ブラック 2014-10-18 07:11:51 |
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愛欲のプリズナー(ルパン三世2nd/ひとしずくP×やま△/愛欲のプリズナー)
今日もアイツはアジトから出て行く。
何かあるのかと尋ねると、いつも決まって「飲みに行く」だった。
最近その言葉が怪しい。
『飲みに行く』、アジトに酒はある。勿論俺とルパンの好みの酒がある。
それなのに飲みに行く必要など必要ない。
「おい、ルパン……」
声をかける前にバタン、とドアを閉めて出ていった。
この酒臭いリビングから玄関に、ルパンは歩いているんだろう。
そして、ギィィなんて戸が開く音が聞こえると、ルパンはアジトから去って行った。
明日の朝に帰ってくるのだろうか、そんな事を思いながらソファに横になる。
ルパン三世に愛された者は必ず死ぬ。
そういう【呪い】がかかったのは、いつ頃だろうか。
ルパンは気にした様子はないようだが、本気で愛した女が死んだ時はショックだったのか、三日間何も口にしようとはしなかった。
ルパンの女癖の悪さは誰だって知っている。
そんなルパンが惚れた女が、死んで、ルパンは部屋に籠もり、三日後、何も無いように出てきた。
――なぁ、そろそろ、気付かねぇのか?
俺の呟きなど知らず、ルパンの野郎はお気に入りの赤いジャケットを羽織って出て行ったまま。
**
何日が経ったのだろうか、ルパンは今日もまた『飲みに行った』。
どうせそこらの女をナンパしているんだろう。懲りねぇ奴だな。
そしてフラれるのがオチなのによ。
朝5時、寝付けず煙草を咥え、リビングの古びたソファに腰掛け、バーボンを飲んでいるとルパンが帰ってきた。
「次元ちゃん起きてたの?」
「あぁ。寝付けねぇんでな」
短く返事をしながら煙草を灰皿に押し付ける。
自分の苛立ちを隠すようにグラスを掴み、口の中に流し入れる。
「チッ」
不意に出た舌打ちだった。
迂闊だ、ルパンの前で舌を打つなど絶対何があったのかと聞いてくる。
あぁ、どうやって誤魔化そうかと考えている矢先に――次元ちゃん? なんて声かけてきた。
当分テメェの声なんざ、聞きたくねぇや。そう答えてしまいそうになり、「喉の調子悪くてよ」なんて言い訳を吐いた。
ルパンは肩を竦め、「風邪には気をつけろよ」なんてほざいた。
――あぁ、クソ。苛立ちが治まらねぇ!
帽子をいつも以上に強く押さえ、ソファから乱暴に立ち上がり、普段より速いペースでリビングを後にした。
一体何処の誰だ、俺の相棒をこんなに狂わしたのは。
毎日毎日、とっかえひっかえに女の臭いなんざつけてきやがって。
「……胸糞わりぃ」
一言吐いて俺は玄関のドアを足で閉めた。
**
そろそろ気が付けよ。オメェを必要としてる奴が誰なのか。
もう良いだろう。お前のその【呪い】とやらに言いたい事が山ほどあるんだろ? オメェは。
でも俺はその【呪い】に感謝してんだぜ?
なぁ、お前がどれだけ『死なせたくない』と願ったところで【死神】の前じゃ、無意味なんだ。
「次元……」
マグナムをルパンの隣にいる女に向ける。
誰も居ない、実際は俺とルパンと女しかいない路地裏。
【死神】にとっては別に殺すならどこでも構わない。
「オメェのその不幸はな……」
一度言葉を区切る。
そして、引き金に手を掛けながら「作られたモンなんだ」と指に力を入れる。
バァン、ゆっくり弾が銃口から出て、女の元に吸い込まれる様に向かい、銃声と共に、女が赤く染まり、地べたに崩れる。
バンッ、バンッ、バンッ、と何度も女に向かって引き金を引く。
人の形を残さない為に、弾を入れ替え、再び女に銃口を向け、引き金を引く。
それを何回も繰り返し、女なのか、果たして人間なのかという状態までのグロテスクさになってから銃を仕舞う事はせず、ルパンに銃口を向ける。
俺が撃っている間、何も言えない様な面でそこに立っていた。
「お前が、殺して、いたのか……?」
やっと紡ぎ出された言葉。その言葉に鼻で笑い、帽子を押さえ「呪いのせいだろ?」と、嘲笑した。
【死神】には感情がない。いや、必要ない。
【呪い】を解きてぇなら一つだけ方法がある。
マグナムを俺の脳天に当て、撃つフリをした。
ルパンはそれで全て悟ったのか、瞳に光を宿らせないでワルサーを取り出し、俺に向ける。
――あぁ、殺せ。それでオメェさんの『不幸』という名の【呪い】は消える。
バァン。
一つの銃声と共に、俺の視界は真っ暗になり、意識もぼんやりして、冷たい地面の上に落ちていった。枯葉のように――。
【とある帝国の三世に愛されると死神に殺されるらしい】
【とある死神に愛されると三世に殺されたらしい】
待ってた2(ルパン三世2nd/次元大介の墓標)
『いやー、わりぃわりぃ。次のヤマの下見してたらよ、随分と時間掛かったみてーでよ、お前さんからの連絡もねぇからちょっくら電話してみた訳。あと30分でそっちに行けっから、待ち合わせの場所に居てくれてたら嬉しかったりしちゃう、なん――』
――ピッ。
無造作に留守電を切る。
電話が掛かってきたのは知っているのだが、敢えて無視をした。
そうすると留守電を入れられたので、留守電が終ってから再生する。
第一声からおちゃらけた声に溜息が出そうになるも、何とか堪え、暫く留守電を聞いていたのだが、あとどれ位あるのかすら分からず、同時に苛々したので留守電を切った。
ただそれだけの動きだったのにも関わらず、周りにいた恋人同士や、子供などは恐怖を覚えたのだろう、肩を震わせたりとしていた。
「……待ってやるって訳じゃねぇよ」
待ち合わせの人が居ない、公園で雪を積もらせながら小さく呟いた。
**
「……待ってた?」
唐突に聞かれた質問。
赤いジャケットの上に白いコートを身に纏い、紺色のマフラーを巻いているルパン三世が尋ねる。
どの季節でも派手さは変わりないのか、その場の空気から浮いているようには見えないが、普段着ることのない白を着ているのを見るとやっぱり派手に見えていた。
「……待ってねぇ」
「待ってたんだろ。グフフフ」
フンッとそっぽを向き、拗ねているのだがルパンには関係がないのかニヤニヤしながらポケットに手を突っ込み、ガサゴソと何かを探せば煙草とライターを取り出した。
「1本吸おうぜ」
『ジタン』。そう書かれた煙草を1本取り、ルパンは前に差し出す。
自然に煙草を取った手に挟まれている煙草に火を付け、自分が持っている煙草に火をつける。
「待ってねぇって言ってんだろ」
ふぅ、と白い煙が真っ暗な空に溶け込んでは消えていくのをルパンは見つめながら、放たれた言葉に肩を竦める。
どう考えても肩や頭に雪を積もらして、鼻を寒さで赤く染めている所を見ると、『待っていた』と思われるだろう。
この寒い時期に長時間外に居たというのなら、脚や手が凍傷になるだろうがと怒鳴ってやりたいものなのだが、ルパンが遅刻をしたため、怒鳴るに怒鳴れない。
元々今日下見の予定で、待ち合わせの時間に遅れる事も無く、余裕があったのだが、よりにもよってあの銭形が居たのだ。
それからは常に追いかけられて撒いてを繰り返し、やっと撒けたと思った頃にはもう待ち合わせの時間から3時間も越えていた。
居ない、と思いながらも電話を掛け、留守電を残し、待ち合わせの場所にやって来くればそこに見慣れた姿が目に入り、近寄って声を掛けたら待ってないと返ってきた。
「とっつあんが追いかけて来てよ、中々撒くことが出来なくてだな」
「待ってねぇって言ってんだろ」
認めたくないのか、一向に「待ってた」と言わない事にどうしても「待ってた」と言わせたくなったルパンは、言い訳などどうでも良いことにして、口角を上げてこう言った。
「待ってたって、素直に言えばお前さんの望む褒美をプレゼントしてやるぜ」
ピクリ、と肩が揺れたのがルパンには分かった。
そして何を思ったのだろうか、頬を寒さとは別の赤さに染め、マフラーに顔を隠すようにして目を逸らし、小さく「……待ってた」と口にする。
それを待っていたんだといわんばかりの笑みを浮かべたルパンは、口から煙草を落とし、足で消して耳元で「エッチだなぁ。そんなに俺様に抱かれたいの? 墓標ルパン君」と、青いジャケットを羽織ったルパンの羽織っているコートのポケットに手を入れて、ポケットの中で手を繋いだ。
無論、この後散々文句を言われた赤ルパンは褒美なし、などと言っていたりする。
埃(ルパン三世1st/峰不二子という女)
「あー……! いてぇ! いてぇ! いってぇ!!」
午後11時20分。
別に時間などどうでも良いのだが、何しろいきなり隣で叫ばれた緑色のジャケット――みねふじルパン三世にとっては、煩いという一言しか出ない。
そんな事を思いながらも口に出す事は無く「乗れ」と自分の膝を軽く叩いた。
「なんでぇい! やなこった!!」
同じく緑色のジャケット――1stルパンはみねふじルパンの隣で、フイッと顔を逸らし、目を擦りながら何度も瞬きを繰り返している。
その所為で目が充血しているのだが、痛さに敵うわけもなく、再び目を擦っては瞬きをして、また目を擦る。
「おめぇさん大分充血してるじゃねぇか」
それ以上掻かせないように、みねふじルパンがファーストルパンの手を掴み、そのまま引っ張って、自分の膝に頭を乗せる。
ファーストルパンは何が起きたのか分からずにいたが、すぐに痛みを思い出し、手で掻けない代わりに瞬きを繰り返す。
「ちょっと見せてみろってんだ」
ファーストルパンの腕を片手で押さえながら、空いている手で、目の中を見るようにしたら、小さな埃が入っていることに気が付く。
そのまま反対の目も見てみると、同じように小さな埃が入っていた。
「いてぇんだよ……。早く何とかしろってんだ……」
拗ねたように放たれた言葉に苦笑いを浮かべながら肩を竦めたみねふじルパンだったが、ファーストルパンの目には生理的に浮かべられた涙によって、苦笑いは消えた。
そのまま良からぬことを想像した自分が居たので頭を振り、「じゃ、ちょっと待ってろ」とファーストルパンを脚の上からどけて、古びた緑色のソファから立ち上がり、風呂場に向かう。
風呂場で洗面器に湯を張り、ある程度溜まればリビングのソファまで戻ってくる。
「これに何しろって?」
ファーストルパンは洗面器を指差して瞬きを繰り返しながら問うも、みねふじルパンは答えることなくもう一度風呂場の方向に消えていく。
そんなに経っていない頃に白いふんわりとしたタオルを持ってきて、「この洗面器の中に顔入れて瞬きしろ」と、テーブルの上に置かれている洗面器を顎で差しながら言った。
「服濡れるだろうが……」
文句なのか、みねふじルパンがそう考えるも口角を上げ「初夜で濡らすやつよりかは、洗濯しやすいぜ?」何て、いつの事だったか、たしかほんの最近のできごとの事を口にしながら、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
その所為でファーストルパンは思い出した恥ずかしさで腰を抜かしそうになる、という面も見せるのだ。
「いてぇんだろ? さっさとやった方が身のためだぜ」
渋々、という感じに洗面器に近付いて、床から膝立ちの状態でテーブルの縁に手を付いて、洗面器に顔を入れる。
数回瞬きをしていると、湯の中に埃が入っていき、大分痛さも引いたところで顔を上げる。
「マシになっただろ?」
ニィ、なんて得意げに笑顔を浮かべつつ、タオルをファーストルパンに渡し、目元を再び確認する。
「取れたようだな、しっかし、お前さんがただの埃で泣くなんて誰も思わないだろな」
なんて、嫌味も込めながら言うとファーストルパンは袖からナイフを取り出して、みねふじルパンに向かって投げた。
「危ねぇな……。ま、そういうおめぇさんも、嫌いじゃねぇよ」
ファーストルパンの両手を糸も簡単に縛り、ソファに押し倒してみねふじルパンが耳元で囁いた。
そのままファーストルパンとみねふじルパンの息遣いが荒くなっていくのを、パースリルパンは聞いていたらしい……。
次元を迎えに行った帰り道(ルパン三世2nd)
アジトに向かう途中、そろそろ満開の桜の花びらが舞う頃合いになってきたのを肌で感じる。
花を感じさせる匂い、眠気を誘う温度に、心地よい風がジャケットの裾を抜けていくのを感じて、思わず鼻歌を歌いながらSSKを右手で運転する。
そろそろジャケットを着ていると暑くなってきたと思いながら、海沿いの道路をゆっくり走っている。
普段はこれ位ゆっくり走らないだろう。速度にして60kg。
「海が綺麗だねぇ、次元ちゃん」
右手をドアの上に置いて後ろに振り返りながら、相棒に声を掛ける。
黒い服を纏った相棒は、今朝の5時までバーで飲んでいた所為か、帽子を頭の上に置いて規則正しく上半身が動いている。
無論、その声に返答する訳でもなく、いびきを掻きながら靴を脱いで、後部座席を陣取っている。
「そんなに飲むからでしょ……」
はぁ、と溜息を零しながら左手でジャケットのポケットを探り、煙草とつい最近購入したジッポを取り出す。
煙草を取り出して、火を点けてカチン、とジッポを閉じれば煙草の箱と一緒にポケットに仕舞う。
体内にジタンの香りを回し、息を吐き出して、煙草の煙を吐き出して運転していると、ふと、ガードレールの外から生えているのを見つけた。
そう言えば蕾があったなと思いながらスピードを緩めていく。
ビュウ、と風が吹けば淡いピンク色の花びらが空を舞う。
そろそろ雨が多い時期になるだろうな、なんて起きもしない相棒に心中で呟きながらも愛車を止める。
ダンッ、ドアを閉め、ジャケットを脱いで暑くなって目を覚ませと思いながら脱いだジャケットを相棒にかけて愛車に手をかけて桜を見つめる。
短くなってきた煙草を口から吐き出し、靴の底で潰して火を消し、腕を枝に腕を伸ばす。
パキン、人差し指と親指で枝を折り、色々な角度からその花を見物する。
「綺麗だねぇ」
花に向かって言ったのか、寝ている相棒に言ったのか、それは誰にも分からないが自分が盗んだ宝石など以外、こうして平凡に、毎年その時期がやってくれば咲く花に対して、『綺麗』なんて感想を持つ事は無いに等しかった。
どうしてこう思うのか、そんな事など分からないが、微笑みながら「次元ちゃん知ってる? 桜の木が美しいのは、木の下に死体が埋まってるからだぜ」と、後ろを振り向きながら言ってみた。
起きる事はないのに、そんな事を言うのはきっと寂しいからではないと否定をしつつ、自嘲した。
――その瞬間。「あぁ」とボルサリーノの下から低い声が響いた。
「まさかと思うけど、次元ちゃん起きてたの?」
そう尋ねると、鼻で笑うのが聞こえ、肩を竦めて呆れた表情を晒し「さすが元殺し屋だ」と嫌味を込めて、縁に腰掛ける。
「おめぇの気付きがおせぇんだ」
俺の背中で寝てただろうが。小さく口にすれば聞こえていたらしく、口角を上げるのが見えて同時に上半身を起こした。
「店主さん困ってたぜ? 歩けないぐらい酔うなら止めとけって言ってるだろ」
赤いジャケットに腕を伸ばし、しかし助手席付近から後部座席までは届かないので、相棒の次元大介に取れと無言で伝え、次元は合図に気付き、ジャケットを手に取り、腕を伸ばして差し出す。
サンキュ。礼を述べながらジャケットを身に纏い、そのまま軽くジャンプをし、運転席に腰掛ける。
エンジンを掛け、愛車を発進させる。
「お前にやるよ。暫くアジトに飾っておけ」
右手に持った桜の木の枝を次元に渡し、右手で愛車を運転する。
アジトまでそう遠くない距離。甘い花の香りに包まれながら鼻歌を歌っていると、次元に何の曲かと尋ねられた。
そんな事があった、4月の15日。
次元を迎えに行った帰り道の挿絵になります!
絵は類様にお願いしたしました!!
絵を見た後に書いた話で、まぁ、場所とか違ってますが、雰囲気は同じです!
↓
http://uppli.jp/view.php?id=65UkIV7J&file_id=1KFZSIl8mJ&ext=jpg
更新する度に毎回見てたけど、読みやすくて情景がパッと思い浮かぶこの凄さ...
す-っと内容に入り込めるし、キャラの良さを引き出してる内容だったり行動だったりで俺、大好きだぞ!!
文才ないから普通にすげぇ-ってなる...
いや、見てたからなのもあるけどリクしてくれたのがこうして凄いって思った人の所に貼られてるとなんか感動。泣
しかし本当、動きとか細かに書かれてるのに読みやすいのは凄い。
俺が言えたことじゃないんだけど尊敬する!!
羨ましい...って感想言ってるのになんか羨ましくなってしまったorz
また更新したら覗きに来るからな...!
楽しみにしてるぞ-(^ω^)
タクシー運転手(ルパン三世2nd)
2万3千400円、本日2時間での稼ぎを数えながら煙草に火を点ける。
左側にある運転席に腰を掛けるのは何年振りだろうかと、窓を換気する為に開けながら思う。
パッと見ればホストが着るような形の服に、白い手袋。警察官が被るような帽子を身に纏い、窓から腕を出して、煙草の煙を外に出していた。
そんな時、コンコンと助手席側の窓がノックされた。
ボタンを押し窓を下げていくと全身黒で統一している、『同業者』がそこに居る。
「乗りな」
同じくボタンを押して後部座席のドアを開けると、同業者は乗る。
窓を上げ、ドアを閉め「今日はどこまで?」と、ソフトテノールで問いかける。
同業者は暫し考えて「おめぇの家」と短く言った。
「えー。もっと楽しい所行かない?」
「仕事中だろ」
「こっちの仕事は自由なの」
どこがだ。小さく放たれた言葉に肩を竦め苦笑いを零し、車を発進させる。
黒いその車は誰が見ても分かるよう、電光掲示板で『貨車』と表示され、誰も乗ってこないだろう。
「それで? そっちはどうなのよ? かなり稼いでるみたいじゃない」
煙草を車についている灰皿で消しながら後ろの同業者に問いかけながら、笑みを浮かべてバックミラー越しに見つめる。
「おめぇも大分稼いでるだろ」
「べっつにぃ~。次元さんよりかは稼いでいましぇーんけど」
クククッ、嫌味とも取れる笑みを浮かべタクシーの運転手――ルパン三世は白い手袋越しに2万3千を掴み、ヒラヒラとさせた。
その姿に後頭部座席に腰を下ろしていた相棒の次元大介は肩を竦め、「ルパン、おめぇ……手ぇ抜いたな」と帽子を片手で押さえ口角を上げているのを、バックミラーで確認し「うるせぇな……」とルパンは色々と誤魔化して返答した。
「――ところでよ」
ふと口を開いたのは次元だ。
信号がチカチカと点滅したのを確認し、歩行者用の信号が赤に変われば、車用の信号が青に変わる。
エンジンをかけて直線の道路を走っているのにも関わらす、一向に値段のメーターが上がっていない事に次元が気が付き、一瞬躊躇いはしたものの、声を掛けられずにはいられなく、遠慮気味に運転席に居るルパンに声を掛けた。
「何でメーター上がってねぇんだ?」
次元が指を差して言った事にルパンは恥じらいも怒りも含めることなく、むしろ嬉しさを含めた表情で「だって、愛しの次元ちゃんをルパン邸に招くのに、お金とっちゃいけないでしょ?」などと言っているのだ。
馬鹿だ。次元は口の中でそう返答し、懐から煙草を取り出したところでルパンが車内用の小型の換気扇を回す。
「あのねぇ……。他のお客さんも乗るからあんまり煙草吸わないで頂戴」
自分の事を棚に上げて何を言っているのだとこの場に銭形や五右ェ門、不二子が居たらそう思うか言うだろう。
だが今回のこの『仕事』に不二子や五右ェ門は居ない。
ルパンが何度か誘ったのだが、全て不二子の「いーや!」の一点張りで幕を閉じた。
「さて、もう着いたぜ」
ゆっくりブレーキを踏み、徐行させて、車を止めると勘定中と書かれた電光掲示板に変え、「俺の今日の稼ぎと次元ちゃんの稼ぎが合計で5万円とちょっとで……」と今日一日の集計をしている。
手を抜いたらこのぐらいか、逆に手を抜かずにすればもっと稼げるのだが、本業以外真面目にする気はなく、適当にやっている。
今回の仕事は『タクシー運転手』に成りすましながらも、盗みを実行する、というのがルパンのシナリオだ。
その為、毎日どちらかの仕事が終ればそこで終了で、アジトに戻って作戦会議や、報告等などを済ます。
ドアを開け、次元が出たのを確認し、ルパンは車を倉庫に直しに行って、戻ってくる。
「じゃ、まずは、情報提供から始めますか」
ルパンの声と共に、グラスと酒が取り出されて、いつもの様に、時間をかけた仕事の打ち合わせが開始された。
>類兄さん
コメント有難う御座います!
そう言ってもらえると嬉しいです!
自分の中では表情の模写が少ないかと感じてます。
ルパンと次元が無表情で話しているようにも感じられるのですが、動き…肩を竦めるや、口角を上げて笑う、などと言ったところから大体どんな表情なのか、と言うのを想像させていますが、未だにどう表情を作らすかと悩んでますw
そう言ってくれるとまたリクしたくなります。今度は次元とかお願いしたいです!
そんなに細かくしてないからじゃないですか?
例えば
ルパンは深緑のそんなに大きくもないソファから立ち上がり、次元の傍まで行って…というのと
ルパンは何処かの豪邸でおいていそうな高そうな、値段にして何百万もいく可能性のある緑色で、大きさはそんなにもない、けれど売れば暫くは遊べるぐらいのソファから立ち上がり、次元の傍まで行って…だとソファが高級で緑ということは分かるけれど、そんなような事を三回も書かなくて良いだろう、っとなってしまうから単純にソファと色と大きさぐらいしか述べてないから、読みやすく感じるのでは?
では、また覗きに来てくれる日を待っております!
>67のタクシー運転手(タクシーパロ)は類様に捧げます。
十分わかり易くて俺はこのままで良いと思うけどな...
頑張り屋さんなんだな。笑
俺なんかで良ければ暇なときにでも是非描かせてもらうよ!!
分かり易い説明ありがとな!
俺も書くときに注意して書いてみるよ´ω`
そんでもって、もう見に来って言うね...
俺に捧げちゃって良いの?!
俺の小説の方に書いてもらった-って言って載っけちゃうぞ?笑
小説を書くのはアレですね、思考錯誤みたいな感じです。
そんなに頑張った記憶はないですけどね…
では次元ちゃんがヘッドフォンしてるのをお願いしたいです!
分かりやすくてよかったです。
(笑)
良いですよ、コピーして保存して置いても載ってけても大丈夫ですw
試行錯誤ね...
それが出来たら俺も少しは書けるのかね笑
こんだけ書いといて頑張ってないとかなんだよ...俺は頑張っても追い付けないと言うのに。書けるって羨ましいな。
了解した!!
出来たら俺のトコに貼るから待っててな!
笑うなよ!!楽しみにしてたんだから笑
よし、許可貰ったから即コピって保存した。んで俺の方にも載せる-!
おっと、此処で長いしたら悪いから返信不要!!あっちで話そう。
今までの一覧です
【二次創作】
>妖狐×僕SS小説
>10
>15
>16
>とある家のとある風景(ルパン三世2nd/名探偵コナン/オリキャラ)
>18
覚えていないのは、騙されてるから(ルパン三世2nd/オリキャラ)
>19
>ルパン大集合(ルパン三世1st/ルパン三世2nd/ルパン三世partⅢ/LUPIN The third~峯不二子という女~/LUPIN The third 次元大介の墓標/新ルパン三世/2016年放送予定ルパン三世/ルパン三世 ファーストコンタクト)
>20
>バレンタイン(ルパン三世2nd/オリキャラ)
>21
>補助色(ルパン三世2nd/LUPIN The Third~峰不二子という女~/オリキャラ)
>22
>「寒い」に隠された(ルパン三世/オリキャラ)
>23
>大人の味には全て裏がある(LUPIN The Third~峰不二子という女~/オリキャラ/ルパン大集合続きA/R15)
>24
>ひねくれ者と大泥棒
>34
>手段は選ばない~自分のやり方~
>36
>二重変装(ルパン三世2nd/オリキャラ)
>38
>これは歪んだ物語――(LUPIN The Third 次元大介の墓標/デュラララ!!/不定期更新)
>39
>二重変装2(ルパン三世2nd/オリキャラ)
>40
>VOICE(ルパン三世/ラヴリーP/VOICE)
>41
>夢(ルパン三世2nd/オリキャラ)
>43
>緑泥棒と赤泥棒(ルパン三世2nd/LUPIN The Third~峰不二子という女~/不定期更新)
>44
>大人の事情と祭り(ルパン三世2nd/名探偵コナン/オリキャラ)
>45
>ワールドイズマイン(ルパン三世2nd/ryo/初音ミク)
>48
>縛りプレイ(ルパン三世/オリキャラ)
>49
>緑泥棒と赤泥棒Ⅱ(ルパン三世2nd/LUPIN The Third~峰不二子という女~/不定期更新)
>50
>とあるバーで(ルパン三世2nd/オリキャラ/ノンフィクションつまり夢)
>51
>殺しと少女と嫉妬と(ルパン三世2nd 鏡音リン)
>55
>エイプリルフール(LUPIN The Third 次元大介の墓標)
>57
>シークレットメモリー(ルパン三世1st/ルパン三世2nd/オリキャラ)
>58
>待ってた(ルパン三世2nd/次元大介の墓標/超短編)
>60
>愛欲のプリズナー(ルパン三世2nd/ひとしずくP×やま△/愛欲のプリズナー)
>61
>待ってた2(ルパン三世2nd/次元大介の墓標)
>62
>埃(ルパン三世1st/峰不二子という女)
>63
>次元を迎えに行った帰り道(ルパン三世2nd)
>64
>タクシー運転手(ルパン三世2nd)
>67
【あとがき】
>妖狐×僕SS
>26
>とある家のとある風景
>27
>大人の味には全て裏がある
>30
>ひねくれ者と大泥棒
>35
>手段は選ばない~自分のやり方~
>37
>VOICE
>42
>とあるバーで
>53
>殺しと少女と嫉妬と
>56
【オリジナル】
>温泉旅行(前編)
>31
>温泉旅行(中編)
>32
>温泉旅行(後編)
>33
>Birds of a feather【無関心/Indifference】
>47
>Birds of a feather【帰宅/Return】
>52
>Birds of a feather【宿泊客/Hotel guest/1st】
>59
【挿絵】
>類様より花見をしてるルパン
>65
*この番号以外はコメントをくださった方とのやり取りがほぼです。
謝罪(オリジナル/不定期更新)
「別れよう」
それが彼の言葉をまともに聞いた最後だった。
彼がどこでどんな表情でそう言ったのかも思い出せないけれど、彼の言葉はそれっきり聞く事はなく、姿を見ることもそれっきり無かったのだ。
ふと、昔の事を思い出す事がある。
それはいきりなりだったり、何か関連するものを目にした時に思い出したりする。
思い出したくもない事を思い出した時、どうやって回避すればいいのか何て考えるけれど、もう昔の話だと思ってあまり考えないようにしている。
結局、人間と言うのは、考えたように見えて実際は何も考えていないものでもある。
**
「じゃぁ、佳代(かよ)の誕生日を祝って乾杯!」
カランッ。煩くも静かでもない居酒屋で私の誕生日会が行われた。
声を出してその場にいる人たちを先導しているのは、スーツを着崩して、ネクタイを外している大上大紀(おおがみだいき)先輩。
仕事で先輩に当たり、実際年齢でも私よりも上になる。
確か今年で23歳になる、と言っていたような気がすると思いながらも手に持ったカシスオレンジを口に流し込んだ。
この場に居るのは仲が良い仕事仲間。喧嘩などは少なく、基本毎日行き帰り何か話をしているのだ。この歳でそんなに仲が良い友人が出来るとは思わなかった。
「佳代~! 何一人ポツンとしてんねん、主役がおらんかったら意味あらへん」
関西弁で、髪が茶髪なのが藤咲良介(ふじさきりょうすけ)。幼馴染みになり、私より仕事上では下になる。下、なんて言ってしまって申し訳ないが、単に後輩という意味であって、無能とかではない。
「別にポツンとはしてないけど……」
ぎこちなく笑みを浮かべて良介の近くまで詰め寄っていると、生ビールを飲んでいた誕生日会なのにジャージという服に興味がない私の第一の友人とも言える――此花さよ(このはな)が、ニヤニヤしながら「おたくら付き合ってるのぉ~?」何て、ほとんど酔っている状態で尋ねてくる。
その言葉に良介が「んな訳あるかないな! このどアホ!」とさよの頭を軽く、関西のノリで叩き、ギャハハとさよが笑っていれば、大上先輩が「そこ煩い!」何て怒鳴っていた。
いつも、仕事仲間と居れば自然と賑やかになっていっているのが、良く分かる。
そしてこの時間は嫌いじゃない。寧ろ好きと言って良い。
「あ、佳代! そういえばコレ、前欲しがってたから買ったよ!」
さよが自分の鞄の中から何かを探って、鞄の中から白い猫のぬいぐるみを取り出した。
確かに欲しがってはいたものの、買って欲しいと頼んだものでもなく、給料はあるので買えるのだけれど、店に行くまでが結構距離があるため中々足を運ぶ事はなかったな、そう思い出しながら笑顔で受け取る。
「うわっ、俺何も用意してへんから許してな!」
「お前……。幼馴染みじゃなかったら、許されねぇぞ」
良介の言葉に大上先輩が呆れながらも、何かを買ってきていたらしく、小さな包みを渡されたのである。
その包みを見た途端、良介が「指輪!? 指輪!?」と煩いのだから大上先輩に頭をはたかれていたのだ。
良介の髪型は社会人だと言うのにまるで高校生がするような、ワックスで固めたツンツンと尖がった髪型で、黄色いTシャツにジーパンという、私服に興味がないのか、それとも只単に面倒だったのか、おそらく両方だろうと思いながら笑みを浮かべながら、包みをゆっくりを開ければ小さな、十字架のネックレスがそこにあった。
シルバーに輝いたネックレスは、私好みだったのですぐにつけようと「良介付けて」と言って肩のちょっと下にある髪を持ち上げて言った。
うなじが露になっていても気にする事はなく、良介も気にする事もないので気軽にこういう事が頼める。
「できたで」
関西弁で囁かれるとドキリとして頬をほんのり赤く染めると、さよから顔が赤いと指摘を受けて、すぐに正気に戻す。
「どう? 似合う?」
その場にいた全員に問うようにしてみた。
今の服装は膝丈の黒のひだスカートに、白いYシャツ、薄いピンクのカーディガンを身に纏っている。
そんなオシャレな服を好まないのか、家にあったものを適当にとってきたというより、自分の好きな色を着てみたという方が早い。
「佳代高校生みたいよぉ~!」
「あぁ、確かに」
今思うと確かに私の服装は高校生みたいだなと思った。
「そういうお前はただのジャージだからな。さよ」
「でへへへへ」
「褒めてへんやろ」
大上先輩の言葉にさよが女の子がするような笑い方ではない笑い方をして、それに良介が突っ込む。
大体いつものパターンだと思う。
大上先輩は今回車を運転する為、ウーロン茶やコーラ、ジュースなどで合わせながらさよの会話に合わせていたり、私に話題を振ったりなどをしている。
良介はそんなに酒は強くなくかといって飲まないというわけにもいかないので、チューハイを飲みながら時々ソフトドリンクを頼んだりとしている。
目の間にある料理もある程度無くなってきた頃、ピロリンッなんて可愛らしい音が鞄の中から聞こえ、携帯にメールが入ったのだろうと、その場に居る皆に一声かけ、携帯を持って席を外した。
携帯のパスワードを入れてみれば思った通り、メールが一通届いていて、そのメールに少し期待してメール確認ボタンを押す。
差出人には『蓮』と書かれていた。
その瞬間、頬が赤く染まるのを覚えながらもここはトイレだから誰にも見られる事はない、そう思ってゆっくりメールを開いた。
件名には『今大丈夫やった?』と、書かれていた。
本文:今大丈夫やった? 仕事中とかならごめんな。命に関わるようなことじゃないのだけれど、ちょっと話したくなったていう感じ。急がしかったら返信は後で良いで!
不慣れな関西弁を使ってメールを送ってきた蓮さんという人物とは、数週間前にとある掲示板で知り合い、他愛も無い話をしていたのだけれど、私が好きなものと蓮さんが好きなものが重なり、それで掲示板内では大盛り上がりを繰り返し、掲示板じゃ時間差などが激しいからとメールをするようになった。
無論ネット上にメアドを晒す事は良くないので、蓮さんが私だけを部屋に招く事の出来るチャットルームでお互いメアドを交換して、すぐにそのチャットルームを閉じ、そして再びチャットルームに入り、ログを消した。
差出人:佳代
件名:大丈夫です。
本文:いえいえ、大丈夫です。私の誕生日で仕事仲間と居酒屋で楽しく騒いでいるぐらいです!
それだけ打って返信ボタンを押す。そうすればすぐに返信が返ってきて『え!? マジで!? なら早く俺の相手より、仕事仲間と楽しくしとかないと駄目じゃん!!』と書かかれてた。
皆彼氏だ彼氏だとおちょくるけれどそういう関係ではなく、ただ単に同じ趣味の人で、色々話す良い仲で止まっている気がする。
実際、顔も声も体型も髪型も仕草も癖も何もかも知らないけれど、苦にはならない。
逆に知ってしまうとお互い距離が開いてしまう気がして、『会ってみよう』なんて言葉は出てこない。
私は蓮さんの返信に微笑み、軽く小さい携帯をタッチして『分かりました。戻りますね!』と送った。
それから蓮さんからの連絡は来ず、トイレから戻ってくれば、からかう事が大好きな良介とかよが口を揃えて彼氏かと聞いてくるので、首を振った。
大上先輩の姿が見えなくてどこに居るのだろうと辺りを見渡していると、個室のドアが開けられて大上先輩の姿が現れる。
どこか嬉しそうな顔だななんて思いながら、「どこ行ってたんですか?」と尋ねると苦笑い気味で「煙草を吸いに」と言われた。
今日初めて知ったわけではないけど、誰も喫煙を嫌がらないので、此処で吸えば良いのに。そう思っていたのは私だけだったのだろうか……。
「よぉし! 今日はお疲れ様! 明日またよろしく! 特に良介君、君のその髪形、明日からさっそく使ってみよう!」
マジっすか。良介の返答に肩を揺らしていれば笑われた事に不満だったのか、「笑うなや!」と背中を軽く叩かれた。対して痛さはない。
普段関西弁特に大阪弁を強調してくる良介は『マジっすか』や『そうっす』と言った返答の方が珍しく、普段聞きなれないのでつい可笑しくて仕方が無い。
**
誕生日会も無事にお開きとなり、大上先輩が全員(と言ってもほぼ女性陣)の家まで車で送ってくれた。
車の中で揺られていると少しずつ睡魔が襲ってきて、「寝て良いよ」と言われなくいても私は眠っていただろう。
体が揺れて寝ていた事に気が付いて、目を開けると大上先輩が優しく微笑んで「寝るなら自分のベッドで寝ろよ」と、窓の外を指差す。
後部座席で寝ていたのでわざわざ車から降りて教えてくれたんだろう。
恥ずかしさと申し訳なさに押しつぶされそうになりながらも、唯一横になって寝ていなかった事だけ救われたような気分になり、「ごめんさない……」と謝罪をして車から降りる。
「別に構わないけど。あまりにもぐっすり寝てたから起こそうか悩んだな」
にぃ、と笑みを浮かべる大上先輩の顔はとても優しく、格好良いと思ってドキリと心臓が鳴った。
それを隠す様に俯いて「今日はありがとうございました。プレゼントもくれて、送ってくれて……。明日からまた、よろしくお願いします」と、礼を述べた。
しかし、良介とさよはどうなったのだろうか。そう思っていると、顔に出ていたのか「良介とさよなら先に帰って行ったから佳代が気にするな」と、微笑む。
そして私の礼とこれからの挨拶に返答した。
「誕生日だからプレゼントぐらいは買うし、酒飲んでるから送りもするって。じゃ、明日からよろしくな」
片手をヒラヒラとさせて大上先輩は右側にある運転席のドアを開け、エンジンをかけて車を発信させた。
遠くなる黒い箱を見つめながら小さく手を振った。
**
蓮:えーなぁ。俺よりめっちゃ良い奴や。
私:そんな事ないですって。
蓮:俺そんな誕生日会なんてないわ、いっつも送り迎えさせられるわ。
私:あはは……(笑)。
蓮:笑うな。あ、悪いな、今日はもう落ちる。
私:お疲れ様です。
――蓮さんが退室しました――
参加していたチャットを閉じて、ノートパソコンの電源を落とす。
元々特に意味もなく買ったのだけれど、まさかこういう理由で使うことになるとは思っていなく、にやけそうになるのを抑え、ベッドに横になる。
ふんわりとした枕に暖かい布団に身を包み、そろそろ本格的に寝ようと大上先輩の車で寝たので多少睡魔がなく、眠くなるまで誰かと会話をしようと思い、蓮さんにメールを送れば即OKと返ってきて、チャットのやり取りが続く。
携帯が小さく揺れたと思うと、ピロリンと音がすればメールが届いたのだろうと携帯の電源を点け、パスワードを入力してメールを開くと蓮さんからで、『良い夢を見ますように』と書かれていた。
そのメールに『蓮さんも』と返信して、それっきりその日はメールもチャットもせずに眠りについた。
タクシー(ルパン三世2nd 峰不二子という女)
狭い車内の中、窓を開けて煙草を吸っていると、目の前に見慣れた赤色のジャケットを着た男が現れた。
高さ的に腹ぐらいまでしか見えないのだが、目の前にいるのが知り合いだと分かれば、男側の後部座席のドアを開け、「3万な」と冗談を言った。
男は肩を竦めて苦笑いを浮かべているんだろうと予想はつくが、言葉は返ってこず、そのまま後部座席に腰を下ろしたのをバックミラー越しに確認する。
「ところで、今日は何か良い事あったのか?」
様子的に上機嫌なのが分かり、煙草の火を車内にある灰皿で消し、ふぅと息を吐いて『空車』を『貨車』に変更した。
「良い事ねぇ。そりゃぁ、いっぱいあるぜ? まずおめぇさんに会えた事だろ。次に俺様に会えねぇのがそんなに寂しかったのか知らねぇけどよ、盗んだモンはちゃんと返せよ」
その瞬間、肩に掛けていた赤ジャケットを肩から落とす。
「買ったんだつぅの」
そんな言い訳が通じる訳でもなく、目の前の男はケラケラと笑い「買ったはずのジャケットになーんで、俺様の煙草の匂いがついてんだろうなぁ? おめぇさん、さっき吸ってたの『ジタン』じゃなくて『セブンスター』だっただろうに」と顔を近づけてきた。
――ちけぇよ、そう言いたくても言えない。
「ところで何処行くんだ?」
気を取り直して尋ねると、暫し一呼吸置いて「アンタの家だ」と短く答える。
そういえば色々散らかったままだと思いだし、それと同時に昨夜起きた事を思い出して男には悟られたくないのだがまぁ無理だろう。
顔を逸らして微かに頬が赤いのを感じながらも、車を発進させる。
「何照れちゃって? 昨夜のこと思い出しちゃった? とーっても、可愛い声で啼いてたからねぇ。恥ずかしい?」
1発撃ってやりたかったのだが、後々修理が面倒なので舌を打ってその場を乗り切る。
――俺、何でこんな奴に惚れたのだろうか?
「うるせぇ!!」
一言怒鳴ってそっぽを向きながらも車は運転する。
昨夜のことなど思い出したくもない。あんな、自分じゃないような声を出し、身体中を熱で火照っていたあの夜の事など思い出そうとすればする程頬が赤くなる。
――ああ、もう思い出したくもねぇ! そう叫びたくなるが後ろに居るのはいくら恋人と言って良いのかどうなのか分からないが一応客だ。
客が居る前でそんな事を口にする訳もいかないのでグッと堪える。
「あーれま。可愛いねぇ……。おめぇさんがそんな表情するなんて誰も思わねぇよ?」
「うるせぇ、黙れ」
「ほんとはもーっとおねだりしたかった癖に『仕事あんだ』なんて、逃げちゃって」
「あーもう黙れ」
「そんな口が悪い奴がお仕置きが必要なのねぇ……」
そう奴の口から聞こえた途端、車が止まった。
幸い後ろに他の車はなく、この時間帯なのもあって俺が運転している車しか今の所いないのだが、いつ誰が通るかも分からない、隣はすぐ歩道がある公道で、コイツはリモコンを使って車を止めたというのだ。
俺も良く使う手だが、目の前で、この際後ろだがすぐ近くで行われると腹が立つ。
「おい。お前、何か仕込んだだろ」
どうせコイツの事だ、何か仕込んだに違いない。例えば遠隔操作が出来る小さなチップとか、運転だけが出来るように改造したとか……。
「俺様が止めたい時用に作ったチップをちょっと、車ちゃんのどこかに張ってるぜ」
ロクな事をしないな、コイツは。そんな事を思いながらもまた面倒なものを仕込んだなと溜息が出る。
どうしてコイツは俺の偽職業を知って、こうやってやって来て、ベラベラと2人きりになったら昨夜の事やチップのことなどを話すのだろうか。
俺自身、お前の物になったつもりはない。俺の性格上、なるような奴じゃないと知っているのにコイツ――ルパン三世(2nd)は俺とこういう関係を作っているのだろうか。
「後で取れ」
「取っちゃったら、折角俺様が一生懸命作った意味ねぇじゃないの」
「知らねぇよ。俺が取れつったら取れ」
「今夜の気分は命令系っと」
――何の事だ! 我慢出来ず、懐からワルサーを取り出してコイツに突きつける。
そろそろ我慢の限界ってモンだ。からかい過ぎたな、第一俺は今夜どころか、昨夜すらそんな気分じゃなかったのに、お前が無理矢理「抱かせろ抱かせろ」って煩いから、酒でも飲んで聞き流していたらそれを良い事に、酒に媚薬なんか仕込みやがって、俺が動けなくなったらそのままベッドに連れて行って、気が付いたらいつの間にか抱かれていやがって。思い出すだけで、自分に苛立ちを覚える。
「んな気分じゃねぇよ」
「あら? もっと過激なプレイが良いってか?」
もう勝手にしろ。そう口にすれば本当に勝手にするのだ、この男は。
ニシシ、なんて笑顔を浮かべ「今日はどんな風に抱いてあげちゃおう」何て後ろで言うもんだから俺の理性も段々、ぶっ飛んでいっていた。
**
「っ、おい……」
小さくベッドの上で声を掛ける。
それで気が付いてくれるのだから有り難い。
「どうしたの?」
「もう、無理だ」
ルパンはニヤッと笑みを浮かべて俺の体を貪った。
――本当、俺は何でこんながに股の猿顔と付き合っているのだろうか? ましてや自分が相手だなんて。
でもまぁ、他の誰かに喰われるより、お前に抱かれる方が俺は嬉しいがな。
Les deux pensée(ルパン三世1st 峰不二子という女)
最近ファーストの様子が可笑しい。
気まぐれで、無茶を平気でし、表情が良く変わる奴だと思っていたら、ごく最近の話なのだがファーストが俺の部屋にやって来た。
部屋自体にやってくる事は別に問題ではない。次の作戦だったり報告だったりするので、頻繁にあることなのだが、内容が絶対に可笑しい。
「俺今日から此処で寝るぜ!」
枕を担いで俺のベッドに腰掛けて、いつの間にか俺のベッドで寝てやがる。
自分の部屋に行けと言っても全く行こうとはせず、頑なにその場から動こうとはしないファーストにそろそろ本気で聞いてみても良いだろうと、今夜ファーストが寝る前に尋ねようと思う。
「みねふじまた明日な。おやすみ~」
呑気に片手をヒラヒラさせて俺の部屋に向かったファーストを追いかけて、俺も部屋に入る。
いつもお前の所為で俺はソファで寝てるのを分かってるのか、分かってないのか、堂々と俺のベッドに横になり、男子高校生がするように端末を弄っているのだった。
「おい、遊ぶなら部屋でやれよ」
「そんなの俺の自由でしょーが!」
いや、確かにそうだけれどよ。そう言ってやりたいのだが、今日こそは聞いてやろうと思っているんだ。
だからわりぃけど、今日はその主張は譲れねぇんだわ。
「……んだよ」
ファーストの近くまで行き、ずっと見下ろしていれば、その空気に耐えれなくなったのか、端末から顔を逸らして俺を見つめた。
「いい加減、俺をベッドで寝かせろよ!」
ドガッ、と音が出るくらいに、ファーストを蹴落としてみた。
何がしたいんだと言うような目で見られているが、気にすることなくベッドに腰掛け「俺の陣地だ!」というのを主張する。
「んだよ、そんなに怒らなくても良いデショ」
「ここは俺の部屋だ。おめぇの部屋じゃねーよ」
ふと、俺の傍に置かれてるファーストの端末が目に入り、手を伸ばして何かゲームでもしてただろうかと思い暗証番号など設定してなかったのか、指で触れたらトップ画面になった。
そのトップ画面に俺が映っているのだが。
「あ! おい、見んなって! 返しやがれ!」
床で寝転がっていたファーストが勢いよく立ち上がり、俺が握っている端末にめがけて腕を伸ばして奪い返そうとしているが、俺はその端末の電源を切り、自分のズボンのポケットに入れ、代わりに俺の端末をファーストに渡した。
機種は同じものだったので、見た目では判断できないだろう。
「これお前のだろ」
「おぅ。ご明察」
「俺様の返しやがれってんだ!」
やっぱりすぐに分かったか。溜息を零しながら端末を取り出して、電源をつける。
そして俺が映ってる画面をファーストに向けて「何で俺が映ってんだ?」と、尋ねるとファーストルパンは答えようともせず、ただ「返せ」を繰り返す。
「……あっそ」
そんだけ返してほしけりゃ、返してやらぁ。そういって端末をベッドの上に置いて立ち上がって、自室を後にした。
――あんなモンより、俺をみろよ。
そんな心中の呟きなどファーストルパンには聞こえない。
**
それから数日間、ファーストルパンは部屋に現れなかった。
アジト自体にはいるのだけど、自室に籠もっているのか風呂やトイレや食事以外で部屋から出てきた様子はない。
時々出てきては「飲みに行って来る」と言うだけであって、それ以外の会話はここ数日、全くしていなかった。
――早く会いてぇなぁ。
独り、誰も居ないアジトの中で思った事だった。
**
「いてぇな! もっと優しくしろって!」
「文句あんなら自分でやれ」
何をしたらこんなに怪我をするんだと思いながら、包帯を巻いていた。
いつだってそうだ。爆弾抱えた奴の傍に行って怪我をして帰ってくるような、無茶をする奴なんだ。
考え方が同じなのだから、俺もいつかそうなるのだろうかと思っていると、不意に「おめぇさんが、そうやって文句言いながら手当てしてくれんのが、俺の楽しみだって、つったら、どうするんだよ?」と問われた。
何をバカな事を言っているのだろうかとその時は思った。怪我しないのが一番良いに決まってるだろ、そう答えてやりたいのだが、求めている回答とは違う事は知っていたので「さぁな」と短く返事した。
俺にそんな事を聞かないでくれ。
あぁ、そんな事言ってた日もあったけ。そう思いながら目が覚めた。
そんな昔の夢など、果たして覚えているのかと思いつつも、夢で見たことで、覚えていなくてもこうやって夢という形で出てくるのかと、ぼんやり考えた。
あれから何日が経ったのだろうか、最後に聞いた「飲みに行って来る」という声は、再びこのアジトで聞くことはなかった。
どうせどこかの女と飲んでるか寝てるかだろうと分かってはいても、床に散らばった服装を見てその考えが消えうせていく。
どこぞの女と寝てるだけ、それだけなのだが、自分の着ている服と同じ色の衣類が懐かしく、そして恋しく思った。
「らしくねぇ……」
小さく呟いてみても、意味が無かった。だから、そのまま寝てやろうと、帰ってくるまで寝て過ごして、酒でも煽って、仕事なんかいつだって良い、金はまだ残ってる、アイツが帰って来るまでは当分仕事しないと決めて、寝返りを打ったその時だった。
――ギィィ。
遠慮がちに玄関のドアが開けられた。帰ってきた、すぐにそう思った。
敵襲かもしれないなんて微塵も思わない。次第にコツコツと廊下を歩く音がする。あぁ、久しぶりだ、おめぇの足音を聞くのは。
声を掛けるべきなのか、それとも大分飲んでるだろうから寝かすべきだろうか、二択を迫られた。
声を掛けたら立ち止まるだろう、声を掛けなければ部屋に戻るだろう、だが、すぐに出ていくことも想像できる。どうすれば良い。そんな事を思っていると、向こうから「起きてるか?」と声が掛かった。
丁度、足音が止まって自室の前に居ることはすぐに分かる。
「あ、まぁ……。今、目が覚めた」
嘘ではない。嘘ではないのだけれど、どこかその瞬間重たい空気を感じた。
体を起して床に散らばった服を手に取り、もう何日も洗濯もしてないなと思いながらも同じ服を着る。
どうせ風呂にも入ってないんだ、洗濯してない服でも同じだ。
「わりぃな。実はよ……」
一旦区切られた言葉に嫌な予感がする。出て行くとか、もう来ないとか、女と組むとか、そういった事が頭から離れない。着替えの速さは至って普通だろう。女じゃないし、それに気にしてもしょうがない、だからシャツを着て、スラックスを穿いて終る。
ジャケットを羽織ったって、ネクタイなど締めたって何の格好付けにもならない。
「好きな奴が出来ちまったんだ」
グサリ、腹にナイフを刺されるような痛みが胸に走った。抉られているような、そんな感覚になりながらも、平常を保つ為にドア越しだというのに、口角を上げて「へー、良かったじゃねーの。一生大事にしてやりな。峰不二子みたいに裏切りタイプかどうかは知らねぇけどよ」なんて余裕たっぷりみたいな、返答をした。
一体どこの誰だって? コイツを奪おうとしてやがんのは?
発端は自分の所為だと分かっている。あの日、無理矢理端末の中を見てやろうなんて思わず、理由も聞かずに好きにさせていれば、コイツが飲みに行く事も、好きな奴ができたという報告もなかったんだ。今更後悔しても遅いのだが。
好きにさせていれば良かったじゃないか、俺の部屋を使おうが、そんなのは別にどうでも良かったじゃないか。俺がコイツの部屋を借りてベッドで寝ていたって良かったのによ、そんな遅い後悔をしながらファーストにどんな表情でこれから接したら良いんだ。
俺は絶対、お前に悪態をつくだろう。それぐらい俺は黒い奴なんだ。
「珍しいよな。お前からそう言うこと言うなんて。大体は女がお前に惚れたとかが多かったのによ。俺にじゃなくて、お前の『相棒』の次元大介にでも言ってやった方が良かったんじゃねーのか? 俺とお前は『只』の、ビジネスパートナーだしよ」
只のビジネスパートナー、相棒でもなければ、友人でも、恋人でも愛人でもない。ただのパートナー。どこどこの宝石がどこどこに運ばれるらしい、そういった情報を交換するだけの、関係だ。
俺には相棒と呼べる奴がいない。コイツの相棒が次元大介という名だったので、多分、俺の相棒も次元大介になるんだろう。だが、相棒という線まではいっていない。
「ちげぇよ」
「何が違うって?」
俺とお前は只のビジネスパートナーじゃねーよ。ドアに凭れる音と共に、ファーストの声がした。
何言ってんだよ、ただのパートナーだろ。それで良いだろ、そういう事にしておいてくれよ。 俺が、俺が気付いてしまったことに、気が付きたくなくて、目を背けていた事に、もう一度向き合えってのか? 無理だ。嫌だ。きっと俺はお前を独占するようになる。お前という「ルパン三世」を俺だけの物にしたくなる。
俺とは違って、陽気で、考える事もバカらしくて、でもそこが似てて、似すぎていて、そんなお前に俺は、惚れちまったんだ。
お前が居なくなった数日間、ずっとお前のことしか考えていなかった。今頃お前はどうしているのか、お前はどこの誰と寝てるのか、はたまた仕事してるのか、そんな事ばかり思っては、考えたくなくて寝る事にした。
ただ睡魔などすぐにやってこないから睡眠薬に頼ったりした。寝ていればいつか帰ってくる。その間に寂しい想いなんてせずに済む、そう思っていた。
「ただのビジネスパートナーに抱かれる訳ねーだろ。分かれってんだ」
ドアの前で、コイツは何を言ったのか。一瞬理解するのに時間がかかった。
「それってよ……」
かろうじて出た言葉も、聞こえているのかどうか分からないが、小さく出てきた言葉に「お前さんが好きなんだって事だつーの! 分かれこのバカ!」と怒鳴られた。と同時にドアをダンッと激しく殴られたが、俺自身じゃないので痛くも痒くもない。
「開けるぜ」
「嫌だ」
「開けさせろ」
「嫌だ」
「開け――」
「ぜってー嫌だ!」
ファーストがドアに凭れていたらドアを開ける事は出来ない。だからと言ってドアから離れろということにもならなかったが。
今すぐにでも抱きしめたい。嫌だ嫌だと言いながらも俺にワルサーを向ける事はなく、銭形から奪ってきた手錠をはめても、手袋を外すみたいにスルリと外す事もなく、口では嫌だと言いながらも、必死に俺に応えようとするその様を、もう一度みたいと思った。
抱きしめたい、キスしたい、抱きたい、今まで我慢してた欲求が激しく俺の体内を襲った。
啼かしたい。ぐっちゃぐちゃにしたい。本当、俺はどこまでも黒い奴だ。
「キスさせろ」
「は!?」
ドアを押さえる力が一瞬弱くなった。だからその一瞬を逃さなかった。ドアノブを回して、ドアを開けた。当然ファーストはドアから離れる。気が緩んでいたからだろうバランスを崩したファーストの腰に手を当て、そのまま引き寄せた。
「は、離せ!」
「嫌だ。ぜってー離さねーよ」
離せ離せと俺の体を引き剥がそうとするが、その分、俺はファーストを強く抱きしめる。背中に腕を回し、コイツの体温を確かめるように俺の体に引き寄せて、逃げれないようにがっちりホールドさせて、ジタンの匂いを嗅ぐ。
飲みに行った割りに、ジタンの匂いしかしない。女がつけている香水の匂いすらしない。
「お前、本当に飲みに行ってたのか? この数日間」
そう尋ねると、ピタリと動きを止めて「初めは女と飲んだ。一緒に寝た。けど、お前さんのことが忘れられねぇし、アジトに帰るなんて出来やしねぇし。お前さんが来ねぇ所っつったら、とっつあんの所しか思いつかなくて。で、とっつあんの所で暫く落ち着こうと思ってたら、いつの間にか、とっつあんに恋愛相談なんかしちゃって……。もう訳分からねぇよ」と、俺の胸に顔を埋めながら答えた。
バカだな、俺もコイツも。しかも銭形の所って、お前、死刑になるかも知れなかったんだぜ、何恋愛相談なんかしちゃってんだ。本当にバカだな。多分、俺もコイツの立場なら同じ事をしていただろう。
それで、死刑が近付いてきたら脱獄したのか? 本当、バカだよ。お前。
「……バカだな。俺達」
小さく呟いて何となく、コイツが俺のベッドを使っていたことが、分かった気がする。きっとお前、寂しかったんだな。俺と同じでよ。
同じアジトに居ても、俺は暫く仕事するために新聞やラジオや本などを読んでいた。
話しかけられてもう夕方だった、朝だった、夜だった、そういう事が多々あった。俺の部屋で寝ると言い出した日から、俺はリビングで酒を飲みながらテレビを流しながら、本を読み、情報を頭に入れていた。
きっとそれが寂しかったんだろう。仕事の為だと分かっていて、邪魔をしないようにしたかったんだろう。だから俺のベッドで寝ると言った、俺の匂いが染み付いているベッドに。
そう考えると、俺のベッドで端末を弄っていても可笑しくはない。
「悪かったな。気付いてやれなくてよ」
俺もお前が居なくなってから気が付いた。お前が居ないと寂しい事に。もう手遅れなのかも知れないと分かっていても、謝るのが遅いと思っていても、俺はお前に対して酷い事をしたと思っている。このルパン様が人様に謝るなんて滅多にないことだぜ。
お前の端末の中に俺が居ることには驚いたが、よく考えてみれば俺の端末にも、お前がいたんだわ。だからおあいこだ。
「俺もお前さんが、好きだぜ」
耳元でそう囁いてやるとファーストは顔を赤く染め上げ、顔を隠すように俺の胸に埋めた。
「顔見せろよ、キスできねぇじゃねぇか」
「無理矢理するんだろうが」
「ごもっとも」
体を少し離して、唇に触れた。そのまま舌をねじ込ませてかき回していると、喉の奥から喘ぎ声が聞こえ、ファーストの手から力が抜けていく。
甘い、そんなコイツの声が俺を支配して、水音を立てていた。
「一回だけ、なら良いだろ?」
俺の問いにファーストは腕を首に回して「一回以上の間違いだろ」と囁いた。
あぁ。一回じゃ終る訳ねぇだろうが。覚悟しておけよ。
それからは互いに互いを求め合っていた。
謝罪(続き)
**
「調子どないや?」
店の閉店時間になって、お茶や遅めの夕食などを口にしている時間帯に、良介が話しかけてくた。
手に持っていた菓子パンをテーブルの上に置いて、「ちょっと疲れたかも」何て嘘をわざと言ってみれば隣に遠慮なく座ってきて、黒のソファが満員状態になりつつも、気にした様子はなく「何嘘言ってんねん。バレバレや」と関西弁で話してくる。
「あ、バレた」
「アホ。バレる以前に今日客自体が少なかったやろ。俺だって3組しかオーダー取ってへんで」
私と良介と大上先輩とさよが働いているのは、ごく普通の飲食店。
数人のウエイトレスに、数人のウエイター。給料は良い方で、法律には反していなく、国の許可は得てある。
お金がないという訳でもなく、ここで働いている大半は『格好良い制服、可愛い制服』に憧れた者が多い。私もその一人で、良介もその一人である。
ちなみに店の名前は『坂代理』という店の名前である。平仮名にすると「さかだいり」。私達の下の名前が一文字入っているなんてミラクルもあったりする。
「さよと大上先輩と交代だっけ? 大上先輩見た目も格好良いし、声も渋いから人気高そうだよね」
「俺かてええ声やと思うけどな」
何を張り合っているのよ、良介の場合はノリが良いだけ。と敢えてショックを受けるような言い方をすればショックは受けていないという訳ではないが、やっぱり関西の血が混じっているだけあって「そうそう、俺はノリが売りや。何でやねん!」とノリ突っ込みをしていた。
やっぱりそういうところは明るいなと小さい頃から思った。
「相変わらず変わらないね」
「何が……?」
「何でもない」
笑顔でそれだけを言って、テーブルに置いた菓子パンに手を伸ばし、再び口に運ぶ。
その菓子パンは開封してから時間が経った所為で、少しパサついていた。
「佳代って正直なところ付き合ってる奴おるん?」
唐突に尋ねられた質問に一瞬目が点になるも、すぐに我に返り首を大きく振って「いないない!! 第一私を好きになってくれる人がいるのかも怪しいし……」と段々声が小さくなって、俯いていくのが良く分かる。
そう、不器用であんまり目立つ事はなく、どちらかと言うと部屋の隅で本を読んでいる様な女に惚れる人などあまり居ない。
「結構近くに居ったりすんねんで? 例えば――」
良介が言い切る前にピロリンッと携帯が鳴って、メールなのはすぐに分かったので後で確認しようとしたら、良介は自分が何を言おうとしたのかを思い出したかのような表情をして、「先に携帯確認した方がえぇんとちゃうか?」と、私の茶色い鞄を指差した。
うん、と小さい声で返事をし携帯を取り出してメールを確認する。差出人は『蓮』さん。
内容は『良い忘れたけど、誕生日おめでとうな』と書かれていた。
私はそれに礼を述べて返信をした。
「そういえば何を言おうとしてたの?」
良介が何かを言いかけていたのを思い出し、首を傾げながら尋ねるけれど良介は「何でもあらへんよ」と、笑みを浮かべる。
何かを隠しているような雰囲気ではあるものの、無理に聞くのも良くないだろうとその時は何も聞かず、良介と他愛もない話で盛り上がっていた。
謝罪(続き)
**
蓮:そりゃ悪い事したな。
私:蓮さんは悪くないですよ!
蓮:えぇ話の途中を邪魔したんだろ? 俺。
私:そんな事ないですって!
蓮:でもアレやで。俺結構私さんの事狙ってたのになぁ……。こっちの話やからあんまり気にせんといてな。じゃ、今日はコレで。おつかれ。
――蓮さんが退室されました――
お疲れ様です、そう画面に打ち込んでノートパソコンの電源を切る。
どこか逃げていった様に思える書き込みをして、蓮さんは退室していった。
今日の良介とのことを話したのだけれど、蓮さんから冗談なのか本気なのか分からない事をいわれ、胸の中がすっきりしないが、明日も仕事があるため今日もベッドに横になって眠りについた。
**
蓮:そういや、そろそろハンネ変えたら? さすがに私さんって呼ぶのはどうかと思うし……。
私:そうですね、ハンネ変えてきます。
――私さんが退室されました――
――紅さんが入室されました――
紅:ハンネ変えてきました。
蓮:何か新鮮やな、ところでどう読んだらええの? くれない? べに?
紅:くれないでお願いします!
蓮:了解。
それから暫く蓮さんと話をしていると、何故だか会ってみないかという話になっていた。
同じ趣味と言ってもお互いお酒などを好んでいて、休日に少し飲んでいるという話になり、それなら一緒にご飯でも行ってみたいなと言う話になり、私が冗談で『会ってみます?』何て仕事帰りの電車の中で、そう言ってみた。
仕事の所為にするのは良くないのだが、仕事でお酒の匂いを嗅いだりするので多少酔っているのかも知れない。
すぐに我に返り『わわ、冗談です(笑)』と文字を打ったのだけれど、それより早く『それもええかもなぁ』と書かれていた。
送信した後その言葉に気が付いたので取り合えず『(笑)』と打って暫くすると、『冗談やったん? 俺結構嬉しかったで(笑)』と返ってきた。
紅:団体客がお酒を飲んでたのでその匂いで酔ってただけです。
蓮:仕事?
紅:そうです。
蓮:お疲れ。じゃ、今日はもうはよ帰ってはよ寝るんやで。
紅:分かりました! すみません、落ちますね。おやすみなさい。
蓮:おやすみ
――紅さんが退室されました――
**
それから三日、蓮さんからのメールはなく、少し落ち込んでいる自分に気が付いた。
蓮さんにだって蓮さんの時間がある。仕事や友人との時間もあるのに、その蓮さんを独り占めにしたいと思ってしまっていた自分がとても恥ずかしく感じる。
ネット上の関係だと分かっていても、ただの文字列だけのやり取りだとしても、蓮さんには嫌な思いなどしなかった。
変な事は聞いてこない、私が嫌だと思うことは必要以上に聞いてこないので、それが私は嬉しかったのだ。
実際でもそういう人なのだろう。多分、周りは良い人が多いのだと思う。
そんな人だから、誰にも譲りたくないという気持ちも存在する。
ネット上の関係、ただのメール友達。そうだと言い聞かせても募ってくる想いが強すぎて、その日の仕事は誰を相手にしたのかすら思い出せない。
それぐらい『蓮さん』という人に想いを寄せている事に、気が付いたのだ。
『別れよう』
ふと、頭の隅っこから蘇った。
そういえば、結構前にも同じような事を思い出したと思いつつ、彼の言葉に自分が何て言ったのかは全然分からなくて、結局、また考える事を放棄して夜の街を歩いていた。
**
蓮:いや、悪いな。ちょっと調子悪くて寝込んでたわ。
紅:大丈夫ですか?
蓮:ただの風邪だって言われたから何ともないで。メール返信できなくて悪かったなぁ。また後で返信返すな!
紅:いつでも大丈夫ですよ!
――嘘吐き。
適当に理由をつけてチャットを退室し、イスから立ち上がる。
こういう時携帯だと便利だと思う。小さいオシャレな雰囲気のカフェを後にして仕事場に着いた。
そして大体いつも会うのが良介なのである。
「佳代やん。今から出勤なんか?」
「うん。さよと入れ替わり」
更衣室で着替えて、髪を束ねていると控えめにドアがノックされた。
シフト制な為、今日シフトに入っていた大上先輩や良介、さよ、高槻君とその他大勢の誰かだろうかと思いながら、返事をすれば良介が中に入って来る。
そして出勤かと問われ、それに返答していると、メールが届いたのを鞄の中から知らせる。
出勤時間まで時間があったので鞄の中から携帯を取り出してパスワードを解除し、トップ画面を起動させる。
白いふきだしから『メールが一通届いてます』と黒文字で書かれていたので、ふきだしを押して、メール確認画面を開く。
差し出し人はさよと書かれており、内容は『疲れたー』と書かれたいたのだった。
「さよから疲れたって書かれてた」
嘘ではないことを口にしたはずなのに、良介は何かを疑うような表情をしつつ、「そないな事言うてどうせ彼氏やろ」と、顔を近づけてムッとした表情をしながら述べた。
「だから彼氏じゃないって……。彼氏居ないし……」
要らないと言えば嘘になるけれど、誰でも良いというわけではない。
出来ることならば蓮さんみたいな人に彼氏になって欲しい。
女なら誰でも同じ事を思う。優しくされたい、甘えたい、可愛いって言われたい。そんな夢のような事を思いつつも、絶対にないと思い、頭を振る。
「わっ、急に頭振らんでも……」
「あ、ごめん」
急に頭を振ったの所為で良介に驚かれてしまい、笑顔を向けて謝罪をして、携帯を鞄に仕舞って出勤時間が近付いてきたので「ごめん、もう行くね」と、良介に手を振って更衣室から出て行く。
**
分かっている、駄目な事だ。やってはいけない事なのだ。
それがどういう事なのか、もう分かりきっているのに、「お前が悪いねんで」と誰も居ない更衣室で呟きながら『ソレ』を手に取った。
だが、取った瞬間に分からないものが存在した。『暗証番号』だ。絶対に分からない。
聞く事も出来ない。だからどうするのか、ソレを元の場所に戻した。
「俺が居るのに何でお前はそう誰も居らんみたいに思ってんねん」
髪をくしゃくしゃに掻き乱しながら自分のした事に腹が立って、近くにあった白い壁を殴りつけた。
バイトなどもいるのでドンッと更衣室から音がしたら驚くだろう。
ドアの向こうから「大丈夫ですか!?」などと声が聞こえ返事をしなければ入ってくることが想像できるので「平気や。ふらついただけや」と、ドアの向こうに返答する。
女性用更衣室に男の俺が居るのか疑問そうにしつつも「そ、そうですか」と返ってきた。
足音が遠くなるのを聞いて、一息つきながら壁に凭れてそのままズルズルとしゃがみ込む。
――あぁ、クソ。最低やろ、俺。
泥棒と探偵のこどもの日(ルパン三世/名探偵コナン)
毛利探偵事務所に一本の電話が入った。
こんな朝早く(といっても午前10時なのだが)に、どこの誰が何の用だと思いながら、欠伸をしつつ、いつものソファに腰掛けた。
そう言えば、どこかの誰かもこんな風にソファに座っては、酒を飲んでいたっけと思っていると、小五郎から「おい坊主、一昨日助けてもらったっていう、ケイン・ゲジダスから電話だ」と言われ、その名には深い関わりがあって、頭より先に体が動いた。
『おい坊主元気にしてっか?』
受話器を持った途端に懐かしい渋い声が身体中に響き渡って、ごくりと唾を飲み込んで何故、今、この男が電話を掛けて来たのだろうかと悩んでるより先に受話器の向こうから『ちょっくら出て来れそうならちょっくら顔貸せ』と言ってきたのである。
断る理由もないのですぐに行くと伝えたら、すぐに電話を切ろうとしたので、何処に向かえば良いのか尋ねる前に電話は切られてしまった。
「ちょっと出かけてくるね」
無邪気に小五郎に伝え、夕方には帰って来ると子供らしく伝え、ドアを開けてスケボーを持って階段を下りていると見たことのある革靴が目に入った。
「は!?」
勿論、今住ませてもらっている毛利探偵事務所の場所を言った事はない。
けれど相手には無意味なのか、道路と歩道を遮っている手すりに腰を掛けているボルサリーノを被った男がそこには居た。
「よう、久しぶりだな」
「何でこんな所まできたのパパ?」
「パパって呼ぶな」
そう、眼鏡の少年の前にはほぼ喪服と言っても言いぐらいに全身真っ黒なスーツを身に纏った――次元大介が居る。
次元の前には眼鏡の名探偵――江戸川コナンもとい工藤新一が存在している。
「っで、何で毛利探偵事務所の前に居るんだよ」
「ガキを迎えに行くのが大人の役目だろーがよ」
ま、乗れよ。お前をアジトに連れてって食ったりなんかしねぇしよ。何て子供にいう事なのだろうかと思いながらも、コナンはすぐ傍に止めてあったフィアットの助手席に乗り込む。
日本車とは違い、助手席が右側なので違和感を覚えつつも「これ、ルパンの車だよね?」と、子供らしく尋ねた。
「俺がルパンの車運転したらいけねぇってか」
そうじゃないけど……。よく貸してくれたよね。何て犯罪者と探偵が普通の会話を行う。
そして信号が黄色になった頃合に一旦愛車を停車する。普段仕事以外では交通ルールを守るのかと、探偵は思ったが、それと同時に犯罪者が交通ルールを守っている事に意外性と可笑しさに笑ってしまいそうだった。
「顔がニヤけてるぜ。ガキンチョ」
不意にルパンの声が聞こえた気がした。
いや、そんなはずはない。隣に居るのは一昨日助けてもらったと嘘を言った次元大介で、ルパン三世ではない。多分。
仮に今隣にいるのがルパン三世なら、何故次元大介に化ける必要があるのか。
「……ルパンの声真似でもしてるの?」
そう尋ねた頃に男の愛車が動き出した。どこに向かっているのだろう、それを聞いても返ってくる言葉は何となく想像できるのできるので聞く事もやめた。
都会から大分離れていくのを窓越しに見つめていれば、森の中を走り、小さな丘の上に建っている建物を見つめる。
アジトに連れ帰って食べるって訳じゃなかったのかよ。口中で呟くも男の愛車はその建物に向かっているようで、近付いてくれば男の愛車は段々スピードを遅めていく。
「着いたぜ。俺は車止めてくっから、先に入ってな。日本屋敷と違って靴は脱がなくて良いぜ」
先にコナンを降ろして窓を開けて言った次元は、取り合えず、中に入ったら一番手前の左側のドアを開けて中に入れと伝え、車を止めにコナンから離れていった。
それを聞いたコナンは呆れながらも言われた通り、玄関のドアを開け「お邪魔、します……」と遠慮気味に声を掛けながらギシリッ、と音を立て廊下を歩いた。
洋風に造られているこの建物はルパンのアジトなのだろうか、それとも次元が持っている物なのだろうか、恐らく前者だろうと思いながらも、一番手前にある白いドアを見つめた。
開けて良いのだろうか、開けて中に入れと言っていたので開けて良いのだろう。
二回ノックをしてからドアノブを回し「し、失礼します」と、犯罪者の部屋に入るのにかしこまる必要があるのかと思うが、俯いて一歩踏み出せば「よぉ」なんて、先ほど聞いた声を耳にする。
「じ、次元大介!?」
あからさまに驚きを隠せないでいるコナンに、次元がバーボンが入ったグラスを揺らしながら「おう。次元大介だぜ」と声をかけた。
「な、何で……俺さっき、お前に連れて来られて……」
車を止めに行ったはずの次元がもう戻って来ているのか、裏口を使えば早く此処まで来れるだろうけれど、コナンはこのアジトに隠し扉があるのか、裏口があるのかどうかすら分からない。
ならば、先ほど此処まで連れて来た次元大介は誰なのか。
その答えは上から聞こえてくる声が答えを表した。
「いやぁ。まさか全然気付かねぇとはねぇ」
「ルパっおじ……ルパンさん!?」
一瞬「ルパンおじさん」と言いかけたのを言い直しては、未だに驚きが隠せないのか、目を見開いて固まっている。
コナンの後ろに現れたルパンは次元の変装を解いており、真っ黒なスーツという普段とは全く逆の衣装を身に着けて、ヌフフと笑みを浮かべていた。
「おじさんで良いって前にも言ったろ」
「な、何の真似だ!」
「何のマネって、折角の子供の日だぜ? 子供のおめぇさんを祝ってやろうとかと思ってこのルパンアジトにお呼びしたのによ……」
分かりやすいのかそう演じているだけなのか、はたまた両方なのか次元にも分からないが、ルパンは体育座りで壁に向かってきのこを生やしながら、壁に向かって会話していた。
同じ人物が2人居たらどんな反応をするのだろうかと思い、思った事はすぐに行動するので、ニシシと笑いながら次元に止めておけと言われつつも関係なしに、ケイン・ゲジダスと名乗って毛利探偵事務所に電話を掛け、此処まで連れて来た。
それだけなのに、どうしてここまで言われるのだろうと本当に白い壁に向かってブツブツと呟いていた。
「おいルパンよ。だから止めておけって言っただろ。どうせこうなるのがオチだったんだからよぉ」
「うるせーやい!」
変装を解いた上に次元の変装用の帽子を被っていたので、その帽子を次元に向けて投げつけ、あからさまに拗ねた。
「僕何のために呼ばれたの?」
きっと今ルパンに尋ねても意味がないだろうと次元に尋ね、面白そうな顔した次元に「ほらよ」と投げつけられたのを反射的に受け取った。
小さな小包だと思いながらも、「開けて良いの?」と首を傾げると了承の声を聞き、小包にくるまれている紙を剥がしていけば黒い箱が姿を現す。
何が入っているのだろうかとゆっくりと中を開ければささ餅が二つ、ちょこんと入っていた。
きっとどこかの和菓子屋で買ったものだろう。どこのかは知らないが、店の名前が箱の蓋に書かれていた。
「コレを渡す為にルパンは次元に化けて、僕を此処まで連れて来たの?」
ねぇ。と鋭い視線を向けながらルパンに尋ねた。未だに体育座りをしてこちらを向いているルパンはフンッと顔を逸らした。
バカだとコナンは思った。本当にバカだと。
「何してんだよ。アンタら、こんなバカみてーな事……」
自分達はただ、犯罪者と探偵。それしかないと思っていた。その関係でありつづけるのだと、そう思っていたからこそ、今こうして何かを渡されると、胸の内が熱くなる。
何、やってんだ。本当。
自分の正体を知っているというのに、それはコナンにしてみれば弱みを握られたのと同じことなのだ。だけれど、こうして犯罪者でも探偵と言う立場でもない時、どうすれば良いのか分からない。
「バカだと思うならおめぇさん、蓋の裏、見ねぇ方が良いかもな」
次元の声で蓋の裏を見る。
確かに白い文字が書かれていた。フランス語でこう書かれていた。
Je prie pour votre vrai bonheur.
Et j'attends pour le jour où je peux vous affronter dans un vrai sens.
「本当、バカだよ。おめーら」
自分の帰りを待ってくれている人が居るのだと、そこで実感し、温かい何かが、頬を伝った。
あなたの本当の幸せを願っています。
そして、私は本当の意味であなたと対決できる時を待っています。
謝罪(続き)
**
『ごめん。好きな人が出来た。凄く可愛いくてさ。だから……別れよう』
学校の中だろうか、机とイスとロッカーと教卓、窓掃除道具入れ、恐らく教室だろう。
その教室に赤い日差しが入り込んで全体を赤く染めている。夕方4時、5時ぐらい。
黒髪で短髪の同じ歳なのだろうかと思わさせる幼さが残っているものの、実際の所は今年で卒業の3年生が学ランを羽織って申し訳なさそうに、小さく本当にかすれてしまうんじゃないかと思わせるほどの声で、別れを告げた。
当時付き合っていたので急な別れを告げられ、驚きと共に誰なのか分からない『凄く可愛い子』に嫉妬した。クラスの中でも人気だったので付き合えた時はとても嬉しかったし、時々見せる表情や仕草を独占したいと思っていたのだから仕方ない。
けれど、彼にとって、大事な人が出来たのだろう。だから、波風立てず、去る事にした方が良いんだ。きっとそれで彼が幸せを手に入れる事ができるんだ。
『羨ましいなぁ。――はそんな可愛い子と付き合えるなんて。絶対他の男子が文句言うかもね。ありがと、じゃぁね。楽しかったよ』
本当に彼の言葉を聞いたのはこれが最後だ。何も言わせず、私は教室を出て行った。頬に温かい、思い出を流しながら。
**
懐かしい夢を見ていた気がする。いつの頃の夢だろうか――あぁ、そうか。中学生の頃の夢なのか。確か、告白されて、初めは凄く驚いたけれど、嫌いじゃなかったし、どっちかっていうと好きだったので、付き合って、どれぐらいの年月だっただろう。
あまり長くはなかったと思う。大体5ヶ月ぐらい……。5ヶ月経った時不意に好きな人が出来たと言われて、その場で別れたのだ。
彼が幸せになるなら、それで良かったんだと、今でも思う。
私がどうして選ばれたのか不思議で仕方なかった。ただの遊び半分なのか、それとも本気だったのか、でもその後に可愛い子が彼女になっているのだから、私の事は忘れてるだろう。
考える事より、時計を見ると午全2時半。そういえば今日は仕事が休みだったと思い出し、再び布団に包まる。
季節的には暑かったり涼しかったりするので、冷房を入れたくても入れれないに等しい。
大体冷房を入れた途端に豪雨だったりするから電気が落ちたりする可能性もあるので、結局冷房は消す事になるから最近は夏になるまで冷房なしで頑張ろうと思う。
そんな事をさよに言ったら「え? 普通に冷房ガンガンにしてた方が涼しいじゃん」と言われて、さよは暑がりだというのをそこで初めて知った事があった。
今日一日何をしよう。久しぶりの休日だから家でゴロゴロするのも良し、買い物に行くのも良し、連さんが居たら蓮さんとメールしながらテレビ見るも良し、そんな事を考えると眠れなくなったので、携帯を取り出してメールの確認をしてみた。
特に誰からも届いてないだろうと思っていたのだけれど、新着メールが一通あり、誰からかと思うと蓮さんからだった。
時刻的には昨日の午後九時になっていた。
『明日仕事休みになったから、メールやチャットしまくりやで!』
一文だけなのだけれど、どこか優しく感じられ、それに関西弁にも大分慣れてきたのだろうか違和感はなくなってきている。
近くに関西に住んでいる人でも居るのだろうか。それとも蓮さんが関西人なのだろうか。
微笑みながら窓の外を眺めると、今日は晴れな気がすると思った。
**
蓮:紅さんも休みやったん? 偶然やな。俺も店長から『明日やっぱり休みでお願いするわ』って言われたから休みやってん。
紅:私はシフト制なので今日は休みでした。
蓮:ええよな、そういうミラクル的な! 俺そういうの好きやわ。
あの後二度寝を決め込んだものの、中々寝付けず、ホットミルクを飲んでベッドでゴロゴロしていたら、いつの間にか寝ていたらしく、気付けば午前10時になっていた。
メールなどのやり取りのことに関しては返信してないので、起きて朝食を食べてからメールを返信した。
『13時ぐらいからならチャットできます』
メールを返信してから、可笑しな事に気が付いた。
>メールやチャットしまくりやで!
良介がよく『ゲームしまくるわ!』や『やりまくった』と言っているので、何となく意味は理解できる。幼馴染みと言っても私と良介だとやっぱり良介の方が関西弁は上手だと言える。
同じ関西出身でも、関西弁を貫いてるのと、そうじゃないのとではやっぱり違うのだろう。
それでも、同じ関西出身だから分かる事なのだけれど、蓮さんの言い方には引っかかる。
まるで私の休みを知っていたかのような言い方……。
「そんな訳、ないよね」
一瞬でも連さんをストーカーと思った事を恥じる。そんな人ではない。きっと、そんな事をするような人ではないのだ、蓮さんは。
――ピンポーン。
家のインターホンが鳴った。誰か来たのだろうかと思い、一旦チャットに『少し落ちます』と書いて覗き穴から見ることもなく、無用心だと思うが、早く済ませたい思いもあって、ドアノブを回した。
「よう、折角の休み出かけようってさよが煩くってな」
肩を竦めて立っていたのは大上先輩だった。否、さよはシフトを見た時には休みだったのに、大上先輩は休みじゃなかったと思う。
「先輩ズル休みですか?」
「まぁ、一回ぐらい休んでも誰も気にしーひんやろ」
「えっ……」
普段大上先輩から関西弁を聞くことはないのだけれど、その先輩から、何の違和感もなく、関西弁が聞こえたので目を見開いていたら、顔に出ていたのか「良介と居たら関西弁ってうつるのか?」と尋ねられた。
そんな事はないと言い切れないので、「ずっと聞いてたら……多少はうつるかと……」としか答えられなかった。
少し、焦った。もし、大上先輩が蓮さんだったらどうしようと思った。そんな事はないって分かってる。
連さんは私が住んでいる街に住んでるわけではないのだから。
確か、生まれは関西で親の仕事の都合で関東に行って、大人になって戻ってきたと言っていたような気がする、と思い出していく。
だから『生まれ関西やのに、関西弁喋られへんかったらアカンから練習するわ』と大分前のチャットで書き込んでいた事を思い出した。
なので、大上先輩が蓮さんという事ではないのだ。きっと。
「今日は良いです。二人で行って楽しんで来てください」
「佳代のことだから彼氏でしょ~」
「な訳ないでしょ!」
頬が赤く染まるのを覚えつつ、反論したら余計に怪しまれて「佳代は彼氏さんと忙しいみたいなので、先輩と私は行きまーす! では!」と言って手を振って去って行った。
大上先輩はさよに呆れながらも「また職場でな」と軽く手を上げて去っていく姿を見つめていた。
2人が去っていったのを確認すれば、ドアを閉め、鍵を掛けてノートパソコンに向かう。
そして再び書き込みを再開しようとしたら丁度大上先輩とさよが去って行った時間帯に、チャットが更新されていた。
蓮:友人ならそっち優先してええねんで。
紅:ただいまです。いえ、大丈夫です!
本当に蓮さんはストーカーではないのだろうかと、思ってしまう時がどうしてもあるんです。
【土砂降りの雨 次元大介の場合】
――ザァァァ。
窓から聞こえてくる音に憂鬱になった。本当なら帰っている時間帯なのに、机の上に置いた鞄に顔を埋める事しか出来ないのだ。
もうちょっと小雨なら帰れたのにな。なんて天気に愚痴っても仕方が無い。傘を忘れたのは自分なんだから、そう言い聞かせるしかないのだ。
「はぁ……」
もう4時なのに、一向に止む気配のない雨を見つめて、何か暇でも潰せそうなのがないか、探してみる。
机の中に入っていたのは教科書のノートだけで、鞄に入っているのは筆箱と今日の体育で使った体操服と水筒ぐらいだった。
いや本当に何かないのか。この際宿題でも教師の雑用でも何でも良いのだけれど、こういう時に限って何もないのが人生だ。
「…………」
途方に暮れていると教室のドアが開く音がした。部活の生徒が忘れ物でもしたのだろうかと、視線を向けることなくぼんやりと考えていれば、席に着く音がした。
私と同じように傘を忘れたのだろうかと考えながらも、自分から話しかける勇気もなく、誰なのかも分からないので再び鞄に顔を埋める。
「お前さん、傘でも忘れたのか?」
ふと声がしたので「うん、まぁ……」と返答した。声を聞いて凄く渋くて良い声だと思った。
そういえばクラスに一人だけ居たようなと曖昧な記憶を頼りに思い出していき、その声の主が次元大介という事に気が付いた。
次元大介は私の幼馴染みである、なんて事はなくただのクラスメイトなのだが、私は次元に苦手意識を持っている。
次元が何かしたと言うわけではなく、単に話しかけずらく、普段よく喋る方には入らず、一人で居る方が好きなようにも見える。
誰かと話すのが嫌いというようには見えず、たまにやってくるルパン三世や峰不二子や石川五右ェ門とはよく話しているのを見かけた事がある。
そんな次元に話しかけられ、『宿題はしたの?』『うん、まぁ……』と親子がするような返事だったと我ながら思う。
実際傘自体忘れたので、曖昧にしたところで意味はないのだが、傘を忘れた事に自分自身がまだ納得しきれていないのだろう。
「そりゃぁ、お気の毒だな」
鼻で笑われた。うん、好きにすれば良いと思う。忘れた自分が悪いのだから。
何も言えないでいると、席から立ち上がる音がして「ついてきな」と声が掛けられた。
どこに、何て聞いても答えてくれないだろうと思い、鞄を持って次元について行った。
**
「ほらよ、コレ使え」
そう言って渡されたのは黒い傘だった。下足に置いていると絶対に盗まれるだろうと思っていたのだけど、案外そうでもないのかもしれない。
「良いよ! 私は雨止むまで待つし」
私がこの傘を差して帰ったら次元は濡れて帰る事になる。この土砂降りの雨だ、どちらかが濡れて帰宅すれば風邪を引くのは目に見えている。
だから断ったのもあるし、次元という人物がどんな人なのかまだ全然知らないのに傘を借りるのにも抵抗があった。
「良いから使え。俺は濡れて帰っても問題ねぇからよ」
そう言って片手を振って外に出ようとする次元を見つめては、急いで靴を履き替えて後を追った。濡れて帰れば風邪を引く、傘は一本しかない。私は次元がどんな人なのかも知らない。
この三つをクリアするのは一つしかなかった。
「だったらさ、一緒に帰ろうよ」
次元が雨に濡れるほんの手前で腕を掴んで引っ張った。
「別に家までって訳じゃなくて、どこかのコンビニでも良いから……、この雨の中濡れて帰ったら風邪引くよ」
そうだ、コンビニで傘を買えば良いのだ。金銭的には問題ない。なくなるのは私のバイトの給料だけのだ。
提案したものの、次元からの返答はなく気まずくて俯いていると、次元から「変わったやつだな」と言われた。
変わっていても自分の所為で次元が風邪を引くというのには耐えられなかった。
「家、どこだ?」
「えっと……二駅先で近くにあるマンション……」
二駅だろうが三駅だろうがそこは関係ないのだけれど、学校から駅までの距離が凄く長い。
当然長さがあるので長時間雨に濡れる事になり、風邪を引く。電車に乗ると冷房がついてるので余計に。
「そんな遠くじゃ雨止むまで待ったところで、雨は止まねぇよ」
今日は。と言った。止みそうにもないので濡れて帰ろうかと思っていたけれど、もうちょっと待ってみようと思って、約一時間。教室に居たのである。
悔しいが次元の言うとおりだ。雨は止まない。
「ごもっともです」
「傘、差してくれ」
次元に言われて傘を差すと、次元が傘を持った。そしてそのまま行ってしまうという訳ではなく、「家まで送ってやっから傘忘れた時は俺に言いな」と言われた。
ボディーガードみたいだと思いつつも、「忘れたらね」と返答した。
傘の中に入ると一人で使うよりもスペースが少ないし、それに次元との距離も凄く近くなる。
前髪を下ろして後ろ髪は長く、邪魔なのか一つに束ねていた。そして背が高い。
傘の大きさはいたって普通だと思う。だから、私と次元がこうやって並んで歩くと、肩の端は濡れることになると思う。実際そうなのだが。
「ぬ、濡れてる! か、風邪引くって!」
どうしても濡れる事になるから、次元が濡れてくれたんだろうけれど、逆に胸が締め付けられてどうしようも出来ない。
次元は「気にすんな」なんて言ってるけれど、気にするなと言うほうが難しくて私は鞄から白いタオルを取り出して、次元の肩に不器用に置いた。
次元はそうとう驚いた顔をして「何、してんだ?」と尋ねてきたので、「こうした方が濡れるのまだマシかなって……」咄嗟に俯いた。
迷惑だったかな。そう思っていたら、次元が「ありがとよ」と礼を述べたの事に気が付いた。
どうして傘を貸してくれようとしたのかと後日尋ねると、「ルパンが『同じクラスだろ、貸してあげなさい! 次元ちゃん!』と言ってきたからよ」と返ってきた。
どこかでルパン三世と話しでもしていたのだろうか、私が教室に居た事はルパン三世には知られていたみたいだった。
次元と話すようになって少しずつ分かった事がある。
勝手に苦手意識を持っていたのだけれど、実際話してみると面白かったりする。声を掛ければ返事はしてくれるし、尋ねたら次元なりの答えが返ってくるので苦手意識はすぐになくなった。
次元から話しかけてくることはないに等しいのだけれど、ごくたまに「ペン貸してくれ」と言われる。
「次元! 聞いて聞いて! 今日の天気予報が土砂降りの雨らしいよ! こんな晴天なのに!」
朝、学校に来て一番にする事は教室に次元が居れば、次元に話し掛ける。次元が居ない時は何もせずに机に伏せるだけなのだけれど。
今日は居たので話しかける。朝見た、天気予報を伝えてみた。
「お前さんが傘持って来てたら雨は降らねぇな」
「それどういう事!?」
そんなくだらない内容を休み時間中喋っているのだった。
そして、やってきたルパン三世に「彼女なの!?」と尋ねられて、次元が「あぁ。つい最近出来たな」と冗談で返していた。
彼女ではない。けれど、いつかなりたいとは思っている事は、その時は知らせないでいた。
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