Dr,リン

Dr,リン

ハナミズキ  2014-10-10 16:57:40 
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この小説は「俺様、何様?女神様。」の続編になります。
こちらだけ読んでも話は分かるとは思いますが、詳しい馴初め等は下記をご覧になられると良いかと思います。

↓↓↓

何とかなるさ(高校生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534187/
俺様、何様?女神様。(大学生編)http://www.saychat.jp/bbs/thread/534766/

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  • No.21 by ハナミズキ  2014-10-12 12:44:34 




翌朝、炊き出しの為に積んであった大釜を取り出し、その中でおかゆを炊き、集落の住民に食べさせる事にした。
未来の米は美味しいのか、おかわりを懇願する者達が大勢いた。
大目に作っておいたので、集落の人全員がお腹いっぱいになるほど食べる事が出来たようで、鈴達も少しは安心をしたのだった。

ここの人達を見ていると、未来の朝国の人達を見ているようで悲しくなる。
高粱の人達の様に、夢も希望の無く、生きる気力さえも失われたような、虚ろな目にはなってほしくは無かったのだ。
ただ死にゆくのを待っている人。
自分が今日を生きるのに精いっぱいで、他人の物でも罪悪感無しに盗む人。
そんな未来にはさせたくなかった。
頑張って生きていれば、きっと手を差し伸べてくれる人が現れる、そんな未来を描いてほしかったのだった。

お腹が膨れると、それぞれ自分の家に帰り、家の仕事をする人や何処かに仕事に出かける人
と、貧しいながらも忙しい一日が始まる。

患者の抜糸をするまで約5日。
その間はこの場所を動けない3人だったので、1人を車に残し、後の2人は町に繰り出す事にした。

  • No.22 by ハナミズキ  2014-10-12 12:45:26 


今のままでは一文無しなので、仕事をしてお金を得るか、今持っている持ち物を売ってお金に替えるかの2択だ。

仕事とはもちろん医師としての仕事の事で、貴族の診療でもすれば大金が入る事だろう。
売ってお金に替える持ち物と言うのも、未来の物しかないのだが、鈴が子供たちの為に日本から持って来ていた物があった。
それは、折り紙と落書き帳にクレヨンだ。

この時代に折り紙などと言うものは無い。
珍しい物が好きの人なら高値を出してでも買うだろう。
落書き帳にしてもそうだ。
きちんと閉じられ、製本の様になっている紙の束も珍しい物だ。
そして何より、一番高値が付きそうなのが、この色とりどりのクレヨンだろう。
千年前では出せない色が沢山入っているからだ。
このどれかを1つ売るだけで、当面のお金には困らないだろうと、相談の結果売ってみる事にした。

団子1本が3元(30円程)、粥1杯が10元(100円)、食べ物関係だと高くても30元くらいの金額だ。
着物も安い物なら300元で買う事ができ、高い物になると1銀(1万円)以上となる。
それらの物価を考えると、折り紙と落書き帳は5銀、クレヨンは50銀と値を付けてみた。
ボッタクリの様にも見えるが、貴族ならこのくらいの金は持っているだろうと思ったからだ。

  • No.23 by ハナミズキ  2014-10-12 12:47:25 


路地の一角に、キャンプ用の折り畳み式テーブルを置き、その上に実物の見本を並べて売ってみる事にした。
テーブルの、路地に面した淵に【 折り紙5銀 綴り紙5銀 色棒50銀 】と書いた紙と、
【 病気の方 診察いたします お気軽に声を掛けてください 】と書いた紙も貼り付け、
客を待っていた。
しかし、あまりにも高値の為に、一般庶民には手が出せないで、ただ眺めているだけでしかなかった。

ただ置いてあるだけでは、これが何なのか、何に使うのか分からない。
そこで鈴がクレヨンを使って落書き帳に絵を描きだす。
鈴が持っている色付きの棒から、その棒と同じ色が真っ白な紙に綺麗に塗られていく。

鈴が座っている場所から見える位置にある、団子・お菓子・店に飾られている着物・着物に付ける小物、それらが紙の中一杯に描き込まれていった。

「ほぅ~、上手いもんだな」
「本物みたい・・・旨そうだな・・・」

大人はただ感心し、子供はその絵を見ながら、今にもよだれをたらしそうな勢いで言う。

その人だかりに興味をひかれた貴族らしき人物が、人山をかき分けて前の方にやって来た。

「それは何だ?」

鈴は描いてた手を止め、その声の人物に視線をやる。

「これはクレヨンと言う物で、遥か西の方から持ってきた珍しい道具です。主に絵を描く
 時に使う物です」

「色彩粉を使わずに絵が描けると言うのか」
「はい。使ってみますか?どうぞ」

そう言って鈴はクレヨンをその貴族に手渡した。

「この紙にご自由にお書きください」

今書いたページを切り離し、用紙を貴族の方に向けて近づけた。
貴族は、12色すべての色を手に取り、用紙に殴り書きをし、その手触りと色具合を確認する。

「これは素晴らしい。いくらするんだ?」
「50銀です」

「50銀とは高くないか?」
「この様に珍しい道具ですからね。その値段でも安い方だとは思いますよ?」

そう言われればそうかと、貴族も納得をし、50銀でクレヨンが売れたのであった。
商売上手の鈴は、おまけだと言い落書き帳も一緒に渡したのだった。
世にも珍しい物がいっぺんに二つも手に入った貴族は、とても喜んで得をした気分になり、品物の御品書きの隣に書いてある張り紙に目をやり、鈴に尋ねた。

「お前たちは医者なのか?」
「はい。旅の途中ですが、医者です」

「医者か・・・丁度良かった。うちに来て診て貰いたい者が居るんだが」
「分かりました、お供させて頂きます」

鈴達はテーブルを片付けると、そのまま貴族の屋敷に向かった。
屋敷に行く道のりで、診て貰いたい患者は母親だと言う。
最近、目が霞み目眩がすると頻繁に言うらしいが、医者に見せても原因がわからないらしい。
そこで、西から来た医者ならば、何か原因が分かるかもしれないと声を掛けたのだった。

  • No.24 by ハナミズキ  2014-10-12 12:49:19 


貴族の家に着くと、母親の部屋に通されたが、母親は若い医者をあまり信用していないようだ。

「そのような者に分かるのですか?」
「奥様、とりあえず見せて貰えますか?」

鈴が母親の目に光を当て、瞳孔を確認する。
貴族の男性は、鈴が持っている不思議な光の出る物体に興味を持ち、それが何なのかを聞いてくる。

「これは懐中電灯と言う物で、光が当たらない暗い場所や、今みたいに場所を特定して
 見たい所に光を当てる物です」

「ほぅ~、それは売り物ではないのか?」
「これは私の商売道具なので売り物ではございません」

「それは残念だな」

鈴が目だけを見ると、白内障の症状が出ていた。
しかし幸いにもそれは、薬を点眼すれば治るものであった。

目が霞む原因は分かった。
しかし目眩の方の原因はなんなのか、診ただけでは分かりづらい。
目を見た時に、貧血の症状が出てはいたが、はたして貧血だけが原因だろうか。
聴診器を当て、内診をしてみるが、それらしい症状は出ていない。

「奥様。血液検査をしますので、血を少々頂ますね」

そう言いながら、医療バッグの中から採血用の注射器と採決容器を取り出し、母親の腕を捲ってもらい、適当な高さの台の上に腕を置いて貰うと、腕にゴム管を巻き付けた。

「それは何をする物なんだ?」

母親を心配そうに見る貴族が尋ねる。

「これは腕の血を一時的にこのゴムで止めてるんです。
 この方が血が取りやすいんですよ。すぐ済みますからね」

鈴が手早く2本分の採血をし、それをカバンに入れ、車両に持ち帰ってから遠心分離機を使い検査をしようとしていたのだ。

「そんなに血を取って大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。ご心配ならこの薬を差し上げますが・・・」

そう言ってカバンからビタミン剤と鉄剤を取り出し、貴族の男性に見せる。

「これは?」
「これは、血を作るのに必要な栄養分を凝縮した薬です。
 でもこれ・・・少し値が張るんですよね・・・珍しい物なので・・」

「いくらだ?」
「5銀です」

「5銀か。貰おう」
「賢明なご判断でございます」

お前は大黒屋か!と言いたくなるほどの商売上手だ。
今日1日で55銀(55万)の儲けである。
鈴はまた明日、検査結果が出てから来ると言い残し、屋敷を後にした。

  • No.25 by ハナミズキ  2014-10-12 12:50:27 


帰り道で、今まで黙っていた和也がボソリと呟いた。

「お前って・・・悪どい商売に向いてないか?」
「失礼ね!取れる人からは取る!これが貧困地域の鉄則よ!」

笑ながら答えた。

「あんな薬で5万とか・・・ありえねぇ・・・」

和也は、鈴の言い分に感心しながらも呆れた顔を隠せなかった。

  • No.26 by ハナミズキ  2014-10-12 12:51:27 




車両に戻ると大急ぎで採血検査をし、その結果を分析した。
その結果、二人の意見は一致をし、目眩の原因は単なる更年期障害と判明する。
検査値の値がどれも正常で、多少鉄分とビタミンが足りないくらいだったからだ。
よほど健康志向のご婦人だったのであろう。

そして、先ほどのボッタクリ・・・もとい!仕事で稼いだお金で、市場で色々と食材を買い込み、それらを使い晩御飯の準備に取り掛かる。
近くに居る女性たちに声を掛け、支度を手伝ってもらい、鈴達にしてみれば質素な晩御飯だが、この集落の人達にとってはご馳走が出来上がった。

「うめぇ~!こんな旨い飯食った事が無いな」
「お姉ちゃん、これおかわりしてもいい?」

女の子が聞いてくる。

「いいわよ、沢山あるからいっぱい食べてね♪」

余るだろうと思っていた大量のご飯が、あっという間に無くなってしまった。
よほどお腹が空いていたのか、もしかしたら、朝食べたきり食べていなかったのかもしれない。

  • No.27 by ハナミズキ  2014-10-12 12:52:05 


昨日と今日でだいぶ慣れて来た集落の人が、鈴達の事を聞いてきた。

「あなた方はどうして、私どもにこんなに親切にしてくれるんですか?」

鈴たち3人は即答で答えた。

「「「 これが僕たち(私たち)の仕事ですから」」」

真っ白な着物をまとい、空から鉄の箱に入りやって来たこの3人は、きっと神様の使いの者なのだと集落の人々は思い始めた。
死人を生き返らせ(麻酔で眠っていただけ)、お腹一杯のご飯を食べさせてくれる。
なんの代償も受け取らず、いつも笑顔の鈴と圭太が、菩薩か観音様の様に見えていたのであった。
和也はと言うと、あまり人前には出ず、車内で患者の様子を診ているので、それほどここの人達とは顔を合わせてはいなので、あまり認識が無かったのだろう。

  • No.28 by ハナミズキ  2014-10-12 12:54:27 




次の日、約束通り貴族の屋敷に、処方された薬を持ちやって来た。

「こちらが目に使う点眼薬で、こちらの方が目眩を抑える薬となっております」

点眼薬は鈴が使い方を見せてから渡した。

「この薬は14日間、朝昼晩と食事をした後に必ず飲んでください。
 こちらの目薬は、目が霞むと思ったらいつでも1滴たらしてくれて結構です」

「で、いくらになるんだ?」
「30銀になります」

「本当に治るんだろうな」

貴族の男性は不審そうに尋ねた。
そこで鈴は、母親の方に尋ねてみた。

「奥様、昨日お渡ししたお薬はお飲みになられましたか?」
「ええ、貴方に言われた通りに食事の後に飲みましたよ」

「あれから目眩は起こりましたか?」
「そう言えば起きてないわね・・・・」

鈴はニヤリと笑い

「どうですか?効果は表れていると思いますが、まだ疑いますか?」
「・・・・・ふむ」

「奥様、目の霞み具合はいかがでしょう」
「あら?いつもより良く見えてるわね・・・」

「いかがですか旦那様。この様に効き目は直ぐに表れますが・・・
買うのは辞めときますか?」

「いったいどんな魔術を使ったんだ」
「魔術などではありませんよ。これが遥か彼方、西の最新医療と薬です」

そして間髪入れずに再度心をくすぐる様な言葉を言う。

「この様な高価な薬を使える方などは、貴方様か王様くらいしか
存在しないのではないでしょうか・・・」

金持ちの、金持ちたる自尊心をくすぐる様な言葉を言ってみると、その予感は見事に当たり、男性は即金で買い取ってくれた。
そして屋敷からの帰り道、和也にまた言われてしまった。

「お前・・・・・詐欺師が天職じゃね?」
「ありがと♪褒め言葉に受取っておくね♪」

笑ながら答えた。
それを見ながら和也は少し笑ってしまうのだった。

「なに笑ってるのよ」
「いや?別に?
 お前ってさ、たくましいよな・・・頼りにもなるし」

和也の口から初めて聞いた褒め言葉であった。
たぶん和也も、口には出さなかったが不安だったのであろう。
訳も分からず千年前に飛ばされ、何処に行けばいいのか、どうすればいいのか、全く見当もつかず、いま車両に積み込んである、備蓄分の食料が尽きた時の事を考えると、かなり不安になるのは分かる。
その打開策があったとしても、今の自分が行動に移せるかどうかと言うと、あまり自信が無かったと言う事。
それを鈴は躊躇も無しにやってのけ、当面の生活費をたった1日で稼ぎ出してしまったのだった。
それも巧みな話術と駆け引きで・・・・。

  • No.29 by ハナミズキ  2014-10-12 12:55:39 




集落に滞在をして5日が経った。
今日はあの代替え人の、母親の抜糸の日だ。
経過は良好で、感染症の気配もない。
これなら退院可能だ。

傷の痛みはまだ残ってはいるものの、歩く事は出来るようになっていたので、代替え人親子は自分の家に帰って行ったのだった。

患者も居なくなると、もうここに居る必要もなくなる。
3人は集落の人達に別れを告げると、次の町があると言う方向を目指して移動をする事にした。
別れ際に、町で購入した食料を山のように残し、みんなで分けて食べなさいと言い、去って行ったのであった。















  • No.30 by ハナミズキ  2014-10-13 20:56:50 


◆ 新しい命 ◆


悪路を進む事4時間。
大きな町に入った。
そこは人々の湯治場として利用されている所だ。
幾つもの温泉と宿屋があり、繁華街もかなり賑やかなものだった。

道幅の広い所を選んで、車両ごと町に入っていくと、見慣れない奇妙な動く箱に人々の視線が釘付けとなる。
馬の様に箱の上に人が乗るわけでもなく、籠の様に人が中に乗っている。
しかし、籠を持つ人がいないのに、その箱は勝手に動いているのだ。

ゆっくりゆっくりと、街中を通るその車の後には、好奇心旺盛な大人や子供が数人、後を付いて歩いて来ている。
周りに居る人に接触しないように、細心の注意を払いながら、鈴達の乗った医療車は、車が止められるような広い場所を見つけて、そこで止まった。

そこは、町の中心部分から少し東に離れた場所ではあったが、中心部までは歩いて30分ほどの所である。
そこに丁度、車両が止まれるほどのスペースを見つけ、今日はこの町に1泊する事にしたのだ。

3人が車から降りてくると、集まっていた人達が少し後ずさりをし、ジロジロと観察をしてくる。
男も女も、医者の様な白い着物を着てはいるが、男は短髪で女の方は長い髪を後ろで1本に結んでおり、3人共ここらの住人達とは少し違う、綺麗な顔立ちをしている。
興味は惹かれるが、なかなか声を掛けれるような雰囲気ではなかったのだ。

「こんにちは」

住人の不安を取ろうと、鈴の方から声を掛けた。
人々は顔を見合わせながら何やら言っているようだ。
その声はガヤガヤとした騒音に打ち消され、よく聞き取れはしなかったが、所々聞こえてくる言葉からは
「何者だ?」
「変わった着物着てるねぇ・・」
「ありゃあ、医者じゃないのか?」
「あの箱は何だ?」
「不思議な箱だな・・・」

などなど。
それらの人々を背にし、3人は町に向かって歩き出す。
どこかで晩御飯でも食べようと言うのだった。

  • No.31 by ハナミズキ  2014-10-13 21:03:33 


もうお金の心配はいらない。
何故なら、この時代に来た当初に、荒稼ぎをしたからだ。
しかし・・・何故か先ほどの民衆が3人の後を付いて歩いてくる。
これは一体どういうことなのだろうか。

鈴達はチラチラと後ろを見るが、一定の距離を保ちながら、やはりまだついて来ていた。

「ねぇ、あの人たち、私たちに何か用事でもあるのかしらね?」
「さぁな」

和也がそっけなく答える。

「僕、聞いてみようか?」

そう言って圭太が後ろを振り返り声を掛けた。

「あの~、僕たちに何か用ですか?」

声を掛けられビックリしていたみたいだが、その中の一人がオズオズと前に出てき、質問に答える。

「あんた達はいったい何者なんだ?」
「僕たちは西の方から来た医者です」

医者と聞いた人々は「おおぉ~」と歓喜の声を上げ始めた。
何故そんなに医者と言う言葉に驚くのか、逆に聞いてみた。

「医者って、そんなに珍しいですか?」

「いえね。そう言う訳じゃないんですがね、ここら辺の医者は皆、どこかの貴族の
 お抱え医者になってましてね、私どもの様な者は、気軽には診ては貰えないので
すよ」

「そう言う事でしたか。それなら明日にでも皆さんを診療しますよ?」

そう言うと人々は喜び、急に親しげに話しかけて来た。

「これからどちらに行くんです?」
「お腹が空いたので食事でもしようかと」

「それならいい店を知ってますよ。ご案内します」

そう言われて連れていかれた店は、繁華街の入り口付近にある小さな食堂だった。
出てくる物は、今まで通って来た道筋に在った食べ物屋の物と大した変りは無かったが、それなりに美味しい物が出て来た。

  • No.32 by ハナミズキ  2014-10-13 21:10:42 


案内をしてくれた人達も、何故か一緒に飲み食いをし、お腹が膨れた者から順に、何処かへ消えていなくなってしまった。

平民以上の身分の者は、お金を持っている者が、代金を支払うと言うシステムになっているらしく、だから、医者ならば金を持っていると思い、集(たか)りに来たのだろう。

代替え人ならともかく、平民以上となると、普通に仕事にもありつけ、そうお金には困らないはずだ。
それなのに、集ったあげくにお礼も言わずに消えるとは・・・・。
少々ムッとした鈴と和也であったが、圭太はあまり気にしていないようであった。

食事を済ますと、3人は繁華街の中心部へと歩きだし、この時代の人達が着ている着物を購入する事にした。
どの町に行っても、どの人達に会っても、初めは着ている物を見て不思議がられ、そして受け入れて貰えるまでに少し時間がかかる。
その不必要な時間を取り除くために、周りの者と変わらない格好をしようと言う事らしい。

着物屋には、吊るされて売られている物もあるが、どうやらそれはリサイクルされた物のようで、少し着古された感がある。
それにサイズが小さい。

  • No.33 by ハナミズキ  2014-10-13 21:23:00 


素材を確認するために手で触ってみると、吊るされている安い物は麻で出来ているようだ。
これは着心地がゴワゴワして悪そうだ。
綿やポリエステルに慣れ親しんでしまった体には、麻は擦れて痛い。
しかたが無いので、少し値は張るが、綿か絹で作ってもらう事にした。

「どうせなら絹にしようぜ」
「でも、絹って貴族が着てるものじゃない?」
「そうだよね。それに絹は動きやすいかもしれないけど、発汗性が悪いよ?和也君」

3人はどの生地で作ろうか議論していると、そこへ店の主人が出てきて、どんな物を探しているのか尋ねてきた。

「動きやすく発汗性が良いやつはありますか?」
「あっ、それと、肌触りが優しい物ね」

店の主人が勧めて来た物は、綿の生地ではあったが、綿にも種類があり、上質な綿で作った生地を見せられた。
3人は早速手で触り、その感触を確かめるのだった。

「これなら違和感はなさそうね」
「「そうだな(そうだね)」」

その生地を使い、洗濯をした時の着替え用に2着作る事にし、身体の寸法を測ってもらい、前金として代金の半額である1銀と200元を払う。
出来上がるのが1週間後と言うので、3人はまた、1週間の足止めを食らってしまう。

「さ~てとっ・・・ここに1週間と言う事は~・・・稼がなきゃね♪」

鈴がどことなく楽しそうに言い出す。

「あぁ、ここならお前のカモになりそうな客が大勢いそうだしな」

和也もいたずらっ子のような笑顔を浮かべ、鈴をからかう様に言う。

「ひっど~い!それじゃまるで、私が詐欺師みたいな言い方じゃない!?」
「あんまり変わらないと思うがな」

和也は口角を上げて、にやりと微笑むのだった。

「なら僕たちも頑張ってカモを探さなきゃね!♪」

圭太まで悪乗りをしてくる。

「もぅ・・・みんなして・・・・」

  • No.34 by ハナミズキ  2014-10-13 21:24:19 


稼げる場所では稼ぐ。
それもまっとうな商売でだ。
国境なき医師団の本分も忘れず、お金のない貧しい者からは1元も貰わず、それ以外の人からは、その人達に会った金額を徴収しようと言う事だ。

前回の村での滞在中に、色々と薬草を購入して、それをすり潰し、鈴が今まで研究で培ってきた知識をフルに使い、この時代では使われていない薬剤の調合にも成功していた。
それなりの患者には調合した薬剤を、どうしても未来の薬でしか治せない病気以外は、限られた未来の薬を節約する為には仕方がない事であった。
お金の持っている貴族には、即効性のある未来の薬を、高値で売り付ける、と使い分ける事にしたのだった。

この時代の口コミはとても重要なので、良く効く薬があると知れば、貴族なら大金を払っても欲しがるだろう。

今回も、繁華街の中心部に出て来たので、大量の薬草を購入し、車両に戻りその準備を始める。
粉砕機で粉々にした後にすり鉢で擦りおろし、それを乾燥させ、薬草別に容器に収める。

未来の様に、必要な部分だけの組織を摘出するのではなく、全体的な要素として作るのだ。
つまり、頭痛がするなら頭痛薬。咳が出るなら咳止め。
今は用途に合わせて薬が存在するが、中には風邪の諸症状用の薬もある。
その諸症状用の薬を作っていたのだ。

  • No.35 by ハナミズキ  2014-10-13 21:29:15 


作業は夜中まで続き、翌朝目が覚めた時には、すでに患者が車両の周りを取り囲んでいた。

「・・・・・いま何時だよ」
「・・・・おはよ・・・どうしたの?」

「鈴ちゃん、あれ見て」

眠い目を擦りながら鈴が車両の窓から外を見ると、結構な人数の人だかりが出来ている。
鈴が時計を確認すると、まだ朝の6時半である。

3人は順番にシャワーを浴び、朝ご飯を食べると、8時頃に車両の外に出て来た。
そこに簡易テントを張り、その中にはいつものキャンプ用のテーブルを置き、和也が診察を担当し、鈴が薬剤の調合を担当をする。
そして圭太はと言うと、待ってる人の事前調査を担当していた。

天性の人懐っこさを武器に、患者が待っている間に色々と話をし、隠れている病気を推測する重要な役割だ。
その会話の中で聞きだした、気になる言葉のワードを紙に書き、それを和也の所まで持って行かせる。
このチームプレイが診療時間の短縮になると言う事を、大学時代から長年組んできて学んだ事だった。

和也の方も、圭太のこの洞察力には一目置いており、かなりの信頼を置いている。

  • No.36 by ハナミズキ  2014-10-13 21:41:40 




午前中の診療が終わり分かった事がある。
今日来た患者は、全員平民であると言う事だ。
何処でそれを見分けるのかと言うと、だいたいはパッと見で分かる。

代替え人は麻の服を着ており、平民は綿の服を着ている。
それに、屋敷に仕えている代替え人は、多少なりとも小奇麗だ。
逆に、何処にも仕えていない代替え人はと言うと、服が汚れているのは勿論だが、身体もすすけて汚れている。
その様な者は医者にかかるお金さえ持っていないのだ。

  • No.37 by ハナミズキ  2014-10-13 21:42:36 


二日ほど鈴達はその場で診療をしていたが、他の代替え人の健康状態の方が気になっていた。
そこで、3日目からは、車両で診療するのを午前中だけとし、午後からは害替え人の住む集落の方におもむくのであった。

ここの集落もやはり前回の集落と同じで、皆ボロ小屋に住んではいたが、健康状態は診た限り悪そうではない。
この分ならここの人達は大丈夫だろうと帰ろうとした時の事だ。
いきなり大声が聞こえる。

「大変だああああああ!ヨンギルが木の下敷きになった!
 誰か一緒に来てくれ!」

そこに居た数人の男たちが、慌てて呼びに来た男に付いて行った。
そして鈴達もその後に付いて行くと、大木の下敷きになって、足を挟まれている少年がそこに倒れていた。

30分ほどかけ救出したが、下敷きになっていた足からは血が流れており、足の方向が違う方を向いている。
これは確実に折れているだろう。
折れているだけならいいが、骨が粉砕していたら厄介だ。
手術が必要となるからである。
そうなるとここには、相当な期間留まらなければならなくなる。
手術をして、ハイさようなら、とはいかないからだ。

とりあえず足の様子を診るために、和也がその少年ヨンギルの元に近付く。

「医者だ。足を見せてみろ」
「ありがてぇ・・・でも私どもはお医者様に払う様なお金は持ってねぇです」

「お前達から金を取ろうとは思わんから安心しろ」

そう言うと安心したかのように、和也に協力をして来た。
傷口を消毒し、患部を見ると、やはり骨の一部が粉砕しているようだ。
すぐさま応急処置をし、ヨンギルを適当な大きさの板の上に乗せ、車両まで運ぶ。

協力をしてくれた男性とヨンギルの母親が、一緒に車両に乗り込もうとしたが、それは拒否された。
この車両の内部を見せるわけにはいかないと言う事と、雑菌を持ち込まないためだ。

鈴が付いて来た人達に、「これから治療をしますので、2時間ほどお待ちください」と言った。
奇妙な鉄の箱の中に入れられ、2時間も待たされる事になった代替え人たちは、車両の周りに座り込み、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

  • No.38 by ハナミズキ  2014-10-13 21:44:34 




一方鈴達は、ヨンギルの体を綺麗に消毒をし、麻酔が効いてきた頃を見計らい手術に取り掛かる。
今回の執刀医は圭太だ。
今まで培ってきたERでの腕が試される。

和也はレントゲンを撮り、症状を的確に診断する。
鈴はそれらの情報を元に、使用するであろうと思われる機材を準備した。

足の拗ね辺りの骨が粉砕して再起不能だ。
いや、細胞再生薬を使えば骨は復活をするが、それには半年と言う時間がかかる。
そんなに付き合ってはいられない。
したがって、合金を埋め込んで骨と骨を連結するしかないようだ。

合金を埋め込み、ボルトで留め、切れた血管と筋を繋ぎ合わせる。
そうする事により、全速力で走る事は不可能だが、日常生活には何の問題も生じないくらいの回復はする。
もちろん今まで通り仕事も出来るのだ。

2時間後、圭太が血まみれの手術着を着たまま外に出て来た。
その姿を見て、待って居た人達は驚きを隠せない。
いったい中で何があったんだと不安になる。

「ヨンギルは・・・ヨンギルは無事なんですか?」

母親が泣きながら訴えて来た。

「無事ですよ。でも今は眠っているので、会えるのはお母さん1人だけです」
「お願いします。会わせてください」

本当に無事かどうか会うまでは信じられないようだ。
それもそのはずだ。
息子を連れて行った人が、出て来たと思ったら血まみれなのだから。

「では、僕たちの言う事をちゃんと聞いてくれると約束をするのでしたら、中に 
お連れしますが」

母親は何度も頷き、圭太に連れられて車両の中に入って行った。
車両に入ると、まずはシャワーで身体を綺麗に洗われる。
その介添えは鈴が担当し、着る物も真新しい患者用の寝巻を着せられ、その後ヨンギルが寝かせられている2階にあるベッドまで連れて行くと、スヤスヤと寝息を立てている我が子を見たとたんに泣き崩れてしまい、ヨンギルの体に覆い被さった。

「今は安静にせてないといけないので、目が覚めてからにしてくださいね」

鈴がそう声を掛けると、母親は素直にその言葉に従い体を離し、目が覚めるまで付き添っていていいと言われたので、母親はその場で待つ事にした。

ヨンギルは、30分ほどで目を覚まし、目の前で泣いている母親を見るが、何故泣いているのかが理解できていなかった。

「そう言えば俺・・・木の下敷きになったはずじゃ・・・」

「そうよ。ヨンギルは木の下敷きになって、もうダメだと思った時に、こちらのお医者様
 達が助けてくれたんだよ」

「・・・俺の足は?」
「ちゃんと付いてるよ」

ヨンギルは驚いた顔をする。
今まで、あのような事故があれば、否応なしに時間と共に足が腐りはじめ、切断するからだ。
それも、医者に切断をしてもらうのではなく、仲間内の木こりにだ。
その足が未だにくっ付いている事は、驚きの他の何者でもない。

喜んでいる親子とは裏腹に、3人のお気持ちは 

― はぁ・・・これで2週間は確実だな(だわ) ― であった。

  • No.39 by ハナミズキ  2014-10-13 21:46:06 




3人は交代で患者の側に付き、残りの2人は通常の診療をし、午後になると貧困地域におもむく。
この日は町外れにある流刑場にやって来た。

この流刑場は比較的刑の軽い者が入れられる場所だ。
敷地内から出る事は出来ないが、流刑場の中なら何処でも移動可能だ。
しかしこの流刑場、病人の巣窟のような状態であった。
病気になっても見てくれる医者がいないようで、看病をしているのは、看護師のような人か身内である。

門番に医者だと告げ、中に入れてもらい、病人を診察すると、グッタリと横たわっている者は、胃腸炎の患者ばかりだ。
どれだけ食事が劣悪なのだろうか。

1人1人丁寧に診察をする和也と圭太だったが、その中の一人の症状が、胃腸炎とは明らかに違う痛みを訴えている。
お腹を触診すると盲腸だと分かったので、手術をした方が良いだろうと言う事になったのだが、この時代に手術と言う技術は、まだ伝わっては来ていなかった為、腹など切ったら死ぬと思われていた。

その騒ぎを聞きつけた役人と、医者らしき人物がやって来た。

「何事だ!」

患者は痛がって何も喋れないでいる。
そこで和也が先ほどの診察結果を言った。

  • No.40 by ハナミズキ  2014-10-13 21:48:41 


「この患者は盲腸と言う病気で、このまま放って置くと盲腸が破裂して死にますよ」
「なんだ、その盲腸と言うのは」

医者らしき恰好をした男が質問してきた。

「盲腸とは、右下腹部にある虫垂です。
 虫垂に異物が溜まると炎症が起き、 強い痛みを伴いますから、直ぐに切らないと
 ならない病気です。
 そのまま放って置くと、虫垂が破裂して死んでしまうんですよ」

「腹の中にある物を、どうやって切ると言うんだ」
「開腹手術をします」

「バカな・・・腹など切ったら死んでしまうに決まっている」
「死にはしませんよ。我々の技術ならば」

「そんな事があるものか!」

押し問答である。

「このままこの人を放って置けば、確実にこの人は死ぬでしょう。
 それは貴方もお分かりではありませんか?」

「・・・・・・・・・・・・・」

この医者は、この症状が出た人は、皆長い事は持たないと言う事を知っていた。
そしてここで、和也は鈴の真似をして、あの言葉を言ってみる事にする。

「貴方は運が良い。俺達の最新医術をその目で見れるんだからな。
 この医術は、この鮮朝国では誰も受けた事が無いし、誰も見た事が無い幻の医術だ」

「・・・・・・・・・・・・」
「どうする?見たくはないか?西の最新医術を」

医者はゴクリと生唾を1つ呑み込むと、静かに答えた。

「・・・・・・見てみたい」
「なら直ぐに手術の準備だ。患者を別の部屋に移してくれ」

和也と圭太、医者と役人が別の部屋に移動をし、麻酔を打って眠らせた後に手術が開始された。

「それは?」

「これは麻酔と言う物で、深い眠りに落とす事が出来て、手術中の痛みは全く感じなく
 なります」

「ほぅ~・・・便利なものだな・・・」

お腹にメスを入れると

「それは小刀か?」
「メスと言う物で、手術の時には必ず使う小刀の様な物ですね」

などと、圭太が分かり易く説明をしながら、和也が手術をして見せていた。

「はい。これで終了です」
「もう終わったのか・・・意外と簡単に出来る物なんだな」

「簡単そうに見えますけど、切る深さや角度を間違うと、殺してしまいますよ?」
「・・・・・そうなのか・・」

術後直ぐに患者は目を覚まし、さっきまでの痛みが消えている事と、生きている事に感謝をし、すぐさま動こうとしたが、切ったばかりでは痛くて動けないでいた。

「あまり動かないでくださいね。傷口が開きますから」

圭太が優しく声を掛けた。

手術を見学していた医者は、腹を切られても生きている事と、今まで見た事も聞いた事もない医術を、目の前で披露された驚きに興奮していた。

そしてその医者に、患者の抗生物質と解熱剤を渡し、使い方を教えてから帰って行ったのだった。

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