ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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とあるバーで(ルパン三世2nd/オリキャラ/ノンフィクションつまり夢)
とあるバー。
人気がないといえばそうなってしまいそうなほど、物音一つ一つが良く響くようなバー。
このバーは至ってどこにでもあるバーだと思う。
カウンターがあり、テーブル席がある。
木製の重たいドアを開けるとチリンッ、と鈴が鳴り、さらに辺りを見渡すと壁、床、天井、カウンター、テーブル、イス、が木製で出来ている。
その木は「ヒノキ」という名前の木だったりする。
そのヒノキの香りすら、煙草や酒、焼香、様々な人がつけてくる匂いで色々な香りと化していることであろう。
ゆったりと、煩くなく、けれど聞こえないと言う風ではなく、ジャズの音楽が流れている中、2人の人影がそこにはあった
「……マスター、もう一杯」
金髪の少年と呼べる一人の客がバーテンダーと名乗る男に、グラスを向けた。
バーテンダーはにっこりと笑みを浮かべ、グラスの中に再び酒を注いだ。
金髪の少年――恋也という者はグラスに酒が注がれるのをぼんやりと見つめ、ある程度注がれるとグラスを口まで運ぶ。
その動作を見ているのが、ボルサリーノを被った全身真っ黒な男。
恋也と男の距離は離れてはいるが、互いの声が聞こえないぐらいと言うわけでもない。
五席離れているのだが、実際ガヤガヤとした飲食店ならこれぐらい離れていたら、声も聞こえないだろうが、このバーはそんなガヤガヤ感はない。
「お客様、バーボンのお代わりの方は?」
バーテンダーが男に尋ねる。
丁度、男のグラスの中にあるバーボンも無くなっていたので尋ねたのだろう。
それか、バーテンダーがこの男はまだ飲むのを知っていたか、ということになる。
どちらにせよ恋也には関係の無い事だ。
「あぁ、頼むぜ」
男は手馴れているかのように、軽く笑いバーテンダーにもう一杯と告げる。
本当に何ともないただのやりとりなのだ。
どこにでもある、『お代わり』だ。
そう、これが10杯目でなければの話なのだが。
特にどちらかが良い始めたわけでもない。
急にそうなっていた。
もうすぐ五杯目だなと思っていた恋也はふとカウンターの奥の席に座る男を見て、対して酔っているわけでもないという感想を持ち、勝負しようという気にもならなかったのだが、どうしてかその場から去ろうとも思わなかった。
去ってしまったら負け、そう思ったわけでもないのに、その場に居続ける。
そして気が付いたら十杯目なのだ。
――そろそろ、終るか。
何故自分がそこに居たのか、それは分からずに残りの酒を飲んでから帰ろうかと思っていると隣から声がする。
「おめーさん、酒はつえー方かい?」
こうして話してみると渋い声だなと思いながらも、グラスに視線を向けて「酒の種類にもよる。日本酒なら問題はないけど、カクテルやチューハイは飲むと拒絶反応を起こす」と答える。
互いにまだ呂律は回っているので、酔いはそこまで回ってはいないのだろう。
「それにしちゃぁ、ちと掻き過ぎやしねぇか」
言われた言葉に恋也はピタリと動きを止める。
あぁ、やっぱりバレていたのかと、内心溜息を吐けば左足首を見つめる。
そこにはやっぱりと言って良いほど赤い斑点がいくつもあり、更にデコボコしているのが良く分かる。
――飲みすぎたな。
心中で呟きながらも先ほどまで掻いていたのもあり、左足首から掻いてくれと主張するように痒みが襲い、耐え切れず、右足の踵で押さえながら残りの酒を飲み干した。
革靴だったのが幸いしたのか、痒みは暫く和らぎ飲んだ分の代金をカウンターに置き、イスから立ち上がった。
歩く度に痒みと痛みが増し、顔が歪みつつも重たい木製のドアを開けて、店の外に出る。
その瞬間に「ありがとうございました」というバーテンダーの声を背にしながら、夜の風にあたりドアが完全に閉まったのを確認すれば、左足の靴と靴下を同時に脱いだ。
左手に靴と靴下を持ちながら近くにある公園に向かい、足首を冷やすように歩いていた。
春の上旬と言えるのだが、まだ寒さは続いており、ジャンパーやパーカーが必要と言う時期に恋也は白いTシャツに茶色のパーカー、灰色のスラックスを身に纏っていた。
アレルギー、そう言ってしまえば簡単なのだが、アレルギーにしてみれば酒を飲んだ一口目から様子が可笑しくなるはずだ。
役7杯目から足首を掻き始めて、今に至る。
そこまで進んでいないのか、足首だけで済んでいる筈だと信じていたい。
「……今の所、足以外に痒くないな」
そんな事を呟いている間にも公園に着く。
公園と言っても人が大体集合場所にするぐらいで、遊具など無く、ある物といえば自販機と手洗い場とお手洗いと、噴水とベンチとテーブルである。
柵の内側に木などが立っているが、それが何の木かは分からない。
ひとまず手洗い場に向かい、水がかからないであろう場所に靴と靴下を置き、蛇口を捻る。
キュッ、キュッと音がして冷水が流れ、恋也は左足首を冷水に当てた。
「あー……。痛い、気持ちいい」
いたぎもちい、その名の通り、痛いけれど気持ちが良い。
掻いた後に水につけると激痛が襲うがある程度の時間が経てば、激痛は襲ってこない。
人の体というものは不思議なものだ。
治まるまでにどれ程の時間が掛かるのだろうかと思いながらも、足首全体に水を当てていく。
「こりゃぁ、随分痛そうなモンで」
ふと、声がした。
あのバーで聞いた声を恋也は耳にして、声のした方に向く。
そこにはやっぱりというか、なぜ居るのかは分からないがあのボルサリーノを被った男が居た。
「……何で、居るんだ」
視線を自分の足に戻し、大分治まってくれば水から離して適当に水を切る。
タオルなど持ってはいないので乾くまでベンチで座っておこうと、靴と靴下を持ち、ケンケンをしながらベンチに向かう。
「いやぁ、何。おめーさん、随分と痒そうにしてたモンでよ、薬ぐれぇ塗ってやろうと思ってよ」
どこの世界に他人にそんな事をする人が居るのだろうか。
特に裏社会で生きているなら余計にしないだろう。
自分がそれで殺される事だって考えるはずだ。
なのにこの男はそれをしようとしているので、呆れたように恋也は息を吐いた。
「いつもの事だ。水に濡らすか冷たいタオル巻いておけば治ってる」
適当な処置だな、と自分でも思う事を口にすれば男は恋也の近くまで歩き、恋也がベンチに座ったのを見て、一人分のスペースを開けて隣に座れる。
「いつもあんなになるまで飲んでやがんのか?」
男が煙草に火を付けながら問う。
チラッと銘柄を見た恋也は『マールボロ』という文字が見え、自販機でよく見かけるアレかと所々の自販機にある煙草を思い出す。
「いや。普段はアレだけ飲んでも何ともない。疲れてたりすると、出やすいだけ」
ふぅと煙の吐く音が聞こえながらも自分の足を見つめながら返答する。
あまり見ないようにしていたのだが、やっぱり赤い斑点が気になり右手を左足首に持って言って掻こうとすれば、隣に居た男に右腕を掴まれる。
「止めておきな。それ以上やると悪化するぜ」
「悪化したら冷水風呂にでも入る」
痒いのか、と男は内心思うも口に出すことはせず代わりにというように「俺よりアイツの方が詳しいだろ、ホレ、乗ってけ。蕁麻疹が治るぐれぇの間だけなら、面倒見てやる」と言って、ベンチから降りて、しゃがんだ。
背中に乗れというように。
「別に俺も子供じゃないので」
「あのマスターもおめぇさんがまだまだガキだって事には気付いてるぜ」
ピクリ、と肩を動かしてヤバイなと思っていたのも束の間で男の「そうだろ、ルパン」と言う声と共に、恋也の左側から気配がした。
「次元もっとマシな登場のさせ方はねぇのかよ」
愚痴を零すかのように言いつつも「ルパン」と呼ばれた男は緑のジャケットを羽織って、煙草を咥えながら恋也の方に歩いてくる。
次元はというと暫くしゃがみながら煙草を吸っていたが、脚が疲れたので一度立ち上がっていたのである。
「あのバーのバーテンダーはルパンだったって事に気が付いてりゃ、足なんて掻かなかったんだろうな、お前さん」
「……知らないし、てか何でバレてんだ」
小声でブツブツと未成年だとバレた理由について述べているが、正解という正解に辿り着けなくて考える事を放棄し、「っで。ルパンさんとその知り合いさんが俺に何の用ですか?」と背凭れに凭れて尋ねる。
「いや、何。次元がガキの癖に俺と同じ酒を飲んでやがる。とか言い出すんでちょっくら顔を拝んでやろうかと」
ふざけているような、そうでもないような雰囲気で話すルパンに理由がしょぼすぎると感じた恋也は溜息を付き、今度は右足の踵で左足首を掻こうとしているとルパンから「止めておきな」と言われる。
「コイツはな、タコを見ると蕁麻疹が出るんだ。おめぇさんよりかは、蕁麻疹に詳しいだろうぜ」
得意気に言う男――次元に呆れを覚えた恋也は真っ黒なけれど澄んでいる空を見上げて「俺は何て言えば良いんだ?」と、ルパン、次元、それとも2人に問うた。
ルパンと次元は顔を見合わせニィと笑みを浮かべてこう言った。
「蕁麻疹が痒い」
結局あの後恋也は次元に背負われて、ルパンのアジトで蕁麻疹の薬を塗ってもらい礼に、何故青年だと偽っていたのかと尋ねられ、同じ裏社会で生きていて、馬が合ったので一時的な仲間としてルパン一味に加わったのである。
打ち上げの際、酒を飲もうとすればルパンに「蕁麻疹が出るだろ」と言われて、雰囲気が出るようにと、かなり味の濃い麦茶を出されるのが、毎回のオチになっているのであった。
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