(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集

(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集

ブラック  2014-10-18 07:11:51 
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オリジナルや、版権の小説を書くトピ。

小説の練習でもあるので、指摘やアドバイスを暮れたら嬉しいです。
小説集なのでジャンルは色々あると思います。
リクエストなどくれたら泣いて喜びます!
(あ、但し、他の方が不快になるようなリクエストは止めて下さいね)

荒しや成りすましがいたら教えてくれるとありがたいです。

更新のスピードは遅くなるかもしれませんが、必ず更新します!!

では、まずはリクエスト募集です!
スレ番号5まで上げてもリクエストが無ければ、書いて行きますね!!

・版権
(K/カゲプロ/デュラララ!!/リボーン/ボカロ/妖狐×僕SS/とあるシリーズ(アニメに出てくるキャラのみ))
版権で書けるのはこのぐらいです。
後々他の作品も書けるようにしていこうと思います。

・オリジナル
(兄弟、姉妹、兄妹(姉弟)系、学園系、擬人化系)
上のを得意としています。
最近では刑事ものを書こうと思っています。

版権、オリジナルの合作でも良いですよ!

取り合えず、版権かオリジナルまたは合作の中から選んでジャンル(学園系など)を選び、CPなどを書いてください。

リクエスト書き方(参考にしてください)

・版権
(カゲプロ)
・メカクシ団の学園もの
・カノキド(NL)

こんな風に書いてくれたら見やすいかな、と思います。

ではリクエスト募集中!

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  • No.81 by ブラック  2015-05-27 23:36:33 

 Abandoned cat(ルパン三世2nd)


 何気なしに、というより、学校の帰り道をただ帰宅するという意味だけで歩いていれば、見慣れない物がそこにあった。
 大きな段ボール箱からはみ出た腕と脚。長さ的には大人だろう。まるで捨て猫のようだ。
 布団代わりか隠しているのか恐らく後者で、ダンボールに風呂に浸かるみたいになっている誰かの上に、赤いジャケットがあった。
 飛んでいかないようになのか、ジャケットを片手で押さえ、規則正しいとは言えない動きを繰り返していた。それと同時に唸り声みたいなのが聞こえる。
 うっ……。どこかを痛めているのだろうかと思いながら、黙って見続ける。
 意識はあるのだろう、時々ジャケットを押さえていた手に力が入る。

「くっ……」

 顔を見なくてもかなり辛そうだという事が分かるが、助ける必要などない。――そう思う人もいれば、助けて後々利用しようと思う人も居る。
 俺はどちらに染まるかと問われればどちらでもあると思う。助けたところでもう手遅れだという場合もある。変に助けて後々後悔されるなら、助けない方が良いだろう。
 
 結論から言うと、俺は誰かを助ける時は「人を選ぶ」という事だ。我ながら身勝手な話だが。

 そしてこの場合。目の前には多分大人が居る。そして呻き声と共に息遣いが荒いのが、体の動きで予測できる。
 助けようと助けまいと俺の勝手だ。目の前で息絶えられても後味が悪い。体もとっくに冷えているだろう。何しろこんな土砂降りの雨で、体温が変わらないというのはないだろう。
 下がっては上がるか、下がったままか、上がったままだと思う。
 もう無意味だとは思ったけれど、一応差していた傘を誰かの上に覆ってみた。水の跳ね返る音と共に、誰かに水が当たることはない。

「誰、だ……?」

 声を出す事も辛そうだと思いながらジャケットの下から声がした。きっと初めから気配はしていたのだろう。隠すつもりもなかったし、俺が気配を消そうとしたところで所詮は子供の遊びでしかない。

「ただの通りすがりの一般人ですよ」

 そう言えば、何の真似だと問われた。そりゃそうだろう。いきなり一般人が居て、傘を差されたら誰だってそう思う。俺だって同じだ。
 顔は分からないが、声の低さで何となく不機嫌だというのが分かった。地声じゃない、怒りを含んだ声だ。

「衣食住は提供できますけど、どうします?」

 ホームレスなのかと聞かれると答えはNOだ。ただのホームレスだったら俺も近付かずにさっさと帰宅している。
 何故目の前に居る誰かに、こうやって衣食住など提供しようと思うと、見覚えのあるのがあったからだ。
 まず、赤いジャケット、そして白のスラックス、革靴、これだけだと判定しにくいのだが、先程聞いた声は、明らかにそのものだった。
 だがどうしてこんな所に居るのだろうか、もっと人通りの少ない所に居るべきだろう、学生や仕事などで通る人は多いだろう。そんな場所に居たら、ほぼ確立的に、アウトだ。こういった職業の人間は特に。

「要らねぇよ」

 拒絶。拒絶された事に何も文句はない。職業上仕方の無い事であるからして、無理に押し付けるのもよくないだろう。他に理由があるのかどうかは分からないが。

「傘は差し上げます。返品不要です。要らなくなったら捨てて下さい。せめて、この雨が止むまでは使って欲しいですが」

 地面に傘の取っ手を置き、顔の部分に当たる所を覆う様に傘を傾けた。衣食住が要らないと言うなら、せめて体調ぐらい管理して欲しいと、画面越しにしかお会いした事がなかった誰かに、遠まわしに告げてみた。
 余計なお節介でも構わないから、一瞬だけ話す事が出来て良かったのだ。例え自分がずぶ濡れになったとしても。

 **

 よく晴れた晴天の事。帰り道と行き道が違うというのも学生の気まぐれだろう。昨日の事をふと思い出して、その方向に歩いて行った。居なくなっているのかも知れない。完全にそこに居るという証拠は一切ない。
 角を右に曲がったら、昨日見た段ボール箱が存在した。昨日よりグショグショのへニョへニョ状態で。
 雨に濡れたからこんなになったのだろうと考えるまでもない。それでも、ダンボールからはみ出た腕と脚。
 段々近付いて行って、昨日と同じ人物だと見ても分かる。昨日とは様が違うが。昨日より悪化していないかと思われる呼吸の速さに、ジャケットを押さえている指先の震え。
 そして、濡れたダンボールの上から見て左端と右端に赤い染みが出来ていた。恐らく血液だ。 昨日の雨で滲んで流れて来たのだろう。
 
「寒そうですね」

 声を掛けてみた。どういう反応をするのか、また不機嫌に返事をされるのか、そういう口実を自分の中で作った。

「おめぇか」

 どうやら覚えていてくれたようで、頬が緩んだ。そうえば昨日置いていったビニール傘が見当たらないと思っていると、ダンボールで隠れていたようで、畳まれて置いてあった。
 
「傘、そこにあんだろ。それ、返しておくぜ」
「返品不要って言ったはずですけど……」

 身を屈めて横向きに置いてあった傘を手に取った。それに気が付きながらも、気付いてない振りをした。
 
「大分、声嗄れてますけど、緑茶でも飲みます? 未開封ペットボトルの」

 水筒を持っているわけではない。たまたま自販機で買った緑茶。買った癖に開けてはない。何故買ったんだと思われる。思いたければ思え。

「んあ? あぁ……」

 一瞬何を言っているのか理解出来なかったのだろうかと思ったのだが、曖昧に肯定をされ、鞄からペットボトルを取り出して、蓋を一回外してまた蓋を軽く閉め、投げ出されてる手に、ぺッペットボトルを当てた。寒い時に冷たい物を触った時の様に、ピクリと手が震えたのを目に捉えた。
 
「蓋、今さっき開けたので、開けやすいと思いますよ」

 そう言うとペットボトルを掴み、腕を引っ込めて緑茶を飲んでいく音が聞こえてきた。
 よほど喉が渇いていたのか、返って来たペットボトルはほぼ空だった。と同時にそれが付いていた。

「風邪、引きますよ」

 昨日の雨は凄かった、それでアレだけ濡れていたら風邪も引くだろう。昨日見た時、その白いスラックスは雨に濡れていた。それもビショビショに。

「あ、そう……」

 他人事の様にしたので何も言えなかった。再び腕がダンボールの外に出てきて、腕を伸ばしたので何か欲しい物でもあるのかと尋ねると、何も言わず、羽織っていたブレザーを掴んだ。
 そろそろ、カーディガンだけでも寒くはないので、衣替えしようと思っていた。だけれど、そんな事はどうでも良い。何故このように俺のブレザーを掴んだのか、それを考えるべきだ。

「んっ!?」

 急に体が文字通り跳ねた。どうしたのだろうかと思いながらも、ジャケットを剥がす事はせずに、見つめていると、脚がガクガクと震えているのに気が付いた。
 何にそんな震え上がっているのか、全く分からないが何かがあるのだろう。モゾモゾと何かが動いているのを捉えた。
 小動物ぐらいの大きさがあり、上に行ったり下に行ったりと素早い動きを繰り返している。そして真ん中あたりで動きが止まったと思ったら、それとほぼ同時に体が反り返ったをの見た。
 
「くっ、ぁ……」

 声を抑えているのだろう。つま先だけで地面に足を着け、ブレザーを握り締めている。本当にどうしたのだろうかと思っていたら「あっ」と色っぽい声が聞こえた。
 その声と同時にビクンと体が跳ねて、腕伝いに何かが顔を現した。
 チュウ。小さい鳴き声と共に、灰色の鼠が俺を見上げる。俺を食う前に俺がお前を潰す、だからそんな目で見るな。いい加減に腕から飛び降りるなりしたら良いのにと思ったので、鼠を摘まみ上げて後ろに軽く、鼠が着地できるように放り投げた。
 どこからか迷い込んできたのか、良い隠れ家だと思ったのかは分からない。

「もうどこかに行きましたよ」

 だから手を離せ、何て訳じゃない。どうして俺の服を掴んだまま一向に離す気配もないのだろう。そんな事を思っていたら、咳き込みだした。
 
「もう一度、衣食住は提供できますけど、どうします?」

 昨日と同じ質問をした。昨日より大分弱っているだろう。既に風邪も引いて意識も定かではないかも知れない。そんな事分かりもしないのに、俺は自分にそう言い聞かせた。

「……お前は、見られたくねぇ時ってあんのか?」

 急に質問をされた。全く関係のない質問。俺はどう答えるか悩んだものの、「俺は特に気にしない方です。やれって言われたから行動する方なので」と答えた。
 嘘ではない。見られたくないと言うより、見たところでだから何だというのが俺の考えな為、あまり気にした事はない。彼女とキスしていたり、それ以上の事をしているのを見られたとしても、気にはしない。
 そんな質問をしてくると言うのは、目の前で弱っている誰かは、見られたくない姿になっているかと、疑問を持つ。どうなっているのかは分からない。
 
「その質問は、貴方が見られたくないって思ってるから、俺に聞いたのですか?」
「……っせーなぁ」

 柔らかく、けれど、どこか肯定したくない返事が返ってきた。何がどうなっているのかは想像するしかない。風邪で弱っているから見られたくないのか、他に理由があるのか。

「血の付いた傘とペットボトル」

 俺の呟きに、反応した。そのままダンボールから目を逸らさずに口を開く。

「ダンボールに血の染みが出来ていたから、怪我してるのかと思った。傘が綺麗に畳まれているけれど、所々血が付いているという事は、畳んでいる最中に付いたものだと考えられる。次に渡したペットボトルに付着してた血。アレは飲み口に付いた様で、下に血が垂れていた」

 ペットボトルに付着するという事は、唇を噛み締めて切れて血が出たのか、元から唇を怪我していたと考える方が良いだろう。それに、意味もなく伸ばされた腕。
 鼠がいたから、何て訳ではないだろう。俺のブレザーを掴んだままだというのはどこか引っかかる。離してもいい筈だ。何故離さない。

「俺のブレザーを掴んだままなのは、俺にこの場を離れて欲しくないからでは?」
 
 俺の問いでやっと気が付いたようで手をゆっくりと離していった。離れていく手を見つめながら、そのまま思っていた事を口にした。

「俺は貴方が好きです。男として憧れているという意味で。こうやって会話できる事自体が俺にとってあり得ない事です。だからかも知れないです。俺が、俺自身が、貴方を助けたいと思うのは。だから、俺に、住みかだけでも提供させてください」

 そう、頼んだ。俺が人を助けるのに「人を選ぶ」のは、俺にとって当たり前の事で、今もこうやって選んだ訳だ。
 この人を助けたい。だから、ペットボトルも未開封で、意味もなく緑茶を買って、今もこうして此処に居座っている。
 その服の配色を見た時、声を聞いた時、投げ出された腕と脚を見たときにもしやと思った。そしてその通りだった。その為、余計に助けたいと思ってしまっていた。だからかも知れない。気が付いてしまっていた。
 血が付着していたビニール傘、ただ単に畳んでいたら血が付いたのかも知れない。そんな傘をわざわざ返す人など居ないだろう。それが返って来たというのは、俺に、気が付いて欲しかったからなのかも知れない。血が付いたペットボトルも同じだろう。

「……すみません。忘れて――」
「一切合切、笑うなよ」

 何事もなかったかのようにしようとしたら、急に忠告されて何かあると思いながらも肯定を表した。笑う事なんてない。
 
「笑うわけ、ないでしょう」

 俺が言ったらジャケットを剥がそうと投げ出された右腕を、ジャケットに持って行ったものの自分で剥がす事に躊躇しているのか、数秒ほど動かずにいた。
 そして小さく「わりぃが、剥がしてくんねぇか?」と問われた。YES、NOすら答えずにその大分水分を含んだジャケットに手を伸ばす。
 
「じゃ、剥がしますよ」

 一応声を掛けてジャケットを剥がした。そうすると、目元を赤くした一人の男と目が合った。
 気まずそうな顔で俺を見上げていた。そして気が付いた。ジャケットを頭から被るようにしていたのは、その三角のと長い筒状の所為だろう。と同時に、血液の臭い。
 右腹と左の太腿から血が溢れていた。撃たれたと言う方が確率的には高い。太腿には、トレードマークの一つ、黄色いネクタイが巻かれていた。
 怪我自体は問題に含まれていなかった。俺の中で未だに信用できないのが、黒い耳と尻尾。ユラユラと揺れたり、ピコピコと動いたりしている。どうしてそうなったのか何て今聞いても返ってこないだろう。

「そりゃ、アジトに帰るのは躊躇われますね」

 怪我だけならアジトに戻っていただろう。だが、一切戻ろうとしないのは、その耳と尻尾の所為だろう。戻らないのではなく、戻りたくないのだ。そして、今の姿を例え相棒ですら、見られたくなかったのだろう。

「……ダンボールの中は寒いですよ。俺の使ってない部屋、隠れ家的には使えると思いますが、助けてあげましょうか?」

 助けたいと改めて思った。こんな姿で留置所に行かせるなら、こんな道端より俺の住んでる部屋に来て欲しい。ましてや顔色も悪い状態で警察に捕まりはしないだろうけれど、絶対に警官に笑われるのが目に見えていた。

「――あぁ、助けてくれ」

 藁にもすがる思いだったのだろうか。それとも風邪を引いているのからそう見えたのかもしれない。どちらなんて言えないが、俺はその姿と、震え上がった声を聞いて、左腕で男を抱きしめた。俺が、命を掛けてでも守ってやるという意味を込めて。

  • No.82 by ブラック  2015-05-29 20:24:23 

【土砂降りの雨 ルパン三世の場合】


「うわー、まだ降ってるよ」
「止まないね……」

 そんな話を聞きながら俺は次元の居る教室に向かった。この雨の中帰る気は更々なく、相棒の次元もそうだろうと思い、若干重たい足を動かしていた。
 どうせ傘がないんだ、帰ったら絶対に風邪を引くだろう。其れは目に見えていた。

「次元ちゃん居る?」

 ガラガラとドアを開けると、そこには次元と話をしている女子生徒の姿があり、何だか楽しそうに会話をしているようにも見えた。
 名前は確か――立花柚木(たちばなゆずき)。茶髪のセミロングで、お胸の方は不二子ちゃんよりも大分小さいが可愛らしい女の子。

「おう、ルパンじゃねぇか。なんだぁ? おめぇ傘でも忘れたか?」
「そーなの! お家まで遠いデショ? だから止むまで待ってるってわけ」

 ごくろうな事で。じゃ、俺は帰るぜ。そう言って次元は立ち上がった。
 いつも家ではぐうたらしてる癖に、帰る時はルンルンなんだから。そういうところが次元らしいったら、らしいけど。
 鞄を持って俺の方に歩いてくる次元は俺の横を通り過ぎる瞬間に、「傘は忘れんなよ」と一言余計な事を言って、帰宅してしまった。
 その場に女の子を残してまで。
 次元ちゃん!? 彼女さん置いて行ってますよ? おーい。

「次元ちゃんどしたのよ……」

 俺が途方に暮れていると柚木が「傘忘れたの? 珍しいね」と言って来るので「たまには濡れようと思ってな。水も滴るイイ男って言うだろ?」と言えば「風邪引くよ」と、間髪入れずに突っ込まれた。
 
「そうなんだなぁ。風邪引きたくねぇから、俺は残ってんだけどよ、柚木ちゃんは何で残ってんの? しかも次元と一緒に」

 次元と一緒に居た事に黒い何かが襲った。嫉妬だろうか、言葉にすれば『嫉妬』であっているはずだ。
 何故、次元と楽しそうに居たんだ。傘を持っていないなら入れて欲しいと強請っていたのだろう。それは良いとしよう。けれど、傘は持って来てある。登校の時に使わなかったのだろう、全く濡れてない傘が、机の横にかけられている。

「ルパンを待ってたから、私が」
「え? 何で?」
「一緒に帰りたかったから!」

 背後にお花が見えるのは気のせいだ。俺様が勝手につけたお花畑だ。

「へー。そう」

 たった一言返せば不満だったのか柚木は頬を膨らませて「何よー。嫌だっていうの? 折角相合傘しようと思ったのにぃー」と、言うので、女の子を大切にする俺様カッコイイ何て思った。

「ならしようじゃない。俺丁度傘ないんだよなー。柚木ちゃん入れて?」
「うん!」

 互いにノリが良いと時々歯止めが利かなくなる。そういう時が柚木と居る時は多い。

 **

 学校から出てしまうと、無性に恥ずかしさを覚える。俺達以外皆相合傘などしていないから、余計にそう感じてしまう。

「ルパン、ごめんね。無理に一緒に帰らせたみたいで……」

 身長的にも俺が傘を持つことになり、柚木が濡れないようにしていると、柚木が小さく呟いたので、少し驚いた。
 それでも顔に出す事はせずに、ニコニコといつもの「お調子者」の笑顔を浮かべながら「なぁーに、傘が無かったのは事実だしよ、俺にとったらラッキーってモンよ」何て、何の励ましにもならない言葉を吐いた。

「うん、でも……ごめんね。忘れ物したから取りに行く、ルパン先に帰ってて」

 何かを言う前に柚木は俺から離れて行った。傘から出て行ったのだ。
 当然体中雨に濡れる羽目になるのに、太ももまでの長さのスカートを穿いた女の子は、走って傘の外に出て行った。

「柚木ちゃーん?」

 声を叫ぶようにして出しても返事はなく、ただひたすらに真っ直ぐ走って行った。


 そんな姿を見せられたら、追いかけないわけにはいかないデショ。だから追いかけた。
 ビニール傘を持ちながら逃げていった女の子を追いかけて、すぐに見つけた。路地裏に隠れていた。

「そんなトコに忘れ物なんてするのか」

 声をかけたら自分でも驚くほどに棘のある言い方だと思う。パチパチパチ、雨が跳ね返る音と共に、柚木は驚いた顔で見上げながら「先に帰ってって、言ったのに……」と、最早涙なのか雨なのか分からないが、目元を濡らしながら口を開く。
 口が動くたびに、唇から放たれる白い息と荒い息が怯えてるようにも思えた。

 気が付けば腕が勝手に動いていて、気が付けば傘を手放して羽織っていたブレザーを脱いで柚木の頭に被せていて、気が付けば柚木を抱きしめていた。

「んのバカ! 風邪引くだろ! 忘れ物なんてしてねー癖に!」

 思わず怒鳴ってしまった。ありゃ、こりゃ、余計に怯えられたぜ! と思ったところでもう遅い。震えながら「ごめん」と謝る柚木を力いっぱい抱きしめた。女心なんて分かっちゃいない。
 実際不二子の様に強欲で我侭なら何をすれば良いか何てすぐに分かる。だが、不二子と柚木は違う。どんな高級な物をプレゼントしたとしても、喜ぶかもしれないが、それと同時に思うのは申し訳なさだろう。不二子はそんなのお構いなしだ。
 
「風邪引くだろ、取り合えず暖めるとこ行こうぜ」

 そう言ったものの、周りには住宅しかなく、あるとすれば学校と、公園だった。飲食店がちらほらとあるのだが、こんな姿で行く訳にもいかず、どうしたモンかと思っていると、大分先にあるホテルが見えた。
 
「ルパン」
「どしたの?」
「熱い」

 もしかしてと思ったので、額に手を当てて熱を測るとかなりの熱があった。さすがに俺も風邪を引いたらやばいから傘を取って水を切って、柚木を歩かせる羽目になったのは悪いが、歩いてホテルに向かった。

「ルパン……ここって」

 ラブホテル。カップルの男女が一夜を過ごすことで有名な。

「襲いやしねぇよ」

 一言自分に言い聞かせるように放ち、チェックインをして、部屋に辿り付いて、靴を脱いで服のまま風呂場に直行した。
 どうせ濡れてるのだし、柚木も裸を見られるよりよっぽどましだろう。

「ルパン、熱い!」
「ちょっと我慢しなさいって」
「そうじゃなくて、お湯が熱い! 温度下げて!」

 どうやらお湯の温度が熱かったらしい。温度確認をすると46度。そりゃ熱出てても熱いデショうに。お湯の温度を下げて、頭からシャワーをぶっ掛けて、体が温まったところでその場でバスロープに着替えさえた。
 
「制服乾燥機にかけるからちょっとの間コレ着てて頂戴」
「うん……」

 熱があるのに会話できるのが意外だ。そして俺の目の前で躊躇いもなく脱ぎ始めたモンだから驚いちゃったじゃないの。まぁ、襲ってないけど。
 それから柚木をベッドで寝かせて俺も体を風呂で温めて、バスロープに着替えて(其れしかなかったんだ)柚木の様子を見ていた。

「ルパン……」
「なぁに」
「何でもない」

 そう言ってそのまま目を瞑ったのを見た。

 **

 翌日、熱は下がっていたので柚木を家まで送り、また学校生活が始まった。
 俺と次元、五右ェ門と不二子に柚木。この5人でバカ騒ぎをして、銭形に追い掛け回される。
 それだけの日々に戻った。戻ってしまった。
 
 俺はきっと、このことには気付きたくないのだ。

  • No.83 by ブラック  2015-06-13 01:55:47 

 人形と怪盗紳士(ルパン三世2nd 鏡音リン)


 儚い――想い思い重い空が覆うそんな頃の想い。薄暗い灰色の空に、ゆっくりとけれど、意味を持って落ちてくる白い埃。その埃は汚くはなく、肌に触れた途端溶けてしまうぐらい儚く、冷たいもの。
 
 外の冷えとは別に、家の中は外から見るとぼんやりとオレンジに光っている。暖炉やランプの明かりだろう。
 そんなどこにでもある――あっては困るのだが、まぁ、どこにでもある家の窓に人影が映るのを、一人の小さい少年が見つけた。
 少年の歳はまだ5歳ぐらいで、子供用のコートに身を包みながら人影を見つめる。

『もう、リンがやって来て結構経つんじゃないのけ?』

 少年が中を覗こうとした所で、大人の声が部屋中に響く。少年は急いで身を隠すが、その大人には気付かれていたようで窓越しに微笑まれた。
 それだけで少年は自分が何かをされると誤解し、早足に去って行ってしまった。

「……ありゃま」

 肩を竦め笑う緑ジャケット――ルパン三世は、己の腹黒さを消しつつも『可愛らしい子供が去ってしまって残念』という設定で、笑みを浮かべた。その様子を、黒一色に統一されたソファに寝転んでいる死神と呼ばれた男――次元大介が鼻で笑う。

「おめぇ、初めから気付いてたろ」

 最初から、そこに少年が居た事にも、リンが居たことにも気付きながら、口に出した「結構経つ」。日にち的はそんなに経っていない。
 今が世界一般で「冬」と称するなら、リンとルパンが出会ったのは秋ぐらいだ。

「何の事よ。次元ちゃん。そこにガキが居た事も、今ドアに隠れてるリンの事もなーんも知らない俺に」

 ニヤニヤしながら窓とドアに指を差し、最後は己の顔に手を当て肩を揺らしながら不気味に吐息を吐き出す。その表情はやっぱり「帝国」の者だった。

「俺様はね、本当は金にも宝石にも興味がねぇ。ただそれを盗む過程が好きなだけ。こだわるとしたら女ぐれぇだなぁ」
「てめぇらしい」

 一言そう言って次元は立ち上がり、ドアノブを回した。ドアで隠れるようにしていたリンは、数歩前に歩き、次元を廊下に通すけれどルパンからは見えないように再びドアの影に隠れる。
 そんな動作をしているリンをボルサリーノの下から数秒見つめ、低い声で告げた。

「お前さんがそんなんじゃ、アイツもあんなだぜ。しっかり届けな」

 次元の声に何の意味があったのかはリンはすぐに理解した。

「――なぁ」

 声が掛かった。次元はもう居ない。自室に戻っている。ドアは半開き。怒りとも、脅しとも取れるその低い声は今まで聞いたことがないぐらい。
 固まっていると次第にコツン。コツン。と足音が聞こえてくる。――怖い。

 何年振りの感情だろうか、それを言うにはもうちょっと前のことなのだが。
 あの黒き、衣を羽織っている頃は決して思う事はなかった事だろう。衣の色が黒から赤に変わるだけで何が変わるのか、そんな事誰も答えてくれやしない。
 だから何なのか、色が変わっただけ。そう返答される。

「何ですか? 三世様」

 至って平常心。揺れない心。揺れない瞳。作り出した『忠実』。

「出て来い」

 『主人の命令』逆らえぬ『犬』。それは造り物だからだという訳ではない。リン自身が「ルパンのいう事を聞く」という命令文を脳に打ち込んだからである。
 だから、従順な犬になったリンは主人がリードを引いたのならば、停止しなければならない。
 それ以上に動いてはならない。

「かしこまりました」

 無機質な声で、姿を現す。瞳には色など映さず、表情など作らず、そこに存在する便利な犬で居る。
 それが幸せなのかと尋ねると彼女は「はい」と答えるだろう。

「何で隠れてた?」
「訳はありません。ただ、次元様との談笑を邪魔しないよう、外に居たまでです」
 
 主人を思ってした事。――機械はそう答える。

「ふぅん。それで?」
「……何でしょう?」
「とぼけんじゃねぇ。用があんならさっさと話せ。こっちは忙しいんだ。お前みたいなカスな不良品に構ってる暇はないって事、忘れんな」

 消えろ。冷たく言い放った言葉。決して女にはそんな冷たくて汚い言葉を放つ。しかも鋭い目つきで。

「はい」

 くるりと向きを変えて、リンはリビングと呼ばれてるその部屋を出た。

 ――お前さんがそんなんじゃ、アイツもあんなだぜ。

 ふと、次元の言葉を思い出した。そんな最後だった。

 **

「なにぃ~!?」

 オイ次元それ本当か!? 朝から怒鳴り声がリビングに響く。今日は合流した和服の男――石川五右ェ門が、次元と向かい側のソファに腰掛けながら怒鳴り声の本人、ルパンと次元の会話を聞いている。

「冗談言うかよ」

 それより俺のマルボロ返せ、と相変わらずヘビースモーカーな所を見せながらも、朝からバーボンを煽るのはどうかと思わせるほど、ボトルが並べられおり、灰皿にも煙草が積まれていた。

「それよりお前、昨日何言ったんだ?」
「…………」
「よほど酷な事を申したのでござるな」
「んな事言ってねぇ!」

 バンッ、勢いよく叩かれたテーブルは少し浮いて、細々としたネジなどは衝撃で床に落ちてしまう。そんな事も気にせず、一人掛けのソファに乱暴に腰掛けて、脚を組みながら舌を打つ。
 盛大に聞こえた舌打ちは止む事なく規則的に、しかし怒りを含まれて耳障りなほど鳴り響く。

「そんなに心配なら捜してくれば良かろう」

 いい加減しろと言うように五右ェ門が口を開く。――舌打ち。
 
「良いか! ルパンファミリーは俺様が「王様」だ! 王様が直々に出て行くわけねぇだろ。逃げたい奴は逃がしておけば良いんだ」

 冷たく言い放った瞬間に、窓の外を眺めながら、少し瞳を揺らした。らしくないなと次元は思うが口には出さず、酒を煽る。
 こういう時この相棒は面倒だ。気が付いてるくせに受け入れるのが怖いのか、あえて突き放している。そうすれば、寄って来ないと信じ込んで。

『――えー、今、入った情報によりますと、中学生くらいの少女が交差点でバイクに乗っていた男性と思われる容疑者に後頭部を――』
『現在地XX地点、少女の怪我は――……』

 プツン。点けたテレビの電源が切れた。チャンネルを持っているのはルパンだ。しかも凄い形相で。
 何が凄いのかと言うと、怒り、恐れ、不安、自己嫌悪、そういった負の感情が集合したような表情になっているからである。
 昨日みたいに寒くはなく、外も晴れている。何故こんな「冬」に外はこんなにも緑が多いのかと言う疑問だが。

「行かねぇのか? 相棒」
「うるせぇ」

 低い声なのに、ジャケットを羽織ってリビングの外に出る。色は「赤」。初めて会った時の色だ。

「アイツも困ったものだな……」
「『優しい紳士』を演じられなかったルパンの野郎。きっと後悔してんぜ」
「しかし、お主が盗聴とは珍しい」
「たまには、イイってモンだぜ」

 そんな会話がアジト内で繰り広げられていた。

 **

 命令、使命、存在、それら全てを与えてくれた新しき主人。陣の先頭に立ち、堂々と大胆に行うそれにいつしか心惹かれるようになった。
 そこに居たい。肩を抱かれたい。よくやったと言われ、バカ笑いしたい、そう思うようになった頃から自分自身でもコントロールできなくなった、命令文。

「お嬢ちゃん、一つ要らんか?」

 いい歳した主人が話しかける。どうやらクレープ屋のようで甘い匂いが漂う。
 種類は沢山あり、金銭的には問題ない。しかし、今の彼女にはそれすらも受け入れるほどの容量はない。だから。

「不良品には不必要です」

 きっぱり、冷酷に告げた。自分に言い聞かせるように自分は「犬」ではなく「不良品」だと。

「んなかてぇ事言わずにほら食え。金は要らねぇよ、可愛い顔が台無しだぜ」

 気前よく結構値段がするクレープを主人自ら差し出した。「だから……」要らない、そう答えようとすると、主人はニコニコと笑いながら動かない。

「ありがとうございます」

 食べ物に罪はない。だから受け取った。それだけ。
 礼をして近くにあった公園のベンチに腰掛ける。一口、口に含めば甘く少し酸っぱい味が口の中に広がる。
 まるで恋愛をしているときの甘酸っぱさに似ている。

「私は……不良品、です」

 仕事をミスしたわけではない。なら何故彼が彼女を「不良品」と呼んだのか、そんなのはその場の感情の高まりだけで、意味などない。

 公園のベンチからは入り口が良く見える。その入り口に見覚えの赤いジャケットが映る。
 もしかして、何て変な期待と共に、ジャケットは入り口から離れていく。

「……悲しくなんか、ありません」

 温かく降った雨――。そんなとき必ず拭ってくれる手があった。あの頃。それがなくなって時間が経って、違う世界を魅せられた。
 それも、もう終り。主人が消える事を望むならそれに応える。

「そんな表情でか?」

 俯いていると、上から声が響く。聞きたく仕方なかった百分の一の飴。残りが全て鞭だろうとその一掬いで、少し嬉しくなる。

「――私は不良品です。表情など存在しません」
「泣きそうじゃねぇか。良いか、もう二度とこんな真似するな。これはお前に一生与える『命令』だ。俺の前から、俺の許可もなく居なくなるんじゃねぇ」
「はい……三世様」

 その雫を拭ったのはマスターでもなければ、Pでもないけれど、その手が触れる度、抑えていた感情が溢れ出た。

「すみません……貴方が、三世様が、好きです……」

 例え1%の飴でも99%鞭でも、それでも好きな事には変わりない。自分を救ってくれて、色々な世界を見せてくれた、彼が、愛しい。
 
「謝るなっての」

 怪盗紳士は細く微笑みながら、亜麻色の髪を撫で続けた。

  • No.84 by ハニー  2015-06-13 02:01:52 

人形と怪盗紳士の挿絵です↓
猫柳さまにお願いしました!

http://id37.fm-p.jp/data/495/195178/pri/34.jpg


『ここでちょっとしたこと』
・季節感はなし。冬なのに緑なんだ!(特に意味はなし)
・ボーカロイドのリンちゃんが赤ジャケット着てるのは殺しと嫉妬と少女をごらんください!

  • No.85 by ブラック  2015-06-21 18:58:52 

【生理痛 ルパン三世の場合】


 誰もが心浮かれる夏――。そんな妄想は一瞬で終った。

「痛い。痛い、痛すぎる!」

 只今私、立花柚木は腹痛と腰痛に悩まされております。何故かって? そういう生き物なんだよ、女ってのは! まぁ、ごく簡単に言いますと月経でございまして。もっと分かりやすく言えば生理痛手悩まされております。

 腰の痛みが引けばお腹が……。的な状態でございます。

 ベッドに埋もれながらバイト休んでて良かったとか、明日の水泳どうしようとか、暑いとかを考えています。
 元々ルパンとデートだったのに、生理痛の所為でオジャンになってしまったのだ。私が悪い訳でも、ルパンが悪い訳でもない。悪いのは空気の読めない生理痛だ! ルパンに電話で謝罪した時凄く心配されたじゃないか!

『ルパン……。ごめんね、今日体動かなくてさ……。デートの約束してたのにさ……』

 だから、ごめんね。約束はちゃんと埋め合わせするから。それを分かっていたのか、残念がっていたのかはよく覚えていないけれど、『体は大事にしろよぉ』と言われて、小さく頷いた事は覚えている。

「痛い……」

 呟いてもどうにもならないので、暖まって寝ようとしたときだった。
 コンコン。窓からノックされた音で目を開ける。鳩でもやって来たのだろうかと、窓の方に向くと、ジーパンに茶色と黒と白のシマシマ模様のTシャツを着たルパンが居た。

「えっ……」

 声が出なかった。どうしているのか、それが疑問で仕方なかった。

「入りたいんだけど、鍵開けて頂戴」

 腰が痛いのに、何て言葉は出てこず、カチャンと鍵を開けるとルパンは部屋の中に入ってきて(勿論靴は脱いでいる)、玄関に靴を置いて、私の傍までやって来た。

「あーりゃりゃ。こりゃまた随分いたそーで」

 言葉と同時に腰を撫でられる。大きくて暖かいその手のおかげで、痛みが引いていくような気がした。
 生理痛は酷くて4日。だからどう頑張っても治らないのが面白い。薬飲んだら痛みは引くだろうけど、依存しそうなので飲まないようにしている。

「痛いの。気持ち悪い。眠いダルイ」

 脂汗を流しながらルパンにしがみ付いた。温かい。

「生理痛ならそう言えば良いのに」
「恥ずかしいの!」

 いくら付き合っているとはいえ、男性に「今日生理痛が酷くて動けない」何て恥ずかしくて言えない。
 開けたままの窓を意地で閉めるとルパンに抱きかかえられ、ベッドに移動して、気が付いたら添寝状態だった。何しに来たんだ、ルパンは。

「夏なのにエンジョイできねー何て嫌だ! って思ってるんデショ?」

 図星だ。ルパンと海に行く約束だったのに。ま、どうせそこら辺の女の子に声を掛けるのは想像ができていたので、焼きもちは妬くけれど一々気にしていたらキリがない。だから、そんな事は気にせずに海で遊ぶぜ! って思っていたら、生理ですよ! しかも2日目ですよ!? 空気読めよ! って何度も呟いた。

「はいはい。今日遊べなかった分、たーっぷり甘やかせてやるから寝ときなさい」
「へい」

 今日が学校じゃなくて本当に良かったです。そして明日の水泳は見学です。腹筋背筋、腕立てスクワット……地獄だ!

 目が覚めたらルパンが何かを作っていたのでした。たまには生理痛も悪くはない。

  • No.86 by ブラック  2015-06-22 01:36:51 

謝罪(続き)

**

 それから一日中蓮さんとチャットのやりとりをして気が付けば夜になっていた。そんな時、携帯から着信音が響いた。
 誰から何の用なのかと思ったら大上先輩からの電話だったので、仕事の内容かと思ったから躊躇いもせずに通話をONにした。

「先輩、どうしたんです?」

 何でもない感じに尋ねる。実際特に何かを隠している訳ではないから、そんな事思う必要もないのに、どうしても見られている感じがして、パソコンを隠すような体勢になっている。

『ん? あぁ、いや別に……。ちょっと声が聞きたくなったから電話してみた』
「さよと一緒に居るんじゃないですか?」
 
 尋ねてみると、どうやらもう二人とも解散したようだったので、どこに何をしに行っていたのかは明日にでも聞いてみようと思いながらも、携帯の向こうから聞こえてくる音に耳を済ませていると、聞いた事のある音が流れた。
 どこかのコンビニにでも居るのだろう。不意に『近くに居るんだけどさ、ちょっと飲むのに付き合ってくれねぇか?』と尋ねられたので身構えてしまい「い、今からですか!? どこで……」と挙動不審になりつつも返答した。
 肩に携帯を挟みながらキーボードを打って『今日は落ちます』と文字を打ち、パソコンの電源を切る。

『どこでも良いけど。佳代が行きたい所あるなら連れて行ってやる』
「特にないですね……。私の家で飲みます?」
『佳代がそれで良いなら、な』

 一言間を置いたのが気になったけれど、それには突っ込まず、じゃぁ……。と言って電話を切って部屋の鍵を開けておいた。
 どうせ部屋の前までくるとインターホンを鳴らすのに、って鍵を開けた後に思い知った。

 **

「……なぁ」

 不機嫌そうな後輩の声。休憩中だった気がするがそういったところまではよく覚えていない。

「どうした?」

 何か不満でもあったのだろうかと思ったので、何気なく聞いたつもりだったのだけれど、良介は普段のふざけた様子は見せず、そっぽを向きながら呟いた。――否、実際には呟いていなかった。

 ――お前、佳代の事好きなんか?
 
 口の動きは確かにその文字を示していた。俺はその時どう答えたのか、今は思い出す事が出来ない。
 そんな事をコンビニを出た途端、思い出した。そういえばそんな会話したな、と。今になって思い出す。
 好きなのか、そう聞かれて俺はどう答えたのか。その答えは良い答えだったのか、悪い答えだったのか、つい最近の事のはずなのに今の俺は佳代の家に行けるという嬉しさで満たされているので、そんな事を考える暇はなかったのだろう。

 **

 ――ピンポーン。インターホンが鳴った。時刻はそこまで遅くない。午後八時半ぐらい。
 ドアを開けると、そこには昼間見た大上先輩の姿がある。まるっきり変わっていない、大上先輩の姿。

「佳代も飲めるようなの探すのに時間かかったな」
「私はお茶やジュースで合わせますよ……」

 そこまでしなくても良いのに、何て思いながらも適当に買ってきたであろうおつまみを乗せる為に、食器棚から白いお皿を出し、袋を開けた。
 ピーナッツや柿の種、チーズを焼いたお菓子など、ビールにはよく合うようなおつまみが色々とあった。

「佳代が何飲めるかよく分からねぇから、これ買ってきた」

 そう言ってビニール袋から出されたのは「カルピスチューハイ」と書かれた、お酒。ものによれば甘く、物によれば甘くないやつ。

「ありがとうございます」

 笑顔で礼を言って、二人で飲み会を行っている時。不意に携帯が鳴った。誰かからのメールで送信相手を見てみると、「蓮さん」と書かれた文字。
 大上先輩も携帯で少し調べ物をすると言っていたので、大上先輩が終るまでに返信をしようとメールを開くと『今何してるん?』と書かれていた。だから、躊躇いもせず、思ったままの事を打ち込んでいく。『仕事の先輩と飲み会しています』――と。そしたら、いきなり私以外の携帯が鳴り出す。

「やべっ……」

 大上先輩の焦るような声と共に、送信完了の文字。
 ――まさか、そんな事って。

「あ、母さんからか。脅かすなよ」

 どうやら違ったようで、同じタイミングにメールが届いたのか、と思ってはすぐに大上先輩の言葉が引っかかる。
 何かを隠しているような、予測していなかったような、そんな言葉が脳内から離れずにいる。

  • No.87 by ブラック  2015-07-06 23:27:39 

ブログ始めました。

興味のある方は覗いてみてください。

ルパンブログ
http://rokuzyoudourito.blog.fc2.com/

  • No.88 by ブラック  2015-07-06 23:28:23 

といっても同じ内容のものばかりですが

  • No.89 by ブラック  2015-07-12 20:58:19 

 新しい家族


 うぎゃぁうぎゃぁ!

 ――うるさい。うるさい。耳を塞ぎたくて仕方ない。

「おーよしよし。お腹空いた? それともトイレか?」

 小さな塊を抱っこしながら兄ちゃんは何でもない顔で、話しかけている。そんな小さな赤ん坊に話しかけても、赤ん坊は「うぎゃぁ」としか泣かない。
 俺だったら色気のある声で啼けるのに、なんて人様に言えないようなことを想像する。何度目になるかも分からない抱き合いはすっかり抵抗すらなく、むしろ当たり前になってしまっていた。

「あぁ。湿ってる。いっぱい出したな」

 にっこりと笑って赤ん坊の頭を撫でている兄ちゃんを、同じ部屋で見つめるのは、はっきり言ってもう嫌だ。俺だってそんな風に扱われたことなんて記憶にあるうちはない。

「うっわ、漏らしてる」
「お前『も』同じことしてたからな」

 フイッと顔を背ける。だからなんだよ。

「ソイツにばっかり構いすぎ。俺の勉強見てくれるんじゃなかったの?」

 近づいて尋ねると兄ちゃんは困ったような顔をして、それでもやっぱり赤ん坊が優先なのか、「こいつは一人で何もできないだろ」と優しい笑みを浮かべて赤子を見つめた。
 どこからどう見ても、この赤ん坊は俺と兄ちゃんの新しい弟。

 家に居ないくせに、両親は子だけを作って仕事に行ってしまう。無責任にもほどがある。赤ん坊――柚は、兄ちゃんに着替えさせれ、嬉しそうに笑っている。

「俺の兄ちゃんなんだ!!」

 怒鳴っても仕方ないのに、怒鳴りたかった。柚はキャハハなんて本当に腹が立つ笑い方で俺の頬を小さな掌でペチペチと叩く。その所為で頭を鷲掴みしそうになって舌を打ち、布団にもぐりこんだ。

 **

 わざと眠ろうと布団に入ったものの、眠気などやってこなかったので顔を上げて辺りを見ると誰もそこには居なかった。今日兄ちゃんはバイトなのだろうかと、暫し考えていると腹部に衝撃を覚えた。かなり痛い。
 目を向ければ、柚が手を上下に振って俺の腹を叩いている。しかもとても楽しそうに。

「離せ」

 ぶっきらぼうに言ってやると、相当堪えたのか腕をピタリと止め、頬を引きつらせて文字通り泣いた。怒られた、そう思っているのだろう。実際怒ってはいないけれど、柚自体に優しくしてやりたいとも思わない。
 だからなのか、泣いていても「煩い」の一言で部屋を出た。

 リビングにも風呂場にも手洗いにも、兄ちゃんは居ないので、きっとバイトなんだろうと決めた。赤ん坊の世話なんてした事もないのに、急に押し付けられても全く世話などできやしない。
 家の中に居たら絶対に柚の顔を見ることになるので、家の外に出る。死んでしまえば良いのになんて、思ってはいけない事を普通に思った。俺の兄ちゃんを奪ったんだ、死んだところで何も変わらない。
 餓死でも事故死でも何でも良いから、兄ちゃんに近付いて欲しくない。だけど、自分の手を汚すのは嫌だと言う、我儘で汚い奴だと自分でも思う。

 ――ピタリ。急に、柚の泣き声が止んだ。外まで聞こえていたからかなり近所迷惑だろうけれど、今はどうだって良い。振り返って数秒、再び歩いていこうとすると、先ほどより大きな声で柚は泣いた。
 まだ昼間で、もうすぐ夕方に差しかかろうとしている時間帯。暑さ的には問題はない。先ほどより大きな声。一瞬で嫌な予感がした。階段から落ちたとか、ベッドから落ちたとか、そんな事が頭をよぎっては左右に振る。もう関係がない。

「どうしたのかしら?」
「大丈夫なの?」

 あまりの大声に野次馬がやってきた。巻き込まれると面倒だったので、他人の振りをしてその場を立ち去った。その後、兄ちゃんに見つけられて、何度も打たれた。自分が何をしたのか分かってるのか、とか、小さいから仕方ないだろ、とか、そんな事を聞かされて「俺は小さい頃そんな事してない!」と言った。小さい頃から好きだった。あの頃は当然『兄』として慕っていた。今は大分ズレてきているが、好きなのには変わりない。だから、小さい頃の自分は、そんなことはしてないと言った。

「してたぜ。同じ事。俺の頭叩いては何言ってるか全く分からない言葉で喋って、自分の思い通りにならなかったら泣いて。少し冷たくされただけでも泣いてたぜ、お前」

 返ってきた言葉は柚の行動そのままの言葉だった。叩く場所は違ってもしてる事には変わらない。それを聞かされて、何とも言えない気持ちになった。柚は階段から落ちたらしく、命に別状はないが、落ちた時のトラウマなどが発生するだろうと言われた。俺の所為だ。

「でも謝んない!」

 すっと、兄ちゃんの表情が消えていくのが分かる。こういう表情は大体本気で腹が立っている時。怒らせたときに兄ちゃんはこういう表情をする。

「あっそ。なら出て行け」

 それだけを零して、兄ちゃんは柚を連れて部屋から出て行った。冷たく放たれた言葉に何にも返答する事が出来ずただ、好きな相手に完璧に相手にされなくなって、頬に雨が流れた。正直言って悲しかった。蹲って涙を拭って声を押し殺して、泣いた。

「……ごめん」

 小さく零れた言葉。そこには自分しか居ない。俺だけしか居ないのに、柚に対して謝罪した。もっと他にもあっただろう。普通に相手にしてあげれば良かったのだろう。俺がまだ小さい柚に対して妬いた所為でこんなことになった。それは一生変わらない。許されるわけじゃない。だけど、好きな人にあんなに冷たくされると、俺がどれだけの言い訳を吐こうが、悪いのは俺だ。そこで気が付くのは、好きな人にそんな態度をされたくない、嫌われたくないという感情。

 ――ギィィ。ドアが少し開かれた。顔を覗かせたのは柚で四つん這いでやってくる。一生懸命にこっちまでくれば、俺の足を小さな手が掴んで「あー」と声を出した。まだ喋れない。だから泣く事でしか自分の感情や状態を伝えることしかできない。そんな小さな生き物。

「ごめんな」
「うー」

 分かっているのか分かっていないのか、俺には検討もつかないけれど、兄ちゃんの似の顔をそっと撫でてもう一度「ごめんな」と呟いた。
 ドアの向こうから時々動く音がしたけれど、その時は気にせずに柚を抱きしめた。子供だからか、体温は温かくて、そのまま柚の口にキスを落とす。――俺が悪かった。

  • No.90 by ブラック  2015-07-12 20:59:13 

 欲しい物


「なぁ、カラオケ行こうぜ」
「あ? 面倒。パス」

 16歳になって色々面倒なことも増えた。友人の付き合いに、学校行事……。数えだしたらキリがない。何でも面倒で通しているわけではないのだが、今日は少し朝から気分は良い方だ。何でかって、それは兄貴が会いに来ると言っていたから。
 俺を世話してくれたのが兄貴で、兄貴の上にも更に兄貴が居るのだが、ソイツとはあまり喋った記憶はない。俺は兄貴にしか興味がなかったのか、一番上の兄貴などどうでも良いようで、ずっと何から何まで兄貴に付いて行った。

 だから今回のカラオケはパス。それにそんなに金を持っていないものあるし、まぁ、コイツが考えている事は予想できるので、コイツと二人きりで密室に行くのは抵抗がある。どうせロクな事しないだろ、お前。

「良いだろー? 付き合えよ。俺とお前の仲だろ?」
「どんな仲だ。それに俺は用事あるから、他の奴誘え」

 じゃぁな。小さく挨拶を交わして、教室から出て行く。例え兄弟でも16年も離れていると兄弟じゃなく、親子に見える為、学校に迎えに行くのはどうかと兄貴が言っていたので、兄貴が会えると言った日は、大体公園で待ち合わせる事にしている。

 **

 遊具なのないが、待ち合わせスポットしては問題ないだろうこの公園で、自販機の前で兄貴を見つける。何かジュースでも買うのだろうか、上手く行けば奢って貰えるなんて、どうせ全額兄貴が奢るのに、そんな事を考えて近付いていく。

「何が良い?」

 脅かそうと思って、後ろに回ったのだけれど、とっくに気付かれて肩を震わす。そんなに怯える必要がどこにあるのだろうかと自分に言い聞かせて、「……オレ」と大事な部分を聞こえない状態で伝えたので、「は?」と返される。自分で言うのも恥ずかしくて未だに単語で言えず「いつもの!」と、後ろから怒鳴ってしまう。
 それでも何も言わず、俺が好きなイチゴオレを買う兄貴は、小さい頃から変わらず好き。決して口に出す事は許されないけれど、兄貴として好きではなく、菅野良太として恋愛対象で見てしまっている。

「見た目のイメージ感なしだな、いつも」
「うるせ! 甘いのが好きで悪かったな!」
「可愛いのも好きだろ、お前」

 うっ、言葉が詰まる。甘いもの、可愛いものつまり女子が好むもの全てが好きで仕方が無い。
 ある時は身長など関係がなく、男の格好のまま、女子が入る店に入ってやった。決して、下着屋ではない。ファンシーショップや、服屋そういったところ。女性向けの店にはやっぱり女性客しかないので、店員にも「彼女さんへのプレゼントですか?」なんて何度も聞かれた。その度にいいえ、なんて言えないのではい、そうです。と答えて、適当に架空の彼女でも作っておいた。

「っで、メールで見たけど、お前の趣味がバレた……と」
「趣味じゃねぇ! 絶対趣味じゃねぇ! 好きなだけだ!」

 趣味って何だよ、俺が女装癖があるみたいな言い方。いや、別に女装が嫌いってわけじゃ、寧ろ女子の服が着れるのは嬉しいけど、週末に毎回女装して街中歩く奴じゃないからな。

「好きなだけの癖に何で女装して街中歩いていたんだ? もうそれ完全に趣味だろ、にしても友人もよく気が付いたな」
「だから俺に女装趣味なんか持ってねぇ!!」

 大声で叫ぶと、兄貴に口を押さえられる。何をするんだと言いたかったけれど、辺りに人がそんなに居なく、距離も大分あったので聞こえてはいないだろう。口を押さえられていなければ、これ以上の事を言っていたのかもしれない。

「……やっぱ声だな。女みたいに頑張って低音高音使い分けれるわけじゃないから」

 よく歌で男声で歌う女性を見る。その時に思うのが、女は男装すればバレない確率は高いだろうとよく考える。男は女声を出せないので、女装したら必ずバレる。

「俺に女装が友人にバレた、何てメールしても俺は解決できないからな」
「んな事は分かってる!」

 バラさない代わりにと言われて、ソイツと遊ぶときは必ず、女装しなければならない。そう、それが今日カラオケに誘ってきたアイツ。本心は別に女の服が着れるから良いけれど、その後が嫌だ。何かしら良く分からないおもちゃを俺に使おうとしてくるから、毎回ぶっ飛ばす。
 俺は女装してそういう遊びがしたいわけではなく、ただ純粋に女の服や、甘いものが好きなだけ。

「分かった分かった。それで、俺は今日結構空いてるけど、何かしたいことあるのか?」

 適当に流されたけれど、俺の好き嫌いについて話していても仕方がないので、何かしたいことがないかと尋ねられる前に、丁度、好みの服装をした女性が目に付き、目で追いかけて可愛い、着てみたい、なんて思っていると俺の心を見透かしたように「着たいのか?」って尋ねてきた。

「いるか! あんなフリフリなモン付いてて、短くてふんわりして、淡いピンクのスカートの左側に赤いリボンが付いてて、胸元が見えそうなぐらい開いてて、ベージュのパーカーなんて、着たくも見たくもねぇ!」
「かなり具体的に見てたな」

 言った後だからもう遅い。分かってる、本当は着たくてしょうがない。だけど、部屋の中で着て満足してそれで良いはずだったのに、最近誰かに見てもらいたい衝動がある。
 自分は男なのに、街中で「可愛い」なんて言われてみたいと思い、つい、外を歩いてしまう。
 でもそういう時に限って、同じクラスの奴や、中学の連れを良く見かける。

「き、着たいって言ったら……買ってくれんのかよ? おっさん」
「その言い方だと買ってやらない」
「兄貴」
「昔みたいにお兄ちゃんって言ってくれないと、買ってやらない」

 いつの話だよ! 覚えてねぇよ!
 突っ込みたいけれど、こう言った時の兄貴は全然何も買ってくれないので、仕方なく、本当に仕方なく、自分の欲望のためだけに「お、お兄ちゃん」と呼ぶ。
 17年も歳が離れてるのにな。これで良いのかと思って兄貴の顔を見ると、まだ 満足していないのか「昔の柚は可愛かったなぁ」何て言うので、自分の中での可愛いを探し、ぎゅっと袖を掴み「お兄ちゃん、買って?」と言った。
 恥ずかしくて今すぐにでもしゃがみ込みたい。

「はいはい。それだけで良いのか?」
「まだ、何か言わなきゃなんないのかよ」
「欲しい物はそれだけか?」

 言い直されて、暫し考え口から零れた言葉は――キス。
 覚えていないけれど、兄貴が俺にキスをしたらしい。その時のキスを上回るぐらいの、面倒で結構変な趣味の弟に、呆れながら優しくキスして欲しい。――今は、それだけで良い、はず。

  • No.91 by ブラック  2015-07-28 01:34:41 

脱獄のチャンスは一度(ルパン三世赤ジャケ/続編ある的な雰囲気/サブ女キャラ視点)

 たった一度しかない、それでも彼は笑っていた――。

 脱 獄 の チ ャ ン ス は 一 度 


 都内某所の留置所で、一人の男が放り込まれた。名前をルパン三世というらしい。
 警官になったばかりの私は、ルパン三世という男がどんな人物なのかまだ分からない。
 極悪な奴かもしれないし、気さくな少年かも知れない。そんな期待と不安の中、私はルパン三世が放り込まれている鉄格子に向かう。
 カツンカツン、ブーツの底が冷たいコンクリートにぶつかり、この留置所全体に響かせながら私という人物が歩いている事を証明し、尚且つ主張している。

「ルパン三世――だな」

 鉄格子の上に部屋の番号が書かれていた。No.333。どれだけ3という数字が好きなのだろうか。
 手に持っていたトレーをトレーしか入らせないように作った扉の前に置き、扉を開け、トレーを中に入れる。今日の朝食のようだ。
 初めてルパン三世という男を見たが、予想以上に気さくな青年だと思った。コイツが本当に物を盗むのかと。
 遠目で見ればそれはとてもイイ男だと言える、が。私が近付いた事、扉を開けたこと、それに対して横向きの顔が一気に私の方に向く。その瞬間、ガツン。頭を叩かれたような気がした。
 瞳には一切合切、光など宿っていなくただ昔の様に笑顔を貼り付け、ただただその場に居るようにしか見えなかった。

「君新しい子? 可愛い系って言うより、美人系? でも不二子には敵わないなぁ。残念」

 クックックッ。そんな笑みで私を見た。本当に光は宿っていない。口から出てきた不二子という人が多分女だという事は予測できるが、どうしても、私はこの男が普段からこんな感じだとは思えない。

「……その不二子とやらを知らないが、侮辱罪として罪を重くしてやってもいいのだが?」
「元々ドロボーなんで、侮辱罪でも脅迫罪でも変わんないでしょ」

 腕を頭の後ろで組みながら言ったこの男が、とても哀れに思えてきた。仲間は居るのか、誰かが助けに来ているのだろうか、警官でありながら、犯罪者にあってはならない感情を覚えてしまっていた。
 もし誰も助けに来なければ、この男は死刑なのだ。 
 刑事や警官、銭形警部にしてみれば万々歳な話だけれど、この男にとってはとても辛い事だろう。人生がそこで終る、それが一番怖いのはとても承知しているつもりだ。
 我々警官も人の命を守る為の仕事であって、奪うものではない。だが、犯罪者には罪を償ってもらう必要があるため時として死刑という形になる。

「お前、仲間は居るのか?」

 朝食は一向に手をつけず、けれど自分の持ち場なんて今はないので鉄格子を握り締めながら問いを投げる。
 男は一瞬、何をバカな事を言っているという顔をした。だから「愚問だった」と、話題を終らせようとした。そしたら。

「居たぜ、結構前だったような気もするな。早撃ちのガンマンに、剣の達人に、スパイなのか盗賊なのか分からねぇ、曲者がな」
「いっ、今は、どうしているんだ? 仲間だったら、誰かが助けに来ようとするだろう……」

 男は自身の口元に人差し指を置いて、それ以上は喋らなかった。ここから先は企業秘密、と言われている気分になり何も言い返せなくなる。

 **

 ルパン三世が捕まって一週間と少しが経過した。相変わらず、瞳には光が保っていない。けれど、どこか楽しそうに鳥や虫や雲に話しかけている。
 同僚がルパン三世は狂ったんだ。なんて言い出すから、部署の中は「ルパン三世がついに狂った」という噂が響いた。死刑が近いから狂ったんだろう、また例の誤魔化しだろう。そんな会話が繰り広げられる。
 正直、私は最近警官になったばかりのヒヨコで、例の誤魔化しが何なのか知らないけれど、聞く気にもなれなかった。だって、一度脱獄されているというのが分かったのだから。
 

 そして、その日がやってきた。ルパン三世公開処刑の日。何も公開もしなくて良いのに。
 
「ついに! ルパン三世死刑執行の日がやって参りましたぁ!!」

 マイク片手に煩い銭形警部の姿。公開処刑と言っても、テレビ中継で街のど真ん中で行われるという訳でもなかった。
 私はきっと今この瞬間もテレビに映っているのだろうと思いながらも、警備を怠らず、ルパン三世を見つめる。
 両手に繋がれた手錠、首には鎖が繋がれている。
 派手な赤色のジャケット。そういえば、鉄格子の中では白黒の囚人服だったのだけれど、死ぬならいつもの服で逝かせて欲しいとの事だったので、囚人服から普段の服装になっているらしい。
 これが彼の普段のスタイル。初めて目にするので、これが「ルパン三世」という人物が常に羽織っているんだと、感動が生まれた。

「じゃぁルパン、この台の上に乗れ! 動くなよ」

 ルパン三世の足は、小さな台の上に乗った。そしてその台のすぐ目の前に大きな穴がある。
 嬉しそうにする警部を遠目で見つめながら、私は小さく俯く。結局誰も来なかった。身内も、仲間だった人も、この男に会いに来るのは三食運んで来る者か、銭形警部か、男の狂い具合を見に来る者だけだった。
 それがどうしようもなく、悲しく感じた。

「とっつあん、少しだけ良いか?」

 ルパン三世が口を開いた。銭形警部は警戒した様子はなく、けれど普段の様子でもない声で放った。

「お前の最後の言葉になるだろうからな、少しだけだ」
「あんがと」

 暗く、低く放たれたルパン三世の声。俯いていた男の頭がスッと上がり、私と目が合う。そして「今まで俺に飯持ってきてくれて、サンキューな」そう言ってルパン三世は台の上から、穴に向かって飛び降りた。
 その一瞬のはずの動きがスローモーションの様に動き、ルパン三世から目が離せないで居た私は、普段とは全く別の、信じられないものを目の当たりにする。

「ごえもーん!」

 でやぁぁぁ。声と共に刻まれていく鎖。袴姿の侍がルパンの首に繋がっていた鎖を刻む。それと同時に銃声がして、ドアが吹っ飛んだような音がし、一気に停電になる。
 真っ暗で何も見なかったのだが、一瞬にして電気は点くが、銭形警部の手に握られていた鎖は途中から切れており、そこに赤いジャケットを着た男の姿はなかったのだ。

 確かに彼は、最後の最後、自ら飛び降りる瞬間に私に向かい、口パクで『俺の仲間はサイコーよ! 女警官ちゃん』と伝えニィと楽しそうな笑みを浮かべてた。
 けれど、今まで脱獄するチャンスなら幾らでもあったはずなのに、どうして今日を選んだのか私には分からないことだろう。

「ルパーン、まてぇぇ!」

 銭形警部の声を聞きながら、ルパン三世を追うような振りをして三歩ぐらい進み、さっきまでそこにいただろう場所に戻る。 
 穴の中に隠れたのか、それともどこかに逃げてしまったのだろうか。そんな事を思っていると足元に一枚の紙を見つける。
 誰かが落としたのだろうかと拾い上げ、何か書かれているのかと真っ白な紙を裏返すと、そこにはフランス語でこう書かれていた。

『華麗なる女警官ちゃん

 本日はルパン三世脱獄ショーにお付き合い頂き、誠にありがとうございます。
 さぁて、俺がどうしてあんな表情をしていたか、おめぇさんはすぐに分かるだろうな。
 脱獄がいつでも可能だって? こうやってテレビや警官が見てるときに脱獄って面白いだろ。

 じゃ、とっつあんが俺を捕まえた時にまた会おうぜ! 

 派手好きの退屈嫌いなルパン三世』

  • No.92 by ブラック  2015-08-05 03:53:05 

雨 の 午 後 は ヤ バ イ ゼ(ルパン赤ジャケ)



 雨 の 午 後 は ヤ バ イ ゼ


 かなりの雷雨だった。朝はまだマシだったのだが、午後になってから小雨ぐらいから雷雨に変化した。
 その所為でアジト内はどんより……なんて事はないんだけれど、内の犬と猫が言い合いをしててどうにもならないのよ。

「ちょっと次元! テレビ点かないじゃない!」
「俺に言ったってしょうがねぇだろうが!」
「じゃぁ、直しなさいよ!」

 この通り、雷雨の所為で電波が受信できなくてテレビが点かないのよ。
 別に俺様はテレビが点かなくたって困りはしないけど、不二子がどうしても見たい番組があったらしく、テレビが点かないことに次元に八つ当たりって事だ。

「おめーさんが見たいんだろ? 自分で直せ」
「まぁ、女に埃だらけになれっていうの?」

 俺様テレビ直せるんだけどなぁって思いながらも、新聞をテーブルに足を投げ出して読んでいる振りをする。
 どうせ雨なんだから、外に言ってもする事はないから。

「次元! なんとかしなさいよ!」
「やなっこった!」

 低レベルな争いだと思いつつも、いい加減互いに銃とか出てくる可能性もあるので、新聞を畳み、テーブルに乱暴に置いた。
 そしたら、シンッ、と静寂が襲う。

「お前ら……。こんな雨で電波受信できるワケないでしょーが!」

 窓の外を指差して怒鳴ってやると、犬と猫は大人しくなる。

「テレビは壊れてないの、電波が受信できないの。見たい番組なら再放送するデショ。次元も分かったか?」
「…………」
「分かったか?」

 はい。二人の返事が聞こえて満足して笑顔に切り替える。
 本当、雨の午後はヤバイねぇ。

  • No.93 by ブラック  2015-08-05 03:54:16 

ル パ ン は 燃 え て い る か(ルパン赤ジャケ)



 ル パ ン は 燃 え て い る か


 朝の事だった。ルパンを起こしに部屋へ向かい、ノックもせずにドアを開けるとルパンが燃えていた!
 何かの間違いだと思ったんだが、間違いなくルパンが燃えている。だが、苦しそうではない。
 とても嬉しそうに燃えていた。いや違う萌えていたのだ。

「ふーじこちゃん」

 何だ、夢でも見ているのか。そうか。紛らわしいな。
 
 本当に紛らわしくて仕方ないので、そのままにしておこうとドアを閉めた。

 **

 ル パ ン は 燃 え て い る か 2

 
 これは夜の事だった。リビング行くとルパンが燃えている! また不二子に萌えているのかと思いきや、本当に燃えていた。
 テーブルに向かって何かを真剣にやっているので、後ろから覗いてみると『ルパンと不二子の交換日記』と書かれた文字を見つける。
 くだらねぇな!

「仕事しろよ。ルパン」

 取り合えず一言だけ言っておいた。

 **
 
 ル パ ン は 燃 え て い る か 3

 
「次元、先に行け。コイツは俺の敵だ」

 肩と脚を負傷した俺の前に立ちルパンは愛銃を持ちながら放った。ミスをしたわけではない。
 盗めてとんずらしようとした所に、ルパンの元相棒とやらが現れた。

「何言ってやがんだ!」
「良いから行け!」

 有無を言わせぬ声で、ルパンは放って俺から離れる。元相棒はルパンを追いかけるようにして数歩走り出して、俺に銃口を向け、俺の後ろにあるガソリンタンクを撃った。
 ガソリンが流れ出したところでジッポを投げ飛ばし、完全にもう逃げなれないと思ったら、目の前に赤いジャケットが現れた。
 一瞬の事で分からなかったが、ルパンは俺を蹴飛ばし、自分が火の海の中。
 ルパンは燃えていた。


「ルパァァァン!」
「何よ煩いなぁ……」

 あれ? 生きてる。完全に火の海に居たルパンが生きている。いや、待てよ。俺確か肩と脚を怪我したはずなのに痛くない。
 よく見ても傷跡がない。そして今いる所はアジトのリビングのソファーの上……。

 夢落ちで良かった。と心底思った日だった。

  • No.94 by ブラック  2015-09-06 10:05:13 

タ イ ム マ シ ン に 気 を つ け ろ(八世×三世)


 タ イ ム マ シ ン に 気 を つ け ろ

 なぁ、次元。時空旅行しないか? それが始まりだった。時空旅行もこの時代には簡単な事だ。だが、どこに向かうのだろうか。

「どこに行くんだ?」
「そうだなぁ――」

 **

「今日もとっつあん元気だねぇ」

 気楽に呟いており、フィアットを運転しながら後方を確認した途端――大声で叫ぶ大人二人の声が車内に響く。

「はぁ!?」
「どうも」

 どこの誰なのだろうか、よく似ているのだけれどあり得ないだろうと首を振り、そしてゆっくりと時間をかけて口を開く。

「お前さんらは、敵か? 味方か?」

 一人の髭面の男が質問に答える。味方だ、と。そういう返答に隣に居た天パの男が「一応、なんだけどね」と楽しそうに口を開く。
 フィアットの後部座席から身を乗り出し、愛車を運転していない男――次元大介の前にライターを差し出す。
 丁度懐から出す仕草を見たのだろう。その仕草に目を見開いた三世だが、何も言わずライターから放たれる火に煙草を近づける。

「暫くヨロシクなぁ~。おじいちゃん」

 **

 アジトにて。
 
「んなワケないデショーが!」

 三世の怒鳴り声が響いた。あり得ない、と。目の前に居る天パの男が『ルパン三世の子孫だと言う』。そんな訳がないとルパン三世は否定する。

「あったとしても良いだろうが、ルパっ……三世よ」

 煙草を咥えながらソファにだらしなく腰掛けている次元大介が言いにくそうにしながら、けれどもあっても可笑しくないという。
 それもそうなのだ。かつて5年程前にタイムマシンに乗った奴を見ているので、目の前に居るのが自分たちの子孫でも納得はいく。
 こっちから未来が無理でも、未来から此処までなら簡単だろう。

「次元ちゃん、お前さんはどっちの味方すんだよ!」

 次元の頭を思いっきり叩き、三世は怒りの表情を浮かべながらも呆れたようにため息をつく。
 そういえば今「次元大介」は二人居るのだ。

「聞いてる? 次元ちゃん」
「おやすみー」

 巻き込まれたくないのか、煙草を消し、ソファに身を委ねた。要は逃げたのだ。

 **

「そんなとこ行くのかルパン」
「いいデショ。タイムマシンには気をつけろってことだよ」

  • No.95 by ブラック  2015-09-18 20:38:13 

千の翼(Reハマトラop/ルパン三世/替え歌)

理想ばっかでちっぽけだ
そんなじゃ視えやしない
お前も同じように
世界を嫌ってるから

自分の言葉で
傷ついてるフリだけで
ホントはもっとずっと

だいぶ向こうに飛べるだろう
気づくんだ
この時が 全てだと

俺様この声を
空へと漂わせて
誰とも違う頭脳
夢を視てるから
無数のこのライト
君にも見えるだろう
照らし出す空間に
いつもたどり着いてゆくんだ

絶望ばっか吐いても
何も進まないだろう
その足を動かして
自分の道がやってくる
空裂いて踊る鳥
その景色の先を
暗闇の中だけで
見てるだけじゃつまらないさぁ

気付いてねぇのかい?
この今を
変えていけるって
  

  • No.96 by ブラック  2015-09-21 16:16:44 

俺様この歌を
一人で歌うだけで
誰も思いつかない
夢を見せるから
無数のこの歓声
君にも聞こえただろう
照らし出す星空が
見せ付けるのは此処だけじゃない

もっと変われるんだろう
描いたのはそんなしょぼい
欲しがってたものは
もう気がついてるだろう

俺様この銃を
暗闇に打ち込んで
全く違うスタンス
夢を見てるから
無数のこの盗品
君も盗ませて
輝くムーンライトを
背にして前に進むぜ

  • No.97 by ブラック  2015-09-21 16:41:43 


海賊Fの肖像(ルパン三世2nd ひとしずくP×やま△ 海賊Fの肖像)

 何とも静かな夜、そんな時間帯にゆっくりと窓が開き一人の少年が外に飛び出す。

 おう、来たか。子供にしては渋い声が響き、少年――三世はニタァと笑みを浮かべる。まるでいつものことだと言うように。

「今日は何しようか? 次元」
「別に何でも構わねぇ」

 次元。そう呼ばれた子供は腰にマグナムを差して基本的についていくように口にする。
 
「そうだなぁ、久しぶりにアレしようぜ!」

 三世が提案した事はいつもと同じ「悪ふざけ」であり、盗みである。
 だからなんだということなのだが、金を盗むという事は久しぶりだ。


「このガキ!」
「餓鬼に餓鬼って言う方が餓鬼じゃない? おじさん」

 ――パァン。

 威嚇射撃。そんな射撃ですら怖くなったのだろう。金を盗まれた主人は後ずさり逃げていく。
 そんな様を何度も見て、そろそろ飽きてきた頃だろう。けれど盗みというのは楽しいものだ。

 **

「ルパン、何してるの?」
 
 子供にして容姿が完璧な女、峰不二子。いつものように三世の体にベタベタと触り、アレが欲しいコレが欲しいと強請り、強欲さを見せ付ける。
 次元がとてつもなく嫌っている女でもある。

「あら、やだ。十三代目のお出ましよ」

 斬鉄剣を持った日本人の子供、石川五右衛門の子孫十三代目石川五右ェ門。三世の敵である。
 一度三世を倒そうとしたのだが負けたのだ。それからは修行を続け、三世を倒すと諦めない。

「ルパン、お主ともう一度勝負致す」
「何度しても同じことよ?」

 互いに戦闘準備になれば生暖かい風邪がすり抜けていく。僅か数秒で銃声と共に、五右ェ門が蹲る。
 勝敗は決まってしまった。

「……不覚」
「俺様を倒すまで、俺様の仲間になれ」

 それが三世の命令だった。


 そうやっいても楽しい日々はすぐに去っていく。つまらない。飽きた。
 子供では出来ない事が多すぎる。どんなに高級な酒を飲んでも不味いとしか感じない。
 ただの悪ふざけも悪ふざけだと物足りない。もっと、大量に豪勢に、派手に、目立って、警戒なところから盗みたい。
 それが、三世のいつまで経っても叶う事ない夢なのだ。

 **

「じゃ、頼むぜ。五右ェ門ちゃん」

 赤いジャージを羽織り、暗闇の中迷うことなく素早く走り回り、斬鉄剣で斬られた倉庫の中に入れば、何でも吸い込む掃除機を掴みスイッチを入れる。
 そこにある、金や宝石、全部を自分の物にし、明かりがつき銭形に姿を確認され丁度全て回収し、撤収する。
 手首に手錠がはめられ、なんなく外し、SSKに乗り込み、金と宝石を抱えながら去る。

【予告上

 来週の今日、女神のダイヤを盗みに参上! ルパン三世】

 新たな予告上を残し、そして跡形もなく消えていく。
 時が経てば、飲むもの吸うもの着るもの、全てが変わるが唯一変わらない自分の欲望。

 ひたすら【終らない夢を紡ぐ】今日も明日も。

  • No.98 by ブラック  2015-11-02 20:43:37 

なぜ、ブログのURLを張ったのだろう。ホトトギス…

あげ

  • No.99 by ブラック  2016-01-24 00:13:52 

 やさしく(からくり卍ばーすと)

 横たわる殺戮人形からくり――。殺すと決めたはずなのに、殺せなかったこの手でそっと頬を撫でる。
 早く目を覚ましてほしい。そして、その優しい声で名前を呼んでほしい。そんな事を思っていると彼女は目を覚ます。

 焦点が合わない、ぼんやりとどこかを見つめやっと目が合った。今俺はどんな顔をしているのだろうか。憎しみに染まっているのか? 優しさに染まっているのか? いや、それとも、それ以外の色に染まっているのか?

 君が好きだと言った表情が作れているのだろうか、俺には分からない。けれど、もう君を殺したいなどとは思わない。
 ゆっくりと君の髪を梳いて大きくなったね、なんて心の中で声をかける。勿論返事などされない。

「……蓮?」

 君の唇が動く。君の目の前にいるのは君を殺そうとしていた男。不安だろうか、それとも憎らしいだろうか。俺は優しく君に声をかけれるだろうか。怯えることはない、と。
 かなりの時が経ってしまっても持っていてくれたおもちゃの指輪。きっと「椿」の心の奥底には「凛」がいたんだ。
 そう思うと、あの火の海の中、指輪を追いかけた行動に納得できる。ただの妄想に過ぎないけれど、だけれど、持っていてくれたことが何より嬉しかった。

「凛……。おはよう、それとも椿って呼んだほうが良い?」
「凛」

 どうやら自分の名前は覚えているみたいだ。だいぶ疲れているだろう。これ以上あまり無理は出来そうにもないので、日を改めて訪れる事にしようと立ち上がる。すると服の袖を引っ張られ、「どこ、行くの……?」か弱い声で尋ねられる。

「仕事だよ。凛が目を覚ました事を知らせないといけないし」
「駄目……。やめて……」
「大丈夫、もう凛を殺そうなんて思ってない」

 何に不安を抱いているのだろうか服を握るその手は全く離れない。まだ自分が殺されると思うのだろうか。頭を撫でて否定するのに溢れる涙。

「美紅様……」

 あぁ、なるほど。

「大丈夫。美紅様を殺したりしないし、今美紅様も疲れて寝ているところ。だから凛もゆっくりお休み」
「ほんと……?」
「ほんと」

 分かった。そう言って凛は手を離して安心したように瞳を閉じた。お休み。
 俺はまだまだ優しくなんてなれないだろうけれど、君が怯えないように優しくするよ。だから、安心してお休み。
 君が起きて大好きな美紅様と笑っていることを祈っているよ。だから、その為には色々な仕事をこなして来るから、俺がここに帰って来る事を祈って待ってて。

 ――行って来ます。

  • No.100 by ブラック  2016-01-27 02:26:01 

ぬくぬく(鏡音リン ブラックスター 雨)


 鏡音リンルーム。レンがいないため、リンのみとなる。当然のようにリンモジュールは一箇所に集合する。


「寒……(さむい)」


 ブラックスターが呟く。季節に合わせてコタツを置いているのだが、外はそれ以上に寒いようでブラックスターはコタツから動こうとしない。


「んな事言ってねぇでしたく手伝えよー」


 台所から聞こえる雨の声。今、リンルームにはブラックスターと雨しかいない。他のリンモジュールは気を利かせて出て行ったのだ。どこに? どこかにだ。


「嫌……。寒……。動、無(いや。さむい。うごきたくない)」

「冬だから仕方ないだろ。ほら、わがまま言ってねぇで箸並べるとか、食器並べるとかしろ」

「嫌(いや)」


 全くいう事を聞かないブラックスターに対し、ため息を零した雨は結局いつものことだが自分で行う。

 そろそろ夕飯の時間でもあるため、時間的には問題ないし、他のモジュールも雨がどういう気持ちかも分かっているようなので、二人分しか夕飯は用意されていない。

 雨がどんな気持ちでいようとブラックスターは全く気づきもしない。何せブルームーンに気がある内は、雨の気持ちすら分からないだろう。


「せめてもうちょいスペース空けろよ」

「肯(うん)」


 よっこいしょ、なんて言いながらブラックスターは右による。コタツなのだから正面に回れば良い話なのだが、そうしてしまうとなぜだか普段より寒く感じるというブラックスターの我侭により、狭いが二人隣に並んで食事をするという習慣になっていた。

 

「いただきます」

「頂(いただきます)」


 二人の声が揃い、黙々と箸を進めていると不意に雨の頬に何かが触れる。触れたものの存在に気がつけば真っ赤な顔をして箸を落とす。


「おっ、お、お前……何して……」

「寒(さむそうだったから)」

「だからって……。俺の事、何にも知らねぇのに……」

「知(しってる)。雨、私事、好(あめがわたしのことすきなのぐらい)」


 いきなりのことについていけなくなった雨は、真っ赤な顔をしたまま小さく「一生、青見てろ」と呟いた。


 ――寒格好、暖思(さむそうなかっこうしてたから、あたためようとおもって)。

  • No.101 by ブラック  2016-02-03 04:16:56 

インフルエンザ(鏡音リン KAITO)

 リンがインフルエンザになった。ミクやレン、ルカやメイコは今日旅行に行っている。勿論俺とリンも一緒に行くはずだった。けれど、インフルエンザのリンを置いて行く訳にはいかず、俺は自ら残ってリンの看病をする。


「ごっ、ごめん、ね……」


 小さい声で謝るリン。その頬を撫でて笑顔を作り、安堵させる。


「リンちゃんが謝ることないよ」


 俺の中では寧ろラッキーだと思っている。リンと二人きりになりたいと思っていたのだから余計にだ。

 そんなことを口には出来ず、なんでもない「優しいお兄ちゃん」を演じつつ、腹の底から湧き上がる欲望を押さえつける。


「ゆっくり寝て、早く元気になろう」

「うん」


 双子でも、レンが髪を下ろしても、リンを見つけることが出来る。

 それだけリンが好きなんだ。まだ言葉にはしていないけれど、いつか、できたら良いと思っている。


 少しして眠ったようで、気づかれないようにそっと唇を落とした。

  • No.102 by ブラック  2016-03-12 02:33:57 

歳の差(BML)

「……は?」

 思わず零れた気の抜けた言葉。どこから突っ込んで良いのか分からない。いや、待てよ、どうしてそう思ったのだろう。
 俺の聞き間違いじゃないだろうか。きっとそうだ、聞き間違いだ。

「悪い、もう一度、言ってくれないか?」

 苦笑いでもう一度言ってくれないかと尋ねると、弟――柚は俯いて真っ赤にしていた顔を、更に赤く染め小さな声で「好き」と呟いた。……冗談、だろ? 
 同性に告白なんてされた事は一切合切ない。逆に告白じゃないけれど兄ちゃんに好きだという事がバレた事はあった。あのとき兄ちゃん、こんな気持ちだったのか?

「なぁ、柚。冗談だよ、な? 俺を脅かそうとしてるだけで……」

 そうであって欲しかった。俺みたいに間違った方向に進まず、いや結構間違った趣味はしているけれども。俺みたいな自分の兄弟を好きになるなんて事にはなって欲しくなかった。
 まだ、同じクラスの超イケメンや、イケメン俳優やホストに惚れた、って言うのなら理解は出来た。
 男としての仕草がカッコイイとか、声が渋くて良いとか、性格が男らしくて良いとかなら、そうかの一言で終る事ができたんだが。よりにもよって俺が好き、って言われるとは予測すらしてもいなかった。

「冗談でこんな事、言うかよ……」

 更に赤く染まって、本気なのが伝わる。けれども、同性なのもあり、兄弟だというのもあるのだが、そこは俺が言ってはいけないところだろう。俺だって同じだったのだから。
 だけど、俺と兄ちゃんはそこまで歳の差はなかった。兄ちゃんが21歳の時、俺は16歳だった。5歳差。俺と柚の歳の差は16歳差。歳が離れ過ぎている。

「柚、よく考えろ。今俺は32歳だ。歳の差がありすぎるだろ」
「んなの、関係ない。16でも義務教育は終ってる」
「そうだけど。俺を好きになったって、俺は凄くカッコイイ俳優に比べると全然だからな?」
「んな事じゃない! 兄貴しか、居ないんだよ……。俺の事分かってる奴」

 そりゃ、自分から俺、可愛いものとか大好きだ! って言わない限り、誰も分からない。一人友人が居ただろう、お前の趣味を知っている友人が! 
 
「お前の友人は?」
「アイツは! 訳の分かんないモン、いっぱい使おうってしてくるから、やだ」

 我儘な奴だな、お前。その友人も友人だけど。

「結局柚は俺と付き合いたいのか? それとも兄弟の仲で居たいのか?」

 少し間を置いてから柚が口を開いた。「……付き合いたい」と。付き合うという事は何をするのかも、分かって言っているのか気になった。
 口では分かってると言うだろう。けれど、実際、本当に分かってはいないだろうから、俯いている顔を無理矢理上に向かせた。
 そして、何かを言わす前に口を塞いだ。そのまま舌をねじ込んで酸素を奪っていく。

「付き合うって事は、こういう事もするって分かってるのか?」

 尋ねながら、柚を押した倒す。一瞬驚きながらも俺に応えようとするのでため息を吐く。

「……分かったよ」

 自分に言い聞かせるような一言だった。それでも良かっただろう。
 どうせ俺の弟だ。どうなったって、俺の責任なんだろう。だったら、そういう風に転がるまでだ。

  • No.103 by ブラック  2016-03-22 18:17:06 

ポリスリンちゃんとイカサマ師リンちゃん(ひとしずくP×やま△楽曲より)

「――ところで、この間の勝負あれ、イカサマしましたよね?」

 ポリスの格好をしているリンが紅茶を一口飲んで、口を開く。

「そういうのは、勝負の最中に言うものよ」

 同じく紅茶を飲んで返答したイカサマ師のリン。優雅にティータイムをしていたのだが、急にポリスリン略してポリリンが3日前の勝負にイカサマを使われたことを思い出したのだ。通常ならばイカサマを使った勝負は違法となり、手首に手錠がはめられるのだが、捕まえたくても出来ない時はあるもんだとポリリンは最近思うようになった。

「煩いわ、マフィアレンがぎゃぁぎゃぁ豪華客船で騒ぐからそれで忙しかったのよ」
「あら? 忙しいのに豪華客船のカジノで遊んでいたの?」
「うっ……」 

 言葉に詰まるポリリン。実際、サボっていたのだから何も言い返せない。痛いところを突かれ、思わずカップを落としてしまい、部屋内でガラスの割れた音が響く。何事かとさっきまで喧嘩をしていたイカサマレンとマフィアレンが、こちらを振り向く。

「あらあら、カップを落としてしまう程知られてほしくなかった事かしら?」

 うふふ、なんて妖艶な笑みを浮かべながらイカサマリンは紅茶を口に流す。どこぞのお嬢様のように。その動作がポリリンには気に食わなかったのか、ばしんっ、とイカサマリンの頬を叩き上げ「貴女がイカサマさえしなければ良かった事でしょう!?」と。
 
「何故?」
「私はっ……私は!」

 はいはい、そこまで。手を叩いて中断の声がする。イカサマリンの対イカサマレンが発したものだ。その様子をマフィアレンは気に食わない顔で見ていたが、口出しすることでもないので何も言わず黙っている。

「つーか、お前がサボってた理由さ、コイツ目当てだろ?」

 イカサマレンがイカサマリンを指差す。その瞬間ポリリンは真っ赤になり目を彷徨わせては、俯いている。

「コイツって失礼ね」
「はいはい、すみませんでした。リン」
「もう貴方って……。ポリリン、私と貴女ってどういう関係?」
「いっ、イカサマ師とポリス……」
「そっちじゃねぇよ、バカバカポリス」

 ばしんっ、とマフィアレンがポリリンの背中を叩く。「バカって何よ! バカって! レンもバカじゃない!」「うるせ!」何てやり取りが続き、暫らくして恥ずかしそうに「こ、恋人……」と告げた。

「そうね。私達は同じ豪華客船に居た。私とレンはカジノでイカサマをする為に。貴女とマフィアレンはまた違う理由で、同じ場所に居る事を知っていたなら恋人のことは気になるわよ、ね?」

 イカサマリンは優しく笑う。そう、優しく、ポリリンとマフィアレンに微笑む。

「貴方もレンが気になってカジノまで来ていたんでしょう?」

 マフィアレンは目を逸らす。違うというように。けれど否定などできずそれをイカサマレンにニヤニヤされ、マフィアレンは部屋を出て行った。後を追うようにイカサマレンも部屋を出る。
 二人きりで残され、イカサマリンに頭を撫でられたポリリンはイカサマ師を捕まえれない理由を分かった気がした。

 ――だって、好きだから。

 二人きりの部屋で軽く口付けをしていたのは、イカサマリンとポリスリンしか知らない話。

  • No.104 by ブラック  2016-03-24 07:09:06 

雨宿り(雨→陽炎)

 守りたいと思ったから、だからおいらはこのままで居る。おいらが「男」で居れば、アイツは「女」で居ることができる。それなら、おいらが「男」であろうが構いやしない。

「そんなところで何をしているの?」

 雨。文字通り、空から降る冷たい雨の中、おいらは傘を持たずに外に出たため、急な雨に対応が出来ず、公園の屋根付きベンチに腰掛けていると、和傘を差して陽炎はおいらに微笑む。数多の戦の地に立ったような、そんな感じが陽炎からする。

「何って、見たとおり雨宿りに決まってんだろ」

 杯を持つような仕草で陽炎の問いに答える。笑顔は作れているだろうか。普段通りのおいらで居られているだろうか。ここ最近、そんな事ばかりを思ってしまう。その所為で鳳月に心配をかけたこともあったような、なかったような……。

「雨宿りにしては随分味気ないものね」
「そーだな、せめて酒でもあればなぁ」
「あら、貴女飲めたかしら?」
「……一応、それなりに」

 今、おいらのことを「女」として扱ったような気がしたが、気にしない方が良いのだろう。

「陽炎ってさ」

 不意に口から出た言葉。聞きたくて、でも怖くて聞けない言葉。だからこれ以上喋ってほしくない。なのに、一度開いたら止まる事を知らないのか、ぽつりぽつりと言葉を紡いでいく。

「対がいねぇのに、何で……」
「平気そうなのか、そんなところ?」
「お、おう」

 そうねぇ……。陽炎は暫らく考えるような素振りを見せてから和傘を畳み、おいらの横に腰掛けた。肩と肩が触れ合うぐらいの距離。どう考えても近すぎるだろうという距離。

「寂しくないって言えば嘘になるけど……」
「けど?」
「今は私を一生懸命に守ってくれる『殿方』が居てくれるから平気」
「……へ、へー」

 一瞬おいらの事かな、何て思ったけどおいらは陽炎を守った記憶もないし、第一「殿方」じゃない。おいらがしているのはただの「ごっこ遊び」にしか過ぎない。どれだけ男らしく振舞おうと、おいらの性別は「女」であることには変わりない。だから、陽炎がいう「殿方」が誰なのか気になってしまう。鶴か、鳳……はたまた時雨、藍鉄……。一体、誰なのだろうかという疑問と同時に浮かび上がるのは嫉妬心だ。

「馬鹿ね、貴女顔に出すぎ。勿論、貴方の事よ」

 耳元で陽炎の声がする。何を言われたのか、未だに理解できないがおいらが聞いた言葉は間違いじゃないだろうか。間違いじゃなければ良いのに。

「――雨」

 名前を呼ばれたので陽炎の方に振り向くと、陽炎は空を見上げ「止んだみたい」と口に出す。あ、そっちかと滅多に名前を陽炎から呼ばれないので、期待したおいらが馬鹿みたいだと思い、「そ、そうだな! じゃ、雨も止んだし雨宿りも終りだな!」と不自然に立ってしまう。気楽に、いつも通りに振舞おうとしていると、また「雨」と呼ばれる。今度は名前を呼ばれたのだろう。陽炎を見つめていると屈めと言うので言うとおりに屈む。

「折角雨も上がったんだから、雨上がりのキス、しましょう。雨殿」

 耳元で囁かれた言葉。顔が次第に熱くなり、恥ずかしくなる。言葉に詰まっていると陽炎の両手がおいらの頬を包んで「殿方からキスをされてみたいの」何て言ってくる。そんな事言われたら、するしかないじゃないか。恥ずかしいけれど、要望に応えようと試みた慣れないキスだった。そんなキスでも陽炎は満足したようで「ありがとう」と微笑み、和傘を持って公園を後にした。

「柔らけぇ……」

 そっとおいらの唇を触ってみた。まだ熱は残っている。陽炎が喜ぶなら、おいらは一生「男」であり続ける。

  • No.105 by ブラック  2016-03-27 05:06:38 

「The blood which is thicker than red tears and red blood」

【プロローグ】

 ぐっちゃぐちゃの関係。訳が分からない。今、どうなっているのか俺はどこにいるのかさえ、把握できていない。ここはきっと通常の世界じゃない。――それだけは理解できた。

 爆発音に爆風。空に舞う真っ黒の煙、体の外側から焼かれていく感覚、どれをとっても身に覚えのある感覚であぁ、もうこの運命からは逃げれないなと悟った。俺の全身の神経がコイツからは、この犯罪者からはどう足掻こうと逃げることは出来ない。

 ジャラジャラと金属のアクセサリーを鳴らし、白衣を肩からだらしなく下げ、不気味に嗤う国際的犯罪者には敵わない。勿論、知力も握力も、伸長も、学力すら敵わない。

 目の前のビルが倒れていく。その様を見ることしか出来ない。見ながら、あぁ、また死んだんだ。なんて思いながらも一般人の非難を怠らない。それでも爆発は止むことなく、ずっと何時間もそれこそ永遠に煩くなり続けるのかと思わせた。

「……るっせ」

 小さく聞こえた声に、同時に響く銃声。きっと『また』撃たれた。味方の侵食。踏み荒らされる死体。この犯罪者は自分の味方すら裏切り、死体を玩具の様に扱い、尚且つ死体が更にぐちゃぐちゃになっていくのを楽しんでいる、凶悪犯。


【犯罪者と警察官】

 国際的犯罪者と共犯中のテロリスト。ほぼ無名だったテロリストの名を挙げたのは、この凶悪犯だ。名を六土 里杜ろくど りとと言う。天才科学者で主に、爆弾の製作を行っている。
 自分で作った小型爆弾を売るのと、作戦、各員の健康状態を監視しているらしい。情報課曰くなのであまり期待できる情報なのか怪しい。
 金髪に肩に届くぐらいまで伸ばされた髪、両耳には赤いピアス、指には何個も指輪をつけ、腰には自作の爆弾をぶら下げている。たまに口からチェーンが覗いている時があるが、大体は自作の飴を舐めている時だと思われる。

「今回の事件もコイツか……。絶えないな」

 資料室から聞こえる小さなため息。後輩が発したもので、特に注意する事ではないので何も言わずただ聞き流す。

「そう言えば連夜れんやさんって、里杜と戦った事ありましたよね?」
「あぁ。任務で出向いた先に居ただけだ」

 俺の所属している課は主に里杜主犯で行われている犯罪に出向く。というかそれしか任務がない。全く事件がないときはないで暇だが、あるときはあるで忙しいのだ。課の名前は長くて忘れたがいずれどこかで言う事でもあるだろう。

「やっぱ強かったですか?」
「……ある程度はな」

 互角に戦えば負けるだろう。右側にある刀をそっと撫で、ぼんやりと画面の中を見つめる。
 敵いはしない。何度も言い聞かせ、負けを認めた。そういう時に限ってコイツは、攻撃の手を止めて撤退する。理由なんて分からない。こじれた関係なのだから聞くこともない。

「それで、何か情報は掴めたのか?」
「それが、全く……。次の行動や、場所、時間など全く分からないです」

 落ち込む姿はいつも通りか、心中で呟きながらモニターの中を見つめる。これまで行われてきた犯罪の数々。少しくらいはパターンがあるはずだ。それさえ掴めれば場所の特定ぐらいは出来るだろう。一体、何が目的だ。一つのマップに廃墟が映る。次の爆破現場だろうか、今までの行動を分析すれば、何か手がかりになるかもしれない。

「ここの廃墟。今までの行動を分析して調べておけ」
「はい!」

 正しく敬礼した後輩は、資料室で一人、里杜の分析をパソコン相手に始めた。

 **

 真っ暗の部屋の明かりを点け、壁に凭れる。前までならこういう状態のとき、支えてくれる手があった。今は当の昔になくなっている。久々に疲れた、ような気がした。右目に激痛が走る。思い出してはいけない、何もなかったようにしろというように。過去の記憶を蘇らせてはいけない。もし、蘇ってしまえば、俺はここに居られなくなる。

「……もう、昔の話だろ」

 誰も居ない、元々二人部屋だった部屋でそっと呟く。クローゼットの中に仕舞ってあるのは代えの隊服。サイズが合わないのが面白い。何故置いているのかと後輩達に良く聞かれるが、大して気にしていないし、気にする必要性もないと思っている。この身になってから、サイズが合っていた隊服も大分大きく感じる。きっと気のせいだと思っている。

 あの日、あの事件の時――。何かが終わった。

『バカ、逃げろ!』
『うるさい』
『意地張ってる場合か! 良いから行け!』
『嫌だ』
『ったく、どうなっても知らねぇぞ』
『お互いな』

 息を殺して泣く声。何度も謝罪する言葉。必ず仕留めるという言葉。それだけが聞こえて後は何も覚えていない。そこに居た筈の人物が急に居なくなって、気がついたらこうなっていた。

 右目の痛みを耐えるように右の布を掴み、蹲りながら小さく息を漏らす。ないはずの義眼から何か流れ出る感覚を覚えながら。

  • No.106 by ブラック  2016-03-27 06:36:25 

【命令には逆らうな】

 おい……。小さく舌を打って手に持っているボードを自分の肩に当てる。それほど痛くはないが、見ている方が恐怖で支配されているのだろう。そんな快感に浸りながら不機嫌な表情を作り出してボードを再び見下ろす。

1号:7人
2号:3人
3号:9人

 それぞれの数字が並べられている。大して多い訳でもないが、少ない訳でもない。全体で32、3人程の人数だ。3人をピックアップしただけで、他が良い成績だという事ではない。所詮使い物にならないガラクタなのだから当然だが。

「俺は何つった? 一人も残すなって言ったよな」

 爆破テロをする時の絶対命令。『誰一人生かすな、残さず殺せ』それが、毎回毎回命令違反。まぁ、
それが目的なのもある事は誰にも言わないでおく。言ってしまえば意味がない。

「命令に逆らったらどうなるか、てめぇら味わってんだろ。おい、8号」

 声を掛けられ、8号は震えた。何て無様な野郎だと内心で嘲笑しながら表情は不機嫌で、「てめぇ、殺害人数0ってどういう事だ?」と問う。そうすると8号は言い訳する素振りを見せなかったが、だからと言って命令違反を許しておく訳にもおかず、舌を打ち「役立たずは死刑牢だってつってんだろ」そう小さく囁けば、8号は何度も頭を下げる。今度は仕留めるだとか、必ず成果を出してみせるだとか、そんな馬鹿な台詞を吐いていた。くだらないし、そんな甘ったるい事を許すわけもない。だからポケットに入れていた拳銃を取り出して一発、8号の脚に撃つ。当然8号から呻き声みたいな悲鳴みたいな声がする訳だが、お構いなく「死刑牢、行け。ガラクタ」と放った。

 死刑牢。役立たずが直行する牢屋。牢屋と言っても何日も過ごせる訳じゃない。過ごせやしない。死刑牢に入った者で生きた奴は居ない。そう、俺がこの手で始末する。簡単に言えば針地獄で串刺しにする。刺さった時の身が抉れる音や飛び散る血液、辺りに漂う血の匂いやその他諸々、そういうのが好きだから余計に串刺しにする。後始末はいつも成果が悪い奴ら。俺にとってテロリスト何てただの駒でしかない。俺の作る爆弾がなければ一瞬で警察側に捕まるだけの雑魚だ。

「許してください!」

 8号が死刑牢で叫ぶ。俺はその様子を無表情で眺める。これが此処の掟。俺が共犯している限り、此処の掟は全て俺が作る。理由なんてコイツ等に述べる必要もないし、今言う必要だってない。それに使えないガラクタを側に置いて置く様なそんな優しい人間でもない。だから、不良品はぶっ壊す。――レバーを下げる。そうすると、天上と壁一面、床から針が飛び出す。避け切れないし、逃げ切れない速さ、見た目は普通の誰もが想像する様な牢屋と変わりない。ただ、違うのは針が飛び出すだけ。

 ――グシャッ。

 本当はもっとえげつない音だったが、分かりやすくするなら、一番伝わりやすいだろう。糸も簡単に潰れ、俺の体中に8号の返り血を浴びる。俺の勝ちだ。一人、死刑牢の在る部屋でただ口角を吊り上げた。

 **

 お前ら、アレだろ。無名のテロリスト――あぁ、俺はたった今あっち側じゃねぇ、こっち側の人間だ。……だから、取引しねぇか? 
 お前らが欲しがってんのは最高武器、テロだから爆弾とか銃とかだろ。今の仕入れ先の国、そろそろ戦争が始まるんだろ? そうなったら火薬とか値段がぶっ飛ぶだろ。そうなるとコストとかも面倒くせぇし、金もかかる。
 何が言いたいかって? つまりだな、俺が爆弾製作してやるってつってんだ。金も払わねぇで良い、火薬の仕入れも俺が全てする。銃は作った事ねぇが、銃なんざ要らねぇ爆弾作れば良い。お前等は何も払わねぇで構わねぇ。なぁ、そっちには得な話だろ?
 何が目的か? そんなモン決まってんだろ、お前等と一緒だ。だから、共犯者にならねぇか?
 ――そうだな、次のテロん時、俺が作った爆弾だけで成功したら俺に爆弾製作、作戦、健康管理を任せてくれ。それ以外は必要ねぇし、何も払わねぇで良い。あぁ、分かった。じゃぁ、それで。

 ――払うのは、てめぇらの命で構わねぇ。

「……またあん時の夢かよ」

 最近よく見るようになった夢。同じ内容ばかり。重たい頭を持ち上げてベッドに腰掛ける。今は何時だ、そんな事気にしてもしょうがないし意味がないが、何となく時計を見た。午前10時20分、そろそろアイツが姿を現す頃だろうか。

 コンコンッ

 ドアがノックされた。あぁ、思った通りだ。入室許可を与え、ソイツは部屋の中に入って来る。

「里杜様、朝食の用意が出来ましたが……」

 言葉に詰まったようで、どうしたら良いのか分からないのだろう。多分、俺が起きていたんだと思ったから余計だろう。寝起きだという事に気づき、だけどいつもこの時間帯に朝食を持って来ているから困った表情をしていた。

「あー……わりぃ。今起きたから、後で食うが取り合えず持って来てくれ」

 他の連中とは違う喋り方という訳じゃない。至って普通だと思うが、他の奴からしたら違うんだろう。そういう陰口なのは聞いた事があった。だからと言って死刑にする程鬼ではない。どれだけ陰口を言おうと有能であればそれで良い。

「かしこまりました」

 丁寧にお辞儀をして、廊下まで持って来ていた朝食を部屋に入れる。何処かのお屋敷で使われているその台は、俺が買った物だ。火薬より安い。朝食がテーブルに並べられ、寝起きなので紅茶を淹れられる。

「具合でも悪いのですか?」
 
 不意に尋ねてきた。コイツ、今は召使にでもしておこう。この召使にだけは俺に話しかける事の出来る権限を与えた。他の奴等は用事がない限り、一切話しかけるなと命じた。この召使にだけ、用がなくても話しかけても良いという権限を与えたのは、役立たずの飯やこのアジトの掃除などをして貰っているからだ。あと、二人きりの時は敬語を外せとも言った事がある。返答はしっくりこないだった。

「いや、別にそんなんじゃねぇよ。つか敬語外せよ、誰も見たり聞いたりしてねぇぞ」
「そうですが……。私は住む場所もなく、食べる物もなかった時に里杜様に拾って貰って頂いて居る身で、まして何も知らなかった私に勉強など教えてくださり、さらには仕事まで与えて貰っているので……」

 言いたい事は分かったので小さく溜息を零す。仕事と言っても犯罪者のお手伝いだから楽しいのか何て分からないが。頭を掻きながら「別にアイツ等が居る時でも話しかけて構わねぇし、敬語外しても構わねぇから。拾って貰ったから敬語を使わねぇといけねぇ理由なんてねぇから」と言うと、やっぱり否定の言葉が返ってくる。そんな無礼な事出来ないとか、あぁ、本気で拾われたってだけでこの召使には生きる希望があったんだなと思った。だから、強制はしない。不意に敬語がなくなったら違和感だろうが、それで腹を立てるつもりはない。

「そうか。まぁ、お前の好きにしろ。言葉遣いと態度はな」

 鋭い目つきで睨んでやると、召使の肩が震えている。隠し通せているとでも思っていたのだろうか。

「これやるから食え」

 テーブルに乗っている朝食を取り、召使に差し出す。恐れ多くて受け取れない何て台詞が聞こえるが、そんなのお構いなしだ。この召使が他の連中からどんな扱いをされているかなんて百も承知だ。えこひいきだとか、図に乗っているだとか言われているが、俺に言わせれば役に立たないガラクタが何を言っているだ。元々この召使は「俺の身の回りの事を担当」として此処に居る。アイツ等は「俺の作った爆弾でテロを起こす」という役目で居る。元の契約が違う事も知らない馬鹿共から、召使が食事制限をされている事も知っている。初めは自分自身が気にしているのかぐらいだったがあまりにも様子が可笑しい事に気がつき、盗聴器を召使に仕掛けたところ、食事制限や暴力が行われていた。

「で、ですが……里杜様の朝食で……」
「また殴られるってか?」

 そこまで驚く必要もないのに、かなり驚いていた。あぁ、本人も知られてないと思っていたのか。

「じゃぁ、俺の部屋使え。ただ寝て食う為の部屋だ。お前が来てもスペースは十分あるだろ。俺の部屋にはお前以外近づかねぇよう言ってるからな」
「し、しかし何故そこまでして私を守る、と言いますか……えっと」
「アイツ等には使えねぇガラクタは始末って、つってるけどお前には違う言い方しねぇとな。ただ、お前を側に置いていたい、じゃ不足か?」

 召使は俺の今ふっと思いついた言い訳でも満足したようで「それだけで満足です」と言った。そして俺は召使にほぼ強制的に飯を食わせた。

「里杜様」

 飯を食い終わらせ、俺も残ったのを食した後声を掛けられ、召使に視線を向けると「私は里杜様にどこまでもお供します」何て言われた。これじゃまるで本物の召使のように思えたから「ついて来れんならな」と、少し意地悪な返答をした。

  • No.107 by ブラック  2016-03-28 01:07:43 

 「好きになったのはお前なんだ」「え? 嫌よ」

 同じ学校、家も隣同士幼馴染である。そう、文系と理系の幼馴染。だから趣味も合わないし、会話もあまり成立しないのだが、俺はそんな幼馴染の理系少女に恋をした。始まりはいつだったかなんて覚えていないが、気がついたら好きになっていた。今のこの瞬間までは!

「お前が好きなんだ!」
「え、嫌よ」

 パラパラと崩れていく俺の初恋、なんてもんじゃなくもう一瞬で崩れていく初恋。眼鏡をかけた理系少女は何が悪いの? 何て顔で俺を見る。

「お、俺の……何が、嫌いなんでしょうか……?」

 もはや涙目である。

「そんな事言っても『数学』は教えないわよ」
「え? スウガク?」
「来週のテスト、貴方、数学大丈夫なの? だから私に機嫌取らせて数学を教わろうとしたんじゃなくて?」

 そうだった。コイツは理系だった。本嫌いだった。漫画は読むらしいが……。つまり、今の俺の告白はただのご機嫌取りにしか思われていない。それもそれで悲しい。
 がっくりと項垂れてその場にしゃがみ込む。具合でも悪いのかと尋ねてくるが、そういう事じゃない。此処が自分の家なら良かったのにと二人きりの夕暮れの教室で思うしかない。だってコイツは理系だから……。

「ねぇ、ちょっと」
「イヤベツニナンデモナイデス……」
「ねぇってば」
「イヤダカラホントニ……」
「アパート通り過ぎてるわよ」
「…………」

 あえて聞かない振りをしていたら、自分の家を通り越していたらしく、しょんぼりしながらアパートに向かい、階段を上っていく。高校に通うため、このアパートに引っ越して来た。幼馴染の麻衣(まい)も俺と同じ理由だ。

「じゃぁ、また明日。何かあったらいつでも来て頂戴」

 302号室と303号室の前でのいつもの挨拶。何も言わず俺は302号室のドアを開けた。

  • No.108 by ブラック  2016-03-28 02:17:09 

【出会い】

 くだらない、でも生きなきゃいけない。お金がない。それなのに、どうやって食べ物を手にしたら良いか何てすぐに分かった。だから盗みを働いた。食べ物がない、お金がないから盗めばいい。初めて盗みをした時、恐怖に襲われた。いつ捕まるのか、捕まったらどうなるのか俺は生きていけるのだろうか、そんな恐怖を俺を襲い続け、いつの間にか無くなっていた。生きるためにしている事なのに何が悪いんだという風に思い始め、盗みに対しての罪悪感はなくなっていた。
 そんな時、出会った。

 その時もいつも通り生きるために、盗みをするためだけに街に出た。誰から何を盗もうか、金目の物、それとも食料……。色々悩む中、一人、白い白衣を着た男が俺の前から歩いてきていた。白衣のポケットの中に四角い何かが入っている事に気がつき、俺はそれを財布だと思った。だから、前からやってきた男からポケットの中に入っていた四角い物を盗って何事もないかの様にすれ違った。いわゆるスリってやつだ。
 路地裏に入って財布を確認しようとするといきなり「そんなモン、盗ったって何の役にも立たねぇぜ?」と声がした。勢いで振り返ると、目の前にはさっきスリをした男が居た。
 何も言えず、ただ驚いて開いた口を閉ざし、どうすればいいのか何て分からず、脚が震え、今にも死にそうだと思った。俺は此処で捕まって殺されるのだろうか、そういう思考から抜け出せず、ただ、首を振って「いやだ……」と言い続けた。

「何が嫌かは知らねぇが、危ねぇから返せ」

 手を出しながら男は近づいて来る。俺には手錠が見えていて、今から捕まって死刑になって、死んでしまう。怖い、という感情が再び訪れる。逃げたいけれど脚が震えていて動けない。でも動かないと殺されてしまう。

「あっ……。ご、ごめっ……ごめん、なさ、い……」

 涙目で今にも泣きそうになって俺は謝罪した。とにかく謝らなければと思い、精一杯謝罪するが目の前の男は足を止めず、俺の方に歩いてくる。

「本当にっ、も、もう……しません、から……。だから、ころ、さないで……ください……」

 ピタリッ、と俺の目の前で男は足を止めた。駄目だ、殺されると思って目を瞑った時、穿いていたボロボロのズボンのポケットに何かが入ったのが分かった。何が入っているのかは見ていないけれど、目を開ける勇気もなくてただ、震えていると「金、欲しいならやるからこんなモン、盗むんじゃねぇぞ」と手に持っていた四角い物を取り上げられた。男はそのまま踵を返して俺から離れていった。

【出会い、再び】

 偶然は重なる何ていうが俺はつい最近まで嘘だと思っていた。だが、嘘ではないかも知れないと思うようになった。
 あの男に見つかり、俺は殺されると思ったが俺は今でも生きている。生きる為に行っている盗みも今では少し怯えながらになってしまう。また、見つかってしまうのだろうか。そこに秘める、僅かな思い。もう一度会えないだろうか、そうしたらお金が手に入るかも知れない。
 親は居るが、俺を子だと思った事はなく、家出をしても捜されもしないので現在も家出中の身だ。だから、帰る場所もないから公園や目立たないところで野宿をしている。ある時、とある廃墟で寝て起きたら夕方で、いつもの事なのでこのまま盗みに行こうとすると、見覚えのある男が誰かと話しをしているのが分かった。あっち側とか取引とか詳しくは聞けないが、何かしら聞こえてくる。そして爆弾という単語の後に俺が盗った時と同じ形をした四角い物があった。俺が盗ったのは、財布ではなく爆弾だったという事をその時知った。
 何やら話が終り、男が俺の視線に気がついた。思わず隠れようとするが、良い隠れ場所が見つからず、結局はその場で立ち尽くす。男が俺に近づいて「お前、あん時のガキか。金か? ならやるよ」そう言って男はポケットから5万円を俺に差し出した。

「えっ……?」

 少し期待していたが、そんな事が起こるとは思わず俺はどうしたら良いのか分からず、暫らく思考が追いつかないでいる。
 そんな素振りに気にしてないのか、男は俺のズボンのポケットにお金を入れるが何かに気がついたようで、少し動きを止めた。そしてまたすぐ元通りに戻り「……お前、何処住んでんだ?」と問われる。どこ、と言われても俺には家がないので目を彷徨わせ小さい声で「その辺」と答えた。

「親はって、その様子じゃ心配もしてねぇな」
「…………」
「そう睨むなよ、殺したり何かしねぇから。……その服、埃だらけだなそれに靴も結構ボロい。今夜は冷えるそうだな、そんな格好だと風邪引くぞ」
「……これしか、ないから」
「見れば分かる。……金が欲しいって思わねぇか?」

 男は尋ねた。こんな生活をしている俺に。そんなの欲しいに決まっている。

「欲しいに決まってる」
「じゃぁ、俺ん所で働け」

 男はそう告げて俺の肩に手を回した。自分が着ている服が汚れるのも構わずに。それから「今の生活したかねぇなら、黙ってついて来い」と俺に囁いた。その時から俺は彼に惹かれたのかも知れない。

  • No.109 by ブラック  2016-04-04 05:53:03 

「バカな兄貴を「ぁっ」と言わせたい」

 ずっと仲が良かった。小さい頃は一緒に帰ったり、どこかに遊びに行ったりもしていた。だけど、中学に上がるにつれて、俺は自分が異常なんだと思い知った。周りは誰々君が気になるとか、○○さんが気になるとかそういった話ばかりしているを耳にした事があった。最初はあぁ、そうなのか程度だったけれど、お前は誰か気になる奴居るのか? という質問に対して兄貴、と答えるとその場が凍りついた事があった。その時、俺が問題発言をした事はすぐに理解できた。だから、あぁ、恋愛としてか。からかったりする方かと思った。恋愛なら居ない。と咄嗟に嘘を吐いたら周りもなんだそうか、と納得していたのを今でも覚えている。

 小さい頃に兄弟が出来た。義理の兄。当時は慣れない事だけれどすんなり受け入れる事が出来た。俺が能天気なのもあったのか、それともただ兄が出来たという事しかなかったんだろう。義理の兄だとか義理の兄弟とかそんな複雑な感情はなかったんだろう。だからすぐに話しかけに行った。名前が何て言うのかとか、好きな食べ物なんだとか、テレビ見るのだとか、兄は困ったようにけれど一つずつ答えてくれた。年齢は一つしか変わらない。兄が優しいのもあり、俺と兄はすぐに仲良くなった。だから中学の問題発言まではずっと隣には兄が居るのが当たり前になっていた。

 **

「……おう」
 
 中学を卒業して家からは大分距離があるが、あえて偏差値の低い高校に入学した。親はもっと賢いところに行ったら良いのに、と言っていたのだけれど俺はここが良いと決めた。入学式を終えて新しい着慣れていない制服で帰宅をすると上半身裸で首にタオルを巻き、肩まである金髪の髪を濡らした兄に短い言葉で出迎えられた。どうやら風呂に入っていたらしい。俺だから良いものの、もしドアの隙間から誰かに見られたらどうするんだと思いつつ、靴を脱いで部屋に戻る。部屋で制服を脱いで部屋着に着替えてリビングに向かうと、服を着た兄がソファに寝転がっていた。確か今日の入学式は新一年生しか居なかったので兄は休みだったんだろう。時間的にも朝なので何処かに出かける事もないだろうか。

「お前、本当にあそこで良かったのかよ」

 冷蔵庫にジュースを取りに行くと兄に話し掛けられた。高校の選択に後悔はしていないので、頷いてペットボトルの蓋を開ける。ミルクティーの味を口の中で広げて、キャップを閉め、冷蔵庫に戻す。

「後悔とかはしてないよ」

 後悔はしていない。寧ろ入れたから感激している。成績が悪い訳じゃなく、その逆なのだから採点していた時にワザと偏差値の低い高校に入った事などバレているだろう。それでも、俺が行きたい高校だから偏差値の高い高校にしておけば良かったなんて思ってない。
 
「そうか」

 兄は短く返事して何も話さなくなった。何かをしている訳でもないので寝ているのだろう。壁に掛けてあるカレンダーを見ると、今日は夕方からバイトがあるらしい。兄のバイト先を聞いた事があり、俺も何度か行った事があるファミレスだ。兄は自分から喋りかけるタイプじゃないが、接客はするらしい。メインは厨房で、フロアの人が足りない時に手伝ったり、フロアメインで働いたりするらしい。兄がそのファミレスで働き出してからは行ってないので、そういうのは見たことがない。

 部屋で本を読んでいると隣の部屋が開く音がした。時計を見てみると、12時30分。部屋でもう一度寝るのだろうかと思いながらページを捲る。兄の端末の音が聞こえ、兄の声が聞こえる。驚いたような少し嬉しそうな声が聞こえて『分かりました。ありがとうございます』というフレーズだけ、耳に入った。口調からしてバイト先だろうかと思うが、それだけを聞きに行くのはどうかと思ったので何か口実がないだろうかと探していると、ドアがノックされる。兄なのは百も承知なので本を閉じ、ドアを開けると兄が「今日バイトオフになったからどっか行くか?」と尋ねてくる。

「良い、けど……」

 何処かと言われても何処に行くのだろうと思いつつも、家に居てくれないというのもあって少し不満を覚えた。家に居れば良いのになんて言ったら家に居てくれるだろうけれど、折角誘ってくれたのだから予定もないのに断りたくない。

「けど、何だよ」
「何でもない。何処行くんだろうなぁってぐらいで」

 焦って適当に言葉を並べる。思っている事なので嘘ではないが、何となく言い訳をしている気分になる。俺の言葉に兄は悩み「じゃぁ、まず何か食いに行くか」とお互い何も食べてないので提案をした。
 
「お前は何食いたい?」
「何でも良いよ。任せる」

 兄は困ったようにして後でな、と言って俺の部屋の前から自室に戻った。ドアを閉めて着替える。どんな服が良いだろうか、あんまり気合を入れすぎるのも良くないし、かと言ってジャージなんてのも良くない。ほどよい感じのコーディネートなんて分からないが、淡いYシャツに黒のパーカー、グレーのスラックスにした。タイミングよくドアがノックされ、財布と端末をポケットに入れてドアを開ける。
 兄の服装も俺と似ていて白Yシャツに黒のベストのボタンを開け、赤色のスラックスを身に纏っていた。兄が先に玄関に向かったので後に続いて玄関で靴を履く。ドアを開けて待っていてくれた兄に小さく礼を言って、カードーキーで鍵を閉めた。

  • No.110 by ブラック  2016-04-05 04:48:08 

名前 六条道 恋也(ろくじょうどう れんや)

年齢 
16歳

性別 


所属 
卍高等学園 丹神橋高校 

身長 
173cm(16歳) 176cm(19歳) 185cm(26歳)

体重 
56kg

容姿 黒っぽい黄色の髪で毛先が黒色。長さは髪を下ろすと肩より少し下まで在る。
部屋、高校は髪を下ろしている。
プライベートや部屋では伊達メガネを使用することがある。
高校にはメガネも付けていなく素で通っているが、目に異常が在る時には眼帯を着用する。

性格 基本あまり会話を好まなかったが、誰かと話す事に興味を持ち色々な人と話はするようになった。けれど、自分から話しかける事はあまりない。
高校生になると人が変わったように笑顔を振りまいていたりする。
りとには忠犬の様に振舞う。

備考 時に一人称が「俺」と「僕」で使い分けられるが基本「俺」を使うのは仕事上で「僕」はプレイベートが多い。プライベートで「俺」を使う時は上司でもなく年上でもなく、たった一人の人間として見ている時に使われる。仕事上とプライベートでは口調も少し変わる
相手を年上と見ている時は「貴方・貴女」仕事、上司として見ている時は「~さん」また、機嫌が悪い時年上・上司には「自分」同い年には「君」になる

プライベートで機嫌が悪いと誰彼構わずナンパする癖がある。
相手が嫉妬するのが目的で男女問わずそのまま買う。
  
男女関係無くキスしたりキス以上の行為などは平気である。決して男好きと言うわけではない。
どんな場面でも「望まれたから買っただけ」と答える。
    
好きな物 甘すぎる物が苦手でほどよい甘さのものを好む。いつも紅茶やハーブティを飲んでいる。
チョコ菓子をよく好み、口にしている事がある。
     
幼少期実の父の提案より酒を飲む事になって口にすると一升瓶ほどの量を飲み干して嘔吐して三日倒れる事があった。
幼稚園年少の頃に両親を事故で失い、親戚に引き取ってもらった。
中学の頃、とある走り屋のグループのリーダー、黒河ハルカ(23)から酒を勧められもう一度酒を飲んでアルコールに強くなり、黒河と何度か酒を飲む事になって酒を好むようになったが、未成年の為、酒の入手方法が黒河便りか、変装して購入するしかない。
好みの酒の種類は日本酒である。

嫌いな物 比較的少ないが珈琲が駄目である。
幼少期珈琲を口にして気管に入り蒸せて咳き込んだ事がトラウマになり珈琲を口にする事が出来なくなった。
食べ物ではアボカド。あの食べた時の不味さが嫌い。
動物では蛇。見た目がえぐいからだそうだ。
飲み薬。塗り薬などは平気だが、飲み薬(特に錠剤)は嫌い。粉薬はあまり気にしないらしい。

裏設定
成績優秀、運動神経抜群で教師生徒の期待も多いが、その為教師、年上から暴行を受ける事もある。
一つ年上の姉がおり、姉が生理で何故だか血の臭いを発する事がある。兄のりと曰く「血臭い」である。
女装が当たり前で、メイド喫茶、ホステス、などのバイトを性別を偽って働いてる事が在る。
最近の仕事内容はホスト、イカサマ師、殺し屋、家庭教師、など。

  • No.111 by ブラック  2016-04-05 04:49:03 

名前 烏丸命(からすまみこと)
性別 男
年齢 17歳

性格
自分好みではなければ誰であろうと切り捨てるタイプだが、誰かを好きになればそのことばかり考える。素っ気無いが、何かに夢中になれば一途と言ったほうが分かりやすい。だが素っ気無いとはいえなくて言動そのものはキツイが本人にはそのつもりで言っているわけではない。たまに感情的になることもある。スキンシップが慣れてないので苦手。

容姿
身長は179cm。筋肉はあまりついていないが特に気にしてはいない。烏の様に黒い髪と言う訳ではなく金髪の地毛で髪の量は多いほう。中学の時には肩辺りまで伸ばしていたが高校に入る時にばっさり切って今はうなじぐらいまで、毛先が外に跳ねている。耳には赤色のピアスをつけており右に2つで左に3つ。前髪はオールバックにしている。瞳の色は金色でややつり目。

  • No.112 by ブラック  2016-04-05 04:51:27 

名前 伏(ふし) 

年齢   
見た目年齢 19歳 実際年齢 不詳

性別   


身長   
182cm

体重   
70kg

容姿 【人形時】金髪で、恋也と瓜二つの顔つき。背は恋也より高く、りとより1cm小さい。目はどちらかと言うと、普通な方で、つり目でもなければ垂れ目でもない。瞳の色は金色。髪も金髪で長さは腰ぐらいまである。髪の量は少ない方で、サラサラとしている。
和服を身に着けており、基本的に茶色。

【妖怪時】顔つきは変わらないが、目の色が銀になる。人形時より目が細くなり、気性も荒くなる。目元には両方に二つ、頬には三つ赤い線が付いている。人形時とは異なり歯は牙になって、髪の色も銀に変わっている。額に二つの角が生えて腹には刀の模様、背中には縛りとして「伏」と赤字で浮き上がっている。
服装も真っ黒な和服に変わる。

【人間時】元々は人間で、かなり昔の人になる。その頃には苗字がなかったので「京太郎(きょうたろう)」と呼ばれていた。髪の長さはとても短く、うなじぐらいまで。黒髪。背丈は何も変わらない。
人間時でも着ているのは茶色の和服。

性格 基本大人しいけれど妖怪時になると容赦がなくなる。人を殺める事に後悔もなにもしない代わりに、自分の尊敬している主人が殺されるのは自分が死ぬ事より嫌う。
女人が苦手で、吉原や風俗に行った事は人生で一度もない。

備考
好きな物
日本酒。日本酒の中でも常温が好み。

嫌いな物 
白の服。死人だという事を認めたくないから。
水。死因が溺死だから。

大昔、両親が急死し、天涯孤独状態の時に全く知らない里に預けられることなり、その里で友人も出来たのだが、京太郎がその里へやってきてから不作が続いたりした為、「呪い子」と言われるようになった。
不作をどうすれば良いかと考えた里の者は、神が生贄を送ってこないせいで怒っているという話が出回って、里の者は自分の子を殺すことなどしたくなかったので、呪い子を生贄とした。
そして、大雨の日に、呪い子を生贄として神の元へ送る事になった。
殺しかたは至って簡単で、白い衣を身に纏い、目隠しをして川へ突き落とす。
そして、友人の手によって川へと突き落とされ、目が覚めると、妖怪として転生していた。
自分の意思で人の形にもなれたので、普段は人形で、本来の刀である。刀に宿った妖怪。
恋也の直結の先祖になる。

【祁呉氏睦月(消しゴム)】
【神条吟(定規)】
【赤ヘ丸完次(赤ペン)】
【谷へ丸伸一(シャーペン)】
【筆こばと(筆箱)】

  • No.113 by ブラック  2016-04-05 04:52:00 

・スキキライ
 恋 りと

・ハジマリノオワリ
 彩 恋也

・繰り返し一粒
 りと 恋也

・イカサマ⇔カジノ
 恋也 りと

・秘密~黒の誓い~
 恋也 美咲 猿比古

・からくり卍ばーすと
 伏 りと
  
・虹色蝶々
 かいと りとせ 恋也 彩

・ACUTE
 彩希 りと 恋也
 雨 紫揚蝶 アジテーション

・聖槍爆裂ボーイ
 恋也

・SPICE!
 恋也と大勢の友人

・ヤサグ恋歌
 恋也

・メランコリック
 恋也 りと

・鏡音八八花合戦
 りと 恋也

・吉原ラメント
 女装恋也

・東京テディベア
 姶
 褌

・再教育
 りとせ 恋也

・ロストワンの号哭
 16歳恋也と14歳恋也

・アドレサンス
 りと 恋也

・会いたい
 未定

・from Y to Y
 


・BUNKA開放区
 泥棒とガンマン

・8HIT
 グリーンVSレッド

・インビジブル
 りと 

・イカサマライフゲイム
 陽土
 
・Masked bitcH
 恋也

・天ノ弱
 恋也 祐

・え?あぁ、そう。
りと

・百年夜行
 恋也 伏

・愛言葉
 恋也 美咲 猿比古 出雲 

・3331
 黒斗 恋也

・ワールドイズマイン
 りと 恋也
 女詐欺師と泥棒○

・なりすましゲンガー ○
 クロハ コノハ

・しんでしまうとはなさけない
 未定 

・Sweet Devil
 恋也 りと

・HANAJI
 恋也 りと

・君がくれたもの
 恋也 りと
 恋也 ルパン○

・人間失格 ○
 クロハ コノハ

・からくりピエロ
 恋也 りと

・Just Be Friends
 未定 

・おこちゃま戦争
 グリーンVSレッド
 りと 恋也

・いろは唄
 りと 恋也
 恋也 伏

・結ンデ開イテ羅刹ト骸
 伏

・カンタレラ
 ローザブルー ノーブル(ミクオ) クラシック ノーブル

・ODDS&ENDS
 恋也 天刀

・君の知らない物語
 恋也 りと

・I beg your hate
次元

・あの日タイムマシン
 シンタロー メカクシ団一同

・Synchronicity~第二章 光と影の楽園~
 メカクシ団一同

・テノヒラ ○
 りと 恋也

・蝶と花と蜘蛛
 悪魔 人間 吸血鬼

・愛欲のプリズナー○
 次元 ルパン

・海賊Fの肖像○
 ルパンファミリー

・VOICEま○
次元メイン

  • No.114 by ブラック  2016-04-05 04:52:18 

春雲路 天刀
しゅんうんじ あまと

八重樫 ハルキ
やえがし はるき

西園寺 佳乃
さいおんじ よしの

一文字 速人
いちもんじ はやと

六条道 誠
ろくじょうどう まこと

六条道 雪乃
ろくじょうどう ゆきの

六条道 薊
ろくじょうどう あざみ

六条道 りとせ (六条道 りと)
ろくじょうどう りとせ

六条道 かいと (六条道 かい)
ろくじょうどう かいと

六条道 恋也 (六条道 恋)
ろくじょうどう れんや

六条道 彩 (六条道 彩希)
ろくじょうどう あや

八城 岬
やしろ みさき

天月 唯
あまつき ゆい

大武 美奈
おおたけ みな

守烙坐 星汰
かみらくざ せいた

上ヶ咲 真央
じょうがさき まお

神無月 恋
かんなづき れん

加藤 柚
かとう ゆず

黒田 九十九
くろだ つつら

  • No.115 by ブラック  2016-04-05 05:18:03 

【疑問に思った事】

とある炎天下の中、オレは冷房が効いているアジトに居る。
今日という今日こそ、オレをヒキニートと言う奴を懲らしめるため。
今日はモモは仕事、ヒビヤは学校の為メカクシ団二名が居ないが、アイツらはオレをニートと呼ぼうが別に問題はない。
アジトにはオレを含めて七人いる。
キド、セト、カノ、マリー、エネ、オレ、コノハの七人が各自好きなことをしている。
キドはソファに腰掛け、カノはキドの隣で雑誌を読んでいる。
オレはスマホを充電させ電源を切っている。
この際エネは関係がない。
そろそろ本題を言おうか。
オレは立ち上がり、アジト全体に聞こえるように言い放つ。

「お前等人の事ニートニート言ってる割には、モモとセトとヒビヤ以外まともに仕事してねーだろ!!?」

いきなり叫びだしたオレに驚いてマリーはびくりと肩を揺らす。
この際可愛いからマリーは除外……じゃなくて。
キドは「何が言いたいんだ?」と言う目を向けてきたが、カノのニヤニヤした表情のせいで腹が立ってくる。

「わっ、私もお仕事してるもん!」

マリーが頬を膨らましながら言ってくる、可愛い…。

「内職だっけ?モモから聞いた。マリーは関係ねぇよ」

と言いオレは物事の主犯カノを睨みつける。
カノは笑いながら「やだな~」とか言っているが、この際関係がない。
今日という今日こそこのカノの口から「すみませんでした」と言わせてやる。

「シンタローさんいきなりどうしたんすか?」

とセトが尋ねてくるが、セトは仕事をしているためニートと呼ぼうが何ともないが、どうしたもこうしたもない。

「お前等、特にキドとカノ。ろくに学校も行ってないし仕事もしてないのに、人をニートニート連呼するな。特にカノ」

オレはカノってとこだけを強調させていう。
コノハは初めから何も言わないので除外だ。
ろくに学校も行っていないカノとキドに、ニートと言われる辛さは他のみんなは分かるのだろうか?

「あ、そんなこと気にしてたのシンタロー君。ゴメンゴメン」

明らかに背後から「(笑)」と言うマークが出ているであろう。
コイツはうざいの天才なのか?

「カノ失礼っすよ」

セトが言ってくれた言葉の意味は考えていけば辛いだけな気がする。

「……ニートって何?」

コノハの第一声がこれだ。
なんと説明しようかと悩んでるとカノが口を開く。

「ニートっていうのは、学校も仕事もしてないシンタロー君のことだよ。コノハ君」

コノハはだいぶ間を開けてから首を傾げて「でも、カノも何もしてないよ…?」と言われる。
ざまぁみろ。
それにしてもコノハはなんて良い子なんだ。
限度はあるが飯を奢ろう。

「んー?それはコノハ君もキドも一緒じゃないの?」

対するカノは何も喋ってないキドを巻き込んだことで、すごい形相でキドに睨まれている。

「…って言うわけでもないかも、うん」

さすがの団長には叶わないのか、冷や汗をかきながら上記を笑いながら「コノハ君だって何もしてないじゃん」と言う。

「僕?…僕はお手伝いしてる」
「何の?」
「セトのバイトのお手伝い」

コノハ偉い!
俺は内心そう叫んでコノハに拍手をしている。
カノはセトに確かめるような視線を送る。
セトはそれに気づき「あ、コノハさんの言ってることは本当っす!」と笑顔を向ける。
カノは「うっ…」と言葉を詰まらせて「僕だってキドの料理の手伝いしてるもん!!」と言うが、その場に居た全員(エネを除く)に「してない」と否定された。
さすがのカノも堪えたのか、床に倒れ込むようになり、小さく自分はニートではないと否定している。

「うぅ…僕はニートじゃない…」
「受け入れろよ。これが運命(さだめ)だ」
「ちょっと止めてよ!コノハ君!!」

カノには後でたっぷりと謝罪してもらおうか。
俺はコノハとカノのやり取りを見て、フッと笑う。

【疑問に思った事】END

  • No.116 by ブラック  2016-04-05 05:19:54 

【弱音】

今日はいつもより早く起きたから、ソファでくつろいでいる。
今は朝の六時でそろそろキドも起きてくる時間なんだけど、全く起きてくる気配がない。
いつもなら僕が起きるのが早いと「今日は猫が降るのか」なんて言うけど、今日はどれだけ待っても起きてこない。

そんな日もあるだろうと思って雑誌やゲームで時間を潰すが、何分経っても起きてこなくてさすがにイライラしはじめる。
5分10分ならまだしも、40分も起きてこないと空腹なのもあって悪くないキドにイライラする。
早く起きてくれないかと待っていると、ガチャリとドアが開いてやっとキドが起きてくる。

「あ、キドおはよー」

僕は欺きながら挨拶をすると、いつものジャージ姿のキドに頷かれるだけだった。

「…カノ、飯なら今から作るからちょっと待ってろ……」

明らかに辛そうにしているのは僕にだって理解した。
最初は暑さでかなっと思っていた汗は、なんだか少し違う感じがしてキドの様子を眺める。

「キド何か隠してない?」

不意に出た言葉に僕自身もついていけず、沈黙が訪れる。
沈黙を破ったのはキドだった。

「朝から少し体が重くてな。何、心配するな」

その言葉は僕が言えた事じゃないけど、嘘を吐いていた。
キドの額に手を当てても、熱はなくてただ汗が出ているだけだった。

「な、何するんだ!お前は!?」
「ぐっは!!」

キドは顔を赤くさせながら僕のわき腹を殴る。
いつもの事だけど今日のは痛くない気がする。
力が入っていないようなそんな感じ。
でもそれを言ったらきっとまた殴られるので、何も言わずわき腹をさする。

「痛いなぁ…」

いつもより痛くないけどあえて大げさに痛いと言っておく。

「フン、お前がいらん事をするから…だ………」

キドは僕にそう言いながら僕の方に倒れてくる。
脂汗も酷く、息づかいも荒くて良い状態とは言えなくて、僕はキドを担いでソファに横にさせる。
キドは相変わらず息づかいを荒くして、辛そうにしている。

「キド…?ねぇ、キド?」

話しかけてみてもキドは辛そうにしているだけで、僕はどうしたら良いのか分からず一人で焦っている。

「ねぇキド…」

僕はグルグルと色々な思考が巡り、どうしようかとキドを何度も不安で見て、キドの蒼白な顔色に恐怖になり、バイトが休みなセトの部屋のドアを激しくノックする。

「セト!起きて!キドが、キドがぁ!!!」
どれだけ叩いても起きる様子はなく、僕はその場に座り込む。
キドは今にも苦しそうにしていている。

「ん…っ、はぁ…」

お腹を押さえて苦しそうに息を荒くしている。
どうしたらいいのか全く分からず、僕はキド名前だけを呼びながらキドの元に行く。

「キド、ねぇキド?」

僕がキドの目の前に来た頃、キドがうっすら目を開ける。

「キド!!?」
「何だ、そんな顔をして」

強がっているのか、キドはいつもの表情を作って僕に言う。

「何だ、じゃないよ!そんな辛そうにして!!何かあったら僕どうしたら…!」

僕が焦っているとキドはフッと笑って「いつもの事だ」と言った。
何がいつもの事だ、こんなに辛そうに…いつもの事?
いつもこんなに辛そうにする事なんて、キドにはないはず…。
僕は考えるより口が先に開いた。

「いつもの事って何が?」

僕の問いにキドは頬を染めて小さく「生理痛だ」と言った。
僕は何も言えず、その場に立ち尽くして欺くのも忘れている。

「お前欺けてないぞ」

僕はどんな表情をしていたのだろうか、すぐに欺いていつもの様に笑う。

「いやーキドも大変だねー!」

口から出てくる言葉は嘘ばっかり。
本当は違うことを言いたかったはずなのに、僕は何でこんな時でも嘘しかつけないんだろう。

「カノ、嘘を吐くな」

キドはいつもとは違って僕の頬を引っ張って、僕の能力が解かれる。

「今のお前は欺いても意味がない」

キドは僕の頬を離してフッと笑い、キッチンに立って朝食を作り始めた。

「動いて大丈夫なの?」

僕はキドに尋ねながら後ろについて行って、様子を伺っていたけど「邪魔だ」とキドに言われ、虚しくソファに戻る。

「キド、大丈夫なの?」

僕は不安になりながらキドに尋ねた。
キドは「大丈夫だ」と言っていつもの朝食をスムーズに作っていて、良い匂いが次第に部屋中に広がっていく。

「先に二人で食べるか?」

キドが振り返りながら僕に尋ねてきて一瞬ドキリとするけど、すぐに我に返り「そうだね。誰も起きてこないし」と笑いながら言うと、後少しで出来るようで暫く待っているとキドが声をかけてきた。
ソファで待っているとキドが朝食を作り終えて、テーブルに運んでくる。

「今日は材料がなかったから、これぐらいしか作れなかった」

キドはお箸とお皿を持っていて、お皿には野菜炒めが入っていて、お皿とお箸をテーブルに置いて、またキッキチンに戻ってお茶碗とお椀を持ってくる。

「今日のお味噌汁は豆腐なんだね~」 

いつもお味噌汁の具は色とりどりで、今日は豆腐。

「悪いな、これぐらいしか作れなくて…」

申し訳なさそうに言うキドに対して僕は、ニコニコと笑顔で言う。

「大丈夫だよ!材料もなかったんし、ね?」
「だが…」
「良いって!それより早く食べよう!!」

どうしてだろう。
僕は違うことを言いたかったはずなのに、【嘘】しか言えなかった。

僕とキドは二人で朝食を食べて、二人で野菜炒めを完食して僕がお皿を洗っている時だった。

「…っ、痛い…!」

水を使っているからキドが何か言ったのは聞こえたけど、具体的には聞こえなかったのでいったん水を止めて、後ろに振り返り「どうしたの?」と尋ねると、キドはお腹を抱えてソファの上で苦しそうに横になっている。

「キド!?」

僕はキドに駆け寄って体をゆする。
キドは脂汗をかきながら「大丈夫だ」と言うけど、やっぱり僕は不安でキドの体を余計に揺する。

「カノ…揺するな頭に響く…」

頭を押さえながらキドが苦しそうに言って、顔を歪める。

「あ!ゴメン…」

揺するのを止めてどうしたら良いのか分からなくて、暫くあたふたしてるとキドが温かいお茶が飲みたいと言ったので、キッチンに急いでお茶を探すけど温かいお茶は無くて、冷蔵庫を開けてコップにお茶を入れて電子レンジでお茶を温める。
チンッ、と音がしてコップを電子レンジから取り出しキドに渡す。

「電子レンジで温めたよ」
「あぁ、ありがとう」

キドは起きあがってお茶をゆっくり飲んで、半分ぐらい飲んでコップをテーブルに置いて、ソファに横になる。

「キド大丈夫?」

僕はキドの近くに腰を下ろして、キドに尋ねる。

「大丈夫だ」

キドは横になりながらそう言うけど、僕には大丈夫には見えず、僕はキドに自分のパーカーをキドにかけて小さく呟いた。

「辛いなら、弱音ぐらい吐いたら良いのに……」

キドには聞こえないように言ったつもりだけど、キドには聞こえていたようで顔を真っ赤にさせている。

「う、うるさい!俺が弱音を吐いてどうするんだ!!」

ただの強がりに、僕は唇に吸い込まれるようにキスをしてしまった。
殴られると思っているとキドは、意外そうに僕を見つめて「俺が今にも死にそうな目でみるな」と言われ、僕の表情がキドが言う通りの表情をしていると理解する。

「僕そんな顔してた?」

ニコニコしながら尋ねるとキドはクールに笑い「あぁ、不安に詰まったな」と言って僕の頭を撫でる。
暫く頭を撫でられていて暫く経って、落ち着いて僕がキドの頭を撫でる。

「こんな時は僕がキドの頭を撫でる番でしょ?」

キドは生理痛で弱っていて僕を殴ってこない。
僕はキドを撫でながら「たまには弱音を吐いても良いんだよ」と言ってキドの体調が良くなるまで、傍にいた。

【弱音】END

  • No.117 by ブラック  2016-04-05 05:20:10 

【好きの果てに見える寂しさ】

好きな人に恋人が居ると知った時の気持ちは誰が理解してくれるだろう。
きっと同じ想いをした人にしか解らないのかもしれない。
僕のこの気持ちもきっとそうなんだ。
僕に好きな人が居て、その好きな人には当然の様に好きな人が居る。
これは僕に対する欺き続けてる罰なのだろうか。

★★★

「シンタロー君」

僕は何気なくを装ってソファに座っているシンタロー君、僕の好きな人に笑いながら声をかける。
シンタロー君はスマホの中に住んでいるエネと言う人物(僕はエネちゃんと呼んでいる)と話をしている最中だった。

「カノか、どうした?」

シンタロー君は僕に視線を向けていつも通りに返事をする。
僕はその返事を何度も聞いて思うことがある。
エネちゃんと接する時と返事が違う、と。
僕はシンタロー君の隣に腰を下ろして、欺きながらいつもの様に世間話を持ちかける。

「そう言えば最近事件とか多いよね~」

シンタロー君は興味など示さないで僕のセリフにただ「あぁ」と答えて会話終了。

★★★

次の日、エネちゃんと話しているシンタロー君を雑誌を読みながら、時々何度も見つめている。

『だからご主人!!日焼け止め買いましょうよ!!』
「いらねぇよ!!!」

今は真夏という訳ではないけど、日差しが強いから日焼け止めは買っていたほうが良いと僕は心の中で返事をしている。
雑誌を読み終えてシンタロー君に話し掛けてみる。

「シンタロー君って引きこもってたからそんなに肌白いの?」

僕の質問の返答は「部屋に居たら紫外線も浴びないからな」とツッコミも何もくれず、ただ正論を言われる。
僕になにか不満があるのだろうか。
それとも――
それとも、僕なんかよりエネちゃんと話しているほうが楽しいのだろうか。
シンタロー君にとって僕はただのメカクシ団のメンバーという存在なのだろうか。

★★★

今日はエネちゃんはキサラギちゃんの携帯の中に居るらしい。
ヒビヤ君から聞いたことだけど、キサラギちゃんとマリーとセトとエネちゃんとキドで買い物に行ってるらしい。
今アジトには僕と、ヒビヤ君とシンタロー君しか居なくて各自好きな事をしている。
僕はヒビヤ君とおしゃべりをしてキド達の帰りを待っていると、ヒビヤ君は用事があるとのことでどこかに行ってしまった。
アジトには僕とシンタロー君のたったの二名。

「シンタロー君」

いつも通りに話しかけて僕は何がしたいんだろう。
僕の中にはいつもシンタロー君が居て、シンタロー君の中にはいつもエネちゃんが居る。
シンタロー君にとって僕は必要がない。
僕なんてただ欺いて笑っているだけの気持ち悪い化け物でしかない。
いつからシンタロー君を好きになったんだろう。
どうしてシンタロー君なんだろう。
時間的にはキドやセトの方が付き合いが長いのに、どうしてシンタロー君を好きになったんだろう。
姉ちゃんと一緒に居たから?
姉ちゃんが勉強を教えてもらっているから?
姉ちゃんがシンタロー君の事を好きだったから?

「…ノ、…カ、…ノ、カノ」

いつの間にか名前を呼ばれていて、僕はびくりと肩を揺らして欺いて「何かな?」とおちゃらけて返事をする。

「何欺いてんだ」

シンタロー君は僕の額をデコピンして能力を解かす。
あぁ、そうなんだ。
僕が君を好きなのは――

「痛いよ~」
「っで、オレを呼んでどうしたんだよ?」
「んー?何でもない」

ニコニコと笑っているとまたデコピンをされそうだったので、額を必死にガードすると腰を揉まれてこしょばされる。

「ちょっ!止めて!!そここしょばいから止めて!!」

涙目になりながらシンタロー君に訴えるも止めてくれず、僕はされるがままになって暫くは呼吸もまともにできなくなっていた。

★★★

最近はシンタロー君と話すのが少ない。
シンタロー君はやっぱりエネちゃんと話してて、僕が話しかけてはいけないようなオーラを出している。
シンタロー君――
君は驚くかもしれないけど――
僕は君の事が――

「大嫌い」

シンタロー君の驚いた顔、エネちゃんのありえないものを見るような顔、僕は今どんな表情をしているんだろう。
気が付けば、僕はシンタロー君の首に手を伸ばしてその手の力を込めた。

僕が君の事を好きなのは、
僕の性格を理解した上で、話をしてくれるからなんだ。
驚くかもしれないけどシンタロー君、僕は君の事が――










「――大好きだよ」

【好きの果てに見える寂しさ】END

  • No.118 by ブラック  2016-04-05 05:20:45 

【幻があったから】

夢の中に誰かが立っている。
誰だろう。
ぼんやりと見える誰かはゆっくりこっちに歩いていきて、僕の目の前に来たと思えばいつもそこで目が覚める。

「…おはよう」

僕はアジトに居る皆に挨拶をしてどうやらソファで寝ていたようで、ソファから起き上がりアジトを見渡す。
アジトにはカノ、シンタロー、セトがアジトに居て他の皆はどこかに出かけているのだと思う。
僕は夢で見た人物を捜しに行こうと思ってアジトから出て、公園や商店街など様々なところに足を運ぶ。
けれど夢で見た人物は見つからなくて、晩御飯の時間にアジトに戻る。

★★★

そんな事をずっと繰り返しているある日の事。
僕はまた夢を見た。
誰かが公園のイスに座っているところや、ねぎまを食べているところ。
商店街をブラブラと歩いているところ。
今日はやけにくっきり見えて歩いている人物の姿が良く分かる。

「んっ…」

夏でクーラーをつけていて寒さから目が覚めた。
僕はアジトを出て、公園や商店街に向かってみる。
夢で見た人物はどう見ても僕だった。
僕と同じ格好で同じ姿。
僕の髪の色を真っ黒にした人物が夢の中でねぎまを食べたり、商店街を歩いたりしてた。
目的の場所に着いても目当ての人物がおらず、しょんぼりとしてアジトに向かっていると、見知った人物が僕の横を通り過ぎていく。
紛れも無い夢で見た人物で僕はその人物の後を追いかける。

「…ね、ねぇ…」

無我夢中で目の前の人物に話しかけて僕は真っ黒な自分の隣に並ぶ。
目の前の人物は僕を見た途端に目の色を変えて、「お前!やっと見つけた…」と言って僕の肩を掴む。
僕はどうしたら良いのか分からなく手首をかしげるも、目の前の人物が「夢でお前を見たから捜してた」と僕と同じ理由を言って、僕の肩をポンポンと叩いて「俺はクロハ、お前は?」と自己紹介を始めたので、僕も「コノハ…」とだけ返す。
クロハと名乗った人物と僕は初めて話をした。

【幻があったから】END

  • No.119 by ブラック  2016-04-05 05:21:42 

【教師と生徒と補習】※オリキャラ有り

俺の大事な休暇を潰した奴が居る。
長期休暇のはずが大体3分の1しか休みが取れない。
原因は補習。
俺の大事な大事な休暇を潰したアイツの顔を見に、今日も学校に向かう。
職員室のドアを開いて数少ない荷物を置いて、コーヒーを飲む。
アイツが来るのは大体30分後。
指定した時間の10分前に来るのが良いところ。
30分間何をしようかと考えたが、課題を作って残り20分となったところで携帯が鳴った。
アイツからだ。
今日休みますとかだったらぶっ飛ばしに行こうと決めて携帯を開く。
メールではなく電話だったので、通話ボタンを押した。

『もしもし、クロハ先生ですか?恋也(れんや)です』

何で生徒が俺の携帯電話を知っているかは、急に用事が出来た時に連絡が出来なかったら困るからと言う理由で教えた。

「あぁ、俺だ」

いつもの低い声で言った瞬間外から車が通る音が聞こえた。
数秒後、携帯の向こうから先ほど聞いた車の通る音が聞こえて何となく理解はした。

『あの…裏門が閉まってて入れません』
「あぁ分かった」

そこで通話を終了して裏門に行く。
裏門が見えた頃、金髪の髪が見えていつも通りに制服を着こなしていた。
姿が見えたところで金髪の少年、六条道恋也は端末を弄っていて時に空を見上げたり、地面を見たり、端末から目を逸らしている。
裏門を開けて、端末を取り上げる。

「ここは学校だ。しかも今から補習だ。端末は仕舞え」

六条道(ろくじょうどう)は俺が取り上げた端末を必死で取り返そうとしている。
182cmの俺からみたら173cmの六条道は小さく見えた。
端末に何かあるのかと思い、端末の画面を見ると俺は端末の電源をぶち切って自分のポケットの中に仕舞い込んだ。

「ちょっ、俺の端末返してください…」

六条道の端末にはの画面には何があったと思う?
端末を壊さないだけマシだろう。
隠し撮りされていたとは俺もこれからは気をつけないと。
六条道の端末には俺の隠し撮り写真や、ムービーなのがあった。
一瞬で壊したくなったがな。

「クロハ先生返してください!」
「んなもん見てる暇があったら赤点とらねぇように勉強しろ」
「え?嫌です」

一度殴りたいが、そんな事をすれば俺は教師失格だろう。
ぐっと堪えて裏門から職員室に向かう。

「ちぇ。折角裏門の鍵閉めたのに」

舌を打つ音と、聞き流せないセリフが聞こえた。
何となく疑問には思っていた。
何故裏門が閉まっているのかと。
俺が学校に入ったのも裏門なので、開いているはずだがどうしてか六条道が来る時には閉まっていた。
何故か可笑しいと思っていたらコイツが犯人か。

「お前か…」

振り返って睨んでみると六条道は表情を変えず、笑っていた。
不思議な感覚がして変な気持ちに襲われた。
多分、笑っているの目の前で見た事がないからだ。

「ん?どうしました、クロハ先生」
「いや、何でもない。職員室で待ってろ」
「先生が先に行かないんですか?」
「あぁ、ちょっと用事を済ましてから行く」

分かりましたと俺の横を通り抜けて行って、職員用玄関の方へ向かう。
俺は六条道の端末を取り出し、電源を付けてさっきの画像を全てチェックし削除する。
映像は後で確認しようと思い電源を切って職員室に向かう。
職員室のドアを開けると六条道は、ドアのすぐ隣の遅刻届けを書くスペースに凭れていた。

「用事は終りましたか?」
「ある程度はな」
「そうですか」

それ以上の事は聞いてこなくて、俺が指示した席に腰を下ろして鞄も机の下に置く。
俺は課題を六条道に渡して取りに行くものがあると行って職員室を出た。
俺はそのまま廊下に出て職員室から離れた場所で映像を確認した。

『九ノ瀬さん、今度の休み皆で食事に行くんですけどどうですか?』
『あ、すみません。用事があって行けないです』

最新の映像はつい最近の事で、俺が適当に断った時の映像。
大体が誘われても断っているので断った映像の方が多い気もする。
結構な数があって、1つずつ削除するが面倒になって先に全部見てから削除しようと決めたら、ふと目に映った単語がフォルダとして書いてあった。
フォルダ1【数学 課題】。
開くと更に細かく分けられていて、一つずつ見ていくと今日以外全ての補習の課題を作っている俺の姿があった。
こんな映像撮られていたのか。
フォルダ2【授業】。
フォルダ2は授業をしている俺の映像。
俺以外にも黒板や教科書とノートも映し出されている。
これはあの復習にでも使うんだろう。
削除対象から外そうとしてたら、フォルダ2の中にフォルダAがあった。
フォルダA【クロハ先生】
俺だけが映されていて、音声も入っていた。
丸秘フォルダ【コノクロ】
少し嫌な予感がしたが、開いてみると俺の予想通りに嫌な予感が的中した。

『クロハお疲れジュースあげる』
『んぁ?さんきゅ』
『クロハそのジュース媚薬入ってる』
『ぶっ!!』

俺は媚薬の入った飲み物を飲まされそのままコノハに抱かれた事がある。
フォルダAは削除。
大体のフォルダの削除が終って職員室に戻ろうと後ろを振り返ると、六条道が居た。
とかではなく誰も居なくてそのまま職員室に戻った。

「クロハ先生課題終りましたよ」

いつの間にか六条道は課題を終えて端末を弄っていた。
ん?端末?
俺が持ってるのは六条道の端末。
じゃぁ、六条道は誰の端末を持っているんだ?

「お前、その端末誰のだ?」
「自分のです。すぐに仕舞いますよ」

六条道は端末を仕舞って俺に課題のプリントを見せた。
俺はプリントを受け取り採点を始めるが、全部あっている。
間違いはなかった。

「お前、数学できるんだよな?全部正解だよな?何で赤点取るんだ?」

俺の質問に六条道は即答した。

「クロハ先生の補習が好きだからです」

笑いながら即答した六条道を一発殴りたいと心の底から思ったが、ぐっと堪えて新しいプリントを渡す。
六条道は受け取りものの10分で全ての問題を解いた。
しかも途中式すら書かずに答えだけを書いた。

「出来ましたよ」

そう言って渡されたプリントは全部正解で何でか悔しくなる。
一度だけ間違わせたいと思ってしまう。

「お前大学の数学やってみろ」

大学受験の問題をコピーしてプリントを渡す。
六条道はいつものすまし顔で問題を解いていた。
そして15分後。

「…全部あってる」

採点をすれば全問正解で悔しい。
すると六条道が急に提案してきた。

「俺に間違わせたいならクロハ先生が手作りで問題を作ってみては?数学以外でも何でも」

六条道にそう言われ1つの提案が浮かんだ。
口角を上げて笑いながら今日はもう良いと言って六条道を帰らせた。
次の日、俺は職員室に自分で作った問題を持ってきて、六条道が来るのを待った。
六条道はいつもの時間に来て、いつもの席に腰を下ろした。

「じゃぁ、このプリントの問題を解いてみろ」

素っ気無く渡しながら俺は六条道の表情を観察した。
俺が作った問題集はこうだ。

問題A
次の式に当てはまるものを答えなさい。
1鶏肉+ネギ=
2パン+卵+牛乳+砂糖=
問題B
色から連想されるものを答えなさい。
1黒+白=
2白+茶色=
最終問題
言葉と人で表されるものを書答えなさい。
1数学+人=

ちなみに答えがこう。

問題A
1ねぎま
2フレンチトースト
問題B
1珈琲
2タバコ
最終問題
3俺

問題Bまで解けたとしても最後は解けないはずだ。
なんせこの学校には数学教師は俺を合わせて3人居る。
数学補佐も合わせたら5人居る。
その中から誰を選ぶ。
俺以外だとこの問題はハズレ。

「あ、れ~?」

六条道の声が聞こえた。
何処の問題で躓いてるのかは知らないが何だか嬉しい気分になった。
解らないだろう、解らないだろう。
俺は間違ってくれと思いつつ、六条道を観察している。

「あー、こうで良いか。出来ましたよ」
「ん」

プリントを受け取り採点をしようとしたら、六条道の答えが合っていた。
いや、待て。
最初の問題の答えをはさみと書いてあるこれは間違いか?

「六条道最初の問題のはさみってあれか?紙を切るはさみか?」
「違いますよ、焼き鳥のはさみです。違う言い方をすればねぎまです」

やられた。
最終問題は何故か知らないけど、『クロハ先生』って書いてあった。
つまり、全問正解。

「全部合ってるぞ」

プリントを受け取り嬉しそうにもしないでコイツはプリントを仕舞った。
急にポケットから振動がきて携帯だろうと出してみると、六条道の端末でそういえば返してないのを思い出し六条道に渡した。

「有難う御座います」

六条道は端末の電源を切ってポケットに仕舞いこみ俺のほうを見てくる。
いつもその視線が好まない。
見透かされてるような感じがして気持ちが悪い。

「今日は昨日のプリントの続きをやったら帰って良いぞ」

プリントを渡し、六条道が問題を解いて帰っていった。


今日は普通に学校で3分の1の休みも取って学校に向かう。
生徒達が登校してきて、自分のクラスに入って思う。
六条道が居ない。
いつも必ず居る奴が居ないと物寂しいものだと思いつつ、出席をとる。
俺は六条道の担任でもあるから六条道を欠席にした。
きっと風邪でも引いたんだろう。
何時間目かは忘れたが、数学があってテスト範囲や新しいとこを教えて一日が終った。
暫く職員室に居ると六条道からメールが届いて開けてみると一文だけ書かれていた。

『貴方が好きです』

俺の返事を待つ前に六条道は転校すると校長から聞かされた。

【教師と生徒と補習】END

  • No.120 by ブラック  2016-04-05 05:22:31 

【熱が出たから】※オリキャラ有り

朝起きると熱があった。
微熱かと思って放置していたが徐々に体温は高くなり、仕方なく薬を飲んで横になっていた。
熱になった原因は分からないが、昨日の雨に濡れた事でも原因があるのだろうか。
―ピンポーン
インターホンの音が聞こえて体を起してドアに向かう。
セールスとかだったら無視でもしようと決めてドアを開けると、意外な人物が立っていた。

「よう」
「……」

夏場だというのに黒い服を着た九ノ瀬クロハを心配しても大丈夫だろうか。
重たい頭を無理やり上げてクロハに笑顔を向ける。

「おはよう、どうしたんだ?」

遊びに来たとかなら断れば良いかと思っている。
クロハは俺の様子が可笑しいのに気が付いたのか、俺の額に手を当てて驚いた表情をしている。
手をすぐにどけてクロハは俺を担いだ。

「え、どうした?」

いつもより回転が遅い為何が起きているのか分からない。
クロハは無言で俺の部屋に入り、ベットに俺を寝かせた。

「お前、熱あるなら寝てろ」
「寝てた時に来たのはクロハじゃん」
「悪かったって、何か買って来てやるから何が食べたい?」

食べたいものは無く、ただクロハを見つめているとクロハは勘違いかワザとかのどちらかで頬を赤く染める。

「ま、まさか…俺?」

一発殴ってやろうと拳を作ってクロハの右頬を殴る。
効果音はペチッと言う音だと思う。
力が入らない為意味も無く殴ったようなもの。

「いたい」
「痛くないくせに」

痛くも無いのに痛いと言ってきて頬を抓る。
数秒で離して食べたいものが無いと伝えて俺はそのまま目を閉じた。


ひんやりとしたのが額に乗ったのが分かる。
タオルか冷えピタか手だろう。
どれかは分からなかったが、額に何か乗ったのは理解できた。
目を瞑っていても仕方ないので目を開ける。
目の前にはクロハの顔がある。

「おはよ」

クロハの口が動いただけで俺は顔から火が出そうになる。
熱の所為と言えるけどそれ以上に赤くなる気がした。
クロハの手が俺の頭を撫でて、俺の頬を指でなぞって、その仕草だけで俺は幸せになれた。

「にやけてる」

にやけてても仕方が無い。
それだけクロハが好きで堪らない。

「クロハ…好き」

言ってしまったっと思ってからは遅くてクロハは顔を赤くしてそっぽを向いた。
それでもその仕草さえ愛しく思えた。

【熱が出たから】END

【心霊特集見た後になる事】※オリキャラ有り

「あっ…んっ、ヤダ…」

俺の下に居るのはシンタロー。

何でこうなったのかというと、俺がシンタローがホラーが苦手なのを知っていてわざと『真夏の心霊特集』を一緒に見たところから始まる。
二人で『真夏の心霊特集』を部屋を暗くして見ていると、やっぱり心霊系はカメラの端に映ったとかが多い。
けどシンタローはチラッと映っただけでも俺にしがみ付いてきて、テレビを見ないようにする。

「シンタロー大丈夫だから、俺が横に居るだろ…」

本日何回目かは忘れたが、同じことを言ってシンタローの背中に手を回して背中をさする。
ランキング順に映像を流すタイプなので今は第3位で、もうすぐ第1位にくる。
俺はテレビよりシンタローの反応の方が気になっていた。
丁度、第3位の映像が終って第2位の映像に変わった頃にシンタローが不思議な動きをした。
俺にずっとしがみついて、何かを我慢しているかの様な…。

「シンタロー」

気になって声をかけると、シンタローは頬を赤くして俺を見つめる。
そんな視線が可愛く見えたが、後で色々妄想などはしようと思いシンタローに躊躇いもなく尋ねる。

「トイレ行きたいの?」

俺が躊躇いもなく言った言葉にシンタローは顔を真っ赤にさせ、小さく頷いた。
第2位の映像も終ったと思われる頃には、シンタローは限界を超えているのか息遣いが荒くなり始めた。
さすがに放置するわけにもいかないし、かと言って俺は見るから一人で行って来いって言うのもアレなので、録画していたのを一度一時停止をしてシンタローをトイレまで連れて行った。

無事にトイレを済ませて、部屋に戻ってきて続きを見る。
第1位の映像はかなり恐怖もので俺でも一瞬身震いをした。
これがこの番組の最後の映像のようで、エンドロールが流れてきたので停止ボタンを押し、録画一覧まで戻って来て、『真夏の心霊特集』を削除する。
番組を削除してもシンタローは俺にしがみついたまま。

「シンタロー、消したからもう見ないから」

俺がどんだけ言っても意味ないのか、シンタローは首をフルフルと横に振って俺にしがみついてくる。
どんなだけ怖かったんだよ。というのを心の中で呟いて、シンタローを一人にさせたらどんな反応をするのか気になって、「俺トイレ行くから」と嘘を言って部屋から出ようとすると「俺も行く」とシンタローがついて来ようとするので、必死に止める。

「お前はさっき行っただろ!!」
「ほっとけ!!」

と反発してきたので、この作戦はなしにしようと思ってある事を思いつく。
このまま猛スピードで自分の部屋に入れば良いのではっと、思って猛スピードで自分の部屋に戻る。
所詮ヒキニートの力じゃ俺の早さにはついて来れないだろう。
ドアの鍵を閉めて、しばらくリビングの様子をドア越しに伺った。
少しやりすぎたかなと思ったが、後には引けないのでシンタローの反応を楽しもうと思う。

「え?なぁ…ちょっ、一人にするなよ…」

か細い不安の声が聞こえてきて、ニヤニヤとカノの様に笑いさらに聞き耳を立てる。

「なぁ、おい。レンヤ…!戻って来いよ…」
「レンヤ…早く…頼むから…ぁっ!」

聞きなれない声が聞こえて、俺は鍵を開けてシンタローの傍に駆け寄る。
シンタローはソファーの上で足を閉じて、ズボンをぎゅっと握っている。

「シンタロー!?どうした?何があった?」

俺が取り乱していると、シンタローは一言「トイレ行きたい」と告げた。
さっき行っただろと思いつつ、まぁ、ホラーが苦手なら仕方ないかと思いシンタローをトイレまで連れて行こうとすると、シンタローの顔が赤く染まる。

「どうした?」

顔を覗き込んで尋ねても、シンタローの顔は赤いままで顔色が変わることはない。

「取り合えず、立てるか?」

俺の質問にシンタローは首を横に振り、焦ったような顔をした。
多分限界が近いんだろう。
俺はシンタローの許可を取らずにシンタローを姫抱きして、トイレまで連れて行った。

あの後も何事も起きなくて、シンタローを一人で寝かすのは良くないと思い俺のベッドで一緒に寝る事にした。

【心霊特集見た後になる事】To be continued

  • No.121 by ブラック  2016-04-05 05:22:59 

【御伽噺】


【プロローグ】

闇の間―廊下にて―

王の宿命とは一体なんだろうか。
何故俺は王に仕えているのか。
その意味すらもう思い出せないで只、王の命令に従っている。

「おいクロハ。次の会議ではよろしく頼むぜ」
「はい。かしこまりました」

俺は一体何をしているのだろうか。
俺は王に仕える意味があるのだろうか。
そんな事を思いながら次の会議とやらに出るために、準備をする。
王はほとんどの事を俺に任せて会議とやらには顔すら出さない。

――俺は一体、何をしているんだろうか――

会議というのも面倒な事だ。
どうでもいい事を聞いて何になる。
本来なら断っているが王の命令の為、逆らえない。
俺は会議を終えて廊下を歩き自室に戻ろうとすると、誰かに名を呼ばれ後ろに振り返る。
後ろに居たのは真っ黒で巨大な蛇だ。
目が真っ赤で不気味な真っ黒な蛇だ。
不気味な蛇の周りには同じく不気味な空気が漂っている。
その蛇はまるで呼吸をするように俺に尋ねた。

「何をしているか知りたいか?」

考えている事が読まれたみたいで不快になるも無表情と無言でいれば蛇は、人が他人を馬鹿にするように舌をシュルルと出している。
不気味な蛇は舌を出しながら早く答えろと言わんばかりに目を更に赤く染める。
何も言えず、その蛇をじっと見ていると蛇は俺の方にだんだんと近付いてきてしまいに俺の目の前にいる。
俺と蛇の間には結構な距離があって分からなかったが、この蛇は俺の身長を越えた巨大な蛇だ。
俺や王を簡単に飲み込むだろう。
額から汗が流れ落ちて頬に伝い、冷たい廊下に真っ直ぐ一滴の汗が落ちていく。

「何故、王に仕えているのか知りたいか?」

蛇の息が顔にかかるぐらいの近さで、低い声で言われ俺は後ずさりをする。
関らない方が良い気がする。
俺は蛇を睨みながら通り過ぎて行こうとすると、蛇は通さないとばかりに巻いていた体を伸ばし始める。
やっぱり全身真っ黒な蛇だ。

「王に仕える者、貴様は私を知っている」

そう言いながら蛇は嘲笑するように俺の頬を舐める。
舐められたと理解すれば体は大きく震え、咄嗟に腰に差してあるサーベルを抜いて蛇に切りかかる。
サーベルの刃は蛇をすり抜けて何もない空間を切ったと同時に俺の意識は薄れていった。

闇の間―自室にて―

何が起きたのだろうか、気が付けば自室に居て、ベッドの上で横に寝転んでいて何が起きたのか全く分からない。
先ほど見た蛇は夢だったのだろうか?
夢なら気味が悪すぎる。
――ピピッ。
メッセージが届いているようだ。
俺はベッドから起き上がり、机にある黒い羽を突く。
黒い羽は真ん中で綺麗に真っ二つに割れて、上下に分かれる。
メッセージには王からで『廊下で倒れてたぞ』とだけ書かれていた。
俺は王に返信をしてメッセージパネルを閉じる。

「貴様は私を知っている」

自室全体に声が響き、その声は俺が廊下で見た蛇の声だ。

【御伽噺】To be continued?

  • No.122 by ブラック  2016-04-05 05:24:22 

【なりすましゲンガー】

俺は影だ。
いつもこうやって後ろ指を指されて笑われる。
どうせあっちもこっちも、二進も三進もお前の影に隠れたままなんだ。

★★★

「おばさん、この席どうぞ」

快速電車の中、俺の目の前に座るコノハが年寄りに席を譲る。
俺は席から動かず座ったまま。

「あら、どうも助かりました」

年寄りはフフフと笑い、コノハが譲った席に腰をかける。
コノハは近くで立ちながら窓の外を見ていている。

俺はその光景を見て見ぬ振りをする。

★★★

「最近の若者達は--」

なんてよく耳にするが、なにを隠そう俺がその最たる例だ。

実は俺だって怖いものはある。
人の心の奥底なんて怖くて知りたくもない。
きっと俺は誰の目にも映っていなく、そこには存在しない。
存在するのはコノハで俺じゃない。
だから俺はコノハの影だ。
いつもそうやって後ろ指を指されて笑われて、そんな行ったり来たりの人生で、日の光を浴びないせいでコノハの影を何度も影踏みをしてるんだ。

実は寂しがり屋の口癖が「アイツみたいにはなれない」ほらな、俺とコノハの距離が開いてしまって追いつけないんだ。

★★★

独りぼっちで誰も周りに居なくて、孤独な夜を何度も明かして、部屋の隅にポツンと咲く花に勇気を貰っていた。

トントンと部屋のドアがノックされてドアが開く。
部屋に入ってきたのはコノハで「話があるの」と言われる。

「クロハ最近、僕のこと避けてる?」

--君の心の中覗いて 忘れ物を見つけました。

俺は何も言えず、ただ黙っているとコノハは俺の膝の上に座って「クロハ」と俺を呼び、首に腕を回して俺の唇にキスを落とす。
その瞬間に頬が赤く染まって、目を逸らす。
そして逸らした目を向かせるように顎を掴まれて、コノハの方に向かせられてまたキスをされる。
今度は舌をねじ込まれて口内を好きなようにされる。

「んっ…ゃ、ぁ!」

喉の奥から聞いたことの無い声が聞こえて、息も辛くなる。
コノハの肩を叩いて口を離してもらう。

「クロハ…顔真っ赤」
そう言われて顔が熱いのに気がつく。
あぁ、そうか。
俺は--

「喜怒哀楽が足りない不完全な存在だよ」

とコノハが耳元でささやく。

★★★

明日また太陽が昇って、陰と陽の日陰と日向の境界二つの境目に、やっぱり逃げ続けるだけの人生なんだ。
なりすました影がこうやってコノハの影にずっと隠れて、いつかコノハに照らされて、このまま消え失せれたらそれが良いな。

【なりすましゲンガー】END

  • No.123 by ブラック  2016-04-05 05:25:11 

【心霊現象】内容実話・会話想像

ある日の事だった。
ある小学生(ヒビヤ)の一言から始まった。

「おばさん!いきなり冷房つけないで!!」

ヒビヤがキサラギに放った一言にキサラギが「おばっ!私じゃないよ!!」と言い、アジトの中に居たカノ(なぜいつも居るんだ)とマリー、俺、コノハとクロハが首を傾げる。
今日はそんなに暑くもなく、冷房もつけていないがヒビヤ曰く冷房がついたらしい。

「でも誰も冷房に近づいてないよ?」

カノの言葉に俺とマリー、キサラギが頷く。
コノハは話を聞いていなくクロハと何かを話している。

「いやでもついたんだって!」
「いつ?」
「2時間前!」
「私家にいたけど…」

キサラギの言葉にヒビヤは凍り付く。
ヒビヤが体験したのは2時間前にアジトに来て勝手に冷房がついたらしい。
それをそこに居ないキサラギのせいにするのはどうかと思うが…。
アジトには誰一人居なかったらしいので、この現象はおかしい。
いや、電気の流れが変わって勝手に作動したとも考えられる。
計画停電とかそういった事情かも知れない。
ここはしばらく様子を見よう。

「暫く様子をみるぞ」

俺が発した言葉にみんな頷いた。
五月○日×曜日。
今度はエネが何か言い出したようだ。

『ご主人!用も無いのにCD入れを開けないでください!!』

今朝の事らしい。
パソコンを起動してる間にトイレを済ませて、カッブ麺を取りに行っている間の出来事らしい。

『ご主人用もないのに何回もCD入れを開けて…』
「オレネットで検索してただろうが!!」

シンタローが反発して暫く言い合いが続いたので、俺はソファから立ち上がり時間も夕方なので、飯を作りにキッチンに向かう。

キドがご飯を作っている間僕がナレーションをするね。
シンタロー君から話を聞くとパソコンでカクカクシカジカを調べていたら(何を調べていたのか覚えてないので適当にして)勝手にCDを入れるとこが、開いたらしい。
「誤差動じゃないの?」と尋ねると「そんな誤差動があるか!」と返ってきた。
そんな事言われても僕パソコンの事知らないし。
暫く話を聞いているとキサラギちゃんも、テレビの音量が勝手に上がったらしい。
ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ、と言うマリーの声が…っていつから聞いてたの?

「そうだったら最近おかしいよね…」
「あぁ、モモから聞いたが勝手に冷房がついたんだってな」
「まぁね」

一通りのことをシンタロー君に話すと、シンタロー君はまじめに考え始めて暫く経ってから「塩でもまくか」と言っていて、さすがにキドに怒られるので止めとこうと言うことになった時に、キドからご飯だと知らされる。

★★★

キドのご飯も食べ終わって、キサラギちゃんがお風呂に入っているときに、よくみたら結構最近に取り替えたはずの時計の指す時刻は大変な事になっていた。
短針と長針と秒針の三つが動くタイプで、電池式のやつだし最近電池を変えたから気にしなかったのに、もう一時間もずれていたなんて。
何がどうしてこうなったんだろう。
明らかに霊の仕業なのだろうか…。

★★★

次の日、時計を新しいのに変えてようすをみることにしてこの事件は幕を閉じた。
たぶん、またいつか語ることになると思うよ。

☆☆☆

「カノ…」
「何、キド?」
「途中から俺のナレーション取るなぁ!」
「ぐぼっ…みぞおち…殴らないで…」

幽霊よりキドの方がよっぽど怖いかもね…。
おっと、恐い恐い。

【心霊現象】END

  • No.124 by ブラック  2016-04-05 05:30:16 

【ヒキニートとヒキニート】

オレが家に引きこもってから二年が経つ頃、とあるチャットサイトでのことだ。
いつもの通り何か情報でも集めることができないかとチャットを始めたのが発端だ。
チャットを始めて数日経って、いつも通りチャットサイト開いて会話を始める。
オレと同じような引きこもりがチャットをしてると思うと、オレと同類で心が救われる。
チャット内容は最近のニュースだったり、ある番組のことだったり様々なものである。
オレもそこに混じって会話をしていると、一人の入室者が現れた。

--鹿さんが入室されました。

『やっほ~久しぶり~あ、新しい人が居る!よろしくねー!』

とても明るい文面を見てオレはコイツは女かと思ってしまう。
今日は平日でコイツは学校に行ってないのかと思うほど元気な文だ。
いや、大人かも知れないから何とも言えない。

『こんにちは、よろしくです』

当たり障りのない返事をしてトイレに行くために席を立つ。

トイレから戻ってきてパソコンの画面をみると、鹿というやつがオレに対して色々質問をしてきていた。

『いつからこのチャットしてたの?』
『君の住んでるとこは?』
『歳は?』
『あれ?ROM?』

オレは質問に一つ一つ答えて色々な話をする。

『18歳なんだ!僕は14歳!』

そんな話をしているときだった。

『住んでるとこ近いね会ってみない?』

そんなことを書いていたので、オレは一瞬イスから落ちて床に尻餅をつく。

「なっ…!」

顔が熱くなって下が熱くなっていく。
そんなこと考えてはいけない。
第一性別も分からないのにこんなこと思うのはよくない。
オレはイスに座りなおして、『良いですよ』と返事をして日時を決めて、チャットサイトを閉じてパソコンの電源を切る。
明後日の平日の午前九時に、○○駅に行くことになった。

次の日、明日だ明日だと思ってろくに眠れやしない。
お互いチャームポイントになる服を教えているので、格好は頭に入れている。
鹿というやつは黒いパーカーを深く被っているそうだ。
オレは赤いジャージを着てると伝えた。
そして、その日がやってきた。
駅までの道を息切れしながら歩いていると、平日のため学生の姿はない。
丁度駅に十分前について体を休める。
相手の姿を探してみるが、まだ見あたらない。
まだ来てないのか、からかわれたのかと思いながらウロウロを繰り返している。

「あ!いたいた!そこの君!!」

後ろから声が聞こえたので足を止め、後ろを振り返り相手の姿を確認する。
後ろに居た奴は「やっほ~」とニコニコと笑っている。
言っていた通りの黒いパーカーを深くではないが被っていて、黒縁めがねを掛けている。

「ぁ、えっと……」

お得意のコミュ障を発揮して、恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
ろくに人と会話してない為、口がうまく回らない。

「緊張してる?」

ニコニコしながらオレに尋ねてきて、顔をのぞき込まれる。
顔をのぞき込まれて、頬を染めて半歩後ろに下がる。

「大丈夫だって!僕も緊張してるから」

片目を瞑って、口元に人差し指を当てて笑うコイツから緊張感は伝わってこなかった。
むしろからかわれてる感の方が伝わってきた。

「僕の名前言ってなかったね。僕の名前は鹿野修哉だよ」
「あ、あぁ…オレは如月伸太郎だ」

お互いに自己紹介してどうしようか考えていると、鹿野が「喫茶店でも行かない?」と言ってきたので、取り合えず喫茶店に向かうことにする。

☆☆☆

「シンタロー君だっけ?僕、君と会えて嬉しいよ!」

にっこり笑うコイツが少し可愛いと思ってしまった。
とある喫茶店にて、オレとカノは飲み物片手に話をしている。

「シンタロー君…ちょっと失礼するね」

鹿野は立ち上がり向かった先はお手洗いだった。
緊張しているのは本当なんだろう。
オレもコーラを飲み過ぎているせいか、トイレに行きたくなり鹿野の帰りを待っていると数分で鹿野は戻ってきたので、入れ替わるようにオレはトイレに入っていく。

「はぁ…」

無事にトイレから出て来て、席に座り話を再開しようとするが、鹿野の様子がおかしい。
そわそわとして何かにおびえているような、そんな感じがする。

「…どうした?」
「え!?な、何でもないよ!?」

フードを深く被り何かから避けているような鹿野が気になって、鹿野の後ろを見てみると特に変わった様子はなく、大人の人がカウンターでコーヒーを飲んでいる。
こっちを向いているわけでもないので、特に関係はないか、と思っているとカウンター席の隣で座っていた奴が、時々こちらを何度も見てきてるのが分かる。

「店、出るぞ」

鹿野の腕を引っ張り、喫茶店から出て後ろを振り返りながら前に歩いていく。
思ったとおり、カウンターに座っていた奴が後ろをつけて来ている。

「つけられてたのか?」
「うん」と鹿野は言い、オレと鹿野はつけて来ている奴から逃れるために、路地裏に入り、大通りに出て街中を歩く。
向かうはオレの家。
この時、オレと鹿野がどうなるかなんて誰も考えはしなかった。

【ヒキニートとヒキニート】To be continued

  • No.125 by ブラック  2016-04-05 05:31:05 

【人間失格】

未来には興味がない。
僕たちは二人で生きていける。
誰の力も借りずに、僕たちは【人間】になることなく、二人だけで生きていける。
そう思ってた。

***

未来には興味がない。
他人にも興味がない。
ただ、アイツが隣に居るだけで良い。
この可笑しな世界で、アイツが、コノハが僕の隣居ればそれで良い。
コノハが隣に居てくれるなら、俺は、人殺しだってするだろう。
何も躊躇わず、当たり前の様に自分の手を血で染める事だろう。
そんな僕を誰かが「人間失格」と言っていた気がするが、顔も名前も思い出さない。
僕とコノハは大都会の街を歩いて、数々のことを目の前で見ている。
人が殺害されるところ、誘拐されることろ、どんなに残酷な事を見ても助けたいなんて思いはなくて、その場から離れずその光景を無表情で見ているだけ。

「……今日も人が殺された」

コノハが口を開くが全く感情がこもっていない。
僕とコノハが此処まで変わった理由といえば、アレしかない。
カゲロウデイズ。
いつの事だったかは覚えていない。
昨日の事かも知れないし、何百前の事かもしれない。
カゲロウデイズが原因で僕とコノハの性格は歪んだ。
僕の場合は元々歪んでいた。
遊園地から帰る途中のメカクシ団の一人、鹿野修哉に銃を向けて引き金を引き、殺害した。
その後にもほとんど全員を殺害した事がある。

「あぁ」

あの頃は僕もまだ感情を出していたのかもしれない。
今となっては感情なんて無でしかない。
表情も全く動かない。
アイツらはとっくの昔に亡くなっている。
全員寿命だ。
あぁ、女王は分からないが。

「ねぇ、クロハ…」
「何だ」

ハテナマークもビックリマークも存在しない。
無表情でそこに居て、ついに自分の笑い方も忘れ、僕たちは大都会の街を意味も無く歩いてる。
何億人死のうが僕には関係がないし、興味もない。

「また事件が起きてる」
「【人間】はすぐに事件を起す」
「あ、刺された」

痛そう、早く病院に、と言う声が聞こえる中僕たちはその光景をただ眺めている。
意味もなく。
そこに存在しているだけ。
ガムを噛んでフーセンを作ってそうやって見て見ぬフリと言うのを続けて、何年になるだろうか。
僕たちはそうやって多分、アイツら、メカクシ団が居なくなってからこうやって生き続けているんだろう。
だからなんだ。
それが何だという。
どこで誰が亡くなったって今の僕らには関係がない。
カゲロウデイズは存在しない。
止める意味もない。
アイツらは存在しない、そんな世界で生きる意味が無い。

「行こう」

殺人の光景も飽きて、その場から離れだす。
行く宛てなどなく、公園などで寝起きをしている。
懐かしいなんてみじんも思わない。
思うことなんてない。
結局僕たちは狂っているという事だ。
僕はコノハが隣に居てくれるなら殺人だって出来る。
コノハも同じで僕が隣に居るなら殺人が出来る。
僕らはどうしてこうなったのか。
さっきはカゲロウデイズのせいだとか書いたが、単なる悲劇の主人公気取りだ。
ただの悲劇にあったフリをしてるだけだ。

「ボールそっちに行ったよ!」

公園から子供の声が聞こえる。
近所の子だろうか。
声的には中学生に聞こえる。

「お、おぉ、OK!!ってあ!」
「リン何やってんだ?」
「うっさい!!レンが変なとこに投げるから!!」
「二人とも喧嘩しない。リンはボールとって来る」
「はーい」

ボールは公園から出て、道路に出ている。
それに続いて中学生ぐらいの少女が公園から出てきて、ボールを追いかける。
少女の見た目はセーラー服の袖を切って、裾を短くして、黒いホットパンツを穿いている。
髪は亜麻色で、肩の辺りで外に跳ねていて、頭には白いリボンがつけられている。
ボールが道路の真ん中に行き、リンと呼ばれた少女が駆け寄ってボールを取ろうとした瞬間、クラクションが鳴り響く。

キィィという音と共に少女が赤く染まって横たわっている。
クラクションの音に気が付いて一緒に遊んでいたらしい子達が、横たわっている少女に近付く。
それが、真夏の8月15日の事だった。

***

トラックに轢かれた少女の命はどうなったかは知らない。
僕もコノハも表情を変えず、無表情でその光景を眺めていた。

次の日、同じ公園に行ってみると、見たことのあ少女がボール遊びをしている。
昨日見た、トラックに轢かれた少女だ。
死んではないようだ。
少しほっとしたのは気のせいだろうか。

いつからか僕たちは感情がなくなっていた。
それはきっとメカクシ団が居ないからだと思っていた。
そうだ。
僕たちはメカクシ団の皆が居ない世界でぽつんと二人だけ残された。
たった二人、人造人間の僕たちが残され他の皆は亡くなった。
それを認めたくは無くて、初めから存在しないようにしようと思って、感情をなくしたんだ。
全てをカゲロウデイズのせいにして、現実から目を背けては、それを悲劇の主人公だと言い聞かせ、自己暗示というのか分からないが、とりあえず現実から目を背けて二人で生きて居ている。
僕もコノハもとっく分かっている事だとは十分に理解してる。
どれだけ探しても、どれだけアジトに居ても、アイツらは帰ってこないことぐらい理解してる。

「――恥の多い生涯を送ってきました、か」

人間失格、という本を書いた人が居る。
誰だっけ、太宰治だったような気もする。
今の僕たちには一番合う言葉なのかもしれない。

人間失格、という曲を作った人がいる。
「さよなら、僕らの人生」
という歌詞で終る。

人間失格、という言葉がある。
感情もなく表情もなく、人の死をなんとも思わない【人間】に使われることが多い。

ある少女のおかげで僕たちは思い出すことが出来たのかもしれない。
あの少女がトラックに轢かれなかったら、僕たちは人の死を見ては無表情で立っているだけの存在だった気がする。
僕らはまだ認めることは出来けれど、いつかきっと違う形で会えることを願っている。
これなら【人間失格】ではないな【人造人間失格】にはならないだろう。
あぁ、これが【人間】というやつか。
まだ、どうやって表情を作っていたか思い出せないけど、俺はコノハと二人でメカクシ団がまた集るときがくるその時まで待っていようと思う。

――恥の多い生涯を送ってきました――

「さよなら、今までの、僕らの人生――」

俺は真夏の8月16日の太陽に呟いた。

【人間失格】END

  • No.126 by ブラック  2016-04-05 05:33:12 

【ツンデレ女とクーデレ勝り】

カゲロウデイズの攻略も終わり、早三年。
私榎本貴音はいつも病と戦いながら、生活をしている…と言うわけではなく、病院の先生の頑張りもあり私の体は普通になった。
これでゲームがやり放題、と思ってゲームをしていたら木戸率いる元メカクシ団が、私の家まで押し掛けて懐かしのアジトに連れて行かれる。
………ゲーム。

遥はコノハで居たためか、体は大分丈夫になっていて発作も起こさなくなり、結構遠出もやりやすくなった。
相変わらずよく食べる……。

三年も経っているので学校にも行っていなく、ダラダラと家にこもってゲーム、ゲーム、ゲーム…とゲーム三昧をしていた。

死んだ人も帰って来ているので、時々文乃ちゃんと伸太郎と遥でバーベーキューをしたりしている。

そして今日もキドこと、木戸つぼみちゃんに家から連れ出されて、メカクシ団アジト(元)に連れて行かれる。
することはいつも同じで皆で話をする。
現在アジトにいるのは私、伸太郎、文乃、つぼみちゃん、修哉君、幸助君、マリーちゃん(漢字知らない)、桃ちゃん、ヒヨリちゃん(漢字知らない)、ヒビヤ君(漢字難しいから忘れた)、遥、と何故か黒い奴が居る。 「……で。何でコイツが居るの!!」

私は黒い奴を指さしてソファから立ち上がる。
すると修哉君がニヤニヤと「良いじゃないもうカゲロウデイズも終わったんだし」と言うので、よくつぼみちゃんがやっていたように修哉君の腹を殴る。
懐かしいな…。

「ちょっ!貴音ちゃん痛い…」

取りあえず修哉君はほっといて黒い奴に近づき、胸ぐらを掴んで「何でアンタが居るのよ!!」と怒鳴って睨みつける。

「先輩…コイツはもう悪さはしないって約束したから許してもらえないか…?」
「いくらつぼみちゃんでもコイツがやったことは…!!」
「でも三年かけて謝ってたの貴音さんも知ってるでしょ?」

つぼみちゃんに言い返そうとしていたら、文乃ちゃんがずいっと顔を近づけて言ってくる。
それはそうだけど、たった三年謝っても私たちは何度も繰り返していたのはかわりない。
しかもコイツのせいで何人もの死者が出て、皆傷ついてそれでも前を向いて生きていたのを三年謝っただけで許せない。

「でも…コイツは…遥の命まで…」

弱々しく言っていると肩に誰かの手が置かれて「貴音」と言い、続けて「僕は貴音と居れただけで楽しかったから大丈夫だよ」と言い、さらに続ける。
「それにたくさんお友達できたから…」と照れくさそうに頬を掻きながら遥は言う。
それでも私はコイツを許せなくて、俯いたまま何も言えないでいる。

「遥君だってそう言ってるか良いんじゃない?許してあげようよ」

修哉君が私に近づいていつもの様にニコニコと喋っているのが分かる。
私はため息混じりに「…遥がそう言うならいいよ」と言い、少し外の空気を吸おうと思いアジトから出ていく。

★★★

「はぁ~…」

ため息をつきながらその辺りを歩いていて、今もアイツを許そうかどうかと考えている。
さっきは遥が良いならという意味で許すことにしたが、まだ私の中にはモヤモヤが残っている。
あの頃遥に感じていたモヤモヤ感とはまた別の……。
あぁ、もう!!
考えても分からないから放棄放棄。
こんな時つぼみちゃんなら…。

「つぼみちゃんなら…」
「貴音」
「つぼみちゃんなら…」
「貴音」

誰かの声がするのは気のせいだろうか。
私は考え事をしていると幻聴でも聞こえたのかな。
いや、そんなはずは…。

「貴音先輩」
「は、はいぃ」

突然耳元で名前を呼ばれ、肩がびくっと揺れる。
ゆっくり後ろを振り返るとそこにはつぼみちゃんの姿がある。
路地裏というわけではないから居てもおかしくないけど…。

「先輩、どうしたんだ?」

つぼみちゃんはいつもフッと笑いながら私に尋ねてきて、頬が赤く染まるのが分かった。

「どうした?」
「え!?べべべべ、別に!!」

首を横に振りながら頭に手を置いて、言い訳を考えていると私のバカな頭じゃ言い訳が出てこず、アハハと言いながら目を逸らす。

「様子が変だぞ」

つぼみちゃんが私に近づいてくる。

「ど、どうしたのつぼみちゃん…?」

後ろに下がりながらつぼみちゃんから顔を逸らす。
普通の道なので人にぶつからないか、後ろを確認しながら一歩ずつ後ろに下がっていく。

「つぼみちゃん…?」

ゆっくり近づいてくるつぼみちゃんがクールでかっこよく見えて、いつもより自分の理性が抑えられなくなる。
つぼみちゃんを真っ赤にしたい。

ここだけの話なんだけど、私はつぼみちゃんの事が好きで毎日元アジトに連れて行かれるのは、意外に嬉しかったりする。
それに女子力も高いし、料理上手だし、家事も出来てモテそう…。
じゃなくて!!
私はつぼみちゃんが好きで毎日つぼみちゃんの事を考えている。

「つぼみちゃん……」

私はつぼみちゃんの腕を掴んで走り出した。

「お、おい!貴音!?」

向かった先は路地裏で人気のない路地裏に着いて、つぼみちゃんの腕を離す。

「はぁっ…はぁっ、ど、どうしたんだ、貴音?」

息切れをしながら私に尋ねてくるつぼみちゃんに、私も息切れをしているので呼吸を整えて口を開く。

「ご、ごめん!えっと…その…今言うのもあれ何だけど……私、つぼみちゃんが…」

好き。
その先が言えなくて色々なとこに視線を向ける。
無造作に置かれたごみ箱や、ビール瓶を入れてるケースが目に映る。
けど、肝心なつぼみちゃんを目に映す事はできなくて、青い空をみたり、アスファルトを見たりと挙動不振になっている。

「貴音……?」

つぼみちゃんが近づいてきて、私の頬に手を添えて「顔赤いぞ」と言った。
熱でもあるのか?という意味なんだろうけど、私にはつぼみちゃんが好きだということが知られた気がしたのでつぼみちゃんの手を払う。

「うるさい!!」

あぁ、何でいつも素直になれないんだろう。
遥に大好きって言った時も手遅れになってからだし、もっと素直になれたらきっとつぼみちゃんにも告白できたんだろうな。

「わっ悪い!」

慌てて手を離すつぼみちゃんに「ぁっ…」と声を漏らしながら、手を伸ばす。
つぼみちゃんの手を掴んで俯きながらぽつりぽつりと言いたかったことを言う。

「ご、ごめん…私…、つぼみちゃんが…つぼみちゃんのことが……」

好き。
中々言えなくて頬が赤くなっていくのが分かる。
一言好きと言えば想いは伝わる。
一言好きと言ってしまえば、つぼみちゃんに嫌われるかも知れない。
そんな葛藤を心の奥底でしているから、中々好きと言えない。

「--好きだ」
「……へ?」

つぼみちゃんから聞いたこともない言葉が聞こえた。
好き、なんてカゲロウデイズの時ですら言わなかったのに何で今つぼみちゃんは…。

「貴音、俺は貴音が好きだ…も、勿論恋愛的な意味だからな!」

照れ隠しなのか怒っているような言い方でフードで顔を隠す。
私は顔をゆっくり上げて、つぼみちゃんの顔をのぞき込んだ。
フイっと顔を逸らされて、私はムッとしたのかつぼみちゃんを壁に倒して俗に言う壁ドンをした。

「私の方が先輩なんだけど」

と強がりで強がってしまって後悔をして、つぼみちゃんの赤い顔に勝ったなんて思いながらつぼみちゃんの唇にキスを落とした。
--私も好きだよ。

【ツンデレ女とクーデレ勝り】END

  • No.127 by ブラック  2016-04-05 05:35:48 

【最前策は今日もまた__】

とある暗い空間に俺は居た。
真っ暗で右も左も上も下も斜めも、全て暗闇の世界に俺は存在した。
別の言い方をすれば俺は【人間】の恨み、憎しみ、恐怖、嫌悪、憎悪、嫉妬、全ての負の感情で【黒蛇】として作られている。

この少年もそうだ。

//

『シンタロー……死んじゃった、ゴメンね』
『寂しいこと言うなよ、行かないで――』

そんな悲劇があってからは、この少年学校にも行かずに家に引きこもっている。
それからはこの少年、名を如月伸太郎 通称シンタローと言う。

ここ最近俺の居るこの暗闇の世界によく迷い込んでいる。
そうは言っても、ただ体育座りをして気がつけば居なくなっている。

俺の知っている最前策とは全く違う様子で、目元に隈があり誰も寄せ付けないオーラを放っている。

//

『シンタロー君、もしかして……絶叫系苦手?』
『うるせぇ!!』
『カノ失礼っす』

モニター越しに何度目かの遊園地シーンを見つめて、赤ジャージの最前策を指でなぞる。
いつしかあの少年、如月伸太郎もあのように笑うのだろうか。
そして今日も如月伸太郎が暗闇にやってきた。
何故か知らないがシンタローは俺を見つめていた。

//

『んっ…はぁっ、ま…!』
『こんなに濡らして』
『そっ、それはクロハが…!』

//

夢で助かった。
目が覚めると体中に汗を掻いていることに気がついて、シャワーでも浴びようと暗闇から出る。
暗闇を出るとそこはあの赤ジャージの部屋と全く一緒だった。

「……」

あたりを見渡してもシンタローの部屋だ、なぜここに居るんだと思っていると、ガチャとドアが開く。
固まっているとシンタローは目に隈を作っていて、黒いパーカーを着て部屋に入って来た。

「……誰だよ、お前」

睨みつけられては何も言えず、ただそこに立っているとシンタローは俺の横を通り過ぎてPCの前に腰掛ける。

//

「…………」

無言でPCを触っていて、シャワーを浴びるのを忘れて俺はその場でしゃがみこんでいて、シンタローの様子を見ている。

「なぁ……」

声をかけてもヘッドフォンをしてるシンタローには俺の声は聞こえていなくて、キーボードーで文字を打っていた。

「シンタロー……」

ヘッドフォンを片方外してそう呼んでみると、シンタローは肩を揺らした。

「ひっ!」

大きく肩を揺らしたシンタローの耳に息を吹きかけて、チロッと蛇に耳を舐めさせる。
これもまた大きく肩を揺らすシンタロー。

段々面白くなってきて蛇を消してシンタローに色々仕掛ける。

耳を甘噛みしたり、背中をなぞったり、太股の内側を撫でたりした。
その度に体を跳ねさせるシンタローの姿を可愛いと思ってしまう程、俺はシンタローに惚れているのかも知れない。

手を離し遠慮なくベッドに腰掛けて脚を組めば俺はシンタローに「最善策」と声をかける。
シンタローは振り向いて俺を睨みつけているが、【蛇】にとっては好物でしかない。

そんなにこの俺に弄られたいのか?

そんな冗談を心中で呟きながらも、シンタローを手招きする。
シンタローは俺に従ってベッドまで歩いてくる。

何も食っていないような細い体、今にも崩れそうな心でずっとPCを触っていて、何が楽しいのか分からない。
【黒コノハ】としてか、【蛇】としかは理解出来ないが俺にとっては何が楽しいのか全く理解できるものではない。

「シンタロー……」

俺が名前を知っているのに疑問に持っているのか、驚いた表情をした。
メカクシ団の名前なら全員覚えた。
さすがに何百回繰り返しを見れば俺だって覚える。

「シンタロー……」
「あ、アヤノ……!?」

驚いた表情を隠せていない。
そりゃぁそうだろう、俺が【欺く】の能力を使いアヤノに化けている。
それの目の前で見せられてしまっては、驚くだろう。

「ちがっ……俺は、ただ……」

何を懺悔しているのか、それはこの少女アヤノの死についてだろう。
顔を歪ませて今にも泣き叫びそうな表情を浮かべているシンタローに笑いかけて「大丈夫」とだけ言って笑みを浮かべる。

悪いのはお前じゃない。
お前じゃないんだ――。

そう心の中で言いつつも伝わる訳ではないので、シンタローの頬に触れたら見たとおり震えているのが分かる。

「シンタローは悪くないよ、悪い人なんて居ないよ。シンタロー、私の分まで学校行事楽しんでね」
「ア、ヤノ……?」

首を横に振りイヤイヤと言っているがいつまでも欺いている訳にはいかないので、シンタローを抱きしめながら欺くのを止めた。
いつまでも「アヤノ、アヤノ」と泣いているので中々声が出す事が出来ない。

――悪いのは、俺なんだ。

俺がアヤノを殺し、メカクシ団を殺した。
その事実は変わることはない。
けれど、今までの世界では俺が殺していたとしても、この世界ではとっくに前の世界の俺によって殺されてしまったアヤノの代わりに生きる事は許されるだろうか__。


 最善策は今日もまた__
            __独りで泣き続ける。


【最善策は今日もまた__】END

  • No.128 by ブラック  2016-04-08 06:32:46 

『隊長のすべて俺にちょーだい』

 俺の所属している隊長はどちらかというと、美形だと思う。髪が長いのが余計に良いのかも知れない。その姿を見てしまうと目を奪われる。金髪で碧眼、高身長そういったものがあるから目を惹くのかも知れない。ただ、その姿は何と言っても綺麗だと思っている。

「……今日の任務はここまでだ。各自油断せずに帰還しろ」
「了解!」

 今日のミッション内容、モンスター討伐。数はそんなにないのでいつもより気楽に戦えるが、だからと言って気を抜くことは許されない。だからアジトに戻るまでは警戒を怠らない。

「隊長……! ちょっと良いですか?」

 ピンクの髪をツインテールにした同じ隊の「アイナ」が隊長に声を掛ける。

「アイナか、どうした」
「この武器ミッション前に強化したんですが……前より使い方が複雑になってしまって……」
「見せてみろ」

 これです。とアイナはショートブレードを隊長に見せる。確かに一昨日見たときより強化されて、多少複雑な事になっている。複雑なことが苦手なアイナにしてみれば軽くパニックを起こしても良かったはずだ。いや、既に起こしていたのだろうか。隊長とアイナだけその場に残り、他は先に帰還しろと言われたので帰還した。

 **

「隊長~! さっきはありがとうございます! おかげで使い方が楽になりました!」
「そうか」
「はい! 今度隊長と討伐ミッション受けて良いですか?」
「あぁ」

 アジトに戻るなり、アイナと隊長の声がする。甘いアイナの声は嫌いな人は嫌いだろうが俺は別に嫌いじゃない。寧ろ羨ましい。俺にはそんな甘ったるい声が出せないので、その点で女の子は良いなと思う。
 隊長は口数は少ないものの、仲間思いのところがある。俺は経験した事がないが、さっきの様にアイナが武器の使い方が分からなかったら教えたり、必要としている材料があれば隊長自ら譲ってくれるらしい。そんな体験俺は全くした事がないから俺は隊長に嫌われているのだろうか。
 そんな事を思っているある日だった。いつも通り、隊長とアイナと俺でミッションに向かう事があった。メンバーは前回より少ないが、採取ミッションなのでそんなに人数は要らないだろう。無事ミッション内容も終わって帰還しようとしていた頃――ギュッと隊長が自分の服の袖を掴んだのを見た。
 普段ならそんな事しないのに珍しいと思っていると、顔に汗が浮かび上がっている。アイナは気づいていないようだが、汗の量は背中をも濡らしており、ひょっとしたら立っている事もままならないんじゃないかと思わせる。隊長の事だから何でもない様子を装っているように思える。ここで俺が隊長に大丈夫かと声を掛けても隊長はとぼける可能性の方が高い。

 アイナの肩を軽く叩き、振り向いたところで「悪い、先に戻っててくれないか? どうしても隊長と話したい事があって……」と小声で伝えてみる。好奇心旺盛なアイナは『話ってなぁに?』『隊長と二人きりで?』『もしかして~』なんて聞いてくるだろう。その時の言い訳を考えていない。

「うん、良いよ。じゃ先に行ってるね」

 何も疑う事なくアイナは手を振って帰還した。アイナの背中を見送りながら足を止めて、後ろを振り向く。勿論隊長がそこに居るわけだが、隊長が何をしたって顔で見てくるからどうしようと足が竦む。
 別に悪い事をしている訳じゃないからそこまで怯えなくても良いといえば良いが、隊長に対して罪悪感が生まれる。

「隊長……あのっ」
「戻るぞ」

 俺の言葉を無視して隊長は歩き出す。俺を通り過ぎるとやっぱり背中の汗の量は尋常じゃない。いつからだったんだろう、どんな状態なんだろう、何で言ってくれなかったんだろう、そんな事を思い、気が付けば隊長の腕を掴んでいた。

「隊長! 辛いなら休んでください! 俺……知ってますから、隊長が優しくて、誰よりも仕事をしてるって見てますから……! だから、具合が悪いなら、休んでください」

 後半は最早涙声だと思う。自分でも泣いているのが分かる。心臓が煩い。怒られるかもしれない、嫌われるかもしれない、そんな事ないと言われるかもしれない、一体何が返ってくる? そんな俺を置いてけぼりに隊長は俺を抱きしめて耳元で「じゃぁ、少し休もうか」と囁いた。
 いつも自分一人で仕事して、仲間が淹れたコーヒー飲んで、手伝うと言っても断ってて、睡眠もろくに取ってなくて、食べてるのかも怪しくて、そんな隊長が俺を抱きしめたという事は、期待しても良いんですか――? 隊長。

  • No.129 by ブラック  2016-05-08 05:41:42 

【篠突く雨/KHR】


――あぁ、めんどくせぇ。

 それが、今日1日で思った事だった。別に任務で忙しいとかそういう事ではない。ただ、偶然が偶然を呼んで彼には不運でしかなかったのだ。
 バシャリ、地面を歩く度に濡れるブーツ。この国の降水量は普通だろう。四季があるのだから多い時もあれば、少ない時もある。今回は多い時なのか、そんな事、全く馴染みのない彼にとっては分かるはずもなく只々、歩くしか方法がない。
 このまま戻っても良いのだろうが、戻れば後輩に何を言われるのか想像しただけでも面倒だ。それにいちいち対応している身にもなってほしいが、そんな事はうるせぇ、カス。の一言で終わるだろう。今はそれに対してとやかく言う気力すら感じない。出来れば戻りたくないというのが今、びしょ濡れで街を歩いている男の気持ちである。
 元々自身の私用なので、いつ戻ろうが問題ないと信じたいところなのだがどちらかと言うと、気分屋のボスが自分が不在故に起こす物事を思うと、胃が痛くなる。
 それにこんな姿で戻ったところで、後の掃除が面倒なだけだろうとさえ思えてきた。

 雨は憂鬱になりやすい。何て誰も言った事も聞いたこともないが、ふと思った。ましてや雨の属性を持っている者が思う事ではないだろうが、今となっては知らない事だ。とこの男――スペルビ・スクアーロは鼻で笑った。
 未だに降り注ぐ雨。一瞬自分で降らしているのだろうかと思わせるほどの雨。空の色なんて灰色で、ほとんどの物音が消えてしまっている。あるのは自身が放つ、足音のみ。
 とりあえずは休みたいと思って気がつくと公園にやって来ていた。確かに休むのには問題ないだろう。屋根付きのベンチがあるのだから、そこで横にでもなっていればいつかは雨も止むだろうと考えていると、ふと、見覚えのある姿が目に映る。かつてリングを賭けた戦いで、自身を倒した男。
 どうしてこんなところに居るのだろうとか、いつになったら剣の道に来るのだとか、くだらないことを無性に聞きたくなった。バシャリ、気配も足音も消していたはずが、さすがに水が跳ねる音までは消せなかったのだろう。男がこちらに気づいて振り向いた。そして「やっぱりアンタだったか」なんて、最初から気がついていた素振りで口を開く。

「う゛お゛ぉい。いつから気づいてたぁ? 刀小僧」

 刀小僧と呼ばれた男――山本はいつもと変わらない笑みを浮かべ、暫し考える仕草をしてから「んー。大体あの辺あたりから」と、入り口付近を指差す。スクアーロにしてみればどこだと言いたくなるが、あの辺と言う言い方からしてそう遠くないのだろうと勝手に決め付けた。

「ところでおめぇ何してんだぁ」

 ドサリと山本の隣に腰をスクアーロは下ろした。その所為で男に数滴雨水が飛ぶが、山本はそんな事気にすることなくスクアーロの問いに「野球の特訓で走ってたんだ。その最中に雨降ってきたから、こうやって雨宿りしてる」そういうスクアーロは? と山本は尋ねた。スクアーロは答える意味があるのだろうかと思ったが、ここで立ち上がってアジトに戻るよりかは幾分マシかと考え「買いモンだぁ」と答える。

「スクアーロが買い物って想像できねーのな」

 普段の職業から考えて、スクアーロは買い物をするような人物ではない気が山本にはした。特に意味があったわけでもなく只、リング戦や未来での戦いや代理戦争ぐらいしか知らないので、純粋に思ったことを口にした。

「そうかぁ。しねぇってワケじゃねぇ」

 よく大声で喋っているのは知っているが、こう静かに喋っている事はほぼない気がする。そう山本は思う。実際二人きりで話した事がないからそう思うだけなのかもしれない。スクアーロは脚を組み、上にある膝に肘をついて頬杖をつく。どこか遠くを眺めているような、そんな表情で「ここでしか買えねぇモンとか買ってるだけだぁ」と付け足した。
 どんなものだろうと思うが、多分勝手な想像だが職業関係だろうと思いあえて聞かなかった。その代わり。

「雨止むまで俺ん家で寿司食ってかねぇ?」

 なんて提案した。傘なんて持ってないが、当分は止みそうにない雨だ。ここでぐだぐだ喋ってても良いが、そうするとスクアーロが風邪でも引いてしまいそうな気がしたのだ。当然スクアーロが否定すれば何の意味も持たない提案だ。

「……こんなに濡れてる奴誘うバカが居るかぁ」

 スクアーロは山本を一瞬見ては視線を元に戻す。呆れて溜息を吐いては上記を述べるが小さく「ま、悪かねぇな」と呟いた。

「じゃ決まりだな! わりぃけど俺も傘ねぇからまた濡れるのな」

 後でタオル貸すからちょっと我慢してくれ。と付け足して山本は立ち上がった。その姿を横目で捉えてスクアーロも立ち上がる。頭の後ろで手を組みながら歩いていく山本の後を追って、屋根付きベンチから再び冷たい雨に打たれた。

  • No.130 by ブラック  2016-05-08 06:17:00 

【王子と鮫】

 最近、思うところがある。いや、超個人的に思っているだけだから問題はないだろう。この金髪ティアラのベルフェゴールは何故、此処に居るのだろうか。しかも普通に。

「う゛お゛おおい! ベルてめぇ、なんで居やがる」
「うししし♪ だってオレ王子だもん」
「んな事は聞いてねぇ!! 何でてめぇがこの学校に居るかだぁ!!」
「だって暇だし」

 此処は並盛。並盛中学校で、ボンゴレ10代目と守護者を暫らく護衛する形で英語教師に化けたスクアーロが、たまたま暇を持て余した王子ことベルにずっと思っていたことを尋ねた。一応一般人も居るわけなのでそういった物騒な話はあまりしない方が良いだろうと思って、スクアーロはあえて何も言わなかったがその所為でベルがずーっと何の違和感もなく居るので痺れを切らしたのだ。放課後に暇だから来たとかならまだベルらしいとか、さっさと帰れなど言えたのだが、堂々とそれも外国からの転校生としてやって来たので、何と言えばいいのか分からず放置していたのもある。それは兎も角として、王子様が一般的な学校の授業を受けても楽しいのだろうか、何て疑問も生まれてくる。

「暇だからって転校生としてくるんじゃねぇ!! 大体、オレはボスさんに言われてだなぁ……」
「オレもボスに許可貰ったし」

 ボス……。ベルに甘いのかただ面倒なのかがよく分からない。額に手を当てて軽く溜息を零す。いつもマーモンが居るが、今回は居ないためマーモンは関わっていないのだろう。そんな事を思いつつ、来てしまったものはしょうがないので「面倒なこと起こすなよ」と言って、スクアーロは職員室に戻った。
 1人教室に残されたベルは少しポカンとしたの地に、「うれしー癖に」と歯を見せて笑った。

  • No.131 by ブラック  2016-05-08 06:36:38 

『文系×理系』

 次の日。よし、今日も頑張るぞ! と思い朝早くから起きて朝の支度を終え、最近読み出した恋愛小説を読む。部屋でしか読まないので進む度合いは低いがそれでも、急いで読むよりかは断然頭に入る。
 主人公の女の子がクラスで一番人気の男の子に告白するシーンで、それはもうロマンチックだった。夕日が照らす教室、誰も居ない空間、好きな人と二人きり、主人公の恋は実る。あぁ、良かった! 実に良かった。感動と同時に悲しくなる。小説やアニメやマンガの中での話は実ることが多いのに、俺の恋は実る可能性が低い。というか、俺が幼馴染の麻衣に抱いている感情が恋愛感情だという事に麻衣は気が付いていない。

「……どうやって気付かせるか」

 うーんと首をひねりながら考えるが、理系っていうのは言い訳にしかならないのであまり使いたくない。勉強が好きっていうのも何か違う。どちらかと言うと恋とかそういうのには興味がないとか、関わりがなく、数学の公式を使って早く理科の実験の結果を計算したい、っていうオーラがあるようにも思える。大人として例えるなら仕事熱心だと思う。だから恋には気が回らないのだろう。

 だからと言って無理矢理気付かせるというのも趣味じゃない。俺が望むのは麻衣が俺に恋してるって気が付いて欲しい面もある。
 麻衣のどこが好きなんだと聞かれると、即効で全部と言いたくなる。数学の計算や理科の実験などにしか興味がないのも含めて好きなんだ。でもそこで全部って言ったらありふれているし、かと言って細かく言っても嘘っぽくなる。そんな台詞を言う前に、まず麻衣に俺の感情が恋愛という事を認識させなくては!

 そう思っているとドアがノックされた。時間からして麻衣だろう。ドアを開けて「おはよう」と言ってくる麻衣にいつも以上の笑顔を向けておはようと返す。ふと、麻衣の髪の毛が跳ねていることに気が付き、右手で跳ねているところを軽く押さえる。幼馴染だからこれぐらいは許してもらえるだろう。

「寝癖ついてる」

 優しくその部分を撫でていると、麻衣は俺を見つめて「頭でも打ったの?」と尋ねてくる。

「何で?」
「普段そんな事しないでしょう」
「麻衣だけにしかしない」
「あらそう」

 照れる様子もなく、いつも通りにしているので少し悲しくて手を離す。そうすると、今度は麻衣が寝癖の部分を押さえて「水、つけたら直るかしら……」と呟いていた。もしかして、表情に出ないか出さないだけで、本当は気にしているのかもしれない。そんな麻衣を見て頬が緩んだ。

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