(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集

(アニメ/マンガ)BL・GL・NL(オリジナル) 小説集

ブラック  2014-10-18 07:11:51 
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オリジナルや、版権の小説を書くトピ。

小説の練習でもあるので、指摘やアドバイスを暮れたら嬉しいです。
小説集なのでジャンルは色々あると思います。
リクエストなどくれたら泣いて喜びます!
(あ、但し、他の方が不快になるようなリクエストは止めて下さいね)

荒しや成りすましがいたら教えてくれるとありがたいです。

更新のスピードは遅くなるかもしれませんが、必ず更新します!!

では、まずはリクエスト募集です!
スレ番号5まで上げてもリクエストが無ければ、書いて行きますね!!

・版権
(K/カゲプロ/デュラララ!!/リボーン/ボカロ/妖狐×僕SS/とあるシリーズ(アニメに出てくるキャラのみ))
版権で書けるのはこのぐらいです。
後々他の作品も書けるようにしていこうと思います。

・オリジナル
(兄弟、姉妹、兄妹(姉弟)系、学園系、擬人化系)
上のを得意としています。
最近では刑事ものを書こうと思っています。

版権、オリジナルの合作でも良いですよ!

取り合えず、版権かオリジナルまたは合作の中から選んでジャンル(学園系など)を選び、CPなどを書いてください。

リクエスト書き方(参考にしてください)

・版権
(カゲプロ)
・メカクシ団の学園もの
・カノキド(NL)

こんな風に書いてくれたら見やすいかな、と思います。

ではリクエスト募集中!

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  • No.21 by ブラック  2015-02-21 17:29:56 

バレンタイン(ルパン三世2nd/オリキャラ) 


2月14日土曜日。
日本は「バレンタイン」で大騒ぎしていた。

 **

「全く、朝5時に呼び出すなよ……」

 はぁ、と溜息を吐きながら歩く少年――六条道恋也はブレザーのポケットに手を突っ込む。
ブレザーが暖かいというわけではないが、羽織る物がないと言うわけでもなく、たまたま手前、つまりは近くにあったのがブレザーという事だ。
 コートを出す事に面倒臭さを感じた恋也は、ハンガーに掛けていたブレザーを手に取り、クリーム色の長袖シャツの上に羽織った。

 ブレザーの色は赤色、ではなく紅色。
どこかのモンキーを連想させる色に、今は感謝している恋也だった。

 恋也の通っている高校は、一言で言ってしまえば名門高校で私立である。

 これは私の偏見に近いものだが、私立は公立よりも制服は凝っていると思っている。

 さて話を戻そう。
取り合えず家から出た恋也は、半ズボンを穿いていたことに後悔するも軽く舌を打ち、家に戻る事もせずにそのまま歩き出す。
 真夏に穿くような薄着で綿で出来た半ズボンを穿き、靴はサンダルで、上はクリーム色こちらも同じく綿で出来ており、その上に学校のブレザーと言うバランスが悪すぎる服装で、午前5時に目的の場所まで向かう事になる。

「……はぁ」

 本日、といってもこの時間帯だけで何回の溜息を吐いただろう。
恋也は欠伸をしながら空を見上げる。
 周りは真っ暗で、自分の吐いた息だけが白く水蒸気となって空に舞っていく。
その光景を見つめながらも、恋也はゆっくりと視線を戻す。

ヴーヴー。

 不意に端末が震える。
人がいないかを確認してから、通話ボタンを押した恋也は端末を耳に当てる。

『よぉ、恋也ちゃん。目的の場所には辿り着けたかなぁ?』

 からかうような声で電話の向こう側の相手は、語りかけてきた。
恋也は溜息を再び吐いて、自分の後ろにいる相手に言葉を投げる。

「こんな朝早くから呼び出さなくても良いだろ……ルパン三世」

 ルパン三世、そう呼ばれた男は携帯の電源を切って、恋也の傍に近付く。
ゆっくりと、後ろを振り向かせないように、近付いて、後ろからそっと抱きしめる。

「会いたかったぜ。俺が居なくて夜寝れなかったろ?」

 抱きしめられた事に驚きを隠せないで居る恋也は、頬を赤らめながら端末を仕舞う。
恋也の周りはただの公園で、目の前に自販機があるだけで、それ以外は至って普通である。

「……離せって、誰かに見られたらどうするんだ」

 さっき人が居ないのを確認したくせに、と返されると真っ赤になりながらも俯いてルパンの顔を見ようとはしない。
 ルパンはイタリアに仕事で、恋也は日本に残って学業をしていた。
 今日がバレンタインと言うのは、恋也もルパンも知っていた。

 だから、つい何時間前に仕事が終ったので、そのまま日本に帰ってきながら恋也を呼び出した。
 イタリアと日本では時差が違うので、日本刻は午前5時という時間になってしまったのだが。

「俺仕事で疲れてるから、今日は恋也ちゃんの家に泊まらせて」

 猫が飼い主に頭を擦り付けるように、ルパンは恋也を抱きしめながら呟けば、まさかそんな事を言われるとは思っていなかった恋也は一瞬で汗を流し始めた。

 当然である。

 自分と似ている兄が居る家に、想い人を家に招きいれるなど、出来る訳が無い。
容姿も似ていれば、兄に何も勝てない恋也は、それを知られたくないのか、恋也は頷く事が出来ないで居る。

 仕事で疲れているかどうかは分からないが、もし自分が断ってしまったら、どうするのか分からない。
だから泊めてやりたいとは思っている。

「兄、居てるけど……それでも大丈夫なら……」

 結局、自分が一緒に居たいので、恋也は遠慮気味にルパンに尋ねた。

 ルパンは問題なしのようで、了承すれば両腕を離して、恋也から離れた。

 午前5時の中央公園での出来事だった。

 **

 恋也の家の前まで来れば、汗を流している恋也をルパンは無言で見続けて、エレベーターが止まって、ドアが開き、ゆっくりと廊下を歩いている。

 一番奥の部屋で生活をしており、真っ暗なはずだった部屋には明かりが点いている。
一瞬で血の気が引いていくのと同時に、身体に力が入らなくなっていく。
 ドアの目の前にやってくれば、深呼吸をして「取り合えず入れよ」とルパンに笑みを浮かべながら言って、ドアを開いた――その刹那。

「てめぇ……、偉くはえー時間に遊びに行くようになったなぁ」

 ドアの目の間に立っていた兄に待ち伏せされていたのか、第一声から怒気を含んだ声で恋也の兄、りとは恋也を睨みつけながら言葉を放った。

「呼ばれたら、向かっただけで……、夜遊びとかじゃないって……」

 恋也の反論などどうでもいいのか、りとは恋也の胸倉を掴んで、そのまま地面にボールを叩き付けるように、恋也を叩きつけた。

 間一髪のところで、受身を取った恋也は頭を打つ事はなく、だけどその場から動こうとはしない。

「おいおい、ちょっとばっかしやりすぎってもんだろ」

 ルパンが見ていられないと感じたのか、りとの手首を掴んで真剣と言える顔で述べた。

「触んなよ、つかアンタ誰……え?」

 きっとりとも予想していなかったのだろう。
急に部屋から出て行った弟が有名人を連れてくるとは、予想できなかった。

 ルパン三世が目の前にいると分かったりとは、笑みを引きつらせながらも「まぁ、受身取れるようにしてたから、まだマシな方だ」と恋也を見ながら言い、恋也に立つように言って、何が起きているのかと説明を求めた。

 りとの手首は離され、ルパンと恋也とりとはリビングで何があったのかを話し、りとは溜息を吐くだけだった。

「だったらメモぐれぇ残していけって……」
「悪いって……」

 恋也はぎこちない笑みを浮かべつつ、3人テーブルを囲み、恋也から見て右にルパン、左にりとでイスに腰掛けて、話していた。

「まさか、ルパン三世が居るとは誰も思わねぇよ。ビビった」

 一瞬、強盗に来たのか、と思ったがそういう訳ではなかったことにりとは安心し、一息つきながらコーヒーを飲み、マグカップを置いて「恋也の兄のりとだ。さっきは悪かったな、いきなり変なの見せ付けて」とルパンに挨拶をした。
 いつもあんな感じじゃねぇんだけど、と付け足しつつも口元を軽く上げて、社交辞令の笑みを浮かべた。

「いきなりだったから驚いたぜ」

 ルパンは肩を竦めながら上記を言い、恋也を横目で見る。
特に何もしていなかった恋也は、何故見られたのか分からずに居て「どうした?」と尋ねるが、取ルパンも何か意味があった訳ではない。
 なので、すぐに視線を逸らす。

「取り合えず俺は学校だから、恋也は今日休むのか?」
「今日って土曜じゃなかった?」
「進路関係だ」

 背もたれに凭れながら恋也はりとを見つめて、そういえば2年は進路関係もあって土曜も学校に行かないといけなかったな、と思い出す。
 まだ1年の恋也にはあまり関係がないが、校内1位のりとは色々と面倒なことが起きている。

「落とせば良かったのに、テストの点くらい、すぐに取り戻せるのに」

 恋也の呟きにりとは得意げに微笑みながら「校内2位のお前に抜かされたくはねぇんでな」と呟いた。
イスから立ち上がって部屋から出ていったりとを見送って、恋也はルパンを見つめる。

「そんなに疲れていたんだったら、最初から言えって」

 頬杖を付きながら目を閉じて、寝息を立てているのを見て、恋也は呆れた表情をしながらぽつりと呟く。

「ルパン、寝るなら、俺のベッド使えって」

 ルパンの肩を軽く揺すりながら、自分のベッドに移動させようとする。
だが、余程疲れていたのか、ルパンは起きる様子もなく寝息を立てていた。
 ガチャリ、とドアが開き、制服姿のりとが姿を現して、中々起きないと理解したのは早くて、無理矢理と言って良いほどルパンの腕を引っ張った。

 そのまま抱えるようにして、1番近い恋也のベッドに連れて行き「じゃ、行ってくるからな」と言い、学校に向かった。

 **

 恋也はベッドの縁に座りながら、自分のハンガーにルパンのジャケットを掛けている。
 カン、と木製のハンガーにワルサーが当たった音がして、ワルサーを取り出してみた。
 長い間使われているワルサーを見つめては、元に戻し、ハンガー掛けにハンガーを掛けた。

「……おやすみ」

 一言呟いて、恋也は立ち上がってブレザーのポケットの中から、抱きつかれた時に入れられた掌に乗るサイズのチョコを取り出した。
 恐らくコンビニで買っただろうと思われる、チョコに苦笑いしつつも紙を剥がして口に含んだ。

 見た目がチロルチョコで、実際はウイスキーボンボンだったというのは食べてすぐに気が付いた。

  • No.22 by ブラック  2015-02-21 17:44:09 

補助色(ルパン三世2nd/LUPIN The Third~峰不二子という女~/オリキャラ)


 補助色とは青や黄色、赤や緑などと言った色の円形の反対側にある色のことである。

 **

「悪いな……」
「もう喋るな」

 赤ジャケットを羽織った男――ルパン三世は、目の前で横たわる、正確に言えばベッドで横になっているまだ未成年の少年を見つめる。
 この少年、16歳という年齢で裏社会に入り、ルパンと同じ盗みを働いている。

「運がないのか、自分が情けないな」

 ぽつり、と自分が前まで使っていた布団ではない、明らかに素材も何もかも違うであろう布団を被りながら呟いた。
 立場が立場故、物に対するこだわりなどあってはならないと考えている少年は、使える、着れる、寝れるだけでも有り難い事だと思っている。

 そんな考えより優先すべき事は、一週間前程に出した予告状のことだ。
 ルパンは予告状を出したのだが、少年がルパンと共に行った初仕事で、ミスをしたわけではないが現役高校生が使う体力・精神力を大幅に超えた為、体調を崩し昨夜から熱を出すというオチに至ったのだ。
 ちなみに少年の初仕事は一昨日である。

「予告状、確か今日だったな……」

 ギシッ、広くも狭くもない少年の部屋にベッドから起きあがる音が響いた。
目の前で起きようとしていた少年にルパンは、いつもより真面目な顔つきで「熱ある時ぐらい休めって」と声をかけた。

 ルパンの言ったことは正論である。
熱があるなら休め。
 当たり前のことだが、この少年にしてみれば当たり前ではない。

「ただの熱で寝てられるか」

 意地でも起きようと少年は体を起こす。
その表情は『起きないといけない』と言っているようなものだ。

「無理して倒れてみろ、自分の命がもたねぇぜ」

 少年は何も言えず再びベッドに横になる。
 濃い青色別名藍色の布団は普段少年が使っているものとは違うが、どこか嫌いになれない感覚がしつつも、枕に顔を埋めた。

 ルパンの説得が良かったのか、ただ起きるのに疲れたのか、少年はそれきり起きる気配もなく、布団を被り横になっていた。

「――悪い」

 誰に向けたなど聞くまでもなく、ルパンに向けて放ったものだろう。
表情などルパンに背を向けているため、ルパンも分かるわけもなく、何に対して謝罪をしているのかを理解する。

 ルパンは気にするなと言うが、少年は布団に被り首を振って寒さに耐えるようにしていた。

「……時間」

 カチッと時計の針が動く音が聞こえたと同時に、少年が口を開く。

「そうだな。じゃ、行ってくるぜ」

 少年の気を和らげるようにおちゃらけて言ったルパン。
折り曲げていた脚を伸ばして立ち上がり、右手を振りながら少年の部屋から立ち去っていった。

 **

 ルパンが部屋から出ていって約10分が経つ。
 ギィィと木製のドアが開く音が聞こえて、少年は伏せていた目を開けて、音のした方に目を向ける。
 少年のドアが開かれた訳ではなく、恐らく玄関が開かれたのだろうと考えた。
ドアは閉まり、コツコツと誰かが歩いている音がアジト内に響く。
 遠くから響いている足音は、次第に大きくなって、自室の前で止まる。
 ヤバイ、そう思うと熱で出ている以上の汗が額から流れ出した。

 誰かがそこに居る。
そう思うと少年は身を強ばらせて、ベッド付近に置いてある棚からナイフを取り出した。
 取り出したナイフを背中に隠して、無理矢理にでも上半身を起こす。

「……誰だ?」

 普段より低い声でドアの向こうに問いかける。
 少年の部屋の前にいる緑のジャケットを着た男は、ドアノブを握ってゆっくりと、回した。

「ル、パン……?」

 少年の目の前にいたのは先ほど部屋から去って行ったはずの、ルパン三世だった。

 だが、顔つきなどは全く別である。
どちらかというと顔つきは大人になっている。

「真っ赤な顔になって熱か?」

 緑のジャケットを羽織ったルパンは少年に問いかけた。
少年は背中に隠したナイフをズボンの後ろ側に挟み、両手で布団を握った。
 その動きが不自然に見えたルパンは、後ろ手でドアを閉め、少年が被っている布団を剥ぐ。
 少年の服はクリーム色の半袖、黒の半ズボンを身に纏って、全体的に汗で濡れている。

「なっ、何すんだよ!」

 少年は急に布団を剥がれ、自分の服を剥がれた気分になり、羞恥で顔を赤く染めた。

「こんなモン持って……」

 ルパンは少年の背中に手を伸ばし、ズボンに挟んであるナイフを取り出した。
少年は奪われたナイフを取り返そうとするが、ルパンと少年の身長差は6cm。
 立っているのと座っているのでは、6cmでも条件が違う。

「子供がこんなの持ってたら危ないぜ?」

 ナイフを握りながら少年に告げる。
 少年はおびえる事なくルパンを見つめる。
 たったの数秒。

 その数秒の間に少年はベッドから飛び起きて、棚に置いてあるスタンガンを手に取り、ルパンに向けて電気を放つ。

「へぇ……中々やるじゃねぇか」

 ルパンの呟きなど聞きもしないで放電を繰り返すスタンガンだが、熱のためか少年はぐらりとバランスを崩し、まるで木が伐られた時と同じように、ルパンの胸に倒れていった。

「おっと」

 急に倒れてきた少年を支えたルパンは、少年の顔色を確認し、やはり熱がある事に確信した。

 少年は急に動いた為か、息づかいも荒くなり、目を閉じながら無意識だろう、ルパンのジャケットを掴んでいる。

 ルパンはそっと少年を姫抱きし、ベッドに横にして自分はベッドに腰掛ける。
木製のベッドがギシッと音を立てて、少年とルパンの体重を支えている。

「全く、こんな状態になりやがって……」

 少年に対してルパンは呆れながら呟いたのだった。

「ルパン……、悪い……」

 ルパンは何に対して謝罪しているのか分からないでいるが、何故少年が謝罪しているのかはまた次の話。

  • No.23 by ブラック  2015-02-21 17:45:01 

「寒い」に隠された(ルパン三世/オリキャラ)


「だーかーらー、寒いから嫌だって言ってるだろ」

 先ほどからこの調子である。
 布団を頭まで被った恋也とベッドに腰掛けるルパン。
この画だけを見れば、恋也を看病するルパン、と見ることも出来るのだが、実際のところはルパンが恋也に『良いじゃないの』とか『すぐに暖かくなるって』などを言っている。

「寒い」

 何故こんなにも恋也は嫌がるのか、ルパンはそう思いながらもため息を吐いた。
 赤いジャケットの懐からマッチを取り出して、煙草に火をつける。
電気をつけていない為、薄暗い部屋に煙草の煙が白く良く見える。

 恋也は紺色の掛け布団を頭まで被り、目の前の壁を見つめた。
 壁はやっぱり壁で暖かくなるわけも無いので、恋也は溜息を吐きルパンの方に向く事はせず、ただぼんやりと布団の中で、丸くなっていた。

「……そんなに俺とするのが嫌か?」

 ルパンが不意に問いかける。
 その瞬間、先ほどから少し赤く染まっていた恋也の頬が一気に赤くなる。
理解すれば誰だって赤く染まるだろう。
 例え何度も体を重ねあっても、恥ずかしいものには変わらない。
 だからと言って嘘を言うほど、恋也は嘘吐きではない。
実際、恋也の体は、凍えそうなほど震えている。

「嫌って言うより、今日は本当に寒いからまた今度で良いだろ」

 ヘクシッ、言葉を言い終えた直後、布団の中からくしゃみが聞こえた。
当然恋也が放ったものなので、大体予測がつくと思う。
 恋也がどんな状態なのか、この時点で気が付けばかなり観察力があると思う。

 恋也はただ普通に寒いと言っているわけではない。
ルパンはいつものジャケットだけでいるのに、恋也は寒いと言って布団から出ない。
 朝食も食べなかったので、ルパンと次元と五右衛門は恋也の様子を不思議に思った。
ルパンが様子を見に行くと言って恋也の部屋に来れば、ルパンの第一声が『また啼きたいのか?』と冗談で尋ねた。
 それを間に受けた恋也は冒頭のような返事をして、お互いその先から進んでいないのだ。

 ただの風邪と言い切って良いだろう。
恋也は今朝方から熱を出している。
 本当にそれだけの事だ。

「くしゃみなんかしちゃって、よっぽど熱があるみたいだな」
「おまっ! 知ってたな……!」

 自分が熱を出しているのを見破られており、恋也は怒りを含めながら上半身だけを起し、ルパンに怒鳴る。
 だが、その怒鳴りは意味もなく散っていくのだが。
 恋也は体力が落ち、まともに体を動かす事が出来ないでいるため、そのままベッドに沈む。

「ヌフフフ。ルパン様は何でもお見通し」

 あっそ……、その返事だけをして恋也は目を閉じる。
寒さは変わらない。
 だから布団を被って、出来るだけ暖をとろうとしていれば、急に布団が剥がされた。
何事かと思ったが、何かに抱きつかれる感覚がし、身体を大きく震わせて、首だけを後ろにして振り返る。

「何してんだよ」

 後ろに居た男に問う。
ジャケットはその辺りに脱ぎ捨てられ、ネクタイも外されている。
 そして、同じ布団に入り、抱きしめれている。
 その状態に恋也はとてつもなく羞恥を覚え、顔を真っ赤に染める。

「これ以上の事してんのに、恥ずかしがるのか?」

 いつもの様にふざけて言うルパンに恋也は溜息を零しながらも、後ろから伝わる体温に身を委ねようとし、だけどルパンの方に寝返りを打ち、正面から抱きつくような体勢になる。

「……明日までには、治すから」

 そのセリフは前にも顔つきは違うが、同じ『ルパン』に言ったものと同じセリフだった。

  • No.24 by ブラック  2015-02-21 17:56:02 

大人の味には全て裏がある(LUPIN The Third~峰不二子という女~/オリキャラ/ルパン大集合続きA/R15)

 未遂でも実行でもない、何故か、酒を飲まされている。
 一瞬睡眠薬でも入っているのかと疑ったが、目の前で酒が注がれるのを見れば、薬など入っていないだろうと、脳が勝手に判断する。
 氷に薬が仕込まれているなど、考えもせずに。

 **

 あの後恋也は緑ジャケットのルパンに連れ去られて、少し狭さを感じるアジトで、何故だかグラスを片手に、酒が注がれている。
 冒頭で述べたように、睡眠薬でも入っているのか疑っていた恋也だが、全く同じ酒をルパンは自分のグラスに注いだ。
 何をしたいのか、恋也は理解に苦しんでいる。

「まぁ、1杯いこうや」

 ルパンは持っているグラスを軽く傾ける。
乾杯という事なのだろう、そう判断した恋也は腕を伸ばして目の前に置かれているグラスを手に取り、ルパンが持っているグラスに軽く当てる。

 カンッ、グラスが当たる音を確認してから、グラスの中に注がれている酒を見つめる。
 種類は何だろうか、恋也自身日本酒とビールとカクテルは飲めるが、ジンやウォッカ、ウイスキーやバーボンはまだ飲めない。
 酒自体飲めない年齢なのはこの際気にしないでおこう。

「ウイスキー、飲んだ事ねぇか?」

 ルパンは普段と変わりなくグラスに口をつけているが、恋也は全くグラスに口をつける素振りはなく、ただグラスの中身を見つめていた。
 不思議に思ったルパンは恋也に問う。
 灯りなんてものは、裸電球だけで、昔の家の雰囲気など出ていたりするが、そんな事は気にも留めていなかった。
 ルパンの問いには素直に頷いたが、好きか嫌いかなんて飲んで見なければ分からない。
だから恋也はグラスに口をつけた。

 そのまま、薬9割、水1割で作られた氷が溶けて、ウイスキーの中に薬が混ざっているとも知らずに、恋也はゴクリと喉を鳴らしながらウイスキーを口にする。

 その時のルパンの表情なんて誰でも想像できるぐらい簡単なものだった。
 口角を上げ、罠に掛かった鼠でも見るような顔で恋也を見つめながら、ウイスキーを飲むのを続けていた。
 恋也にとって初めてのウイスキーは、何とも言えない味で、ただアルコール度数が高いというのが良く分かったぐらいだ。

「けほっ、けほっ」

 あまりにもアルコールがきつかったのか、蒸せており、口元に手を当てながらも荒い息を整えようとしていたのだ。
 その様子をルパンは笑みを作りながら見つめて、何も言わずにただグラスを口に持っていく。

「……で、初めての味はどうだ?」

 カラン、氷がグラスに当たる音がし、グラスがデスクに置かれた事が分かる。
グラスの傍にはまだ幼い手がある為恋也がグラスを置いた。

「初めての味って言われてもなぁ……」

 若干返事に迷っているが正直に言ってしまえば、『大人の味』で、不味いという訳ではなかった。
 初めて飲んだから蒸せただけで、普段飲んでいれば飲めるだろうと言う、どこから来るのか分からない自信を恋也は持っていた。
 使い古したような緑、正確には所々破れている深緑に近いソファに身体を預けて、天井を見つめながら恋也はぽつり、一言何気ない言葉を呟いた。

「ルパンと飲んでて美味そうな味だった」

 それは単に酒を飲んでいたいと思っている。
同じ裏世界に住んでいるのだから、同じ酒も同じように感じられるだろう。
 そう思ったから、ただそう呟いた。

「…………」

 ルパンの上がっていた口元は下がっていた。
 ルパンの目に恋也はどこか寂しそうな表情を浮かべている。
 動物で表すと兎のような、今から捨てられる猫や犬みたいな表情をしていた。

「合わせてくれるだけでも、有り難いってもんよ」

 組んでいた脚を下ろして、ルパンはグラスを片手に立ち上がり恋也の隣に腰掛ける。
恋也の肩に腕を回して半分抱きしめるような体勢になり、ゆっくりと右手を恋也の目の前に持っていき、恋也の前で右手に持っているグラスを、ほんの少しだけ傾けた。
 氷を見せ付けるかの様に。

「合わせてるって訳じゃ……」

 目を逸らしながら呟いて、目の前に持ってこられたグラスを見つめ、球体の氷を見つめている。
 カラン、カラン、と氷が音を立ててグラスに当たっているのを、ただぼんやりと眺めていた。
 いや、ぼんやりとしか出来なかった。

 はぁ、はぁ、と息遣いを荒くしてとろんとした目で、氷を見つめていた。

 それが分かるとルパンは肩を揺らしながら笑い、口を動かす。

「この酒じゃなく、この氷に『何か』が入っていたら、どうする?」

 球体の氷に薬を仕込むのは簡単で、それを飲ませるのも簡単なことだ。
ただ、自分が薬入りの氷を取らなければ良いだけの話だ。
 ルパンの問いすら答えることが出来なくなってきているのか、恋也はトロンとした目でルパンを見つめて、「……うん」と意味も分からない、何に肯定したのか分からない返事を返した。

 どこか眠たそうな雰囲気を放っている恋也にルパンは、変わりの無い笑みを浮かべつつ、グラスをデスクに置き、右手で恋也の顎を摘まんだ。

 そのままゆっくりと顔を近づけていき、そのまま軽く恋也の唇に振れた。

 まだ16歳にもならない少年の唇は、女と全くではないが、確かに未成年と言う柔らかさを持っており、先ほど口につけたウイスキーの味が微かに残っていた。

「……? なっ!」

 かあぁと音が出るぐらいに恋也の頬は赤くなっていき、薬の効き目で眠たくなっていたようだが、自分がされたことを理解した途端に、目は覚めていき次第には耳まで真っ赤にさせている。

 それもそうだろう。
 酒を飲まされて、気が付いたら自分よりも遥に年齢が上の怪盗に、しかも同性にキスをされた。
そんな事、誰も考えないし予想もつかないだろう。

「……欲求が溜まってるなら、女抱けよ」

 文句の様に呟いた言葉は、いつもの様に軽く受け流され溜息を吐きながらもまだ信じられない恋也は、ソファの背凭れに身体を預け、吐息を吐き出した。
 水でも欲しいのだが、生憎目の前にあるのはウイスキーなので、渋々と言って良いほど、グラスを手に取り、ウイスキーを口に流し込んだ。

「こうやって、お前を口説くのを楽しみにしてたんだぜ?」
「何をバカな事を……」

 はぁ、ともう一度溜息を吐いた恋也には関係がないようにルパンは背凭れの後ろに手を回して、天井を見上げつつ「人生で1番恐いものは『退屈』、だろ?」と、確認するように尋ねた。
 その問いに答えようとはせず、グラスを置き暫くお互い沈黙が続く中、本日何度目かのカラン、という音を聞き、ルパンの顔を見ることはせず「俺を抱いたら退屈じゃなくなる、とでも?」何て、聞き返す。

「やってみねぇと、分からない事もあるんだぜ」

 試すような、誘うような口調で恋也の口元にルパンは手を置き、そのまま再び顔近づけていき、そっと唇を合わせようとした途端、恋也はルパンの首に腕を回し「『媚薬』なんて使わなくても、俺をこういう風に出来ただろ」と、呟いては自分から後ろに倒れた。
 ソファの上で押し倒されているように見える恋也は、気にすることもなく、ルパンの背中に腕を回して「俺、アンタだったら喰われても良いんだぜ」と告げた。

 恋也の告げに乗ったのか、初めからその気でいたのかはルパンにしか分かるわけもなく、ルパンは黙ったまま恋也の顔の右側を優しく撫で、顔を軽く押さえながら、恋也にキスを行った。

 子供のキスではない、大人のキスを行い、恋也は喉の奥から喘ぎ声を出し、その頬を朱に染めていく。

「あっ……」

 一度触れた唇は離れることなく、そこにいて、ゆっくりと舌が侵入されれば、ぴくりと身体を震わせ、口内を好き放題にされて恋也は背中に回した手で、ルパンのジャケットを強く握る。
 シワが出来るほど強く握っていても今の快楽には負けるのか、次第に力が抜けてきて、そのまま熱い息だけを吐き続けながらも、ルパンの舌を受け入れている。

――やばっ……。

 意識が飛びそう、そう思った瞬間に唇が離れて、恋也の意識は飛ばないままでいる。

「ここじゃぁ、辛いだけだろ? あっちで続きやろうぜ」

 ルパンは目だけで場所を伝えて、恋也のほぼ力が抜けている身体を抱き上げた。

 **

カチャ、カチャ。

 身体が跳ねる度に聞こえてくる、金属が揺れる音を聞きながら、ルパンは口角を上げる。
何度も金属の音を出しながら、自分を求める少年が愛しくて仕方が無い。
 自分でもどうしてそう思ったのかは分からないが、いつの間にか、目の前の少年――恋也を欲するようになった。

 いつか自分のものにしたい、そう思ってしまったからなのか、ルパンは恋也から目が離せないでいた。

 あの日、初めて出会った時に感じた『何か』はきっと手に入れてから分かるんだろうと、ルパン自身も思っているのだが、未だにその『何か』は分かりきっていない。
 恋也には「手に入れたかったから」と伝えているのだが、正直な所、手に入れたいという思いもあったが、知りたいという気持ちの方がルパンは強かった。

 何がそうさせるのか、どうしてそう思わせるのか、ルパンはそれを知りたかった。

 だから、抱けばそれが分かるだろうと勝手に思ったのだ。

「可愛いぜ」

 ルパンの呟きが聞こえているのか否か、恋也は頷きながらも続きを求めている。
 それに応えようとルパンは動きを早めていき、恋也は声を発しながら達する。

 達した後も恋也は熱い息を吐き続け、そして一言「覚えておけ」と呟いた、

 **

 あの後、恋也は意識を失って今朝方目が覚めた。
 腰痛が酷いが気にしている暇もないぐらいに羞恥が襲い、布団おそらく普段ルパンが使っているものであろう、をもう一度被ってシーツに顔を埋める。

 隣に人肌はなく、肌寒さを覚えつつ、寝返りを打って壁側に向く。

 壁は壁でしかなく、何度溜息を吐いても変化は訪れないので、一度体を起す。
 すると目の前に映った光景は自分の服が散乱しており、昨夜自分が何をしたのかと言うのを、突きつけられているような気分になる。

 薬を盛られていたとしても、乗ったのは自己責任だ。

「マジか……」

 はぁ、と溜息混じりに呟き床に散乱している服を広い、フローリングの床を裸足で降りて昨日着ていた服をもう一度着なおす。
 何も着ないよりマシだろう。

 どんな顔をして会えば良いのかと悩んでいると、ガチャリと風呂場のドアが開く音が僅かに聞こえた。
 対して広くもないこのアジトの音は、大体聞こえてきて、今どこに誰が居るぐらいは検討がつきやすい。

 数分経った頃に脱衣所のドアが開く音がしつつも、足から伝わる冷たい温度を感じながら、ゆっくりと部屋から出て、脱衣所に向かう。

「起したか?」
「いや、いつもこの時間帯に起きる」

 誰かに起されたわけでもないので、正直に答えつつ、恋也は脱衣所のドアノブを手にした。
そのまま右に回して中に入り、シャワーを浴びていた。

 腰の痛みは治らない。

 **

「腰、痛むか?」

 脱衣所から出て開口一番に尋ねられた事に、頬を赤く染めつつ意地で首を横に振った。
確かに初めてと言うわけではない。
 けれど、自分の意識が飛ぶぐらいまで弄られたことがないため、腰痛等には無縁だったので、重い腰を持ち上げるように伸びをしたのがいけなかったのだろう、すぐに腰を痛めてると目の間にいるルパンに見破られ、リビングとはいえないが、昨日酒を飲んだソファに抱えられて、連れて行かれた。

「何、するんだよ……」

 そう言うも答える素振りを見せないまま、ルパンはソファに腰掛け、恋也を自分の脚の上に座らせた。

「言っただろ? 口説くのを楽しみにしていたって」

 恋也の耳元でそう囁いては、そのまま続けるように告げた。

「大人の味には裏があるって思えよ」

 ルパンはまだ、恋也を欲していた理由は分からない。
 恋也はというと頬を染めつつ「覚えてろ」としか言わなかった。

  • No.25 by ブラック  2015-02-22 21:46:44 

リクエストなどお待ちしております!

  • No.26 by ブラック  2015-02-22 22:28:54 

あとがきでも書こうと思いましたので、書かせていただきます。

どうせなら1つ1つ丁寧に書いていきたいですね。

まず1つ目。

元にした作品「妖狐×僕SS」
CP「御狐神 双熾&青鬼院 蜻蛉」
趣向「ギャグ甘」
恋愛要素「有:BL」

この作品はアニメ「妖狐×僕SS」を元にした作品です。
主人公は白鬼院凜々蝶(しらきいんりりちよ)という可愛らしい高校生の女の子(ツンシュン)とSS(シークレットサービス)の御狐神双熾(みけつかみそうし)君の近くなったり、遠くなったりする恋愛のお話です。
※登場人物はほぼ妖怪という設定です。


さて、妖狐×僕SSの中に登場する「御狐神双熾」と「青鬼院蜻蛉(しょうきいんかげろう)」、2人の物語をリクエストしてくださったので、この2人の話を書きました。
内容はギャグ甘だったので、言葉のやり取りにギャグ要素が入っているような気はします。
(ギャグを書くのは初めてで……)

まず、蜻蛉が双熾を呼び出すところですね。
どういう風に呼び出そうかと悩みました(笑)
廊下でばったり出会わすのか、とか色々考えた挙句、ドアを開けてやってきました(笑)

基本的に心情メインになっています。

もっと背景描写が上手くなれば良いのに……。

初めは双熾か蜻蛉、どちらから告白をさせようかと悩みましたが、双熾は凜々蝶に夢中だろうなので、蜻蛉が告白をして、気が少し蜻蛉に向いた、という風に終らせました。

基本的に蜻蛉は「Sだ!」と言っていますが、ただ単に双熾がぐさっとくるセリフを言うのでSだSだと言っております。

蜻蛉が双熾を好きになった理由は蜻蛉のセリフ通りです。
蜻蛉にしか見せない態度の双熾が好きになったのです。

双熾の嘘にも軽く乗ってくれる蜻蛉はとても優しいお方です。

  • No.27 by ブラック  2015-02-23 01:31:31 

二つ目。

とある家のとある風景

元にした作品「ルパン三世&名探偵コナン」
CP「無」
趣向「コメディ」
恋愛要素「無」

だれもが知っているであろう作品ルパンとコナンです。
+オリキャラという完全に二次創作になれていない感が満載です。

さてさて、ただのコメディなのですが、まぁ。
基本ルパン三世のノリで書かせていただきました。
熱がある主人公(オリキャラ)の代わりにルパンが変装して学校に行くと言って、嫌だと言っている主人公との喧嘩から始まり、コナン君が次元に尋ねるも、次元は他人事の様にしており、と言ったルパン三世の赤ジャケの雰囲気で書かせて頂きました。

書いてて思うのはルパンの口調が難しいですね。
何をどういうのかさっぱり理解出来ないというか、どこに小さい「ぁ」がついて、どんな時に「なぁに」が「何」に変わるのか、というのに結構悩まされます(笑)

少しネタバレと言うか裏話。

「騙しは俺の特権で、指輪みたいなもんだ」と言うセリフ。
実はルパンの「裏切りは女のアクセサリーみたいなもんさ」というセリフを参考にして作ったものなんです。

意味としては「人を騙すという事は自分の唯一の武器で、指輪みたいに小さい物なんだ」という意味です。
だから何だ、と言う話なんですが……。

ルパンとコナンと主人公が同居するようになった理由も書いてある通りなんですけど、元はこの三組が同居したら絶対ドタバタしてるな、と思ったことから始まった話です。
そろそろ第二作目を作ろうか悩み中です。

第二作目を作るとしたらどんな話を作ろうか悩みますね。
朝起きて冷蔵庫を開けたらプリンが無くなっていた!っていう定番とかありそうですね。

他には学力テストを行っていたりすると面白そうですね。

最後になりますが、主人公がルパンに「タコ」という単語を使っているのは8割ぐらいルパンに対して「脅し」ですね。
ルパンが肩を竦めたりすると主人公は勝ったと思っています。

  • No.28 by 匿名  2015-02-23 14:16:28 

赤ルパンや不二子ちゃんをやさせて頂いている者です!!
いやぁ>24の雰囲気がなんとも妖しくて、読んでいてドキドキしちゃいました!笑
不二子トピでおっしゃっていた、氷に薬を仕込むの良いですね。
このお話みたいなことを、あっちでもできたらなぁと考えてます!
残念ながらワインじゃ氷入れないのですが;

  • No.29 by 八代目やしろ  2015-02-23 18:53:41 

久々の更新、
嬉しいです(*^^*)

執筆背景も聞かせて頂け
読者としては
一粒で二度、美味しいという
お得な心持ちですw

新作にも期待しています..*

  • No.30 by ブラック  2015-02-24 04:01:34 

あとがき。

三つ目。

「大人の味には全て裏がある」

元にした作品「LUPIN The Third~峰不二子という女~」
CP「ルパン三世/六条道恋也(オリキャラ)」
趣向「シリアス/大人の世界」
恋愛要素「有:ML」

少し飛ばしてこの話のあとがきです。

コメディ、ギャグときたのでシリアスのあとがきでも良いかなと思いました。
この話は基本元にした作品のイメージと言うか、雰囲気で書かせて頂きました。

峰不二子という女は作ったところ、絵柄、声優が違うので好きな人と嫌いな人に分かれるかと思います。
正直言って私も好きではありませんでした。(嫌いとは言いませんよ)
だって、絵柄違うし、なんかアダルトだし、ルパン顔違いすぎるし、何て子供みたいな事を思っていました。
それなのに何故私がこの作品を好きになったのかというと、ルパン三世の「青ジャケット」のTVシリーズが決まって、「あ、じゃぁ、峰不二子という女も見ておかないと」と思うようになりまして、けど中々手が伸びず、ユーチューブで発見した「次元大介の墓標」を見て、それにはまり、よく見ればこれ、峰不二子の絵柄と似てる、よし見よう!と思って見て、好きになったという流れです。
雰囲気、仕草、オーラがもう「大人の世界」って感じで好きになりました。

……と私の経緯はここまでにして。

ルパンの1番初めの作品で「口調が難しい」と述べた文ですが、今では理解してきたところがあります。
このルパンはこう言う。あのルパンはこう言う、という区別がつくようになってきました。

さてさて、いつもの如くネタバレなのか裏話か、作者がただの阿呆な話。

タイトルこそ「大人の味には全て裏がある」ですが、何となく想像できる方も多いでしょう。
似たような言葉がありましたね。
「うまい話には裏がある」これを元にタイトルを付けました。
取り合えず、裏があるというフレーズを付けたかったので、前文に何をつけるかは結構悩みましたねぇ。
「酒の味には」や「泥棒の話には」とか、「裏社会には」とか、それで落ち着いたのが「大人の味には」です。
恋也が本文で述べているように、ウイスキーを初めて飲み、ルパンに大人の味と伝えたので、そこからもお借りしてタイトル作成いたしました。
ちなみに作者はタイトルは後につける方です。

ルパンが薬でも仕込んでいるのでは、と思っていたら実は氷の中だったというのは元から考えていたので、困る事はありませんでしたが、酒の種類をバーボンにしようか、ジンにしようかと考えた挙句、ウイスキーになりました。

結果だけみるとルパンは恋也を抱く為に媚薬を使用したわけですが、実際そのシーンもあるわけですが、直接的な表現は無い為、R15とさせていただきました。
作者もそういう経験は無い故にマンガ等で身に着けた知識だけで書いたものです。
あまり期待はしないで下さい。

そしてR18は一切ありせん。あるとしたらグロテスクの方か、ホラー系かも知れません。
多分無いと思います。

ただこうやって1人でブツブツと呟いているのもどうかと思いますので、もしこの作品を読んでいる方がいらっしゃれば、このセリフの意味を知りたい。
ここはどういう感情?などの質問が御座いましたら気軽にコメントしてください。

今回の話はルパンが口説き、恋也が口説かれるという話でした。
逆バージョンも作ってみても良さそうですね。

  • No.31 by ブラック  2015-02-24 04:09:30 

温泉旅行(前編)


旅行、それは楽しいものであって決して兄弟で行くようなものではないだろう。
仲が特別に良いのなら問題はない――はずだ。
けれど俺と兄りとの兄弟仲を知る者はまず、目を見開いてありえないと言って驚くだろう。
俺とりとは、誰がどう見ても仲の悪い兄弟な為2人だけで旅行をするという事自体をしない。
何故俺とりとが旅行に行くことになったのかと言うと、大体一週間前に遡る。

**

一週間前の今日、俺の机にメモが置いてあった。
学校から帰って自室で電気をつけ、ベッドやクローゼットの位置が把握できると、赤いブレザーを脱ぎ、ハンガーに掛けてクローゼットの中に仕舞った。
宿題でもしようかと制服姿のまま、パソコンを置くように買っただけの勉強机にあるイスに腰掛けて空いているスペースに鞄を置けば黄銅色の机の隅っこに白いメモがポツンと置かれていた。
自分で置いた気はしなかったので、一緒に住んでいる誰かなんだろうと思いつつ、俺が見ている側では真っ白で、手にとって裏返してみると文字が書かれていた。

『来週の今日、中央駅に来い』

それだけが書かれていた。
今日は金曜日な為、来週も平日じゃないかと思い、机に置いてある小さな三角のカレンダーを見ると、来週の金曜日は創立記念日で学校が休みだと思い出す。
これを書いたのは字体的にりとだと判断出来るが何故、普段部屋にも入って来ない兄がメモを置いたのだろうと不思議で仕方なかった。

「中央駅、なんでまた……?」

何故、中央駅に行かないといけないのだろうと思いながら俺はそのメモをゴミ箱に捨てた。


次の日何故かりとが俺の部屋に来た。
いつもなら互いの部屋に一歩も入らないのに何故かは分からないが、りとが俺の部屋に入ってきた。
それも学校で隣のクラスに居る友人に声をかけるかのように。

「恋也ー」

ノックもせずにガチャリとドアノブを回して、俺の部屋に堂々と入ってきた。
表情は不機嫌でも上機嫌でもなく、いつもと同じでドアを閉めて俺のベッドに腰掛ける。
その動作を見ている俺は何度も別人ではないかとりとを疑う。
俺の兄はまず俺の部屋に入らないし俺のベッドにも腰掛けない、そんな奴なのに今日の兄はいつもの様子が全くない。
本当に兄なんだろうか、どこかのそっくりさんではないのだろうかと思っている間にもりとは俺の部屋を見渡している。

「なぁ……」

遠慮がちに声をかけた。
俺は勉強机にあるイスに腰掛けていたので、声をかけるとりとは俺の方に向いた。

「ん?」

短く首を傾げるりとが異常にしか見えなくて、思わず顔を逸らしてしまう。
顔を逸らせばしまった、と思い怒らせてしまっただろうと思いりとの方へ恐る恐る向いてみるとりとは全く気にしていない様子でいる。
俺にとって今のりとは不思議で仕方がない。

「あの、さ……」

これもまた遠慮がち。
いやいつも通りに会話しろと言われても今のりとは俺の知っているりとじゃない。
俺はりとの返事を待つことはなく続けた。

「中央駅に来いってメモ置いたの、お前だよな……?」

一言「違う」と俺は言って欲しかった――それは多分、建前であって本音じゃない。
ただ一言「んなわけねぇ」といつもの様に言って欲しいと100%思っていた――100%肯定して欲しかった。
そんなことを思っている俺とは真逆にりとは「何か、文句あんのかよ」と自分がメモを置いたと肯定していた。
俺の表情は何故かにやけてしまいそうだ。
実際は全く嬉しくもないのに――本当は嬉しいなんて気が付いてない。
俺はどうしたら良いのか分からないので、適当に頷いていた。

メモが置いてあった日から6日目。
特に変わりもなく1日が終ろうとしていた時に俺は、中央駅に来いと書かれたメモを再び勉強机の隅っこで見つける。
今度は俺が見ている側に『金曜朝6時貴重品持って中央駅に来い』と書かれていた。
最初から細かく書いていれば良いものをと1人で思いつつそのメモをゴミ箱に捨てる。

「朝6時って結構早いな」

溜息を吐き――少し高鳴っている鼓動には気付かぬふり。
俺は電気を消して、肌寒いと思いながら半そでと半ズボンで布団の中に入って目を閉じた。
完全に眠りについたのは午後11時半ぐらい。

**

そして次の日、俺は確かにアラームをセットするのを忘れていた。
目が覚めると何かが違うと思い、時計を確認すれば午前6時15分。
完全に遅刻。
目が覚めたのが15分、此処から中央駅まで徒歩で30分、自転車で信号待ちをした場合約10分取り合えずベッドから降りて服を着替え、貴重品(携帯や財布)をポケットに入れて階段を下り、お手洗いに行ってから洗面所に向かう。
櫛で髪を梳けば後ろで1つにまとめて顔を洗い、そのまま歯を磨く。
大体10分ぐらいで準備が出来て時計を見れば、6時25分。
不機嫌で待っているんだろうなとあまり良い気分にはなれないが、歩きながら髪をハーフアップにして部屋に着けば半そでの灰色の生地が薄いパーカーを羽織って玄関に向かい、靴を履いて外に出る。

暫く使っていなかった自転車を見つけても使う気にはなれなかったので、徒歩で向かう事にした。
イヤフォンを忘れたので音楽を聴きながら行けない事に気が付いても取りに帰ることはせず、ひたすら中央駅に向かう。
ドタキャンすれば良いのにと自分でも思ったが、後々面倒なので行くしかない。
ベージュ色のジーンズの膝裏部分に汗が滲んでいるのが歩いているのでよく分かる。
七部袖の白ワイシャツの肘部分でも同じよう汗が滲んでいる。
30分も遅刻しているのに電話がないというのが意外だ。
普通なら電話してくるだろうと思っていると信号が赤になったので立ち止まる。

急いでいたからなのか、街の景色を見てみると朝早くに外に出ないため、人の気配がしないことに気付く。
そりゃぁまだ7時にもなっていないので、学生も居ないだろうと思っていると信号が青になったので再び歩き出す。
気持ちは急いでる。

やっと中央駅に来れば、20歳ぐらいの男性や、高校生ぐらいの女の子2人、駅員にさっきとは違って人がたくさん居た。
やはり駅は人が多い。
そんな事を思っていると、自動切符売り場で見慣れた金髪が目に入り一瞬躊躇したがゆっくりと金髪の男の所まで歩いていく。

そして――「りと」と声をかける。

**

「……っで、遅刻した理由は?」

不機嫌だ、表情が不機嫌だと言っている。
確かに言われた時間より約1時間も遅れているのに上機嫌な訳がない。
りとの服装はいつもとあまり変わりがなく黒のスラックスに長袖の白シャツ、赤いカーディガンを腰に巻いていた。
何か異様を放っていると思っていたらピアスが無いことに気が付いて、異様の正体がすぐにわかった。
異様というより何故か修学旅行で使われるボストンバックを肩に掛けていた。
それ以外は変わったところはない。

「聞いてんのか?」

りとが睨みつけながら俺に尋ねる。
不機嫌なので変に言い訳をしない方が身の為なのは分かるが、正直に寝坊したなんて返答もしたいとは思わない。
寝坊したなんて言ったら多分、ホームから突き落とされるだろう。
それぐらい凶暴な奴だ、俺の兄は。

「えっと、ごめん」

遅刻した理由には答えずに謝罪だけすれば不服だったのだろう。
舌打ちをすれば「理由を答えろ」と言い返された。
寝坊した、と言えば死刑宣言なのでどうやって誤魔化そうかと考えている間にりとは居なくなっていた。

帰ったなと思い俺もそのまま帰ろうと出口の方に向けば、目の前に切符が出された。
行き先は結構遠いところなんだと値段を見れば何となく想像がつく。

「電車で行くからな」

どこに行くか知らされていないけれど、遅刻した罰として知らされないと言うように受け取った。
切符を受け取るとりとは特急列車の方に向かったので後についていけば、丁度電車に乗って数分で電車が発車した。


特急列車だけは不思議と新幹線に座席が似ている。
新幹線、といっても新幹線の座席をひっくり返して、前向きと後ろ向きになった状態だ。
つまり何が言いたいのかと言うと目の前には見知らぬ他人が居る。
別に居る事が悪いという訳ではないが、俺としては目の前に見知らぬ老夫妻の心配をしてしまう。
何も無ければ良いのにと思ったのも束の間、老夫妻はりとに話しかけた。
不機嫌なりとに話しかけるという事はまず死を覚悟しないといけない。

「どこに行く気なんだい?」

まず口を開いたのはしわがよく目立つ老婆。
しわがあるわりには表情の一つ一つが認識できて、声が高い。
俺は窓の外を見ながら必死に会話を振られないようにしようと心がけている。
悪い人達には見えないが、俺の兄は不機嫌になると手を出してしまうので怖い。
それで警察にお世話になってしまったら、俺はどうすることも出来ない。

「ちょっと、遠出をしようかと思っただけです」

そんな事を思っていれば普段とは全く違う落ち着いた声が隣から聞こえた。
俺は窓際でりとは通路側、俺の目の前に老翁、りとの目の前に老婆が居る。

「遠出は儂らもようやった」

ホホホッと昔を懐かしむように言う老婆にりとは笑みを溢しながら「弟と出かけたことが無かったので、一緒にどうかなと思ったんです」と柔らかく告げた。
多分嘘なんだろう、けれどりとの返答にすれば珍しいので俺は窓からりとの方へと視線を向けていた。
りとがこんな風に話すのを初めてみた俺はどういった気持ちになったのかといえば、それはあまり誰にも知られたくない。
多分自分自身でも知りたくないのだろう。

「それでも良い思い出になるじゃろ」

老婆がそう言った途端にアナウンスが入り、次の駅名を告げる。
老夫妻は荷物をまとめ始めたので次で降りるんだろう。
電車でどこかに向かう時はやっぱり誰かに話し掛けられる。
いやな気分にはならないがその場に自分の知り合いが居た場合、何故か他人への返答にいちいち困ってしまう。
その返答で良いのか、他の人は違うように返答するのか、そんなくだらないことを思ってしまってその辺り俺は口下手な方だろう。

やがて電車の速度が落ちてぼんやりとしか見えなかった様々な輪郭はしっかりとした形を出して、そこに何があるのかを示している。
線路があり、駅のホームがあり、人が居る。
さっきまで全てがぼんやりとしか見えなかったので、改めてみてみると凄い速さで走っていたんだなと思い知らされる。
老夫妻は電車を降りて、改札口の方へ歩いて行った。

電車が発車し、暫くお互い無言でいた。
簡単に言うと辛い。
秋で肌寒い時期にまだ冷房な車内に居ることも、無言で目的地まで居るのも両方とも辛い。
中央駅に行くまでに掻いた汗が冷えているんだろう。
正直言って寒い。
脚を組みながら窓の外を見て寒さを紛らわすように腕を擦ってしていれば、赤いカーディガンが膝に掛けられた。
一瞬何が起こったのか理解が出来なくて何度も瞬きをしてると隣から「着とけ」と一言、声がした。
何かの間違いなのだろうかと思っているとそうでもないようで、りとは俺から顔を逸らして再び「着ろ」と言った。

「あ、有難う……御座います」

何故自分の兄に他人行儀なのか自分でもよく分からない。
兄の性格が気分屋だから気分を害さないように他人行儀で接していたからその名残なのか、それとも違う理由があるのか俺には分からない。

車内で次のアナウンスを聞けばりとが立ち上がったので次で降りるんだろう。
りとがドアの方に歩き出し、俺は膝に掛けてあるカーディガンを羽織ってりとの後に続く。
ボストンバックを持ったりとが何がしたいのか、そんな事を考えながらも電車は速度を落とし、アナウンスと同じ名前の駅に着く。
ガタンッ、と電車がブレーキでお決まりのように揺れると何も握っていなく突然だったので俺はりとの腕に抱きつく形になった。
顔面蒼白になるのが自分でも良く分かる。
不機嫌な相手にとるような行動ではないぐらいは分かっているだろう、それでもりとからすればいきなり変な行動をする弟、と思うだろう。
何を言われるのか分かったものじゃない。

「おい……」

俺より10cm高い位置から声がする。
正直顔を上げれそうにない。
声だけ聞けば不機嫌。
未だにりとの腕から手を離さずに床を見ていると上から「見られてんだけど」と言われて、ゆっくり顔を上げて辺りを見渡す。
ドア越しにこっちを見る人たちや真後ろや少し離れたところから見ている学生やサラリーマンと目が合えば、自分がしたことに恥ずかしさが襲い顔が赤くなるのが分かる。
すぐにりとから手を離して何事も無かったかのように咳払いをして、ポケットに両手を仕舞って、俯く。

暫くしてドアが開き、結構田舎なのかそんなに人が居ない事に電車を降りた時に気付き、置いていかれないようにりとに合わせて歩く。
改札口で切符を通して駅から出て、名前を見てみると知らないところだった。
『二階堂駅』と看板には書かれていた。
中央区とは違い、自然が豊富でまるで全く違う所に来た気分になる。
右を見ても左を見ても山の緑、紅葉やイチョウの葉で赤や黄色、空の水色等が広がっていた。
りとが足を止めたので俺も立ち止まる。

「歩きかタクシーどっちが良い?」
「えっ?……どっちでも……」

振り返って尋ねられるとどちらかを答えた方が良かったのか、りとは舌打ちをした。
実際どこに行くかなんて知らないのでどちらが良いかと聞かれても答えるに答えれない。
ただ、ほんの少しだけ賭けてみようと思った事には気付きたくない。
りとが出した答えは――『歩いて行く』だった。

本当は嬉しいのかもしれない。
少し望んでいたのかもしれない。
俺は自分の兄とこうやって出かけることを望んでいたのかもしれない。
2人で歩いて他愛もない話をしながら出かけることをしたかったのかもしれない。
そうかもしれないし、違うかもしれない。

歩いて行く事になり駅から目的地まで歩いていく。
本当にどこに行くのか分からない。
ただ、りとはボストンバックを掛けている右肩を痛めているのか、時々手を当てていた。

「……荷物持つの、代わろうか?」

少し躊躇い気味に尋ねる。
りとは足を止めて、俺の方に振り返った。
右肩を押さえたまま。
何が入っているのかは分からないが、様子からして重たいのだろう。
俺が遅刻したのもあり長時間1人で荷物を持っていたんだ、さすがにそろそろ交代した方が良いかと思ったので声を掛けてみたのだけれど、余計なお世話だったのだろうか。

「は?お前、遅刻した口でよくんな事言えるな。誰の所為で長時間荷物持ってんだと思ってんだ、あ?」

不機嫌だ。
明らかに不機嫌なのが伝わる。
振り返って眉を寄せ、俺を睨みつけ、腰に左手を当てて言っているりとが上機嫌に見えた人は眼科に行って貰いたい。
兄弟だから分かるものなのかもしれないが、多分誰がどう見ても不機嫌な表情をしているだろう。

「なぁ、誰の所為で俺は1時間も余分に荷物持ってんだ?」

腰に両手を置き俺の方に歩いてくる。
威圧が肌にピリピリと痛むぐらい張り付いている。
指を一本動かすだけでも、殴られそうな勢いでりとはゆっくりと俺の元まで歩いてくる。
身体中が熱くなり呼吸すらまともに出来なくて、逃げ出したいという恐怖を飲み込んで、俺の体温は上昇し、身体中が麻痺していることだろう。

りとは喜怒哀楽が激しく、気分屋だ。
自分が腹が立てば近くにあるものを壊していく。
何度家の中がぐちゃぐちゃになったことだろうか。
家の中にある物を壊しそれでも気が済まなければ俺を殴るのがりとが腹を立てた時の決まりなんだ。
どう考えても理不尽なのは理解している。
警察に言えば多分どうにかなるのではと何度も考えた事もある。
けれど俺が何故そうしなかったのは、殴られずに済んだ時は俺の中に熱が残っている。
恐怖という名の「存在証明」が。

自分の存在証明の為に殴られ続けて、その度に俺はそこに存在しているという錯覚に浸っている。
実際人は「死」を迎えない限り存在はしている。
けれど自分で自分が存在しているのかどうか分からない場合いがある。
一時的にか長期で自分が存在しているのか、そう考える人が居る。
俺はずっと自分は存在しているのかと考えている。
それを証明するのがりとに殴られることだ。

それでもやっぱり、殴られるのは恐い。

田舎だからか、全く人の気配がしない。
周りは木と道のみ、誰か来るのか怪しい。
日当たりは悪くないので多分人は通るのだろうけど、朝早くには数人しか通らないのだろう。
きっとこの状態を見ても誰も止めには来ないだろう。
否、来ないで欲しい。
来てしまえばその誰かは病院行きだ。

そんな事を考えている内にりとは目の前にやって来て「なぁ」といつもより高く声を掛ける。

「俺の、所為です」

すみません、というように頭を下げた。

正直泣きそうになる。
1時間も待っていてくれたのは嬉しかった。
けれど後々こうやって誰の所為だ、と問われるぐらいなら、あの時駅に居なくてりと自身があのメモ自体無かった事にしてくれた方が良かった。
そうしてくれた方が、今俺も泣きそうにならなくて済んだのに。
いつもの様に殴られたら俺は此処に存在している、けど殴られることに慣れは不必要なようで未だに殴られることには慣れていない。
俺は恐怖から泣き出しそうになっていた。

気が済むまで殴れなんて口にはしない。

「そうだな、お前の所為だな。お前の所為で俺は荷物をずっと持って……ずっと?」
「……?」

何か可笑しな事を言ったのだろうか、りとは顎に手を当てて何かを考え始めた。
その様子が俺にはよく分からなくて首を傾げていれば、りとは何事も無かったかのようにいつもの表情に戻った。

「いや、別に長時間持ってねぇな……お前が中央駅に来たのが7時5分前だろ。俺が来たのが6時5分前だろ……っで、俺駅に着いて切符売り場に行って、……あ」

りとは自分のしていた行動を口に出していき、最後は何かを思い出したように表情を引きつらせて、俺の顔を見ていた。
不思議と予想が出来るのは気のせいで良いのだろうか。
多分感情に任せて放った言葉が間違っていたんだろう。

「わりぃ……俺の間違いだった……」

普段謝る事をしないりとが謝罪した。
俺の体の中にある熱はとっくに冷めていて、殴られないことにホッと胸を撫で下ろす。
別に今此処に居る証明をしてくれなくても今はそれに悩んだりしていないので、殴られたら痛いだけなのを俺も冷静になって考える。

「……どんな?」
「どんなって、ただ駅で荷物持ってたの5分ぐらいだった。だからわりぃな」
「別に……」

何かが違うのは気のせいにしてはいけない気がしてた。

あれから何事も無く歩き続けて山の方に向かっていれば、1つの館が見えた。
木で出来ていて館に近付くに連れて、看板にぼんやりと書かれていた文字がくっきり見えてくる。
看板には『二階堂旅館』と木製看板に筆で書いたような字で書かれていた。
旅館、つまりは温泉、と言う風に捉えても良いのどうか判断がつかない。

「二階堂、旅館?」

聞いたこともない名前だなと思っていたら声に出ていたのか、隣でりとが微笑した。
笑われた事に少し不快な思いをしていれば塩水の匂いがした。
そもそも塩水に匂いがあるのかも怪しいが耳を済ませていると波の音が聞こえたので海だと脳で判断し、塩水の匂いがしたと思ったんだろう。

二階堂旅館は引き戸でガラガラと昔懐かしく戸を開けると、立派な旅館だというのが何故かすぐに分かった。
右に下足入れがあり、ほとんど靴が入っていた。
小さい子用の靴や、大きな革靴、学生が履いている運動靴、家族連れやサラリーマン、学生と様々な客がいるのだろうか。
左には旅館の近くある店の名前や観光地などが細かく書かれていた。
その1つに音がする白浜と書かれていた。
どうやらすぐ近くにある海のことだ。

「おい、恋也」

真ん中に受付があり、チェックイン出来たのだろうかりとが名前を呼ぶので受付の方を見る。
りとは手招きをしながら俺を呼んでいたらしい。
靴を脱ぎ、館内専用の青スリッパに履き替えてりとの元まで向かっていく。

「部屋梅の間の2番だ。先に行ってろ」
「りとは?」
「俺は後で行く。だから先に行ってろ」
「分かった」

頷いて「梅の間」に向かう。
どこにあるのかは分からないが、大体上を見たら書いているので上を向いてみる。
木製の矢印に「梅の間」と書かれていたので矢印の方向に進み、梅の間に着けば2番と言われたので、2番の部屋の前に来れば一度息を吐いてから戸を開けた。

  • No.32 by ブラック  2015-02-24 04:10:22 

温泉旅行(中編/1日目)


先に部屋に向かってもらい俺は受付ですべき事を済ませた。
そのまま部屋に向かっても良かったのだが、何となく気まずさを覚える。

「……あ」

1人の女の声が後ろから聞こえたので振り返ってみると、和服を着た20歳ぐらいの髪の長い女が居た。
茶色い髪を後ろで団子結びしており、薄いピンクの和服を身に纏って何故だか頬を少し赤らめていた。

「俺に何か用か?」

恐がらせるつもりは無く、元々口が悪い方なので怯えながら首を振り「さっき、もう1人似たような男の子が居たような気がしただけです」とどこかぎこちない素振りを見せながら答える。
『似たような』なんて言われ慣れたが、昔もよく『似たような子』や『そっくりな男の子』なんて言われた。
それが何だと言う話だが、俺――六条道りとにとっては俺と恋也が兄弟だというのは大事だったりする。

「弟。1つ違いの」

短く告げて俺は女から離れた。
正直苛々はしている。


戸を開いて開口一番に「死んでしまえ」と言い荷物を置き、その場から去る。
俺と恋也の兄弟仲は最悪だ。
口を開けば喧嘩、時には殺し合い、まぁ、俺が一方的に暴行を続けているだけだが。
小さい時から仲は良い方ではなかった。
それでよく母さんに叱られた事も何度かあったのも事実。
その母さんもとっくの昔に交通事故で亡くなってしまったのだけれど。

弟――恋也はと言うと、当然いつもと変わらない無表情で端末を弄り、何も知らないような、俺が気に食わない態度をしている。

そんな恋也を梅の間に残して俺は旅館の外に出る。
12時前ぐらいだろうか、ほのかに太陽が暖かく少しだけ眩しさを感じる。
片目を瞑って顔の前に手をかざし、太陽を一瞬見ては視線を下に逸らす。
辺りは完全に木。
緑と言うより黄色や赤、オレンジが辺りを埋め尽くしていた。

『――こっちにおいで』

どこからか声がした。
小さい女の子のような、高い明るめな声が右耳で響いた。

**

ある時7、8歳の女の子が神社に祭られていたという。
その子の名は「サトコ」。
サトコは5、6歳の時から霊が見えた、そう本人は口にしていたそうだ。
そしてある大津波の前の晩サトコが「大津波がくる」という内容の事を呟いた。
次の日、大津波はサトコが言った通りの時間、高さ、速さでやってきた。
村人はサトコを「神の使い」として神社に祭り、定期的に祭りを行った。

とある大雨の日。

神が怒っていると思った村人たちはサトコを崖の上から川へと、突き落とした。

神の使いを神の元に送るために――。

そしてその行為が村人たちを襲った。
毎月その日になれば誰かが可笑しな死に方をした。
ある者は喉に石を詰まらせ、そしてある者は上半身と下半身を切り裂かれ、様々な出来事が起こった。
それを「サトコの崇り」と村人たちは口をそろえてそう言った。


それから何千年後、その土地に「二階堂旅館」が建てられた、と和服を着た女性が俺に教えてくれた。

**

「――って言われたんだが、信じれるか?」
『そう言われても……。僕心霊系そこまで信じないし……恋也に聞いてみたら?』
「嫌に決まってんだろ」
『何で?』
「何でって……お前に言う必要ねぇだろ」
『素直じゃないね、りとも恋也も。ま、僕には関係がない事だけど、夜中目が覚めないようにね』
「あ!おい!!……切るなよ」

一番下の弟に先ほど聞いたことを伝えてみたのだけど、全く信じてもらえず通話は終了した。
僅かにゲームの音が漏れて聞こえていたのでゲーム中だったのだろう。
素直じゃないと言われた事にはあえて反応せずに、端末を仕舞いあまり気が進まないが梅の間に戻る。


戸の前で大きく溜息を吐き、頭を掻いて、再び溜息を吐いてから戸を開けた。
まず目にしたのは障子で俺の目の前で閉まっていた。
さっきは開けっ放しで出てきたため恋也が閉めたのだろう。
障子越しにぼんやりと影が映っているのを確認して「おい」と声をかける。

「…………」

障子越しの影はゆっくりと振り返ったように思われる。
影は動いていた訳ではなく、ただぼんやりとそこに居た。
その影に声をかけて、影が振り向いたのは良いが何となく違和感を覚える。
どうみても弟の影には見えない。
髪の毛がボブカットで和服を身に纏っているのようなそんな気がする。

嫌な予感がした。

ゴクリ、唾を飲み込み半歩後ろに下がったのと同時にその影が、動いた。
手招きをしながらどんどん近付いてくる。
そして障子の目の前に来て、ゆっくりと本当にスロー再生のように手が伸びて、障子が開いた。

「……は?」

障子は開いたのに誰も居ない。
俺が見ているのはただの「梅の間の部屋」で特に変わった事はない。

一気に力が抜け俺はそのまま床に倒れた。
気が張って疲れていただけなんだとそう思い仰向けになって息を整える。
背中には冷や汗を掻いて、いつの間にか呼吸も乱れていて薄気味悪かった。

「りと?」
「うわぁぁ!!……何だ、お前か……」

急に恋也が現れた。
上から覗き込む様に声を掛けられて一瞬驚きで飛び起きたが、弟だと気付けば少しの恥ずかしさがある中、安心感が襲った。

「お前かって……声かけたのにも関わらずぼんやりして、急に横になって何してた?」
「何してた?じゃねぇよ。和服着た奴がその障子の前に居て、そいつが急に動いて影が障子開けたら誰もいねぇし……」
「俺ずっと此処に居たけど」
「は?」

恋也がこの部屋に居て、さっきの奴がもし恋也だとすればコイツの悪戯と言うことに捉える事は可能だが、障子を開けた瞬間にどこかに隠れないといけない。
この部屋は障子さえ開けてしまえば辺り一面を見渡せる。
それに旅館の部屋なんて隠れる所なんて押入れしかない。
押入れは俺のすぐ右隣にあり障子を開けて押入れに隠れるなんて不可能だ。

じゃぁさっきの影を恋也じゃないとすれば考えられるのは――「サトコ」だろう。

俺が見たものは「サトコ」なのだろうか。

**

温泉旅行(中編/2日目)


温泉旅館に来て2日目。
昨日はあれから特に話すことなく、飯を食い、温泉に入り、寝た。
恋也に着替えがない事は知っていたので俺の服を貸そうかと考えていれば、旅館の貸し出し用浴衣を着ていた。
俺の服は明日にでも貸してやろうと思った。
そして2日目。
特にする事も無いが、まぁ土産ぐらい買ってやろうと思い荷物持ちとして恋也を同行させた。
俺の服を貸し、旅館から出たのは良いが本人は嫌そうだった。

「なぁ……」

少し声を掛けてみる。
無視である。
それもそうだろう、寝ているところを無理矢理起したのだから。
旅館から土産場までの道のりを歩いていると、昨日通ったはずの道なのに全く違うように見えるのはもうそんな季節なのかと思わせるほどに紅葉が進んでいた。
赤い紅葉に黄色いイチョウ、たった1日でこれほどまでに変化するのかと感心してしまうぐらいに昨日とは木々が違っていた。

そんな感動は1人でしておくとして、隣を歩いている弟がすごく不機嫌なのは気のせいだろうか。

「悪かったって何度も言ってるだろ」
「起した事に文句言ってない。起こし方に文句言ってる」
「普通に起しても起きねぇだろ、お前」
「…………」

俺がコイツを起した方法なんて絶対に他の奴には勧めないが、コイツの目の前に大嫌いな蛇の写真をアップで見せ付けた。
しかも結構リアルな蛇の写真を。
当然蛇嫌いな恋也は飛び起きて数十分間放心状態だったが。

「嫌いな物がないりとは何されても鼻で笑えるだろうけど、俺は昔から蛇は嫌いだって言ってたはずだけど」
「だから謝ってんだろ」
「謝れば良いって思ってやるからどんどんエスカレートするんだろ」
「じゃぁどうすれば許すんだ?お前は」
「俺は兄貴に土下座しても許しを得た覚えがないんだけど」

さっきからこの調子で全く進展しない。
歩きながら喧嘩して今にも殴りたい。
その感情を抑えつつ口論している訳だが、俺がどれだけ謝っても許してもらえないのは俺も恋也がどれだけ謝罪しても許した事がないからだろう。
俺が恋也を許さない理由なんて人を許す方法が分からないからだ。
ここで今までのこと全て許すから許してくれなんて言うのは都合の良すぎる話だ。
プライドが高い人間は謝罪する事を酷く嫌うと俺は思う。
俺自身がプライドが高い方だとは思っている。
兄としてのプライドなのか俺も人に謝るという事は一番やりたくない事だ。

それでもやり過ぎたと自分でも反省はしているので誠意はあまりないが、謝罪をしているものの全く許してもらえずにいる。
一か八かでしてみるしかない。

「……分かった。許せとは言わねぇから機嫌直せ。何でもしてやるから」

半分呆れながら言ってみると恋也は足を止めて「何でも?」と聞き返してくる。
さすがに俺でも何でもはやりたくない。
喋るなとか寝るなぐらいは出来るが、男としてやりたくない事だってたくさんある。
冷たい風が吹いて暫く経ってから恋也は面白い物を見つけたような表情で口を開いた。

「俺が何言っても何をしても一切合切文句言わず、忠実に従え」

また無理な難題を……。
俺に一番向いてないのが文句を言わない事だろう。
自分で言ったのだから仕方がない、従うしかない。

「あー……はい」

とりあえず返事をしておこう。
返事をすれば恋也がまた口を開いた。

「俺の事を『お前又はてめぇ』等で呼ばない。全て名前呼び」
「あぁ……」
「あと、疲れた。目的のとこまでおぶって行け」
「あぁ」

返事の仕方には文句ないらしい。


恋也をおぶりながら歩いていると当然周りに見られて気にはしてないと言えば嘘になるが、俺の背中で熟睡している恋也をどうすれば良いのか全く分からない。

土産場に着くと色々な屋台があり、お守り屋や食べ物屋、アクセサリー等など色々な物が売られている。
暫く辺りを見渡し、気になったところを少し覗いてはブラブラと歩いている。
2、3歳の子供なら微笑ましい光景なのだろうけど、1つ違いの弟をおぶって歩いていると微笑ましさと言うより怪我でもしたのかと思われやすい気がする。

「おい、恋也……」

声をかけても全く起きる気配が無く、どうしたもんかと考えていると休憩所と書かれた看板が目に入りそのまま休憩所に向かう。
中に入れば数人の人が居てほとんどが老夫婦だった。
恋也をゆっくり下ろし、羽織っていたパーカーを掛けて隣に腰掛ける。
イスに座っている人も居れば床に座っている人も居て、俺と恋也は壁を背にして床に座っている。
辺り一面木製で少し肌寒いと思われるが俺の斜め上にエアコンがあった。
地味にぬるい風が当たるのでエアコンは動いているのだろう。

「りと……」

不意に恋也が口を開いたので視線を向けるとどうやら寝言だったようで、規則正しい寝息を立てている。
そうやって黙って寝ていれば可愛げがあるのに。

俺がそんな事を思っているともぞもぞと動いて俺にしがみついてくる。

「おーい」

そう言えば今朝も枕にしがみついて寝ていたような気がするなと、あやふやな記憶を思い出しつつ何かに抱きつかないと寝れないのかと思い、笑みが零れる。
体を揺すっていれば恋也は目を覚まし一瞬で俺の傍から離れていくのかと思えば、寝ぼけているのかそうじゃないのか分からないが、ボンヤリとしている。

「起きたか?」
「……此処何処?」
「土産場にある休憩所」

数回欠伸をした恋也は立ち上がり辺りを見渡してから「土産、買いに行くんじゃなかった?」と尋ねてくるが恋也が寝てたからとは言えず、俺も立ち上がり出口に向かう。

とりあえず目に付いた土産屋に寄り、姉と一番下の弟に土産を買おうと思う。
土産屋は至ってシンプルと言うより昔の家に近い感じで、辺り一面木製。
今にも何か出そうな気がするがそれは気のせいだと言い聞かせてキョロキョロと辺りを見渡す。
360°キーホルダーや食べ物が置かれており、実際のところどちらを買えば良いのか良く分からない。

「……猫のぬいぐるみ?」

恋也がぽつり呟いたのが聞こえた。
声がしたほうに振り向くと、そこには招き猫ぐらいの大きさの猫のぬいぐるみが置かれていた。
しかも神社の神様を祭るかのように。
そしてその画はふとどこかで見たことの在る様な錯覚に侵される。
決して見た事はないはずなのに何故か見覚えがあるようなぬいぐるみの置かれ方。
気になってその猫のぬいぐるみを眺めていると、首に何か掛かっていることに気付き、目線を合わせて読んでみると『幼子、川にて死す』と筆で書かれていた。

――まさか、な……。

引きつった表情をしつつ猫のストラップを2つ買い、その土産屋を後にした。


「なぁ……」

旅館に戻って来てから薄気味悪さが増して何故だか無駄に汗を掻いている。
俺が汗かきと言う訳ではない。
旅館の扉を開けたときに何か生暖かいものが体にねっとりと張り付いたというより、横を通り過ぎていったという方に近い感覚に襲われた。
恋也に声を掛けたのだけれど恋也は俺の呼びかけには興味ないのか、ずっと端末を弄っている。
静まり返る梅の間。

「きゃぁ!」

急に若い女の声が響いた。
声の響きからして廊下なんだけれど俺はあまりにも驚きすぎて畳の上で丸くなってしまった。
女の声が聞こえる前に電気が消えて目の前が真っ暗になってすぐに女の声が聞こえた。
そしてガンッと何かが扉にぶつかる音がして俺は目を瞑った。
その後に聞こえた声に拍子抜けするのだが。

「す、すみません!ちょっと躓いて、その拍子にドアにぶつかってしまって……」
「気にしないで」

女の謝罪に恋也が答えていると電気が点き、ただの停電だと放送が流れてホッと胸を撫で下ろす。
だが、俺はホッとしていれば弟恋也があり得ないと言う様な表情で俺を見ている。

「……もしかして暗いの苦手?」
「んな訳ねぇだろ」

違う方に捉えてくれたのが吉か凶なのかは分からないが、俺が苦手なものは知られていないのだろう。
喜んで良いのか分からないが。
溜息を吐きながら上半身を起し、そう言えばとこの時間帯の月が綺麗だとHPで読んだ為、温泉に入ろうと立ち上がれば袖を引っ張られる。
恋也は俺の近くに座っていたので腕を伸ばしただけで袖を掴めたんだろう。
どこか暗い表情でたった一言「兄貴……」と俯きながら呟いた。
その様子を見て自分でも可笑しくなったんじゃないかと疑問を抱くほど、普段の恋也を知っている俺にとって異様な光景だった。
俺の袖を引っ張り、俺の事を兄貴と呼ぶなんて中学生ぐらいならまだ分からなくもないが、それを実行しているのは今年で16になる現役高校生。

「どうした?お前らしくもねぇ」

しゃがみながら尋ねても答えることは無く、俺の性格が気分屋でもある為かやや怯えながら目を逸らしているあたり、何か知られたくない事でもある可能性があると捉えられる。

「恋也……俺温泉行ってくるから」
「ん……」
「手、離してくれねぇか?」
「ん……」

返事はするものの行動する気は無いようで、一体何がしたいのか全く検討もつかない。
窓の外にでも蛇がいるのかと思い目を凝らしてみても窓の外は真っ暗で、それ以外目立つものもない。

「恋也、言わねぇと分からねぇだろ……。どうしたんだ?」
「1人で風呂に入りたくない」

俺か、と突っ込みを入れてしまうほどバカらしい理由がそこにあり、思わず肩を揺らす。
昨日は入れたのになんて理由は恋也には通じないだろう。
昨日の恋也は多分、誰も寄せ付けない負のオーラが全面に出ていたのだろうから。
中学の時から時々溢れている俺と似ているものが。

「昨日は入れただろ、それとも気が張ってねぇと1人で風呂にも入れねぇのか?」

からかい半分で尋ねた言葉だった。
そのまま手を離されどこかに出て行くんだとばかり思っていたのに、恋也は俯きながら「商売相手がこの旅館に居た」なんて言われた。

俺は恋也の商売おそらくバイトだろうけどを知らないので、どんな商売をしているとも説明が出来ないが、偶然が重なる事だって僅かな可能性だが、可能性として存在する。

「そりゃぁ、居るだろ。俺の知り合いも居るかも知れねぇからな」
「そうじゃない。付けられてた……まぁ、気が付いたのは昨日りとが出て行った後だけど」
「尾行されてたのか?」

俺が尋ねると恋也はさらに顔を暗くして口を開いた。

「俺が中学2年の時からずっと俺にストーカーしてるかもな」

どこか呆れたような表情で告げた恋也の瞳には光は宿っていなくて、そんな世界に住んでいる為なのか、興味のない物を見るような目で告げた恋也に掛ける言葉を探しているより先に感情任せに口が勝手に動くのは、俺の悪い性格の1つかもしれない。

「何でんな面して言えんだ、あ?結局お前……恋也は何が言いてぇ?俺に助けでも求めてんのか?だったらお門違いだ。警察に言え」

それだけ言って俺は着替えを持って部屋を出た。
そしてそのまま温泉に向かい月を見ながらあまり良い気分ではない入浴をしていた。
ただ、自分で言った事は守ったつもり。


温泉から上がって部屋の前で冷静になりながら扉を開けようと、ドアノブに手を伸ばせば聞いた事のない声が聞こえてきた。
あまり人の話を盗むのは得意な方じゃないが、扉に背を預けて後ろから聞こえてくる会話に耳を傾ける。

『さっきから何度言わせるんだ。30万あげるから売れって』
『何回も言っても売らないに決まってるだろ、それにあの話は昨日の昼間に俺を売ったので終っただろ。いくら客でも身内まで売れる訳がない』
『ふーん……そこまで否定するなら力づくで行動しても構わないけど、君のお兄さんこういう事は初めてだろうけど仕方ない』
『……何が目的なんだよ、お前』
『君のお兄さん――りと君だっけ?彼結構ルックスも良いし賢いから女子に人気だろうな。でも賢いのに君のこんな姿は知らないなんて残念だなぁ。身体中にこんなにキスマーク付けられてるなんて、な』

会話の内容が全く理解できない。
何を売れと言っているのか、こういう事とは何の事なのか、理解に苦しむ。
ただ1つ理解することが出来るのは恋也は扉の向こうに居る奴の事を「客」と言っていたので、その客とやらは商売相手なのだろう。

『1回だけなら問題ないだろ?1回兄を売って自分は30万入るんだぜ?良い話だろ?』
『…………』
『黙るって事は良いって事だな、また次回いつもの場所で』

そう言って客が生み出す足音らしきものが近付いてくる。
俺は少し離れて扉の目の前に立つと同時に扉が開かれて見知らぬ男が現れた。
体つきは中肉中背でどこかのサラリーマンだろうか、スーツ姿で俺達が居た部屋に来ていて上記の会話をしていたのだろう。

初めはバイト先のマネージャーなのかとも思ったが会話を聞いている限り何となく違う気がしてたので、男の逃げ場所が無いように両手で壁に手をつき、通せんぼをする。
いわゆるエアー壁ドンだ。

「お前、俺を売るとか言ってたな。何が目的だ?話さねぇなら無理矢理か警察に脅迫で通報するけど問題ねぇよな。お前が力づくで行動に出るなら俺も暴力の世界で対抗してやるけど?」

中央中学校4ヶ条。
1、六条道りとに近付くな、半殺しにされる。
2、六条道恋也に近付くな、病院送りにされる。
3、数学の宿題は必ずしろ、反省文行きだ。
4、英語の授業は寝るな、寝てしまえば雑用を押し付けられる。
俺と恋也が卒業するまでこの4ヶ条は全く変わらなかったが、今は多分1と2は変わっているだろう。

この4ヶ条のトップ3に居るという事は、学校内全ての生徒に恐怖心やプレッシャーなどを与えている事になる。
俺は喧嘩した奴を大体半殺しにしている。
恋也は病院送り。
それぐらい俺の暴力は凄かったのかもしれない。

睨みつけながら言ってみると、男は急に蒼白な表情になり下記を言う。

「な、なな何でも、ない、です」

男はガクガクと震えながら首を横に振り、怯えているのかと思うほどビクビクとしており今にも自分の首を吊ってしまいそうなほど真っ青になっていた。

「だったらさっさと帰れ。旅館から今すぐ」

片手を外したら男は猛ダッシュで俺の傍を離れていき、男の姿が見えなくなったところで恋也に目を合わす。

「……お門違いじゃなかったのか」

呟くように尋ねられた言葉に一瞬間を置いて、呆れたような表情をしながら俺はこう告げる。

「俺は気分屋だ」

**

温泉旅行(中編/2日目/告白)


告白と聞いてまず何を思い浮かべるだろうか。
大体の人は「恋愛感情」の告白だと思うだろう。
その予想は多分、いや、100%外れている。
俺がする告白は「恋愛感情」ではない告白だ。

**

恋也も温泉に入り、飯を食い終わって特にすることも無くそろそろ就寝しようかと考えている頃。
恋也は先に布団に潜り込むように入って行き、俺に背中を向けて横になった。
俺はドア側で、恋也は窓側。
部屋の電気を消して俺も布団に入って暫く目を閉じていれば「……1つ聞いて良いか?」と恋也に尋ねられる。
お互い背中合わせで会話をしている為、表情は分からないが声のトーンで何となく想像するしかない。

「んだよ」

短く返事をしながら、目を開いて何を聞かれるのだろうと頭の中で考えていると、当然と言えば当然の質問が恋也の口から発せられた。

「何で、俺と出かけてる?正直俺とりとは仲が悪いのは誰だって分かってる事だけど、何で俺を此処まで連れてきた?」

なぁ……、と言う声と共に布が擦れる音が聞こえたので、きっと振り返ったのだろう。
俺の背中を恋也は見て、俺は少し遠くに見える戸を見て、お互い話しているんだろう。
あくまで予想だが。

何故答えないといけないのか、良い言い訳はないのだろうかと考えながら早く寝てしまおうと返事をしておいて、無責任な事をしようとしている。
隠しておく必要があるのかないのか、自分では分からない。

「気分……」

気分屋だから、そう付け足そうすれば視界が戸から恋也の顔に変わる。
恋也の顔が凄く近くて恋也の肩越しに天井が見えたので、仰向けにされたのだろう。
こういった類が好きな人は萌えるだろうが、俺は押し倒されたと言うより、無理矢理目を合わさせられた、と言った方がしっくりくるかもしれない。
押し倒す、ならきっと恋也の両手は俺の顔のすぐ隣になるんだろうけど、恋也の左手は俺の服(旅館の貸し出し用浴衣)の襟を握っており、右手はその当たりにある。
そして馬乗りでもない。
端末を弄っている時に身を乗り出して覗き込むような体勢のようだ。

「さっきから気分、気分って気分屋はそれで通じるけど、俺は気分で納得できない。ちゃんと理由を言うまでこの体勢だから」

何だこの俺みたいな生物は。
上から目線で、自分の言った事は絶対で……って俺の弟だから仕方の無いことだけれど。
俺が理由を言わない限り恋也は退いてくれないというのが分かっても、あまり言う気にはなれなくてつい「明日言うから寝かせろ」なんて嘘を吐く。
そんな嘘に恋也は引っかかる事無く、無表情で俺を見つめる。

「言えよ」

喧嘩をする時と同じものの言い方で言われて、何故かムカつく事はなく顔を逸らそうと左に少し動かせば、恋也の首筋に虫に噛まれたような赤いものが付いていた。
本人は隠しているのか隠していないのかは分からないが、気にしないでおこう。
一瞬固まって再び顔を逸らすと、居た。

「あっ……」

窒息死してしまいそうな程、声が出なく、そこに居る奴は俺の見知った格好だ。
ボブカットに和服、そして手招きをしながらゆっくりと歩いてくる。
幼い顔つきで、黒髪、肌の色は色白でどう見ても人間ではない、オーラを出している。

『こっちにおいで』

手招きをしながら歩いていた筈なのに、気が付けばもう目の前に居て、ゆっくりと右手を伸ばして俺の頬に指先が触れた瞬間――パァン。
ハリセンで木製の机を叩いた様な音がしたと同時に、左頬に痛みが走り、視界が歪んでいるのが良く分かる。


「――……?」

何が起きたのか全く分からない。
数回瞬きをしていれば頬に何か温かいものが流れていくのが分かるが、暗かったはずの部屋は明るく、さっきまで無表情だった恋也はどこか心配そうな顔で俺を見下ろしていた。
ただ自分で分かるのは息遣いが荒く、変な汗を掻いているという事。
ゆっくりと体を起して、息を整えようとしていれば恋也に「何か買って来てやろうか?」と聞かれたが、1人になってしまうのが嫌だったの首を横に振り、また仰向けに横になる。

「俺、どうなってたんだ?」

恋也が居る右側に視線を向けて尋ねると、恋也は安堵しているのか肩の力が抜けているように感じる。

「俺が仰向けにして、理由を言えって言って数秒経ってから急に気を失って、というより何かにうなされていた」

だから叩いて俺を起したのかと納得を1人でしつつ、俺がうなされたのは当然、ボブカットを見た時ぐらいだろう。
この旅館に憑いているのか俺に憑いているのか。
それよりも寒気を感じるのは、汗が引いたからだろうか、何だか違う気もするが掛け布団を被って再び寝ようと掛け布団に包まっていたら「寒い?」と声を掛けられる。
確かに肌寒い時期ではあるが、布団に包まる必要はない。

さっきからゾクゾクと背筋が凍るような、熱が出る前兆の様な寒さに襲われながら寒さで理性を失っているのか、頷いた。

「あんまり、やりたくなかったけど……」

何を?と聞く前に恋也は俺と恋也の布団の離れている距離は大体30cm、その距離を0cmにして布団に入って、俺の使っている布団に手を入れて来ては背中をゆっくり上下に撫でている。
俺の背中を撫でるのをやりたくなかったとはどういう事だ。

「なぁ……暖まらねぇ」
「そりゃぁ、つっくいたら暖まるけど、離れて背中撫でてるだけじゃ暖まらない」
「……意味ねぇだろ」
「じゃぁ、俺に抱き付いて暖めて欲しいと?」
「アホか」

少しだけ気が楽になったなと、ぼんやりと思っていれば背中から手が離れて、掛け布団が捲られ恋也が俺の布団に入ってきたのが分かる。
そしてすぐに背中合わせになってお互い無言になる。

気まずい……。

「れ、恋也?」
「丁度俺も背中冷たいから、兄貴に暖めてもらおうと思って」

結構無邪気な感じに言っているのが分かって、首だけ動かすと後ろからでも良く分かるぐらいあちこち視線を彷徨わせて、最終的には下に下ろしていた。
そんな姿を一瞬小さい頃の恋也に重ね、思わず口元が緩む。
振り返るのをやめて近くに置いてあったリモコンで部屋の電気を消し、何となく気まずいと思う沈黙が続いてから口を開く。

「俺が、恋也と此処に来た理由……、大して良い理由でも悪い理由でもねぇけど、ただ俺と恋也は中学の時修学旅行に行ってねぇから……まぁ、それのやり直しみたいなもんだ」

これ以上は言えないと思い黙っておこうと決めたが、どうしたもんか。
先に言っておくが、言おうと思って言ったわけじゃない。

「恋也と純粋に出かけてみたかった」

呟いたことに俺が赤面するのか、恋也が赤面するのか、どっちも無表情なのか、俺には分からないが好きなように想像してくれ。
ただ、俺自身は自分の言ったことに凄く恥ずかしさを感じている。

「んな訳ねぇよ、最後のは冗談、じょうだ……」

ワザとはぐらかすように言って恋也の様子を伺おうとしていたのだが、恋也はとっくに寝ていて俺の話を聞いてすらいなかった。

その後俺が聞かれていないことに安堵し、睡魔が襲ってきたので素直に従って眠ったのは俺自身しか知らない事であると信じたい。

**

此処での告白は「恋愛」ではなく「理由」の告白だ。
何故俺が恋也とこの二階堂旅館に来たのか。
「理由」としての告白は恋也は寝ていて聞かれていなかったのだけれど、まぁ、とりあえずは特に何もないだろう。

本当に恋也は聞いていなかったのかは、俺は知らない。

**

温泉旅行(中編/2日目/告白/恋也)


兄のりとが急にうなされて、どうすれば良いのか分からなかったがとりあえず頬を叩いたら起きたので安堵する。
どうして急にうなされたのかととても気になるところだが、聞いたところで答えてはくれないだろうから聞かないでおく。

そしてどうなっていたんだと尋ねられて急にうなされていたと伝えると1人で納得しては、肌寒い時期だけど布団に包まらなくても良いのに、布団に包まっていたので「寒い?」と尋ねると本当に寒いからなのかいつもより素直に頷いた。

正直頷いたことに少々驚いている自分がいるのには気付かないふりをしておこう。

「あんまり、やりたくなかったけど……」

いくら兄弟と言っても至近距離で寝るのは気が進まないが、人口密度でも高くしてみようかと思い布団を近づけてすぐ隣に横になって、さすがに同じ布団で寝るのは気が引けて気持ちだけでもと、背中を撫でている。

ゆっくり撫でているので摩擦もあまり期待できない。

すると、暖まらないとりとが言うのでくっついたら暖まると伝え、意味が無いと返され、俺に抱き付いて欲しいのかと返し、突っ込まれて終る。

俺自身は気が進まないがそれで熱を出されても厄介なので、りとの背中から手を離しりとと同じ布団に入って、背中合わせになる。
これだとあまり気にはならない。
同じ布団で寝るのは好まないけど。

「れ、恋也?」

不安そうに名前を呼ぶ兄に「丁度俺も背中冷たいから、兄貴に暖めてもらおうと思って」なんて真っ赤な嘘を言いつつ、視線を彷徨わせる。
最終的には下に向いて、目を瞑る。

部屋の電気が消されたのを目を閉じていても分かったので、目を開けていれば何となくお互い気まずいと言える沈黙が襲った。
その沈黙を破ったのはりと。

「俺が、恋也と此処に来た理由……、大して良い理由でも悪い理由でもねぇけど、ただ俺と恋也は中学の時修学旅行に行ってねぇから……まぁ、それのやり直しみたいなもんだ」

今はもう聞いていないのに、俺と此処に来た理由を言ったりとは続けてこう言った。

「恋也と純粋に出かけてみたかった」

普段なら絶対に聞けないであろうセリフを聞いて、俺の頬は嬉しさでかぁぁと赤く染まる。
言った張本人はどうなんだろうと思うが、俺の今の顔色を見られたくはない為、狸寝入りをする。

すぐに否定するかのように、冗談と言うが冗談で言っているようには聞こえず、俺は笑うのを堪えるのに必死だった。

多分今の言葉は本心で述べたものだろう。

俺は同姓からも異性からも、ストレートに「出かけたい」「遊びたい」と言われた事が無かったので、ストレートに言われるのは慣れていないんだろう。
どう対応して良いのか分からずに狸寝入りをしていれば、りとは俺が寝てると判断したのか、少し息を吐く音が僅かに聞こえた。

それからりとが寝るまで俺は狸寝入りを貫いた。

**

温泉旅行(中編/最終日)


ぼんやりと意識が戻ってくるのが分かった。
あぁ、起きないと、と思うが目を開けようとはせずにそのままそこに居れば、不意に何かに抱きつかれるような感覚がしてうっすらと目を開ける。
何に抱きつかれているんだろうと思いながら、視線を後ろにしてみると、そこには弟の恋也が抱きついて眠っていた。

……マジか。

そう言えば、昨日の朝枕に抱きついて寝ていたのを今思い出し、溜息を零す。

「恋也、起きろ」

声を掛けてみても起きる気配がない。
一体どうすれば良いのだろうと思いつつも、手は動かす事が出来るので、左手を右肩の後ろに持って行き、恋也の体を揺する。
それでも起きる気配がない為、もう一度溜息を零して、恋也の腕を退けようと思うが、このままにしておくのも悪くはないだろうと思い、左手を元に戻し、時間つぶしに近くに置いてある端末を手に取る。

昨夜暖房を低めに設定した温度で、タイマーしていたため、寒さは感じる事はない。
問題があるとすれば抱きつかれた状態から動けないという事。


何十分が経った頃、もぞりっ、と恋也が動くのを背中で感じ、視線だけを向けるとどうやら目が覚めたようで、瞬きを繰り返していた。
多分恋也自身も今の状態に理解ができていないのだろう。

「あ……ごめん。今離れる」

そう言って恋也は腕を解いて、ゆっくりと俺から離れていく。
すぐ傍にあった体温は無くなっていき、虚しさだけがそこに存在する。
尤も恋也自体の体温、平熱は35.0だが。
俺が何故恋也の平熱を知っているのかなんて、意外にも簡単な話で、中学の時にただ気になったから聞いただけの事だ。
それ以外に理由がない。

「なぁ――」

声を掛けた瞬間に手に持っていた端末が吹き飛ばされた。
恋也の居た方に。
プロ野球選手の投手が、キャッチャーに目掛けて全力で投げたのと同じぐらいの速さで、俺の端末は恋也の目の前まで吹き飛ばされた。
俺は確信した。
恋也に当たる、と。
俺は振り向いていないが、あの速さなら誰でも、当たると確信した――、

――その瞬間。

バシッ、なんて音が聞こえたから思わず振り返る。
俺が振り返った瞬間に端末は恋也の手の中に存在して、何事もなかったような顔で俺に手渡してくる。

「わ、わりぃ……」

そっと手を伸ばして端末を受け取ろうとしたのだが、恋也から「何か隠してるだろ」と疑問系でも命令でもない言葉が告げられる。

隠していると言えば、多分、恐らくアレは……。

「ねぇよ。何を隠す必要があんだよ。昨夜恋也と此処に来た理由は言ったはずだ」

聞かれていたら困る為、保険をつけておく。
恋也は普段と変わりない表情で「何か言ってたけど、よく聞こえなかった。まぁ、それが此処に来た理由なら、隠し事なんてして……ない、よな?」と、疑問系で尋ねてくる。
隠し事などはしていない、と否定は出来ないでいた。
俺の目の前に腰を下ろして胡坐を掻いている恋也にどう言い訳をすればいいのだろうか、そうやって悩んでいる時にも、不気味な空気が漂う。

どこか冷たいような、ぬるいような、そんな空気が。

『こっちにおいでよ』

ゾクリ、背中に冷たい風が通ったのが分かり肩が震える。
耳元で聞こえた声は一体、いつまで俺につきまとうのか、それすらも考えるのが恐ろしくなってしまう。

「隠し事なんか、して、ねぇよ」

それでも、隠し事などしていないと抵抗をした。

**

「なぁ」
「…………」
「なぁって」
「…………」
「なぁって!!」
「何だよ!」

どうしてなのか、急に耳元で叫ばれて、無理矢理恋也と向き合う様になる。
あの後、俺が海でも行くかと呟き、旅館を出て、森の中を歩いていれば恋也が急に俺の腕を引っ張って、無理矢理向き合うような体勢になった。

「何で俺が逆にキレられないといけない訳?ずっと呼んでるのに無視してるのはそっち……」

何かに気が付いたのか、落胆したように恋也は溜息をついて「そりゃぁ、イヤフォンしてたら聞こえないな」と呟いた。
今気付いたのか、と突っ込みを入れそうになるがそれでキレながら俺の腕を引っ張ったのかと、理解できたので別に気にする事もなく、森の中を歩いていた。

「って、聞いてないだろ」

腕が伸びてきたと思えば、イヤフォンを取って溜息をつく。
何故両方のイヤフォンを取ったのかは分からないが。

「聞こえてねぇよ」
「聞け!」

少しの言葉を交わしてから、俺たちは森を抜けて、海に出る。
波の音は聞いたことのある海そのものの音で、塩の匂いもいつも通り。
ただ何が違うのかと、問われると砂の色が白い。
この辺りには山はあるが、火山があるわけではないから、火山灰が降ってくるというわけでもないのだろう。
波の音を聞いていると、隣から自分の歌声が聞こえたきたのは聞かなかった事にしよう。

どうやらメールだったようで、端末を取り出して、すぐに返信をしていた。

「……確か、中央中学校の修学旅行って海だったよな?」

2年前、面倒だからなんて言って、行かなかった修学旅行の行く場所を尋ねる。
恋也は特に思うことはないのだろうか、未練がないような返事を返した。

「さぁ。修学旅行とかにはあまり興味がないからよく覚えてない」

恋也が学校行事に興味がないのは俺は知らない。
ただ知っているのは小学生の修学旅行の時、熱を出して行けなかった事と、身内以外誰一人、お土産もなにもくれなかったという事。
推測でしかないが、きっと、恋也は……。

「そうか」

変に返答せず、そのまま、頷いた。

きっとお前は、誰からも相手にされなかった事が、寂しかったんだろう。

特に会話もないまま、お互い全く別の方向に歩いていって、数十分が経つ。
俺は近くにあった石の階段に腰を掛けて、海を眺めていた。

**

10年前 教室にて

『なぁ、このクラスで【修学旅行に行ってないヤツ】は1人で掃除な!』
『それって私も……?』
『お前は仕方ないだろ。インフルエンザだったんだから』
『……って事は……』
『恋也1人で頑張れよー』

小さい子供の声と共に、1人の少年に掃除で使う道具が置かれる。
否、置かれるというより、放り投げられる。
派手な服装をあまり好まない少年――恋也は、他の生徒からしてみれば「地味」で「気持ち悪い」だけでなく、「化物」と言う。
恋也本人は雑巾を投げつけられても、塵取りを投げられても、表情を変える事はなかった。

小学6年生の恋也にとって、人間自体が興味がなく、ただの道具でしかない、なんて小学生は絶対に考えないであろう事ばかり考えていた。
自分が興味を示さなければ、誰も変に近付いてこない。
自分が口を開かなければ、家族に迷惑がかからない。

難しく言えば、繕っている。
逆に簡単に言ってしまえば「人間不信」。

そんな浮世離れした事を思いながら、掃除道具を手に取り、溜息も舌を打つこともなく、ただ掃除をするだけ。
そんな姿を誰一人「可哀想」と声を発する者は居なかった。

『つかさー……、友達居ないヤツが修学旅行に来ても邪魔なだけだよなぁ』

茶髪の少年が頭の後ろで手を組みながら、後ろにいる三つ編みの少女に声をかける。
少女は気にする様子もないのか、本を読みながら『馬鹿言ってる暇あるなら、家に帰って勉強しなさいよ。私立の中学校行くんでしょ?まぁ、今の貴方には無理ね』淡々と、棘のある言葉を発しては、読み終わった本を閉じ、ランドセルに本を仕舞い、恋也の元に行き『先に帰ってるわよ』と一言発し、その場を去っていった。
無論、三つ編みの少女――六条道彩に激怒する小年の表情は、優秀な生徒に散々言われたせいなのか、半泣きになっていた。

『お前の妹どうにかしろ! 誰に対してあんな事……!!』

茶髪の少年は恋也の服を掴んで上記を口にすれば、今にも殴りそうな勢いで利き手の右手を引いていた。

『中央小学校6年A組。出席番号34番。血液型O型Rh+。魚座、3月4日生まれ、身長145cm、体重45kg、右目の視力0.3、左目の視力0.4。利き手右手、得意科目算数。苦手科目国語。好きな食べ物美味い物。嫌いな食べ物不味いもの。将来の夢、紳士になる、の渡里知(わたりさとし)に対してだけど』

と、小学生にして、長文を言い、知っているはずのない個人情報まで言いのけた、小学6年生に返す言葉も無いのか、渡里は力が抜けて、腰を抜かしたのか尻餅をついて暫くの間動けないでいた。
当時中央小学校では、渡里知というのは特に優れた面もなく、元気すぎる小学生として有名であったが、恋也ほど有名ではなかった。

『……やる気、なくしたから帰る』

恋也は素っ気無く呟いて、ランドセルを背負い、教室を後にする。

**

10年後 兄貴とは反対側にて

多分、そうなんだろう。
何となく見たことのある奴が目に入った。
茶髪で目つきが悪いアイツはアイツでしかない。
きっと、小学生の時、話したとは言えないが、掴みかかってきた「渡里知」だろう。

ゴーグルをつけて、海に潜っているのを見るのは初めてだが、あまり得意そうに見えなかった水泳が今では、プロ並に上達しているように見えるのは、会っていない期間が長いからだ。
それ以外に理由がない。
波が岩に当たり、辺りを少し濡らしているのを繰り返しては、波は再びやってくる。
その岩に登って見ると、海が少し遠くまで見えて少しだけ良い気分になれた。

アイツが声を掛けてくるまでは。

「おい!! 危ないから下りろ!!」

そんなに高くもないのに大袈裟だと思っていたら、急に風が吹いた。

――あぁ、なるほど。

返事などしたくはないので、無言でその岩から砂場へと飛び下りる。
その瞬間、海から上がってきたのだろう渡里が俺の方にやって来て、目の前で立ち止まる。

「危ないだろ! あそこは急な風や波で人や動物が亡くなりやすいんだ! だからむやみに上るな!」

この辺りに住みだしたのか、何てどうでも良いことなど聞く気にはなれないので、適当に頷いていれば、俺が恋也だという事に気が付いたのか「お前、六条道恋也だよな!? 小学校の時、一緒のクラスだった……」と首を傾げながら言われたので、適当に返事をするわけにもいかず、頷く。

「久しぶり!! 懐かしいな……。どうした? この辺りは何もないから案内する所もないけど、何か用か?」
「……ただの付き添いだ」

へぇ……なんて、興味深く頷いてはいるけれど、早く去ってしまいたい。
俺が渡里を苦手と言うより、嫌いと思うのは小学生の頃のことが一番原因だろう。
あの頃俺は大分ひねくれ者で、歪んでいた。
今はまだマシにはなっていると思いたい。
証明する方法なんて、探すのも面倒だが。

「まさか恋也と再会できるとは思ってなかったな……。いやぁ……恋也あんま変わってないな」
「うるさいな」
「そこまで毛嫌いするなよ……。俺も後悔してんだからさ」

何を後悔しているんだろうか、そんなこと聞く意味すら無意味だと思えてくるのは自分が経験した事に意味があるかもしれない。
正直あまり後悔の理由は聞きたいとは思わない。

「丹神橋高校に入学した元クラスメイトで友達って言ったら、周りの奴ら皆おど――」
「見んな喋んなそれ以上近付くな」

言いたい事が分かった所で、その先は聞かない方が良いだろう。
大分聞きなれた言葉でも、やっぱり嬉しい言葉ではない。
『名門高校に友達が居るって言ったら、周りの見る目が変わる』なんて中学の時に散々理解した。
周りは一気に態度を変え俺の元へ集って来た。
その姿に吐き気を催し、同時にくだらない生き物だと思った。

「どうせお前は自分が良く見られたいが為に、俺と仲良くしていれば良かったなんて思っているんだろ。分かってんだよ、お前みたいな奴が考える事なんて、くだらない事だってな」
「えっ……?」

状況を把握していないのか、目が点になって一歩後ろに下がって、焦ったような表情を浮かべている。
ここから先は俺のセリフだと思う。
特に重要でも何でもない、ただのセリフだ。
過去を述べたセリフなので、読み飛ばしても構わない。

「お前はいつもクラスで1番強くて、1番頼りになる奴で、周りには仲良しな奴が沢山いて、自分が強い事を見せ付けたかったのか、俺に放課後掃除を押し付けたり、時には殴ったりしてたけど、そんなに楽しかったのか? 俺を殴ったりするのが? 変わった趣味の奴だな。頭が可笑しいにも程があるだろ。っで、挙句の果てには俺と仲良くしてなかったのを後悔して、お前、何様のつもりなんだ?」

今にも殴りそうになったが、コイツを殴ったところで、俺に何の得もない。
だからその場から去ろうと渡里の横を通り過ぎた時にふと僅かに、消え入るような声が聞こえてきた。

「【修学旅行】……、行けなかったんだ」

渡里はそれから続けた。
自分の過去を、続けて話した。

「中学3年の時に高熱を出して、修学旅行に行けなかった。俺さ、中学の時苛められてたんだ。学校に行けば殴られて、家に引きこもっていたら、心配だからと嘘を言って家まで来たクラスメイトが、俺を連れ出して道端で殴られた。そのせいで修学旅行の前日に熱を出した。悔しかった。俺が行きたかったところだったから余計に悔しくて仕方なかった。その日は泣いて過ごしたんだ。その時俺は、恋也を思い出した。俺と同じように熱を出して、修学旅行に行けなかったのに、俺はそれを理由にして恋也に色々した。許される事ではないと思っている。だけどな、俺は、クラスメイトが丹神橋高校に入学したのを理由に、してまで、俺は自分自身を良く見て欲しいなんて、思ってない」

それだけ言って足音が聞こえた。
俺に何も返すな、という事なのだろうか。

振り返って見るとTシャツに水着と言う渡里の姿が、とても成長したように見えたのは目の錯覚ではなかったのだろう。

彼もまた何かをキッカケにして成長していっているんだろう。
それだけは分かった。


それから数十分立った頃、端末が震えてりとから帰るとメールが届いていたので、振り返ることなくその場から歩き出す。
俺も渡里も互いの表情には全く触れていないので、俺と渡里はどんな表情で話していたかは俺たちしか知らない。

**

「何かあったのか?」
「小学校時代の知り合いに会った」
「……俺が知ってる奴か?」
「いや、6年の時転入してきた奴だから……彩に聞いてなかったら知らないと思う」
「そうか。仲が良いのか悪いのかは聞かねぇけど、喧嘩はほどほどにしろよ」
「聞いてたのか?」
「距離的に見えてた」

特に喧嘩をする事はなく、互いに他愛もない会話をしながら旅館に戻って行くのだった。

  • No.33 by ブラック  2015-02-24 04:10:55 

温泉旅行(後編)


恋也とりとは旅館に戻って来て、りとは荷物は荷物を持ち、恋也は貴重品を持って外に出ようとしていたのだ。
――ガチャリ。
ドアは開かれ、長い廊下を双子と間違えるほど似ている兄弟が歩いて、受付で済ますものを済まして、二階堂旅館を後にした。

りとがよく見ていた「サトコ」は、旅館を出てからはりとに見える事はなく、他愛もない会話もするわけでもないが、兄弟2人は特急電車に乗って、家に帰ろうと駅に向かっている最中に、兄りとが言い出した。

「俺さ、幽霊見てたんだけど……」
「あー……サトコ?」

何故、恋也はサトコの存在を知っているのか、ただ二階堂旅館に関わる心霊等の事を調べていたらサトコに辿り着いたという事。
りと本人は自分しか知らないと思っていた事が恋也に知られており、溜息を零しながら「知ってんなら言えよ……」と拍子を抜かしていた。
それもそうだろう。
恋也も知っていたのなら、1人であんなに怯えていなくても良かったのだろうに。

「何となくサトコのような気はしてたけど、変に言って取り乱して欲しくも無かったし」

空を見上げながら言う恋也はどこか、遠くを見つめており、振り替えって眺めた先は海だという事は隣に居たりとも理解していた。

「ま、安心しろ。サトコはあの旅館に憑いてるから、後を追いかけてくる事はない。アイツもあの場所から動けないんだろ」
「アイツ?」
「いや、何でもない」

アイツとは渡里の事なのだが、渡里も渡里で色々事情がある。
あの場所から動けないと表現してしまうと「自縛霊」と思う人も多いだろうが、決してそういう訳ではなく、ただ単に、その場所が安全だから、安全ではない場所に行けないと言うこと。
渡里の服の下にあるのは多々の痣だろう。
それは会って、渡里が自分の過去について話しているとき、恋也が確信したものだ。
普通ならば下半身は水着で上半身は裸、が男性の水着姿なのだが、季節も季節なので初めはTシャツを着ているのだろうと、判断していたが、話を聞いている内にまだ痣が残っているように感じたんだろう。

「なぁ」

不意に恋也がりとに話しかける。

「1人、住ませてやりたい奴がいるんだけど、どうしたら良い?」

恋也のそんな質問にりとは暫し考えて「恋也の好きなようにしろよ。俺は恋也が楽しそうにしてるのを見るのが好きみたいだ」と、少し自分の告白も混ぜながら述べた言葉は恋也に届いており、恋也は軽く笑みを浮かべつつ「そう言って貰えて感謝する」と聞き流したのか、受け入れたのかは恋也本人しか分からないようにした。

 
二階堂駅に着けば、切符を買い、特急列車で最寄り駅まで帰る。
その道中、お互い見たことのある老夫婦に出会い、話し、そして、六条道家に新たな人が住んだのは、また別の話。

  • No.34 by ブラック  2015-02-27 05:15:28 

 目の前に居る小さな子供に、どうすることも出来ずただ見つめる。
子供は好奇心もなければ泣きもしない。
簡単に言ってしまえばひねくれ者だ。

「おいルパン……」

 次元がルパンにどうしたら良いのか、と助けを求めるように声をかける。
 元々目の前にいた子供は高校生ぐらいの少年だったのだが、昨夜仕事が上手くいったので、皆で酒を飲んでいた為か、昨夜の記憶はほぼ皆無に等しい。

「恋也ちゃーん」

 ルパンが子供に声をかけるも、子供――恋也と呼ばれた子供はいつまで経っても、返事をしてくれる様子はなく、ただ毛布を被ってソファに座っている。
どうしたもんかと思っていても仕方が無いので、強制的に向かせるしかないと思ったルパンは子供の前にいき、子供と同じ目線になって「恋也ちゃーん」ともう一度、子供に声を掛けた。

「…………」

 無言だが、ちらりとルパンを見た子供はすぐさま視線を逸らして、毛布を深く被った。
会いたくない、と言うより怯えているに近いようにも見え、ルパンは子供が被っている毛布をそっと剥がした。
 急なことに驚いたのか、子供は身を強張らせながらもルパンを見つめ、いつでも逃げれるかのように距離を取ろうとしていた。
だが、ルパンの手によって阻止される。
後ろに下がっていた子供の背中をルパンは自分の手で、それ以上下がれないように子供の背中に手を当てた。

 後ろに下がれなくなったのを確認した子供は小さく舌を打ち、睨みつけるように目の前の大人を見つめる。

「そんなこわーい顔、お前には不似合いだぜ?」

 ルパンがおちょくりながらも子供に向かって言うが、子供は顔色を変えようとはせず、ただ黙ったままルパンと次元を見つめた。

 **

「どうするよ?」
「どうするもこうするもねぇだろ」

 イスに反対向きに座りながらルパンは次元に問う。
 何故そうなったのかなんて、誰にも分からなくてだた、『小さくなった』としか説明が出来ない状態なのは確かな事だ。
そんな状態で仕事は出来ないし、万が一銭形が来た場合どうしようかと、大人2人が悩んでいる。
 五右ェ門はというと、今朝方から修行に行っており、当分帰って来る気配はなさそうだが、取り合えず連絡でも入れておこうかと思い、次元が五右ェ門の携帯に電話を掛ける。

『拙者でござる』
 
 僅か1コールで出た五右ェ門はいつも通りかと、内心思いつつ次元は「五右ェ門、恋也が小さくなっちまった。何も喋らねぇんだ、一旦戻ってきてくれ。俺とルパンじゃお手上げだぁ」と投げ出すように、言って五右ェ門の返事を待つ。

『承知』

 状況も分からないだろう、それなのに二言返事をした五右ェ門に驚きつつも電話を切り、次元はルパンの方に向きながら、朝からバーボンを飲みつつ「五右ェ門来るってよ」と、煙草に火をつけながら述べた。

 一方ルパンはイスに反対向きに座りながらも、子供の口をどうやって開かせようかと悩んでおり目の前で煙草を吸うのを見れば、「子供の前で吸うなよ……」と小言を言いながら、腕を伸ばしてコーヒーのカップを取って口に運ぶ。

 もうあれから1時間が経過しているのに、何も言ってこない子供を次元とルパンは見つめ、熱でも出して倒れているのではないかと思うほど静かな子供に、ルパンは近付き様子を伺った。
子供は熱を出していなければ、当分暇だろうと思って渡したノートパソコンにすら手を伸ばしていなかった。

「機械に触るのは嫌いか?」

 ソファの縁に両肘をつきながら尋ねるルパンに対し、子供は表情を変えることもなく首を横に振る。
嫌いじゃない、そういう返事だと受け取ったルパンは「潔癖症か?」と一応考えられる線としてもう一度、尋ねた。
 だが、子供は首を振って毛布を深く被るだけだった。

「そろそろおじさんに名前教えて頂戴」

 何度聞いても名前を教えてくれる事はなく、子供の後ろに居たルパンは子供を飛び越えて、子供の目の前に行き、目線を合わせて子供に尋ねた。
それでも子供は答えることなく、ただ真っ直ぐ前を見つめる。
 もう駄目だ、と言うように両手を少し広げて、軽く上に上げた。

 そして丁度ギィィと木製のドアが開く音がする。
五右ェ門が今辿り着いたんだろう。
 長い廊下を歩く音を聞きつつ、ルパンと次元はドアの方を向き、ドアが開かれ、五右ェ門が来たというのを確認した瞬間に「お主……その様な幼子を攫ってきたのでござるか」と冷めた目つきでルパンを見つめ、子供に近付いていく。

「次元から恋也ちゃんだって聞いてるでしょ!」

 最早突っ込みとも言える怒鳴りを部屋中に響かせつつ、ルパンは五右ェ門の方に無理向き、怒ったような表情で自分の胸の辺りで拳を作った。

「……では、この幼子は本当に恋也なのか?」

 確認の為、ルパンと次元に尋ねた五右ェ門はルパンの目の前に居る子供に近付いて、目線を合わせるようにしゃがんだ。

「本当に恋也だって」

 五右ェ門の問いに次元が答えつつ、五右ェ門がしゃがんでいるのを見つめながらも、どうせ五右ェ門もフル無視だろうなと考えており、実際の所、五右ェ門が話しかけても言葉を返すことは無かった。

 本当にどうしようか、そう思った途端、子供は毛布を被ったまま立ち上がった。
どこかに行くのだろうかと誰もが思ったが子供は全く動くことなく、立ち上がって辺りを見渡し、テクテクとソファから離れて近くに転がっている自分の服を手に取った。
 そういえば、毛布を被っている理由などは聞かずに口を開ける事を優先していた大人達は、子供がカッターシャツを着た途端、服を着ていなかったんだと、理解する。

「その格好で居るのもアレだろ、まず服買いに行こうぜ」

 ルパンの提案で、子供とルパンが服を買いに行くことになった。

 **

「おめーは何で喋らねぇの?」

 ルパンが不思議そうに子供に尋ねた。
何故、一言も喋らないのか、不思議に思って仕方が無い。
だから聞いてみたのだが、子供は答える素振りは見せない。
 此方の言っている事は理解しているようで、首を振ったり、頷いたり、首を傾げたり等の動作はするものの、言葉を発する事はしていない。
 一度言葉が話せないのでは、と五右ェ門から言われその線も考えたのだが、話せるのかどうかを確認したところ、頷いたため話すことは出来るが、話そうとはしない、という結果に至ったのだ。

「喋らねぇと色々酷だろ。そのぐれぇの歳なら、言いたい事も山ほどあんだろうに」

 急に真面目になって、声を出したルパンに子供は視線を上げ、ルパンを見つめる。
 それでも言葉を返す事はなく、首を振って答えを出した。

「あぁ、そうかよ!」

 少し怒ったようにルパンが素っ気無く返事をして、わざと子供に合わせていた歩幅を大きくし、普段自分が歩いているペースで歩き出し、子供を置いていくようなそんな光景を作る。
 子供は泣き叫ぶ訳でもなくただルパンについて行き、自分のペースで歩いていた。

「……何で、喋らねぇんだ?」

 本日二度目の質問をしながら前を見たまま立ち止まる。
ニューヨークやカジノ街と比べたら比べ物にならない程の田舎だが、この国の規模で見ればかなりの都会の街の中で、いい歳した大人とまだ小学1年生の子供の姿は誘拐犯と、人質みたいだ。

 街中は賑やかであちこちがどこかのマンガやゲームのコスプレをしたり、メイド服を着たメイドが店の前で売り込みをしていたり、まるで日本の首都にいる気分を味わう。
 けれどそんな都会でも、普通の服装をした者も存在し、普通に学生服を身に纏い、登校する学生や飲食業の制服を着た、店員の声が店の中から微かに聞こえたりと、多種多様な賑わいを見せていた。
 その賑わいの中に、端から見れば誘拐犯または親か、人質または子、が距離を空けて立ち止まっている。

 子供の服装なんてシャツ一枚で、それ以外身に着けていない。
 一目見たときにどう思うだろうか。
きっと『そういう趣味の輩』と思う人の方が多いと思う。
 状況を知らないだけあって誤解が生まれ、勘違いされ、軽蔑され、相手にされない。

 この子供もそうだった。

 話す事を嫌い、怯えていた。
意味がない、ただそう思っていたのだから、小さくなって喋らないのはその考えは、この頃にもう植えつけられていたからである。
 喋りたくない、一度そう思ってしまったら口を開く事は難しいだろう。
 どんなに周りが優しくて、誰一人悪口を言わなかったとしても、一度言われた事は頭から消えることなく、そこに居座り続ける。
興味が無い事は忘れ、興味があること感動を受けた言葉、傷ついた言葉はどれぐらいの時を重ねようとも消えることが無い。
 
「おじさんに言えねぇってか?」

 ルパンは子供に近付いて、見下ろすように子供を見つめる。
その瞳には少なくとも笑みなどは含まれておらず、若干怒気が含まれつつある。

 もし、子供が口を開けば、ルパンは笑顔になり口八丁に喋るだろう。
 もし、このまま子供は喋らずに居れば、想像しただけでも身震いがする。

「無理矢理口を開かす事ぐれぇ、できんだぜ?」

 そう言いながらルパンは懐からワルサーを取り出した。
銃口は子供に向けられている。
 子供は悲鳴も上げないし、顔色1つ変えない。

「このままこの俺に撃たれて悲鳴上げるか、自分から話すかぐれぇは選ばせてやる」

 少しの沈黙。
子供は困ったような表情を浮かべつつ、一旦俯いて暫く、といっても2、3秒ほどしてから顔を上げた。
 その表情はどこか心に決めたような、覚悟をした顔をしていた。

「……分かった」

 ぽつり、子供の小さな口が動いた。
その声は普段耳にする声よりも若干高くて、子供独特の声の高さをしてた。
 ルパンが初めて子供の声を聞いた事になるが、そんな事に喜んでいる場合ではなく、子供の様子が可笑しいことに目を疑っていた。

「自分で……話す、から……」

 何かを訴えたい、そういう気持ちでいっぱいなのだろう。
プルプルと身体中を震わせ、まるで銃口に怯えるように半歩後ろに下がっていた。

「撃たねぇって、そうビビるなよ」

 おちゃらけてワルサーを仕舞ったルパンだが、子供はそれでも表情を変えることはなく、さっき一瞬見せた覚悟を決めた顔はどこへ消えたんだというほど、子供は首をイヤイヤと言うように、横に振っていた。
 一体どうしたのだろうと、ルパンは子供の目線に合わせるようにしゃがみ込み、「どうしたんだよ。普段のお前らしくもねぇ」と子供の頭を優しく撫でている。
 撫でられている事にほっとしたのか、子供はゆっくり息を吐いた。

「今はそうでもないけど、昔は人前で話すのが嫌だったんだ」

 どこか遠く、昔を懐かしむようなそんな表情に切り替えて、子供は空を見ながら呟いた。
空は雲ひとつ無い晴天で、子供に迷いがないそんな事を思わせる程の、晴天だ。
 
「人前で話すと人は必ず、俺を不気味に扱った。子供らしくないだとかひねくれてるだとか、化け物だとか、そんな事を散々言って離れて行った――」
「だから話さなくなったのか?」

 続きを言ったのはルパンだ。
子供は続けようと口を開いた途端に目の前から声がして、肩を竦めながらどこか歪んでる笑顔を向けた。
それを返事にしろという、意味を込めて。

「酷な話なこって」
「そうでもないさ、小さい頃の俺が居るから、今こうしてルパンと会えていると思えば良かったと思える」

 よいしょ、なんて声を上げつつルパンは腰を上げ、肩を回したりとしており、子供はその様子を横目で見ているだけで、対して反応することなく欠伸したりと自由気ままにしていれば、ルパンが子供に向かって「アイスでも食いに行くか」と言ってゆっくり歩き出す。

 **

 昼間というのもあるためか、そんなに寒くはなく、心地よいぐらいの暖かさの中、子供と男がカフェに居た。
 ルパンの発言は何だったのかと、子供は考えるが何となく想像がついたので聞かないで目の間にあるチョコレートパフェを食べている。
 ウエイトレスに勝手に頼んだのはルパンである。

「……何か言えよ、退屈だろ」
「甘い冷たい多い」

 ルパンの目の前に居る子供はパフェを『美味しい』とも言わずに黙々と食べている。
文句か感想ぐらい言えと思ったルパンが発した言葉に、子供は間髪入れずに答えるが、2つは当たり前だが、最後は子供にしたら多いようだった。
 パフェの大きさは大体30cmぐらい。

「しゃーねーだろ。その大きさしかねぇって店員が言ってんだ」

 ルパンはホットコーヒーを口に流し、頬杖を付きながら窓越しに空を見上げた。

「別に文句言ってないだろ、何か言えって言ったから思った事を口にしただけだ」
「それが文句でしょうが!」

 他の客の迷惑になる為、一応声のボリュームは下げているがお互い、表情を見ればどんな感情を持って話しているのか分かっている。
 ガクリ、とルパンは分かりやすく肩を落とし、子供に至っては黙々とパフェを食べ続けている。

「……っ」

 パフェを食べ進めている子供の手がピタリと停止した。
その一瞬を見逃さなかったルパンは「どしたの?」と尋ねるが、子供は何事も無かったように手を進めようとする。
 だが、苦手な物は苦手だ。

「もしかして恋也ちゃん、それ嫌いだったりしちゃう?」

 ルパンが小バカにしたように尋ねる。
口角は上がっており、面白い物を見つけた悪い人面になっていた。
 子供は「うっ」と声を詰まらせつつも、意地で食べようと試みている。

「俺様が食べてあげようかぁ?」

 これまた悪い人みたいに尋ねる。

「べ……別に、バナナぐらい、食べれる」

 段々弱々しくなっていきながらも苦手なバナナを口に運んでいる。
その姿は褒められるものだが、一瞬でその行為は無駄に終る。

「あ……」

 食べようとしていたところに前から手が伸びて、手を掴まれ、自分とは反対方向にスプーンを持っていかれた時に、思わず声が漏れていた。
 スプーンに乗った一口サイズのバナナはルパンによって食べられ、手を離される。
 少し身を乗り出している体勢を元に戻し、再びパフェを食べるのを開始する前に「食べれるって言ったんだけど」と礼を言わずに、拗ねたように呟く。

「無理して食う必要ねぇだろ。食えないモンは食えなくていいってもんよ」

 一言でまとめられ、何も言えなくなった子供は俯きながらも「ありがとな」と礼を述べた。

 **

 落ち着いた雰囲気のあるカフェを後にして、本来の目的である服屋に向かう。
さすがにシャツ1枚と言うのはどうかと思いつつも、ルパンは子供の歩幅に合わせながら歩く。
 暫く歩いたところに服屋があり、中に入ると最近の流行や、昔のものなど幅広く品が揃っておりその中でも1番シンプルなシャツと、ズボンを購入しアジトに戻る。
 ただし、ルパンが悪戯心で何かを買ったのは子供は知らない。

「ただーいまー」

 ルパンの陽気な声がアジトに響けば、リビングのドアがバァンと音を立てて開き、子供に銃口が向けられる。

「何してんの、次元ちゃん」

 子供は驚く事もなく銃口を見つめ、ルパンはドアから出てきた人物、次元に何をしてるのかを問い、次元は「コイツを喋らせるにはこうするしか方法はねぇんだ! 止めるなルパン」と訳の分からない事を言い出した。

「何訳の分からない事を言ってるんだ」

 はぁ、と子供は溜息を吐いて言葉を放ち、銃を構えている次元は当然急に話しだした子供に驚いている。
 そして「ルパン、おめぇが何かしたのか?」と普段の冷静さを取り戻してルパンに尋ねた。

「俺は何もしてやしないさ。コイツが自分から話したってだけだ」

 実際は銃口を向けて話さなかったら撃つという発言をしたのだが、それで口を開いたのは子供なので、ルパンは『自分から話した』と表した。
 一方次元はマグナムを仕舞い、五右ェ門を呼び、4人でリビングに入る。
 各自自分のスペースは無いが定位置になっている場所に行き、単刀直入に次元が子供に尋ねる。

「お前本当に恋也なんだろうな?」
「高校生が消えて子供が現れたんだ、どう足掻こうと俺だろ」
「はっ、そのうぜぇ言い方変わってねぇな」
「そりゃぁ、どうも」

 ルパン一家のいつものやりとりである。
次元が尋ね、恋也が答える、どこにでもある光景。
 次元は恋也本人かどうかは口調などで判断する。
誰かが変装していても、ルパンだったら無理だが、そこらの低級が変装した場合、ルパン一家は本物かどうかはすぐに分かるだろう。
 それほど繋がりがあるとも言う事もでき、それほど恋也は普通と違うことだったりする。

「ところでルパン。恋也の服を買いに行ったのに何故この様な服があるのだ?」

 五右ェ門がガサゴソと袋の中から明らかに女の子が着るであろう服が姿を現した。
淡いピンク地に白のレースがつき、胸元には真っ赤なリボンが付いたフリフリの服が。
 そんな服があった事など恋也は知らない為、顔を引きつらせ、ゴクリと喉を鳴らす。

「何故って、そりゃぁ恋也ちゃんに着てもらう為にでしょ」

 当たり前の様に答えるルパンを見て恋也はリビングから出て行こうとするが、大人の子供の力というより、足の速さは比べ物にならないのですぐにルパンに捕まり、服を渡された。

「着ないに決まってるだろ!」
「仕事でいつも着てる癖に」
「仕事とコレは別だろ! 大体誰が喜ぶんだ!」
「誰も喜ばねぇけど、無口だった罰」

 どんな罰だ、と恋也は思いながらも着れたら問題ないのか着替えてくると言えばものの10分でリビングに姿を現した。

「何か、あんま変わんねーな」

 ぽつり、ルパンが呟いた。

「じゃぁ着せようとするなよ」

 呆れたように恋也が溜息を吐き、ソファに腰掛けた。

「ルパンの趣味は分かんねぇな」

 次元の呟きに五右ェ門、恋也が頷いた。
今日も平和な1日である。

 その日の晩、黒いジャケットを着た男が、恋也のコップに『元に戻る薬』をこっそり入れるのだが、ルパンにバレて、怒鳴られるというオチが次元には待っていた。

 恋也は次の日、元に戻っていた。

  • No.35 by ブラック  2015-02-27 05:16:05 

「ひねくれ者と大泥棒」

元にした作品「ルパン三世2nd」
CP「無」
趣向「日常」
恋愛要素「無」

今回は恋也が小さくなる話です。
なんと言うか色々話が変わっていった結果、こうなりました。

初めはルパンと恋也の2人だけの話にしようかなとか考えて、でもそろそろ次元も出してあげないとな、と思い今の様にルパン、次元、五右ェ門、恋也の4人になりました。

ストーリーは特に無いのですが、1番初めの「**」までが起で、次の「**」までが承、三つ目の「**」が転、最後が結という風に分かれています。

特に場面描写はしていないのでお好きなように想像してください。

今回は恋也について語りますね。

恋也は幼い頃喋るのを嫌っていました。
小学校1年の頃から人の変化に敏感だったので、些細な事にも気が付いてしまう。
小学生なのだから先生に「○○ちゃんが38度4分の熱がある」と言ってしまいます。
言う事は間違っていないけれど、『38度4分』というのが計ってもいないのに分かっていて、周りからは奇妙に思われて、友達がいない状態。

そういった事が何度か続き、それで気が付いたのが「自分は喋らない」という事。

小学生なんだから元気に喋ればいいのに、恋也だけは口を開くことは滅多になかった。
だから小さくなった時も喋らなかったのです。

ルパンにワルサー向けられてやっと喋ったのですが(笑)

覚悟を決めたはずなのに、やっぱり拳銃は恐いのか震えています。
途中恋也の様子が可笑しいのはただ、拳銃を向けられているというのが恐いからです。
半分元のままで半分は子供なので、高校生の時には食べれたバナナも子供の姿の時は食べれない、という訳です。

では、裏話。

最後に次元がドアから出てきて銃口を向けたのは、『喋らす為』です。
五右ェ門と2人で考えた挙句、意味が無かったというオチです。

何故恋也が小さくなったのかは次元が恋也のコップに「小さくなる薬」を入れたからです。
つまり次元は知っていて知らない振りをしていました(笑)
そのせいでルパンに叱られるわけですが。

なぜそんなことをしたのかは、またの機会に書いてみようと思います。

  • No.36 by ブラック  2015-02-28 18:29:47 

 本日56回目の溜息。
1日で56、1週間で言えば125回目の溜息。

「――あのさ……いい加減決着付けてくれないと、こっちも色々事情ってもんが……」
「あら、レディにそんな事言う気?」

 赤いブレザーを身に纏い、制服姿で居る少年――六条道恋也に、スタイルが良い女、文字通り胸も大きく、腰周りも女性誰もが憧れるスタイルの女――峰不二子が上目使いで少年を見上げる。
 その状況だけ見れば口説いていると言うと思うがまぁ、口説かれていると言えば口説かれているようである。
 恋也本人は適当に流したりとしている様だが。

「そんな事って、俺の本業は『学生』。盗みが副業ってだけ」

 はぁ、と本日57回目の溜息を零す。
1日でこんなに溜息を吐く事はないのだが、ここ一週間溜息しか出てこないとしか言えない状況である。

 **

 ―1週間前―

「――って、何で不二子ちゃんが居るの?」
「あらやだ。私が居るのはいけないの? ルパン」

 ルパン、次元、五ェ門が次の仕事の打ち合わせをリビングでしていた時だった。
 丁度音もなしにやってきた不二子がその話を少しだけ聞いており、ルパンが話し終えたと同時に不二子がリビングに繋がる木製のドアを開いたので、正確にはほぼ聞いていないのだが、居ないと思っていた者が居たのはルパンにとっても驚きだ。

「不二子と組むなら俺は降りるぜ」

 はっ、と次元がお決まりと言うように鼻を鳴らし、ガラス製のテーブルの上にソファから伸ばした足を置き、片手を頭の後ろに当て、バーボンを飲みながら仕事をしないと宣言する。
 当然いつもの事なのだが、不二子は次元の発言に腹を立て「ちょっと何よ、まるで私が疫病神みたいな言い方じゃない!」フンッと腕を組んでそっぽを向く。
もう一度言おう、いつもの事だ。

「疫病神だろ、お前さんは。いつも裏切りやがって」

 机から足を下ろし、右手に持ったグラスを不二子に向けながら馬鹿にするような言い方で、左手を胸の辺りに持ってきて、ヒラヒラとさせてあっちに行けという動作をした。

「ルパーン、私って疫病神なのぉ? 正直に言ってお願い」

 不二子お決まりの色仕掛けでルパンに近付くが、今回ばかりは不二子に裏切られる訳にはいかない仕事なので、ぎこちない笑みを浮かべつつもルパンは「今回はちょぉっと厄介なのよ。不二子ちゃんには悪いけど、仕事の内容は教えられないんだ。でも不二子ちゃんが疫病神って事はないんだなぁ」といつものおちゃらけた調子で返事をした。

「ルパンがそう言うなら今回は身を引くわ。こっちはこっちで好きなようにしているわけど、恋也君は借りるわね」

 此処には居ない(学校の為)、少年の名前を不二子は口にした。
ルパンに絡めていた腕を解いて窓際に腰掛けるように座った不二子はルパンに確認を取るように「仕事の邪魔はしないから良いでしょ?」とルパンに交渉を持ちかける。
 だが、ルパンもルパンで恋也と組む気でいた為、すぐに『分かったよ』と頷くことは出来ないでいる。

 丁度その頃合に、恋也は授業を終え、帰宅してくるのだが……。

 ―帰宅途中―

「っていうかさ、今回のテストふざけてるよな。範囲広すぎだろ!」

 肩を竦めつつ友人の話を聞いていた恋也は、正直テストの事は考えていなく、どうせ点が取れるのだから考えなくても問題は無く、分からないところがあれば兄かルパンにでも聞けば何とかなると思っているので、心配すらしていない、とも友人相手だと言いにくいので、肩を竦めるという行動だけで返事をしていた。

「分かろうとしなければ、分かるものも分からないままだって」

 一応アドバイスをしておいた方がよさそうだったので、思いついた言葉を適当に並べておき、そろそろアジトにでも帰るかと思っていた。
そんな時に目の前に夕日から銭形が現れた。
 いや、決して銭形が太陽から「よう!」と言うに出てきたと言うわけではなく、ただ夕日が丁度道に虹の様に掛かっており、反対側から歩いて来た銭形が、夕日から出てきたように見えたというだけだ。

「ちょっと良いか?」

 銭形は恋也、隣で歩いていた恋也の友人に声を掛けて、とある1枚の写真を2人に見せた。
 黒髪で長さは肩ぐらいまであり、前髪を真っ赤なピンで留めて、頬にスペードのAと描かれ、サングラスを掛け、右手で外国人がよく使うグッドのサインをし、その右手を逆さまにし、左手は中指だけを立てた男の写真を見せた。
 しかも右手は男の右側の胸元にあり、若干傾いていた。
一度、首を斬る動作をした後の傾き具合だった。

「この男を見なかったか?」

――何で持ってんだよ!

 恋也は心の中でそう叫んだ。
いや叫ぶしか方法は無かった。
だって自分自身なのだから。

 そんな事を言ってしまえば、自分は裏社会の住人だというのを友人に告白するようなものだ。
学校や家庭内では『表世界の住人』と言うのを演じている為、家族内はともかく友人には『裏世界』ましてや『ルパン三世』のメンバーの1人など、言える訳もない。

「……この男が、どうかしたんですか? 見た目的には失礼ですが、犯罪者という感じですけど」

 出来るだけ丁寧に、そして笑顔を崩さず、問いただす。
自分に何の用か、それを聞きださない限り、情報など提供しないのが常識である。

「高校生に言うのは気が引けるが、コイツは悪党だ。それも色んなものを盗んでる、な」

 それだけを聞いて、恋也は自分の写真を見ていつ撮られたものだろう、と的外れな事を考えていた。

「名前は?」
「ギルティ・クラン」

 友人の問いに恋也が普段の授業中の表情で答える。
銭形は犯罪者の名前を知っていたことに驚いたようで、目を見開きつつも「よく知っているな」と口を動かした。

「まぁ――色々調べてたら、色々な事を知ったって言う方が正しいか」

 自分自身だ、なんて言えないので適当な嘘で誤魔化し、自分たちにギルティの事を聞いてくるという事は捜査中なんだろうと言うのは聞かなくても理解できたので、先に恋也がミスをする前に「時間をとらせてしまったようで悪いですが、俺が知っているのは顔と名前だけです。この辺りでは見かけていません」と申し訳なさそうに肩を竦めつつ、口を動かした。

「そうか。でも気を付けろよ、コイツもルパンと同じで変装の名人だからな」

 ヒラヒラリと写真を振りながら銭形は恋也とその友人を通り過ぎて行った。

 **

「だーかーら! 邪魔はしないって言ってるでしょ!」

 ルパンアジト、と言うわけでもなく、ただ恋也が買っていた家の1つで特に使う用事も無かったので、この国での仕事の時は今居る家を使うことになっている。
 そのせいで修理代がかなりの額になってしまう事があるのだが、その辺りは大体と言って良いほどルパン持ちである。

 そんな一軒家の一室では口論が行われいた。
『恋也をどっちに組ませる』という、実にくだらない内容の言い争いを繰り返している。

「ルパン! あなたには次元と五ェ門が居るじゃない! 私は1人なのよ!」
「よく言うぜ、普段1人で抜け駆けしてるくせに」
「アレはアレ、コレはコレよ!」

 いい加減、もうそろそろ何か物が飛び出そうだ。
不二子が近くにある物でルパンを殴っても良い頃なのだが、そうしてしまうと恋也からのきっついお言葉が待っている為、やりたくても出来ない状況だ。
 実際ルパンが何回も恋也に「一週間外出禁止」や「銭形に引き渡す」や「晩飯タコ」など、ルパンにとって不利になる事を言われているのを不二子も知っているので、家主の物を壊すという事は出来ないのである。
 仮にしたとしても、恋也に色仕掛けは通用しない。
それがオチなのだ。

「ちょっと五ェ門! ルパンに何とか言ってよ!」

 五ェ門に振ったのだが、五ェ門はルパンの味方なので、不二子に従うことはなく「不可能でござる」と一言、次元の向かい側にあるソファで座禅を組みながら返答する。

 完全に味方が居ない不二子。
それでも諦めたくないのか、不二子はどうしても恋也を貸してもらおうと、ルパンに必死にお願いをしている。

「だから俺も今回は恋也ちゃんは必要なのよ、分かって頂戴」

 手を合わせてお願いするルパンに目もくれず、嫌だと言う不二子にガクリと分かりやすい動作をしつつ、イスを反対向きに座って、背凭れに腕を回している。

 その様子を見ている次元と五ェ門の気にもなってやれないのだろうかと、後々恋也が呟いていたのだが。

「いい加減にしねぇとこっちの仕事の話進まねぇぞ、ルパン」

 次元がグラスを揺らしながらルパンに告げた。
かれこれ30分は経っているだろう。
いい加減に話が終らないと仕事の話も出来ないため、早く終らせろと言う様に、次元は空になったグラスをテーブルに置いて、ソファの肘掛に膝を掛けて、ソファに横になった。

「分かってるけどよ……」

 恋也なしで仕事をするか、恋也を含んで仕事をするかそう言った事を悩みつつ、不二子の頼みなので断れず、そんな優柔不断な思考がぐるぐると頭の中を回っている。

 ――とその時、ドアが開かれた。

「ただいま。不二子も来てたのか」

 日本人の血が多いからだろうか、日本人特有の『ただいま』を言って独り言の様に呟いてから、どうせ来てるなら、リビングだろうと思った恋也は、リビングまで歩いて行き、リビングに繋がる薄い茶色のドアを開く。

「……俺入らない方が良かった空気?」

 ドアを開けた瞬間恋也が目にした光景は、自分から見て左側にイスに反対向きに座るルパンと、手前のソファに横になっている次元と、その向かいのソファに座禅をしている五ェ門と、自分から見て右側に、大人しい服装をして凄い怒っているというのが分かる不二子が居た。
 一瞬入らない方が良かったのかと思い、距離的に1番近い次元に尋ねてみた所、別にそういう訳でもないようで、軽く息を吐いた。

「もう良いわ! 直接恋也に聞くもの!」

 最終手段、と言うよりお得意と言った方が納得されやすい不二子の十八番。
恋也に近付いて首に手を回し「ねぇ、私とルパン、どっちが好き?」なんて色気のある声を恋也の耳元で出しながら尋ねる。
 
「どっちもどっち。良し悪しがあるから何とも言えない」

 さすが私立名門高校の校内2位の回答である。
解答用紙のような返答をしたのは良いが、何となく違うような気もしていたが、状況が掴めないので、不二子の様子から伺おうと考えている。

「そうじゃなくて、私とルパン、一緒に寝るならどっちを選ぶ?」
「迷わずぬいぐるみ」

 その場に居た、次元と五ェ門が吹いた。
無理もないだろう、選択肢に無いそれも人ではなく物と一緒に寝るというのだから、笑いもする。
それを笑うなと言う方が難しいに決まっている。
 絶対に答えてはいけない質問だな、と思った為ただの嘘なので不二子にもばれているのは承知だが何故、その質問をしてくるのかと予想するしかない。

「真面目に答えなさい!」
「はいはい」
「『はい』は1回!」

 親と子のようなやり取りをしつつも、不二子は自分の脚を恋也の脚に絡めて「お姉さんとイイコトしない? とっても楽しいこと」と上目使いで尋ねる。
 ここでの『イイコト』は思春期が思う事ではなく『盗み』の事だ。

「ベッド行きの方はしたくないな。気分じゃないし」

 少し口角を上げ、困った笑みを浮かべながら恋也は口を動かすが、実際のところどっちの意味でも捉える事が出来るので、あえて片方はやりたくないと反対するが、もう片方もやりたいとはあまり今のところは思っていない。

「そんな事じゃないわ、もっとスリルがあって楽しいことよ」

 どうしても自分の味方にしたい不二子は手段を選ばないようで、恋也に顔を近づけてそのまま口付けをしようとした所で見ていられなくなったルパンが、不二子を引き剥がそうとイスから立ち上がり、不二子にめがけて文字通り飛んできた。

「キスは、お預け。可愛らしいレディに相応しい所でキスは行おうか」

 ルパンが飛んでくるそれより先に不二子の顎を優しく摘まみ、ホストが言うようなセリフを恥じらいもなく吐き、自分に密着している不二子からすり抜けて、飛んで来たルパンの服を掴み、自分の後ろに立たせるように、腕をゆっくり後ろにした。

「何があったか知らないけどさ、色仕掛けで俺にいう事聞いてもらうって言うのは、さすがに無理だと思うな」

 ルパンと不二子から離れ、ルパンが先程座っていたイスの向きを正しい向きに変え、腰を下ろして脚を組みながら言う恋也に次元は、鼻を鳴らして「よく言うぜ」と放った。
続けて「この間路地裏で女人に口説かれていたのはどこの誰だ」と五ェ門。

「お詳しい事で、まぁ、俺も商売してるんで、ただの商売相手だな。基本女を扱う商売してるから口説かれてるのか、口説いてるのかよく分からない時があるけど」

 両手を少し広げ、そのまま上に軽く上げ、何故そうなったのかと言う理由を述べる。
 だが、そんな事はどうでもいい。

「恋也ちゃーん、俺とディナーでも――」
「ディナーの前に課題」
「ちょっと! 私が先に話してるのよ! あっち行ってて」

 何が何だか全く分からない状況で、恋也ははぁ、と1週間の1番初めの溜息を吐いた。

 **

 月日は流れて1週間。
 恋也もルパンと不二子が自分に何故色々聞いてくるのか、次元と五ェ門に理由を聞き、理解したところで、暫く様子を見ることにした。
それからというものお互い自分の物にしようという思いが強いのか、時にスリル、時にセクシーな事をやってくる。
 ルパンなんて今回一緒に組めば何でも望むものを盗んでやると言い、不二子は不二子で、味方になれば抱いても良いとか言い出した。
 この大人2人は本当に大丈夫なのだろかと恋也は不安になっていた。

 どうせ決着もつかないのは分かりきっていたので、1週間目の今日、恋也はリビングでルパン、不二子に向けて言葉を放つ。

「自分のやり方で、俺を惚れさせてみろ。俺が惚れた方に俺は組む」

 それだけ言ってリビングから出て行き自室に戻った。
埒が明かない、そう思ったのでそう判断したのだが、あまりよろしくない予感が恋也を襲いそれは確信に変わるのだが。

 ―丹神橋高校1年A組―

「担任の先生体調不良だって、大丈夫かな」
「え……。命に関わる病気とかじゃなければ良いけど」
「あの先生ウイルスまで栄養素にするからな、まぁ、大丈夫だろ」
「そうだと良いだけど……、やっぱり心配」
「だよなぁ。急だから余計気になるよな」

 クラス中が担任は大丈夫なのか、命の関わるのかという話題で持ちきりだった。
朝登校してきた生徒はホワイトボードに映し出された文字を見た途端、顔色を変えて心配をし始めた。
 此処丹神橋高校は私立の名門高校として有名である。
中学で学内1位の人が入れるか、入れないか、というぐらいの難しさだ。
 定員が足りない時もあれば、定員オーバーの時もある。
 名門高校なので設備は整っている。

 外壁は白を基調とし、H型の校舎は特別棟と普通棟で分けられており、真ん中が渡り廊下になっている。
 廊下にもクーラー、エアコンが行き渡り、食堂は普通なら180円するものを無料で食べることができ、個人の注文にも答えてくれる。
 廊下内にエレベーターが設置されており、生徒も自由に使えて更衣室などにも、クーラー、エアコンがある。
 しかも授業が始まる前に自動で室内の寒暖を調節をしてくれるのだ。

「……恋也、代わりでくる先生ってもう見たのか?」

 友人が恋也に声をかける。
恋也も変わりに来る教師の事を知らないのか、首を振った。

「俺は見てない、HRには来るだろ」
「そうだな」

 丁度チャイムが鳴り、恋也の席まで来ていた友人は自分の席に戻っていった。
 そして、ドアが開かれ、1人の青年が中に入ってくる。
 見た目は黒髪で背は170後半、体型も細く、水色のワイシャツのボタンを2つ開け、黄色のネクタイを緩めに締め、赤のカーディガンに、黒のスラックスを身に纏っていた。

――ま、まさかな……。

 恋也は汗を流して教室に入ってきた教師を見つめるが、『教師』としてそこに立っている男は、ホワイトボードに字を書き始めた。

「西山快刀(にしやまかいと)です。まだ大学を出たばかりで、教師として初めてなので、色々宜しくお願いします」

 挨拶をする快刀に対し、恋也は頭を抱えたくなった。

「科目は数学ですが、ある程度は出来るので気軽に質問してください」

 笑顔に話す快刀には関わらないようにしようと思うのだった。

 ―学校 図書館にて― 

「あの先生イケメンだったな!」
「そこまでテンション上げる必要ないと思うけど」
「何言ってんだよ! 恋也良いか、よく聞け! イケメンという事は、つまり……モテる、恋也と張り合えるレベルだって、アレは」
「いや別に俺は張り合いたいとは思ってないし、自分が格好良いとも思ってない」

 溜息混じりに返答を返す恋也に友人――守烙坐星汰(かみらくざせいた)は分かっていないと言うように、恋也が使っている机に身を乗り出して、恋也に指を差した。

「分かってないな、恋也は校内で誰と付き合いたいランキング毎月1位の癖に、自分がイケメンじゃないとでも!?」
「そうだとしても、俺はそんなのに興味はない」

 実際誰が行ったかも分からないアンケート結果など、興味が無い。
一言でそう言ってしまったのだが、大体新聞部や写真部が共同でアンケートを行ったのだろうと予想ぐらいは出来、それ以上言うつもりもなく、席を立ち先に帰ると星汰に告げた。

「ちょっと待てって! 俺を置いていくのか! 1人でこの館内の本の整理をしろってか!」
「喋ってる暇あるならさっさとやれ」

 鞄を片手で持って、もう片方の手でヒラヒラと手を振っては図書館を後にしようとする。
ドアの前で一旦立ち止まり、後ろに振り返って「1人で終らせたら、今度飯でも奢ってやる」と軽く微笑みながら、今度こそ図書館を後にした。

「そんなんだから、人気あるって知らないのか」

 1人ポツンと残された館内で呟けば、再び本の整理を始めた。

 ―廊下にて―

「楽しそうじゃねぇか」

 不意に右から声がした。
曲がり角になっているので、角に隠れているのだろう。
 
「別に、楽しいって程のものじゃない」

 相手は誰だか分かっているので、あまり名前を言わずに返答する。

「色んな奴にモテてる癖に」
「お前もそれを言うか」

 恋也は声がした方に行き、思った通り快刀が居たのだが、快刀の持っている今月号の校内誌を奪い取った。
 一通り目を通すと、やっぱり『今月の付き合いたいランキング』に自分の名前が載っている。
 何が楽しいのか、それを知ってどうするのか、恋也には分からない。
 自分がイケメンだと言われたらそうなのだろう、自分ではイケメンなどとは思っていないけれど周りから見たら、自分はイケメンの部類に入るのだろう、そう思っている。

「毎回何で俺と付き合いたいって思うのか分からないな」

 奪い取った校内誌を快刀に返し、廊下の壁に凭れるように背中を預けて天井を見上げる。
白い壁に穴など開いてはおらず、それほど清潔にされてるのか、礼儀正しいのか、自分では判断がつかないほど、この学校は綺麗過ぎる。

「簡単な話さ。お前が優しすぎるんだ」
「優しいって言われてもな……」

 納得がいかないような返事をしつつ、その場から去るように背中を離す。

「そう言えば六条道――」
「変装は上手いけど、そのファッションどうにかならなかったのか? すぐに分かったけど」
「こっちの方が分かりやすいだろ」

 あそう、適当に返答すればそのまま快刀から離れていき、急に教師口調で話しだした快刀のセリフを遮って言ってしまった事に反省せず、そのまま帰宅して行った。

 **

「次元、ルパンが俺の学校に来たんだけど」
「ほっとけ、すぐに飽きるだろ」

 適当にあしなわれた感を覚えつつ、リビングのソファに鞄を下ろし、キッチンで紅茶を作っていると、玄関のドアが開く音がした。
 ルパンは学校、次元はリビング、五右ェ門は買い物、となると、残るは不二子か銭形だろう。
そっとポケットに隠してるナイフに手を伸ばし、誰かが来るのを待つ。
 するとドアが開かれ、見慣れた姿が目に入る。

「ちょっと次元! ルパンが恋也の学校に居るなんて聞いてないわよ! 教師は私のアイデンティティよ!」
「何がアイデンティティだ。お前さんは秘書でもやってろ」

 峰不二子、敵襲ではなかった事に安堵しつつも不二子の言い方に違和感を覚える。
何か可笑しい、そう思ってはいるものの何がおかしいのかよく分からない。
 暫し考えて『ルパンが恋也の学校に居る』というセリフに顔が引きつるのを覚えた。

「まさか不二子まで俺の学校に来てるのか!?」

 紅茶を淹れたカップを持ちながら、恋也はキッチンから出てきた。

「ちょっと急に出てこないでよ!」
「あぁ、悪い。ってそうじゃなく、何で2人も来る必要があるんだ! 体調崩した教師は1人だ」

 ルパンを見てから、ルパンが何かしたのではないかと思ったのだが、職員室に行って前の担任がどうなったのかを尋ねてみると、インフルエンザだったと隣のクラスの担任に教えられ、安堵していた。
偶然体調を崩したのは1人で、ルパンが変装してやってくれば不二子はどうやって、教師として学校に入ったのだろう。

「ルパンは担任、私は転職してきた先生よ。ちなみに次元はルパンのボディガード」
「お前もか」

 次元を睨みつけては呆れて、ソファに腰掛け紅茶を口に流した恋也はカップをテーブルに置き、ソファに横になった。
 いくら自分から言った事でもそこまでするのかと言う、大人の本気を知らされた気分になる。
 よくルパンが『大人は怖い』と言っていたのを思い出し、まさにその通りだと知る。

「ところで恋也君、お姉さんが楽しい遊びをしたくない?」

 不二子は横になった恋也の太腿をなぞる。
本気で組みたいのかと思うのだが、「したくない」と返答する。

「そんなにルパンが良いの?」

 不二子に聞かれた質問だった。
いつもの様にお色気たっぷりの声ではなく、真面目に聞かれたんだとこの時理解し、不二子の表情を伺う。
 
「不二、子……?」

 不二子の名前で呼んでも、不二子は返答することなく、恋也から離れていった。

 **

「大分てこずってるじゃねぇかルパン」
「今回ばかりは恋也を組ませねぇとならねぇんだ」

 恋也が眠った時間帯に次元とルパンは酒を飲みながら、リビングで話し合っていた。
次元がいつも通りにてこずってると言ったら、真面目な顔つきでルパンはグラスを傾けながら、返答した。
 
「そんなに厳しいセキュリティでもないのにか?」

 次元の問いにルパンはグラスの中に入っているウイスキーを次元にかけた。
その表情はどこか焦っているようにも見える。

「バカ言ってんじゃねぇ。約束しちまったんだよ、アイツと」

 ルパンにとって今回盗みに行くのはただのついで。
それを伝えていなかったのも悪いのだが、何かを約束したというルパンに全身ウイスキーまみれになった次元はソファから立ち上がり、タオルで濡れたところを拭く。

「何を約束したか知らねぇけどよ、ソファ汚したらまた怒られんぜ」
「次元ちゃんが俺をマジにさせるからでしょ」

 肩を竦めながらいつもの様にルパンは返答する。
本当に次元にとっても訳が分からないが、1つ言えるのは、そこまでして何かをしているという事だった。
 次元は鼻を鳴らし「おめーが紛らわしいことするからだ」と言って、そのままリビングから出て行った。

「アイツは覚えてねぇだろうけどな」

 窓の外を見ながら呟いたのだった。

 **

「ここにwillがあるのでこのareはbeに変わるのよ」

 不二峰子(ふじみねこ)が恋也のクラスで英語を教える。
考える事は同じ様で恋也は溜息が出そうになったが、さすがに友人に聞かれると面倒になると予感したので、誰にも愚痴らずに暫く日々を過ごしている。

 大体1週間と言って良いほどの時間が経った時、不二峰子が恋也を空き教室に呼び出した。

「あなた、自分で出した条件、覚えてる?」

 『教師』ではなく『不二子』として質問する。
やっぱり恋也を誘う気なのか、スカートは短めのを穿いており、黒のタイツを穿いている。
机に腰掛け脚を組むのをゆっくり行ってはいるが、それで心が揺れると言う訳でもなく、恋也は「俺を惚れさせた方に組む」と言い、内側からロックをかけた。

「あら、自分から閉じ込められる事になるのよ?」
「別に窓から飛び降りれるから問題は無い」

 放課後と言うのもあり、校内にはほとんど生徒や教師も居ないだろう。
そんな中、窓から飛び降りたって見られていても、気にする事はない。

「ねぇ、恋也君。私と組めば楽しい事沢山してあげれるわよ」

 そう囁くように言って不二子は机から降りて、恋也に近付く。
ドア付近に居る恋也は動かないで居るが、不二子が目の前にやってきて、そのまま壁に押し倒される。

 ちゅ。

 何かが、触れる感覚を覚えつつ恋也は不二子を見つめた。
自分にキスをした女性、胸を押し付けて脚を絡めて、自分の欲のままに動く女性。

「ね、ルパンはこんな事しないでしょ? 私と遊んだ方が、楽しいのよ」
「……そうかもしれないな。女と遊べば女を抱ける。でもさ不二子、俺は女を抱くという事に興味がないんだ。ただ女から抱いてというから抱いてるだけで、楽しいと思った事は一度もない」

 申し訳なさそうに恋也は告げた。
何度か抱いて欲しいと言われた事はあった。
 だから恋也は抱いたのであって、自分から女を抱きたいとは思ったことが無い。
それは言い方を変えると、女に興味がないとも言える。

「不二子にとったら色仕掛けが最大の武器なんだろうけど、俺は通用しない。どんなに不二子が俺を誘ったって、俺は何も感じないんだ」

 肩を竦めて苦笑いをした。
いくら自分が出した条件であっても、不二子に勝ち目は無い事は不二子自身も分かっていた。
 ルパンしか見ていない、そう思うと不二子は勝てない。
 女に興味がないと言っても、不二子のスタイルは皆目を引く。
不二子に魅力がないと言う訳ではない。
 女子高生に比べると色気もあり、男の扱い方を知っているのだが、恋也はルパンしか見ていないから、不二子がどれだけ色仕掛けしても意味が無い。

「それほど、ルパンが好きなのね」

 珍しく諦めが早い不二子。

「好きって、俺がルパンに好意を抱いているみたいな言い方……」
「抱いてるでしょ」

 とどめの一言だった。

「あぁ、抱いてるよ。自分でも分からないぐらいに惚れてしまってる」

 初めから、惚れているのはルパンなのだから、不二子に勝ち目は無い。
仕事自体はどうでも良かった。
 変装しろと言われれば変装するし、女装して恋人の振りでもしろと言われればそうするだろう。
何でもする。
それが自分のするべき事で、自分しか出来ないことだと思っている。

「……でもさ、そんな事知られたら俺はルパンともう組めないだろ」

 恋也の今の表情なんて不二子でも分かるぐらい、泣きそうだった。
それもそうだろう。
 好きな人がルパン三世で、そんな事を本人が知ればもう組ましてもらえない。
そんな事、言葉にしなくても分かるぐらいの事だった。
 二度と組ませてもらえない、相手にもしてもらえない、きっと建前上では笑ってくれるだろうが本心では気味悪がるだろう。

「だから言わないでくれよ、俺がルパンを好きだって事」

 ワザと微笑みを浮かべた。

「もうおせぇよ」

 不意に不二子からルパンの声が聞こえる。
まさか、と思っても遅かった。

 ビリビリと不二子(変装)が捲られていく。
恋也の目の前には見慣れた男の姿がそこにあった。

「ル、ルパン……」

 逃げようと後ろ手で鍵を開けようとしても、それを阻止される。
 服も作った物なのか、いつの間にか教師としての服を身に纏ったルパンが目の前に現れ、一歩後ろに下がれば、ドアにぶつかる。

「何で、不二子に化けて……」

 焦っている恋也は自分が言った事も忘れて、この場から逃げ出そうと必死になっている。

「お前さんが言ったんだろ? 自分のやり方で俺を惚れさせてみろってな」

 図星の表情を浮かべる。
どう考えても、自分が言ったことなので、逃げることは出来ないと感じ、その場に崩れる。

「……完敗だ」

 負けた。
簡単に言ってしまえば負けたのだが、掌の上で転がされているようで、自分の無力さを知り、どうやっても勝てないというのが何だか酷な気分になる。

「俺の負けだ。やっぱりアンタには敵わない敵いっこない」

 条件は『恋也を惚れさせた方が勝ち』。
とっくに結果が分かっている勝負など、誰もしようとは思わない。
 それなのにこの男は勝負を受けた。
 初めから知っていたのだ。
恋也がルパンに惚れている事など、知っていて知らない振りをして、勝負に挑んだ。

「お前から本心が聴けるとは思わなかったけどな」

 肩を竦めながら言うルパンに対し、恋也はドアに凭れながら「だから諦めが早かったのか」と呟いた。

「ご名答。お主もまだまだ修行が足りぬぞ」

 指をパチンと鳴らして、ルパンは恋也に指を向ける。
その瞬間恋也は何を思ったのか、顔を赤くした。

「って事は俺、ルパンとキスしたのか……」
「今頃気付くの」

 ガックリと肩を落とし明らか落ち込んでますという雰囲気を出しつつも、恋也は口元を手で押さえ、視線を逸らしていた。
 その様子を机に腰掛けて見ていたルパンは頬杖を付きながら、「でだ、恋也。今回やれそうか?」と尋ねる。

「やるに決まってるだろ!」

 ほぼ反射と言って良いほど後先考えずに発言した。

 **

「信じらんない! 私が眠らされる間に決着つけるなんて、ルパンの卑怯者ー!!」
「言ったでしょ? 今回の仕事は厄介なんだって……」
「知らない」

 完全に愛想尽かされたなと恋也はぼんやりと思いながらも、テーブルの上にあるカップに手を伸ばしミルクティーを口にする。
 本当に何故ルパンに惚れたのか、自分でも分からないぐらい今のルパンは惨めだと言える。

「そこまでにしといてやれ」

 次元の一言で不二子は渋々と言う形でルパンを殴る手を止める。

「ところでルパン、この作戦に不二子も入れるとは本当でござるか?」

 床で座禅をしていた五右ェ門が尋ねる。
五右ェ門の質問にルパンはいつもの陽気な声で「そっちの方が面白いだろ」と告げた。

 作戦実行は今夜。

「しかしまぁ、厄介な仕事にしたな」

 次元がルパンに声をかける。
ルパンはイスに反対向きに座りながら「約束したって言っただろ」と言った。

 **

「銭形警部! ルパンが現れました!」
「何をしとるんだ! さっさと追いかけんか!」
「は!」

 いつもの様に銭形は指示を出しているが、どこか違和感を覚える。
何故こんなところに盗みに来たのだろうかと。
 対して良いものがあるわけでもなく、簡単に言ってしまえば今にも崩れそうな建物に何があるというのだ。

 そう思っていると1つの人影を見つける。

――ルパンか、いやあれは……。

「こいつは貰ってくぜ。とっつぁん」
「次元!!」

 見覚えのあるシルエットが銭形の目の前に現れる。
上から下りてきたシルエットはルパンの相棒の次元大介。
 手には盗まれた筒がある。
ルパン達はこれを盗んだのだ。
 銭形は盗まれた物を取り返す為に次元を追いかける。

『次元はコイツを持ってとっつぁんの前に行って、とっつぁんをおびき出せ』

 ルパンのからの指令を聞いて初めは訳の分からないと思っていたのだが、ルパンの『どうせ見るなら全員で見た方が面白味があるだろ』という提案で打ち消された。

 ―ルパン&不二子―

「上手くいったみたいだな」
「それよりどういう事なの? 良いものが見れるって」
「それは見てからのお楽しみ」

 ニシシと笑うルパンは不二子には『良いものが見れる』とだけ伝えている。
当然それだけでは乗らない不二子なので、ついでに盗みに来た宝をやると言えば二つ返事で了承したのは、不二子だからなのだろう。
 
 古びた窓から次元が銭形に追われる姿を見つつ、警官がやってきたので、気絶させて上を目指して階段を上る。
 鉄で出来た螺旋階段は足音が響くが気にしている暇はない。

――5時半か。

「五右ェ門はちゃんと上にいるのよね?」
「多分な。居なかったら連絡も入ってこないだろ」

 上に着けば連絡を入れる事になっている。
誰が1番初めに上に着くのかは事前に決めており、五右ェ門がこの建物の屋根の上で待機しているのだ。
今居ないとしても、先程連絡が入ったので、ルパンと不二子は上に向かって走り出した。

 ―恋也―

「何で俺が……」

 コツン、靴を鳴らして中に入る。
 宮殿と思われるそこは、上を見上げたら当然高そうだった物が大量に飾ってあり、左右を見れば賢そうな偉人の絵が飾られている。
今は大分古びているけれども。

 此処のセキュリティは厳しくない。
誰でも物は盗む事はできるのに、ルパンに『お前が盗め』と言われたので、盗むしかない。

 見たことある宮殿だが、そんな事を言っている暇はないのだろう。
6時には上に来いと言われた為、急いで作業を開始する。

 次元が持っていったニセの筒をどうやって用意したのかは知らないが、アレと似たような筒がこの中にあるらしい。
 それしか言われておらず、どうやって盗めば良いのかは普通は分からない。

 一度、盗みに来ていなければ。

――確か、ここだったよな。

 傍に置かれているピアノの鍵盤を押す。
煩くはないが、今恋也が居る場所は警察も居ないので、全体に響いたようにも感じる。
 
 ガタンッ、何かが動いた。

 ゆっくりと本棚が動きだし、金庫のような物が姿を現す。
何とも古いやり方で保管しているのだろうと思いつつも、南京錠に手を伸ばす。
 鍵は持っていないが、ピッキングは得意分野だ。

 カチャ。

 鍵が外れたので、南京錠を外し、金庫の取っ手を引く。
確かに中には次元が持っていた筒と同じ物が入っていた。
 違うのは古さだけだった。

「ルパン、言ってた筒、手に入れたから俺も上に向かう」
『早いな。上に来る道中警察には気をつけろよ』
「了解」

 無線を切って、階段を上る。
何故1階だけ木製で2階からは鉄の螺旋階段なのだろうかと思いつつも、長い階段を上っていると7階あたりに気絶している警官を見つけ、ルパンと不二子はもう上にいるのだと思い、後を追う。
 所々古びてるから階段に穴が開いていたのだが、飛び越えたりとしていると大体9階ぐらいで窓が割れた。

「とっつぁんもしつけーな」
「俺はルパンを捕まえる為にお前を追いかけとるんだぁー!」

 目の前に次元が現れ、そのまま銭形から逃げるように上に向かう。
一応今の姿は黒いフードに髪を縛っているのだが、一度顔を見られたので、あまり顔は見られたくない。
 その思いでフードを深く被る。

「ルパン、もう着くぜ。そっちはどうなんだ?」
『次元か。こっちも予定通りに進んでるぜ』
「あと何分だ」
『あと10分だな』

 恋也の隣でやり取りを繰り返しているのを聞きながら、集合場所の屋根に辿り着く。

「遅かったでござるな」

 屋根に続くドアを開けて開口一番が五右ェ門であった。

「なんだ、なんだ。五右ェ門に不二子にルパン!?」
「銭形のとっつぁん。丁度良い所だったぜ」
「お前ら一体何をしとるのだ?」

 銭形の問いにルパンは暫し考えた振りをして、すぐに口を開いた。

「何って、約束を果たしただけだって」

 陽気なその声は銭形にとっては意味が理解できずにいる。
無論、次元、五右ェ門、不二子は理解しているのだが、此処にもう1人理解が遅れている少年が居た。

「約束って、誰かと約束したのか。ルパン?」
「おいルパン、本人が忘れてやがんぜ」
「覚えてねぇのも、無理はねぇよ。まさかあん時のがお前だったとはな――ギルティ」

 聞いた事のある名前に恋也は身構えた。
自分が、此処に来たことあるのは1人で盗みを働いている時だった。
 腕試しに忍び込んで見たのだが、ルパン三世に見つかり、宝を持っていかれた。
 その時は特に悔しいとも憎いとも思わなかったのだが、ルパンにまさか『そんな顔するお前さんに盗みなんて似合わねぇよ』と言われるとは思っていなかったが。

 大分暴言を吐いた記憶があるが、それでもルパンはギルティという偽名を使っていた恋也を撃つことは無かった。
 それは彼の持っているものとも言える。
 それだけルパン三世は器が大きく、余裕があるのだろう。

「言っただろ、お前がイイ男になった時に良いモンを見せてやるって」

 ルパンの表情は笑っていた。

 **

『まさか、ルパン三世に盗まれるとは俺も思わなかったな』
『結構噂になってたから、腕試しって事で様子見させて貰ってたけどな』
『悪趣味な奴』
『お前が言うなよ』

 屋上で話しているのにも関わらず、警察は居ない。
誰も予告状を出してはないのだから当然なのだ。
 ルパンは噂になっているギルティ・クランという少年とただ腕試しをしていた。
 自分の気配に気がつけば結構な実力があるのだろうと思っていたのだが、盗みを始めたのが最近なのか、落ち着きはあるがプロとは呼ぶことは出来ない。

『よく俺が此処に来る事が分かったな』
『大人はこわーいからねぇ。子供が遊び心でやってるからこうなるんだって、ママに教わらなかったか?』

 ちょっとした挑発だったのだろう。
その挑発は少年にしてみれば、最悪な挑発なのだが。

『残念だけど教わった記憶はないな。それに俺の母さんはそんな事言わないって事ぐらい調べておけよ』

 それが唯一自分が平常で居られるための建前だった。
自分の中では分かっていても、体が反応する時がある。

 無視すれば良いのに、無視が出来ない。

 人はそれを「弱い」や「思いやりがある」と片付けてしまう。
確かに言っている事は正論だが、その人に本人にとって本当に「弱い」のか「思いやりがある」かなんてものは、長い間一緒に居て分かるものだ。
 それを知っていますよという風に言う同年代や大人が少年、恋也は嫌いだった。
 何も知らない癖に偉そうに言葉を並べる人間が嫌いで仕方なかった。

 それでも学校に行き、そういった感情を隠して友人を作って「楽しい」と言える日常というものは過ごしていた。
 でも実際は自分が嘘を吐いて、感情を隠して作った友人だ、本心を述べてしまえばきっと離れていくだろう。
 偉そうにする人間が嫌いなだけであって、人間が嫌いと言うわけではない。
だから素直に話していたらこんな風に堕ちなくても良かったのだろう。
 自分が話してしまって友人が離れて行くのが嫌だと思ってしまったのだから、話す事も出来ずにこうやって盗みを働いて、気を紛らわせている。

 そうすれば、友人が離れる事も無く、いつもの様な日常を過ごせると勘違いしてしまった。

『お前の母さん泣くぜ? こんな事してんのバレんのも、お前が望んだ事じゃないだろ』
『泣きも笑いもしないに決まってるだろ』

 もう、死んでるから。
そう言いたかったのに、口を開けば泣いてしまうと思い、視線を逸らした。
  
 周りの大人は親が居ないから可哀想、可哀想と何度も同じ事を言い、誰も助けようとはしないそんな大人ばかり。
 本当に可哀想と思うのなら、優しくして欲しいと思うだろう。

『そんな顔するお前さんに盗みは似合わねぇよ』

 優しく言われた言葉だった。
冷たい風が肌に触れ、髪からすり抜けていく感覚を覚えつつ、自分に放たれた言葉に拳を作る。

『何も知らない癖に、偉そうに言うな。お前だって腹の中では嘲笑ってんだろ、俺のを事を知ってからそんなセリフ吐けよ』

 睨みつけながら放った言葉は日頃の不満も巻き込まれていた。
日頃不満が多いから不満を解消する為に盗みをし、盗めた事に快感を覚え止められなくなる。
 物に興味はない、盗む過程が最高に楽しいのだ。
盗んだものはその辺りに捨てているので、元の持ち主か警察にいっているだろう。
 そんな事はどうでも良かった。
ただ、自分が満足できればそれで良かったのだ。

『お前は俺の何を知ってる、俺が普段何を言われ、どう過ごしてるかなんて知りもしない癖に盗みは似合わないだって? 笑わせるな』

 ギルティはルパンに拳銃を向ける。

『撃てやしねぇよ』

 ――パァン、銃口から煙が上がっている。
ルパンは撃たれていなかった。
 ギルティが持っている拳銃は確かに発砲したのが、ルパンに対して撃った弾は外れていた。

『だから言っただろ、撃てやしねぇって』
『予言者かよ……』

 諦めたように銃を捨て、その場に座る。
本当に敵わないと判断した。
 ルパンは筒を持ちながらも煙草に火をつけて、空を見た。

『お前の事は何も知りやしねぇ、けどな、お前さんが足を洗ってイイ男になったら、良いモンを見せてやる』

 どんなものだろうかと思いつつもギルティは溜息を零した。
本当に、敵いっこない。

『そん時はまたコレを盗みに来い、元の場所に返しておくからよ』

 そう言ってルパンは姿を消した。

 **

「あの時のかよ」

 溜息と同時に落胆する。
人の縁と言うものはよく分からない。
 けれど、そんなだから惚れたのだろう。

「っで、俺達は朝日を見てる、と」

 次元の呟きにルパンはそうそうと頷く。

「くだらねぇな」

 一言でくだらないと言われてしまうが。
とある宮殿の屋根の上で5人が夕日を見ているのを、他の誰かが目にしてしまうと、色々面倒になりそうだ。

「お主の事だ、どうせ忘れていたのだろう」

 五右ェ門の何気ない一言に顔を引きつらせながら、恋也を見る。
たまたま昔来たことのある場所に来たから思い出したと言うだけで、ずっと忘れていたのはルパンも同じだ。

「しかし、不思議な事もあるもんだ。ワシが捜して追ったギルティがルパンの仲間だったとはな」
「あれとっつぁん。なぁんでもっと驚かねぇの?」

 ルパンが不思議に思って尋ねても銭形は軽く微笑み「ワシの勘は外れん。そこの少年がルパン一味だったのには驚いたが」と言った。
 
「それにしても、綺麗じゃない」

 不二子が珍しく綺麗だと言った。
宮殿の屋根の上で、朝日を見つめるルパン一味と銭形。
 丁度宮殿を海が囲んでいるので余計に綺麗に見えたのだろう。

「俺は昔より人が好きになった気がする」

 恋也は全員に聞こえるように呟いて、朝日を背中にして笑顔を向けた。

「俺はやっぱりルパンに惚れて良かったんだ」

 その笑顔は一切負の感情は含まれていなかった。

  • No.37 by ブラック  2015-02-28 19:19:33 

「手段は選ばない~自分のやり方~」

元にした作品「ルパン三世2nd」
CP「ルパン←恋也」
趣向「シリアス8割 ギャグ1割 趣味1割」
恋愛要素「無」

先に謝っておきます。
最近タイトル忘れてすみません!
何故か忘れてしまうんです。
以後気をつけます!!

この話はタイトル通りの話が出来たのではないでしょうか?
不二子もルパンも手段は選ばない。
私は恋也とルパンを組ませたかったので、ルパンにしました。(不二子ファンの方すみません)

中盤、何故か路線が変わったようなと思いつつ書いていたらこんな事になっていました。
記憶がありません。(マジです)

もうちょっと不二子ちゃんに色仕掛けをして欲しかったですね(笑)

キスしたかと思えばルパンだったり、何か銭形がギルティ・クランを追っていたり、そのギルティが恋也だったりとしています。

読み方が分からない物があったと思います。
丹神橋高校は(にしんばしこうこう)と読みます。
書かなくてすみません…。

書けなかったのではありません、忘れていました。

初のルパンメインキャスト揃いですね。
この話も物の名称は書いていますが、基本ご自由に想像してください。

では裏話的な何か。

初めの帰宅途中に出てくる友人、彼も星汰(せいた)君です。
取り合えず、誰かと帰らせたかったので、星汰君を持ってきました。
容姿等は書いていませんが、オリジナルやまたの機会があれば性格など書いていけたらなと思っております。

ルパンの変装して担任になったあの場面、名前結構悩みました。
怪盗ルパン三世から何か出来ないかと考え、怪盗→海藤→快刀(元々苗字予定)。ルパンはすぐにバレルので、却下。三世→せいさん→せいざん→西山(名前予定)。になりました。
くっつけてみたところ「快刀西山(かいとうせいざん)」になって、なんか逆じゃね?ってなったので「西山快刀(にしやまかいと)」にしました。
服装はほとんど一緒ですね。

ちなみに私の中でのルパンと不二子と次元の教師の科目は……。
ルパン→数学
不二子→英語
次元→体育
……です。

今回は恋也の事が多く書かれていたと思います。
恋也の母はもう亡くなって、それが可哀想だという大人が嫌いで、高校で友人作ったけど、友人に奇麗事ばっかならべる人間は嫌いだと言ってしまえば、自分は嫌われてしまうと思って、でも不満はたくさんあり、その不満を解消するのは盗みという、裏社会に入った理由みたいなものですね。

ルパンと恋也の過去の会話は書いてて楽しいです。
過去に言った事をもう一度現在ルパンが口にして、恋也が成長していくような、そんな感じがしています。

最後何を見せようかなと悩んだ挙句、朝日にしました。
だって、綺麗かなって思ったんだ。
たまにはルパン一味と銭形が朝日見てたって良いじゃない。

今回、ルパンは滅多に煙草を吸っていなかったと思います。

では、またいつかノシ

  • No.38 by ブラック  2015-03-08 17:02:40 

二重変装(ルパン三世2nd/オリキャラ)


 ある朝の事だ。
 高校生の少年――六条道恋也は何とも言い表す事が難しい事態になっていた。

「マジかよ」
 
 肩を落としながら頭を掻き、小さく息を吐く。
この事態は想像していたものではない為、対応ができずただ、目の前の『泥棒』を見つめる。
 恋也が右手を挙げると、ベッドがよく映るように置かれていて、尚且つ全身が見えるようになった縦長の鏡の中の泥棒も右手を挙げる。
 表情はげんなりとしているが……。

「俺で良かったと言うのかどうかは知らないけど、アイツはどうなっているんだ?」

 部屋の中でぽつり、疑問に思ったことを口にし伸びをしてからベッドから起き上がり、部屋から出ようとドアの前まで歩いていく。
 部屋から出る事は躊躇われるが、直接本人に会わなければ何も進まないと思い、もう一度息を吐き、ドアノブを回した。
 
 そういえば、夜中まで起きていたなと昨夜の事を思い出しながら裸足で廊下を歩いており、もしかしたら寝ているかも知れないという可能性も考えつつ、目的の部屋の前までやって来る。
 一度深呼吸をし、軽く2回ドアをノックしてあまり音を当てないように木製で出来た、現代風とは言えない古風のドアを開く。
 今から盗みに入るかのような体勢で部屋の主は、起きているのかと辺りを見て、ベッドに横たわる姿を確認すればゆっくり部屋の中に入る。

――やっぱり、寝てたな……。

 はぁ、と溜息と共に、ベッドに近付く。
寝ている部屋の主は完全に『自分』だった。
 そこで納得がいく。

 自分たちは入れ替わったのだと。

……と廊下から足音が聞こえる。

「おいルパン! 冷蔵庫に入れてあった俺のプリン食っただろ!」

 バンッ、と勢いよくドアを開けて次元が入ってくる。
 今現在ルパンは恋也で恋也はルパンなので、当然次元は見た目ルパンの恋也に話しかける。

「起きるのはえーな」
「あ、あぁ。まぁ、な」

 適当に頷きながらも、プリンを食べたぐらいで怒るのはどうかと思いつつも、恋也が食べた訳ではないので「俺はプリン食ってねぇよ」とルパンの口調で答える。

「で、何でお前さんの布団で寝てんだ? コイツは」

 次元が見た目恋也のルパンを見ながら問う。
恋也は暫しどう言い訳するか考えたが、良い言い訳は出てこず「俺が連れて来たんだって、起きたらいつもと違う場所でびっくりするでしょ」と言いのけた。

「そうか。邪魔したな」

 次元は片手をヒラヒラとさせながらルパンの部屋を後にした。

――さて、と。

 次元が出て行ったのを見送ってから恋也はルパンの部屋を見渡す。
辺りにはワルサーや、ジャケットが散らかっているが、今自分はルパンの姿でルパンの服を着ている。
 自分はどうなっているのだろうと、布団を捲れば自分が着ていた服をルパンは着ている。

 自分の格好を見れば、見た目はルパン三世で、服もいつものシャツを無造作に捲り上げて、ネクタイも外されていつもの白のスラックスを着ていた。
 
「俺ってこんな顔して寝てるのか……」

 恋也から見る自分の顔はやっぱり幼くて子供だというのが全面に出ていた。
 ルパンだと分かっていても、何故か手は止まらなくて、恋也はルパンの頬を撫でた。
自分の顔をしたその頬は柔らかく、ひんやりとしていた。

「恋也ちゃん、俺に触れちゃってどしたの?」

 急にルパンの口が開いた。
恋也は驚いてルパンの目を手で塞ぐ。
 目は開けていなかったので、今の姿は見られていないだろうと思いつつ「今の見てないよな!?な!」と自分の声で尋ねた。

「見てねぇから、手どけて頂戴」

 渋々と言う風に恋也は手を退けて、ルパン(見た目自分)と目が合う。
 ルパンは納得したように頷きながら起き上がる。

「やっぱり恋也ちゃんが俺の体持ってたのね」
「やっぱりって、自分の体が違うって知ってたのか」

 恋也は呆れたように言いながらルパンのベッドに腰掛ける。
 ルパンは上半身を起し、互いに見詰め合う。

「…………」

 お互い暫しの沈黙が訪れる。
 その沈黙を破ったのは恋也だ。

「あ、そうそう。次元がプリン食われたーって言って腹立ててたけど、ルパンが食べたのか?」

 今の状況とは全く関係の無い事を尋ねた。
 このアジトに居るのはルパン、次元、五右ェ門で、恋也はプリンを食べていない、五右ェ門は向きもしないだろう、残るはルパンしかいない。

「ご名答! このルパン様が美味しく頂きましたよ」

 右手を胸の前に持ってきてお辞儀をするが、恋也の姿なのでいつものおちゃらけた感がどこか違和感を持ち、見た目ルパンは黙る事しか出来ないのだ。

「アホか!」

 ベシッと容赦なくルパン(くどいようだが見た目恋也)の頭を叩く。

「いった!!」

 頭を押さえたのはルパンではなく恋也だった。

「……おい、これって」

 ルパンと恋也は同じ事を思ったのか、顔を見合わせ、笑みを引きつらせる。
2人が思ったことは『痛みは本人に適用される』ということだ。
 つまり、恋也がルパンを叩いても痛みは恋也に返ってくる。

「ちょぉっと面倒な設定なのね」
「設定!?」
「仕組みって事だ」

 恋也が普通に話すと周りからはルパンが恋也の口調で話していることになる。
逆にルパンがいつも通り話すと、恋也がルパンの口調で話していることになってしまう。

「でもさ、コレ結構ヤバイだろ。次元とか五右ェ門にすぐバレるな」

 もうバレても良いかと恋也が諦めていた頃、ルパンが何かを思いついたようにポンッと手を叩いて、明らかに良くないことを考えている顔になり「おもしれぇ事思いついたぜ」と、高校生の顔で言いのけた。

 **

 一方プリン勝手に食べた犯人捜ししている次元はルパンと恋也が入れ替わった事など知らず、五右ェ門に誰が食べたのか知らないかとか、野良猫が食べたのかと半分諦めていた。

 期間限定と言うわけでもないプリンはまた買えばあるのだが、行くまでが面倒だ。
特に今居る国日本は髭面、目が見えない、全身真っ黒と言うのはコンビニに行っても怪しまれるのだ。
 そして暫し考えた案が『恋也に買いに行かせよう』だった。

 気分はルンルンで再びルパンの部屋で寝ている恋也を起すべく、既に起きている恋也を求めてリビングから廊下に出て、鼻歌を歌いながらルパンの部屋に向かう。

『それどうせハーレム味わいたいだけだろ!』
『うるせぇ! こうしねぇと仕方ねぇだろ!』
『絶対クラスの女子に声かけてるに決まってる!』

 何やら次元には理解出来ない会話が部屋から漏れている。
ハーレムだとかクラスの女子だとか、一体何の話をしているのだろうかと思いつつもドアを2回ノックしてルパンの綺麗とは言い難く基本汚い部屋のドアを開けた。

「おいルパン。外まで会話聞こえてるぜ?」

 次元は見た目がルパンに話し掛ける。
ルパン役の恋也は肩を竦めて「そりゃぁ、悪かったな。で、どうした? 何か用か?」と普段のルパンらしく笑顔を作り、気さくに何かあったのかと尋ねる。

 次元は目の前に居るのが恋也だというのには気づかず、恋也役のルパンに近付いて「お前さんに頼みごとだ」とニィと笑みを浮かべた。

「……風呂沸かせとか、新聞取って来いとか、風呂沸かせとか風呂沸かせ以外なら聞くけど」

 ルパン自身、次元と風呂を沸かすのにじゃんけんで決めて、負けて風呂を沸かしたのを根に持っているのか、恋也っぽく、けど本心を含めて風呂沸かしだけはしないと告げた。

「実はよ、無くなったプリンを買ってきてくれねぇか?」
「自分で買おうよ……」

 ルパンは呆れた表情で返答するも、この季節寒くて誰も外に出たがらないので、結局は誰かが行くしかないのだ。
 だが、次元は一向に行く気はないらしい。
 ここは諦めるしか無い為ルパンは「オーケー」と片手を振った。

 **

 それからルパンは次元の為にプリンを購入し、アジトへ戻ってきた。

「やっぱこのプリンだよなぁ」

 ご機嫌でプリンを食べている次元の向かい側のソファで、赤色のノートパソコンを弄りながら恋也は『体 入れ替わり』と検索をしていた。
実際のところ良い検索結果など出てくるわけでもなく、ノートパソコンの電源を切って閉じてはソファにだらしなく横になる。
 この場に不二子が居れば「ルパン、あなた次元みたいよ」というセリフが飛んでくるだろう。

 そんな事を気にする暇があるなら、今から学校に行こうとしているルパン三世をどうにかして欲しいと恋也は思った。

「お前さん、今日も学校か?」

 プリンを食べながら次元はブレザーを羽織ってリビングにやってきたルパンに問いかける。

「まぁ、今日からテスト週間だからな」

 今日『も』という表現は可笑しいだろと恋也は、ソファに横になりながら思ったが、敢えて口にすることはせず、ルパンが玄関に向かうのを目だけで見送った。

 当然ルパンの事だから恋也の体を使ってクラスの女子に声をかけまくり、面倒な事になっているのだが……。

 **

 リビングに居るのは恋也と次元のみ。
五右ェ門は和室で何やら花を生けていた。
 暫しの沈黙が続く中、体が入れ替わっているとバレても良いのだが、ルパンが『折角だから演じてみようぜ』などと言い出して、こうやってルパンのフリをするしかない。

 小さく溜息を吐いたのが聞こえたのか次元は恋也をじっと見つめている。

「……何だよ」

 頭の後ろで手を組みながらどうしたのかと視線を向けるが、次元は一向に口を開く様子は無く恋也を見つめる。
 逆に何も話しくれないと恋也の方は焦りが募る。

 1分、はたまた10分が経ったかも知れないぐらいの頃合に、カチリとアナログの小さな振り子時計の長針が動いた。
12時を示したのだ。

「次元ちゃん、用もないのに俺に声なんて掛けちゃった?」

 そこではっと我に返り、いつものルパンらしく振舞った。
用も無いのに声を掛けたとただ尋ねただけだったのだが、長年相棒をしている彼は、きっとこの時見抜いたのだろう。

 ――ルパン三世ではない、と。

「てめぇ、ルパンをどこへやった?」

 表情は読み取れないが、無機質でもない彼自身が持っている声質で目の前の『ルパン三世』に問う。
 変に回答すればきっと撃たれるだろう、頭に組んでいた手を胸の前に持っていき、降参のポーズをとり「学校」と一言だけ告げた。

「学校!?」

 驚いているのか次元の帽子がずれる。
帽子を元に位置に戻しながら次元の目の前にいる恋也に近付いて、頭の先から足の先まで関心するように眺める。

「しっかし、アイツがルパンだとするとおめぇは恋也か?」
「ご名答!」

 誤魔化す必要も無いのだが、ルパンのおちゃらけた口調で正解だと言い、上半身を起こす。

「いつから入れ替わってんだ?」
「次元がルパンの部屋に入って来ただろ? プリン食っただろとか言いながら。あの時から入れ替わってた」

 恋也は人差し指を立てて次元を見上げながら発言する。
それで合点がいったのか1人で頷いては次元は恋也の隣に腰掛けた。

「じゃぁ、部屋の外まで聞こえてた会話は入れ替わってどうするかって話だったのか」

 くだらねぇな、と次元は鼻で笑ってソファを挟んで真ん中にある木製のテーブルに脚を投げ出した。
 背丈もルパンと次元じゃ変わりはなく、大体同じ高さなのだから当たり前なのだが、次元がいつもより近くで見える恋也にとって、入れ替わる事に意味はあるのかと聞かれると特に意味はない。

「俺だって別にバレても問題は無いって言ったのにさ……」

 がっくりと肩を落としながら恋也は呟いた。

 丁度その頃合に玄関のドアが開かれた。
時計を見ると12時半を示しており、テスト週間は早めに帰されるのだと思い出す。

「ルパンか?」
「この時間ならそうだな」

 とっくにバレているので、バレていないと思っているルパンを観察してやろうと次元と決めたのである。

「ただいまー」
「はぇな」
「テスト週間だからな」

 何の変わりもないので、1番恐れていた事を実行していないかと『ルパン三世』で、ルパンに尋ねる。

「レディに声かけて遊んでたんじゃないの?」
「良く分かったな」

 何の躊躇いもなくルパンは答えた。
その瞬間、恋也はソファから立ち上がり未だにリビングのドアにいるルパンのネクタイを思いっきり掴んだ。

「てめぇ、人が心配してた事見事に実行しやがって!!」
「恋也ちゃん落ち着いて……」

 冷や汗を流しながらルパンは恋也に落ち着けと言うが、落ち着く様子は無く、ネクタイを掴みながら恋也は更に続ける。

「次元も何とか言ってやれ! コイツの女癖の悪さ」
「お前はアホか」

 恋也の姿をしたルパンを次元がノリで叩いた。
その瞬間、次元に叩かれた頭を押さえながらルパンの姿をした恋也は蹲った。
 痛みは本人にいくのだ、どれだけ手加減をしようと僅かな痛みでさえも体の持ち主にいく。

「次元ちゃん、痛みは体の持ち主に向かうみたい」

 ルパンが告げた言葉に次元は口角を上げて蹲っている恋也の頭を試しにという感じに叩いた。

「いた! 痛いでしょ! それと遊ばない!」

 当然遊んでいることがばれた為、次元はピタリと手を止める。

「――そんな事より元に戻る方法考えろよ……」

 恋也の発言にルパンと次元は頷いたものの、先に酒だと言いだしてグラスを持っていていた。

  • No.39 by ブラック  2015-03-08 21:32:40 

これは歪んだ物語――(LUPIN The Third 次元大介の墓標/デュラララ!!/不定期更新)


 一台の黒バイクが走っている。
黄色いヘルメットを被り、上から下まで真っ黒なライダースーツを身に纏っている。
 そんな街で起きた1つの物語。

 #プロローグ 


 この世の中は退屈だ。
そう思ったのはいつ頃だろうか。
 普通に物を盗む事にスリルもなにも感じなくなった頃、大規模に予告状を出し、宝を盗むようになった。
 その手口といったら華麗で繊細で誰もが惚れるものだったのは自分でも自覚している。
 それからというもの、いわくつきの宝が現れれば予告状を出し、盗みを繰り返す。
 そんな或る日の事だった。

「ルパーン」

 1人の女性の声がアジト内に響く。
 何かったのか、それともあの銭形がやってきたのだろうかと読んでいた新聞から顔を上げ、声を掛けてきた女性――峰不二子に視線を向ける。 

「どうした、不二子?」

 不二子はソファに座っていた青ジャケットの男――ルパン三世に、手に持っていたどこかの画像サイトの画像をプリントした写真を持って来ては、新聞を読んでいたルパン三世に写真を突きつけた。

「この人だぁれ?」

 不二子が見せた写真の中に、イケメンの部類に入るだろう、金髪にサングラス、バーテンダーの服を着た男を指差した。
 見た感じ不二子が好みそうではないのだが。

「さぁな。どこかのバーテンダーだろ」
「バーテンダーさんが自販機持ち上げるの?」
「……何?」

 バーテンダーが自販機を持ち上げる、不二子は確かにそう言った。
けれどルパン三世でも機械を使えば自販機は持ち上げることが出来るが、素手で自販機を持ち上げる事は不可能だ。

「不二子そいつの事誰から聞いた?」

 ルパンが不二子を見上げると不二子は思い出すように、口元に人差し指を置いて少し斜め上を向いた。
それか数秒後、バーテンダーの男が嫌う人物の偽名を口にする。

「甘楽って人からよ」
「甘楽……? 偽名か」

 聞いた事のない名前に偽名の線が濃くなりつつもあるが、その『甘楽』という名はどこで使われているのか分からないので、調べるかと傍に置いてある木製の小さな机の上に置いてあるノートパソコンに手を伸ばす。

「チャットで教えて貰ったのよ、このバーテンダーの事。とっていも自販機を持ち上げるという事しか聞いてないわ」

 チャットと聞いて不二子がそんな事をするのだと今知り、ガクリとショックを受けたように肩を落とすもすぐに元に戻り、「どこのチャットだ?」と不二子に問う。
 不二子も不二子で教える気は普段ないのだが、気になっているので「招待制のチャットだからちょっと待って頂戴」と黒にピンクのラインが入ったライダースーツの、胸元から携帯を取り出してルパン宛てにチャットのURLが貼られているメールを送る。
 ルパンのノートパソコンに不二子からのメールが送られると、ルパンはすぐにURLをクリックした。

 そこには確かにチャットルームがあり、今でも何人もの参加者が居るようだった。



 チャットルーム


 甘楽【どーもー、甘楽ちゃんでーっす!】
 田中太郎【どうもです】
 バキュラ【ういす】
 罪歌【きょうも、よろしく、おねがいします】
 甘楽【大分参加者も増えてきましたねー!】
 バキュラ【色分けされているので甘楽さんを袋叩きにできるっすね】
 甘楽【きゃー☆】
 罪歌【みんな、なかよく、しませんか】


「あら、今日もバキュラさん居るのね」

 ルパンのパソコンを覗きながらどうでも言い事を呟いては、ルパンの隣に腰掛けて携帯でチャットルーム【フジ】と言う名前で入室する。 
 ルパンにしてみれば、それがどうしたという事なのだが、不二子はこのチャットを好んでおり、バキュラが気に入っているのでバキュラが居るだけで嬉しいのだ。


 フジさんが入室されました

 フジ【久しぶり~】
 田中太郎【久しぶりです】 
 バキュラ【久しぶりっす!】
 罪歌【おひさしぶりです】
 甘楽【フジさんお久しぶりでーっす!】
 フジ【そのノリは変わらないのね】

 フランスパンさんが入室されました

 罪歌【? あたらしいかたですか?】
 田中太郎【見たことない名前だから、そうなのでは?】
 フランスパン【初めまして! フランスパンです。フジさんに招待されたので来てしまいましたテヘ☆】

 
 甘楽も甘楽だが、ルパンもルパンだった。
名前自体はとてもダサいのだが、ルパン三世というのを知られないようにした名前は【フランスパン】でネカマを演じる。
 

 甘楽【フジさんの招待なら大歓迎です!】
 田中太郎【甘楽さんと似てますね……】
 バキュラ【もしかして甘楽さんの自演だったり!?】
 田中太郎【さすがにそれは……】
 罪歌【うたがうのは、よくない、です】
 甘楽【もー! 罪歌さんの言うとおりですよ! プンプン!】
 フジ【相変わらずそのノリなのね】
 
 セットンさんが入室されました

 セットン【おや? 見たことない人がいますね。新人さん?】
 フランスパン【そうですそうです! フジさんから紹介されたフランスパンです!】
 バキュラ【どうもっす!】
 罪歌【どうもです】
 甘楽【どうもでーっす!!】
 フジ【どうも】
 田中太郎【どうもです】
 セットン【相変わらず甘楽さんはテンション高いですね、どうもです】
 甘楽【それが甘楽ちゃんなのです! それより知ってますか~? 平和島静雄がまた大暴れしたんですよー!】


「この男の事よ」

 チャットを中断し、不二子がルパンの画面に現れている『平和島静雄』という文字を指で囲む。
見たことのない名前にルパンはチャットの文字を打つ手を止め、平和島静雄という人物について聞き出そうとする。
 一度打った文を一度送信してから。


 フランスパン【ネカマって可能性もありますよ、甘楽さんが!】
 フランスパン【……ところで、平和島静雄って誰のことですかぁ?】

 
 ルパンの発言にチャットに参加している全員(不二子を除く)が一斉に同じマークを押した。


 バキュラ【!?】
 田中太郎【!?】
 甘楽【!?】
 セットン【!?】
 罪歌【!?】
 フランスパン【え!? なになになに!?】
 甘楽【あの自動喧嘩人形を知らないんですか!】
 田中太郎【ここに参加してる人が池袋じゃないなら……知らないと思います】
 甘楽【ってアレ? 何か私ひどいこと言われてません? もうプンっだ(>A<)】
 田中太郎【甘楽さんその絵文字好きですね】
 バキュラ【きもっ】
 セットン【バキュラさん……。平和島静雄ですか、結構有名人なんです。ただ怒らせると怖いと言うか……】
 甘楽【怖い以上に化け物です! キャー! バキュラさんが苛める!】
 フジ【怒らせると怖いの?】

  
 不二子の問いにチャットに参加しているメンバー(ルパン)以外は全員肯定した。
 どんな人物なのだろうかと、ルパンはネットを開いて『平和島静雄』と検索をかけた。
 ネットというのは便利だとこういう時役に立つ。
 平和島静雄、確かにそう書かれた名前の人物は金髪にサングラス、バーテンダーという格好をしてた。
この男が自販機を持ち上げたのだろうと考えるが、証拠と言えるものがない。
 暫くの間平和島静雄について調べていると1つの動画を見つける。

 それは平和島静雄と呼ばれる男と、黒いファーコートを身に纏った男が殺し合いをしている姿だった。

「不二子ー……。お前、こんな危ねぇ奴の事俺に聞いてどうする気だ?」

 何かを盗めというのか、だが、不二子を人質に捕られた訳でもなく、不二子がこの男に何かをしてもらうといった行動は見せていない。
何の為にルパンに平和島静雄の事を聞いたのだろうかと、思考を巡らせていると不二子がルパンの腕に絡みついて口を開いた。
 
「面白そうじゃない。一度行ってみない? 池袋に。あなたの言う退屈も殺せるかもしれないわ」

 猫の様に不二子はルパンに寄り、高い声でルパンに問う。
 色仕掛けなら不二子に勝てる者はいないだろう。
 
 ルパンは暫し考えて、口角を上げた。

「たまには悪くねぇな」

 甘楽という者を捜すのも、平和島静雄という者を捜すのも、全て退屈しのぎにしても何かが起こりそうだ。
ルパンはそう思った。


 甘楽【平和島静雄なら自販機か標識かポスト投げてます!】
 甘楽【あとは首なしライダーとか】
 フランスパン【聞いておいてアレなんだけど、そろそろ落ちます! 昨日から寝てないので眠気が……】
 フジ【私も落ちるわ。おやすみ】
 セットン【それは大変! おやすみなさい】
 甘楽【おやすみなさーい】
 バキュラ【おやすみっす!】
 罪歌【おやすみなさい】
 田中太郎【おやすみさない】
 
 フランスパンさんが退室されました
 フジさんが退室されました


「さてと、不二子」
「何? ルパン」
「次元と五右ェ門、起こしてこようぜ」

 ルパンと不二子は未だ眠っている次元と五右ェ門を起こしに行く為、ノートパソコンの電源を切り、携帯を仕舞い、まだ少し酒の匂いが残っているリビングを後にした。

  • No.40 by ブラック  2015-03-10 00:31:19 

二重変装2(ルパン三世2nd/オリキャラ)


 あれから数時間と言って良いだろう。
ルパンと次元は酒を煽りつつも元に戻る方法を話し合っていた。
 そんな普段誰もが目にする光景を見ていれば、酒が無くなった事に気付く。

「おいルパン。もうねぇから買って来いよ」

 次元がバーボンのボトルを持ってユラユラと揺らしながら恋也に言う。
当然、入れ替わっているのだから見た目がルパンの恋也が買いに行く事しかできなのだが……。

「――って、大分酒回ってるけどまだ飲むのか?」

 恋也の目の前には既に5、6本のボトルが空になっているのが見える。
それはバーボンだったり、ジンだったり、ウォッカだったりと様々なのだが、幾らなんでも飲みすぎなんじゃないかと疑える。
 ルパンというと体が高校生なので酒の回りも速いのか、ソファにだらしなく横になりつつも頭に濡れたタオルを乗せていた。

「ルパンだってこんな状態で、次元も俺をルパンと間違えてるんだからもうそうあたりにしておいた方が――」
「うるせぇ!!」

 ダンッ、テーブルを次元が叩いた。
その瞬間グラスの中に入っていたバーボンが少量零れるのだが、気にした様子はなく次元は酔った勢いで感情任せに言葉を紡いでいく。

「ルパンが……酔ってダウンだぜ? こんな、事今まで……なかっただろ」
「お前も相当ヤバイけどな」

 取り合えず買ってこない限り何か面倒ごとを聞かされそうだった雰囲気だったのだ。
恋也は軽く溜息を吐けば、次元に片手を振り、そんなに時間は経っていないと思っていたが実際は夕方の17時を時計が差している事に廊下の時計を見て気が付いた。
 五右ェ門が今まで花を生けているのだろうかと、和室に向かってみる。

「ごえもーん。まだ花を生けてんのか?」

 見た目がルパンなので、ルパンで話しかけながら障子をゆっくり開く。
 恋也の目の前に確かに立派な生花がそこにあった。

「五右ェ門ちゃん意外と器用なのね」

 取り合えず褒めておく。
そうしておかなければルパンではないとバレる可能性があるのだ。
 生花の傍で何かをしている五右ェ門に声をかけたのか、生花に夢中なのだろうか返事が返ってこないことにも気にすることなく、和室から去ろうとすれば「立派でござる」と独り言が聞こえた。

 
 それから、酒屋に行きルパンと次元が好みそうな酒を何本か購入してアジトに戻る時だった。
会いたくない人物に出くわした。

カシャ。

 聞いたことのある、金属音だった。
ゆっくり手首を見てみると確かに手首には手錠が掛かっている。

――今見つけるなよ。

「あれとっつぁんじゃないの? 元気にしてた?」

 心中で溜息を吐きながらも恋也はルパンを演じながら手錠を掛けた人物――銭形幸一に、苦笑いを浮かべる。
 厄日と言っていいのかは分からないが、確かに今日は今のところ良いことが起こっていない。
どちらかと言えば不運な事しか起きていないのだ。

「ルパン、まさかこんな所でお前の逮捕するとはな!」

 嬉しそうである。
 そんな事を思いつつも手錠を掛けられた右手を外す。
手錠の外し方はルパンから伝授したのだ。

「おいコラ! 目の前で手錠を外す奴があるか!」
「わりぃなとっつぁん。俺まだ刑務所には行きたくないのよ、じゃーねー!」

 手を振りつつ、片手に袋を持ちながら人気のない路地裏に恋也は姿を消した。
暫くの間銭形の叫びが聞こえるのだが、不意に「アレはルパンのファンか?」と薄々、ルパン本人ではないことに気が付いていたとは恋也は知らない。

 **

「買ってきたって、やっぱり寝たな」

 いい歳した大人2人がソファでだらしなく、睡眠をしていた。
1人は見た目高校生なのだが。
 恋也は買ってきた酒をテーブルの上に置き、自室に戻った。

そのまま恋也も寝ていたのだろう、気が付けば18時20分を時計が差していた。
 アジトからは音が聞こえてくることはなく、まだ寝てるのかと思ってリビングに歩いていけば、確かにそこには高校生と大人が頭を抱えてどんよりとした空気を放っている。

「……次元ちゃん」
「ルパン……」

 確かにお互い口を開いた。
次元が先に口を開き、ルパンが後に口を開いたのだ。
 まさか、と恋也が思って奥のソファで寝ていた次元の頭を叩く。
その瞬間絶普通なら次元が頭を押さえるだろう、だがしかし、頭を押さえたのは紛れも無く恋也の姿をした人物だった。

「いってぇ!!」

 ルパンと次元もまた入れ替わっていたのである。
こうなってしまうと色々とややこしくなってくるのだが考えている暇はないだろう。
 緊急会議が開かれる事になる。

「でだ。何故俺と次元まで入れ替わったかだな」
「おい……」
「酔って何かしたとかじゃないのか?」
「おい……」
「いーや。俺はずっとソファで横になってたけどよ、全く何も無かったぜ」
「おめぇ人様を殴っておいて謝罪ぐれぇしろ!!」

 ルパンと恋也の会話の間に次元が声を掛けているのだが、ルパンと恋也は敢えて無視をしていれば恋也は次元に怒鳴られるという羽目になる。
 そんな事を気にする事はないのか、恋也は作り笑いを受けベながらも次元に謝罪し、これからどうするのかと考えているところに五右ェ門がドアを思いっきり開けて現れた。
その姿は少女漫画の主人公の女の子が、怒ってドアを思いっきり開けて登場する1コマとシンクロしていた。

「あら五右ェ門ちゃん、生花はどうしたのよ?」

 1番初めに恋也が口を開く。
五右ェ門は片手に斬鉄剣を持ちながら今現在、ルパンが座っている隣に腰掛ける。

「疲れたでござる」

 はぁ、と肩の力を抜いているのだろう、深呼吸を何度も繰り返していた。
さすがに五右ェ門の前で出来る話ではなく、また酒を飲んで面倒なことにならないようにと、買ってきた酒を片付け、テーブルの上を片付けてトランプをしていた。

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