死神とキスと永遠の命

その時、少年は6歳でした。

生まれつき体の強くない彼は肺炎をこじらせて入院し、そこで出会って仲良くなった少女に自分の願いを話して聞かせたのです。

『強くなって、ずっと永遠に生きたい』

＿＿と。

少年は肺炎を回復させて退院したけれど、生まれつき重い心臓病を患っていた少女は少年の退院から間もなくして亡くなりました。

少年はそれを知る余地もなかったし、少女に対する感情が初恋とも気づきませんでした。
少女との記憶は、少年の生きてきた道筋の中に埋もれていつしか忘れてしまうのです。


少年は成長して高校3年生になりました。

あの頃と変わらず体は弱いままだったけれど、少年の心は変わってしまっていました。

少年は強くなりたいという意志も、長く生きていたいと願うこともなくなっていました。
ただただ、与えられた今日を無抵抗に受け入れて生きているだけ。

そんな自堕落に浸った少年が生きる大して変わりのない日常の最後である夜中。

唐突に部屋に響いた窓ガラスの割れる音と共に部屋へと転がり込んできたのは、全身黒い衣服に身を纏った幼い少女。

どう考えても普通ならば大怪我をするであろうその状況に、しかし怪我一つとしてしていなさそうな少女は起き上がって少年に覆いかぶさり微笑むのです。

『願いを叶えに来たよ』

＿＿と。
微笑む少女とへたりこむ少年との唇の距離、数センチ。

＿＿これは、「生」をもたらす死にたがりな少年と、少年にもう一度出会うために「死」をもたらす死神へと堕ちた少女の物語。


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