手を深く傷付けた最低な行いを思い出し蒼白になる。
たとえ催眠に掛かっていたとしても許されない行為。
先刻相手に言われた言葉が脳裏を駆け巡り喉元まで込み上がってくる胃液をグッと飲み込んでは胸元をクシャリと掴み回らぬ頭で自分がどうすべきか考える。
そして催眠が解け光の戻った瞳で不安そうにする兄を見詰めてはこの場に不釣り合いなほどの微笑みを浮かべ「……綸、俺…もうこの街にはいられない。地元に戻るよ」と。
自分は相手を一度ならず二度までも死の瀬戸際まで追いやり兄達にも多大な迷惑をかけた。
相手と居る資格などない。元から相手とは“何もなかった”それでいいじゃないかと。
身勝手で我が儘な行動だとは重々承知の上。それでも気持ちを変えるつもりはなく。
(その頃、若頭は医者と自分の“精神異常”について話していてもしかしたら能力によるものかも知れないと推測を立てていて。
一方で相手の精神状態も心配しており、青年に至っては傍にいれないことを涙目で悔やんでいて『やっぱり兄さんのところ行く。兄さん一人にできないよ』と相手の様態に合わせて処方した薬を手に病院を飛び出して。
『…桐崎、ここ最近ですごく痩せたし疲れ溜め込んでるみたいだったからな…。ちゃんと休めればいいんだけど…』
(若頭は珍しく低い声色で述べては青年の背中を見つめあと自分の病室に目を向け重たい溜息を吐いて。
>露木
( 寮に戻るなりベッドに横たわっては腕で目元を隠し唇を強く噛んでは激しい後悔に襲われる。
あんな格好付けた事を言って置いてもまだ未練がましく相手の姿を追い続けてる自分が居て。
ポタリと一雫涙が落ちてはそのまま眠りに付いて。
( 目を覚ましたのは夜、バイト先の店長に《明日からバイト出るんで宜しくお願いします》とメールを送ってはシャワーを浴び鏡で自分の顔を確認して再びベッドに潜り込む。
どうやら寝てる間に青年が来てた様で受信ボックスの青年からのメールをぼんやりと見詰めては《途中で帰って悪かった。また今度ゆっくり見に行こうな》と返信して。
中々寝付ける事が出来ずに目を閉じれば相手の笑顔が浮かび髪をぐしゃりと掴んで。
( 翌朝、あまり深く眠れないままにバイト先へと向かっては退院祝いなどと菓子やらを渡されて。
無表情が常日頃だったが愛想笑いを張り付けては着替えを済ませ何も考えないように没頭する。
接客が好きな方では無かったし口下手な事もあり会話はあまり続かない方だったが話し掛けて来てくれる客のお陰で幾分喋られる様にもなり。
夕方、寮へ戻る途中バイト情報誌をコンビニで立ち読みしてた所買物に来てた青年に見付かっては直ぐに捕まりファミリーレストランへと連行されて。
『兄さんバイト増やすの…??』
「あぁ、寮の家賃とかあるし。父さん今ちゃんと働いてるみたいだから自分の事は自分でやんないと」
『…いや、…そうじゃなくて………』
「ん??」
『……………ごめん、何でもない。それより露木…昨日倒れちゃってね』
「大丈夫なのか?!」
( 身を乗り出し青年の肩を掴んでは『目、覚ましたよ。………露木、かなり痩せた』と。
目を覚ました事に安心し青年の肩から手を離し腰を下ろしては「綸が…彼奴を支えてくれる」と呟き。
何か言いたげな青年の言葉を聞きたくなく代金をテーブルに置き先にレストランを後にしては寮へと戻る。
自室に戻るのが嫌で結局共同スペースのソファーに横になれば吸い込まれる様に眠りに落ちる。
夢の中にも相手が現れるのに自分も相当末期だな、と呆れるも夢の中の相手はいつかの様に自分に微笑み掛けてくれて。
>桐崎
(夜、兄が病室のソファで眠るのに申し訳なくなりながら布団の下で震える手をグッと掴む。
今でも残る相手の首を締める感触。そして相手に浴びせた惨酷な言葉。
自分や兄達の為に身を削った相手を信じてやれず、こんな最低な自分でも“愛してる”と言ってくれた相手に心にもない暴言を浴びせ傷付けた。
催眠に掛かっていたなど言い訳にもならない。
_____いっそのことこの能力でみんなの記憶から自分の存在を消してしまいたい。
そんな馬鹿げたことを考えながら目を閉じれば浮かぶのは相手の悲しげな表情ばかりで。
(翌朝、兄や若頭の制止を振り切り病院を出ようとするが兄も強気で中々引いてくれず腕を掴まれて。
『納得出来ない。っていうか勝手過ぎだよ。……俺とは“遊び”だったなんて』
「……ごめん」
『何か隠してるんでしょ?…こんな急にころころ性格と態度が変わるわけない』
「俺が我が儘なのは前からだろ?…それに休みのうちに妹の顔見たくなっただけだから」
『今じゃなくてもいいでしょ』
(兄の強く優しい眼差しに“兄弟揃って優しすぎだな”と苦笑するも次の瞬間溜息を吐き。
「…………うんざりなんだよ。ベタベタ張り付いてくるあんたも、元引き篭もりの煩い餓鬼も、良い年して女の格好してる変態も……一緒にいて迷惑…『嘘だよ。…菊は嘘吐いてる。…菊は俺たちを想ってくれてる時ほどそうやって態と酷いこと言う。そうでしょ?』
(全てお見通しの兄に叶わないなと眉を下げ微笑むも気持ちが揺らぐことはなく「…ごめん」と一言零し兄の手を軽く払うと、催眠に掛かっていたことは告げずに病院を去って。
(夕方、大きな荷物と共に地元へ訪れては久々の親しんだ空気に小さく深呼吸する。
確か以前も相手と不仲な時に来たなと思い返しながら世話になる叔父叔母の元へ向かおうとするも偶然すぎるタイミングで幼馴染と出会し。
『わぁ、菊。久しぶり。オーストラリア行ってたんでしょ?どうだった?今回は一人?ナツのところ行くの?』
(相変わらずの質問の荒らしに慣れたように詳細は伏せて答えては「家には挨拶だけ」と続け。
『えー、なんで?今回はバイトじゃないんでしょ?家で泊まればいいのに』
「バイトは今のバイトの支店でするつもり。あと家は俺が行くと母さんが嫌がるから」
『そんな事ないわよ。この前“菊に花屋手伝ってほしい”って会いたがってたもの。最近は体調もいいみたいだし』
「……そっか」
『……ねえ、桐崎くんたちと何かあった?』
(鋭い指摘にも一瞬ドキリとなるも小さく首を横に振っては『そう?…あ、でも今日はナツのところ泊まるんでしょ?私も今回父さんの仕事の手伝いで来たんだけど今日だけおじゃまさせて貰うつもりだから一緒に行きましょう。車はあるから菊が運転してね!』といつものごとく幼馴染の勢いに押し切られては頷くしかなく幼馴染が手配した車に荷物を乗せると花屋を営む母の家へと向かって。
>露木
( 翌日、バイトへと向かい勤務時間を終えてはもう一つのバイトの面接へと訪れる。
同じく飲食店だったが頭髪の指定も特に無く、手馴れている事を話せば即OKを出して貰えて。
明日、居酒屋のバイトが終わり次第此方に来ると約束しては店を後にして路地裏の自販機で煙草を購入する。
寮へと戻る途中、ふと兄に出会しては兄は酷く切なそうな顔をしており何か合ったのかと問い掛ける。
「どうしたんだよ、…そんな顔して」
『……………別に。………それより菊に何か言われたの??』
「いや、…多分俺と話したがらないだろ」
『そっか。………てかちゃんと寝てる??お化けみたい』
「寝てる、半日くらいずっと寝てる」
( 結局兄は相手の事を話してはくれずに仕方無く寮へと戻っては今日は大人しく自室へと戻る。
旅行から帰って来てから置きっ放しだった青年のカメラを勝手に見ていれば相手と並び珍しい笑顔を浮かべる自分の姿があり“笑うとこんななんだ”と自分で思ったりして。
相手の能力が解け、今思い詰めてる事など知らずに水族館で自分を睨み付ける相手を思い出してはもう忘れようと自分に言い聞かせる。
久し振りに彼女でも作ろうかと考えるも相手と出会い居心地の良さを感じた後で他の人を見れるのかと。
人外である事を隠し、バレてしまえばまた逃げられてしまう。
一瞬でも認めてくれたのは相手だし、目前で能力が解放されても逃げる事をしなかった。
結局また相手の事を考えてしまい。
今日のバイトと居酒屋のバイトは平日のみで土日には休みが入ってたがそう言えば孤児院の子供達の中に来月誕生日の子が何人かいたなと。
以前バイトしてたホストクラブへと連絡をした所、どうやら以前のNo1の男も何かしら問題を起こしクビになった様で。
稼ぎは良かったし土日だけでも入れて欲しいと頼み込んでは県外のホストクラブの人数が足りてないから土日はそちらへ行って欲しいと頼まれてしまい渋々返事をしては支店の場所を検索して。
>桐崎
(幼馴染と訪れた母の家。一階は花屋で二階が住居スペース。三階は自分の部屋があるくらいで空き家の状態。
細長で狭い家だが父の横領事件により周囲から酷い嫌がらせを受けていた広い実家に比べればずっと良い。
家の脇にある狭い階段を上がり錆びれたチャイムを鳴らすとドタバタと音が聞こえて扉が開かれ、もこもこした格好をした妹が笑顔で自分と幼馴染を出迎えて。
『まだ雪降って寒かったでしょ?でも御免、今節約中で暖房つけられないんだ』
『いいよーいいよー。寒さは慣れてるし。……あ、夕飯の支度手伝うわよ』
(我家のごとく陽気に家に上がる幼馴染に対し、自分はやや躊躇い気味でそれに気付いた妹が『母さん、兄さんが帰ってくるって聞いて張り切って郷土料理作ってたわよ。大丈夫、最近は鬱病の薬も少なくなってきてるから』とほほ笑み手を引かれて。
(荷物を片付け早速食卓を囲んでは久々の家庭の味に舌鼓を打ちつつ、先程から笑顔だが目を合わせてくれない母をチラリと見る。
母とは不仲ではない。愛情も感じる。だが、父の事件があってから母は自分を見ると怯えたように避ける時があって_____。
『そう言えばさ』と妹の声で現実に引き戻されては持っていた器を置いて妹を見る。
『昨日ね、突然掛り付けのお医者さんから私と母さんの新しい薬をただで渡されたの。しかもすっごく高くて良い奴。…兄さん心当たりある?』
「…知らない。…それ、信用できるのか?」
『うん、お医者さんも間違いなく本物で安全も保証するって。もしかして……』
「まさか、“あの人”がそんなことするわけないだろ。医者の好意だよ」
(やや苛立ち気味に答えては小さくなった胃に御飯をねじ込み“いろんな事”を考えないようにして。
(翌朝、一階まで降りると母が一人店先で随分豪華な花束を作っているのが見え迷いながらもそちらに近付き「……おはよう。大きい花束だね。結婚式でもあるの?」と母に対して使う柔らかな口調で話し掛け。
母は依然と目を合わせてくれなかったが『ううん。最近近くに出来たホストクラブからの注文なの。数が多いから今のうちに配置を考えておこうと思って』と答えてくれて。
それから店の掃除を手伝っては時折母から『最近元気にしてた?』『いい子は居るの?』と静かに投げかけられる質問に「元気だよ」「…今はいない」と短く答えて。
『そのストラップ、可愛いわね』
(気迫のない薄い声で言われ、自分のポケットに目をやっては“あーまだつけてたんだ”とストラップに振れ「…“友達”から貰ったんだ。…結構気に入っててさ」と小さく微笑み「それじゃあバイト行ってくる。……今日の夜も泊まるね」と結局母と目を合わせることなく自宅を後にして。
>露木
( 翌日、三年生と言う事もあり必要な単位も揃ってる為早速明日から県外のバイト先へ向かおうと。
月曜には戻って来てこっちのバイトをしなければだと考えるとかなりハードだが働いてる間だけは何も考えずに居る事が出来て。
朝寮を出て到着したのは夕方、確かここは相手の地元で以前旅館に来たなと暖かい思い出が浮かんでは強く瞬きをし“忘れるんだろ”と言い聞かせて。
まさか実家が近くで相手が帰って来てるなどとも知らずにさっさと足を進める。
バイト先の付近のビジネスホテルに荷物を置き、県外という事もあり以前バイトしてた所が交通費やらホテル代やらを負担してくれてる為特に不便は無く。
簡単な荷物のみを持ち店の前まで来た所で何と言う偶然か相手の妹と出会す。
『繿君、お久し振り。…えと、何でここに??』
「あ-…久し振り、仕事先の支店でバイトする事になってさ。土日だけこっちに来る事になった、毎週金曜日にはこっちに来る感じ」
『え-、遠いのに大変ね』
「まぁ大丈夫だろ。って言うか出歩いてて平気なの??彼奴(相手)に見付かったら説教されんじゃねぇか」
『あはは、兄さん過保護だから。最近調子良くてね、………何かお医者様がいきなりお薬タダでくれて。…だから母さんのお手伝いもちょこちょこしてるの』
「そか、そりゃ良かった。でも体調には気を付けろよ」
『うん、………で…あのさ。お仕事ってここ??』
「あ-…うん、まぁ」
( 俯きながら軽く頷いてはチラリと携帯の時計を見て「ごめん、そろそろ行く」と切り出して。
この時もまだ相手がこっちへ来てる事を知らずに妹がこっちに住んでるのは知ってた為に特に気にもせず。
店内にて経験者という事もあり直ぐに仕事に取り組む様に言われては高収入なこの仕事は土日だけだししっかりとしなければと。
>桐崎
(夕方、あのレンタルショップの支店にも関わらず店長の人柄が良かったため早めにバイトを切り上げることが出来ては自宅へと戻る。
叔父叔母の世話になるつもりだったが自宅で過ごすのもいいかも知れないなとぼんやり考えながら店先に行くと顔色の悪い母がカウンターの傍で蹲っているのが見え慌てて駆け寄って。
肩に手を添え声を掛けるもバシッと手を払われては『触らないで!記憶が飛ぶでしょ!』と。
しまったという顔をする母に小さく首を横に振って微笑んでは身体を支え二階の部屋へと上がり布団に寝かせる。
丁度その時妹が顔を出しては慣れた手付きで母の看病をはじめ、自分は病弱な妹に何もかも任せっきりだなと情けない気持ちになり『兄さん、そう言えばさっき…』と妹が何か言いかけるのも聞こえず邪魔にならないよう店番をする為に一階へと降り。
店番なんていつ以来だろうと懐かしみながら店のベージュ色の膝丈エプロンをつけ紐を前で結んでは店の奥に既に出来上がった豪勢な花束に目を向ける。
確かホストクラブからの注文だったなと思いながら、まさか相手のバイト先のものとは思わず引き取り時間に目をやってはそろそろかと。
ふと携帯を見ては兄からのメールと着信が大量に来ており、罪悪感に苛まれるも返事はせずにエプロンのポケットにしまい、はみ出す相手から貰ったストラップを無意識に弄び未練がましく相手のことを考えてはぼんやりと店先を眺めて。
(その頃相手のバイト先では相手の容姿と手際の良さから柄の良い先輩ホスト達にすんなり受け入れられ『桐崎って背高くて足長いよな。どっかのモデルやってた?』『お前目当ての客もう出来たぞ。頑張れよ。…てかその髪超イケてるじゃん。どこの美容院?』と勘違いしつつ悪気なく相手の髪を撫で回していて。
そんな時店のオーナーが訪れては相手に金と住所の書かれた紙を渡して『悪いけど其処行って花受け取ってきて。今日来る大切な令嬢のための花だから大切に扱ってね。お釣りは受け取っていいよ。じゃよろしく』と相手の肩を叩くとスタスタと仕事へ戻っていき。
>露木
( 以前のバイト先より人当たりも良く花屋までの使いを快く受けてはスーツの上に上着を羽織る。
近くの花屋までの地図を片手に漸く花屋まで訪れては入口に飾られる美しい花を暫し見ていて。
店のオーナーの名刺を渡せば良いと言われてた為、胸ポケットから名刺を取り出しては店内へと入り。
「すいません、花束注文してた…___」
( 言い掛けた所で思わず言葉が止まり呆気に取られた表情で目前の相手を見詰める。
しかし直ぐにハッと正気に戻ってはオーナーの名刺を相手に渡し「………予約してた者です。…花束、受け取りに、………」と何処か他人行儀な言い方になってしまい。
微妙な空気の中、沈黙に耐えられなくなり「………こっちに帰って来てたんだな。綸が心配してた」と。
相手と兄は付き合ってるのだと思ったままぎこちない表情を浮かべてた所、二階から相手の妹が降りて来るのが見えては軽く手を振って。
『あ、来てたのね。このお花全部持ってくの大変じゃない??』
「大丈夫、飾り付けだけだし直ぐそこだから」
( 花束を受け取り相手に向き直っては一瞬切な気な表情が漏れてしまうも直ぐに微笑みを作り「綸に電話とかしてやってな。彼奴心配症だからさ、特に“恋人”の事となれば煩いだろうし」と。
“じゃあ仕事に戻るから”と支払いを済ませては直ぐに花屋を後にする。
寝不足気味で欠伸が漏れては目元をゴシゴシと擦り。
( 帰り道、一応買っておいた差し入れ等を先輩に渡しては『皆に配っておくから先に店内行ってろよ、まだ場所とか把握してないだろ??』と。
先輩の言葉に甘え店内を見て回り何となく覚えた所でボーイが花束を飾ろうとしてるのが見えて。
身長が足りないのか苦戦してる様子が伺えてはほっとく訳にも行かず手伝う。
『あ、ありがとうございます。あと…これ、これはお客様に直接渡す花束らしいので』
「じゃあ先輩達にも伝えとく」
( 豪勢な花束をぼんやりと見詰めながら相手と兄が付き合ってるという事を何気無く思い出す。
やりきれない気持ちになるのを振り払う様にフロアへと向かって。
>桐崎
(突然の相手の来店、唖然としながらもスーツに上着姿の相手は大人っぽく相変わらず綺麗で見惚れてしまい、余所余所しさの後に続く兄と自分がまだ付き合ってるような物言いにハッなっては思わず“違うんだ”と言いそうになり口を噤む。
結局一言も発せずに相手が去った後、俯いては妹が心配そうな顔をして。
『繿君疲れてるみたいだったけど大丈夫かしら。……そう言えば兄さんって綸さんと恋人なの?』
「…………」
『……突然こっち来たのも何かあったからなんじゃないの?』
「…御免、…落ち着いたらちゃんと話すから」
(妹の優しさに困ったように笑いながら自分より少し長い髪をポンポンと撫でてはこの時間注文客しか来ないため店仕舞いをしては相手と会った動揺を悟られないように妹を二階で休ませ店の片付けなどをして。
(その頃、相手のバイト先に大手企業の令嬢が訪れては先輩ホストから花束を貰いご満悦に微笑んでは『リュウ(先輩ホスト)大好き~!!』と抱き付いていて。
しかしヘルプとして来た相手を見ては一瞬で惚れてしまったのか先輩ホストを他所に相手にベッタリ寄り添い『ねえねえお名前は?その髪と目、面白いね。趣味?』と若干失礼ながら好き好きアピールを鬱陶しいくらいして高い酒を頼んでは『いっぱい呑んでいいからねー』と相手のグラスに注いで。
その後も我が儘っぷりを発揮しては散々相手の髪をいじって勝手に自分の香水をつけては『また来る時指名するからこの香水つけてきてね』と勝手に相手のポケットに小さいボトルの香水を入れて『まだまだ呑むわよ~』と上機嫌に相手の肩に手を乗せて耳元に息を吹きかけ反応を楽しんでいて。
(一方、妹は以前から相手が気になってたこともあり、相手の体調を心配しては疲労回復に効く暖かいスープや夕飯の残りなどをタッパーに詰めて自分の目を盗んで家を出る。
この地方はまだまだ寒い。自分が過保護なこともありコートに加え耳あてとマフラー、手袋ともこもこな状態で防寒対策をしてはホストクラブ付近で相手が出てくるのを待っていて。
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