風人 2014-11-30 06:00:58 |
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医療裁判がゼロという『ナニワ・モンスター』の舎人町(とねりまち)。
だけど医療がお金を生む仕事なのもまた実情と思う。
厚労省の天下り団体しかり(『極北クレイマー)、現実において医療裁判を生業としてる検事や弁護士などもいるでしょう。
医療はボランティアではないにせよ、善意と思ってしまい傲ってしまう市民もまたいる。
『桜宮サーガ』のシリーズを読むと医療の在り方や見方は変わる。
昭和と平成のふたつの時代でも医療は目まぐるしく変わる。
『チーム・バチスタの栄光』にあったとおもうけど教授になれたのに身に覚えのない前時代的からあった負債やマイナス面をいまいる教授たちが背負うという不遇な在り方。
各々の作品で書かれていることの共通点に医療の世界が閉鎖的なのも一因してるとおもう。
論文ありきで経験を実地で積めないのもあり、また教授になっても閉鎖的な環境や人手不足などがあり遅々として進まず権力があるように見えながら実体はさほどない。
『イノセント・ゲリラの祝祭』の西郷教授みたいにあえて競争率の割合が少ないところで教授になろうとする者もいるでしょう。
だけど、小児科医療の不備や大学そのもの移転など大学がない地域地方は過疎になるだけ。
仮に出世したり教授になれたとしても生徒がついていかないと根本的な意味は成さない。
医大の存在ひとつを取っても地域や地方にとっては死活問題。
『ナイチンゲールの沈黙』の小児科医療の在り方、『極北シリーズ』における医大を手放してしまった市、『ナニワ・モンスター』で大学を手放さない地方自治、それぞれ異なる問題に一見みえるけど実は未来を次世代への提議と未来への在り方。
それぞれを読むとすべての面では重ならないけど、重なっている点はある。
『極北クレイマー』『極北ラプソディ』で大学を手放してしまった極北市、対して『輝天炎上』『ナニワ・モンスター』で書かれている浪速府。
大学が地元にあるとないとでは人の流れがちがうという現状。
大学がないと人材が企業に流れないというのもある長いものの見方をしたら定住者確保にもなる。
極北市は誤った判断をして浪速府は頑として大学を手放さないという姿勢。こういう一見、些細なことで地方自治の首長の姿勢如何によるということ。
高階病院長は腹黒で部下に仕事を丸投げすることもあるけどちゃんと足元を見ながら未来への水平線を見てたと思う。
『ブラックペアン1988』で患者の体内にペアンを残したことを病院長になってからもずっと胸に残っていたのは悔恨の意志があったからでしょう。
どういう因縁か私がたぶん未読なところに天城雪彦なる人物との因縁。
病院長として大学病院のトップではあるけどそれを理解してくれるのはたぶんに藤原真琴看護師、黒崎教授くらいのかつての若き日を共に過ごした同僚でしょう。
だけど、佐伯前病院長は去り渡海先生も去って世良先生も東城医大から姿を消した。
彼らが去ったことで得るものより失ったものが大きかったかもしれない。
失ったものが大きいぶん次代を田口先生、島津先生そして速水先生たちに託している部分もあったでしょう。
『ブレイズメス1990』をようやく読めた。
謎の人物天城雪彦、彼に関わるマリッツア。
『輝天炎上』への因縁が紡がれてゆくのわかる。
天城雪彦が登場するだけで作品の雰囲気が変わる。まるで『ルパン三世』みたい。
けど『ブレイズメス1990』ではやや高階先生が失速された感じ。
そこは少し残念な感じ。
『ブレイズメス1990』はある意味、おすすめな一冊。
『桜宮サーガ』の主な因縁が紡がれてゆくはじまりと思える。
天城雪彦の人物が強烈。
この一語に尽きるかないまのところ。
世良先生が『極北ラプソディ』の回想でなぜ“ジュノ”と誰かに呼ばれているかやっとわかった。
佐伯病院長は渡海先生にも高階先生にもそして天城雪彦先生にも何かを託したい思いはあったんでしょう。
だけど、何かしら理想を誰かが何かが阻む。
『ブラックペアン1988』『ブレイズメス1990』このふたつの物語だけでもかなり鮮烈な印象。
世良先生がまだまだぺーぺーの若手なのがこれもまた新鮮。
『ブレイズメス1990』の冒頭から外国の学会への描写が『ルパン三世』みたい。
読んでていまままでの作品と雰囲気が異なる。
『ブレイズメス1999』の天城先生のハーレー、『極北ラプソディ』の世良先生のハーレーはおそらく同じものなんでしょう。
世良先生は『ブラックペアン1988』から渡海先生から教わったこと、『ブレイズメス1999』で天城先生から多くのことを教わり悩んでいる。スリジエセンターの成否が天城先生や世良先生の運命を左右したんでしょうね。
なぜ世良先生が医療債権請負人となったのか『ブレイズメス1999』の次で語られてると思う。
碧翠院桜宮病院に悪意を感じる者もいれば感じない者もいる。
過去、現在を通じて同じ存在を見てもそれぞれ違う感じ方をしている者たち。
だけど、天城雪彦が東城医大に在籍していた頃は佐伯清剛病院長と桜宮巌雄病院長は通じ合っていたようにも思える。それがたぶん事実。
だけど、時代が変わり東城医大は高階病院長の代になりあのバチスタ・スキャンダルで経営難を余儀なくされる。
それがきっかけで『螺鈿迷宮』につながる。
『ブレイズメス1990』の一章と二章の舞台はフランスそして世界に二番目に小さい国のモナコ公国。
このくだりを読んでるだけで気分は『ルパン三世』。
三章からは従来通りの海堂作品の様相ながら天城雪彦、この人物は高階先生たち東城医大の先生や講師らに一石を投じ波紋を呼ぶ。
読んでいくと生前の桜宮葵がよもや出てくるとは思わなかったけどバブル三部作は過去にあたるから出てきてもふしぎはないけど驚いた。
『ブレイズメス1990』と『極北ラプソディ』の世良先生はまるで別人。年月が人を変えた表現があてはまるかもしれないけど『ブレイズメス』の頃は血気さかんで手術したがりなのに『極北ラプソディ』では年配の患者さんの他愛ない世間話に飽きるまで付き合っている。
登場人物の変化や成長というのも『桜宮サーガ』のひとつの楽しみではある。
『極北ラプソディ』の後半で天城雪彦とさくら、スリジエハートセンターについて世良先生はわずかに語るのみ。
『ブレイズメス1990』で天城雪彦の人となりはわかったけどまだ謎は残るのが気がかり。
『ブレイズメス1990』での差益清剛病院長を見ると、大学病院内に天城雪彦という存在を入れることであえて火中の栗を手にしようとしている感じもある。
世良先生は黒崎助教授、垣谷先生、高階先生が未来の東城医大を担う医師たちとわかっている。だけど、世良先生は今作では天城雪彦のお目付け役でもあるという。
天城雪彦にとってギャンブルとお金はある種の美徳のようでもある。ギャンブルのない日本に魅力を感じないのも納得はする。
ギャンブルとカジノ構想、これは『ナニワ・モンスター』でもちらりと触れらている。
秘書時代の村雨弘殻府知事、この人物もまた少なからず天城雪彦に影響を受けている。
『桜宮サーガ』のなかで不気味な人物は斑鳩芳正でしょう。
読んでてもただ不気味な印象しかない。
斑鳩室長が守りたいのは司法主導の医療ということでしょうか。『弾丸』で彼がラストに白鳥さんを糾弾するのは司法の担い手でもあるからだろうと思う。
だけど、明確な背景は語られていない雰囲気。『ナニワ・モンスター』ではカマイタチ鎌形さんとも親交ある。それにより鎌形さんから村雨府知事に死後画像センターに計らいをしてほしいと伝える。
明確な背景は見えないけど彼なりに司法としての正義はあるのかもしれない。
若き日の世良先生と『田口白鳥シリーズ』の田口先生もまた対照的に書かれている。
世良先生は佐伯病院長に忠誠心あり気概にあふれる若者、対して田口先生は大学病院の隅っこで細々と不定愁訴外来をしながら幾多の難題や事件に関わるうちに内面に、大学病院にある一定の親しみや愛着があることに気がつく。やめてやろう、と思いながらも物語のなかではしっかりと知らずに守っていたことに気づく。
バブル三部作の世良先生、『田口白鳥シリーズ』の田口先生は互いに描かれ方は異なるものの気持ちは同じように重なる。
そのなかには失意や悔やみもあると思うけど。
『極北ラプソディ』で大人になった世良先生は『田口白鳥シリーズ』の東城医大をどう眺めているのか。高階病院長を憎い気持ちがあるのか。
渡海先生や速水先生にはある種の思いはあるでしょう。
てっきり『極北クレイマー』のラストに世良先生が登場した時は佐伯前病院長か渡海先生を探しているかと思ったら、実は安住の地を求めていたのはほっとしないでもなかった。
『ブレイズメス1990』に名前だけ出てくる富士見市の病院、『極北ラプソディ』の神威島これはおそらく田舎や離島だから病院でやるやれることはそう多くないんでしょう。
検診や検査を毎日することで患者さんの病気を見逃さないようにして目に見えて悪ければ都会や本土の病院で治療し連携する。
富士見市の病院も舞台に書いてほしいです。
『ブレイズメス1990』の高階先生は患者のことを第一に考えるために結果的には医学教室が分脈しまたルールに縛られてしまった。
そういう意味では帝華大の阿修羅はむしろ凡庸な医師になってしまった。
佐伯病院長はそれを危惧した可能性もある。
天城雪彦が作品内で語っている通り医療にはお金は必要。
天城雪彦は作品内でスピードが誰よりも速いかもしれない。
型にはまってしまった高階先生では敵わないのもある。
現実に置き換えたら多くの医師たちは思考停止した現状だから結果的には未来が先細る、これは『桜宮サーガ』内でも論文ありきなことでも語られている。
だけど『田口白鳥シリーズ』では病院長となった高階先生は挫折を胸に秘めながらも田口先生をリスクマネジメント委員会に指名しAiセンター長に任命し厚労省の坂田局長や白鳥さん姫宮さんに力を借りている。
形はちがえと医療のためにお金を求めていることはかわりない。
Aiセンターにかけた思いはかつてスリジエハートセンターという“さくらの樹”の苗を潰した後悔からでしょう。
医療の未来が先細るのは『田口白鳥シリーズ』のオレンジ病棟の経済破綻、『極北シリーズ』の極北市民病院、『ジーン・ワルツ』『マドンナ・ヴェルデ』のマリアクリニックと作品内で書かれている。
どれも経済的に経営がたち行かなくなる。
天城雪彦が『ブレイズメス1990』で出した問題提議は後々、各作品内で問われている。
『極北ラプソディ』で世良先生が徹底的に無駄をなくしてゆくのは天城先生の理念を受け継いだから。医療債権請負人として。
世良先生の変わりようがそしたらある程度は納得できる。天城先生みたいな手術は世良先生はできないだろうけど医療債権請負人として病院や地域への治療をできると考えたのではないだろうか。
おそらくスリジエハートセンターが高階先生たちによって潰され失意だった世良先生は何らかの経緯で神威島にたどり着いた。そしてそこで救われた。
そして医療債権請負人として全国を渡り歩いた。
だけどうまくいくわけもなく常に前へ前へ前に向きすぎるあまりなにか大切なものを失った。
だけど、花房さんはずっと待っていた。いつかは自分のもとに戻ってくるのではと彼女は信じてたのはないでしょうか。
東城医大の血脈の内には天城先生や世良先生の理念や信念を受け継ぐ速水先生やオレンジ病棟のスタッフがいる。
絶望しないでほしいと心の内で花房さんは世良先生に願ってたんじゃないでしょうか。
女心ならたぶんそうだと思いたい。
高階病院長へのお金の集め方は坂田局長や厚労省に協力を求めにいくこと。
天城雪彦みたいにフランス王族マリッツアの協力や企業の著名な人物が自分に手術を求めてくるわけではないから厚労省に協力を求めるのは当然なやり方に思える。
天城雪彦みたいな人物は現実にはなかなかいないと思える。
医療従事者が製薬会社と癒着みたいな関係なのは『ブラックペアン1998』や『凱旋』でも触れらている。
だけどそれは昭和時代やその名残りくらいでしょう、たぶん。いまの時代は厳しいから。
医療がお金を求めない結果が先細りになり患者に医療負担を強いているという暗示もあるかもしれない。
垣谷先生は人間としても医師としても真面目と思う。『バチスタ』では白鳥さんにやられましたけど、ある意味こういう人物がいないとルールや規則を病院内で逸脱してしまう。
杓子定規ではあるけど、ある一定の線を引くことで病院の規律が保たれる一面があると思う。
『ブレイズメス』でもそこはかとなくそんな役割の人物と思う。ちょっと空気になってしまい活躍の場面が少ないけど。
『ナニワ・モンスター』はインフルエンザウィルスによる経済封鎖による戦争シミュレーションですね。
町医者、検察官、府知事と異なる立場の人物たちがそれぞれの立場や観点から疑問を持ったり中央に戦いを挑んだり。
徳衛先生は一介の町医者だからたいした力はなくても保健所などには文句を言うことはできる。患者や町を救うため。
さりげなく息子の祥一くんが大学病院や会社に顔が利く人脈を築いているのも助けになる。
検察の鎌形雅史は中央に戦いを挑んで日本を綺麗にしてゆく。村雨府知事と人脈ができることで物語が動く。
村雨府知事もまたフィクサー、彦根先生に操られながら(?)自分の望む浪速や日本にしてゆく気概がある。
中盤に検察の視点が入ることで中央の闇が見えて『田口白鳥シリーズ』の接点が白鳥さんや八神課長から見える。
三部目で村雨府知事の視点をしながら医療に足りないものが露になりながら改革をしてる地もある。だけど彦根先生にとっては再生と破滅は同義語かもしれないと示唆される。
そして彦根先生と村雨府知事は因縁の地の桜宮で互いに邂逅しながら彦根先生にとって最大の強敵、斑鳩芳正とすれちがう。ここで『弾丸』や『肖像』へと繋がる。
村雨府知事は『ブレイズメス1990』での場面に繋がる。
最後は浪速府は彦根先生の戦略と村雨府知事の会見で浪速府は経済封鎖から救われる。
『ナニワ・モンスター』は町医者の視点から検察、そして府知事へと視点が変わりながら物語を浮き彫りにさせそこにあるのがインフルエンザウィルスによる戦争(シミュレーション)というのが伝わる面白さがある。
彦根先生はある意味『桜宮サーガ』の主要人物のひとりではあるけど、反面東城医大の麻雀四天王のなかではある意味幼さを残している人物でもある。
『イノセント・ゲリラの祝祭』『アリアドネの弾丸』『ケルベロスの肖像』の活躍においては時に脇役、時に主役となり厚労省もしくは霞ヶ関に反旗を翻すように医療庁を提唱する。
だけど、これは白鳥さんとの茶番であくまで“言いましたよ”くらいの寸止めないしブレーキがかかり『祝祭』は幕を閉じる。
でも、霞ヶ関の面々からは警戒されることになる。
『弾丸』においては桜宮Aiセンターの旗揚げに協力はしながら桧山シオン先生を白鳥さんと田口先生に紹介し東城医大の危機に力を貸す。
『肖像』においては斑鳩室長と桜宮小百合の手により桜宮Aiセンター破壊という苦渋を飲まされるが、これが『ナニワ・モンスター』の続編へと繋がるらしい。
彦根先生は敵も作るし味方も作る。虚実なことは表裏一体、再生と破壊はほぼ彼には同義語。
だけど、彦根先生自体がおそらくおもてに出る“英雄型”ではなく“黒幕型”と思われる。
だけど『祝祭』や『肖像』のようにおもてに出る時はちゃんと出る。
けっして誰かの背中に隠れるだけの行動行為はしないしある程度の筋は通す、真っ直ぐさはある人物。
彦根先生は先輩の田口先生であろうが府知事の村雨弘殻であろうが、何らかの形で操ることに長けている。
だけど先にも書いたけど“黒幕型”ではあるけどおもてに立たないタイプではない。
人物の趣向としてはまわりの人物からは誤解を招き漁夫の利を得て先をいくタイプではあるけど、ひとより先の道を進めばそれがまた危険なことを理解はしているようにも思われる。
ひとより先の道を歩けばそこに危険や困難があることをそれとなく自覚や示唆もされている。
だからかもしれないけど、警察庁の斑鳩室長はマークし浪速府検察庁のカマイタチ鎌形さんも過去に一度は面識はあるよう。この辺の彦根先生への霞ヶ関の警戒のしかたがややふつうではないと思う。
白鳥さんは『輝天炎上』では冗談めいて彦根先生が国家転覆をたくらむ反乱分子云々と言ってたと思うけど、警察庁と検察庁のキレる人物がふたりもマークしてることから彦根先生が只者ではないのが伝わる。
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