風人 2014-11-30 06:00:58 |
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高階病院長がいつ田口先生を次期病院長候補にしようとしたかは謎だけど、『肖像』から遡って考えたら『凱旋』の速水先生の収賄の件を黒崎教授はウィーンから帰った直後に委員会を開いた場で目の当たりにしてる。
この時に田口先生が委員会を開いているのを知っている。見方を変えたら“高階が選んだ小僧がどう解決するか”を見定める機会でもあったと思う。
『凱旋』においては本来の目の上のたんこぶである速水先生に本音を吐き出しながらも彼が東城医大そして桜宮に必要であるのを認めている。
だけど速水先生と同期の田口先生、島津先生には特に言及していない。
田口先生には委員会をスムーズに進めるよううながしながら最後は疲れたからと退場している。
そして『凱旋』の顛末は後々、高階病院長から速水先生が極北に行ったぞくらいは伝えているはずなのは想像つく。
『弾丸』では高階病院長が逮捕され不在ななか誰が大学病院を一時的に任せられるかとなったらNo.2の黒崎教授しかいない。
白鳥さんに言いくるめられ田口先生と白鳥さんに事件解決を任す以外にはない。
テレビドラマにエキストラ出演したとあったけどたぶん本音は心労があったんじゃないのかと想像できる。
『弾丸』のラストでいつも面倒事をワシに押しつけての言葉は同じ時代を東城医大で過ごした者だから高階病院長に言える信頼の裏返しでもあったと思える。
高階病院長にとっても渡海先生と天城先生は影響があったと思われる。
本来なら高階先生と渡海先生は真正面から戦わなければならないのを渡海先生の勇み足からふこうなすれ違いがあって戦わずして渡海先生は東城医大から去ってしまう。
渡海先生が海外に渡ったいきさつはいささか不明ながらノルガ共和国にいるらしい。『モルフェウスの領域』ヒロインの涼子の回想にて登場している。
そして天城先生については『ブレイズメス』にて他の医師同様に相容れない姿勢を見せて物語の流れから天城先生からみてライバルに位置する。
未読な『スリジエセンター』にて天城先生を何らかの形で失脚させ彼を失意のもとへ追いつめたと考えられる。
『ブレイズメス』で分化しすぎた教室、高階先生のもとで統制されていったことを佐伯病院長は満足しておらずあえて火種となる存在である天城先生を自ら招いている。
だけどそれがおそらく互いに悔恨を残す結果になったとも考えられる。
『ブレイズメス』の時点で天城先生は好き勝手にやっている。
それは助教授であった黒崎先生であった彼の目に余る行為。だけどそれは佐伯病院長の庇護下でもあるから何も言えない。
佐伯病院長は渡海先生が去り高階先生と黒崎助教授では満足がいくことはなかった。天城先生の招致であえて破壊を伴う創造をしてると思われる。
この辺の考え方は彦根先生に継承されるよう。
書き手の海堂尊先生にしてもかんたんに国家は変えられないのはおそらく理解はされているでしょう。
あくまで架空の『桜宮サーガ』の世界を通してこういう考え方もあります、提示(プレゼン)してるとも考えられる。
『イノセント・ゲリラの祝祭』の医療庁、『極北ラプソディ』のドクタージェット構想、『ナニワ・モンスター』の日本三分計画などひとつひとつのパズルの組み合わせは壮大。
『祝祭』でしたか。医療あっての国家という発言。国家が疲弊するなか国家を支えるのは国民。
だけど国民を支えるのは医療という土台。それが崩壊した現代に何が医療にできるかという提唱。
Ai(オートプシー・イメージング)による画像診断、『ナニワ・モンスター』での解剖率百パーセント(実数は八十ではあるが)、市民が安心して健康に生きられる社会。
だけど現実には壁がいくつもある。
医療と司法の対立は続く。『スカラムーシュ・ムーン』で如何なる決着をつけたか私は知らない、未読だから。
だけど、各々の作品を読むといろいろな人物たちの思惑思想感情気持ちなどが複雑に絡む。
現実の社会とほとんど差がないくらいに詰まっている。
彦根先生と斑鳩室長の間に勝ち負けがないというのも大人のものの考え方のひとつでしょう。
『肖像』を読んだ時にその文面があった時に意外に思えたけど後々、また読んだらああそういう関係でもありそんな見方が互いにあるんだと思う。
だけど『ナニワ・モンスター』の日本三分の計や『極北ラプソディ』の南雲監察病院潰しなど見たら日本地図の塗り替えにもみえる。
世良先生もほどよく彦根先生に使われている身。極北市の益村市長への体のいい伝言受け渡し人?
斑鳩芳正個人にはある特定の思想はないかもしれない。ただ医療から国家を守るために徹しているのかもしれない。
警察主導という思想はあるけど口に出すことは少ない、彼なりの司法の担い手とも解釈できる。
本当の本意はわからないけど。
『肖像』『輝天炎上』で双子の桜宮姉妹は炎に包まれた。仮にすみれが生きてたとしても表だって支援や支援者は募れないはず。
仮に生き延びていたら斑鳩・南雲親子のラインは残っているはず。
この辺も実情は謎ありき。
どの登場人物もすべてではないにせよ桜宮というひとつの都市もしくは結界に集約されてもいる。
『ケルベロスの肖像』をあらためて読むと、Ai会議に総勢17名いるでしょうかね。
大半はオブザーバ参加だけど。
だけど会議にほとほと疲れる田口先生、かたや『輝天炎上』で素晴らしい会議と評しながらどこか空虚だった若い天馬くんたち。
大人と学生ではものごとの受け取り方がちがうのを端的に表現している点かもしれない。
空虚と評した冷泉深雪は本質的にAi会議に参加した真犯人が醸し出す雰囲気を無意識に嗅ぎ取ったかもしれないのではとも思う。
彼女が桜宮一族に縁がない、真っ白な無垢さゆえかもしれないのは深読みでしょうか。
インフルエンザの注射は『ナニワ・モンスター』で触れられていたかな。
むかしは全国的に学校などで施行されていたけどいまはおこなわれていないという。
『桜宮サーガ』の物語を読むと現実とフィクションを通して現実にある思惑がみえ隠れする。
メタボやインフルエンザも国というよりは官僚にいいように操られる。
『ナニワ・モンスター』の徳衛医師みたいに国や官僚の思惑に疑問を持っても一市民は何も言えないのが現状。
だけどそこにメスを入れるのが彦根先生。
あの手この手の人脈を使い村雨府知事、検事鎌形、テレビメディアを使いインフルエンザウィルスキャメルのパニックから浪速府を救う。
『ナニワ・モンスター』においてはキャメルによる経済封鎖から国に無血クーデターを起こすであろう浪速府や他地方を救うことで物語は終わる。
だけど彦根先生は次に新たに処方される新薬をめぐっての利権争いが起こることを予見をしている。それが『スカラムーシュ・ムーン』にもなっているはず。
『ナニワ・モンスター』を基点に読むと『桜宮サーガ』が架空のシミュレーションに読めてしまう海堂尊先生の作風作品世界の見事さ。
『バチスタ』からの桜宮から日本地図へと広げてゆくスケールアップ。
『ブレイズメス』ではわずかながらほんの二章分ながらフランス・モンテカルロおよびモナコ公国が舞台になる。『イノセント・ゲリラの祝祭』でもわずかにドイツが描かれている。
あと『弾丸』で高階病院長がモデルガンにハマッていることからアメリカにいたことも断片的に書かれている。
これらのことから日本だけでなく世界に目を向けている節もある。
『肖像』のラストでAiセンターで小百合に破壊はされたが、Aiの理念や思想は世界に綿毛のように翔んでいく希望的思いからも伝わる。
カジノ法案は現実の世界はようやく審議入り。
『桜宮サーガ』の世界では天城雪彦先生のなかでは確立されてはいるけど彼は政治家ではなく一医者。後に村雨府知事にカジノ構想は受け継がれる設定になっている。
現実の橋下徹府知事および市長時代の構想が『桜宮サーガ』にスピンオフされそれが医療にも繋がる形としてあらわれている。
『ブレイズメス』では“日本人は重い腰をなかなか上げない”みたいな台詞でカジノ構想が頓挫するのは外国人からそう見られている。
海堂尊先生の表現は先鋭的、だけど的確にとらえている一面もある。
とはいえ主人公側が相手側に勝ってハッピーエンドということもない。
ひとつの物語がそこで終わってないからでしょう。次へ次へとゆっくり大胆に人物や世界観を広げてゆく。
だけど必ずしもその物語にとっては過去のことでも風化させないようにあちこちの物語に散りばめられて存在している。
過去の事象は現代の世界や人物たちに影響を与え現代の人物たちの事象はほんの少し先の未来の世界や人物にまた影響させている。
『輝天炎上』で別宮葉子はアグレッシヴに書かれているけど冷泉深雪は優等生ゆえにやや一部は融通が利かない。
ふたりの間に天馬くんはふたりの性格や内面に引っ張られるからある程度は柔軟にやってのける。
そのぶん異性に引っ張られて損をする。
甘いことを言ってもあるいは女難(?)をかわしてもまた別な形でやってくる。
異性にうかつなことは言えないやってはいけない、とつくづく感じながらも別宮葉子も冷泉深雪も天馬くんから離れない。
別宮葉子は天馬くんの“運”を変えた“幸運の女神”だからおそらく離れることはない。
なら冷泉深雪は?ということになる。
『輝天炎上』においては死因究明社会の問題をレポートの題材にし再び天馬くんはAi(画像診断)、解剖などを学ぶために東城医大内の各教室、浪速府、房総などをふたりしてすすむ。
冷泉深雪は立ち回りがそれなりにうまいけど融通が利かない、だけどそれは彼女の内のちいさな世界ということ。
物語が四部に移りAiセンター会議にオブザーバー参加の際には登場人物の誰とも深い因縁や過去がなかったためか彼女は自然な感想を述べている。
“素晴らしい会議だったけどどこか空虚”。
深読みしたらどこか存在感が空虚な人物があの場にいたことを示唆してたかあるいは犯人側の狙いを本質的にどこか感じていた女性の勘とも解釈できる。
『輝天炎上』ではまだその辺の能力?を自覚していないかもしれない。
西園寺すみれ(桜宮小百合)がどう彼女を見たかも作品内では語られていない。
高階病院長は強欲であったのは否定できないでしょう。
佐伯前病院長時代は碧翠院と蜜月であったにも関わらずその関係を一方的に絶とうとした。
もちろん心情的に桜宮巌雄には個人的な尊敬もあったと思うがそれが裏腹になってしまった。
『ケルベロスの肖像』と『輝天炎上』を読めばまさにおもてとうらの存在。
小百合の憎しみ、小百合の憎しみは理解しながらもそれをとどめようするすみれ。
ここにも双子姉妹の表裏が書かれている。
本編においていえば田口先生と天馬大吉の出会い、対比もある。
『肖像』と『輝天炎上』はまさにいろいろな人物の表裏。
過去から引っ張られた因縁というのも物語の本質からいえば恐ろしいこと。
ただ高階病院長はブラックペアンを患者の体内に残したことも天城雪彦先生についても忘れてはならない過去として彼に残っている。
だけどそれがはたして公の場では通じないのが大人の社会でもある。
『肖像』から『モルフェウスの領域』などほんの少し先の未来で東城医大がどう経営難を越えたかはくわしくは謎。
いろいろ謎が含まれている。
すみれは憎しみにとらわれているけど小百合は東城医大を憎む気持ちはあっても田口先生を憎む気持ちはさほどないみたい。
『輝天炎上』の二部三部それぞれすみれ、小百合の心情はわからなくはないけど彼女たちは医療の未来を見ていないのかもしれない。
小百合についていえば碧翠院で高原美智たち患者に働かせるトライアルをしてることで治療に励んでいたと言える。
患者に生きる希望や将来を与えようとしてた。
最後の患者となった高原美智、彼女にその思いは受け継がれ田口先生、天馬くんそれぞれに小百合の気持ちは託されたとみるべきでしょう。
だけど、小百合がひそかに生きていたのを知っていたのは兄であった城崎さんと天馬くんのふたりだけ。
田口先生は知ることもなく『肖像』は終わりを告げる。
天馬くんは小百合の生存を知っていて田口先生は知らないというニュアンス。
『田口白鳥シリーズ』は『肖像』で終わりを告げているけど東城医大の物語は終わっていない。
『領域』などにおいてなお続いている。
『肖像』から艱難辛苦あったであろう東城医大が如何なる再建の道のりだったか……。
『領域』でわずかながら語られているがそれとて全体の一端でしょうね。
その間にも高階病院長と飯沼さんとの裁判、白鳥さんが未来科学センター(コールドスリープセンター)を立ち上げるまであるいは加納警視正からの事件依頼などないとは限らない。無数ともいえる出来事はあったでしょう。
天馬くんや冷泉深雪たち医学生も一度は東城医大がなくなるかもしれないことで学生としては危機感をおぼえたかもしれない。彼らは情報網を意外なほど持っている(兵藤先生あたりが口を滑らしたりして(苦笑い))。
どちらにせよ再建まで茨の道は難くなかったと思われる。
東城医大が災難に見舞われるのは碧翠院と対極にあった存在だから?
あるいは桜宮という土地時代がひとつの“結界”だからでしょうか。
主要人物である田口先生からさほど桜宮に縁がないはずの八神課長まで何かしら切っても切れない縁が薄くてもある。
『ナニワ・モンスター』では何故か八神課長は桜宮の名を思い出してもそこにあった縁はあたまから抜けていた。田口先生と彦根先生にしてやられた『イノセント・ゲリラ』、『ナニワ・モンスター』時点では『領域』の未来科学センターの話題はなかったと思うけど何かしら桜宮関係で苦渋を飲まされた可能性はある。たんに本人が忘れたか記憶からないだけで。
北は北海道極北市や雪見市、そして近畿は浪速府、彦根先生がいる房総など。
ありとあらやる都道府県に桜宮あるいは東城医大の人物が散らばっている。
海堂尊先生は意味なく人物を移動させることはしない。そこに意味を見出だす。
世良先生が極北に現れたのを桜宮小百合は過去の記憶から彼が東城医大の人間であるのを知っていた。
それを繋いだのはかつての天城雪彦先生。『ブレイズメス』で天城先生に連れられた世良先生は桜宮姉妹と出会っている。
現在に直接出会わなくても互いに(薄くても)縁は存在している。
これらが後々に意味がある場合も『桜宮サーガ』にはある。
浜田小夜にしても罪を償った後に『夢見る黄金地球儀』に出ている。
『夢見る黄金地球儀』以前に4Sエージェンシーにいかなる形で現れたかはまた謎でもあるが。
その辺の断片はパズルのピースのよう。
そういうところを探すのままたたのしみ。
まだまだ物語内で語られていないところは多々ある。
バブル三部作以前をはたして海堂尊先生が書くかはわからないけど。
桜宮家からいつ城崎は出奔したかこれはある程度、『沈黙』あたりで彼の口を使って語られているけど具体的に詳細は不明。
田口先生が不定愁訴外来をつくるきっかけのひとつは『ブラックペアン』の渡海先生の言葉、『田口白鳥シリーズ』で不定愁訴外来の立ち上げのきっかけはたびたび語られているけどこれもまた細かな事柄は不明。
ドイツのクリフによるDMA(デジタルムービー・アナリシス)の開発の経緯。
渡海先生が日本を離れた具体的な理由。そしてノルガ共和国に身を置く真相←これは『領域』の涼子との触れあいで語られてたような雰囲気。
いくらでも謎は拾えるけど具体的に物語のなかで解決してる事例はあんがい少ないかもしれない。
読み落としして気づかぬ間に解決してたり作品内で時が過ぎてる場合もないとはいえない。
情報量が半端ないおもしろさ。
田口先生や白鳥さんをひとりひとり人物を取り上げても現実の人間とたいして変わらない奥深さ。
田口先生がすみれたちと親しかった頃は彼が警察関係者と接触はなかったんでしょう。
まだ若かったし不定愁訴外来もなかったからでしょう。
せいぜい速水先生や島津先生の旧友、兵藤先生ら同僚などから警察関係の話題を耳にすることはあったと思われる。
だけど不定愁訴外来を設けリスクマネジメント委員会、Aiセンター会議などの委員をつとめることで徐々に人間関係が広がりを見せてゆく。
『沈黙』においては牧村瑞人という少年が容疑者の疑いがあっても大学病院のひとりとして警察署長に意見する姿勢を見せる。ちゃんと地元警察にも東城医大は協力の関係を示しながらいざという時には真っ向から立ち向かう(ような)姿勢を見せる。
おそらくかつてのすみれたちと親しかった頃はそんな姿勢を見せる人物ではなかったと思う。
だけど高階病院長はどこかで田口先生の人物像や器を見極めたんでしょう。
『田口白鳥シリーズ』を全般的に見ても田口先生がヘタレなところや失敗につまずくこともある。
だけどどこかでチャンスを見いだしたり他人に操られながらも意見する姿勢を見せる。
医師あるいは医者としての境界線を守りながら個人の意思をあらわす言葉や表現力を持っている。
バチスタ事件で遺族に頭を下げる機会を生かしてもいる。
不定愁訴外来という立場や職業からいろいろな人間を知っている利点もある。
不器用ながらも空気を適度に読んで院内の立場や地盤を本人でさえ気づかぬ間に築いている。
高階病院長、藤原看護師、黒崎教授この三人という重鎮あってのところもある。
桜宮小百合は東城医大を憎んでも田口先生には憎しみは抱いてないだろう。
『輝天炎上』では4Sエージェンシーの兄の城崎に頼んである程度は東城医大の事情を知る。
だけど、Aiセンター長が誰かをとりあえず知らないままだったが盗聴機を通じて知ることになる。
『輝天炎上』の顛末を考えたら田口先生を危険な目に遭わせたくない一面をあったかもしれない。
ふつうに中年と化した田口先生が火の中に飛び込んで桜宮姉妹と再会したら事の真相を知らないままよりさらに悲惨な目に遭わなくもないし物語としては格好よくない。
『肖像』で事の真相を知らないままの方がしあわせだったといえる。
『輝天炎上』で天馬くんに真相を知ってもらうことで逆に田口先生に余韻を残す綺麗な終わり方と表現できる。
『輝天炎上』から『領域』など先の時をゆく物語はまだまだ語られてないパズルのピースやミッシング・リンクもあるからそこをどう海堂先生がどう描くのか。
病院経営者が建設関係に疎いのは『ブレイズメス』で天城先生以外は疎いことに触れられ『肖像』『輝天炎上』で再度、触れられている。
だけどAiセンターにもしマリッツアが関わってなかったら事なきを得ただろうに。
本来ならスリジエハートセンターが建って芽が出て桜の樹がなってたら高階病院長や東城医大は桜宮家とマリッツアから怨恨を買うこともなかったということ。
だけどそれだけ天城雪彦への思いがマリッツアは深く桜宮姉妹(すみれ、小百合)にも通じるものはなにかしらあったとするべきか。
桜宮市あるいは桜宮の土地そのものがひとの思いを具現化し創っては壊しの歴史を繰り返す土地なのかもしれない。
桜宮のAiセンターは後世に語り継がれることもないまま紅蓮の炎に消えた。
浪速府の死後画像センターの決着は如何なるものになるのか……。
『玉村警部補の災難』でも物語内のGoogleはいまだ過去のままの画像になっているというのも興味ある事例かもしれない。
斑鳩芳正と加納警視正がなぜふたりして桜宮にいるのかというのもまた謎。
玉村警部補みたいな平凡に近い刑事でさえ何かしらは感づいている。
警察が医療に主導権を握るための何かしらの案件があるということかもしくは何か異なる物事があるのか。
『肖像』では堂々と斑鳩は現れているけどこれは西園寺さやか(桜宮小百合)を隠すダミーであったと見るべき。
『肖像』『輝天炎上』には加納警視正は一切、登場していない。だけど、『ナニワ・モンスター』でのカマイタチ鎌形による検察のガサ入れがあったことは坂田局長や白鳥さんもある程度の警戒はしている。
鴨下局長の逮捕が厚労省全体を震わしているおそれがある。
斑鳩の人間関係が広い。加納警視正ともカマイタチ鎌形とも交流がある。そして霞ヶ関内にある非合法暴力的組織を束ねておりなおかつルーレットを用いて霞ヶ関にあるネタをマスコミに売ることでめくらましにもしている。
おそらく『桜宮サーガ』内の登場人物でもっとも権力を有している人物にちがいない。彼より上もいるとは示唆はされているけどおもてに出てきてはいない。
『ケルベロスの肖像』『輝天炎上』の城崎さんの活躍はまさに裏方。
『アリアドネの弾丸』でも裏方でしたが。
『肖像』と『輝天炎上』では城崎さんは桜宮すみれにこき使われながらも東城医大防衛に専念する。どこまでが本音かはわからない。
『弾丸』では白鳥さんを通じて再び東城医大あるいは田口先生と縁ができる。そして『肖像』『輝天炎上』で陰から活躍する。
彦根先生が『肖像』で活躍できたわけもうなずける。裏ですみれがあれこれ考えておもてで城崎さんが動くことで彼女は隠れた存在になる。
小百合の方がある意味、狡猾ではあるけど暗躍という意味では『輝天炎上』ではすみれの方が上回るかもしれない。
『ナイチンゲールの沈黙』で小児科病棟で子どもの患者に不定愁訴外来を受けさせてみようかという案が持ち上がった際に子どもでも打算や競争があるみたいなことは書かれていた。
だけど『桜宮サーガ』のシリーズが進むたびに大人社会の打算は凄まじいものがある。
『ブラックペアン』では渡海先生が佐伯病院長の失態を露にしようとし、『ブレイズメス』では天城雪彦先生のやり方に高階先生以下誰もが反発を抱く。
『極北シリーズ』で今中先生の苦労を室町院長は鼻で笑い世良先生は台無しにしていく。
『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』はやや母性に溢れた作品だから打算そのものは少ない。このふたつの作品は母性を問いかけるニュアンスもある。また生まれてくる子どもにたいして。
東城医大もだけど白鳥さんらがいる霞ヶ関は伏魔殿、打算のカタマリとも表現できる。
『イノセント・ゲリラ』『ナニワ・モンスター』では如実に顕れている。
善悪はともかくとしてあの斑鳩室長にしても何かしらの信念はあるように見受けられる。彼は医療が主導権を持つことはままならないんだと思う。
『肖像』では桜宮小百合に活躍の場を譲っただけ。大人として分をわきまえた。それは『肖像』のエピローグで語っている。
大人も子どもも本質はもしかしたら変わらないのかもしれない。表現や方法が異なるだけ。
そんななかで田口先生や今中先生みたいに出世を求めない人物いれば白鳥さんや彦根先生みたいにギリギリ綱渡りしながら高みを目指す人物もいる。そのなかで己の目的や目標に辿り着こうとする。
斑鳩室長は本意がわからない人物。高階病院長の方がわかりやすいくらい。
『ナニワ・モンスター』のカマイタチ鎌形さんみたいな人物が検事や検察にとっては国民の理想かもしれない。
二部の検事や検察の描写は医療が主題の『桜宮サーガ』からしたら異質にはじめは見える。だけど厚労省にガサ入れをして少しずつ事の真相が見えてくる。
『桜宮サーガ』によくあることのひとつだけど無関係な事象や事柄が後々、物語の種明かしになる。
検事や検察が鎌形みたいな人物なら汚職や賄賂などは必要悪程度にしか社会に残らないのかもしれない。社会を完全に清廉潔白にするのは現実的に不可能。
社会には必要悪は必要不可欠。
鎌形はそれをよく理解してる人物に思われる。だけどこの人物もまた彦根先生と因縁ある。
『ナニワ・モンスター』二部の霞ヶ関の描写は『イノセント・ゲリラ』とはまた様相がちがうのも興味深い。
活躍する鎌形たち、ルーレットする斑鳩たち、『イノセント・ゲリラ』がまだ社会のおもてに出ている一面とするなら『ナニワ・モンスター』二部は霞ヶ関の裏もしくは闇の一片でしかないかもしれない。
Aiセンターもしくは死後画像センター、正しくはどちらも同じ機能を施設ではあるが医療か警察主体で名称が変わることが示唆されている。
これらも霞ヶ関の国民が知らない一面かもしれない。フィクションではあるけど。
『輝天炎上』のラストにおいてすみれは死なないと天馬くんに言い残しているから死んでない可能性もある。
だけど『ブレイズメス』『螺鈿迷宮』を経ての桜宮姉妹、双子のDNAもしくは遺伝子の因縁。
『輝天炎上』のすみれ視点の物語はまさに憎しみに満ちている。マリアクリニックの曽根崎理恵先生、茉莉亜先生も桜宮一族と血脈や因縁があるのも驚き。
だけど三枝先生が罪に追いやられたのは小百合からの因縁ともいえる。
反面、すみれは『輝天炎上』で一見こちらは空虚に書かれてるようで鶴岡師長との縁、兄である城崎との接点からかろうじて実存を得ている。
小百合もすみれも戸籍という現実からは亡くなっていて存在はしてないことは同じ。
同じだけど似て非なる。
小百合は憎しみにとらわれながら斑鳩や南雲父娘という社会組織にいる者たちのバックボーンが存在する。
たいしてすみれはやや社会から離れた鶴岡師長や兄城崎という社会の枠組みから離れた協力者や親しい者。
たぶんに愛情や人間的な面からしたらすみれに分がある。
権力組織を背景に持つ小百合はそこがやや欠けているかもしれない。
だけど、双子ゆえに鏡合わせかもしれない。
マリツィアも真実を知りながら小百合には多く語らない。
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