ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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【御伽噺】
【プロローグ】
闇の間―廊下にて―
王の宿命とは一体なんだろうか。
何故俺は王に仕えているのか。
その意味すらもう思い出せないで只、王の命令に従っている。
「おいクロハ。次の会議ではよろしく頼むぜ」
「はい。かしこまりました」
俺は一体何をしているのだろうか。
俺は王に仕える意味があるのだろうか。
そんな事を思いながら次の会議とやらに出るために、準備をする。
王はほとんどの事を俺に任せて会議とやらには顔すら出さない。
――俺は一体、何をしているんだろうか――
会議というのも面倒な事だ。
どうでもいい事を聞いて何になる。
本来なら断っているが王の命令の為、逆らえない。
俺は会議を終えて廊下を歩き自室に戻ろうとすると、誰かに名を呼ばれ後ろに振り返る。
後ろに居たのは真っ黒で巨大な蛇だ。
目が真っ赤で不気味な真っ黒な蛇だ。
不気味な蛇の周りには同じく不気味な空気が漂っている。
その蛇はまるで呼吸をするように俺に尋ねた。
「何をしているか知りたいか?」
考えている事が読まれたみたいで不快になるも無表情と無言でいれば蛇は、人が他人を馬鹿にするように舌をシュルルと出している。
不気味な蛇は舌を出しながら早く答えろと言わんばかりに目を更に赤く染める。
何も言えず、その蛇をじっと見ていると蛇は俺の方にだんだんと近付いてきてしまいに俺の目の前にいる。
俺と蛇の間には結構な距離があって分からなかったが、この蛇は俺の身長を越えた巨大な蛇だ。
俺や王を簡単に飲み込むだろう。
額から汗が流れ落ちて頬に伝い、冷たい廊下に真っ直ぐ一滴の汗が落ちていく。
「何故、王に仕えているのか知りたいか?」
蛇の息が顔にかかるぐらいの近さで、低い声で言われ俺は後ずさりをする。
関らない方が良い気がする。
俺は蛇を睨みながら通り過ぎて行こうとすると、蛇は通さないとばかりに巻いていた体を伸ばし始める。
やっぱり全身真っ黒な蛇だ。
「王に仕える者、貴様は私を知っている」
そう言いながら蛇は嘲笑するように俺の頬を舐める。
舐められたと理解すれば体は大きく震え、咄嗟に腰に差してあるサーベルを抜いて蛇に切りかかる。
サーベルの刃は蛇をすり抜けて何もない空間を切ったと同時に俺の意識は薄れていった。
闇の間―自室にて―
何が起きたのだろうか、気が付けば自室に居て、ベッドの上で横に寝転んでいて何が起きたのか全く分からない。
先ほど見た蛇は夢だったのだろうか?
夢なら気味が悪すぎる。
――ピピッ。
メッセージが届いているようだ。
俺はベッドから起き上がり、机にある黒い羽を突く。
黒い羽は真ん中で綺麗に真っ二つに割れて、上下に分かれる。
メッセージには王からで『廊下で倒れてたぞ』とだけ書かれていた。
俺は王に返信をしてメッセージパネルを閉じる。
「貴様は私を知っている」
自室全体に声が響き、その声は俺が廊下で見た蛇の声だ。
【御伽噺】To be continued?
【なりすましゲンガー】
俺は影だ。
いつもこうやって後ろ指を指されて笑われる。
どうせあっちもこっちも、二進も三進もお前の影に隠れたままなんだ。
★★★
「おばさん、この席どうぞ」
快速電車の中、俺の目の前に座るコノハが年寄りに席を譲る。
俺は席から動かず座ったまま。
「あら、どうも助かりました」
年寄りはフフフと笑い、コノハが譲った席に腰をかける。
コノハは近くで立ちながら窓の外を見ていている。
俺はその光景を見て見ぬ振りをする。
★★★
「最近の若者達は--」
なんてよく耳にするが、なにを隠そう俺がその最たる例だ。
実は俺だって怖いものはある。
人の心の奥底なんて怖くて知りたくもない。
きっと俺は誰の目にも映っていなく、そこには存在しない。
存在するのはコノハで俺じゃない。
だから俺はコノハの影だ。
いつもそうやって後ろ指を指されて笑われて、そんな行ったり来たりの人生で、日の光を浴びないせいでコノハの影を何度も影踏みをしてるんだ。
実は寂しがり屋の口癖が「アイツみたいにはなれない」ほらな、俺とコノハの距離が開いてしまって追いつけないんだ。
★★★
独りぼっちで誰も周りに居なくて、孤独な夜を何度も明かして、部屋の隅にポツンと咲く花に勇気を貰っていた。
トントンと部屋のドアがノックされてドアが開く。
部屋に入ってきたのはコノハで「話があるの」と言われる。
「クロハ最近、僕のこと避けてる?」
--君の心の中覗いて 忘れ物を見つけました。
俺は何も言えず、ただ黙っているとコノハは俺の膝の上に座って「クロハ」と俺を呼び、首に腕を回して俺の唇にキスを落とす。
その瞬間に頬が赤く染まって、目を逸らす。
そして逸らした目を向かせるように顎を掴まれて、コノハの方に向かせられてまたキスをされる。
今度は舌をねじ込まれて口内を好きなようにされる。
「んっ…ゃ、ぁ!」
喉の奥から聞いたことの無い声が聞こえて、息も辛くなる。
コノハの肩を叩いて口を離してもらう。
「クロハ…顔真っ赤」
そう言われて顔が熱いのに気がつく。
あぁ、そうか。
俺は--
「喜怒哀楽が足りない不完全な存在だよ」
とコノハが耳元でささやく。
★★★
明日また太陽が昇って、陰と陽の日陰と日向の境界二つの境目に、やっぱり逃げ続けるだけの人生なんだ。
なりすました影がこうやってコノハの影にずっと隠れて、いつかコノハに照らされて、このまま消え失せれたらそれが良いな。
【なりすましゲンガー】END
【心霊現象】内容実話・会話想像
ある日の事だった。
ある小学生(ヒビヤ)の一言から始まった。
「おばさん!いきなり冷房つけないで!!」
ヒビヤがキサラギに放った一言にキサラギが「おばっ!私じゃないよ!!」と言い、アジトの中に居たカノ(なぜいつも居るんだ)とマリー、俺、コノハとクロハが首を傾げる。
今日はそんなに暑くもなく、冷房もつけていないがヒビヤ曰く冷房がついたらしい。
「でも誰も冷房に近づいてないよ?」
カノの言葉に俺とマリー、キサラギが頷く。
コノハは話を聞いていなくクロハと何かを話している。
「いやでもついたんだって!」
「いつ?」
「2時間前!」
「私家にいたけど…」
キサラギの言葉にヒビヤは凍り付く。
ヒビヤが体験したのは2時間前にアジトに来て勝手に冷房がついたらしい。
それをそこに居ないキサラギのせいにするのはどうかと思うが…。
アジトには誰一人居なかったらしいので、この現象はおかしい。
いや、電気の流れが変わって勝手に作動したとも考えられる。
計画停電とかそういった事情かも知れない。
ここはしばらく様子を見よう。
「暫く様子をみるぞ」
俺が発した言葉にみんな頷いた。
五月○日×曜日。
今度はエネが何か言い出したようだ。
『ご主人!用も無いのにCD入れを開けないでください!!』
今朝の事らしい。
パソコンを起動してる間にトイレを済ませて、カッブ麺を取りに行っている間の出来事らしい。
『ご主人用もないのに何回もCD入れを開けて…』
「オレネットで検索してただろうが!!」
シンタローが反発して暫く言い合いが続いたので、俺はソファから立ち上がり時間も夕方なので、飯を作りにキッチンに向かう。
キドがご飯を作っている間僕がナレーションをするね。
シンタロー君から話を聞くとパソコンでカクカクシカジカを調べていたら(何を調べていたのか覚えてないので適当にして)勝手にCDを入れるとこが、開いたらしい。
「誤差動じゃないの?」と尋ねると「そんな誤差動があるか!」と返ってきた。
そんな事言われても僕パソコンの事知らないし。
暫く話を聞いているとキサラギちゃんも、テレビの音量が勝手に上がったらしい。
ひえぇぇぇぇぇぇぇぇ、と言うマリーの声が…っていつから聞いてたの?
「そうだったら最近おかしいよね…」
「あぁ、モモから聞いたが勝手に冷房がついたんだってな」
「まぁね」
一通りのことをシンタロー君に話すと、シンタロー君はまじめに考え始めて暫く経ってから「塩でもまくか」と言っていて、さすがにキドに怒られるので止めとこうと言うことになった時に、キドからご飯だと知らされる。
★★★
キドのご飯も食べ終わって、キサラギちゃんがお風呂に入っているときに、よくみたら結構最近に取り替えたはずの時計の指す時刻は大変な事になっていた。
短針と長針と秒針の三つが動くタイプで、電池式のやつだし最近電池を変えたから気にしなかったのに、もう一時間もずれていたなんて。
何がどうしてこうなったんだろう。
明らかに霊の仕業なのだろうか…。
★★★
次の日、時計を新しいのに変えてようすをみることにしてこの事件は幕を閉じた。
たぶん、またいつか語ることになると思うよ。
☆☆☆
「カノ…」
「何、キド?」
「途中から俺のナレーション取るなぁ!」
「ぐぼっ…みぞおち…殴らないで…」
幽霊よりキドの方がよっぽど怖いかもね…。
おっと、恐い恐い。
【心霊現象】END
【ヒキニートとヒキニート】
オレが家に引きこもってから二年が経つ頃、とあるチャットサイトでのことだ。
いつもの通り何か情報でも集めることができないかとチャットを始めたのが発端だ。
チャットを始めて数日経って、いつも通りチャットサイト開いて会話を始める。
オレと同じような引きこもりがチャットをしてると思うと、オレと同類で心が救われる。
チャット内容は最近のニュースだったり、ある番組のことだったり様々なものである。
オレもそこに混じって会話をしていると、一人の入室者が現れた。
--鹿さんが入室されました。
『やっほ~久しぶり~あ、新しい人が居る!よろしくねー!』
とても明るい文面を見てオレはコイツは女かと思ってしまう。
今日は平日でコイツは学校に行ってないのかと思うほど元気な文だ。
いや、大人かも知れないから何とも言えない。
『こんにちは、よろしくです』
当たり障りのない返事をしてトイレに行くために席を立つ。
トイレから戻ってきてパソコンの画面をみると、鹿というやつがオレに対して色々質問をしてきていた。
『いつからこのチャットしてたの?』
『君の住んでるとこは?』
『歳は?』
『あれ?ROM?』
オレは質問に一つ一つ答えて色々な話をする。
『18歳なんだ!僕は14歳!』
そんな話をしているときだった。
『住んでるとこ近いね会ってみない?』
そんなことを書いていたので、オレは一瞬イスから落ちて床に尻餅をつく。
「なっ…!」
顔が熱くなって下が熱くなっていく。
そんなこと考えてはいけない。
第一性別も分からないのにこんなこと思うのはよくない。
オレはイスに座りなおして、『良いですよ』と返事をして日時を決めて、チャットサイトを閉じてパソコンの電源を切る。
明後日の平日の午前九時に、○○駅に行くことになった。
次の日、明日だ明日だと思ってろくに眠れやしない。
お互いチャームポイントになる服を教えているので、格好は頭に入れている。
鹿というやつは黒いパーカーを深く被っているそうだ。
オレは赤いジャージを着てると伝えた。
そして、その日がやってきた。
駅までの道を息切れしながら歩いていると、平日のため学生の姿はない。
丁度駅に十分前について体を休める。
相手の姿を探してみるが、まだ見あたらない。
まだ来てないのか、からかわれたのかと思いながらウロウロを繰り返している。
「あ!いたいた!そこの君!!」
後ろから声が聞こえたので足を止め、後ろを振り返り相手の姿を確認する。
後ろに居た奴は「やっほ~」とニコニコと笑っている。
言っていた通りの黒いパーカーを深くではないが被っていて、黒縁めがねを掛けている。
「ぁ、えっと……」
お得意のコミュ障を発揮して、恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
ろくに人と会話してない為、口がうまく回らない。
「緊張してる?」
ニコニコしながらオレに尋ねてきて、顔をのぞき込まれる。
顔をのぞき込まれて、頬を染めて半歩後ろに下がる。
「大丈夫だって!僕も緊張してるから」
片目を瞑って、口元に人差し指を当てて笑うコイツから緊張感は伝わってこなかった。
むしろからかわれてる感の方が伝わってきた。
「僕の名前言ってなかったね。僕の名前は鹿野修哉だよ」
「あ、あぁ…オレは如月伸太郎だ」
お互いに自己紹介してどうしようか考えていると、鹿野が「喫茶店でも行かない?」と言ってきたので、取り合えず喫茶店に向かうことにする。
☆☆☆
「シンタロー君だっけ?僕、君と会えて嬉しいよ!」
にっこり笑うコイツが少し可愛いと思ってしまった。
とある喫茶店にて、オレとカノは飲み物片手に話をしている。
「シンタロー君…ちょっと失礼するね」
鹿野は立ち上がり向かった先はお手洗いだった。
緊張しているのは本当なんだろう。
オレもコーラを飲み過ぎているせいか、トイレに行きたくなり鹿野の帰りを待っていると数分で鹿野は戻ってきたので、入れ替わるようにオレはトイレに入っていく。
「はぁ…」
無事にトイレから出て来て、席に座り話を再開しようとするが、鹿野の様子がおかしい。
そわそわとして何かにおびえているような、そんな感じがする。
「…どうした?」
「え!?な、何でもないよ!?」
フードを深く被り何かから避けているような鹿野が気になって、鹿野の後ろを見てみると特に変わった様子はなく、大人の人がカウンターでコーヒーを飲んでいる。
こっちを向いているわけでもないので、特に関係はないか、と思っているとカウンター席の隣で座っていた奴が、時々こちらを何度も見てきてるのが分かる。
「店、出るぞ」
鹿野の腕を引っ張り、喫茶店から出て後ろを振り返りながら前に歩いていく。
思ったとおり、カウンターに座っていた奴が後ろをつけて来ている。
「つけられてたのか?」
「うん」と鹿野は言い、オレと鹿野はつけて来ている奴から逃れるために、路地裏に入り、大通りに出て街中を歩く。
向かうはオレの家。
この時、オレと鹿野がどうなるかなんて誰も考えはしなかった。
【ヒキニートとヒキニート】To be continued
【人間失格】
未来には興味がない。
僕たちは二人で生きていける。
誰の力も借りずに、僕たちは【人間】になることなく、二人だけで生きていける。
そう思ってた。
***
未来には興味がない。
他人にも興味がない。
ただ、アイツが隣に居るだけで良い。
この可笑しな世界で、アイツが、コノハが僕の隣居ればそれで良い。
コノハが隣に居てくれるなら、俺は、人殺しだってするだろう。
何も躊躇わず、当たり前の様に自分の手を血で染める事だろう。
そんな僕を誰かが「人間失格」と言っていた気がするが、顔も名前も思い出さない。
僕とコノハは大都会の街を歩いて、数々のことを目の前で見ている。
人が殺害されるところ、誘拐されることろ、どんなに残酷な事を見ても助けたいなんて思いはなくて、その場から離れずその光景を無表情で見ているだけ。
「……今日も人が殺された」
コノハが口を開くが全く感情がこもっていない。
僕とコノハが此処まで変わった理由といえば、アレしかない。
カゲロウデイズ。
いつの事だったかは覚えていない。
昨日の事かも知れないし、何百前の事かもしれない。
カゲロウデイズが原因で僕とコノハの性格は歪んだ。
僕の場合は元々歪んでいた。
遊園地から帰る途中のメカクシ団の一人、鹿野修哉に銃を向けて引き金を引き、殺害した。
その後にもほとんど全員を殺害した事がある。
「あぁ」
あの頃は僕もまだ感情を出していたのかもしれない。
今となっては感情なんて無でしかない。
表情も全く動かない。
アイツらはとっくの昔に亡くなっている。
全員寿命だ。
あぁ、女王は分からないが。
「ねぇ、クロハ…」
「何だ」
ハテナマークもビックリマークも存在しない。
無表情でそこに居て、ついに自分の笑い方も忘れ、僕たちは大都会の街を意味も無く歩いてる。
何億人死のうが僕には関係がないし、興味もない。
「また事件が起きてる」
「【人間】はすぐに事件を起す」
「あ、刺された」
痛そう、早く病院に、と言う声が聞こえる中僕たちはその光景をただ眺めている。
意味もなく。
そこに存在しているだけ。
ガムを噛んでフーセンを作ってそうやって見て見ぬフリと言うのを続けて、何年になるだろうか。
僕たちはそうやって多分、アイツら、メカクシ団が居なくなってからこうやって生き続けているんだろう。
だからなんだ。
それが何だという。
どこで誰が亡くなったって今の僕らには関係がない。
カゲロウデイズは存在しない。
止める意味もない。
アイツらは存在しない、そんな世界で生きる意味が無い。
「行こう」
殺人の光景も飽きて、その場から離れだす。
行く宛てなどなく、公園などで寝起きをしている。
懐かしいなんてみじんも思わない。
思うことなんてない。
結局僕たちは狂っているという事だ。
僕はコノハが隣に居てくれるなら殺人だって出来る。
コノハも同じで僕が隣に居るなら殺人が出来る。
僕らはどうしてこうなったのか。
さっきはカゲロウデイズのせいだとか書いたが、単なる悲劇の主人公気取りだ。
ただの悲劇にあったフリをしてるだけだ。
「ボールそっちに行ったよ!」
公園から子供の声が聞こえる。
近所の子だろうか。
声的には中学生に聞こえる。
「お、おぉ、OK!!ってあ!」
「リン何やってんだ?」
「うっさい!!レンが変なとこに投げるから!!」
「二人とも喧嘩しない。リンはボールとって来る」
「はーい」
ボールは公園から出て、道路に出ている。
それに続いて中学生ぐらいの少女が公園から出てきて、ボールを追いかける。
少女の見た目はセーラー服の袖を切って、裾を短くして、黒いホットパンツを穿いている。
髪は亜麻色で、肩の辺りで外に跳ねていて、頭には白いリボンがつけられている。
ボールが道路の真ん中に行き、リンと呼ばれた少女が駆け寄ってボールを取ろうとした瞬間、クラクションが鳴り響く。
キィィという音と共に少女が赤く染まって横たわっている。
クラクションの音に気が付いて一緒に遊んでいたらしい子達が、横たわっている少女に近付く。
それが、真夏の8月15日の事だった。
***
トラックに轢かれた少女の命はどうなったかは知らない。
僕もコノハも表情を変えず、無表情でその光景を眺めていた。
次の日、同じ公園に行ってみると、見たことのあ少女がボール遊びをしている。
昨日見た、トラックに轢かれた少女だ。
死んではないようだ。
少しほっとしたのは気のせいだろうか。
いつからか僕たちは感情がなくなっていた。
それはきっとメカクシ団が居ないからだと思っていた。
そうだ。
僕たちはメカクシ団の皆が居ない世界でぽつんと二人だけ残された。
たった二人、人造人間の僕たちが残され他の皆は亡くなった。
それを認めたくは無くて、初めから存在しないようにしようと思って、感情をなくしたんだ。
全てをカゲロウデイズのせいにして、現実から目を背けては、それを悲劇の主人公だと言い聞かせ、自己暗示というのか分からないが、とりあえず現実から目を背けて二人で生きて居ている。
僕もコノハもとっく分かっている事だとは十分に理解してる。
どれだけ探しても、どれだけアジトに居ても、アイツらは帰ってこないことぐらい理解してる。
「――恥の多い生涯を送ってきました、か」
人間失格、という本を書いた人が居る。
誰だっけ、太宰治だったような気もする。
今の僕たちには一番合う言葉なのかもしれない。
人間失格、という曲を作った人がいる。
「さよなら、僕らの人生」
という歌詞で終る。
人間失格、という言葉がある。
感情もなく表情もなく、人の死をなんとも思わない【人間】に使われることが多い。
ある少女のおかげで僕たちは思い出すことが出来たのかもしれない。
あの少女がトラックに轢かれなかったら、僕たちは人の死を見ては無表情で立っているだけの存在だった気がする。
僕らはまだ認めることは出来けれど、いつかきっと違う形で会えることを願っている。
これなら【人間失格】ではないな【人造人間失格】にはならないだろう。
あぁ、これが【人間】というやつか。
まだ、どうやって表情を作っていたか思い出せないけど、俺はコノハと二人でメカクシ団がまた集るときがくるその時まで待っていようと思う。
――恥の多い生涯を送ってきました――
「さよなら、今までの、僕らの人生――」
俺は真夏の8月16日の太陽に呟いた。
【人間失格】END
【ツンデレ女とクーデレ勝り】
カゲロウデイズの攻略も終わり、早三年。
私榎本貴音はいつも病と戦いながら、生活をしている…と言うわけではなく、病院の先生の頑張りもあり私の体は普通になった。
これでゲームがやり放題、と思ってゲームをしていたら木戸率いる元メカクシ団が、私の家まで押し掛けて懐かしのアジトに連れて行かれる。
………ゲーム。
遥はコノハで居たためか、体は大分丈夫になっていて発作も起こさなくなり、結構遠出もやりやすくなった。
相変わらずよく食べる……。
三年も経っているので学校にも行っていなく、ダラダラと家にこもってゲーム、ゲーム、ゲーム…とゲーム三昧をしていた。
死んだ人も帰って来ているので、時々文乃ちゃんと伸太郎と遥でバーベーキューをしたりしている。
そして今日もキドこと、木戸つぼみちゃんに家から連れ出されて、メカクシ団アジト(元)に連れて行かれる。
することはいつも同じで皆で話をする。
現在アジトにいるのは私、伸太郎、文乃、つぼみちゃん、修哉君、幸助君、マリーちゃん(漢字知らない)、桃ちゃん、ヒヨリちゃん(漢字知らない)、ヒビヤ君(漢字難しいから忘れた)、遥、と何故か黒い奴が居る。 「……で。何でコイツが居るの!!」
私は黒い奴を指さしてソファから立ち上がる。
すると修哉君がニヤニヤと「良いじゃないもうカゲロウデイズも終わったんだし」と言うので、よくつぼみちゃんがやっていたように修哉君の腹を殴る。
懐かしいな…。
「ちょっ!貴音ちゃん痛い…」
取りあえず修哉君はほっといて黒い奴に近づき、胸ぐらを掴んで「何でアンタが居るのよ!!」と怒鳴って睨みつける。
「先輩…コイツはもう悪さはしないって約束したから許してもらえないか…?」
「いくらつぼみちゃんでもコイツがやったことは…!!」
「でも三年かけて謝ってたの貴音さんも知ってるでしょ?」
つぼみちゃんに言い返そうとしていたら、文乃ちゃんがずいっと顔を近づけて言ってくる。
それはそうだけど、たった三年謝っても私たちは何度も繰り返していたのはかわりない。
しかもコイツのせいで何人もの死者が出て、皆傷ついてそれでも前を向いて生きていたのを三年謝っただけで許せない。
「でも…コイツは…遥の命まで…」
弱々しく言っていると肩に誰かの手が置かれて「貴音」と言い、続けて「僕は貴音と居れただけで楽しかったから大丈夫だよ」と言い、さらに続ける。
「それにたくさんお友達できたから…」と照れくさそうに頬を掻きながら遥は言う。
それでも私はコイツを許せなくて、俯いたまま何も言えないでいる。
「遥君だってそう言ってるか良いんじゃない?許してあげようよ」
修哉君が私に近づいていつもの様にニコニコと喋っているのが分かる。
私はため息混じりに「…遥がそう言うならいいよ」と言い、少し外の空気を吸おうと思いアジトから出ていく。
★★★
「はぁ~…」
ため息をつきながらその辺りを歩いていて、今もアイツを許そうかどうかと考えている。
さっきは遥が良いならという意味で許すことにしたが、まだ私の中にはモヤモヤが残っている。
あの頃遥に感じていたモヤモヤ感とはまた別の……。
あぁ、もう!!
考えても分からないから放棄放棄。
こんな時つぼみちゃんなら…。
「つぼみちゃんなら…」
「貴音」
「つぼみちゃんなら…」
「貴音」
誰かの声がするのは気のせいだろうか。
私は考え事をしていると幻聴でも聞こえたのかな。
いや、そんなはずは…。
「貴音先輩」
「は、はいぃ」
突然耳元で名前を呼ばれ、肩がびくっと揺れる。
ゆっくり後ろを振り返るとそこにはつぼみちゃんの姿がある。
路地裏というわけではないから居てもおかしくないけど…。
「先輩、どうしたんだ?」
つぼみちゃんはいつもフッと笑いながら私に尋ねてきて、頬が赤く染まるのが分かった。
「どうした?」
「え!?べべべべ、別に!!」
首を横に振りながら頭に手を置いて、言い訳を考えていると私のバカな頭じゃ言い訳が出てこず、アハハと言いながら目を逸らす。
「様子が変だぞ」
つぼみちゃんが私に近づいてくる。
「ど、どうしたのつぼみちゃん…?」
後ろに下がりながらつぼみちゃんから顔を逸らす。
普通の道なので人にぶつからないか、後ろを確認しながら一歩ずつ後ろに下がっていく。
「つぼみちゃん…?」
ゆっくり近づいてくるつぼみちゃんがクールでかっこよく見えて、いつもより自分の理性が抑えられなくなる。
つぼみちゃんを真っ赤にしたい。
ここだけの話なんだけど、私はつぼみちゃんの事が好きで毎日元アジトに連れて行かれるのは、意外に嬉しかったりする。
それに女子力も高いし、料理上手だし、家事も出来てモテそう…。
じゃなくて!!
私はつぼみちゃんが好きで毎日つぼみちゃんの事を考えている。
「つぼみちゃん……」
私はつぼみちゃんの腕を掴んで走り出した。
「お、おい!貴音!?」
向かった先は路地裏で人気のない路地裏に着いて、つぼみちゃんの腕を離す。
「はぁっ…はぁっ、ど、どうしたんだ、貴音?」
息切れをしながら私に尋ねてくるつぼみちゃんに、私も息切れをしているので呼吸を整えて口を開く。
「ご、ごめん!えっと…その…今言うのもあれ何だけど……私、つぼみちゃんが…」
好き。
その先が言えなくて色々なとこに視線を向ける。
無造作に置かれたごみ箱や、ビール瓶を入れてるケースが目に映る。
けど、肝心なつぼみちゃんを目に映す事はできなくて、青い空をみたり、アスファルトを見たりと挙動不振になっている。
「貴音……?」
つぼみちゃんが近づいてきて、私の頬に手を添えて「顔赤いぞ」と言った。
熱でもあるのか?という意味なんだろうけど、私にはつぼみちゃんが好きだということが知られた気がしたのでつぼみちゃんの手を払う。
「うるさい!!」
あぁ、何でいつも素直になれないんだろう。
遥に大好きって言った時も手遅れになってからだし、もっと素直になれたらきっとつぼみちゃんにも告白できたんだろうな。
「わっ悪い!」
慌てて手を離すつぼみちゃんに「ぁっ…」と声を漏らしながら、手を伸ばす。
つぼみちゃんの手を掴んで俯きながらぽつりぽつりと言いたかったことを言う。
「ご、ごめん…私…、つぼみちゃんが…つぼみちゃんのことが……」
好き。
中々言えなくて頬が赤くなっていくのが分かる。
一言好きと言えば想いは伝わる。
一言好きと言ってしまえば、つぼみちゃんに嫌われるかも知れない。
そんな葛藤を心の奥底でしているから、中々好きと言えない。
「--好きだ」
「……へ?」
つぼみちゃんから聞いたこともない言葉が聞こえた。
好き、なんてカゲロウデイズの時ですら言わなかったのに何で今つぼみちゃんは…。
「貴音、俺は貴音が好きだ…も、勿論恋愛的な意味だからな!」
照れ隠しなのか怒っているような言い方でフードで顔を隠す。
私は顔をゆっくり上げて、つぼみちゃんの顔をのぞき込んだ。
フイっと顔を逸らされて、私はムッとしたのかつぼみちゃんを壁に倒して俗に言う壁ドンをした。
「私の方が先輩なんだけど」
と強がりで強がってしまって後悔をして、つぼみちゃんの赤い顔に勝ったなんて思いながらつぼみちゃんの唇にキスを落とした。
--私も好きだよ。
【ツンデレ女とクーデレ勝り】END
【最前策は今日もまた__】
とある暗い空間に俺は居た。
真っ暗で右も左も上も下も斜めも、全て暗闇の世界に俺は存在した。
別の言い方をすれば俺は【人間】の恨み、憎しみ、恐怖、嫌悪、憎悪、嫉妬、全ての負の感情で【黒蛇】として作られている。
この少年もそうだ。
//
『シンタロー……死んじゃった、ゴメンね』
『寂しいこと言うなよ、行かないで――』
そんな悲劇があってからは、この少年学校にも行かずに家に引きこもっている。
それからはこの少年、名を如月伸太郎 通称シンタローと言う。
ここ最近俺の居るこの暗闇の世界によく迷い込んでいる。
そうは言っても、ただ体育座りをして気がつけば居なくなっている。
俺の知っている最前策とは全く違う様子で、目元に隈があり誰も寄せ付けないオーラを放っている。
//
『シンタロー君、もしかして……絶叫系苦手?』
『うるせぇ!!』
『カノ失礼っす』
モニター越しに何度目かの遊園地シーンを見つめて、赤ジャージの最前策を指でなぞる。
いつしかあの少年、如月伸太郎もあのように笑うのだろうか。
そして今日も如月伸太郎が暗闇にやってきた。
何故か知らないがシンタローは俺を見つめていた。
//
『んっ…はぁっ、ま…!』
『こんなに濡らして』
『そっ、それはクロハが…!』
//
夢で助かった。
目が覚めると体中に汗を掻いていることに気がついて、シャワーでも浴びようと暗闇から出る。
暗闇を出るとそこはあの赤ジャージの部屋と全く一緒だった。
「……」
あたりを見渡してもシンタローの部屋だ、なぜここに居るんだと思っていると、ガチャとドアが開く。
固まっているとシンタローは目に隈を作っていて、黒いパーカーを着て部屋に入って来た。
「……誰だよ、お前」
睨みつけられては何も言えず、ただそこに立っているとシンタローは俺の横を通り過ぎてPCの前に腰掛ける。
//
「…………」
無言でPCを触っていて、シャワーを浴びるのを忘れて俺はその場でしゃがみこんでいて、シンタローの様子を見ている。
「なぁ……」
声をかけてもヘッドフォンをしてるシンタローには俺の声は聞こえていなくて、キーボードーで文字を打っていた。
「シンタロー……」
ヘッドフォンを片方外してそう呼んでみると、シンタローは肩を揺らした。
「ひっ!」
大きく肩を揺らしたシンタローの耳に息を吹きかけて、チロッと蛇に耳を舐めさせる。
これもまた大きく肩を揺らすシンタロー。
段々面白くなってきて蛇を消してシンタローに色々仕掛ける。
耳を甘噛みしたり、背中をなぞったり、太股の内側を撫でたりした。
その度に体を跳ねさせるシンタローの姿を可愛いと思ってしまう程、俺はシンタローに惚れているのかも知れない。
手を離し遠慮なくベッドに腰掛けて脚を組めば俺はシンタローに「最善策」と声をかける。
シンタローは振り向いて俺を睨みつけているが、【蛇】にとっては好物でしかない。
そんなにこの俺に弄られたいのか?
そんな冗談を心中で呟きながらも、シンタローを手招きする。
シンタローは俺に従ってベッドまで歩いてくる。
何も食っていないような細い体、今にも崩れそうな心でずっとPCを触っていて、何が楽しいのか分からない。
【黒コノハ】としてか、【蛇】としかは理解出来ないが俺にとっては何が楽しいのか全く理解できるものではない。
「シンタロー……」
俺が名前を知っているのに疑問に持っているのか、驚いた表情をした。
メカクシ団の名前なら全員覚えた。
さすがに何百回繰り返しを見れば俺だって覚える。
「シンタロー……」
「あ、アヤノ……!?」
驚いた表情を隠せていない。
そりゃぁそうだろう、俺が【欺く】の能力を使いアヤノに化けている。
それの目の前で見せられてしまっては、驚くだろう。
「ちがっ……俺は、ただ……」
何を懺悔しているのか、それはこの少女アヤノの死についてだろう。
顔を歪ませて今にも泣き叫びそうな表情を浮かべているシンタローに笑いかけて「大丈夫」とだけ言って笑みを浮かべる。
悪いのはお前じゃない。
お前じゃないんだ――。
そう心の中で言いつつも伝わる訳ではないので、シンタローの頬に触れたら見たとおり震えているのが分かる。
「シンタローは悪くないよ、悪い人なんて居ないよ。シンタロー、私の分まで学校行事楽しんでね」
「ア、ヤノ……?」
首を横に振りイヤイヤと言っているがいつまでも欺いている訳にはいかないので、シンタローを抱きしめながら欺くのを止めた。
いつまでも「アヤノ、アヤノ」と泣いているので中々声が出す事が出来ない。
――悪いのは、俺なんだ。
俺がアヤノを殺し、メカクシ団を殺した。
その事実は変わることはない。
けれど、今までの世界では俺が殺していたとしても、この世界ではとっくに前の世界の俺によって殺されてしまったアヤノの代わりに生きる事は許されるだろうか__。
最善策は今日もまた__
__独りで泣き続ける。
【最善策は今日もまた__】END
『隊長のすべて俺にちょーだい』
俺の所属している隊長はどちらかというと、美形だと思う。髪が長いのが余計に良いのかも知れない。その姿を見てしまうと目を奪われる。金髪で碧眼、高身長そういったものがあるから目を惹くのかも知れない。ただ、その姿は何と言っても綺麗だと思っている。
「……今日の任務はここまでだ。各自油断せずに帰還しろ」
「了解!」
今日のミッション内容、モンスター討伐。数はそんなにないのでいつもより気楽に戦えるが、だからと言って気を抜くことは許されない。だからアジトに戻るまでは警戒を怠らない。
「隊長……! ちょっと良いですか?」
ピンクの髪をツインテールにした同じ隊の「アイナ」が隊長に声を掛ける。
「アイナか、どうした」
「この武器ミッション前に強化したんですが……前より使い方が複雑になってしまって……」
「見せてみろ」
これです。とアイナはショートブレードを隊長に見せる。確かに一昨日見たときより強化されて、多少複雑な事になっている。複雑なことが苦手なアイナにしてみれば軽くパニックを起こしても良かったはずだ。いや、既に起こしていたのだろうか。隊長とアイナだけその場に残り、他は先に帰還しろと言われたので帰還した。
**
「隊長~! さっきはありがとうございます! おかげで使い方が楽になりました!」
「そうか」
「はい! 今度隊長と討伐ミッション受けて良いですか?」
「あぁ」
アジトに戻るなり、アイナと隊長の声がする。甘いアイナの声は嫌いな人は嫌いだろうが俺は別に嫌いじゃない。寧ろ羨ましい。俺にはそんな甘ったるい声が出せないので、その点で女の子は良いなと思う。
隊長は口数は少ないものの、仲間思いのところがある。俺は経験した事がないが、さっきの様にアイナが武器の使い方が分からなかったら教えたり、必要としている材料があれば隊長自ら譲ってくれるらしい。そんな体験俺は全くした事がないから俺は隊長に嫌われているのだろうか。
そんな事を思っているある日だった。いつも通り、隊長とアイナと俺でミッションに向かう事があった。メンバーは前回より少ないが、採取ミッションなのでそんなに人数は要らないだろう。無事ミッション内容も終わって帰還しようとしていた頃――ギュッと隊長が自分の服の袖を掴んだのを見た。
普段ならそんな事しないのに珍しいと思っていると、顔に汗が浮かび上がっている。アイナは気づいていないようだが、汗の量は背中をも濡らしており、ひょっとしたら立っている事もままならないんじゃないかと思わせる。隊長の事だから何でもない様子を装っているように思える。ここで俺が隊長に大丈夫かと声を掛けても隊長はとぼける可能性の方が高い。
アイナの肩を軽く叩き、振り向いたところで「悪い、先に戻っててくれないか? どうしても隊長と話したい事があって……」と小声で伝えてみる。好奇心旺盛なアイナは『話ってなぁに?』『隊長と二人きりで?』『もしかして~』なんて聞いてくるだろう。その時の言い訳を考えていない。
「うん、良いよ。じゃ先に行ってるね」
何も疑う事なくアイナは手を振って帰還した。アイナの背中を見送りながら足を止めて、後ろを振り向く。勿論隊長がそこに居るわけだが、隊長が何をしたって顔で見てくるからどうしようと足が竦む。
別に悪い事をしている訳じゃないからそこまで怯えなくても良いといえば良いが、隊長に対して罪悪感が生まれる。
「隊長……あのっ」
「戻るぞ」
俺の言葉を無視して隊長は歩き出す。俺を通り過ぎるとやっぱり背中の汗の量は尋常じゃない。いつからだったんだろう、どんな状態なんだろう、何で言ってくれなかったんだろう、そんな事を思い、気が付けば隊長の腕を掴んでいた。
「隊長! 辛いなら休んでください! 俺……知ってますから、隊長が優しくて、誰よりも仕事をしてるって見てますから……! だから、具合が悪いなら、休んでください」
後半は最早涙声だと思う。自分でも泣いているのが分かる。心臓が煩い。怒られるかもしれない、嫌われるかもしれない、そんな事ないと言われるかもしれない、一体何が返ってくる? そんな俺を置いてけぼりに隊長は俺を抱きしめて耳元で「じゃぁ、少し休もうか」と囁いた。
いつも自分一人で仕事して、仲間が淹れたコーヒー飲んで、手伝うと言っても断ってて、睡眠もろくに取ってなくて、食べてるのかも怪しくて、そんな隊長が俺を抱きしめたという事は、期待しても良いんですか――? 隊長。
【篠突く雨/KHR】
――あぁ、めんどくせぇ。
それが、今日1日で思った事だった。別に任務で忙しいとかそういう事ではない。ただ、偶然が偶然を呼んで彼には不運でしかなかったのだ。
バシャリ、地面を歩く度に濡れるブーツ。この国の降水量は普通だろう。四季があるのだから多い時もあれば、少ない時もある。今回は多い時なのか、そんな事、全く馴染みのない彼にとっては分かるはずもなく只々、歩くしか方法がない。
このまま戻っても良いのだろうが、戻れば後輩に何を言われるのか想像しただけでも面倒だ。それにいちいち対応している身にもなってほしいが、そんな事はうるせぇ、カス。の一言で終わるだろう。今はそれに対してとやかく言う気力すら感じない。出来れば戻りたくないというのが今、びしょ濡れで街を歩いている男の気持ちである。
元々自身の私用なので、いつ戻ろうが問題ないと信じたいところなのだがどちらかと言うと、気分屋のボスが自分が不在故に起こす物事を思うと、胃が痛くなる。
それにこんな姿で戻ったところで、後の掃除が面倒なだけだろうとさえ思えてきた。
雨は憂鬱になりやすい。何て誰も言った事も聞いたこともないが、ふと思った。ましてや雨の属性を持っている者が思う事ではないだろうが、今となっては知らない事だ。とこの男――スペルビ・スクアーロは鼻で笑った。
未だに降り注ぐ雨。一瞬自分で降らしているのだろうかと思わせるほどの雨。空の色なんて灰色で、ほとんどの物音が消えてしまっている。あるのは自身が放つ、足音のみ。
とりあえずは休みたいと思って気がつくと公園にやって来ていた。確かに休むのには問題ないだろう。屋根付きのベンチがあるのだから、そこで横にでもなっていればいつかは雨も止むだろうと考えていると、ふと、見覚えのある姿が目に映る。かつてリングを賭けた戦いで、自身を倒した男。
どうしてこんなところに居るのだろうとか、いつになったら剣の道に来るのだとか、くだらないことを無性に聞きたくなった。バシャリ、気配も足音も消していたはずが、さすがに水が跳ねる音までは消せなかったのだろう。男がこちらに気づいて振り向いた。そして「やっぱりアンタだったか」なんて、最初から気がついていた素振りで口を開く。
「う゛お゛ぉい。いつから気づいてたぁ? 刀小僧」
刀小僧と呼ばれた男――山本はいつもと変わらない笑みを浮かべ、暫し考える仕草をしてから「んー。大体あの辺あたりから」と、入り口付近を指差す。スクアーロにしてみればどこだと言いたくなるが、あの辺と言う言い方からしてそう遠くないのだろうと勝手に決め付けた。
「ところでおめぇ何してんだぁ」
ドサリと山本の隣に腰をスクアーロは下ろした。その所為で男に数滴雨水が飛ぶが、山本はそんな事気にすることなくスクアーロの問いに「野球の特訓で走ってたんだ。その最中に雨降ってきたから、こうやって雨宿りしてる」そういうスクアーロは? と山本は尋ねた。スクアーロは答える意味があるのだろうかと思ったが、ここで立ち上がってアジトに戻るよりかは幾分マシかと考え「買いモンだぁ」と答える。
「スクアーロが買い物って想像できねーのな」
普段の職業から考えて、スクアーロは買い物をするような人物ではない気が山本にはした。特に意味があったわけでもなく只、リング戦や未来での戦いや代理戦争ぐらいしか知らないので、純粋に思ったことを口にした。
「そうかぁ。しねぇってワケじゃねぇ」
よく大声で喋っているのは知っているが、こう静かに喋っている事はほぼない気がする。そう山本は思う。実際二人きりで話した事がないからそう思うだけなのかもしれない。スクアーロは脚を組み、上にある膝に肘をついて頬杖をつく。どこか遠くを眺めているような、そんな表情で「ここでしか買えねぇモンとか買ってるだけだぁ」と付け足した。
どんなものだろうと思うが、多分勝手な想像だが職業関係だろうと思いあえて聞かなかった。その代わり。
「雨止むまで俺ん家で寿司食ってかねぇ?」
なんて提案した。傘なんて持ってないが、当分は止みそうにない雨だ。ここでぐだぐだ喋ってても良いが、そうするとスクアーロが風邪でも引いてしまいそうな気がしたのだ。当然スクアーロが否定すれば何の意味も持たない提案だ。
「……こんなに濡れてる奴誘うバカが居るかぁ」
スクアーロは山本を一瞬見ては視線を元に戻す。呆れて溜息を吐いては上記を述べるが小さく「ま、悪かねぇな」と呟いた。
「じゃ決まりだな! わりぃけど俺も傘ねぇからまた濡れるのな」
後でタオル貸すからちょっと我慢してくれ。と付け足して山本は立ち上がった。その姿を横目で捉えてスクアーロも立ち上がる。頭の後ろで手を組みながら歩いていく山本の後を追って、屋根付きベンチから再び冷たい雨に打たれた。
【王子と鮫】
最近、思うところがある。いや、超個人的に思っているだけだから問題はないだろう。この金髪ティアラのベルフェゴールは何故、此処に居るのだろうか。しかも普通に。
「う゛お゛おおい! ベルてめぇ、なんで居やがる」
「うししし♪ だってオレ王子だもん」
「んな事は聞いてねぇ!! 何でてめぇがこの学校に居るかだぁ!!」
「だって暇だし」
此処は並盛。並盛中学校で、ボンゴレ10代目と守護者を暫らく護衛する形で英語教師に化けたスクアーロが、たまたま暇を持て余した王子ことベルにずっと思っていたことを尋ねた。一応一般人も居るわけなのでそういった物騒な話はあまりしない方が良いだろうと思って、スクアーロはあえて何も言わなかったがその所為でベルがずーっと何の違和感もなく居るので痺れを切らしたのだ。放課後に暇だから来たとかならまだベルらしいとか、さっさと帰れなど言えたのだが、堂々とそれも外国からの転校生としてやって来たので、何と言えばいいのか分からず放置していたのもある。それは兎も角として、王子様が一般的な学校の授業を受けても楽しいのだろうか、何て疑問も生まれてくる。
「暇だからって転校生としてくるんじゃねぇ!! 大体、オレはボスさんに言われてだなぁ……」
「オレもボスに許可貰ったし」
ボス……。ベルに甘いのかただ面倒なのかがよく分からない。額に手を当てて軽く溜息を零す。いつもマーモンが居るが、今回は居ないためマーモンは関わっていないのだろう。そんな事を思いつつ、来てしまったものはしょうがないので「面倒なこと起こすなよ」と言って、スクアーロは職員室に戻った。
1人教室に残されたベルは少しポカンとしたの地に、「うれしー癖に」と歯を見せて笑った。
『文系×理系』
次の日。よし、今日も頑張るぞ! と思い朝早くから起きて朝の支度を終え、最近読み出した恋愛小説を読む。部屋でしか読まないので進む度合いは低いがそれでも、急いで読むよりかは断然頭に入る。
主人公の女の子がクラスで一番人気の男の子に告白するシーンで、それはもうロマンチックだった。夕日が照らす教室、誰も居ない空間、好きな人と二人きり、主人公の恋は実る。あぁ、良かった! 実に良かった。感動と同時に悲しくなる。小説やアニメやマンガの中での話は実ることが多いのに、俺の恋は実る可能性が低い。というか、俺が幼馴染の麻衣に抱いている感情が恋愛感情だという事に麻衣は気が付いていない。
「……どうやって気付かせるか」
うーんと首をひねりながら考えるが、理系っていうのは言い訳にしかならないのであまり使いたくない。勉強が好きっていうのも何か違う。どちらかと言うと恋とかそういうのには興味がないとか、関わりがなく、数学の公式を使って早く理科の実験の結果を計算したい、っていうオーラがあるようにも思える。大人として例えるなら仕事熱心だと思う。だから恋には気が回らないのだろう。
だからと言って無理矢理気付かせるというのも趣味じゃない。俺が望むのは麻衣が俺に恋してるって気が付いて欲しい面もある。
麻衣のどこが好きなんだと聞かれると、即効で全部と言いたくなる。数学の計算や理科の実験などにしか興味がないのも含めて好きなんだ。でもそこで全部って言ったらありふれているし、かと言って細かく言っても嘘っぽくなる。そんな台詞を言う前に、まず麻衣に俺の感情が恋愛という事を認識させなくては!
そう思っているとドアがノックされた。時間からして麻衣だろう。ドアを開けて「おはよう」と言ってくる麻衣にいつも以上の笑顔を向けておはようと返す。ふと、麻衣の髪の毛が跳ねていることに気が付き、右手で跳ねているところを軽く押さえる。幼馴染だからこれぐらいは許してもらえるだろう。
「寝癖ついてる」
優しくその部分を撫でていると、麻衣は俺を見つめて「頭でも打ったの?」と尋ねてくる。
「何で?」
「普段そんな事しないでしょう」
「麻衣だけにしかしない」
「あらそう」
照れる様子もなく、いつも通りにしているので少し悲しくて手を離す。そうすると、今度は麻衣が寝癖の部分を押さえて「水、つけたら直るかしら……」と呟いていた。もしかして、表情に出ないか出さないだけで、本当は気にしているのかもしれない。そんな麻衣を見て頬が緩んだ。
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