karasu925 2014-12-04 17:24:52 |
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「ここは私が少しの間、食い止めます!!皆さんはそこにある裏口から先に逃げて下さい!!」
魅織が壁を指さして言う。しかし、そこには裏口どころか非常口すら見当たらない。
「ど、とこに裏口なんてあるんですか!?」
「そこの壁紙と壁紙の間の切れ目に向かって突進して下さい!!」
魅織は既に不良の男との交戦に入っており、男を背負い投げしながら答えた。その光景を見て、全員が史上最高クラスのメイドは伊達じゃないと悟った。
「皆、後に続いてくれ。私が突撃する。」
いつの間にか起きていた警察官の男がいた。警察官の男はそのまま魅織に言われた通りに壁紙と壁紙の間の切れ目に向かって突進した。すると、壁紙に隠れて見えなかった扉が綺麗に現れた。
「急げ!」
一鷹が声を上げて進むように促す。通路は案の定狭く、人一人がやっと通れるほどのスペースだった。警察官の男の後に続き、唯、優美子、月漓、美花、小癒希、一鷹の順で進んで行った。しかし、まだ一人残っている人物がいる。
「何をしているのですか!?貴方も早く裏口へ……!」
「……援護」
「え?」
最後まで残っていた羽織を着た少年は、それだけ言うと魅織が飲み物を運ぶ際に使っていたトレイをフリスビーのように投げた。
「あがッ!?」
トレイは見事に男の顔面に直撃し、男は鼻を押さえて悶絶した。その隙に魅織と少年は裏口へ駆け込んだ。
「お見事です!」
「……」
通路をまっすぐ進み、その先にある曲がり角を曲がると、また扉があった。そこを突破すると表へ出た。そこでは小癒希達が待っていた、合流したのを確認して直ぐに走り出した。
「ちくしょう!これからどうすんだ!?」
「決まってる!!ここから出る!そろそろ外に警察が来る頃だろう!!」
「出入口に待ち伏せされてる可能性もあるよ!?」
「でも、今は行くしか無いんじゃ!?」
そうこうしている内に、後ろから不良達が7人追いかけてきた。皆、それに気付き、更にスピードを上げて走り出した。幸い、ここにいる全員が体力がある方なので、誰かが遅れるなどということにはならなかった。
「よし!十字路だ!!」
「左に行くぞ!!」
「右に行くぞ!!」
十字路に当たり、一鷹と小癒希を先頭に、左右にバラバラになってしまった。ただ一人、羽織を着た少年のみが真っ直ぐ進んだ。
右ルートは、唯、優美子、美花、一鷹となり、左ルートは、警察官の男、月漓、魅織、小癒希となった。不良達はそれぞれ、右に3人、左に3人、真っ直ぐ1人と別れ、追跡を始めた。しかしその10秒後、左右の道から一鷹と警察官の男と魅織の気合いの入った声と、「ギャァァッ!?」だの「うがぁッ!?」という不良達の悲鳴が聞こえてきたのだった。
一方その頃、十字路を真っ直ぐ進んだ先では、少年が行き止まりに当たっていた。
「……」
「へっ、手こずらせやがって!テメェにゃ用はねぇが、人質になってあの女を引きずり出す餌くらいにはなってもらうぜぇ?」
男はジリジリと少年に詰め寄る。少年は相変わらずあらぬ方を見ており、男に見向きもしない。そんな少年の態度に腹をたてた男は、ポケットから折り畳みナイフを取りだした。
「おいテメェ、このクソガキィ!一体どこみてやがる!!馬鹿にしてんのか?あぁ!?」
「……意味もなく騒がないで下さい。うるさいし、鬱陶しいです。」
「!! てぇんめぇぇぇぇッッッ!!!!このッ!ブッ殺してやるッ!!!!」
少年の言葉に完全にキレた男は、ナイフ片手に少年に向かって走り出した。
*
*
*
「はぁ~、どうなるかと思ったぁ~…」
「ほんと、まさかバラバラになるなんて思わなかった~」
「全員無事か?」
一鷹が見回す。しかし、約二名ほど居なかった。ルミナと、ルミナの後ろにいた少年である。
「おい!?伊々島とあの少年はどこいった!?」
「え!?あ!本当だ!?」
「羽織の少年なら、真っ直ぐ進んでいったと思う!でも、ルミナは……」
「ん~呼んだか~い?」
突然、唯の後ろからルミナが顔を出した。ビックリした唯は一鷹に抱きついた。一鷹は「うげっ!?」と言ってそのまま後ろに転んだ。
「あっはははは!ビックリした?ドッキリ成功~!みたいな?」
「いってて~……って、伊々島お前何処に居やがった!?」
「ん?いや、喫茶店の中に隠れてたんだよ。そしたら案外バレなくてさ~」
ルミナはケラケラと笑う。そんな彼女を一鷹と唯が睨む。
「って!!長谷川はいつまで抱きついてんだ!!」
「あっ!?ご、ごごごごごめん!!!!」
そこでやっと自分がなにをしているのか気が付いた唯は、顔を真っ赤にし、慌てて一鷹から離れた。
「いって~………って小癒希、お前何か怒ってないか?」
「怒ってなんかねぇし!!」
「いや…怒ってるじゃん。俺、お前に何かしたか?」
「だから怒ってなんかないってぇの!………フンッ!!」
そんな小癒希に、一鷹は首をかしげるばかりだった。
2人は様子を見ていた外野では、ヒソヒソと会話が行われていた。
(何ですかあれ!?凄く萌えます!!これはお持ち帰りしたいです!!)
(魅織さん、堪えてください!…でも、確かにあれは可愛い……)
(う~…あのプクッと膨れた頬をツンツンしたいです……やっぱりお持ち帰りしたいです!!)
(その気持ちは分かります!!ですが耐えてください!!まだその時ではありません!!)
謎の視線を感じ、小癒希は寒気を覚えたのだった。
「それよりも、あの少年の後を追うぞ!!もしかしたら危険な目に会ってるかもしれない!!」
警察官の男の言葉に、全員はっとなり、急いで少年を捜しに走り出した。何げにルミナはそれほど急ぐ訳ではなく、ゆっくりマイペースに走った。
*
*
*
「!?」
「な……」
「こんなことって……」
「え……」
「む……」
「嘘……」
「まさか……」
「なんてことだ……」
驚愕の光景が目の前にあった。こそにはボロボロで傷だらけで倒れている……
“不良の男”がいた。
床にはナイフが落ちており、少年は男の背中を踏みつけたまま見下ろしていた。一体何があったのだろうか。全員が絶句する。が、その沈黙は破られた。
「いや~、派手に殺ったねぇ~」
「………正当防衛」
「正当防衛の領域を越えてるよ!?一体何者!?」
「……」
「せめて名前くらい教えてくれ。別に俺達はお前を警察につき出すつもりなんて無い。」
少年は無言のままそっぽを向く。無視している、とは違うようで何か考えているようだった。その様子を見ていて、もどかしくなった小癒希が口を開いた。
「なぁ、名前くらいあるだろ?フルネームじゃなくてもいいから、せめてお前のことを何て呼べばいいかくらい言ってくれ。」
小癒希の言葉に反応して、少年は小癒希にの方を見た。一切目を合わせようとしなかった少年、小癒希は彼の目をしっかり見据えた。そして、その目をみた途端、小癒希はいい知れぬ違和感を覚えた。まるで、分かりようで分からない問題を解いているようなモヤモヤした感覚だった。
「……ソーニャ」
「ヘ?」
「僕のことはソーニャと呼んでくれればいい……」
それだけ言って少年はまた目を逸らした。その様子を見たルミナは、「へぇ」と声を上げた。
「まさか君が人の目を見て話をするなんて、初めてみたねぇ。今まで誰と話すにしても一切目を合わせようとしなかったのにねぇ?」
「………」
自らをソーニャと名乗った少年は、無言のまま小癒希の方へ歩み寄り、隣にくっつく様に立ち止まった。
「……?」
「………」
そして、ソーニャは小癒希の顔の前に手のひらをかざしだ。その瞬間、辺り一面が眩い光に包まれた。
「う!?くっ!?」
「な、何だ!?」
「眩しいっ!?」
それから一分ほどして、ようやく目が慣れて来た頃、小癒希は何かの変化を感じた。まるで、ほんの少し背がの伸びたような感覚だった。
「な、何が起きたんだ!?…………ん?」
一鷹が小癒希を見て不思議そうな顔をした。小癒希の足下から頭の上まで見回す。
「な、何かだよ?ジロジロ見て……」
「いや、お前何かほんの少し背が伸びてないか?」
「ん、やっぱりそう思うか?男の頃程じゃないけどほんのちょっと伸びた感覚がするんだよな……」
そういって、原因であろうソーニャの方を見た。既に手を下ろしており、相変わらずそっぽを向いている。しかし
「ん?ソーニャ…だったか?お前、ほんの少し背が縮んだか?」
「………代償」
「…は?」
「…あなたの体を変えたのは、僕の力の一部。空間を歪めた。その歪みをルミナが制御してあなたが男だったという『事実』を歪め、書き換えた。」
「………はぁ?」
小癒希はルミナを睨む。これに対し、ルミナは舌を出して「テヘッ☆」などとやっていた。ソーニャはそのまま話し続けた。
「……ルミナが作った新たな歪みは修正出来ない。僕が作ったものではないから。それを無理矢理少しだけいじった。その結果こうなった。」
「………あ、頭が追い付かない……歪みを作ったって……マジでお前一体何者何だよ……」
「………………」
しかし、ソーニャがそれ以上口を開くことは無くなった。仕方なく全員、外へ出るということを優先した。
その後、あっさりと事は進んだ。地元警察に保護され、簡単な事情聴取を受け、一鷹と警察官の男は傷の手当てを受けた。余談だが、警察官の男の名は、佐藤崇樹(さとう たかき)と言うらしい。
外はすっかり暗くなっており、既に7時を回っていた。当初の予定通りに近くのファミレスへとやってきたものの、騒動のせいか、客は少なかった。
「はぁ~~…疲れたぁ~…」
小癒希はテーブルに突っ伏して唸る。その向かい側では、一鷹が頬杖をつきながらメニュー表を眺めていた。
「なぁ一鷹ぁ…」
「ん?何だ?」
「その……傷の方は……大丈夫、か?」
そんな小癒希に一鷹は、「あぁ」と微笑んで見せた。それを見て「そっか」と小癒希は安心したように上半身を起こした。
「……で、何でお前までここに居るんだ?」
「いやぁ、だって家に帰ってもやること無いし~。あとお腹空いたし~。それに、ここにソーニャ君が居るし。」
小癒希の目線の先には、ルミナが居た。あれからずっと一緒だった為に、違和感なくここまでやって来たのだった。そして小癒希は自分の右隣を見る。そこにはソーニャがおり、何処から持って来たのか、ポップコーンをモグモグと食べていた。
「はぁ…あれからずっと俺の側から離れないんだよなぁ……」
「………暇ですのでくっついています」
ソーニャはそれだけ言うと再びポップコーンを食べ始めた。小癒希はもう一度、「はぁ…」とため息をついた。そんな小癒希の前にポップコーンの入っている袋が差し出された。
「……ん?」
「………あげる」
「おう…サンキューな」
ポップコーンをひとつまみすると、それを口に放り込んだ。味はバター醤油らしく、口の中に風味がいっぱいに広がった。
「あ、私にもちょうだ~い!」
「あたしも~!」
それを見ていた周りから、ポップコーンの横取りの声がソーニャに降りかかる。それに対してソーニャは羽織の袖に手を入れ、どこに隠し持っていたのか、ポップコーンの袋を4つほど取り出した。
「……皆で分ければ足りる」
そういってソーニャはまたポップコーンをモグモグと食べ始めた。
程なくして全員がメニューを決め、店員呼び出しボタンを押した。人が居ないせいか、押してから4秒ほどで店員の男性が出てきた。
「ご注文の方はお決まりでしょうか」
「はい。えっと、チーズハンバーグと…」
注文は一鷹に任せ、残りは各々水を飲んだり書き物をしていたり、寝たり話をしていたり、ソーニャに関しては何処から取り出したのかカバー付きの小説を読んでいた。ちなみにカバーには『MIYAWAKI』と書いてある。
そして、小癒希はというと。
「………………………………………………………………………」
「あぁ~!やっぱりお持ち帰りしたいです~!!!!お持ち帰りしても良いですか!?良いですよね!!?」
いつの間にか隣にいた魅織に頭を撫でられ、ギュッと抱き締められ、頬擦りをされ、まるで人形が如く動かない。いや、むしろ動けない状態だった。
「それとデザートにバニラアイスと、イチゴパフェと、クレープにチョコレートの……」
「ま、まだあるのですか…………」
「………はぁ……」
「あぁ~!ため息も可愛いですッ!!!」
*
*
*
少しして注文していた品物が全て運ばれてきた。小癒希達以外に客がいないせいか、かなり早かった。
「それでは!みんなを代表して、乾ぱ…」
「ちょっと待ったぁ!!」
突然声がかけられ、皆、声がした方を見る。するとそこには
「我々従業員も混ぜてくれないか!」
店の店長らしき人がいた。後ろにはそれぞれ料理を手にしている店員や、料理人がいた。警察の手が回っているのでこの店以外の店は閉店しており、なおかつ客どころか車が通る気配すらない。この状況で断る人がどこにいるだろうか。小癒希が素早く答えを言う。
「もちろん良いぜ!ご飯は大勢で食べる方がうまいからな!」
「お前は言葉遣いが良いのか悪いのかはっきりしないよな?」
その場が笑いに包まれ、小癒希は一鷹と足をおもいっきり踏んづけた。痛がっている一鷹を見た店長が、代わりに号令をかけた。
「それじゃあ、乾杯ッ!!!」
「「「「「「「「「「「「「乾杯ーーー!!!!」」」」」」」」」」」」
そしてみんな一斉に料理を食べ始めた。
皆、いろんな話で盛り上がっている。料理の話であったり、近くに新しくできた店の話であったり、さらには仕事中に起こった事件の話まで、とにかくみんな楽しく騒いでいた。
「それで、俺がその警察官のおじさんと一緒に不良達と戦うことになったんですよ。あ、警察官のおじさんは確か、佐藤崇樹でしたっけ」
「ほぉ!あの佐藤崇樹か!!」
「知ってるんですか?」
「ああ、最近色んなとこで暴れてる『龍の業火』のやつらを取っ捕まえてるってここらじゃ有名だ。今回の騒動も『龍の業火』が絡んでるんじゃないか?」
「『龍の業火』!?」
『龍の業火』とは、有名な暴力団の名前である。その勢力の程は定かではない。日本全国に幹部がおり、外国からの麻薬の密輸・密売に大きく関与していると言われている。
「そ、そうなんですか!?」
「あぁ、今ネットで調べたら、どうやら今回のはそうみたいだなぁ。ま、警察が何とかしてくれる筈だよ」
それより、と店員の男は声色を弾ませて一鷹に問う。
「そこの白い髪の可愛いお嬢ちゃんは一鷹君の彼女さんかい?」
一鷹は飲みかけのコーラを噴き出しそうになり、小癒希は料理を喉に詰まらせ、あわてて水で流し込む。唯はその身を乗り出す。
「「「違います!!!」」」
三人揃って綺麗にハモった。質問をした店員の男は大笑いをして、華麗にスルーした。小癒希は顔を真っ赤にし、唯は何やら焦ったような顔になっていた。
一鷹の苗字も忘れたーーーーーー
苗字を緊急募集するよ!
条件
・一鷹に合いそうなのを
・真面目に
・佐藤などの一般的なもの、平凡なものは却下
・長谷川、瀬野、紺堂、姫野、伊々島以外で
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