xxx 2014-12-29 00:12:16 |
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>露木
( 夜、相手のメールに未だに頭を悩ませては兎に角伝えたい事だけでもと言葉を選び《彼女とはちゃんと話をして別れたよ。あんたの事好きになってごめん》とだけメールを送って。
天井をぼんやりと見詰めてた所、やや乱暴に部屋の扉を叩く音に気付きドアを開けては先日の男子学生が立っており、いつか相手に渡した筈のストラップを押し付ける様に手渡されて。
『流石に遊び相手からの贈り物は重いとよ、返して来てくれって頼まれたんだわ』
『お前も可哀想だな‐、ずっと騙されてたんだろ??そんでもって聞いたよお前の化物の力。こんなのって有り得んだな』
( どこから手に入れたのか自分の醜い姿が晒された写真を見せて来ては表情を固めて。
男子学生達は『ま、人間に相手にして貰えないから彼奴に引っ掛かったんだろ??災難だったな』と蔑む様に笑いさっさと出て行ってしまって。
デスクの前に腰を下ろし相手へ贈ったストラップを見詰めてはこれも迷惑だったのだなと。
「…こんなに好きになったの初めてだから………少し重かったのかもな」
( 独りでにボソリと呟いては自嘲に微笑みストラップを上着のポケットへと放り入れて。
何気無く洗面所へと来ては生まれつきの自分の髪と瞳を見詰め意味も無くクスクスと笑ってやる。
馬鹿馬鹿しくなりベッドへと戻ってはそのまま寝息を立て、夢の中の相手に無意識に涙してた事など知らず。
( 翌朝、何故か部屋に兄が訪ねて来ては何となく兄の黒髪に触れてみたりして。
『何いきなり、気持ち悪いんだけど』
「いや何となく。黒髪、良いよな。ちょっと羨ましい」
『……………真希ちゃんの事赤城に相談したんでしょ、聞いたよ』
「そっか、怖がらせるとか最低だよな俺」
( ケラケラと笑いスポーツドリンクのペットボトルを一本兄に手渡しては何しに来たのかを問い掛ける。
『菊と…何かあったんでしょ』
「別に何も無いけど」
『菊との旅行が掛かってるの、俺何が何でも菊と旅行に行きたいしちゃんと話してくれないかな』
「………??何で俺が関係あんの??あんた達二人で行ってくれば良いじゃん」
『いやそれじゃあ…』
「行って来いよ。…あ、土産よろしくな」
( あくまでも平然を装いながらヘラヘラと笑えば兄を部屋の外に押し出しながら「多分彼奴も…綸と行ったほうが楽しいんじゃないか??………もし俺が本当に遊び相手だったとしたらまた会うのは気不味いだろ」と言うも僅かに声色が震えてしまい情けなさから唇を噛んで。
自室に一人で居るのが嫌でパーカーを羽織りコンビニへと来ては何をする訳でも無く雑誌を立ち読みしていて。
>桐崎
(夜、ゴミ袋の山の中すぐに見つかるだろうと探すも中々見当たらずバイト中だったため途中なくなく切り上げてはバイト終わりの深夜、携帯の簡易ライトを頼りに必死で探す。
しかし無いものが見つかる筈もなく相手からのメールを見た所でついに携帯の電源が切れては泣きたい気持ちを堪え意味もなく真っ暗な中ゴミ袋をあさって。
(朝方、ゴミ収集車が来た所で漸く探すのをやめるも何故無いのか理解するだけの冷静さはなくなっており、異臭を放つ自分に不審な目が向けられていることも気付かないまま自室に戻りシャワーを浴びて。
着替えを済ませ充電しておいた携帯で改めて相手のメールを見ては何故謝るのかと相手の気持ちを理解してやれず《何で謝るの?悪いのは全部俺だろ。だから無理して彼女と別れることないよ》とメールを送り、未練がましく揃いのピアスに触れては引き出しに大切にしまって。
ストラップのことは忘れようとベッドの上に蹲るもどうしても諦めきれずに再び裏道へ向かって僅かに残ったゴミの下などを見てみるも当然無く。
今度こそ諦めようと身を返したところ突然男子学生達に肩を組まれ何のようだと眉を顰め。
『ちゃんと桐崎とは別れたかぁ?…証拠残したいからさ俺達と今ここで遊べよ』
「…は?馬鹿か。誰がお前らなんかと」
『へえそんな生意気な態度取っていいのか?お前が遊んでくれないなら桐崎の彼女と遊ぼうかなぁ』
『真希ちゃんだっけ?超可愛いもんな』
(姑息な手に学生達を睨みつけるも逆らえば本気で彼女に手を出しそうでギリッと歯を食い縛っては携帯を向けられる中男達に従い。
『ちゃんと撮影して桐崎に見せてあげってからちゃんと善がれよ』
(嘲笑する男子学生の思惑通り段々と精神が壊れていけば男の首に腕を引っ掛けながら口元に薄ら笑みを浮かべいて。
(その頃、コンビニでは丁度深夜のバイトを終えたチャラい女が朝方来た店長に怪しい人が裏道に居たと馬鹿でかい声で話していて。
『その人ぉ、夜もゴミあさっててーさっき見たらぁまだいたんですよぉ。マジあたし怖くてぇ。てゆーか不審者ですよねぇ?』
(きもーいと喋るだけ喋って去った後相手の隣にいた女子達が『私も昨日の夜見たよ。多分よくレンタルショップでバイトしてる人だと思う。制服着てたし』『あそこのレンタルショップっていじめが酷いらしいじゃん?昨日も裏道で騒いでたって聞いたよ。それと関係あるのかな』と首を傾げて。
>露木
( 何気無く聞こえてしまった会話に耳を向けてはどうやら相手のバイト先のレンタルショップの話らしく。
相手が店長から嫌がらせを受けてるのは今までの相手との関係から何となく分かっており、まさかと思いながらも裏路地へと足を向けて。
暗がりの中、一人の男が数人に囲まれてるのが分かり「おい、あんた達何一人に寄って集って………」と言い掛けた所で頭が真っ白になる。
目が冴え伺えたのは妖艶な笑みを浮かべ誘うように男子学生の首に腕を絡める相手の姿。
一人の男子学生が自分の肩を組んで来ては『あれ、お前確か露木の遊び相手だった一人だろ??』と。
情けなく歯がカチカチと音を立てて身震いをしてしまえば「なんで」と口を動かすも声には鳴らず。
ゆっくり瞬きをしてはさっさとこの場から離れようと思うのに足が鉛の様に動かない。
『俺さ、前にお前が街の路地で真希ちゃんに能力解放すんの見てたぜ??真希ちゃんあんなにビビっちゃって可哀想にな‐』
『流石に人外は認めて貰えないだろって。え、何、真希ちゃんに認めて貰おうとしてたの??悲しいな』
( ゲラゲラと笑う男子学生達を掻き分け相手の前に来ては男に善がるその胸倉を掴み引き寄せ「…あんたの意思でやってるんだったら…何も言わないから。………ただ俺は勝手にあんたを好きでいるから………遊びだったんなら“馬鹿だな”って笑ってて。………あんたが、俺を認めてくれたの………初めてだったから嬉しかった」と言いパッと胸倉を離しては立ち去って。
( 寮へと戻るなり部屋に居たのは何故か若頭、困った様に眉を寄せる若頭は有無を言わさず自分に能力を掛けると『あのさ、明日だけ美容院で髪のセットさせて欲しいんだよね。僕の髪の長さじゃ足りないみたいで…そんで菊にしようって思ったら部屋に居ないし』と。
「ふざけんなよ、女なんてもう沢山だ」
『本当に直ぐに戻すから!!!子供の頃からの友人の頼みだし断れなくてさ』
「………それに、………こんな髪の色じゃ…気持ち悪いって思われるだろうが」
『………??』
「ごめん、なんでも無い。………っ、明日だけだからな」
『ありがと!!!ボディーガードはちゃんとしたげるね』
( 眉間に皺を寄せたままベッドに潜っては今日の事をなるべく考えない様にしつつ寝息を立てて。
>桐崎
(無心で男に従っていると突如遠くで相手の声が聞こえた気がして気のせいかと構わずにいたが胸倉を掴まれて漸く相手の存在を確認しては激しく動揺する。
言葉の内容は殆ど耳に入って来ず無様な姿を見られたことがショックで、さっきまで平気だった行為が突然怖くなりガタガタと身体が震えだして。
相手に触れたい。あの銀髪を撫でて抱き締めたい。
去り行く相手を追おうと手を伸ばすも男子学生達がそれを許す筈もなく『何あいつを追おうとしてんだよ。今の自分の姿を見てみろよ。お前が傍にいると迷惑なんだよ』『大人しくしねぇとマジで女(真希)に手ぇ出すぞ』と嘲り身体を取り押さえられ、正常な判断力を失った精神は抵抗をピタリと辞め無表情になれば雑居ビルのほんの僅かな隙間から見える遠い空を空虚に見詰めていて。
(翌日、自室の脱衣所で目を覚ますも此処までどう来たか記憶が曖昧で重たい腰を上げシャワーを浴び直しベッドに腰掛けては昨日の相手の言葉を思いだす。
…相手は自分を好きで居てくれてる。
…彼女に恐れられどれ程辛かっただろうか…。
相手の気も知らないで自分は相手になんて事を言ったのかと自身を呪うも、悔いが強くなればなるほど自信を無くしていきやはり相手の傍にいる資格はないと卑屈になって。
今日も昼間から男子学生にパシリとして呼び出されておりどうせ面倒ごとを押し付けられるのだろうと嫌々待ち合い場所へ向かい。
(その頃、美容院では女体した相手の登場に店内がどよめいており『何あの可愛い子。モデルさん?』『やべぇこの後ランチ誘うかな』と男女問わず相手に声を掛けていて。
暫くして奥から相手の髪をセットする美容師が現れては相手を見るなり口笛を吹き。
『木ノ宮、良い女知ってるじゃん。もっと早く紹介してよ。……………桐崎さんだよね?今日はありがとね。この髪、自毛?個性があっていいね。すごく綺麗だよ』
(相手を鏡の前に座らせ髪をサラリと掬っては口元を寄せるようにして鏡の中の相手を見て微笑み、時折馴れ馴れしく相手の身体に触れながら慣れた手つきで髪をセットしていき。
『ところでさ、桐崎さんは彼氏いるの?…って居て当然だよね』
(人の良い笑みを浮かべつつ『一目惚れしちゃった』と耳元で囁きクスクス笑い、『ところで良いモデル事務所があるんだけどこの後ランチがてら一緒に行かない?君ならすぐファンがついて稼げるよ』と甘く微笑みながら明らかにいかがわしい誘いをして。
>露木
( 慣れない女扱いに眉間に皺を寄せつつ、それでも女の振りは面倒で「いい、終わったら用事あるから帰る」とだけ無愛想に告げる。
緩く髪を巻かれ漸くセットが終わるも中々帰して貰えずに仕事の話だと連れてかれる若頭をどこか不安そうに見詰めて。
『ねぇ桐崎さん、君下の名前何て言うの??』
「あんたに関係無いだろ」
『わ、冷たい』
( クスクスと笑みを浮かべる美容師の男に不意に耳に触れられてはピクリとし「…っあ、…」と短く声を漏らしてしまい慌てて男から離れてはキッと睨み付け。
さっさと戻して貰おうと若頭を待つがそわそわとしてしまって。
( 待ち合わせ場所にて、相手を待ち伏せてた男子学生達は訪れた相手の髪を厭らしく撫で『そんな顔すんなよ、昨日あんな事した仲だろ??』と。
相手を引き連れ街を歩いていた所、ふと一人の男が『そういえばさ、俺の従兄弟の美容院に今日カットモデル一杯来るらしいぜ。良い女居るかもだし行ってみるか』と持ち掛けては相手の腕を強引に引き『お前が落として来いよ、その顔立ちしっかり使えよな』と。
従兄弟のコネを使い美容院へと訪れては色んなカットモデルの女性を厭らしく見詰めて居て。
( 相手が来てる事など知らずにしつこく耳に触れて来る男の頬を思い切り叩いてはイライラを顕にし未だに出て来ない若頭を急かす様に事務室を見詰めて。
男は少しも怒らずにずっとヘラヘラと笑っており、それが更に気色悪く感じてはひたすら距離を置きながら「触るな」と。
>桐崎
(男は相手の態度を照れと受け取りしつこく耳に触れもう片手で厭らしく太腿に触れては『男慣れしてないの?可愛いなぁ』とクスリと笑い相手の反応を楽しみ。
そんな時、嫌々店内に訪れてはさっさとはぐらかして去ろうとするも相手の姿を見た瞬間、ピタリと動きを止め何故女体なのか考える前に大股でそちらに近付き相手のスカートに忍ばせようとしていた男の手を掴み上げて。
『何、君。この子の彼氏?』
「…嫌がってるだろ。やめろよ」
(暗く憎悪を含んだ瞳で男を睨みつけ掴んだ手首を締め上げたところ後ろから男子学生にドンと背中を押され。
『何々露木はその子が良いの?超可愛いじゃん。今日来てるモデルの中でダントツじゃね?』
『僕が最初に目を付けたんだよ』
(男が痛む手首をさすりながら不機嫌そうに言うも男子学生達は聞く耳を持たず『良いじゃないですか。みんなで仲良く遊びましょうよ』と男に相手を無理矢理裏口から出させた後、四人掛かり自分を取り押さえそのままホテルに連行して。
(強引にホテルの一室に連れ込まれては既に相手はベッドに放り投げられ男に組み伏せられており「やめろ!!!」と叫ぶが男は口角を上げ見せつけるように相手の身体に触れ。
どんどん進められていく行為に何とか男子学生達の拘束を解こうと暴れては一人がケタケタと笑いを零し。
『そうがっつくなよ。ちゃんとお前にも遊ばせてやるからさ。どうせ男ばっかで女とは遊んでないんだろ?俺達が遊び方教えてやるよ』
(含み笑いを零し相手を弄んでいた男がベッドから退いたかと思えば強引に相手に覆い被させられ『さっさとやれよ。お前がやらないなら俺達がやるけど?』と。
怯えの見える相手を見下したまま動けずにいると学生の一人が舌打ちし『まさか本気で女抱けないのか?…つーか早くしないとあの女(真希)に手ぇ出すけど?』と煽られる。
こんな形で相手を辱めるなど出来ない。
だが自分がやらなければ確実に男達が相手に手を出し彼女まで巻き込んでしまう。
この男達に相手を侮辱されるくらいなら自分が……そんな最低の考えが過っては優しく相手の髪を撫でてそっと耳元に口付け。
「………御免な。…やっぱり俺が傍にいるとあんたに迷惑掛ける……。……嫌だろうけど我慢して……」
(御免、と謝り男達の厭らしい視線が集まる中なるべく相手に負担がかからぬよう優しく抱き締めて。
事が終わると男子学生達は『なんだ、できんじゃん』と嘲笑い、別の女を探してくると出て行ってしまうも美容師の男は相手を諦めておらずぐったりする相手を引き寄せ『ねえこんな最低な男より僕のがいいでしょ?これから僕の家に来ない?』と髪を撫で。
そんな事を見過ごせるはずが無く身勝手に怒っては男の手を弾き相手の身体を抱き抱えると浴室に駆け込み直ぐに内鍵を掛ける。
ここで男に戻してしまえばと思うが持ち合わせの服では外に出る時困る。
扉の外で騒ぐ男を無視して携帯で若頭に助けを呼んだあと、相手に自分の上着を被せ安心させる為髪を撫でようとするも自分では逆効果だと手を引っ込め。
「…本当に御免な。俺なんかが居るからあんたにこんな迷惑かけて……、あんたをこんな傷つけるなら会わないほうが良かった…」
(壁により掛かるようにして座り俯いてはつい悲観的な本音を零して。
>露木
( 男に無理矢理連れて来られたホテルにて、相手の前で醜態は御免だと必死に抵抗するもその抵抗すら虚しく組み伏せられて。
しかし男子学生達が相手に促し自分の上に来た途端、僅かに怯えや震えは遠のいたが女の身での経験は無い為恐怖は消える事無く。
激しい痛みの中、それでも相手だという事がありその気遣いから気を失う程までにはならず。
行為後の浴室にて、重い身体のまま相手を見詰めては“会わない方が良かった”という言葉に胸を痛める。
ゆっくりと相手に手を伸ばし身体を引き摺っては相手にギュッと抱き着き「もう良い、分かった」と小さく呟いて。
緩く笑みを浮かべ「これで最後にする、…女の俺なら姿容姿も違うし良いだろ??………後は、…忘れて良いから。………ごめん、あんたの事好きだ」と相手を抱き締めては何度も何度も口付けて。
( その後、若頭が訪れ珍しく謝罪をされては“別に平気だ”とだけ述べ能力を無理矢理解いて貰って。
さっさと寮へと戻った所、青年が玄関の前に座ってるのに気付き部屋に入れてはコーヒーを手渡して。
何となく青年を壁に押え付け、先日彼女にした様に半減して能力を解放するも青年は怯える事無く自分の頬に触れて来て。
『俺は怖がったりしないよ、真希さんとは違うの』
「………本当は怖いんじゃ」
『怖くないって、兄さん悲観的になり過ぎ』
「………そっか」
( 表情を緩め青年の頭にポン、と手を乗せては「ありがと、…結構嬉しい」と言って。
自分が傷付く度に相手は相手自身を責め続ける、そんなのは嫌でやはり相手の言う通りに距離を置こうと。
距離を置きながら相手を勝手に思い続けて居ようと考えては小さく息を付いて。
>桐崎
(心身共に辛い筈なのに無理に微笑む相手を見ては、こんな顔をさせている自分が酷く憎くて、抱き締めたいのに罪悪感に支配され怖気づいてしまっては何も言えないまま相手と別れ。
(相手とまともに顔を合わせないまま自室に戻り扉を閉じたところ直ぐに兄が訪れ突如両肩を掴まれては鋭く睨まれて。
『ねえどういうつもりなの?繿から聞いたんでしょ?真希ちゃんとは別れたって。……繿から好きって言われたんじゃないの?』
「……言われたよ」
『じゃあ何でさ!!?なんでまだややこしいことになってんの?』
「…俺といると迷惑掛けるから…。一緒に居ると彼奴が不幸になる…」
『…誰かにそう言われたの?』
(その問いに“お前なんかがいるから…”と幼少期言われた言葉が過り微かに唇を噛んで両肩に置かれる手を払って。
「あんたも俺から離れろよ。……知ってるんだ。あんたも俺が傍にいるせいで嫌がらせされてること……。赤城も…、悪く言われてるの聞いた…“どうせ彼奴等も遊人だろ”って」
『そんなの言わせておけばいいよ。事実は俺達が良く知ってる』
「……事実、か。………俺が汚れてるってことだろ?」
『違ッ…何でそうなるのさ!!何回違うって言われれば気が済むの!?』
「煩いな!!!あんたしつこいんだよ。今辛いのはあんたの弟だろ?俺に構ってる暇があったら彼奴の傍にいてやれよ!!…もう出てけ!!」
(感情を顕に身勝手に怒鳴りつけては力尽くで部屋の外に押し出しバタンと扉を閉ざすとその場にズルズルと座り込んで。
完全に八つ当たり。どれだけ餓鬼なんだと自分自身を殴ってやりたくなるも、自信を失い自棄になっている今周囲の気遣いを受け入れる余裕はなくなっていて。
兄や青年、なにより相手にとっても此れがいいのだと無理に思うようにしては、大学は休みだし暫く寮を離れようと数年前世話になった剣道道場の師範の元に身を寄せることにして。
(翌日朝早くまとめた荷物を手に寮を離れては電車ですぐの稽古場を訪ねると師範に快く迎え入れられ。
『いやぁ、驚いたよ。急に暫く泊めて欲しいなんて言うからなぁ。ま、その分みっちり働けよ!家事と指導は手伝って貰うぞー』
「勿論です。お世話になります」
(小さく微笑み頭を下げては部屋に上がらせてもらい懐かしい畳の臭いに目を細め竹刀などの手入れに取り掛かるも相手の事が気にかかり何度も手が止まっていて。
>露木
( 翌朝、相手が寮を開けてる事も知らずに自室にてのんびりと過ごしていれば突如電話がなり、誰だろうと疑問を持ちながら電話に出る。
電話の相手はどうやら自分の叔父、先祖に関してをよく知り家宝である“霧ヶ暮爛”とやらの私物を大切にしてる印象しか無く久々に会おうと言う事で。
最後に会ったのは小学校高学年くらいだっただろうか、懐かしさから二つ返事で行くと告げてはさっさと準備に取り掛かり。
( 夜、漸く到着しては最後に見た時より年を取った叔父と落ち合い古くからの大きな家に案内されて。
大きく変わった身長差に叔父は苦笑を漏らしつつ部屋に通されては色々な事を聞かれて。
『繿、勉強はしっかりやってるか??』
「まぁまぁ、それなりにやってるよ」
『部活とかはしてるのか??』
「バイトしてるから帰宅部」
( 大袈裟な相槌を打つ叔父に『お前ぐらいの年だからな、恋人は居るのか??』と聞かれてはふと表情を固めるも相手には片思いを続けると決めたばかり。
「恋人は居ないけど好きな奴はいる」とはっきり告げれは『頑張れよ』と背中を叩かれて。
明後日くらいには帰ろうと予定を立てつつ、そう言えば青年に黙ったまま来てしまったなと。
しつこいメールと着信にやっと出ては『兄さん今どこいるの!!!』と煩い声に眉を寄せる。
「今さ、子供の頃世話になった叔父の家にいんだ」
『え‐…!!!…そうなんだ…』
「お前も来るか??どうせ叔父さんの性格だし歓迎されると思うけど」
『え!!!良いの??!!行く!!!』
「分かった、兎に角煩い。んじゃあ明日駅でな」
( 騒ぐ青年との電話をブツリと切っては早速叔父に友人が来る事を告げる。
賑やかなのが好きな叔父は笑顔で頷き『明日の夕食はご馳走にしなきゃな』と。
どうせ青年の事だし早い時間に来るだろうなと考えては明日の着替えを適当に出して置きさっさと布団に入っては相手からのメールが無い事に僅かに悲しくなったりしそのまま眠りに付いて。
( 翌日、元々朝は遅く起きてしまう性分の為のそのそと準備を初めては駅へと向かう。
その道沿いに剣道の道場が見えては小学生の時少しだけやったのを何となく思い出して。
子供達の声を耳にしながらさっさと歩き始めては駅へと訪れて。
>桐崎
(相手の叔父の家が道場の近所だとは知らず、子供達が稽古に励む様子を頬やましく見守っていると師範からお茶を差し出され。
『お前も随分腕が落ちたんじゃないか?』
「…当たり前ですよ。4年近くブランクありますから」
『………で、何を悩んでるんだ?』
「…え…、何でですか?」
(口元まで持っていった湯のみを下げて訝しげに師範を見ると、師範はニッと大らかに笑い。
『昨日から溜息ばかり吐いてる。………それにお前の祖先も何かあった時此処に転がり込んでたそうだ』
「……祖先?…初耳ですけど」
『…?一度話してなかったか?此処は江戸から続く道場でお前そっくりの青年が居候してたって。当時はよく簪の手入れをしてたって話だ。今でも裏の倉に保管してあるぞ』
「……“菊露草”……」
『あーそうそう。そんな名前だったな。なんだお前知ってるじゃないか』
(記憶は曖昧で自覚もないが以前過去の自分に憑依された時、頭の中に残った名前と僅かな“江戸の記憶”。
不思議な感覚に絆されていると師範に肩を叩かれ『この後倉の掃除がてら少し見てみるか?確か古い帳簿もあったから何か面白いことが分かるかもしれんぞ』と色めきたった声で言われその張り切りように苦笑しつつ少し気になったため小さく頷いて。
(古くからある倉、元々大雑把な師範の性格故にあまり掃除は行き届いていなく見せてくれると言った過去の自分の私物も大切だからと奥の奥の金庫に仕舞ってしまったらしく。
これは時間が掛かりそうだと短く髪を縛りバンダナとマスクを付けてはとりあえず手前の荷物の埃を落としながら倉の裏へと運んで。
其の頃、師範は友人である相手の叔父に電話で『久々に倉を開けるから来ないか?もしかしたらお前の大好きな骨董品が沢山あるぞ。それに“霧ヶ暮”のことももっと詳しく分かるかもしれん。…そうだ、ついでに掃除もするから若い手が欲しいな』と相手の事は知らないながら最後を特に強調して調子のいいことを言って。
>露木
( 叔父の家に戻るなり叔父は誰かと電話をしてる様で『分かった、直ぐに向かうよ。丁度良く今甥っ子とその友達が来てるからな』と言っては電話を置いて。
青年が笑顔で挨拶をするのに微笑みながら赤髪をわしゃわしゃと撫で回しては『これからな、お前の先祖と恋仲だった男の骨董品を開くそうだ。お前も気になるだろう??手伝ってくれないか』と。
赤髪の青年はきょとんとしながらも『俺も行きたい!!!』と述べては掃除用具片手にジャージ姿で道場へと向かって。
( 叔父の軽トラックで道場へと訪れては、出迎えてくれた師範の者に挨拶をする。
倉へと連れられては入口の前に居る相手に一瞬驚くもそれを伺わせない様に「よ、奇遇だな」と素っ気無く告げ青年に渡されたマスクを付けて。
埃を払いながら重たい置物などを退かして行き、思ったよりも力の無い青年を気遣っては「良いよ、持つから」と奪う様に青年の手にある置物を受け取って。
『お、合ったぞ。ほら、見てみろ』
( 叔父と師範の言葉にそちらに駆け寄っては僅かに劣化してるものの見るからに上等な簪があり。
相手に送ったストラップと何処と無く似てるそれをぼんやりと見詰めては今更相手に返されたのだという勘違いを続けて。
『帳簿も確か………合った合った、これだ』
( いかにも昔らしさを感じる帳簿を取り出した途端バサリと埃が舞っては短く席をし。
叔父と師範が慣れた手付きで解読を試みてる中、頭の中はストラップの事で埋まってしまい。
自分の行動が重かったのだと言い聞かせては簪をぼんやりと見詰めていて。
>桐崎
(訪れた相手を気にしないようにするも青年と親しげに話すのを見ては自分もあれだけ素直になれたらと身勝手に嫉妬して相手に背を向けるようにする。
しかし簪が出てきては引けられるよう相手の横に並び大事に保管されていた簪を見詰め、自分は何故相手から貰ったストラップをもっと大切にしなかったのかと後悔が押し寄せ「……諦めずに探せばよかった…」と無意識に声に漏らしていて。
その時、帳簿を解読したらしい叔父と師範が何故かニヤケ顔で相手に近付いて来て、帳簿に挟んであったらしい過去の相手の写真を見せて。
『お前さんそっくりで男前だろう?いやぁここまで写真が綺麗に残ってるなんてお前の先祖の恋人さんは相当大事に持ってたんだな』
『にしてもこの帳簿は時間も場所もかなり事細かに事情が書かれてるな。やっぱり彼の能力が関係してるのか』
『でも途中から殆ど“霧ヶ暮爛”のことしか書かれてないけどな。“彼(相手)との時間を忘れたくないからもう能力は使わない”とよ。この一冊だけでも心底恋人を愛してたのが分かるね。羨ましい限りだよ』
(叔父と師範は自分たちそっちのけで話に盛り上がりそのまま長々としゃべり出しては話の流れで叔父の家で夕食をご馳走になることなり。
(夜、とても断れる雰囲気ではなく相手の叔父の家で夕食を頂くも相手の事が気になり味わう余裕がなく何度も相手をチラチラと見てしまい。
その間、相手の叔父と師範は酒を飲み交わしながら飽きること無く過去の自分たちのことをしゃべり続けついには師範が酔いつぶれては動けない状況になって。
『ははは、全く仕方ない人だな。…露木君、今日は友達も来てることだし此処に泊まって行きな。この人こうなると明日まで起きないから』
「……いや、でも……」
(相手がいる…、そう思うも酔いつぶれた師範を放っぽっては迷惑が掛かると泊めて貰うことにして夕食の片付けを手伝い一足先に風呂に入れさせて貰って。
(風呂あがり、借りた冬用の浴衣に袖を通し案内された畳部屋行くと相手と青年は入れ違いで風呂に入ったようで一人縁側に出ては手元の簪が入った箱に視線を落とす。
それは昼間倉から出てきた簪の一つで師範から“元々はお前の先祖の物だから”と渡されたもの。
自分なんかが持っていていいのかと謙遜しつつ持っているだけで温かな不思議な気持ちになれば脳裏に着物姿の“相手”の笑顔が浮かび。
自分も相手をまっすぐに愛し笑顔にすることが出来たらと切なげに月を見上げ、いつかの“自分”がしたように月に相手を重ね片手をそっと月に掲げて。
>露木
( 夜、風呂を終え眠そうな青年を寝かし付けた後に何となく部屋の隅に腰を下ろしては昼間叔父と師範に言われた言葉を思い出す。
見せられた写真は驚く程に自分と瓜二つ、何十年も前の物なのにああも綺麗に大切に保管してくれてたのだと思うと不思議な感覚になって。
ポケットからストラップを取り出し、ちぎれてた付け根を新しい物に変えては月に翳し苦笑して。
今日だって相手が自分を避けてたのは何と無く気付いてた、それでも表情を崩さない様に心掛けた。
以前過去の相手が現代の相手に憑依した時に言われた言葉を思い出しては薄く瞳を閉じる。
「もう少し…ちゃんと話せたらな。………素直に…」
( ボソリと呟きのそのそと青年の隣の布団に潜り込んでは中々寝付けないままに空を見上げていて。
( 翌朝顔を洗おうと洗面所に来た所、先に洗面所に居た相手とばったり出会してはさっさと出て行かれる前にと道を塞ぎ「……………おはよ」とぎこちない表情で微笑んで。
ストラップの事を切り出そうとするも相手に突き返されたのに流石にしつこいかと思っては道を開けて。
部屋に置きっぱなしのストラップが悲しく思えてはあまり深く考えない様にして。
( 部屋に戻り師範に頭痛薬を渡してやっては自分も準備を済ませ青年と共に朝食の席に付いて。
青年が無邪気に『凄かったですよね昨日の写真、兄さんそっくりで‐』と言うのをぼんやりと聞いていて。
ふと相手と目が合っては何か言おうと口を開くも考え込んだまま出て来る事は無く。
>桐崎
(朝から相手と気まずい空気になり何か言わねばと思うもやはり自分なんかが…と自信が持てず、結局なにも話せないまま朝食を終え片付けを手伝っては居間で休む師範の元へ行き昨日渡された簪を返して。
「…此れは俺が持つ資格ないので…。倉で大切に保管した方が良いと思います」
『…そうか?お前が言うなら構わんが。……』
(戸惑う師範が何か言い掛けた時、相手の叔父がストラップを手に居間に訪れて。
『これ、部屋に置き忘れてたみたいだけど露木君か赤城君の?…それとも繿のか?』
(声がした方に目を向けストラップを見た瞬間小さく目を瞬かせては相手よりも早く叔父の元に駆け寄り半ば奪うようにストラップを取り。
あの夜、男性学生に捨てられ一晩中探しても見つからなかったものが何故こんな所にあるのか。
動揺と期待、悲しみと嬉しさが入り混じり微かに手が震えるもよくよく見ると千切れた筈の付け根は見慣れない物で。
なんだ別物かと馬鹿な勘違いし一瞬にしてどん底に落とされたような気持ちになれば叔父に返して「……すみません。見間違えでした」と俯いて謝り。
『え……、本当に?…なんかすごい勢いだったけど』
「……少し前に似たようなのを無くしてしまって…、大切にしていたので…つい取り乱しました」
(再度謝るも同じ部屋に相手がいたことを思い出してはハッとなり口元を押さえる。
“大切にしていた”なんて突き放しておいて未練がましいこと知れたら何を思われるか…。
「あ……、えっとお世話になったので部屋の掃除させてください」
(慌てて笑顔を取り繕っては居間を立ち去り寝泊まりした部屋に向かって。
(一人部屋の掃除をしてはどうしてこうも女々しいのかと溜息を吐く。
すると其処へ相手の叔父が自分の様子を心配しにやってきて気分転換に家宝を見てみないかと。
迷惑ではないかと思ったが過去の相手がなんとなく気になり頷いては外にある大きな倉に案内してもらい色々見せて貰って。
いつの時代も相手はやっぱり恰好良いと少し穏やかな気持ちになっているところ急にバタンと入口の重たい扉が閉ざされ真っ暗になる。
その時丁度相手の叔父は倉の外に居たため中には自分一人で、それでも特に慌てることなく扉に手をかけるも何故か全く空く気配がなくあれと冷や汗がつたい何度か開けようと試みていて。
(その頃、外では扉を閉じてしまった犯人、師範が相手の叔父にこっぴどく叱られており。
『お前なにしてるんだよ。この扉は留め具をしないと開けられなくなるから気をつけろとあれほど注意しただろ!』
『いやぁ、まさか中に人がいるとは思わなくてさぁ』
『全く…。……しかし弱ったなぁ。一応内鍵が倉の中にあるんだけど身内以外に場所を教えるなって言われてるし…倉の中は防音で声も携帯も通じないんだよ』
『……ど、どうするんだ?』
『……一つだけ方法が。倉の上に小さな窓があるだろ?あそこにはしご引っ掛けて中に入れればいいんだが………、倉の中に下りる時がな…相当運動神経がよくないと足がボッキリと…』
『…そ、それはお前には無理だな。で…お前以外のここに居る身内って…』
(叔父達の視線が相手に向けられるも『流石に大切な甥っ子を怪我させる訳には…』と叔父は首を横に振って。
>露木
( 叔父が持って来たストラップにサッと青ざめてはさっさと受け取ろとするがそれよりも早く相手が駆け出すのに疑問を持って。
相手が口にした言葉に僅かな期待を抱いてしまうも“叔父の手前、自分に気を使ってくれたのだろうか”と考えてしまっては「それ、俺のだよ」と叔父からストラップを受け取って。
( 相手が倉の中を案内されてる頃、自分は部屋で青年と他愛も無い話をしてたのだが倉の扉が閉じた大きな音に気付いては直ぐに叔父達の元へと向かって。
相手が閉じ込められた事と身内以外鍵の在処を知れない事を一通り話されては迷う事も無く「俺が行く」と名乗り出て。
大切な存在を助け出す事に躊躇する筈も無く、高い位置にある窓に梯を掛けては下で叔父達が支えてくれてる事を確認しさっさと段を登って。
埃臭い窓を引き相手が居るのを確認しては「今行くから」と何気無い様子で言って。
かなり高い位置、しかも大切な骨董品が納められた所に派手に飛び降りる訳にも行かず暫し無表情で考え込んでは能力を半減して解放させて。
何とか上手く着地し、狼故の脚力の為負担も無ければ安堵の息を付き鍵の在処を探して。
一番奥に合った小箱の中から漸く鍵を見付けては早く開けなければと思うも相手と二人だけの状況に抑えが効かなくなってしまって。
一歩一歩と相手に近寄っては相手を挟んだ両腕を壁に付きいつか相手が自分に言った事を言って。
「遊びなら良いんだろ??…ちゃんと金出すから、…あんたに触れさせて欲しい」
( 自分でも何を言ってるか理解出来てないまま相手の唇を奪っては服の中に手を入れ相手の背中の素肌に触れ首筋に痕を残しては「……………好きだ、愛してる」と無意識の内に囁いてしまって。
しかしハッと正気に戻っては外で叔父や師範や青年が待ってる事を思い出しては相手から身を離す。
偶々ポケットに合った千円札を数枚取り出し相手のポケットに無理矢理押し込んでは「いきなりごめん、………今の無しにしてくれ」と小さく呟きさっさと鍵を開け。
師範と叔父が相手に謝る中、スタスタと青年の元へと向かっては虚しさを隠す様に「おい、コンビニ行こ。…何か奢ってやっから」と告げ近くのコンビニへと向かって。
>桐崎
(颯爽と現れた相手に見惚れては近付く距離に性懲りもなく胸が高鳴り、抑えていた理性などすぐに吹っ飛び此方からも唇を奪う。
“愛してる”と言われ思わず“俺も…”と言いそうになるが正気に戻ったように金をポケットに押し込まれては夢から覚めたような気持ちになる。
それと共に今まで無理強いされ金を投げ渡してきた男達の姿がフラッシュバックしては相手からも“お前は汚れてる”と言われている感覚に陥り歯がカタカタと鳴る。
自分は以前同じようなことをして相手を傷つけた。
きっとその仕返しで“愛してる”というのも嘘なんだと、ショックから悲観的になっては青年とコンビニに向かう相手を止めることなく、叔父達の話しもまともに耳に入らない状態でフラフラと室内へと戻り。
(相手と青年が居た部屋に来ては相手の荷物を暗い瞳で見下しポケットから押し込まれた千円札数枚を取り出すとビリビリに破って相手の荷物の上に投げ捨てる。
子供染みた行いだと自覚はあったが、相手にだけは金を渡されたくなかった。
自分にとって金を渡される行為は“遊び人の身売り”だと言われているようなもの。
相手の気も知らないで自分勝手に傷付いては、相手を愛する気持ちに無理矢理フタをして。
心配する叔父に何でもないと笑顔を浮かべ世話になった礼を述べては、昼食の手伝いだけして剣道の稽古の準備をしたいからと相手と鉢合わせないように師範と共に道場に戻って。
あとすこしすれば子供達が来て稽古に打ち込める。
そうすれば少しは相手の事を考えなくて済むと思いながらも頭の中は倉での相手に言われた“愛してる”の言葉でいっぱいになっていて。
(その頃、コンビニでは様子のおかしい相手を青年が気にかけ『なにかあったの?』と心配していて。
明るい話題にしようと『兄さん、見てみて新製品のプリンが出てるよ。俺これがいいなぁ、二人で分けっこしようよ。おなじスプーンで』と相手の腕を引きはしゃいでいて。
>露木
( 青年の笑顔に無理矢理こちらも笑顔を取り繕っては
適当な菓子やデザート類を買い叔父の家へと戻る。
相手と師範は既に道場に帰ってしまった様で叔父が自分達の帰りに気付いては『明日帰るんだろ??今日はのんびりして行け』と言われて。
少しでも荷物を纏めようと思ってた所、自分の荷物の上に散らばる千円札の残骸が目に入っては自分からの金など受け取りたくも無かったのかと。
自分の行為が相手を傷付けただなんて知らずにどんどんと嫌われる恐怖を感じては無意識の間に眉を寄せ唇を噛み締めていて。
青年が部屋に来る前にさっさと片し、ストラップをぼんやりと見詰めては虚しさが襲い掛かって来て。
( その夜、色々な事を考えてる内にまた胸が苦しくなりコントロールが上手く効かないまま能力が解放されそうになってはそれを防ぐ様に身悶える。
ふと窓ガラスに写った自分を改めて見詰めては彼女が怖がるのも無理無いなと納得して。
呼吸を乱し苦しそうに服をグッと掴んではぼんやりと目前に浮かんだ人の姿に眉を寄せる。
自分と瓜二つの顔に真黒な着物、それは今日相手の帳簿から出て来た写真に見た“霧ヶ暮爛”の姿で。
幻覚でも見てるのかとも思ったが今は能力を耐える苦しさからまともな判断が出来ず。
『何してるんだ、あんたの気持ちが落ち着いて無いから能力が解放されそうになんだぜ』
「ど…したら、」
『さぁな、あんたが苦しもうが関係無いが…露草の子孫を苦しめるのは許さねぇぞ』
「……………露、草…って」
『息、切れてる。ゆっくり深呼吸しろ』
( 言う通りにしながら手を伸ばすも触れる事は無く代わりに『あいつの気持ちを考えろ、………全くあいつはいつの時代でもあぁだな』と無表情を薄く緩めては消えてしまって。
今のはこの苦しさが見せた幻覚なのだろうかと疑ったが落ち着いた身体をズルズル引き摺っては「もう遅いよ、嫌われてんだっつの」と小さく呟いて。
( 青年が部屋に戻って来るも気付かない振りをしなが
ら煙草を咥える。
ふうっと煙を吐き出しながら縁側に座ってた所、後ろから青年が張り付くのを感じては引き剥がして。
『兄さん兄さんどうしたの‐』
「別に何でもないけど抱き着くな」
『え‐なんで』
「…………」
『あはは、大丈夫だよ。俺別に何も怖くないし』
( 慰める様に言って来た青年の言葉にピクリと反応してはそのままぼんやりと縁側を見詰めていて。
人付き合いが苦手だった自分に絡んでくれる青年にはそれとなく感謝しながら煙草を灰皿に押し付け青年に向かい直れば寂しさを埋める様に抱き締める。
数秒間そうして居たが何も無かったかの様に身を離しては青年を見詰め「そろそろ夕飯行くか、叔父さん一人だと大変だろうしな」と。
>桐崎
(夜、相手達が食事を取る頃、叔父の倉に怪しい影がいくつか忍び寄っていて梯とロープを駆使して大胆ながら鮮やかな動きで倉内に侵入しては家宝である白刀を盗み出していて。
江戸でも珍しかった相手の刀。現代でも大金目当てに狙う者達がおり、男達の中の一人は商人の家系で偶々先祖が残した記録から白刀について知り今回窃盗を働いたようで。
男達は白刀を布で包みゴルフバッグに入れると痕跡を残すこと無くその場から姿を眩ませ。
(その頃、自分は師範の晩酌酒が切れてしまったため一人街に来ていて、日本酒とツマミを購入すると夜も遅いためさっさと帰ろうと足を急がせる。
が、ふと路地裏からやや興奮気味の男達の声が聞こえてきては何となく胸騒ぎがして足を止め。
『まさかこうも簡単に手に入るとはな、あそこまで防犯が手薄だとは思わなかったぜ』
『…江戸時代の銘刀か。白刀なんてそうそう無い。うん十億はくだらないぞ』
『さっさとバレる前に密輸して金に変えちまおうぜ!』
(目をギラギラさせ路地奥へと進んでいく男達の言葉にすぐ叔父に見せて貰った家宝が脳裏を過っては警察を呼ばねばと思うも、叔父はあの倉を警察に捜査されたくないだろうと思いとどまる。
せめて相手か兄に応援をと思うが、相手とは気まずいし兄は突き放したばかり。
それに自分以外の誰かを危険に晒すわけには…と馬鹿な考えをしては一人で男達の後をつける。
(男達は堂々と表からゴルフの打ちっ放しの施設に入っていくと立入禁止の階段を下り地下駐車場に来たところで刀の入ったゴルフバックを下ろす。
直感であの中に刀があると憶測するも果たしてどう奪えばいいのか。
流石に強行突破は無理だと思うも三人のうち二人が気の緩みからかトイレに行くと言い出して。
今ゴルフバックの傍にいるのは一人だけ。
チャンスは今しかないと恐怖を拭い捨て唯一の武器である酒瓶を手に男に突進しては続けざまに足の腱を思いっ切り蹴る。
男がうずくまって身悶えている隙に酒瓶を投げ捨てゴルフバック背負うと刀以外にクラブも入っているのか意外と重く一瞬身体が傾くが、すぐに体勢を立て直し他の二人が戻って来る前に人通りの多い上階へ上がろうとして。
>露木
( 相手がゴルフバックを抱え階段を登ろうとした時、二人がトイレから戻って来ては凄い形相で相手を追い掛け頭を思い切り殴り付けて。
『何してんだこの糞餓鬼が!!!…もう良い、こいつも連れて行け』
( 一人の男が相手を軽々と抱えては裏口から外に出て用意してた大きな車のトランクに相手を放り入れさっさと車を走らせて。
廃倉庫に到着するなり相手を拘束してはゴルフバックを取り上げ前髪をグッと掴み上げて。
『誰の命令でやったんだよ、それともお前の独断か??さっさと答えろ』
( 答えない相手に苛立ちを見せ再度顔を殴り付け様とした所、一人の男が相手の顎を掴みこちらに向かせ『止めとけ、こいつ女みてぇに綺麗な顔してんじゃん。俺こいつなら出来っかも』と口角を上げ。
近くにあったマットを引き摺りその上に相手を乱暴に寝かせては三人掛かりで押え付けて。
『あんま叫ばせんなよ、人来られると面倒だし』
( 一人が相手の脅しの材料にするが為に撮影を初めてはカメラを良く見える位置に置き、相手の髪を撫でてはクスクスと笑みを深めて。
( 数時間後、ぐったりする相手の首筋を舐め上げては一人の男がふと思い出した様に『そういえば俺桐崎と中学一緒だったわ、あいついっつも怪我しててさ‐』と話始めて。
『あいつが先祖の血を色濃く継いでるんだっけ??』
『へぇ、継いでるってもどんなんなの??』
『いや俺も知らんけど。まぁいいや、それとなく近付いてあいつの能力も利用しようぜ。俺あいつが中学だった時のネタめっちゃあるし』
( ゲラゲラと笑みを浮かべては相手に家宝である刀を簡単に手渡し『ほら、お前が身体売ってまで取り返したかった刀。返してやるよ、これからただで済むと思うなよ』と相手の耳元で囁いて。
『兎に角明日桐崎ここに呼んで来い、出来なかったらこの動画バラ巻くから。お前ら知り合いなんだろ??』
( 相手の目前に先程の動画を流しながら『それにしてもお前割と慣れてたな、もしかしてこういう事大好きなんじゃねぇの??…あ、仕事だったりして』と。
>桐崎
(気怠さの中無感情で居たが男達の口から相手の名前が出た瞬間ピクリと身体が震える。
相手がこの男達に利用されたらどうなるか…考えるだけで背筋が冷えるも、動画を流されれば妹や母が世間から好奇の目を向けられることになる。
やっと父の横領事件のほとぼりが冷めてきたのに自分のせいで妹や母に辛い思いをさせるなどあってはならない。
かと言って相手を売りに出せる筈もなく…。
板挟みの状況で見せられる醜い自分の姿に段々頭が可笑しくなってきてはクスクスと笑いを零し。
男達は突然笑い出す自分を気味悪がり『…なんだよ此奴。気違いか。……まあ良い、明日絶対に桐崎を連れてこいよ』と勝手にアドレスを登録して去っていき。
暫くして暗い瞳のまま起き上がっては衣服もあまり整えないままフラフラと街に出る。
周囲への迷惑を考えると道場にも叔父の家にも行ける筈がなく、少し考えて適当に服を買った後ネットカフェに行きシャワーを浴びて着替えを済ませ。
その後、狭い個室に入ってはゴルフバッグから刀を取り出し一枚写真を撮って《返して欲しかったら明日此処に来い》と地下駐車場の住所と刀の写真を添付して相手にメールを送り付け。
何がしたいのか自分でも分からない。
ただ家族を優先し相手を危険に晒す選択肢しかないのなら、とことん憎まれてしまえと。
完全に正常な判断を見失い自虐的思考に走るも胸の痛みは言い知れず、座ったまま刀を胸に抱いては身を縮こまらせ「……繿…」と空虚に名を呼んで。
そうしていると少しだけ楽になれる気がして刀に頬を寄せるようにしては無意識に涙を流しゆっくりと眠りに落ちて。
其の頃、師範はちっとも戻らない自分を心配して叔父に『菊が帰らんのだが知らないか?』と電話していて。
(翌日、座った状態で目を覚まし過度なストレスからくる吐き気を堪えながら支度をしては、朝から大量に来る男達からの脅しメールに《あんた達のこと気に入ったからたっぷり遊んでやるし金ならいくらでも稼いでやるよ。その代わり桐崎を必要以上に傷つけるな》と返信してネットカフェを出る。
相手には必要最低限の被害しか掛けさせないと、身勝手な考えのもと地下駐車場へ向かって。
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