ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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エイプリルフール(LUPIN The Third 次元大介の墓標)
何も無い日、そう言ってしまえばそうなのだろうが、そうでもないと言えばそうでもない。
4月1日、エイプリルフールと呼ばれるその日は「嘘を吐いても良い日」だとされている。
そんな事に興味がない人はただの1日だろう。
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紅色の高級感あふれるソファーに、窓付近に置かれたビリヤード。
先ほどまで誰かが使っていたのか、使用済みのような状態になっている。
ソファーの前には小さなけれど多少物は置く事の出来る大きさの、木製のテーブルがある。
ソファーは1つで、近くにこれまた木製のイスがポツンと置かれ、虚無感をその部屋は放っているのだ。
そんな部屋で1人の男、ルパン三世がソファに身を委ねながら新聞を読んでいた時の頃。
ガチャリ、とリビングと呼べるその部屋のドアが開くと、髭面の男、次元大介が姿を現す。
いつもクールなガンマンと呼ばれる次元の顔は、何かを考えながら、けれどどこか決意したような様子でソファに近付いていく。
そして、――ルパン。と小さく声をかける。
「次元どうした?」
名を呼ばれ顔を上げると次元の姿があり、首を傾げながらもテーブルに新聞を畳んで置き、上半身を起こす。
次元はその間にもルパンの様子をじっと見つめては、小さく息を吐き、顔を上げて「好きだ」と告げた。
「……は?」
一瞬何を言っているのか分からないガンマンに対し、気の抜けた返事を返すも、何かの冗談なのだろうかと思考をめぐらせるが、次元はルパンと違い滅多に冗談を言わないし、ノリで冗談を言うような雰囲気でもない。
その中で出た答えは『本心』という言葉。
「いやいや、次元。俺男だぜ? お前の『好き』が尊敬や友情なら受け止めてやるけどよ……」
ルパンの返しに納得がいかないのか、次元は表情を柔らかくする事はなくルパンの後ろにある、背凭れに両手をつき、「そうじゃねぇ」と一言発した。
そしてボルサリーノの中からルパンが困惑している姿を捉えると、次元はその身を近づけた。
それから、ルパンの唇に柔らかい何が触れた途端、それが次元の唇だとルパンが気付くのに約3秒。
「おい、次元。何の真似だ」
次元が離れてからルパンは怒気を含んだ声で、次元を睨みつける。
そういう芝居でもなければ、そんな事をして気を引いて逃亡するわけでもない。
アジトにはルパンと次元しか居ない、銭形はまだこの国には来ていない。
なので、こういった芝居はしなくても良いはずなのに、この男は、次元大介という男は、馬鹿げたことをしてきた、そうルパンは心中で誰にでもなく呟いた。
「だから言っただろ、好きだってよ」
本当に訳が分からない、ルパンがそういう表情をしていたのだろう、次元がフッと笑みを零し、ルパンから両手を離して離れるといつもの調子で「わりぃな、ルパン。今日はエイプリルフールだからよ、どんな反応するかと思ってたんだ」と、帽子を押さえながら肩を竦めた。
エイプリルフール、その単語が頭の中でぐるぐると回り次第に「普段は俺の事嫌ってるのか?」と口元を引きつりながら言えば、次元が「さぁな」と誤魔化した。
片手をヒラヒラとさせて、リビングから出て行った次元はドアに凭れ――今日ぐれぇしか、本音言えねぇだろ。とドアの中に居るルパンの方を見ながら、小さく呟いた。
その呟きはルパンは聞こえる事はなかったが、暫く頭を抱え、頬を朱に染めながら動けないでいた。
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