時空の彼方

時空の彼方

ハナミズキ  2014-09-14 19:48:21 
通報
―  あらすじ  ―


白狐が仕鬼として人間に仕える
その関係には、色々と問題が生じるが
その問題を乗り越えながら
二人の絆が深まっていく。





簡単に言うと、こんな感じの話です。

コメントを投稿する

  • No.21 by ハナミズキ  2014-09-15 09:28:20 

別に嫌いな物ではないので、頂いた物は有難くちょうだいする事にした。
そこにヒョイッと、白夜の箸が夕月の皿に入っている肉をつまみ、食べだした。

「お前、肉食えないだろ」
「ありがとう」

何の躊躇もなく夕月の皿から肉をつまみ、それを食べてしまった白夜を見て

「深山君ってお肉好きなんだね?良かったら私のも食べてもいいわよ?」

綾乃が上目使いで、しな垂れかかる様に言ったが

「いらね。」

この一言で終わってしまった。
流石にここまで差別をされてるいかの様に差があると、綾乃と心愛もムッとする。
他の生徒たちも、怖いもの見たさでチラチラとこちらを伺うが、ヒソヒソと話しているだけで近寄って来ようとはしない。

あまりにも無視され続けていた心愛が、わざとぶつかり夕月の御吸い物のお椀を倒し、汁が夕月の足にかかってしまった。

「あつっ!」

夕月が声を上げた瞬間、白夜が夕月をお姫様抱っこで抱え、宴会場の外に出て行ってしまった。
騒然となる宴会場。
「きゃー」「いいなぁ~」「私が掛かればよかった」等の言葉が飛び交っていた事は知る由もなかったのだった。

夕月を連れだした白夜は、人気のない物置部屋に入った。

「白夜、大丈夫だから。そんなに熱くなかったし」
「脱げ。見せてみろ」
「・・・・その言い方、誰かが聞いてたら誤解するよ?」

クスクスと笑いながら着ていたジャージを少しずらした。

  • No.22 by ハナミズキ  2014-09-15 09:31:51 

「ちょっと赤くなってるな・・・・」

吸い物がかかり赤くなっている部分に右手をかざすと、赤みが徐々に薄れ、火傷の跡などは見る影もなくなっていった。

「いつ見ても凄いわね。あっという間に治っちゃったw
 ありがと白夜♪」

「ふん。お礼より飯。腹減った。」

そしていつもの様に白夜のエネルギー元である「気」を送った。

「・・・うぇっ・・肉の味がする・・・」
「さっきお前に食ったからな」

口角を少し上げて不敵な笑みを浮かべる白夜だった。

治療が終わると二人はみんなの元へ戻り、何事も無かったかのように席に着いたが、丁度食事が終了となる時間になった。
大浴場に入る順番が来るまで、そのまま部屋に戻る人、小さな売店でお土産を見てる人や買っている人など、時間が来るまで適当に過ごしていた。

夕月と白夜は売店に行き、お土産物を物色する。
しかしそれほど大きな売店ではないので、大した物は置いてはいなかった。
夕月には、その中に少し気になった物があったようだ。
それを手に取りまじまじと見ている。

「気に入ったのか?」
「・・・うん」

夕月の手の中の物を見ると、白夜はギョッとする。
それは、白夜がよく知っている物で、遥か昔からとても大事にしてきた物とよく似ていたからだ。
とても大事な、愛しい人から貰ったソレと酷似していた。

  • No.23 by ハナミズキ  2014-09-15 09:32:53 

それが無ければ、いま、白夜は白夜として生きてはいけなかったかもしれない。
いつも肌身離さず身に着けており、微かな希望を胸に抱きながら、長い歳月を孤独に耐え、そして再び巡り会えた我が半身との約束の品。
ソレとよく似ていたのだ。

「・・・買うのか?」
「うん♪」

そう言い、夕月はそのお守りを二つ買った。

「もう一つはどうするんだ?」

夕月は、白夜の方を見ながら嬉しそうにお守りを手渡す。

「はい、こっちは白夜の分ね。いつも危険な目にあわせてるから、気休めで持ってて♪」

複雑な心境の白夜だった。
時期が近いのかもしれないと感じていた。
ならば、どんな事をしてでも、その事態は阻止しなければならないと考えた。
しかし、何時、何処であの事態が起こるのか、今の段階では何もわからなかった。
夕月をあの場所に行かせてはならない。
自分の命と引き換えにしても、この場所に留めて置かなくてはならないと、考えられる限りの最善策を思案していたのだった。

そんな事をしているうちに、夕月達のクラスの入浴時間がやって来た。
他の女子と少し時間をずらし、人気が少なくなったころを見計らって、大浴場の方に入りに行った。
混んでる時間を避けたためか、人もまばらでのんびり浸かる事が出来そうだ。

夕月は温泉の中でも露天風呂が一番好きだったため、体を洗い終わるとすぐさま露天風呂に入りに外に出て行った。
大浴場から外に繋がっているドアを開けると、そこには露天風呂があり、岩造りの岩風呂と檜風呂がある。
岩風呂の方は日本庭園風になっており、背丈の低い植木や綺麗な花々が所々植えてある。
少し離れた位置にある檜風呂には、そこから砂利の小道を通り、竹で囲われているついたてがあった。

  • No.24 by ハナミズキ  2014-09-15 09:34:18 

岩風呂に浸かり風情を楽しむと、今度は檜風呂の方に行く。
するとそこには、同じ班の子と数人のクラスメイトが先に入っていた。
彼女たちは、竹垣の向こうが男湯の露天風呂になっている事を知っていた。
そして、そこに今、男子達が入っているのも、声が聞こえてきていたので知っていた。

「鬼頭さん、ここ空いてるわよ」

親しげに声を掛けてくるクラスメイトに困惑をしながら、誘われた場所に入り湯に浸かる。
他の人より少し離れた位置で浸かっていたはずだったが、いつの間にか夕月の周りを取り囲むかのように集まって来ていた。

隣の男風呂では、女子達の黄色い声が聞こえて来たので、男子は聞き耳を立てるように竹垣に耳をつけて隣の様子を伺っていた。

「鬼頭さんって意外と胸が大きいのね」
「ちょっと触らせて~」

すり寄ってくる女子達。
恐れをなし逃げ腰になる夕月。

「ちょっ!変なとこ触らないで!いやん・・ひゃっ・・ぁん・・」

思わず変な声を出してしまった。
男湯で聞き耳を立てていた男子達が、妄想に妄想を膨らませて、鼻血を出してしまった。

―  ポタリ・・  ― 鮮血が湯船に広がる。

そんな事とはつゆも知らず、女湯では夕月のタオルで隠されている裸体に触ろうと必死になっていた。
すると、男風呂の方から白夜の声が聞こえて来た。

「お前ら、そんな所で何やってんだ?」
「深山か、お前もこっちに来いよ。いま隣に女子達が入ってるぜ」

「ちょっとやめてよ!やめないと本気で怒るから!」

  • No.25 by ハナミズキ  2014-09-15 09:39:36 

夕月の声が竹垣の向こうから聞こえて来た。
露天風呂に浸かっていた白夜がいきなり立ち上がったかと思うと

「夕月!何があった!?」
「白夜?!何でもないから!絶対にこっちには来ないでよ!!」

来るなと言われてしまうと、命令に従わないわけにはいかない。
ニヤニヤとしながら聞き耳を立てている男子達に、今すぐ助けに行きたいのに来るなと言われてしまった苛立ちの矛先が向かった。

「お前らも何聞き耳を立ててるんだよ!しね!」

男子達の頭を押さえて湯船の中に叩き込んだ。
アプアプしながら溺れそうになっている男子達であった。

  • No.26 by ハナミズキ  2014-09-15 09:40:58 

夕月がお風呂から上がると、廊下で白夜が待っていた。

「大丈夫だったか?」
「大したことはないわ。ちょっと触られただけだから」

ピキピキと白夜の額に青筋が入った。

「そんな怖い顔するとイケメンが台無しよw」

クスクス笑いながら二人は並んで歩く。

二階の廊下を歩いていると、人ではない気配を感じた。
だが、悪意のある嫌な気配ではない。
その気配がした場所に行くと、白夜がクンクンと匂いを嗅ぎ

「座敷童だな」
「へぇ~。ここ座敷童が居るんだ・・・会ってみたいな」
「ここの奴なら会えると思うぜ」
「?。知ってる子なの?」
「昔馴染みだ」

白夜は昔、京都の深山(みやま)と言う、木々に囲まれた深い山奥に住んでいたらしい。
その時代の白夜にとっては、この辺は庭のような所だったという。
今でこそ、数は減ったものの、そこら変に沢山の妖怪や魑魅魍魎たちが深山に住んでいた。
京都に居る妖怪たちの中でも、一番力の強い白夜が、仲間達からも信頼されていたため、そんな経緯から、今もなを、白夜に再びこの地に戻って来て欲しいと、嘆願をしに来る者もたまに居るらしい。
昔の事はあまり話したがらない白夜だったが、たまにポツリと話す事がある。
そんな白夜の昔話を聞くのが、夕月の一番の楽しみでもあった。

座敷童は通常、人が起きている間は姿を現さない。
みんなが寝静まった頃に姿を現し、守っている家の中を歩き回り、病気で寝込んでいる者が居ればその人に触り、病を回復の方向に導いたり、子宝に恵まれない者が居れば、その者のお腹に触り子が出来やすくしたりする、福の神のような存在だ。

ここは旅館なので、何か悩みを抱えている人が、座敷童の一番好きな部屋に泊まると、その悩みを解消する方向へと導くのであった。
そんな噂が噂を呼び、この旅館は寂れてはいるものの、人気の高い宿だった。
修学旅行の宿としてここを選んだ理由の一つがそれだという事は、生徒達には知られていない。
逆に生徒達からは、何か出そうな雰囲気が興味をそそられたらしく、夜中に肝試しでもしようかという案が密かに出されていた。

夕月達のクラスの半数がこれに参加をし、その中に夕月達二人の姿もあった。
ペアの組み合わせは、公平をきたすためにくじ引きにしたが、白夜がクジに細工をしたため、白夜と夕月のペアが出来る。
薄暗い廊下をキシキシと音を立てながら歩いていると、突き当りの角から着物を着た女の子が現れた。

「よっ!元気だったか?」
「白夜様。お久しゅう御座います」

ぺこりとお辞儀をして嬉しそうな顔をしている座敷童。

  • No.27 by ハナミズキ  2014-09-15 09:42:27 

白夜の隣で目を丸くして見ていた夕月だったが、いきなり駆け出し座敷童に抱き付いた。

「かっ・・可愛い~!♪」
「くっ・・・苦しいです・・・。貴方には私が見えるんですか?」

「あぁ、こいつは普通の人間じゃないからな。これでも俺の主だ」
「これでもってどういう事よ~」

口を尖らせ文句を言う。

「・・・ではこの方が・・・?」

それ以上は何も言うなと言うように、座敷童に向かって目で合図をする。
その合図を受け取った座敷童は、何も言わない代わりにポロポロと涙を流すのであった。
なぜ座敷童が泣いているのか訳が分からず

「ごめんね・・・痛かったのね?そんなに強く抱きしめた覚えはないんだけど・・・
 妖怪と人とじゃ痛さが違うのかな・・・?」
「いえ・・・いえ・・・」

それしか言わない座敷童だった。
白夜の方に向き直し、ギュッと抱きしめる夕月。

「これって妖怪には痛いのかな?」
「いや・・泣いてる理由はそこじゃないと思うぞ?」

白夜に抱き付いたまま、なんで座敷童が泣いているのか考えてみたが、さっぱりわからなかった。
夕月の一生懸命考えている姿が、白夜にはとても愛おしく感じ、自分の両腕をそっと夕月に回し、軽く抱きしめ返す形を取ると、その姿を見た座敷童は、また大粒の涙を流すのだった。

「・・・・コノ オフタリノ オスガタヲ フタタビハイケン デキルトハ・・・」

そう言い残すと姿は消えていった。
その言葉はとてもとても小さな声だったので、夕月に届くことはなかったのだった。

  • No.28 by ハナミズキ  2014-09-15 09:48:24 

◆ 夕月、迷子になる  ◆


修学旅行二日目。
この日は、各寺院や由緒ある神社を巡る日だった。
有名処の「金閣寺」「銀閣寺」「水前寺」「東寺」などをバスツアーにて見学する。
しかし夕月には、気になる場所が一か所あったのだが、そこはツアーには含まれてはいなかった。


修学旅行三日目。
1日自由行動が出来るこの日は、朝食を取ってから直ぐに目的の場所に行く事にした。
同じ班の女子達は、この自由行動の日に、太秦に行こうとしていたのだったが、白夜が夕月に付いてどこかの神社に行くと言うので、少し言い合いになっていた。

「また神社を見に行くの?昨日だってお寺しか見てないじゃない!」
「そうよ!そんなに行きたいんなら一人で行けばいいじゃない!」
「深山君が可愛そうだわ!お寺とか神社なんてつまんないもの!」

「・・・えっと、私、一人でも行けるから、白夜は彼女たちと一緒に行ってあげて」
「ダメだ!それだけはいくら命令されても出来ない。俺も一緒に行く」
「本当に大丈夫だってば。何にも起こらないって」

「ほら、鬼頭さんもああ言ってるんだし、私たちと一緒に楽しみましょうよ」

白夜は渋々と女子達に付いて行った。

  • No.29 by ハナミズキ  2014-09-15 09:51:04 

夕月が初めに向かった場所は、伏見稲荷大社だった。
今でこそ通称稲荷山と呼ばれているが、その昔は深山と呼ばれていた。
この神社が立つ近隣の山は、今でも神域として崇められているのだ。
そしてこの神社で神として祀られているのが、お狐様だ。
たぶん白夜はここに居たのだろう。
どういう理由で宮を離れ、自分の神社に来たのか、そこに行けば何かわかるような気がした。

神域に足を踏み込んだとたん、温かい何かに包まれる感覚に陥った。
気持ちがいい。
心が満たされていくようだ。

鳥居を潜り境内に入ると、2匹の狐が姿を現した。

「よく来たな人の子よ」
「こんにちは。お初にお目にかかります。
 わたくしは、鬼頭 夕月と申します」

「見ればわかるさ」
「お二人にお聞きしたい事が御座います」
「なんだ」
「白夜と言う名の九尾をご存知ですか?」
「ああ」
「彼は元々ここの仕鬼だったと思いますが、なぜこの場を離れたのでしょうか」

使役の狐がしばし考えた後に

「あの者はこの神社の仕鬼ではない。
 我々の主とは、主従関係を結んではいなかったのだ。
 だが、力だけは人一倍強かったのでな、気まぐれに仕鬼の真似事をしては
 この神社の助けにはなってくれていた。
 それだけの事だ。」

白夜は誰の仕鬼でもなかった。
でも主従関係ってどうやったら結べるのだろうか。
そんな契約を、白夜と結んだ覚えなど夕月には身に覚えが無かった。

「えっと、その主従関係と言うのは、どうやったら結ばれるのでしょうか?」
「知りたいか?」
「はい!」

「では教えてやろう。神と物の怪や妖怪と言う類は、お互いの信頼関係が出来た時に
 自然と主従関係が結ばれる。
 しかし、妖怪と人の子では、信頼関係だけでは主従関係は結ばれぬのだ。
 信頼関係だけでは、単なる使役をしているだけにすぎぬ。
 その者をお互いに信じあう心。それと・・・。
 生涯を共にする事を誓う儀式が必要となる。
 そしてその契りを結んだ妖怪は、人の子の寿命と共にその生涯を閉じることになる。
 契りを結ばなければ、妖怪は妖怪としての寿命があり、何百年、何千年と生きられるが
 一度契りを結んでしまえば、その寿命は相手の寿命と同じになってしまうのじゃ。」

「つまり、契りを結んだ相手が**ば、自分も死んでしまうと?」
「そうだ」
「では、その契りと言うのは?」
「ドウキンじゃ」
「えっ?!//////////」

夕月は顔を真っ赤にした。

『同衾??!!そんなことした覚えなんてなああああああいぃぃぃ!!!!』

「ど・・どうもありがとうございました!」

お礼もそこそこにその場を後にして、逃げるように去って行った。

そんな記憶など全くもってない!
断言してもいい。
なら何故?そんな疑問が残った。

  • No.30 by ハナミズキ  2014-09-15 09:54:16 

次に向かった場所は、晴明神社だ。
夕月の先祖を遡ればこの人に当たるらしい。
その場所に行けば少しは何かを得るヒントがあるかもしれないと、そこに向かったのだ。

晴明神社とは、稀代の陰陽師である安倍 晴明がその寿命を全うしてから、晴明が亡くなった事を惜しんだ上皇が、生誕の地に晴明を祭らせる事を晴明の子孫に命じ、亡くなってから二年後に建てられた神社である。

その神社には結界が張ってあるようだが、かなり弱まっているようだ。
階段を上り、境内に入ると参拝をした。
すると、淡い光が現れ、その光は人の形をとりだした。
現れたのはあの晴明本人だった。

「よくきたな。待っていたよ」
「私をですか?」
「あぁ。ここに張られている結界に気付いたか?」
「はい。かなり弱まってはいるようですが・・・」
「・・・だろうな。千年も持てば良い方だろう?」
「あの、私に何か話しでも・・・」

晴明は天を仰ぎ、ゆっくりと話し出した。

「この世界に、妖怪や物の怪が大勢存在している事は知ってるね?
 でもその数は、昔と比べるとだいぶ減っているという事も知っているね。
 その原因が何なのか、知ってるかな」

「・・・そこまでは分かりかねます」

「昔から、悪さをする妖怪や物の怪は、我々陰陽師が退治してきたのだが、
 近年では、人間同士の争いに巻き込まれて消滅した者も大勢いたのだよ。」

夕月は興味深く晴明の話しに耳を傾けていた。
晴明は尚も話し続ける。

「少し前にあった人間同士の争いがあるだろう?
 その時に、犠牲になったのは人間だけではなく、妖怪達も大勢亡くなったのだ。
 妖怪や物の怪にとっても、あの時に使われた原子爆弾が撒き散らした放射能によって、
 多くの者が塵とかしていった。」

晴明は、天を仰いでいたその顔を、夕月の方に向け

「もう直ぐ結界は壊れる。その時を狙って物の怪達が襲ってくるだろう。
 結界が壊れたらすぐさま新しい結界を張りなおしてほしい。
 そして・・・襲ってくる物の怪達を退治しておくれ。」

「私に出来る事なら、やらせて下さい」

「そう言ってくれると思っていたよ」

優しく微笑む晴明だった。

  • No.31 by ハナミズキ  2014-09-15 09:56:28 

「そろそろ時間が来たようだ・・・」

晴明のその言葉が合図かの様に、結界が壊れた。
すぐさま夕月が新しい結界を張り直す。

「今の私の力では、修業が足りないと思うので、百年が精一杯かもしれません」
「今はそれでいい。機会があれば私が直接教えてあげよう」
「はい。その時はよろしくお願いします。」

修業をつけてもらえる機会なんて来るのだろうか。
晴明様はもう、この世の者ではないというのに、いったい何時つけてもらえるというのだろうか。
そんな事を考えていた。

その時だった。

「奴らが来るぞ」

後ろを振り返ると、地面の下から地響きのような音がしたかと思うと、地面が一気に揺れだした。
晴明の結界が壊れ、その気配が消えた事によって、いままでひっそりと鳴りを潜めていた物の怪が、地面の地下深くから地上に這い出てきたのだった。

全身真っ黒で芋虫のような形をし、その背中には無数の赤い目が付いている。
口を大きく開けると、その口の中からは、芋虫の子供らしき物体が何十匹も這い出てきた。
禍々しい妖気が立ち込める。
夕月は、九字を切り、持っていたお札を投げつける

「臨兵闘者皆陣裂在前!破邪!!」

一枚の御札で、何匹かの物の怪の子供を倒す。

  • No.32 by ハナミズキ  2014-09-15 09:57:34 

しかし、まだまだ数は多い。

「臨める兵闘う者、皆陳列れて前に在り!急急如律令呪符退魔!!」

続けざまに、お札を投げながら退魔の術を発動。
子供の方の物の怪がだいぶ減った。
それでもまだ何匹か残っている。
親玉の方にもダメージを与え、そちらの方もかなり弱って来ていた。

  • No.33 by ハナミズキ  2014-09-15 10:00:44 

その頃、夕月と別行動で太秦の方に行っていた白夜にも、物の怪の禍々しい妖気を感じ取った。
そして一瞬でその妖気が小さくなった事で、夕月に何か良くない事が起こっていると、瞬時に判断した。
そうだとすれば、夕月が危ない。
白夜は一緒に居た女子達の事などお構いなしに、急に走り出し、人影がない所まで来ると、妖気が放たれている場所まで飛んだ。

白夜の嫌な予感は的中しており、夕月と物の怪の戦闘中だった。
夕月の目の前には巨大な芋虫のような物の怪が立ちはだかっており、四方からそれより小さい芋虫の形をした物の怪が一斉に夕月に向かって飛び交う。

「臨兵闘者皆陣裂在前!破邪退魔!!」

夕月の呪文に合わせ、白夜の黒鋼が物の怪を切り付ける。
親芋虫は粉々になり塵とかした。
しかし、数匹残っていた子芋虫が再び夕月に向かい襲ってきた。
とっさに避けようとした夕月だったが、バランスを崩し、段差を踏み外してしまう。
白夜が子芋虫に、狐火を放ち焼き殺し、夕月の方を振り向くと、段差から落ちた夕月の足元から白い光が湧き出ており、あっという間に夕月の体をその光が呑み込んでしまった。

「夕月いいいぃぃぃぃぃ!!!!!!」

白夜はあらん限りの声を張り上げ、救い出そうと手を差し伸べたが間に合わず、その光は何事も無かったかのように消えてなくなってしまったのだった。

「・・・・夕月・・・くそっ!!」

白夜の目からは涙が溢れていた。
こうなる事は分かっていた。
だから、どんな事をしても食い止めたかった。

― 夕月・・・無事で戻って来いよ・・・ ―

今はそう願うしかなかった白夜だった。



一方、光に呑まれた夕月は、その衝撃に顔をゆがめながら

「いたたたた・・・・」

先ほどまで騒がしかった周りの音が無くなり、とても静かになっている事に気が付く。
顔を上げ、辺りを見ると、目を疑うような光景が繰り広がっていた。
閑静な住宅街だったはずの場所が雑木林に変わり、後ろを振り返ると、今まであった晴明神社の変わりに、時代劇にでも出てきそうな大きなお屋敷が立っている。
そのお屋敷の門を見ると、表札らしきものがかかっており、その文字は「安倍」と書かれていた。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「・・・・・・ここは・・・何処?」

そして何故か、宿に置いていたはずのトランクが側に置かれていたのだった。







  • No.34 by ハナミズキ  2014-09-15 16:20:08 

◆ 夕月、晴明に会う ◆


『ここはいったい・・・・』

周りをよく見渡すと、変わっていたのは風景だけではなかった。
行きかう人々の出で立ちも、洋服ではなく着物だ。
それも江戸時代とかいう様な着物ではなく、もっと古い・・・そう、まるで平安時代の様だった。

頭の回転は速い方だったが、思考が付いて行かない。
平成の世からいきなり平安時代とか、誰が予測していただろうか。
いったい自分がどうやってこの時代に来たのかさえ分からない。
さっきまでの出来事を思い出してはみるが、晴明神社に行き、そこで物の怪に襲われ、あわやという処に白夜が来てくれた。

「そうよ!白夜は?!白夜はどこなの?!」

白夜の名前を叫びながら辺りを探すが、その呼び掛けに応える者は居なかった。
心細さから半分泣きそうになる夕月だったが、どうやってこの時代に来たのかが分からない限り、もとの時代に帰れるという保証などどこにも無い。
ならば、この時代に飛ばされた理由を探り、問題があるのならその問題を解決して、元の時代に戻ろうと考え始めた。

何故か側には、旅館に起きてきたはずのキャリーバッグが置かれていた。
トランクを開け、中身を確認する。
中に入っている物は、一週間分の下着・私服が三着・救急セット(白夜のため)・薬各種・朝来る時にコンビニで買ったお菓子が数個・昨日バスツアーで周った時に買ったお土産が数個・筆記用具・ノート・デジカメ・懐中電灯・電池・等、まだ他にも沢山入ってはいるが、長くなるのでこの辺にしておく。

そのトランクをゴロゴロと引きながら道を歩いていると、向かいから馬車が一台やって来た。

『うっわ~、馬車なんて初めて見るわ・・・』

  • No.35 by ハナミズキ  2014-09-15 16:21:26 

物珍しいのか、その馬車を凝視してしまう。
すると、その馬車が夕月の所で止まり、中から男の人が出て来た。

「お嬢さん、変わった着物をお召の様だが、何処から来たのですか」

その男の人の顔を見たとたんに、夕月は歓喜の声を上げる。

「あっ!!晴明様!」
「いかにも、私は晴明ですが、私の事をご存じなのですね」
「良かった・・・知ってる人に会えて」
「知ってる?はて、私は貴方にお会いした事が無いような気がしますが」
「えっ?あっ・・すいません・・独り言だと思ってください・・・」
「おかしなことを言うお嬢さんですね」
「すみません・・・」

この時、晴明は昨日の仙術占いで、遠方より来客有、という相が出ていたので、たぶんこの事だろうと思い、夕月を連れて家に帰る事にした。

知らない事や、不思議な事を知る事が大好きな晴明は、この遠方より来たと思われる夕月に興味を抱き、色々と配慮をしてくれた。
当分屋敷に逗留する事を許され、部屋を一つ与えて貰う。
お風呂に入り、食事もさせてもらい、その後に晴明の部屋に呼ばれた。

「まず、お名前を伺ってもよろしいかな」
「はい。夕月と申します」

「では、何方から来たのですかな」
「えっと・・・武蔵国?江戸?そっち方面です」
「それはまた随分と遠い所から・・」

「夕月さん、貴方が所有しているその珍しい箱にはいったい何が入っているんですか」
「これは・・・・私には必要な物ですが、たぶん晴明様には必要がないかと・・・」

晴明にならトランクの中身を見せても大丈夫だと思い、思い切って中身を見せ、何か良い知恵を授けてはくれないだろうかという思いから、自分の事を話し出した。

  • No.36 by ハナミズキ  2014-09-15 16:22:39 


事情を聞いた晴明は、驚きを隠せなかったが、夕月が嘘を言っている様には見えず、どうしたものかと思案した。
すると夕月がある事を思い出し、晴明に一つお願いをする。

「晴明様。とても図々しいお願いなんですけど、私に陰陽師の修業をつけていただけませんか?」
「修業ですか・・・」
「はい。未来の晴明様がおっしゃってたんです。機会があったら教えてあげるって」
「未来の私ですか・・」

晴明は楽しそうな笑い声をあげた。
普段は殺伐とした宮仕えの仕事で、時々心が重くなることもある。
今日も、貴族たちの要らぬ噂話や陰口などを、嫌というほど聞かされてきた。
お互いが、お互いの足を引っ張るような事しか考えていない様な人たちが多い。
そんな日常の中で、こんなに楽しいひと時を過ごした事が今までにあっただろうか。
いや、無い。
こんな穏やかな気持ちで人と接した事などは、生まれて初めてかもしれない。

晴明の好意により、夕月が元の時代に帰るまでの間、この屋敷に置いて貰える事になった。
そして、陰陽師としての修業もつけてくれるという。
早速明日からその修業が始まるのだった。

  • No.37 by ハナミズキ  2014-09-15 16:24:01 

まず初めに、夕月の実力がどのくらいなのか、晴明は確認する事にした。
夜になるのを待ち、二人は城下町を見回りに歩く。
この時の夕月の格好は、元の時代から持ってきた洋服ではなく、この時代の稚児が着るような着物だった。

夜に出歩くため、普通の女の人が着るような着物では、野党に襲われてしまう。
そのため、どこかの御屋敷の主とその稚児という偽装が必要だったのだ。

見回りをしていると、平成の世とは比べ物にならない位の魑魅魍魎が、そこかしこにウヨウヨと居る。
大概の者は悪さとは言っても、いたずら程度にしかやらない力の弱い者ばかりだった。
そこに物の怪が現れ、人を襲おうとしている。
晴明が、その物の怪を倒してみよと言う。
夕月はいつもの様に、九字退魔を切り一瞬で倒す。
その実力は、上級の陰陽師に匹敵する力だった。

「それだけできれば私が教える事など何もないのでは」
「いいえ。できれば結界術を教えてほしいのですが」

「結界ですか・・」
「はい。千年は持つ結界術を是非教えてください」
「これはまた凄いですね・・・千年ですか・・・」

「だって、晴明様は張れるじゃないですか。自分だけずるいですよ。
 私にも教えてください」

少し膨れながらそう懇願をした。
晴明は楽しそうに笑いながら

「はい。では教えましょうね」

そう言うと、夕月にコツを教えてくれた。
結界を張るのに必要なのは、集中力と力の解放の仕方だ。
その開放する力も、自分ひとりの力では多少無理があるという。
例えば晴明の場合なら、自分の力と十二天将の力を合わせて作るのだ。
夕月は式神を召還した事などはない。
式神を召還しなくても、仕鬼である白夜が居てくれたからだ。
白夜の力は、十二天将以上の力に匹敵する。

「式神ですか・・・召還した事が無いです」
「では、今まで御一人でやってこられたのですかな」
「いいえ。白夜が居ましたから・・・」
「白夜ですと?あの妖狐の?」
「はい。」

晴明は驚いた顔をしている。

  • No.38 by ハナミズキ  2014-09-15 16:25:08 

「あの妖狐が人に仕えていたとは・・・」
「あの・・・そんなにおかしな事なんですか?白夜が仕鬼という事は・・・?」
「!!!仕鬼ですと!?」
「はい。」

返事をしたところで、何かを思い出したかのように声を上げた。

「あっ!違います。違います!やってません!契りなんて結んでませんから!!」
「えっ?ではいったい、どうやって仕鬼にしたというのですか?」
「分かりません。物心ついた時から一緒に居たんですもの・・・」

晴明はゆっくりと語りだした。
晴明の話だと、白夜は人には決して気を許さず、深山の山奥でひっそりと住んでいるらしい。
人里を襲う事はないが、自分に歯向かう者や深山の縄張りに入り込んだ者は、容赦なく引き裂くというほど有名らしい。
晴明も一度、白夜を使役しようと深山に入り込んだが、その力は想像の域を超えており、断念をしたほどだ。

「あの妖狐と貴方には、何かしらの縁があるようですね。
 明日、早速会いに行ってみますか?」

「お願いします。連れて行ってください」

  • No.39 by ハナミズキ  2014-09-15 16:26:24 

次の日、二人は深山へと向かった。

「この先が、妖狐の住んでいる深山ですよ。
 十分周りに注意をしてくださいね」

「はい」

深山に入ると、纏わる空気が一変する。
妖気がそこら辺から漂ってくる。
それに、誰かの視線も感じる。
一つや二つの視線ではない、多くの視線を感じるのだ。
夕月は気を集中し、気配を感じ取りながら先を進んだ。

この二人の強い気配を、白夜が気付かないわけもなく、また来たのかあいつは。と言うような気持ちで、その場から動こうとはしなかった。
深山に巣食う小物の妖怪たちも、珍しい来客に興味津々で眺めていた。

「おぃ。あいつまた来たぞ」
「今日は美味そうなガキも連れてきてるな」
「あのガキは土産か?食いてぇな」
「バカ!あれは白夜様に献上する食いもんだろ」
「あぁ、賄賂っちゅうやつか」

『ちょっと・・誰が食べ物だっていうのよ。それに、賄賂って何よ、賄賂って・・・』

隣で聞き耳を立てていた晴明がクスリと笑った。

「晴明様まで・・・酷いですよ・・・」
「すまん。すまん。」

と言いつつも、なおも笑っている。

獣道を二時間ほどかけて、ようやく白夜が居ると言われる所まで辿り着いた。

「そろそろだよ。気をお付け」
「はい」

竹藪をかき分けると、開けた広い場所に出た。
そこには辺り一面に花が咲き乱れ、中央に位置するその場所には大きな大木が一本立っており、その周りに、数個の大きな岩と朽ち果てた木の幹が横たわいいている。

岩の上や周りには、大小さまざまな妖怪がそこに座っていたり、隠れてこちらの様子を眺めていたりしている。
白夜はどこに居るのだろうと探してみると、大木の幹に腰を掛けて座っていた。
その姿を目にした夕月は、やっと会えたと嬉しくなり、いきなり走り出してしまう。

「夕月、待ちなさい!」

  • No.40 by ハナミズキ  2014-09-15 16:28:03 

制止する晴明の声も聞かず、夕月は白夜に向かって一直線に走り出している。

「白夜ああああぁぁぁぁぁぁ」

小物妖怪達には目もくれず、そのままの勢いで白夜に突進していった。

白夜の方も、今まで自分を調伏しようとやって来た者達とは違い、嬉しそうに満面の笑みで駆け寄ってくる、この子供に躊躇している様子だ。

いつもなら、殺気を漂わせながら、怖い顔つきで偉そうに言ってくる。
「貴様を調伏する」「使役になれ」、虫唾が走る。
そんな輩は、妖狐白夜の力により、塵とかされてしまう。

ところが、この状況は何だ?!
晴明と一緒にやって来た子供が、怖がりもせずに、満面の笑みで自分の方に駆け寄ってくる。
側まで来たかと思うと、いきなり抱き付かれ離れない。
いくら離そうとしても、首に回された子供の手が自分を離そうとしないのだ。

白夜は怪訝な顔をしながら

「晴明。こいつは何だ」

夕月を指さしながら晴明に尋ねる。

「その者の名は、夕月と申します。」
「名など聞いてはおわんわ。何故こうなってるのか説明しろと言ってるんだ」

晴明は少し困ったような顔をする。
どう説明していいのか考えていたからだ。

すると、ギュッと抱き付いていた夕月がある事に気が付いた。

「ああああああああああ!!」
「何だガキ!耳元で騒ぐな!」

白夜は益々怪訝そうな顔で夕月を見つめる。

[PR]リアルタイムでチャットするなら老舗で安心チャットのチャベリ!
ニックネーム: 又は匿名を選択:

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字 下げ
利用規約 掲示板マナー
※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※必ず利用規約を熟読し、同意した上でご投稿ください
※顔文字など、全角の漢字・ひらがな・カタカナ含まない文章は投稿できません。
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください

[お勧め]初心者さん向けトピック  [ヒント]友達の作り方  [募集]セイチャットを広めよう

他のトピックを探す:その他のテーマ







トピック検索


【 トピックの作成はこちらから 】

カテゴリ


トピック名


ニックネーム

(ニックネームはリストから選択もできます: )

トピック本文

トリップ:

※任意 半角英数8-16文字

※トリップに特定の文字列を入力することで、自分だけのIDが表示されます
※メールアドレスや電話番号などの個人情報や、メル友の募集、出会い目的の投稿はご遠慮ください
利用規約   掲示板マナー





管理人室


キーワードでトピックを探す
初心者 / 小学生 / 中学生 / 高校生 / 部活 / 音楽 / 恋愛 / 小説 / しりとり / 旧セイチャット・旧セイクラブ

「これらのキーワードで検索した結果に、自分が新しく作ったトピックを表示したい」というご要望がありましたら、管理人まで、自分のトピック名と表示させたいキーワード名をご連絡ください。

最近見たトピック