天王台ん* 2014-12-27 20:42:18 |
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「いもけんぴパン」
いもけんぴパンはある男に恋をした。
それは許されぬ恋であったが、いもけんぴパンの思いは熱く、決して冷めることのないものであった。
どうしてその恋が発展したのかと言うと。
それは遡ること昨日の朝餉の時。
いつもと同様に、いもけんぴパンは男の屋敷の食堂奥にある棚の中に佇んでいた。
そこはクロワッサンやベーグルなど様々な種類のパンが保管されている場所だ。
家の者達は毎日朝食の時になるとそこから自身の好きなパンを手にとって食卓へと戻るのだが、どういうわけか毎度毎度いもけんぴパンだけがその場に残されてしまっていた。
新しくきた若手のクロワッサン達だけが次々と食されていく中で、もはや古参となったいもけんぴパンだけが売れ残る。
焦燥に駆られるいもけんぴパン。
どうして、どうしてワタシだけが食べてもらえないんだ!
「それはアンタが不味いパンだからなのよー!」
昨日来たばかりの新参者クロワッサンにすらバカにされる毎日。
いもけんぴパンは敗北感に包まれすっかり自信を無くしていた。
しかし、転機は挿した。
「毎回毎回クロワッサンやベーグルと同じような味ばかりでパッとしないものだな。何かもっと斬新なものはないのか」
突如いもけんぴパンの元に響いた声はこの屋敷の主たる男が発したものであった。
「親方様、あるにはあるのでございますが……」
言いにくそうに言葉を渋るメイド。
「何かあるならば、さっさと言ったらどうだ?」
はっきりしないメイドの対応にイラついたのか男は少し語気を荒げた調子でメイドに続きを催促する。
「は、はい……実はいもけんぴパンがまだ戸棚の中にありまして……」
「なに、いもけんぴパンだと? たしかに斬新だな。少し興味が湧いたぞ。明日の朝餉には是非それを用意しなさい」
いもけんぴパンは心の中で歓喜した。
今まで誰からも相手にされなかった彼女であったが、ここにきて初めて食してもらえる可能性が出たからだ。
しかもそれが屋敷の主たる男ときた。
彼女はまだ見ぬ食してもらえる男の消化器官への思いを募らせていった。
それがいもけんぴパンの中で恋へと変わるのにはそう時間がかからなかった。
「或る夏の日の手紙」
その手紙が届いたのは暑い暑い夏の或る日であった。
差出人は昔懐かしい友人。
なんでもひどく重い病をかかったらしく、余命がもう残り少ないとのこと。
つらつら書かれていたのはどうにも他愛もないことばかりで。
久しいという気持ちはあったが、こんなことのためにコイツはわざわざこの手紙を私に寄越したのかとさえ思えてしまえるほどに内容は薄っぺらいものであった。
しかし、そんな手紙を読み進めていくうちに、自分の中でどうにもひっかかるものがあることに気がついた。
そして違和感は手紙の最後の一行でたしかな実感として顕現した。
あ。俺コイツに金貸してたわ…。
額としては大した金額でもないが、金は金だ。
貸したまま逝かれたとなっては自分の心にシコリが残るだろう。
今ならまだ間に合うか。
手紙には余命が1ヶ月と書かれていた。
消印はちょうど20日前。
そう考えるとアイツが死ぬまであと約10日……。
少し微妙な気がする。
アイツが余命1ヶ月と宣告されている時点で、容態はどう転ぶか分からない状態だと考えるのが普通だろう。
下手したら、既に死んでいる可能性だってある。
それでも。
もし、そうだとしても。
俺はアイツから金を巻き上げたい。
よし。行こう。
たとえ無駄だとしても構わない。
それでも俺は進むのだ。……アイツから金を返してもらうために。
【次回。ついにアイツと直接対面!!「俺」の冒険が今、始まる…!!】
支援させて下さい♪
発想が斬新で面白い(^^)
文章が軽快な上、
短編なので、
気軽にすらすら読めます..*
次の気まぐれに
期待していますw
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