xxx 2014-12-29 00:12:16 |
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>露木
( 相手が戻らないと言う電話に居ても立っても居られず叔父の家を出ては相手を探す。
駅やら街やらを駆け巡っても相手の姿は無く、小さく舌打ちをしたその時相手からのメールに気付いてはポケットから携帯を取って。
その内容に驚き、いつ相手が刀を盗ったのかと気になったがそんな事を考える余裕は無く。
正直家宝だなんて自分に取ってはどうでも良いが世話になった叔父を悲しませるのは後免だと。
( 指定の時間より早目に駐車場に着くも相手の姿は無く代わりに三人の男達に囲まれては眉を顰める。
よく見ればその中の一人は自分と同じ中学の先輩、また碌でもない事に巻き込まれるのかと。
『よ、久し振りだね‐。てかお前生きてたんだ』
「何の用で呼んだんすか」
『相変わらずムカつく顔してんのね。いやさ‐、お前中学の時に同学年の奴から化物呼ばわりされてたじゃん??真希ちゃんだっけ??お前の元カノ、あの子にも前に聞いた事合ったんだけど血相変えて逃げられてさ』
「さっきから何言いたいのか分かんないんすけど」
『俺等にも見せてよ、その化物の力。…お前の両親よりも上手く使ってやるから』
( 男との距離が一歩縮まった所で相手が訪れてはまさか相手と男達はグルなのかと勘違いして。
信じられないと思うも男達は慣れ親しい様子で相手と話しており。
「……………俺は………化物なんかじゃ」
『“人間”のフリすんの止めとけって。真希ちゃん可哀想にな‐…付き合ってた男が化物とかずっと騙されてじゃんか』
『早く見せろって、能力とやらを』
( 中学の時の事が頭をグルグルと駆け巡り呼吸を乱しながら地面を睨み付ける。
だがこの状況でもまだ相手を思い続けてる自分がおり、もし男達に逆らったら相手が何かされるんじゃないかと、相手はただ男達に言いくるめられてるだけなのではないかと言う都合の良い考えが浮かんでは素直に男達の言う事に従って。
しかし中々思う様に能力が解放出来ず、狼になりきれない無様な姿を晒してしまっては男達は距離を取り。
『うっわ、気持ち悪りぃ』
『これマジの奴じゃん』
( 男達の表情に蔑みを感じ取りわなわなと震える唇を噛んでは俯く。
相手が動く前に男は相手の腕をグッと掴むと『お前余計な事すんなよ。お前だってどうせ男好きの身売だろうが、見世物のこいつと何ら変わりねぇんだよ』と耳打ちし相手の行動を阻止して。
ぼんやりとした頭の中、駐車場に止まってた車の窓ガラスに写った自分に目が行ってはその気色悪さから狂った様な笑みさえ浮かんで。
>桐崎
(男達に侮辱されて苦しそうにする相手に、胸がズキリと痛みやはり相手が傷付くなど耐えられないと男達を殴りかかりそうになるも耳元で言われた言葉に動きを止める。
汚れきった自分がまっすぐで綺麗な相手と同じなどと……。
あり得ない。
何故自分なんかのせいで相手があんなにも辛そうにして腐りきった男達の言いなりにならなければならないのか。
限界寸前だった精神が音を立てて崩れていき、くしゃりと額を押さえてクツクツと狂気じみた笑いを零すも、ピタリと動きを止めるとゆっくりと相手に向き冷ややかな視線を向けて。
「……あーあ、ほんと鬱陶しい。……目障りなんだよ、あんた」
(僅かに首を傾け冷嘲しては靴先が触れ合うほどの距離まで歩み寄り、布で包まれた白刀で相手の頬を突くように撫で。
「“化物なんかじゃない”って?…自分の姿をよく見てみろ。どう見ても人じゃない…“化物”だろ。それはあんたが一番分かってるんじゃないか?」
(空いた手で相手の銀髪を撫で上げ紅い瞳の目元に指を伝わすと最後に牙に触れ、どれも人外だと言うように口元に怪しく弧を描いて。
「なんかもう飽きたんだよ。……あんた人が良いからさ、能力がどんなものか物珍しさで近付いたけど別にそう対して面白みもないし、此れじゃほんとただの“化物”じゃないかって」
(思ってもないことを並べるも以前のように瞳が揺れることはなく、ただ笑みを浮かべて「あんたが傍に居ると俺の遊び相手が気色悪がって寄り付かなくなるからさ、もう俺に近付かないでくれるか?…俺のこと愛してるんだろ?願い、聞いてくれるよな」と小さく笑み相手の首筋に艶めかしく触れて。
そして突如刀を相手の胸に押し付け突き放しては階段下まで強引に押し出し「さっさと人の皮被って“人間”って言ってくれる優しいお友達(赤城)のところ行けよ」と最低な言葉を述べ男達の元へ向かうも思い出したように刀を仕舞うためのゴルフバッグを相手の足元に投げつけ。
それから相手に背を向け男達に近付いては一人の男の首に腕を絡めて甘えているように見せながら男にだけ聞こえるよう耳に口元を寄せ。
「……見てみろ。あいつ、能力を上手くコントロール出来ないんだよ。中途半端なのもその証拠だ。赤の他人のあんたらが下手に手を出せば大怪我じゃ済まないぞ。………これ以上彼奴を侮辱してもあんたらに特はない。………金なら俺が用意するから」
(男の腰を撫で上げ述べては、男は一瞬悩むも直ぐに頷き相手を見て『やっぱお前いらねぇわ。“化物”が傍に居たら空気悪くなるし』と下品に笑い自分を連れて車に乗り込もうと。
>露木
( 相手からの信じられない言葉に頭が真っ白になり、男達と共に車に乗ろうとする相手の腕を咄嗟に掴んでは僅かに濡れる瞳で相手を見詰めて。
男達に寄り添う姿は演技には見えずに、ただ自分は愛する相手の“願い”を聞き入れなければと思い込む様にしては「ごめんな………、今まで。もう、…あんたの邪魔しない。付き纏わないから」と言い腕を引かれ車に入れられる相手を見送って。
青年の所に行こうともどうせ青年もいつかは離れて行くのかもしれないと思うと足が動かず。
刀を片手に路地裏のみを通り子供の頃、叔父の家を抜け出し遊びに来てた森に入っては木の下でぼんやりと刀を見詰めていて。
真っ暗な携帯に写る恐ろしい自分の顔、スウッと“人の顔”に戻るのを見詰めては嘲笑して。
ふと無意識に刀を持つ手に力が入っては以前見た幻覚に襲われる。
着物姿の“自分”が目前に現れ自分の顎を軽く持ち上げては『解けきれて無いぞ、…牙』と。
「もうこんなの沢山だ、………あんたが俺の家系での第一の能力者だろ??………あんたの所為だ」
『俺の所為??ふざけんな、俺だって好きでこんなんになった訳じゃない』
「……………」
『帰らないのか』
「帰らねぇよ、…どうせ赤城だって………みんな………」
『こっちの俺は随分と弱虫な様だ』
( 頬杖を付きつまらなそうに言う男が消えて行くのをぼんやりと見詰めては溜息を付き。
意識を集中させ能力を解放しては布に包まれた刀を咥え森の奥の洞穴へと訪れて。
洞穴の一番奥にて身体を丸めては刀を包むようにし、少し疲れたと目を細めて。
( その頃、男達は相手の反応に気を良くして車の中にも関わらず相手の首筋に顔を埋めて。
思い出した様に『まさか中学の後輩があんなだったなんてびっくりしたわ』と小さく呟く。
ふざけて大袈裟に身震いしてはゲラゲラと笑みを浮かべ相手の衣服に手を入れ背中に指を這わしては『ま、お前がいるんなら後輩虐めもほどほどにしてやるよ』とどこか脅迫地味た言い方をして。
>桐崎
(相手が洞窟に訪れて暫く入口の草むらがガサリと揺れては兄が現れ無言で身を丸める狼姿の相手の隣に腰掛けては前を向いたまま相手は寝てるものとし『……やっぱり此処に居たか』と話しだして。
『…小さい頃はさ、家族で叔父さんの家来て何かある度に繿はここ来てたよね』
(幼少期を懐かしむように穏やかな声色で述べては相手の艶やかな毛並みがそろう頭をそっと撫でて。
『………俺さ、繿が羨ましかった。こんな事言ったら怒るかも知れないけど父さんや母さんに“見てもらえていいな”って妬んでた。……だから時々繿にいじわるしたりしたんだけど』
(一切自分に感心のない両親。気を引こうと色々したがいつも“空気”扱い。
学校でも“化物の兄”と無視され、時折自分はこの世に存在しないのではと錯覚したことすらあった。
しかし弟の相手だけは意地悪すると反応を見せてくれて其れが嬉しくてちょっかいをだしたり優しくしたりを繰り返し…、そんな事を思い出し兄はクスリと笑いを零すも俄に真面目な表情をして。
『…時々思うんだよね。なんで俺じゃなくて繿だったんだろうって。…だって普通能力って長男に受け継がれない?…もし俺だったら…繿はこんなに苦しまなくて済んだのに…』
(相手が暴力を振るわれる度に嫉妬すると同時に“代わって上げられたら”と運命を呪った。
『でもさ、繿がその能力を持つには意味があるんじゃないかな。何かは自分で考えてね。それは繿にしか分からないことだから。………それに俺は好きだよ。繿の髪も目も…』
(そこまで言ってブルッと大袈裟に身震いしては『わーー、なんか急に寒気がしてきた。叔父さんがお鍋用意してくれてるって言うし早く帰ろー』といつもの調子でふざけて相手に振り返っては『赤城が心配してたよ。何度も“兄さんがいない!”って電話されて大変だったんだから。………落ち着いたら早く来なよ』と言い残し先に洞窟を出て行って。
(その頃、自分は男達から一度解放されると以前店長に無理矢理引っ付けられた客達に片っ端に電話しては“金が欲しいから相手してほしい”と頼み、何十万か受け取るとすぐに男達の元に戻り金を渡して。
男達は卑しく金を数えながら自分を見ては『明日はもっと持って来い』と。
黙って頷く自分を男達は既に見ておらず『此れで明日桐崎誘ってどっか行こうぜ』
『え、でもあいつ学校あんじゃねぇの?』
『化物が学校行く必要あるかよ。…彼奴いびるの楽しんだよなぁ』
「……手は出さない、約束だろ」
『はぁ?別に一緒に遊んでやるだけだよ。化物の相手してやんだ。感謝されたいくらいだね』
(ケタケタ笑う男達を睨みつけるも「やり過ぎは…許さないからな」と言うことしか出来ず。
心の中で“誰か繿を守って…”“…助けて”と願い、それと共鳴するように白刀がカタカタを小さく音を鳴らしていて。
>露木
( 狸寝入りを決め込み兄が去って行った所でのそのそと上体を起こしては落ち着きを無くした様にそわそわとするも刀の異変を感じてはゆっくり人姿に戻り。
今回はすんなりと戻れたなと安堵してた所、確かこの刀は妖刀だったかと思い出しては気味悪くなり。
刀を取った所、自分の身体が自分の物では無い様な感覚になれば僅かな目眩が襲い掛かり。
“俺は何時でもあんたの中に居るから。露草を傷付ける様な子孫だなんて腹立つからな”
( 頭に直接声を掛けられる様な感覚にムッとしては「あいつは“露草”じゃねぇんだよ」と子供の様な屁理屈を言って。
“それでもあいつは露草の子孫だ。愛する恋人の子孫を傷付けるなんて自分の子孫でも許さない”
( 真っ直ぐな言葉に微妙な表情をしつつ“愛する恋人”だなんて恥ずかしい事を良く言えるなと。
結局深夜まで洞穴で塞ぎ込んでおり、朝方漸く叔父の家に戻っては部屋で眠る青年をぼんやりと見詰めて。
( 翌日、制服に着替えこのまま寮へ帰ろうとしてた所先日の男子学生からメールが来ては表情を沈めて。
どうやら相手の携帯から無理矢理アドレスを奪った様で内心暗くなりながら《今から行く》とメールをして。
断れば相手に何か有るのでは、とまたその様な考えになっては逆らえる筈も無く。
( 素直に待ち合わせ場所へと訪れては勿論の如く男に絡み付かれる相手もおり。
自分で呼んだにも関わらず来るなり蔑みの目を向けられては視線を地面に向けたまま無言で居て。
『お前金あんだろ??カラオケ行くからお前出せよ』
『化物が金掛けるモンなんて無ぇだろ??』
「…………………………」
『シカトとか調子乗ってんなよ、化物が人間様に逆らってんじゃねぇぞ』
「………」
( 軽く頬を殴られ財布から札紙を数枚取り出し男達に押し付けては「それやるから帰って良いか??」と。
しかし男達が素直に解放してくれる筈も無く渋々後に続くもこれでは嫌でも相手に近付いてしまうと。
見せ付ける様にも感じ取れる男の相手へのスキンシップに心のモヤモヤは膨らむも嫌がってる様には見えない相手の様子に胸を痛めて。
先程からの自分の表情が気に入らなかったのか、カラオケ店の地下駐車場に連れ込まれては壁にドンッと押され。
「………何」
『…お前さっきから何なんだよその顔。折角俺らが構ってやってんのによ』
( 背後に居た男が自分の背中を強く蹴り上げ、咄嗟に目前の男の隣に居た相手を押し倒す様な体制になってしまっては慌てて身を離そうと。
しかしお気に入りの相手に触れられた事に怒りを見せた男に前髪を掴まれては頬を殴られて。
『おいおい、俺のお気に入りの玩具に勝手に触ってんじゃねぇよ』
「……………悪かっ、」
『土下座しろよ』
( 冷ややかに言われては眉を寄せ唇を噛む。
男は態とらしい溜息を吐き、相手の耳元で『お前からも言えよ、動画バラ巻くかれたくないだろ??』と小さく耳打ちしては口角を上げて。
>桐崎
(耳元で囁かれた言葉にピクリと肩を揺らしては僅かに後退る。
相手にどれほど憎まれようと構わないが相手を傷つけたくはない。
しかしそんな我儘が通用する筈もなく動画の配信開始画面を見せられては微かに生唾を飲み込んで感情を消すと相手に歩み寄り殴れて張れる頬に手を添えて。
「なんで“馬鹿な”お誘いに乗って来ちゃってるの?こうなるって分かってたよな?侮辱されても“腐った”人間と一緒に居たかったか?それとも虐められるのが趣味とか?」
(さりげ無く男達への皮肉を交えつつ相手を愚弄しては小さく笑んで頬を撫で「どんなに俺達と居てもあんたは俺達とは“同じ”になれない。あんたは生まれた時から“違う”んだから」と人間か否かについて言っているように見せつつ、心の中では相手は腐った自分達と違って綺麗なのだからと思いを込めて。
それでも男達に悟られぬよう相手を強く突き放し尻餅を付かせては冷たく見下し。
「前にも言ったけどあんた目障りなんだよ。人間との仲良しごっこ期待して来てるならさっさと帰れ」
(冷淡に述べては相手に背を向けて男の腕に絡み「…もう彼奴は放っといて俺達だけで遊ぼう」と甘えるように述べカラオケの個室へ向かうも一人の男が突如身を返して『いや、やっぱし此奴も連れてくわ。“化物”も余興くらいには使えるだろ』と。
(薄暗いカラオケの個室、男は充分に座るスペースがあるにも関わらず相手を床に座らせては昼間から酒を飲み始める。
酔った男達は更に気性が荒くなると相手の髪を掴み上げ『また能力見せろよ』と命令し『酔わせたらもっと面白くなるんじゃねぇか?』と持参した強い酒の瓶口を相手の口にねじ込み無理矢理飲ませて。
『…つーか桐崎も結構いい顔してるよな。俺今気分良いから遊んでやるよ』
(男が厭らしく笑み相手の顎をもたげて服に手をかけてたところで、我慢の限界に達しては男を突き飛ばし相手の前に出ると男達を睨みつけるもハッとなっては目を横に逸し。
「……お、俺がいるだろ。……他の奴に手を出すなよ」
(声を震わせながら妬いたようにいうも一人の男の逆鱗に触れてしまったのか男は酔った勢いで空き瓶を振り上げ『うっせなぁ、今はお前に用はねえんだよ。引っ込んでろ』と勢いよく瓶を振り下げようと。
>露木
( 隠れた相手の気持ちなど知らずに視線をずっと落としたまま蔑む言葉を聞き流す。
余程自分と居たくないのか、相手がひたすら自分を帰そうとする本当の理由など気付かずに個室へと連れられては酒を煽る男達をぼんやりと見詰めて。
不意に強引に酒を飲まされ男達の表情が怪しくなれば衣服に掛かった手に咄嗟に抵抗する。
しかし相手が立ちはだかり男に嫉妬を見せたのに気付いては無性に悔しくなり唇を噛んで。
やはり相手は本当にこの男達が…と悲観的になってた所、そんな余裕すら与えないとでも言う様に相手に酒瓶が振り落とされるのが目に入り相手を思い切り押し退けてはギュッと身構える。
しかしまたあの身体が浮く様な感覚がしては「『悪酔いとは情けねぇな、…まぁこんなの刀傷よりはましか』」と無意識に呟いていて。
“自分”が乗り移ったのを感じ何とか身体を返して貰おうとするも『俺は言った筈だ、こいつを傷付ける奴は許さない』と直接頭に訴えられて。
ズカズカと相手に駆け寄り「『…今は…露草じゃなくて菊ってんだったな。危ない真似すんな』」と。
男達に向き直りコントロールのままならない自分とは桁違いな強い能力を発揮し、鋭い瞳で男達を睨んだ所で男達は腰を抜かしながらも逃げて行き。
去り際、相手に『お前は明日も来いよ!!!逃げられるとでも思うなよ!!!』と叫んで行って。
“自分”が相手に薄く微笑んだのと共に身体が戻ってはハッとした様に相手を見詰め「………悪い、近付かない約束だったのにな。……………ごめん」と呟き立ち上がっては個室を出ようと。
>桐崎
(相手の様子が明らかに変わりその凛々しい雰囲気に圧倒されては目を見開いたまま固まってしまう。
が、相手がフラフラと出て行くのが見えては思わずその腕を掴み椅子に押し付けると相手の銀髪を掻き見出し何度も深く口付けて。
漸く身を離し相手をぼんやり見詰めては、相手の頬に先程自分を庇ってついた切り傷を見付け、迷いなく顔を近づけると傷口から溢れる血をそっと舐め上げる。
血が止まったところでそのまま首筋に顔を埋めるも、そこで正気に戻ってはガバッと身を離し蒼白になって「……ご、…ごめん、俺……」と微かに身体を震わせては真実を言えないまま個室から逃げ去って。
(夜、男達に渡す金を稼ぐため約束していた客の元に向かう途中、カラオケでの相手への浅はかな行いを悔いては唇を噛みしめる。
それにあの不思議な現象は何だったのか…。
そんなことを考えるうち、客の家に着くも何故か部屋には入れて貰えず押し返され『お前、いろんな客んところで御栄無く身体売ってるんだろ?病気持ってそうだからやめとくよ』と。
バタンと閉ざされる扉に今日は身売りをしなくて済むと安心すると共に虚しさが襲っては笑みが零れてきて。
何だかもう疲れた…と思いながら明日男達に渡すための金を貯金から下ろしては寮には戻らずまたネットカフェに行って狭い部屋に篭もる。
なんとなく取り出した携帯には当然だがストラップはなくピアスの穴も僅かに塞がりかけていて。
もう相手とは本当に戻れないのだと、相手に散々酷いことをしておきながら身勝手に悲しくなっては蹲ったまま目を閉じて。
>露木
( 何とか寮へと帰りまだ落ち着かない頭の中を整理しようと試みるも出来る筈も無く。
なぜ相手は自分にあんな事をしたのだろうか、相手にしてみれば大した事では無かったのか。
グルグルと思考を駆け巡る中、眠れる筈も無くベッドの中で蹲ってはぼんやりとして。
( 翌日、相手の客を装い予約の電話を入れてはホテルの一室で何本目かも分からない煙草を咥える。
中途半端な期待を持つくらいなら嫌われた方がマシだし金さえ持ってれば相手にはいつだって触れられる。
身勝手な勘違いをしたまま平均より高い額の金を封筒に入れ、まだ自分だと分からない相手がホテルの戸を叩いた途端部屋に引き入れては唇を奪って。
相手の衣服の中に手を入れ「逆らってんじゃねぇよ、俺は客だぜ??」と低く告げてはベッドに乱暴に相手を押し倒し冷ややかに見下ろす。
思い出した様に現金の入った封筒を相手に放り投げ首筋に甘く噛み付いて。
男達に利用され身も心もボロボロだという事すら理解してやれず相手の手首を押さえ付ける手の力を強めては能力を半減して解放して。
「……………は、あんた化物に抱かれてんだぜ??何で何も言わねぇんだよ。……誰でも良い訳??」
( 最低な言葉を口にしつつさっさと身勝手な行為を終わらせては自分は着替えを初めて。
ぐったりとする相手に視線を合わせずにパーカーを羽織った所で相手の携帯を奪い取れば自分のアドレスを消し相手に携帯を返して。
「…また俺が呼んだら来いよ、金は出してんだ。文句なんて言う権利あんたには無い」
( 冷めた瞳で相手を見詰めルームキーをサイドテーブルに置いたままホテルを後にして。
( 寮へと戻りいつもの様に自分の部屋の前に居た青年
を部屋に招き入れて。
今や相手も自分を“化物”だと言う様になってしまっては人間だと認めてくれるのは青年しかおらず。
テレビをジッと見てる青年の隣に座っては意味も無く赤髪を撫で回して。
『んも‐どうしたの兄さん』
「触りたくなった」
『最近兄さん甘えただね‐』
( ニコニコと笑う青年の髪をひたすら弄んでは今更相手にした事の後悔に襲われて。
>桐崎
(相手が去ってから暫く、怠い身体を起こしてはまだ起こった事が信じられず茫然とする。
しかしベッドの端に放られた封筒と相手のアドレスが削除された携帯を見ては徐々に状況を理解して、“相手に完全に嫌われた”のだと。
もう相手は自分を“身売り”としてしか見ていない。
自分がそう思わせるよう仕向け、相手を傷付けたのだから当然の報いだ…。
互いに互いの気持ちを履き違えているとも知らずに自嘲の笑みを浮かべては金の入った封筒を捨てようとするも、これは相手が身を粉にして働き子供達に渡る筈だったお金。
ゴミ箱に伸ばしかけた手を引っ込め封筒と携帯を鞄にしまっては着替えを済ませ視界が滲む前にホテルを後にして。
(人が行き交う夕方の街、重たい足を引き摺り男達の元へ向かうも突然背後から腕を取られ振り返ると若頭がいて、あまり人と関わりたく無かったため目を逸し。
『ねえ最近、寮戻ってないよね?何かあった?』
「……別に」
(ボソリと答えては唐突に鞄から封筒を取り出し「…これ、桐崎に渡しておいて。…金の使い道間違ってるから」と押し渡し、戸惑う若頭を置いてその場を立ち去って。
(その後、予定よりも遅く男達の元に着いては昨夜下ろしておいた金を渡すも、身売りを断られたぶん金が少なくその事を咎められれば明日用意するからと頭を下げ。
しかし男は許してくれずいつものごとく伸し掛かられ首筋に顔を埋められる。
瞬間、慣れた筈の行為が途端に怖くなりガタガタと身体が震えだして。
昼間相手に抱かれたときとは明らかに違う嫌悪感。
そしてこのまま相手に抱かれた時のままでいたいと強く思った瞬間男を突き飛ばしていて。
『てめぇ、なにすんだよ!!』
(罵声と共に強く頭を殴られ視界が歪めばいとも簡単にねじ伏せられて乱暴され、無感情になれないまま強く相手を想ってしまっては無意識のうちに相手の名を呼んでしまい。
『…繿?…桐崎のことか。…なんだよお前、彼奴のこと好きなのか?』
「……っ…、彼奴は関係な、い」
(必死で否定するも男の怒りは収まらず突如突き放され『お前もういいわ。金も稼げないし何か飽きた。……今度は桐崎にしようかな』と厭らしく笑み。
その言葉に蒼白になり部屋を去ろうとする男の足を掴んで「彼奴には手を出さないで。何でもするから」と懇願するも聞き入れて貰えず「うっせぇな。遊び相手なら他にもいるだろ?」と鳩尾を思いっ切り蹴られて。
(部屋をでた男は別の仲間に《面白い“化物”と遊べるから明日俺んち来いよ》と相手の能力に対抗出来るよう屈強な男達を呼び集め、相手に《お友達に迷惑かけたくなかったら此処に来い。お前の周辺は洗ってあるから誰と仲が良いかなんてすぐ分かるからな》と住所を添付してメールを送りつけ。
>露木
( 翌日、男達からの呼び出しのメールに逆らえる筈も無く寮を後にした所若頭に呼び止められては昨日相手に渡した筈の封筒を渡される。
若頭自身も封筒の意味は理解しておらず、きょとんと首を傾げたまた『なんか桐崎に渡しとけって言われてさ』と零して。
相手が金を受け取ってくれなければ昨日の行為は自分が相手に一方的に乱暴したも同然、自分からの金など受け取る価値すらないと言うのかと見事な勘違いをしては唇をグッと噛み締め乱暴に封筒を受け取り。
( 地図に書かれた場所へと到着しアパートの一室の扉を数回叩く。
僅かに開いた扉から手が伸びて来ては強引に部屋に入れられぶつけた頭を軽く抑えながら男達を見上げる。
ガタイの良い男達が自分を見下ろしてる様子に理解が出来ず「…何だよ、ってかあんた達誰」と低く問い。
肩をグイッと押され壁に押し付けられては咄嗟に男を突き飛ばし距離を取る。
警戒心が溢れ出てはまた中途半端な能力を発揮してしまい威嚇する様に男達を睨み付けて。
『お前そんな事して良いと思ってんの??………お前が言う事聞かないんなら露木にすっかな』
( 男の言葉にピクリと反応してはその隙に両腕を二人掛かりで押さえ付けられて。
「………彼奴と俺は関係無い!!!彼奴に手を出すな!!」
『は、同じ事言ってんじゃん。…ってか桐崎は何でそんな彼奴の事庇おうとしてんの??』
「別に………庇おうとなんて………」
『もしかして露木の事好きとか??』
( 図星を付かれるも表情を変えぬ様に努め男達を睨み付けるも確信した男達は面白そうに『へぇ、…超面白い事になんじゃん。良いんじゃねぇの、彼奴だってもう人間じゃねぇだろ??裏表ある人格しててさ、男に飢えた化狐じゃねぇか』と。
青筋を立てながら「黙れ!!!」と叫んでは瞳の色が段々と変わるも男達は体格の大きい男に押さえ付ける様に指示してはほくそ笑んで。
>桐崎
(体格の良い男達は相手の身体を簡単に固い床に組み伏せると厭らしく相手の素肌に触れ喋らせないよう下から強く掴んで。
『ギャンギャン喚くな。こっちは化物の為にわざわざ来てやってんだよ。“お友達”に手ぇ出されたくないんだろ?』
『…てか“化物”って聞いたからどんな奴が来るかと思ったけど此奴結構いい顔してんじゃん』
『俺もう我慢できねえ、さっさとやろうぜ』
(男達は相手の四肢を押さえ付けたまま好き勝手に散々弄び、気が済むと部屋の隅でぐったりする相手を他所に堂々と酒を飲み始め。
『いやぁ遊んだ後の酒は最高だね。つーか、露木よりずっと良いじゃねぇか』
『またいつでも呼んでくれよ』
(体格の良い男達は上機嫌で言うとそのうちの一人が酒の入ったコップを手に相手に近付き頭上から零すと相手の濡れた髪を掴み上げ『逆らうなよ。言うこと聞いてれば露木には手出ししないでやるよ。俺達は、な』と不敵に笑み相手の顎下を撫で。
(其の頃自分は主犯の男の企みで下手に手出し出来ぬよう何処かの窓もない地下室に軟禁されており、手錠を片足首にはめられ鉄骨に繋がれていたため逃げ出そうにも出来ずにいて。
今頃相手が何をされているか考えるだけで背筋が凍り、相手に手を出されないために此処までどんな仕打ちにも耐えてきたのに、結果が此れでは相手を裏切り傷付けただけだ。
自分の軽薄さを呪い無謀だと分かっていながら足の拘束を解こうと藻掻くも擦り傷が増えるだけで意味を成さない。
それでも懲りずに暴れていると部屋の隅で座っていた見張りの男に一発蹴りを入れられ。
『大人しくしろ。お前が反抗するだけ桐崎に危害が及ぶだけだ』
「……反抗しなくても…手出しするんだろ……」
『しらねぇよ。俺はお前を監視するよう言われてるだけだからな』
(そう言って一度拘束を解かれると周りに怪しまれぬよう普段通りバイトに行くよう言われる。
勿論帰る時間もしっかり決められ『監視されてること忘れるなよ』と脅されては携帯も取り上げられ誰とも連絡出来ず助けを呼べない状況にされて。
どうすることも出来ず唇を噛み締めてはズキズキ痛む身体を何ともないよう裝いバイト先に向かう。
“従っていれば相手は無事”という保証もない脅しに今は縋るしかなく、相手も全く同じ脅しをかけられているとは知らずに。
>露木
( やっと解放して貰えたのは深夜、何度も何度も吐気を感じながら寮へと到着するなり浴室に篭ってはどこか冷静な思考でシャワーを流していて。
お湯を張った湯船に浸かり未だに未練がましく相手を思い続けては相手が無事なら構わないと。
コクリと居眠りをしては数時間眠りに落ちてしまい、激しい喉の渇きに浴室だった事を思い出しては身体を拭き適当なジャージとパーカーに着替えてベッドへと寝そべり目元を腕で隠して。
( 翌日、二日酔いの男達は機嫌が悪い様で夜に男の家に来る事を要求されては眠れなかった為寝不足気味の目を擦って。
苛立ちを抑える様に煙草を咥えては本当に相手は無事なのだろうかと眉を寄せる。
バイトへ行く準備をしてはやや早足でバイト先へと訪れバックルームで制服に着替えて。
( 顔色が悪いと言われ早めに上がらせて貰ったものの店の裏で待ち伏せてた男達に捕まっては早速男の家へと強制的に連れて行かれて。
身構えながら男達より離れた所に大人しく佇むも逃げられたら困るからなどの下らない理由により飼い犬の如く首輪を付けられては鎖に繋がれて。
「彼奴は…無事なんだろうな」
『は??んなのお前次第だろうが、犬が偉そうに口聞いてんじゃねぇよ』
「……………」
( 唇を強く噛み男達に従っては不意に一人が何気無く『金も尽きて来たしもっかい露木にやらせるか』と零したのを聞き逃す筈も無く目を見開いては「おい、今のどういう事だ」と。
男は面倒そうに視線を逸らしては『あ??っせ‐なお前に関係無ぇだろうが』と。
腹部に蹴りを入れられ言葉を話す事を許されずに歯を食い縛りながら男達を睨んだ所、一人の男が先日の男達に電話を入れては『今から来いよ、またあの化物貸してやっから』と。
( その頃、相手に数人の見張りを付けバイト先から出て来るなり逃がさない様にあの地下室に連れて来ては主犯格の男が面白そうに相手の視線まで屈んで。
『桐崎が居る限り逆らえねぇもんな、お前。頼めば何でもやんだろ??男好きだもんな』
( 蔑みの言葉をぶつけながら不意に唇を奪おうとするが以前の様に抵抗されたら面倒だと一枚の写真を取り出して。
昨日自分が散々に暴行されぐったりと寝そべる写真を相手の目前に突き出し『お前が抵抗したから桐崎こんな酷い事されたんだぜ??可哀想にな』と面白そうに喉を鳴らして。
相手の抵抗が無くなったのに確信しては乱暴に押し倒し『逆らえば逆らう程桐崎が酷い目に合うぜ??こんどは学校の屋上から突き落としてみるか、化物の生力がどれ程のもんか実験しねぇとな』と。
>桐崎
(男に見せられた写真と言葉に愕然としては、憎悪を通り越して蒼白になり縋るように男の襟元を掴んで「…も、もう逆らわないッ、なんでも言うとおりにする…、だから彼奴だけは…繿には手を出さないで」と惨めに懇願して。
『だからそうして欲しけりゃ大人しく従えって言ってんだろ。とりあえず今日はたっぷり稼いで貰うぜ』
(男に手を払われたかと思うと地下室の扉から見知らぬ数人の男達が現れ主犯格の男に札束を渡しては鞭やスタンガンを手に此方に迫ってきて。
『こう言うお遊びは初めてか?…桐崎のこと好きなんだろ?だったら彼奴の痛みを分かってやれるよな?』
(ニタリと笑む男に逆らう術はなく襲い来る痛みに数時間ジッと耐えては終わる頃には息をするのも辛くなっており、部屋の隅で誰かと電話する男を霞む視界の中見ていて。
暫くすると男が近付いて来ては『気が変わった。良い物が見られるからついて来い』と。
(深夜、目隠しをされ引き摺られるようにして連れて来られたのは大学の旧校舎屋上。
下から吹く冷たい風が傷に滲みて小さく身を震わせたところ目隠しを外され、薄暗い視界が徐々にはっきりしてきては目の当たりにした光景に目を見開く。
屋上の端ギリギリ、ボロボロの相手が大柄の男に取り押さえられ今にも突き落とされんとする所。
「繿!!!!!」
(相手の名を叫び男の腕を振り払っては「従ってれば手を出さない約束だろ!!!」と怒鳴るも鈍い音と共に頭を殴られ『誰が下僕と化物の約束なんざ守るかよ。黙って見てろ。お前の大好きな化物が“もう疲れたから自殺したい”って言ってんだ。最期くらいちゃんと見送ってやれ』と嘘を並べ。
そんなこと信じられる筈がなく相手の名を再度呼びかけるも後ろから口を塞がれ『お前が追い詰めたんだぞ?彼奴のこと“化物”って言ったのは誰だ?』と。
(一方相手を取り押さえる男達は男に尚も反抗する自分に目を向けながらほくそ笑み。
『彼奴が傷付いたのはお前のせいだ。お前の存在事態が罪なんだよ。分かったらさっさとこっから飛び降りろ。別に化物だから死なねぇだろ?…つーか、間違って死んでも誰も悲しむ奴なんていねぇだろうな』
(ケタケタと相手の精神を抉るように嘲笑しては相手の背中を軽く押し『早く飛び降りろよ。さっさとしねぇと代わりに露木を突き落とすぞ』と後ろで男の腕に噛み付き必死に藻掻く自分を指さしながら『ほら、お前見たいな“化物”の代わりに死ぬのは御免だって嫌がってるぜ』と出鱈目を言い煽って。
しかし男達も流石に相手も飛び降りることは出来ないだろうと行き過ぎた冗談のつもりで言っており相手の硬い表情を楽しげに見ていて。
>露木
( 後一歩踏み出せば眼下のコンクリートの地面に打ち付けられるだろうと言う所、男の言葉に喉がヒクリと鳴れば相手を突き落とされるくらいなら自ら降りた方がマシだと下を見詰める。
必死に男の腕から逃れようとする相手にチラリと目をやり、流石に“遊び相手”だった自分の身代わりなど普通に考えてもごめんだろうと男の出鱈目だと言う事にも気付かずに納得してしまって。
『ほら早くしろよ、それとも露木にバトンタッチするか??別にそれでも構わないぜ??』
『まぁまぁ、よく考えろって。露木が死んだら露木の何人もの遊び相手が悲しむだろ??お前みたいな化物死んだって誰も困らないだろ??』
( 思考が纏まらずに呼吸を乱しながら唇を噛んでは「………俺だって………俺だって好きで化物なんかに生まれた訳じゃねぇんだよ!!!………ただ、………認めて………貰いたくて………」
『で??認めてくれる奴なんて居たのか??…あ、そういえばお前のお友達の赤髪の男なら“裏切り者”だぜ』
( 上手く加工し青年の声に似せた録音を流しては思考の乱れから本当に自分は一人だったのだと。
相手をジッと見詰めては自嘲の笑みを浮かべ「安心しろ、あんたを身代わりになんてしない。そしたら沢山の“恋人”が悲しむだろうしな、そうやって一生色んな男と遊んでれば良いんじゃねぇの」と敢えて蔑みの言葉を告げてはそのまま後ろに倒れ込んで。
呆気に取られた男達の顔に口角を上げてやれば不意に身体が軽くなり脳内に『馬鹿野郎』と自分に良く似た声が響いて。
ドシャリと音を立て地面に打ち付けられるも思ってたよりも衝撃は薄く。
眩しい青空を隠す様に自分と瓜二つの顔が覗き込んでは『俺に感謝しとけ。…ま、死にたかったなら迷惑だな』と。
「……………露木、……………あの男達から、……………助け」
『さっきの男達なら菊の事放ったらかして逃げてったぜ、あんたが馬鹿みたいな手取ったから』
「………そっか」
( あまり表情を変えない性格ではあったが安心した様に心からの穏やかな笑顔を浮かべては「………ちょっと、………寝る」と強がりを述べ意識を手放して。
( 男達は冷汗を流しながら逃げ出しては『今の…俺達何もしてないよな、彼奴が勝手に飛び降りたんだよな』と零して。
焦りや不安から校舎の壁をガツンと殴り付け、必死に自分を宥めようとして。
>桐崎
(相手が落ちていくのが酷くスローモーションに見えるも止めることは叶わずドシャリと鈍い音が耳に響き、最悪の光景が浮かんでは頭が真っ白になる。
慌てて走り去る男達の声も足音も聞こえず、自分のせいで相手が死んだと思い込んではガタガタを身体が震え過呼吸に陥って。
現実を受け止めきれず涙が溢れだしそうになった時、『阿呆か!!さっさと立て!!』と頭の中で自分の声とよく似た声が響きヒクリと喉を引きつらせる。
『繿は生きてる。ボサッってしてないで早く下に行って助けを呼ぶんだ。この意気地なし』
(強い口調に頭が混乱するも“繿は生きてる”という言葉に背中を押されるようにもつれる足で何度も転びそうになりながら下に降りて相手に駆け寄る。
まるで死んでいるような姿に再び狼狽えるも相手の携帯が目に入っては震える手で若頭が取り持つ救急車を呼んで。
『今回は“爛”に感謝しろよ。…次はあんた自身の手で守れ。また繿を傷付けるようなことがあったら一生あんたに取り付いてやるからな』
(それを最後に声は聞こえなくなれば、相手の冷たい手を握り救急車が来てもその手を離さず、自分の治療を拒否して相手が治療室に入るまでずっと手を握り心の中で名前を呼んでいて。
(三日後、若頭の病院の病室。無機質な機械音が一定のリズムを刻む中、未だに眠る相手は何本もの点滴と管で繋がれており意識不明の重体でいつ目覚めるか分からない様態で。
青白い顔と低い体温から目を離したら何処か遠くへ行ってしまうのではないかと不安でずっと相手の手を握り張り付いては、医師も兄達も困り果てた顔をして。
『…菊、そろそろ何か食べよう。…菊がそんなじゃ逆に繿が悲しむよ』
「…………俺が、…繿を追い詰めた………、俺が……突き落としたも同然なんだよ……」
(何度も兄や医師から男達の嘘だと聞かされたにも関わらず未だ相手が自殺したと思い込んではとても何か口に出来る精神状態になく自分を責め続け。
「……あんたも……赤城も…俺のこと恨んでるんだろ…?……大切な弟をこんなにされて……俺が、落ちれば良かったって思ってるんだろ?」
(自分でも何を言っているのか分からず掠れた声で呟いてはギュッと相手の手を握る。
そこで相手の瞼が微かに揺れるのを見てはずっと傍に居たにも関わらず傍に居てはいけないと慌てて離れ、医師達が相手に駆け寄って呼びかける隙に病室を抜けだして。
男達はあの後逮捕された…、全部嘘で相手を脅していたことも聞かされた…、
それでも結果、自分が相手をボロボロに傷付けた。
その事実が変わらない以上やはり自分が相手の傍にいる資格はないと…。
フラフラとあてもなく歩くも思いの外身体が衰弱していたのかあまり遠くまで歩けず病院のロビーのソファに座り込んで。
>露木
( どれくらい眠ってたのだろうか、夢の中で自分と瓜二つの男に『何時まで寝てるつもりだ』と言われたのに僅かに眉を寄せてはゆっくりと目を開く。
久々の明かりの眩しさに顔を顰めるも自分を覗き込む兄や青年を目にしては軋む身体を無理矢理起こし威嚇する様に睨み付けて。
『ちょっと…どうしたの兄さん』
「煩ぇ!!!出てけ!!!」
『あ‐…兎に角説明するから落ち着いてよ』
「………っ、触るな!!!」
( パシッと兄の手を振り払いキッと睨み付けるも兄が『今度は菊が危ない状態なんだよね、ず‐っと繿の事看てたからさ。もうずっと何も食べてないし寝てない』と言ったのに目を見開いては動きを止めて。
相手の元に向かおうとベッドから起きようとするも身体中に激痛が走ってはのたれ込んでしまい。
情けなさに歯を食い縛り青年が車椅子を持って来るも「いらない」と告げて。
頭の中に『仕方無ぇな、これで貸しは二度目だ』と言う声が響き身体が軽くなっては考える隙も無く相手を探して走り出して。
( 病院内のロビーにてソファーに力無く座り込む相手を見付けては直ぐに駆け寄りその手を取る。
夢の中でもしっかりと伝わってた温もりは相手の物だったのだと気付くのと共に「…なんでだよ、………あんた俺を嫌ってるんだろ??」とか細く呟く。
閉じた目元に軽く口付けを落とし、触れるだけの口付けをしようとした所で医者が迎えに来ては自分を車椅子に座らせ相手を背負って。
病室に戻りながら「………あの、…そいつは…」と容態をさり気なく聞いては担当の医師に『激しい疲労と…ストレスから来たものだと思う。結構身体も衰弱してるし彼も入院しなければだね』と。
不運な事に知り合いならばと病室は一緒にされ、二人だけの空間になってしまえばどうしようと顔を顰め。
兄と青年が駆け寄るも未だに男達が加工した声を本物だと思い込んでいては心を開かずにいて。
面会時間が過ぎ青年と兄も帰っては、まだ瞳を閉じてる相手の元にゆっくりと歩を進め頬を撫でて。
眉を下げ自分のベッドへと戻り、相手が目を覚ました時自分と同室だなんて嫌だろうなと変な引け目を感じてはシャッとカーテンを閉めて。
>桐崎
(夢の中、真っ暗な屋上で相手が酷く辛そうに微笑み、自分が相手を突き落とす。
目を覚ますと相手はどこにも居ない。何度も何度も名前を呼んでも相手は居なくて、やっと相手の声が聞こえて振り返ると血の海の中に倒れる相手の遺体。
そんな夢を繰り返し見て暗闇の中、光が差し込んでは漸く薄っすらと目を開けて。
すぐに病院だと分かり眠る前の記憶が過ってはガバッと上半身だけ起こし青ざめながら相手の姿を探す。
隣のカーテンに目がいった丁度その時、病室の扉が開かれ看護師が入ってきて。
『あら露木君、その様子だと点滴が効いたみたいね。始めはどのお薬も合わなくて大変だったのよ。……って、もう!!折角いい天気なのにカーテン閉めきってたら駄目じゃない』
(室内に呆れ声が響き隣のベッドのカーテンが開けられては相手がいて、無事だったという安心感と計り知れない罪悪感とで動揺が隠し切れず即座に病室を逃げようとするも別の看護師に取り押さえられて。
『まだ動いたら駄目だよ。はいお薬とご飯。ちょっとでいいから食べなさい。……桐崎君もよ』
『桐崎君ったら絶対安静なのに貴方を探しに行ってくれたのよ。あの状態で動くなんてどうかしてるわ。良い?今度は勝手に動いたり抜け出したりしないこと。しっかり身体を休めなさい』
(キビキビとした口調でベッドに備え付けられた机の上に相手の食事と薬を置き点滴を変えては『あとで包帯替えるから逃げないでよ』と念押しして出て行って。
再び二人きりになる病室。重たく気まずい空気。今は食べ物を見るだけで吐き気がする。
いやそんなことはどうでもいい。
それよりも相手に自殺未遂をさせた罪悪感で相手と同じ空間いる行為事態が罪に感じて息をすることすら許されない気がして。
もう耐えられない……拳を握りしめ今まさにベッドから立ち上がろうとした時、扉が開かれては兄と若頭がやってきて『ちょっと話があるから特別に今だけ部屋出る許可貰った。菊、来て』と相手と全く目を合わせられないまま兄と病室を出て。
(若頭は病室に残ると病室の扉を閉じ相手の枕元近くの椅子に腰掛け『災難だったね。…随分痩せちゃって大丈夫?って大丈夫じゃないから此処にいるのか』と少しおどけてみせるもやや年相応の真剣な表情をして、男達の一部が逮捕されたことや男達の自供で分かった“真実”を少しずつ話していき、自分があの動画で脅されていたことも告げて『あ、あと音声テープも偽装だから。赤城めっちゃ落ち込んでたからちゃんと謝っておきなよ』と。
『で、露木だけど…桐崎が自殺したって思い込んでるみたいでさ。俺達が言っても聞き入れてくれないんだよねぇ。……っていうか事の発端はどこからなの?彼奴等に刀を盗まれる前から二人共様子おかしかったよね?』
(問い詰めるように聞くも相手の身体と精神への負担を考えては『御免…、今は辛いよね。……もう少ししたら僕の取り持ってる警察の人達が事情を聞きに来ると思うからそれまで休んでて。…何か聞きたいことある?欲しい物あれば持ってくるよ』と珍しく相手に気を遣い。
>露木
( どこか遠慮がちに問い掛けて来る若頭の言葉に自分は相手に何と言う事をしてしまったのだろうと激しい後悔に晒される。
蔑みの言葉をぶつけ相手の優しさなど知らずに相手を身売りの様に扱った。
そんな自分が許せずに歯を食い縛っては無言でベッドへと横たわって。
若頭は困った様に微笑むと『後でまた来るからゆっくり休んでよ』と言い残し病室から退室して。
( その頃、兄はゆっくりと状況を相手に話しては『もう大丈夫だからね。菊の動画も赤城が全部始末したから安心して』と優しく相手を抱き寄せる。
あまり長い時間相手を病室の外に出しといては後々看護婦に叱られるな、と相手と共に病室に戻っては相手をベッドまで運び『何かあったら直ぐに俺に言って、俺は菊の事本気なんだから』とさり気なく告白しては相手の薬を貰いに病室を後にして。
( 若頭が去った後、自分は浅い眠りに落ちていたのだが扉が開かれる音に目を覚ましては兄が相手を慰める声が聞こえ寝たフリを続ける。
しかし兄が出て行く気配が感じ取れ二人きりになれば空気が重く伸し掛り上体を起こして。
まだフラフラとする足取りで向かいの相手の元に来ては相手の胸倉を掴みグイッと顔を寄せる。
何か話そうと口を開いたその時、強打した片足の力が思い切り抜けては相手に抱き着く様な体制になってしまい慌ててベッドの作に掴まっては「…ごめん」と。
「………悪かったよ、…あんたの事身売りみたいな扱いして。…金払えば傍にいんのかと思った、浅はかだよな」
( 自嘲的な笑みを零しては「もうこれ以上あんたに嫌われたくないんだ」と小さな声で零し「………だからもう近付かない」と真っ直ぐに告げて。
>桐崎
(切なげに笑む相手の声が耳に入ってからそれを理解するまでさほど時間は掛からなかった。
自分も、同じ事を考えていたから。
相手をこれ以上傷付けないためには離れるのが最善なのだと。
謝りたいこと、言いたいことは沢山あった。
しかしそれを声にするだけの余力は心身ともに残されておらず僅かに瞳を潤ませながら小さく微笑み「…分かった。……ありがとう」とだけ告げて。
それでも最後に少しだけ相手に触れたいと甘えが生まれゆっくりと愛しい相手の銀髪に手を伸ばす。
あと少し、毛先に僅かに触れたところでガラリと病室の扉が開かれては看護士が奇声を上げ。
『何してるの、二人とも!!!……桐崎くんはまだ絶対安静だって言ったでしょ?あなた屋上から落ちたのよ!』
(叱りつける看護士の“屋上から落ちた”という言葉に相手が落ちていく光景がフラッシュバックしてはビクリと過剰に震え、看護士がしまったという顔をして咳払いして『…兎に角、包帯替えるから自分のベッドに戻りなさい。すごく身体痛むはずよ。無理はしないで』と相手をベッドに座らせカーテンを閉ざす。
服を脱ぎ包帯を巻く布が擦れる音がやけに大きく聞こえ静かに涙を流してはそのままそっっと病室を離れて二度と戻ることはなく…。
(翌日、別の病室で寝かせて貰い無理を言って相手よりも大分早く退院させて貰うと一人で寮に戻り荷物をまとめては早々に寮の退去手続きを済ませ学校の敷地を出る。
強がりが潰えてしまう前に…未練がこれ以上溢れてしまわないように……。
相手が近付かないんじゃない。自分から離れる。…そのほうが傷が浅く済む、気がするからと振り返ること無くただ足を前に進めて。
(電車を乗り継ぎ誰にも告げずに来た小さなアパート。
卒業までの少しの間、暫く此処で暮らそうと。
バイトに行くのに不便になるが相手の顔を合わせる機会は格段に減る。
心配してくれた兄に罪悪感はあるが誰にも迷惑をかけないためにはこれがいいのだと言い聞かせ。
(その頃、相手の病室には青年がプリンをみやげに見舞いに来ていて『ねえねえ何かあったら何でも言ってね!リハビリも付き合うから!』と笑顔で話し掛けていて。
そんな時、病室の扉が開かれては妹、ナツが現れ小さく微笑み相手のベッドに近付き。
『久しぶり。…大怪我したってハナから聞いて心配になって来ちゃった。…前より痩せた?』
(詳しくは事情を知らない妹は心配げに相手を見ながら笑顔で振る舞い北海道土産を渡すも、途端に不安げな表情をあらわにして『……兄さんと連絡全然取れないの。携帯は壊れて解約しちゃったみたいで……、折角来たのに退院してるなんて…』と涙を流し。
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