ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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緑泥棒と赤泥棒(ルパン三世2nd/LUPIN The Third~峰不二子という女~/不定期更新)
ハッと目を覚ますと全く知らないとは言い切れないが、見覚えのあるような景色を見つめる。
辺りを見渡せば、確かお宝を盗みに来た所までは覚えていて、その先の記憶がない。
誰かに殴られたのだろうかと思いつつも、見たところ自分が居た場所と変わりが無いので、芝生の上で横になっていた体を起して、お宝がある場所まで歩いて行く。
「確かこの辺りだったよな……」
さっきまでは、という表現が正しいのかそうじゃないのかは分からない所だが、確実に言えることは今居る場所は、記憶がある頃に見た景色だった。
屋敷の回りに何本も生えている松の木、明らかに幽霊でも出そうな雰囲気の屋敷。
確かに一度見た景色だった。
取り合えず、目的の物を盗む事が最優先なので、屋敷の中に忍び込んで行った。
**
「ありゃりゃ、此処は?」
先程までとある屋敷に入って指輪を盗んだところで、仲間と銭形から逃げていたのだが、いつの間にかどこかの森に入ったらしく、一人で銭形から逃げているようだった。
その銭形も今は居ないのだけれど。
神隠しにあった気分になりながらも、独り言を呟き立ち止まって辺りを見渡す。
普段見ている風景と少し違うので混乱しつつも、冷静を装った。
そこには芝生があり、誰かがそこに居たように草の何本かが不自然に折れている。
近くに行ってみれば、横になっていたのだろうと推測し、辺りを見渡すが、人の影も見つからないのだ。
人とは限らないが熊でも居ればどこかに出口があるだろと、辺りを歩いていれば1つの屋敷を見つける。
まだ綺麗で、幽霊が出そうな、そんな屋敷。
「ほぉ、あの屋敷。中々よさそうだな」
状況判断が追いついたと言うわけでもないが、やはり泥棒の血は騒ぐのか盗む事を考えてだしては立派な屋敷が視界に入り、何か良い物でもありそうだと思い、期待しながら進入経路を探すべく近付いていった。
**
「…………」
ふと、何かが動いたような気がしたが、この時間帯なら誰も帰ってこないだろうと思いつつも油断は禁物なので、警戒しつつも目的の部屋に行った。
――そういえばこんな金庫だったな、口には出さないが、ドアを少し開けて無人かどうか確認してからドアを開いて、部屋の中に入る。
金庫の位置に向かえば、金庫の前でしゃがみ金庫を開けようとしてた――その時だった。
「手伝おうかぁ?」
と甲高い声が部屋中に響いた。
声を掛けた方にとっては、狙っていたわけではないが、どうも気になる事とがあり、それを確かめようと目の前に居る誰かが、金庫を開けようとしていたため1人じゃ苦労だろうと、場合によっては手伝うか邪魔をするか決めようと思い、背後に回り込んでいきなり声を掛けた。
「誰だ!?」
「さ~ねぇ、だ~れでしょう?」
結構前にボルサリーノを被った男に言ったことがそのまま自分に返ってきて、驚くが抵抗しないのを示す為、両手を軽く上に挙げた。
身構えて両手を挙げた目の前の人物に、場違いな間の抜けたおどけた口調で上記を述べ、懐から銃を取り出して脅す事も考えたが、目の前に映る金庫にどこか見覚えがあり、――あぁ、なーる程と、心中で呟いた。
「別に殺しゃしねぇよ」
明るくおちゃらけた雰囲気でポンッと肩を叩く。
肩を叩かれた時にカツンッと自分の左肩に何かが当たり、それが銃だと気が付くまで僅か3秒。
「銃持ってるって事は、ただの一般人じゃなさそうだな」
殺しはしない、言われた事に信用して良いとも限らないが警戒していると懐から銃を取り出して後ろにいる人物に向け「この角度だったら、確実に当たるぜ?」と、ワルサーの引き金に指を掛けてニヤリと笑みを零す。
「あれま、怖いことするのねぇ~」
銃口を向けられて緊迫した空気にも関わらず、相変わらず飄々とし、「大方おたくも同業者でしょ」と金庫を開けようとするのは泥棒しか居ないと目に見えて分かる状況で、ライバル出現にか劣り作戦で警察が泥棒に扮している可能性もあると、口に出さずに身構える。
暗くて後ろに誰が居るのか分からないが、雰囲気は自分と同じものを放っていた。
銃を下ろし「まぁ、自分で言うのもアレだが、狙った獲物は逃がさねぇぜ」とキャッチコピーを口にした。
懐に銃を仕舞えば、金庫を開ける事を再開する。
「そりゃ同感だ」
当然目の前の人物と同じキャッチッコピーを持っているので、同感しながらも、中身を確認してからお宝を戴こうと企み、素直に他人に任せて邪魔せず後ろから見る。
「しかしまぁ、ここの家主は相当オバカさんだったようで」
元の世界といえば良いのだろうか、いまこうしている世界と同じ場所に同じ物が置いてあり、ここの家主が隠していた金庫を開けるメモを金庫と床の隙間から見つければ呟いた。
そしてふと同じ意見を持っていた事に気が付き、金庫のロックを解除した。
「っで、俺が金庫の目の前に居たら、盗めねぇんじゃねぇか?」
「さぁて、それは分からないぜ?」
どうやらお見通しだろうと思い頭の中では策を練り、この場でどうにも出来ないようでは祖父に顔向けできないと必死になっているが、そんな様子は態度に表さないように努め、さも良い方法があるかのような振りをし、腕組をしながら目の前の人物の行動をただ眺めた。
「コイツがそんなに良いモンか俺も知らねぇから、何とも言えねぇぜ」
解除した金庫のドアを開いて中にあるお宝――ルビーの指輪を確認し、人から頼まれた物で自分から予告状を出して頂こうと思った訳ではないので、価値のある物なのかどうかは興味がない。
金庫の中から指輪を取り、360°指輪を見て「……コレ、レプリカか?」と誰に対してでもないが尋ねる。
「ご名答! 実は既に本物は戴いちゃったのよ」
突如妙に明るいトーンでレプリカというのを肯定し、警察を誤魔化す為に前の世界にいた時にすり替えたのだ。
ジャケットの内ポケットから僅かな光の中でも輝きを放つ宝石の付いた指輪を出した。
当然目の前にあるのが偽物だと分かれば偽物には用がなく、拗ねたようにポイっとレプリカの指輪を後ろに放り投げた。
本物の指輪を金庫のドアの反射越しに確認すれば、どうやって奪おうかと考え、どうせ警察を誤魔化す為だろうと思いつつも、自分がされるのは腹が立ち「ご苦労な事で」と呟いて立ち上がり、懐から愛銃のワルサーP38を取り出す。
そして後ろにいる人物に振り返ることなく、腕をそのまま後ろに向けて銃口を向けた。
「本物をよこしな」
「酷いことする奴だなぁ」
捜査撹乱にと折角作ったレプリカを捨てられた事にも、本物が分かった途端銃口を向ける事も、酷い奴だと思うが、そんな脅しに屈する事はない。
「コレでも苦労したんだから、そう簡単には渡さないさ」
指輪を自分の指にはめ宝石が放つ輝きを楽しんでいる。
「どうせ警察には分かりゃぁしねぇよ」
「警察も舐めてかかっちゃ、痛い目見るぜ?」
レプリカを投げた方を見つつも、分かってもあの銭形ぐらいだろうと単純に思い、今更酷い奴だと言われても表情が変わる事はない。
大抵の人なら見抜けないだろうが、銭形ならあっさりと見破ってしまうだろうと考えさりげなく忠告はしておいたので、その後目の前の人物がどうなろうと、自分には関係がないだろう。
「とくに銭形はやっかいだな」
銭形幸一、その人物の名を聞き「俺も同じ人に追い掛けられてるぜ?」と、目の前の人物も泥棒なのだろうと予想を立てる。
「ま、お互い同じ奴に追われてる身って事だな。……ま、お前から奪ったところでレプリカを奪いに来たんだったら何の面白味もねぇだけだ。それはお前にくれてやる」
一気に気分を変えて、その指輪を後ろに居る人物にあげると言い、指輪が特別欲しい訳でも無かったし、元々自分は不本意だったので、懐に銃を仕舞った。
「あ~ら、意外と優しいところもあるのね」
「生憎と不本意な物だったんで」
銭形の話はもう出てこず、銃を仕舞った動作を見ればおちゃらけた口調で述べ、先ほどから薄暗い場所に居る為、目の前に居る人物がどんな人物なのかと気になりだしてくる。
肩を竦めて短く返答しては、綺麗と言うほうが近いかもしれない床に横になり、何となく馬が合いそうだと思いながらも口に出すことはなく、ポケットから煙草を取り出し口に咥えジッポで火を点けては、後ろに居る人物は、僅かに匂った『ジタン』の匂いで、喫煙者で自分と同じ銘柄の煙草を吸うと分かり、吸うか?という意味を込めて差し出した。
煙草を差し出され、自分が吸っている銘柄と同じジタンだった事につい笑みが零れつつも、短く礼を言って1本抜き取り、ジャケットのどこかにあるはずのライターを探す。
だが、どこのポケットを漁ってもライターは見つからず、仕方なく火を点けずただ咥える。
不本意、という言葉に何かあるのだろうと思うが、自分から首を突っ込む事はせず「色々あんのねぇ」と呟いた。
「ほらよ」
呟きに返す事は無く、ぼんやりと横になったのだから天井しか見えず、顔すら見えないのだけどふと、同じ名前の警部に追われている事を思い出し、同じような立場なのかと思った。
何故か嫌いになる事はなく、煙が上がっていないのを確認すれば、ポケットからジッポを取り出す。
火を点け、自分は横になっているので一度上半身を起こし、腕を伸ばした。
「こりゃどーも」
同じ稼業で同じ奴に追われているからなのか、何処となく良い奴だと思い始めていれば、火をくれたことに礼を述べ、少し屈むようにして煙草に火を点ける。
その瞬間、ジッポから放たれる小さな火に照らされたシルエットが、自分に見えたので「ところで、あんた名前は?」と唐突に尋ねた。
「俺は……ルパン三世だぜ?」
煙草に火が点いたのを見れば、ジッポを直し、唐突に問われた事に少し驚きながらも自分の名前を、後ろに居る人物の方を見ながら名乗る。
「……ルパン三世?」
「そう、ルパン三世」
目の間に居た人物が口にした名前は自分の名前であり、『ルパン三世』はこの世に1人しか存在していなのだが、どういうわけか同じ名前の人物が目の前に現れて「待てよ、ソイツは俺様の名前だぜ?」と混乱を表に出さないよう平然としながら言った。
そう、自分があのルパン三世だと言うような雰囲気で言うが、後ろに居る人物の言葉を聞いて思わず煙草を落としそうになるも、何とか落とさずに、吐いてこう言った。
「俺があの世紀の大泥棒ルパン三世さ」
「へぇ、言い張るのか」
「言い張るも何も俺は生まれた時から『ルパン三世』って名前だからな」
「そうかそうか。って、納得する訳にもいかねぇがな」
「ま、信じられるわけねぇよな」
「そりゃ同感だ」
実際、名前がどうだったかなんて覚えてはいない。
取り合えず『ルパン家に生まれたアルセーヌ・ルパンの孫』で、『ルパン三世』と呼ばれていることだけは事実なのだ。
耳を傾け納得するように『うんうん』と頷いているも、信じるはずもない。
小さく呟いては床で煙草を捨てる。
そして「おもしれぇ」とハッと鼻を鳴らして嘲笑うかのように「こうなりゃ、どっちが本物勝負でもするか?」と余裕な態度で尋ねる。
「そりゃ、ハッキリさせておきたいよな。その勝負乗った」
ニヤリと笑い勝負に乗ると宣言した。
楽しそうにしているのを気配で感じ取れば、「交渉成立だな。っで、何で勝負すんだ?」と撃ちあうのか、盗みを競い合うのか、勝負内容を尋ねた。
自分がルパンであることを胸を張って言える為、本物相手に少しハンデをあげようと「さぁな。好きな勝負選んでいいぜ?」と勝負内容を委ねた。
「俺の好きなことは盗みだぜ?」
「俺たち気合うのにな」
同じ人物が2人存在する訳がないがお互い譲る訳にもいかず、ただ目の前の人物と考えが似ている事には好感を持ち『盗みが好き』だと聞けば、ニヒルに笑った。
「いっそのことコンビ組むってのはどうだ?」
「それもアリっちゃアリだが……」
気は合う、コンビを組んでも問題は無いだろうが、ただ名前が同じなだけでそれ以外問題は生まれないだろうと思い提案をしたのだけど、『YES』『NO』というより、曖昧な答え方をしたのが気になり「俺達互いの顔知らねぇから信用できねぇの?」と、1つの可能性を口にした。
考え方も似ている、おそらく最高のパートナーになれるだろうが「そりゃねぇ、いきなり自分と同じ名前の人が現れりゃ警戒もするさ」と、顔が見えない事も信用するには困難だと、自分も同じように床に座り、肘を曲げ両手のひらを向けて『ふぅ』と息を吐く。
欠伸をして「しかしまぁ、不思議な事もあるもんだ」と呟いてはさっきから電気が点いていないので当たり前なのだが、顔が見えない訳だと1人で納得すれば「そりゃ同感だ。それより先に電気点けようぜ」とスイッチがある方を指差す。
「確かに暗いな。ほらよ」
「サンキュ」
指を差された方を向けばスイッチがあるので、そこまで歩いていき明かりをつけるとさっきまで見えていなかった物が全て見え、やっぱり自分が来たところは前の世界でも来た事があるところだと確信しつつも、話をしていた人物の顔が見え、まじまじと見つめた。
初めはポカンと口を開けていたのだが、次第にムッとした表情になり「そっくりだが、なぁんかお前のがハンサムじゃないか?」と緑のジャケットを羽織った――ルパン三世を見ては足踏みをして大人気ないが怒り出した。
軽く礼を述べ、見つめられると何とも言えない複雑な気持ちになりつつも顔には出さず、いきなり怒り出すので溜息を吐いて「なんでそうなるんだよ」と、呟いて仮にも『大泥棒』なんだから、細かい事は気にするなよ、と赤いジャケットを羽織った――ルパン三世に心中で呟いた。
「俺はお前さんの方が人当たりは良いように見えるな」
そう口角を上げて言う。
「人当たり良いねぇ」
褒めてもらったのだと受け止め、あからさまにニヤつき、基本誰かとコンビを組むとなれば相手の力量を試すところから始めるのだが、相手が自分自身ならそこは省いて良いだろう。
「何ニヤついてだよ」
「いや、別にぃ?」
呆れたように息を吐いた。
確かにニヤついた自覚があったので、指摘されれば表情を正して真面目モードに切り替えた。
「ところで、お前さんはどうして此処へ?」
何故同じ人物が2人も集ったのか気になり尋ねる。
「マフィア関係の奴にその指輪を盗めって言われたからこの屋敷に来てみりゃ、お前さんに出くわしたって訳」
頭の後ろで手を組み、逆に自分も気になったので「そう言うお前さんはどうしてなんだ?」と聞き返す。
「俺は特に理由なんてないな。単位此処のセキュリティは厳しいと聞いて、言うなれば腕試しに挑戦ってとこか?」
理由などなく、興味本位で盗んだと答える。
となると、赤ルパンが前に居た世界で腕試しに此処にやって来て、指輪をすり替えていて、逃亡した後に緑ルパンが来た事になる、が、それだと説明がつかない。
緑ルパンが来た時には金庫が開けられた形跡はなく、開けてみると中にレプリカが入っていた。
考える事は前の世界で赤ルパンが本物とレプリカをすり替え、レプリカだけがこの世界の金庫の中に来た、という事になる。
そのレプリカを緑ルパンは盗みに来て、赤ルパンも何故かやって来たという事になってしまう。
「腕試しで盗まれるとは俺の腕も落ちたもんだな」
急に真面目になった赤ルパンを見つつもはぁ、と溜息を大きく吐き、それより何故同じ人物が居るのだろうかと考えながらも思い当たる節はなく、パラレルワールドなのかと一瞬思う。
「いやぁ、俺でも危うかったぜ?」
実際噂通りのセキュリティの厳しさで手こずった所もあるので、謙遜して軽く否定をしておく。
こちらも同じく何故か分からず考えてた所に「――なぁ、パラレルワールドって信じるか?」と聞きなれない単語を真面目に緑ルパンに尋ねられた。
「パレルワールド?」
単語だけを返せば緑ルパンが「もう1つの世界みてぇなモンだ」と言った。
聞いた事はあるが、実際に存在するのかどうかなどあまりにも興味が無く、仮に存在したところで行き方も分からない。
「そのパラレルワールドが関係してるって、言いたいの?」
「可能性の1つとしてな」
考えられないという訳ではない可能性に頷きつつも、信じがたく、取り合えず元の世界に戻る方法を探すしかないのかと思った。
「……取り合えず、一旦アジトに戻るか」
緑ルパンは呟く。
今この屋敷に居ても何も始まらないだろう。
アジトに戻れば誰かが居るかもしれないのでそう提案したのだ。
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