ハナミズキ 2014-09-14 19:48:21 |
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◆ 我が名は夕月 ◆
鬼頭 夕月(キトウ ユヅキ)17歳。高校2年生。
黒髪で腰までの長さがあり、いつも後ろで1本くくりをしている。
性格は、無口で必要最低限の事しかしゃべらず、一度決めた事に対しては、頑固なまでにその信念を曲げない芯の強さがある。
戦闘時になると、頭の回転が速く、相手の考えや行動を先読みする事が得意とするが、普段はどこか抜けていて、とぼけた言動をよくはく。
占いが得意で、仙術・手相・風水・タロット、その他にもまだあるが、その腕前はプロ顔負けと言ったところだ。
夕月の家は何百年も続く由緒正しき神社であり、そこの巫女として学校が休みの日や、学校から帰って来てから神社の手伝いをしている。
そして、鬼頭一族の中で一番力があるのがこの夕月なのだ。
呪術は勿論のこと、法力の力も強く、そこら辺に居る魑魅魍魎や妖怪などの姿を見聞きし、時としてその退治を依頼される事もある。
この力は、物心ついた時から備わっており、そのせいかよく魑魅魍魎の類に襲われていた。
しかし、その度に仕鬼である九尾が守ってくれていたのだ。
夕月は、生まれながらに仕鬼を持ち、それを使いこなしているのだった。
仕鬼九尾の名は白夜(びゃくや)と言う。
夕月が赤ん坊の頃から世話をしているため、超が付くほど過保護に育てていた。
しかし、この白夜の存在は、人間化している時には他の人にも見えるが、本来の姿の九尾に戻ると、法力又は霊力のある者にしか見えなくなってしまう。
普段は人間の姿をとり、夕月と一緒に生活をしており、学校へも通っている。
妖狐と言うだけあって、人間の姿をしている白夜は、千年近く生きているためか、その知識も豊富で運動神経も人間離れしている。
容姿も、女と見舞うほどの中性的な顔立ちをしており、老若男女を魅了する風貌だ。
しかし、白夜にとっては、夕月以外はどうでもいい存在だったので、声を掛けてくる女子達を冷たくあしらうのだった。
「深山(ミヤマ)君、おはよ~♪」
学校に着くなり次々と女子達が白夜に声を掛けてくる。
しかし白夜は、ことごとく無視をしてチラリとも見ようとはしない。
「相変わらずクールよねぇ・・・そこがまた良いんだけど
学校に着くなり次々と女子達が白夜に声を掛けてくる。
しかし白夜は、ことごとく無視をしてチラリとも見ようとはしない。
「相変わらずクールよねぇ・・・そこがまた良いんだけど
学校に着くなり次々と女子達が白夜に声を掛けてくる。
しかし白夜は、ことごとく無視をしてチラリとも見ようとはしない。
「相変わらずクールよねぇ・・・そこがまた良いんだけど♡」
女子の発想が分からない・・・・。
なぜ無視をされてるのにそんなに好きだと言い張れるのか・・・。
冷たくされて萌えるって・・・。
白夜はと言うと、外で夕月にまとわりつくと怒られるため、ある程度の距離は取ってはいるものの、絶えず夕月が視界の中に入る距離に居た。
食事も人間と同じものを食べてはいるが、何の栄養にもなってはいない。
仕鬼である白夜の餌は、人間の生命エネルギーとも言える「気」である。
普通の人間から「気」を吸い取れば死ぬ事もあるが、法力や霊力の強い者からなら「気」を貰っても差し支えはない。
その相手が自分の主となれば、その「気」は極上の物となる。
白夜も夕月から「気」を貰うが、その貰い方が普通とはちょっと違っていた。
普通の主従関係では、仕鬼が主の体の一部に触るだけで「気」が仕鬼の方に流れてくるのだが、物心つく前から仕鬼を使役していた夕月には、そんな事は知らずに口移しで移行していたのだ。
夕月が幼いころ、いつもお腹を空かせていた白夜は、何かしらを口に運んでいた。
人間が食べる物をいくら食べたところで、お腹は膨れないのだが、せめてもの気休め程度に食べていたのだろう。
ある時、白夜が食べていたミカンを夕月が欲しがり、最後の一粒を口に運んだところで、夕月がそのミカンを奪い取った。
その時に、白夜の唇と夕月の唇が触れ、触れたほんの一瞬で白夜のお腹は満腹に満たされていたのだ。
その事に気が付いてから、白夜は「気」を貰うために夕月から口移しで体内に取り込んでいたのだった。
成長してからも、その摂取の仕方は改善をされることがなく、二人とも何の疑問も持たずに今に至る。
白夜が元々キツネだったからと言う訳ではないが、「気」の摂取は1日2回で十分間に合う。
つまり、朝起きてから1回、寝る前に1回、口移しで「気」を送り込めば良いという訳だ。
今日は土曜日。学校は休みだ。
夕月は神社の掃除などの仕事がある為、休みの日も関係なく午前5時に起きる。
夕月が寝ているベッドの下では、九尾キツネの姿で白夜も眠っていた。
目覚まし時計が鳴るも、朝の弱い夕月はなかなか目を覚まさない。
「まったく煩ぇな・・・この箱は・・」
白夜は人型を取り、目覚まし時計を止めてから夕月に近付き、布団をはぐる。
「おぃ、夕月。起きろ。時間だ」
「んん・・・まだ眠い・・・」
なかなか布団から起き上がろうとはしない夕月。
「腹減った。食わせろ」
寝ている夕月に覆い被さるようにして、唇を覆い朝食となる生命エネルギーの「気」を吸い取った。
お腹一杯になると、ベッドから夕月を引きはがし、支度をさせて境内の掃除にと向かう。
木の葉などの掃除は夕月が、近所に集まった魑魅魍魎の類は白夜が一掃し、神社を囲む半径500mほどの距離は、きれいな空気を纏う聖域と化した。
「ふぅ~。今日もいい天気ね~」
木の葉をまとめ終わったのか、手に持っている竹ぼうきの手を休め、空を見上げ眩しそうに目を細めながらポツリと呟いた。
朝の御勤めが終わり、夕月は白夜に今日伺うお祓いの確認をする。
「今日は成城の三笠様の所に行く日だけど、覚えてるわよね?」
「あぁ。あの爺さんまだ生きてたんだな」
「そんな事言わないの!」
夕月は口を尖らせながら白夜をたしなめた。
鬼頭家は、三笠家お抱えの陰陽師で、占いやお祓い等の能力に特に長けている一族だった。
そして三笠家は、数百年続く貴族の末裔で、貿易関係や不動産関係、最近ではIP産業にも参入してきており、その資産は莫大なものである。
しかし、ここ数年で体調を崩して入院している、三笠 源十郎会長の代わりに、長男の三笠 隆一社長が会社を切り盛りし、その資産を更に増やすほどの凄腕だが、冷徹で使えない者は身内でも直ぐに切り捨てるという一面もある。
したがって、三笠家お抱えの陰陽師である鬼頭家に対しても、ほとんど大した仕事をしていなかった為に、その必要性に疑問を抱き、縁を切るかどうかを思案していた。
三笠家に着くと、隆一から呼ばれたと思われる祈祷師や自称祈祷師達が数名広間に集められていた。
見るからに怪しげな者もいる。
だいたい3人から5人程で来ており、大きな数珠を首からぶら下げている者、派手な衣装に身に纏っている者、長い髭を蓄えている者、さまざまだ。
そんな仮装行列の中に、ごく普通の平凡な中年男性と、女子高生に中性的な顔立ちの銀髪青年が加わった。
ある意味、白夜はとても目立っていた。
しかしこのいでたちでは、誰もが稀代の陰陽師御一行様だと思うものはいなかった。
集められた数名の祈祷師達は、各々に過去の自慢話を繰り広げている。
「私はとあるお方にかけられた呪詛を返したことがある」
「俺達は物の怪に付かれた者を祓った事がある」
「私は、神卸をして未来を占う事が出来、的中率は100%だ」
等々、屋敷の主人が来るまでの間に、いかに自分が凄いのかを自慢し続けていた。
執事を伴い主人である三笠 隆一がやって来た。
隆一の説明によると、父親の源十郎が最近急激に体調を崩し、医者にも見せたがどこにも異常がないとのこと。
原因不明の病という事で、その病の元を探って欲しいという事だった。
その為、有名な祈祷師を数名呼んだという。
そして今回、この病の元を突き止め、完治させた者を今後は三笠家のお抱え祈祷師にするという事だった。
夕月達にしてみれば、お抱えだろうが一見さんだろうが、困っている人には変わりがないため、そんな称号はどうでも良い事だった。
自分たちを信じ、救いを求めてくる人には、今持てる力全てを使って立ち向かい、問題を解決するのみだ。
一組ずつ呼ばれ、源十郎が居る部屋に連れていかれる。
初めの一組は自称祈祷師で、何が何やらわからないという顔で10分後に戻って来た。
二組目は、イタチ使いの祈祷師だったが、青い顔をして戻って来た。
どうやら使役していたイタチを食われたらしい。
三組目は、神卸もできると豪語していた祈祷師。
一応、神卸はしたものの、神にも神格という物があり、その序列が低ければいくら神卸をしてもあまり役に立たないだろう。
三人目の祈祷師乱入という事もあり、源十郎に取り付いていた物の怪が怒り出し、祈祷師に向かって反撃をしてきたようだ。
源十郎の部屋から物凄い音が聞こえる。
慌てて駆けつけた夕月達が、部屋で目にした物は、誰かが呪詛を放ったと見られる大蛇が、部屋の中で大暴れをしている最中だった。
「我、三絃道士の御霊にお降りくださりし神よ、我に力を貸したまへ。破邪!!」
しかし撃破するどころか、その神らしきものを大蛇が一口で丸飲みをしてしまったのだ。
『おぃおぃ・・・それ神じゃねーって・・・・』
三絃道士が神だと思い召還していた者は、キツネが化けた神もどきであった。
そんな者が大蛇に勝てるはずもなく、神もどきを食った大蛇が次に狙いを定めたのが三絃道士本人にだった。
「危ない!逃げて!!」
臨兵闘者皆陣裂在前(リン、ピョウ、トウ、シャ、カイ、ジン、レツ、ザイ、ゼン)
ハナミズキさんだ…!!
コメントをさせて頂くのは
初めてなのですが、
魔女と~等、他にも
小説を投稿なさっていた
あのハナミズキさんですよね?
新作嬉しいです(^o^)
投稿楽しみにしています
突然のコメントで
もし不快に思われたら
申し訳ありません;
夕月がとっさに九字を切り、人々の前に防護壁を張る。
白夜は妖刀黒鋼(くろがね)を召還して、大蛇を真っ二つに切り倒した。
切り倒された大蛇から黒い霧が現れ、それが呪術による物だと確定する。
その霧に念を送り込み、送り主の元へと返した。
呪術を施し、それに失敗をし、返された場合、術の執行者に跳ね返り、その威力は数倍になって帰ってくる。
当然、術を返された者のほとんどが、生き残ることが不可能なのだ。
きっとどこかで、ひっそりと今しがた息を引き取った者がいるだろう。
「夕月、終わったのか?」
父親が心配そうに聞いてくる。
「もう大丈夫よ。お父さん」
「今のは一体何だったんだ!?」
姿は見えぬものの、物凄い音と爆風だけは感じていた。
そして、銀髪の青年がどこからともなく刀を出して、空を切りつける。
そんな風にしか見えていなかった。
「源十郎様に付いていたのは、呪術により放たれた大蛇です。
普通の大蛇の10倍くらいの大きさで、源十郎様の全身に巻き付く形で生気を奪っていたのです。
ですからそれを引きはがし、妖刀黒鋼で白夜が切りました。
その後、掛けられていた呪詛を、掛けた本人に返して終了です。」
「では、父はもう大丈夫なんだな」
「はい。ほどなくして目が覚めるかと思います。
ですが、だいぶ生気を吸われてしまっていますので、少し補充しておきますね」
源十郎の胸元に両手をかざし、夕月の生気を送り込んだ。
顔色も元に戻ったころ、源十郎が目を覚ましたのを確認してから、三人は部屋を後にし、もと居た広間に戻って行った。
「夕月・・・腹減った」
八代目さん
お恥ずかしながらそのハナミズキですw
今回はこちらの方に書かせていただく事にしました。
まだ途中なんですが、長編になる予定になってますので
よろしかったら、また感想等をお聞かせください♪
「あ・・・そっか。さっき妖刀使っちゃったもんね」
人の目が沢山ある広間だというのに、何の躊躇もなく夕月は白夜に口づけをする。
横で見ている夕月の父親は複雑な心境の様だ。
「しかしなんだな、白夜様は妖刀を使うのにご自分の生気を媒介しないといけないとは・・・」
部屋の中がざわつき始める。
「倒したのか?」
「いったい何が起こってたんだ?」
次々に質問をされる。
事の顛末を話すと、「ほぉ~」と感心するような唸り声や、「ピュー♪」と言う口笛を鳴らす者も居た。
先ほどの神卸しもどきも、広間に戻って来た。
自分が召還をした神が歯も立たない相手に、普通の女子高生とチャラそうな青年が、一瞬にして退治をしてしまったその様子の一部始終を間近で見ていた三絃道士が聞いてきた。
「先ほど聞こえたんだが、妖刀とか言ってなかったか?」
白夜がスーッと手に、それを具現化させた。
「これの事か?」
「何故それを持ってる!?」
「はぁ?可笑しな事を聞くやつだな。俺が自分の物を持ってちゃ悪いのかよ」
「いえ、その妖刀は白狐様の持ち物だと伺っていたので・・・」
「なら問題ねぇんじゃねぇの?」
「「「「!!!!!!!!!!!!!!!!」」」」
白狐と言うのは、世紀の大妖怪で、数百年前に主を無くしてからは、誰の物にも付かないという有名な話がある。
その白狐が何故この様な小娘に付いているのか不思議だった。
さっき見た限りでは、その力は本物のようだ。
「なんだ?お前ら疑ってんのか?」
疑うというより信じられないといった風であった。
「白夜、もういいから大人しくしててよね」
「チェッ・・」
あの白狐に臆せずこの強気な態度。
本当にあの白狐なのか?と、疑ってしまうのも無理はない。
源十郎の意識も戻り、一安心したのか隆一が部屋にやって来た。
占いの他、大した力もないだろうとたかをくくっていた隆一だったが、目の前であの大技を披露されては解雇をする事などとんでもない事だ。
ここは潔く自分の非を認め、今後もよろしく頼むと頭を下げたのだった。
別にそんな事など気にもしていなかった三人だったが、白夜だけは偉そうな態度で
「分かればいいんだよ。分かれば」
「あの噂は本当だったんですね。夕月さんは生まれながらに白狐を使役しているという・・・」
「使役と言うか・・・家族?」
夕月は、当たり前のように言った。
白夜は少し不満そうに鼻で「フン」と返事をするだけだった。
第一話 終了です。
まだ続きます。
◆ 家族? 使役? それとも・・・ ◆
いつもの様に目覚まし時計がけたたましく部屋の中を鳴り響く。
夕月もまた、いつもの様に起きる気配がない。
ベッドの下で寝ていた白夜が、大きな欠伸を一つすると、人型になり朝ご飯と称して夕月の唇に触れ、生気を吸収する。
この時、寝ぼけていた夕月にいきなり両手を首に回され、グイッと引っ張られたので、白夜はバランスを崩しベッドに倒れこんだ。
夕月は幼い頃から時々寝ぼけ抱き付いてくる事がある。
しかしここ数年は、寝ぼけて抱き付く事は勿論の事、暗闇が怖いという理由で白夜に一緒に寝てもらっていたのだったが、それもしなくなっていた。
久しぶりに夕月の体温を間近に感じ、昔とは違う、ふんわりとした甘い香りが漂ってくる。
昔の夕月の匂いは、太陽と石鹸の匂いしかしなかったのだが、その匂いがいつの間にか甘い香りに変わっていたのだった。
その甘い香りを嗅いだ白夜は、胸の鼓動が速くなるのを覚えた。
鼓動が速くなるのと同時に、ある不安も脳裏を過ぎる。
『・・・この香りは・・・あの時の香りと似ている。まさか・・・。』
白夜はその不安を必死に抑えようとしていた。
まさか。でも似ている。いや、そんなはずはない。これは気のせいだ・・・。
そう自分に言い聞かせ、必死にその不安と闘っていた。
もしそうなら、白夜はどんな事をしてでも止めなければならない事を知っていた。
たとえ自分の命と引き換えにしても、止めなければならない。
そんな事態にならないように阻止をしなければならない。
この憶測が外れていてくれている事を、白夜には願う事しかできなかった。
夕月が目を覚ますと、自分が白夜に抱き付いている事に気が付く。
「キャッ」
慌てて離れる夕月だったが、白夜の顔が蒼白になっている事に気が付いた。
「どうしたの?」
「・・・・・いや、何でもない」
「私何かした?」
「・・・・いや・・・ちょっと考え事してただけだ」
「考え事?白夜が?」
少し笑いながら夕月が言う。
「なんだよ。俺が考え事しちゃおかしいのかよ・・・」
直ぐにいつもの白夜に戻ったので、夕月は少しほっとしていた。
ほっとはしたものの、やはりいつもと少し違って様子がおかしかった。
何か心配事でもあるのだろうか。
もしあるのであれば、自分にもその悩みを共有させてほしい。
でも白夜は絶対に言わない。
夕月に心配させるくらいなら、自分ですべてを解決しようとするに決まっている。
白夜は昔からそうだ。
夕月を守る為なら命さえ惜しくないと思っている。
その証拠に、夕月がまだ幼い頃、不意に車道に飛び出した夕月をかばい、トラックに跳ねられた事がある。
その時受けた額の傷が、今もまだうっすらと残っている。
夕月は白夜の前髪をかきあげ、その傷に触った。
「やっぱりまだ残ってるのね・・・痛い?」
「・・・痛いわけないだろ、もう治ってる」
照れたように笑う白夜だった。
しかしその体勢が、ベッドに寝ている夕月を、白夜の両手が夕月を抑え込むような形をとっていて、その夕月の右手が白夜の額に触れている。
見る人が見れば誤解を招くような体勢だ。
学校に行くと、夕月は家に居る時とは違い無口になる。
人と関わる事を極端に嫌うのだった。
通学路を歩いている最中にも、魑魅魍魎の類が沢山いる。
時としてそれらを退治しなくてはならない時がある。
そんな日常に友達を巻き込みたくはない。
そんな考えから他人と接触する事は極力避けていたのだ。
「深山君おはよー♪」
いつもの通り無視をされたが、それでもキャーキャー言って騒いでいた。
ところが、その黄色い声に交じり、白夜にとっては面白くはない声も聞こえて来た。
「なぁ、最近の鬼頭さんってさ、雰囲気柔らかくなって可愛くないか?」
「お前も?俺もそれ思った」
「だよな!前はなんかとっつきにくい雰囲気だったけどさ、可愛くなったっていうか、良い匂いがす るんだよな」
その言葉に何故かムカついた白夜が、近くの壁に向かいパンチを繰り出し思いっきり殴りつけた。
コンクリート作りのその壁は、亀裂が入り凹む。
周りに居た人達がビックリして振り返るが、そこにはもう白夜の姿はなかったのだった。
そして、このムカついた感情が何なのか、白夜は多少なりとも理解していた。
あの時の気持ちと似ている。
自分ではどうする事も出来ないあの感情に・・・。
主従関係は壊してはいけない。
仕鬼には仕鬼の役目がある。
それは十分良く知っていた。
知ってはいるが・・・この思いを消し去ることが出来なかった。
そんな悩みを抱えながらも、高校二年生のメインイベントがやって来た。
修学旅行だ。
今のご時世、海外に行く学校もあるが、夕月達が通うこの学校は、京都に3泊して沖縄に4泊するという、7泊8日の旅だった。
一日目は京都まで新幹線で移動する。
同じクラスの夕月と白夜は車両が一緒で、班を決める時も、白夜が夕月と同じ班に入ると言い出したので、女子達は白夜と一緒の班になりたいがために、夕月の取り合いになったくらいだ。
席も白夜の独断で、夕月の隣を陣取った。
新幹線に乗り込むと、貸し切りのはずのその車両に人が居る。
それも夕月達が座すはずの席にだ。
見た目には年老いた夫婦という感じだったが、者の本質が見える二人には、すぐさまそれが妖怪だという事がわかった。
女の人の方は「砂かけ婆」で男の方は「こ泣き爺」である。
妖気は感じられるものの、悪意や殺気は伝わってこない。
たぶん大丈夫だろう。
そう判断をした夕月が優しく老夫婦に話しかける。
「あの、この車両は私達の学校の専用臨時車両なんです。
座席を間違ってはいませんか?」
「他のとこは満員でのぅ。ここには誰も居なかったから座ったんじゃがな・・・」
力弱く物を言い、同情を買う作戦らしい。
他の車両が満員で座る場所がない。
足腰の弱い年寄りを労わってくれと言わんばかりの眼差しで夕月を見つめる。
困った顔をしている夕月に対し、後ろで黙って見ている白夜に老夫婦は気が付いた。
そしてそれが、九尾の白狐だと気付いた二人は慌てて席を立ち、別の車両へと移動して行ってしまった。
「なんか可愛そうだったわよね」などと言う声も聞こえたが、これは仕方がない事である。
二人掛けの席を向い合せにして座ろうと、後ろの席の女子が提案すると、白夜は煩いから嫌だと言ったが、夕月は快く快諾をした。
夕月の言う事は絶対なので、白夜は逆らう事が出来ない。
窓側に座り、外の景色に目を細めて眺めている夕月とは反対に、白夜は女子達からの質問攻めや世話焼きにうんざりしていた。
「深山君、お菓子食べる?」
「深山君、トランプしない?」
「深山君の好きな食べ物って何?」等々。
あまりにも煩く、しつこいので、白夜は寝たふりをする事にした。
隣の夕月にもたれ掛り、目をつぶる。
「深山君寝ちゃったのかな?」
「そうみたい・・・」
「ねぇ、鬼頭さん。その体勢付かれるでしょ?私が場所を変わってあげる」
「えっ?いや、でも・・・」
「いいからいいから!ほらっ!」
強引に夕月を席から立たせ、自分がその場所に座ろうとした。
しかし、狸寝入りをしていた白夜が目を開け
「何処に行くんだ」
夕月の移動を止めようとするが、けたたましい女子の巧みな話術攻撃であっけなく席は変わられてしまう。
京都に付くまで始終ムッっといている白夜。
隣に座った女子は、やたらとボディータッチを仕掛けてくる。
時には白夜の腕を取り、その腕に自分の腕をからませたり、からませながら胸を押し付けてきたりと大胆な事もやっていた。
嫌そうな顔で百面相をしている白夜の姿を、斜め向かいから見ていた夕月は堪え切れなくなり笑ってしまう。
「プッフフフフ」
「なんて顔してるのよ白夜ったらwwww」
「なっ!?お前が悪いんだろ!?勝手に席なんか変わるから俺がこんな目に・・・」
ワナワナと小刻みに震えながら怒りをあらわにしているが、直ぐに平常心を取り戻し、
大きなため息を一つついてガックリと肩を落とした。
二人のそのやり取りを見ていた同じ班の子が、恐る恐る聞いてくる。
「もしかして、鬼頭さんと深山君って付き合ってるの?」
二人の周りに居る席の子たちがざわめきだした。
「うっそー!?」
「マジで?!」
「なんで鬼頭さんなの!?」
「ちがっ・・」
夕月が反論しようとした時、白夜がそれを止めるように言い出した。
「付き合ってるっていうか、一緒に住んではいるな」
「ちょっ!!何言いだすのよ!」
「間違っちゃいないだろ?俺とお前は一緒に住んでるし、俺はお前の事が好きだから
守るし、離れたくない。間違ってるか?」
「・・・・間違ってない。。。」
そう言われて満足そうな顔をする白夜だった。
「おぃ。」
「なによ。」
「バレたんなら、もう別行動しなくてもいいんだよな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「もうすぐ京都に入るぞ。あそこには、お前にとっても良くない物も居るかも知れん」
「良くない物?」
「あぁ。東京では殆ど見かけなかった妖怪がまだ沢山居るはずだ。用心しろ」
「分かった」
ヒソヒソと小声で話しをした。
◆ 夕月、座敷童に会う ◆
今日泊まる旅館は、なんと風情のある旅館だろうか。
風情があると言えば聞こえはいいが、悪く言えばボロッちい。
廊下は木張りで、歩くたびにギシギシときしむ音がする。
部屋に入るにはまず、木の格子戸をあけて、その中にある障子を開けると玄関だ。
玄関からは、ふすまを開けて部屋の中に入る。
部屋の広さは六畳ほどあり、そこで四人が寝起きをする事になる。
部屋の中に荷物を置くと、晩御飯の時間が近いという事で、一階にある宴会場まで下りていく。
修学旅行中は、必ず班行動をしなくてはいけないという事で、各班に分かれてテーブルを囲んだ。
ここでもやはり、白夜の隣の席を狙う女子達の戦場と化す。
一班に男女四人ずつの計八人なのだが、夕月を除く女子三人が白夜の隣争奪戦をしていた。
それを尻目にさっさと席に付いてしまう夕月。
恨めしそうに夕月を見つめる白夜。
冷たくあしらうと後で夕月に怒られるので、この騒動が収まるまで耐えるしかなかった。
やっと席が決まったのか、白夜の右には学年一可愛いと評判の片瀬 綾乃が座り、左には綾乃と幼馴染の高橋 心愛が勝ち取ったようだ。
嬉しそうに話しかけるが、白夜の反応は薄い。
綾乃にしてみれば、男子にこんなにぞんざいに扱われた事などは、今までに一度もなかった事だ。
プライドが少し、いや、大いに傷ついた。
心愛にしても、いつも綾乃のおこぼれを頂戴していたため、男子にここまで無視された事が無かった。
そして怒りの矛先は夕月へと向けられたのだった。
「鬼頭さんって好き嫌いなさそうよね。私のこれあげるね」
心愛は自分の嫌いな人参やピーマンなどを夕月の皿に入れる。
別に嫌いな物ではないので、頂いた物は有難くちょうだいする事にした。
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